作品名 作者名 カップリング
「Some Girls #Intro」 郭泰源氏 シンジ×エーコ×チカ×マホ

「ふう…………」
散らかっていた部屋をなんとか見られる程度にまで片づけてから、シンジは一息ついた。
(お祝いしてくれんのは、そりゃ、ありがたいんだけどね……)
そう苦笑した後にシンジは胸ポケットをまさぐってタバコを取り出し、
火を付けて肺の中に煙を吸い込んだ。
(エーコやカナミの前では……なんとなく、吸い辛いんだよな。ま、とっくにバレてるんだろうけど……)
短くなったタバコを、シンジは灰皿に押し潰した。
今日は午後からエーコとチカ、それにその友人とかいう子たちが、
シンジの合格祝いにアパートに来てくれることになっていた。
(エロ本はかたしたし………ゴミはあらかた捨てたし……ま、こんなもんだろ)
掃除が終わり、キレイになった部屋の中を見回すのはそれなりに満足感のあるものだった。
(……しかしもう二週間か……)
シンジが藤井寺大学に合格し、ひとり暮らしをはじめてから既にそれだけの時間が過ぎていた。
偶然ながら大学はエーコたちの住む町にあり、
エーコを含めた関川家はシンジの合格を我が事のように喜んでくれたうえ、
引っ越しの手伝いまでしてくれた。エーコはシンジの部屋に遊びに行きたくて仕方なかったらしいが、
さすがに気恥ずかしかったシンジはこれまでのらりくらりとかわしてきた。
だが、エーコだけでなくチカまでもお祝いをしたいと言い出し、
仕方なく彼女たちをこの部屋に招待することになってしまったのだった。
“ピンぽ〜〜ん”
「あ?エーコか?開いてるぜ、入って……」
「おめっと〜〜〜、シンちゃん!」
「おめでとうございます、シンジさん!」
ドアを開け、ワンルームの小さな玄関から元気よく登場したのはエーコとチカ。
そして―――その後ろには、やや仏頂面の、初めて見る女の子が立っていた。
「?………えっと、初めまして、君は……」
「………エーコとチカの友達で、福浦といいます」
「ああ、君が……エーコの友達って子だね?」
「…………はい」
ポニーテール、というよりはほとんど無造作に髪を後ろにまとめ、
すっきりとした顔立ちを持ち上げて挑むような視線をシンジに向けるマホ。
初対面にもかかわらず、なぜかケンカをふっかけられているような態度をとられ、
シンジは困惑してしまうのだった。
「あ〜〜、ゴメンね、シンちゃん。マホってちょっと人見知りするタイプだから……」
「あ、ああ……そうなんだ……」
「そんなことも……ないんですけどね」
「シンジさん?ケーキ買ってきましたんで、台所をお借りしても……」
「あ、どうぞ……悪いね、チカちゃん」
なんとなく居心地の悪い気持ちでいたシンジは、慌ててチカの方へと向き直る。
マホは、一昔前のヤンキーがガンをつけるようにシンジの背中を見つめていた――

「それじゃ、改めてシンちゃんの大学合格をお祝いして、かんぱ〜〜い!」
「本当におめでとうございます、シンジさん!」
「……かんぱい」
「ありがとう、みんな……はは、しかし照れるな、こういうの……」
エーコたちに祝われ、思わず赤くなってぎこちなく笑うシンジ。
しかし、そのぎこちなさには、もうひとつ理由があった。
(あの……福浦さん?)
シンジの正面には、依然仏頂面のマホが座っていた。
それだけなら、良かったのだが――――
(見える………パンツ)
やけに短いスカートをはいてきたうえ、なぜか頻繁に足を組みかえるせいで、
そのたびにチラチラとショーツがシンジの目に飛び込んできてしまっていた。
(見えてるなんてここで言っちゃうのも可哀想だし……だいいち、
エーコの奴がここぞとばかりにノってくるだろうし……)
§


