作品名 作者名 カップリング
『初の異性交遊〜告白〜』 ナット氏 -

「カオル!右!」 
「はい? あうっ!!」 
バスケットボールが金城の頭を直撃した。 
そして金城は突き飛ばされたかのように床に倒れこんだ。 
「金城さん!大丈夫!」 
「うん、大丈夫。」 
あわてて同学年のチームメイトが駆け寄った。 
口では大丈夫といってるが軽い脳震盪を起こしており、頭がクラクラする。 
「カオル、あなた最近ボーっとしすぎよ! ちょっと体育館の外で休んでなさい。」 
「はい、すいません、キャプテン・・・」 
クラクラする頭を手で支えながら、よろよろとした足取りで外へ出て行った。 
「ほら、みんなは練習!」 
キャプテンがみんなに怒鳴った。 
普段はやさしいが、バスケのことになると、キャプテンの自覚としてか、必要以上に厳しくなるときがある。 
みんなは金城のそのいつ倒れてもおかしくない様子を心配そうに見送っていた。 

体育館の外に出ると、通路にはスノコがひいてある。金城はそこに寝そべった。 
「はぁ」 
寝そべったとたん、ため息がひとつ出た。 
彼女が最近ボーっとしてしまうにはわけがあった。 
この年代の女の子が持つ悩み、「恋の悩み」である。 
相手はカナミの兄である城島シンジ。旅行に一緒に行ったとき、異性とあまりしゃべったことが無かった金城は 
親しくなったシンジに恋愛感情を抱き、「この人こそ運命の赤い糸で結ばれた人だ」と思っていた。 
そして最近ではボーっとしてしまうほどシンジのことを考えてしまっている。 
どんな食べ物が好きか、趣味は何だろう、どんな女性が好きなんだろう。といったことや、 
思わず赤面してしまうようなことも、妄想している。 

そして最後にそんなこと考えてる自分へのむなしさや、思いどうりにならないつらさから、ため息がもれる。 



「そういえばお兄さん、彼女いるのかなぁ」 
もし居るなら、やっぱりこっちが引かなきゃいけないだろうな。 
けど、居なかったら・・・ 
どうやって告白しよう?たしか少女漫画じゃ・・・ 
あーじゃない、こうじゃないと考えていたら又ボーっとしていた。 

「・・・じょうさん!金城さん!」 
「へっ?」 
妄想にどっぷりつかってしまい、時がたつのを忘れ、気がついたら日も落ちかけ、練習終了時刻になっていた。 
「大丈夫?何度呼びかけても返事しなかったし、なんか思いつめた顔してたから・・・」 
「大丈夫。 ・・・キャプテンに練習サボっちゃったこと謝ってくるよ・・」 
まさか妄想しているうちに時が過ぎてしまったなんて言えるはずも無く、その場を逃げるように金城は、 
体育館でまだ練習しているキャプテンのところへいった。 

「あら、カオルちゃん、大丈夫?」 
練習中とプライベートでは人格が違うような2面性を持つキャプテン。今は練習も終わり、その後の居残り練習も終え、 
ボールなどを片付けている途中で、プライベートのほうの人格だった 
「はい、今日、練習サボってしまい、すいませんでした。」 
「いやいや、カオルちゃんが大丈夫ならいいわよ。でも練習中ボーっとするのはいけないわ。 
 怪我にもつながるし、カオルちゃんはうちのエースなんだから。」 
「あ、はい・・」 
金城は片づけを手伝い、体育館を施錠するとキャプテンと部室に向かった。 

部室で、汗ばんだTシャツを着替え、帰り支度をしていると、 
「カオルちゃん、なんか悩みとかあるの?」 
「えっ」 
「最近やたらボーっとして思いつめた顔してるからもしかしてと思って。 
 もしあるなら相談に乗るけど・・」 
金城は少しためらった。ちょっとした悩みならすぐ相談しただろうが、恋の悩みとなるとなんか気恥ずかしく、相談しづらかった。 
しかしキャプテンは女性としての魅力を十分持っており、異性交遊とか詳しそうと金城は思い、思い切って相談することにした。 


「じつは・・・」 
金城はすべてを話した。 
好きな人が居るが、今までこんな風に人を好きになったことが無く、何をどうすればいいか。 

「そうねぇ、恋の悩みか・・・」 
キャプテンはちょっと考え、出した答えは、 
「とにかく告白しなさい」 
実にありきたりなものだった。 
「えっ!」 
金城は顔を真っ赤にした。 
「そ、そんないきなり告白なんて・・・ それに彼女が居たら・・」 
「でもそんな風にうじうじしてたら何も変わらないじゃない。 
 それに本当に告白しないのは振られた時、自分が傷つくのが怖いだけなんでしょ。」 
図星だった。確かに何度か告白しようと決意しかけた。 
しかし振られる事が怖くて、でも・・・と勝手に自分を閉じ込めるようなことをしていた。 
「確かに告白するの、すっごい勇気がいるよ。それは新しい世界への第一歩だもん。 
 でもカオルちゃんは今のままでいいの?」 
「・・・いや、です。」 
「じゃあ告白しちゃいなさい。恋愛は行動あるのみ!」 
「は、はい!」 
金城はさっきまでのうじうじとした姿から、何か吹っ切れたような、いつものものに変わった。 
「あ、そうだ。」 
キャプテンはかばんから生徒手帳を取り出し、そこから赤いお守りを取り出した。 
そしてそれを金城に渡した。 
「これは・・・」 
お守りを見ると、そこには「恋愛成就」と書かれていた。 
「私がはじめて告白したとき、そのときのキャプテンからもらった奴なの。 
 先輩曰く、告白成功率100%らしいの」 
「じゃあキャプテンが告白したときは・・」 
キャプテンは笑顔でうなづいた。 
「あ、ありがとうございます!」 
金城はお守りをポケットへしまい、家路についた。 



金城は家につくと、シャワーを浴び、私服へと着替えた。 
そして携帯電話の電話帳メモリーを開く。サ行の5番目、シンジさんを表示させる。 
番号は旅行に行ったとき、清水の舞台から飛び降りるぐらいの覚悟で聞いたもの。 
あとは通話ボタンを押すだけ。胸の鼓動が高鳴り、手が震える。 
一呼吸し、意を決してボタンを押した。 
 トゥルルルルル、トゥルルルルル・・・・ 
コール音が響く。一回のコールがとてつもなく長く感じる。 
5回ぐらいコールが続いたであろう。その緊張感に電話を切ってしましそうだった。 
『・・・はい、もしもし?』 
「えっ、あっ!ひゃ!」 
覚悟は決めていたが、突然出たシンジに驚き、へんな声が出てしまった。 
『? もしもし?』 
「あ、わ、私、カナミちゃんの友達の金城っていいまして・・・」 
『あぁ、カオルちゃん?』 
「は、はいそうです!」 
名前を覚えていてくれたことに喜び、声が上ずる。 
『カナミなら今いないけど?』 
その日カナミはアキの家に泊まりに行っていた。 
「ち、違うんです。その・・・ お兄さんに・・・」 
『俺?』 
「あ、あの・・・・」 
覚悟を決めたはずなのに、言葉が出てこない。どういえばいいのか。 
沈黙が1分ほど続いた 
『?もしもし、カオルちゃん?』 
「・・・・・・ひっく、ひっく・・・・」 


『あ、ちょ、ちょっと!』 
電話の向こうのシンジがあわてて言った。 
『今から外出れる?そんな電話でいきなり泣かれてもわかんないし』 
「・・・はい」 
『じゃあ、駅南の公園に来て』 
「分かりました」 

金城は涙が滴る顔を拭いた。目は泣いてしまったせいか充血していた。 
日中暑くても、日がひずむと少し肌寒いこの季節。 
金城は半そでの上着をはおった。そしてその胸ポケットにもらったお守りを入れた。 

金城が公園につくと、そこにはすでにシンジが居た。 
「やあ。」 
「あ、さ、さっきはすいません・・・」 
「それで、どうしたの?」 
電話のときのように再び沈黙が続く。 
先に口を開いたのはシンジだった。 
「ちょっと座ろうか」 
そういい2人はベンチに腰掛けた。 
昼間は子供が集まり、騒々しいこの公園も日が沈むと電車の音ぐらいしか聞こえない静かな空間となる。 
そこに今居るのは金城とシンジのみ。 
金城は再び意を決した。 
「あの、お兄さん。」 
「なに?」 
「その、今、彼女とかいますか?」 
いても告白しろと言われたが、やはり気になり、たずねた。 
「・・・いないよ」 
その回答に金城はほっとした。 


「・・・・・・ひっく、ひっく・・・・」 
『!?』 
言葉が出てこない自分への情けなさや、その場の緊張感に耐えれず、金城は泣き出してしまった。 
『カオルちゃん!どうしたの!』 
「ごめんなさい、お兄さん・・・」 
金城が電話を切りかけたときだった。 



「じゃあ、お兄さん、 その・・・」 
顔が真っ赤になり、胸が高鳴る。その鼓動がシンジに聞こえているのではないかと思うぐらい、金城のなかに響いていた。 
またシンジもその雰囲気から、なんとなくだが感づいていた。シンジもまた顔が赤くなり、鼓動が激しくなったいた。 

「私・・・ 私・・・」 
あと少しで出そう。言葉がのどもとまで来ている。 
金城は胸ポケットをお守りごと握り締めた。 
「お兄さんのことが、好きです。」 
ただシンプルに。だが気持ちをすべて乗せて言葉をシンジへ送った。 

沈黙が続く。金城の心臓は張り裂けるんじゃないかと思うぐらい激しく動いていた。 
シンジもまた同様だった。 
どのように言えばいいのか。告白されたことが無く、返事に困っていた。 
そして体が先に反応した。シンジは金城を優しく抱きしめた。 
「あっ・・・」 
「その、俺なんかでよければ・・・」 
控えめなシンジに出てきた言葉はそれだけだった。しかしそれで十分だった。 
「・・・うっ、ううぅ・・・」 
金城の目に涙が溢れる。しかしさっきみたいな悲しい涙ではない。 
思いが伝わったという、喜びの涙であった。 
「ちょ、カオルちゃん!?」 
「ありがとう・・ございます・・・・」 
2人は数分間そのままであった。 



流れるようなリズムでディフェンスをすり抜け、ミドルレンジからシュートを放つ。 
ボールは美しい軌道を描き、パスッとリングに当たることなくゴールをくぐる。 
本日8本目のゴールだった。 
「ナイッシュー!カオル!」 
キャプテンが金城の肩を叩く。 
その試合は金城の活躍のおかげか、相手を大きく離し圧勝だった。 
「カオルちゃん、最近絶好調じゃない。」 
「へへへ、毎日が楽しくて仕方ありませんから。」 
金城は部室を足早に出て行った。 
「シンジさーん!」 
校門のところにはシンジが迎えに来ていた。 
      
      END 

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