「で、どう?シンちゃん、ひとり暮らしは?」
「ん?い、いや、コンビニがあればだいたい事足りるしね。
家事はまあ、実家でもそこそこやってたから、そんな苦でもないし」
マホにどう知らせようかと考えていたシンジだったが、
何も知らないエーコは無邪気に尋ねてきた。内心の動揺を隠して、なんとか答える。
「でも……びっくりしました。シンジさん、藤井寺大学に合格するなんて……」
「ははは、実は合格した俺が一番驚いたんだけどね。滑り止めも全滅だったのに、
補欠合格とはいえ一番難しい国立の藤井寺大学に受かっちゃったわけだし」
「運も実力のうちだよ、シンちゃん!」
「……そう言えば藤井寺大学って地元のせいかウチの学校の先生にも出身の人が多いらしいね」
「あ、ああ、確かに教職志望の人は多い見たいだけど」
(だから……足をまた組み直すなって、見えるから……)
マホの言葉に答えながらも、ジーパンの裾をめくったりして
なんとか彼女に気付いてもらおうとするシンジだが、マホは全くそんな素振りすらない。
「じゃあ将来は先生になって女子生徒に手を出しまくるって手も……」
「それは、ない。俺は教職取らないつもりだし」
「従兄に犯罪者になって欲しいのか、エーコ」
シンジとマホのつっこみがほぼ同時に決まる。
この瞬間、シンジは彼女のポジションを理解し、マホもシンジのポジションを理解した。
(………なるほど、このグループの中でこの子は……)
(………慣れたツッコミ……多分、従姉のカナミちゃんって人も……)
無言で視線を交わし、心の中で頷き合うふたり。
決して好印象とは言い難い初対面だったが、
ふたりの間には不思議な連帯感のようなものが芽生えていた。
「でも……シンジさんになら、私、勉強を教えて欲しいです」
「あはは、そう言ってもらえるのは有難いけどね。俺、そんな教えられるほど……」
「でもシンちゃん?バイトでチカや私やマホの家庭教師ってどう?」
「………だからそんな簡単には……だいたい、叔母さんや叔父さんがどう言うか……
それに、チカちゃんとこや福浦さんとこのご両親だって……」
「実はね〜〜、もうお母さんやお父さんには話してあるんだ!で、シンちゃんならOKだって!」
「!!!ってエーコ、お前、いつの間に……」
「実は……私もなんです。エーコの従兄で藤井寺大学に合格した、
素敵なお兄さんがいるってお父さんとお母さんに話したら、
家庭教師になってもらったらどうかって……」
「………私は、とにかくここ最近成績がひどかったから、誰でも良いから家庭教師でもって……」
「……もう前交渉済んでるのね、君たち……」
「だってシンちゃん、前に長期のバイトで良いのが無いって言ってたじゃん。
ならさ、家庭教師のバイトってちょうど良いでしょ?」
「……まあ、そりゃ…………でも……」
「お願いします、シンジさん。私も最近英語の成績が……」
「てことで、どう?シンちゃん!」
はあ、と一息溜息をつくシンジだが―――
(そりゃ確かに……有難いんだけどね)
家庭教師のバイトというのは時給が良いうえ条件面でも恵まれているために、
シンジのような入学したばかりでコネもない学生まではなかなか回ってこないのが実情だった。
「一応話だけ聞いておくけど……なら君たち、教えて欲しい科目は……」
「わ〜〜い、やってくれるんだね、シンちゃん!私は数学と社会かな?」
「ま、中学の数学ならなんとかなるけど……でもエーコ、お前って結構成績良くなかったっけ?」
「それでも部活があるからね〜〜。一年からマホと私レギュラーだったし、
今年はもっとハードになりそうなんだよね。あ、でも責めでハードなのは嫌いじゃ……」
「チカちゃんは英語だっけ?」
「は、はい!」
「って露骨に無視しないでよ〜〜〜。チェッ」
「で、福浦さんは……」
「………全部」
§


「は?」
「マホはお尻を見て欲しいんだって」
「「そりゃ臀部だ―――ッ!!!!」」
シンジとマホのWツッコミがキレイに決まった。
「それはともかく……前の期末あたりから成績がマジでヒドイんですよ、私。
このままだと、テニス止めろって親に言われそうで。だから、とりあえず全部です」
シンジに視線を向けず、下を向いてスカートの裾をいじくり回しながらではあったが――
先ほどまでのどこか挑発的な態度とは違い、その口調は真剣で切実なものだった。
(う〜〜〜ん、本当はそれが一番厄介なんだけど……)
言葉には出さないもののそう思ってつい難しい表情をしてしまうシンジ。
「そんな難しく考えなくて良いんだよ、シンちゃん。
マホだって元々はそんな成績悪くなかったんだもん。コツをつかめば成績も戻ると思うよ」
「……頑張りますから、お願いします」
ぺこり、とマホが頭を下げる。
「私からもお願いします。マホ、一年のときからすごくテニスを頑張ってるんです。
成績が悪いからテニスを止めろなんて、いくら親でもヒドイです。
シンジさん、お願いですから力を貸してあげて下さい!」
(……そう言われちゃなあ……)
三人は、真剣な目でシンジを見ていた。思いこみで動けるという、
思春期特有の女子パワーとでも言おうか?こうして迫られてしまえば、男など――
「……わかったよ、俺みたいな奴で良いのかどうか自信ないけど……」
そう、引き受けるしかないのである。
「!わ〜〜〜〜い、ありがとう、シンちゃん!」
「ありがとうございます、シンジさん!」
「……すいませんが、よろしくおねがいします……」
その後は学校での授業の進み具合や他愛ない学校での噂話、
それにシンジのキャンパスライフの話など―――和やかな中で、話が進んでいった。
最初こそ固い表情だったマホも、けらけらと笑顔を見せるようになっていた。

「じゃ、ばいばい、シンちゃん!」
「お邪魔しました、シンジさん……」
「………さようなら」
「ああ、じゃあね?気を付けて帰るんだよ?」
いつの間にか夕方になり、宴もお開きとなった。三人をアパートの外まで見送るシンジ。
「家庭教師の件だけど、キチンと考えておいてね、シンちゃん?」
「ああ、分ってるよ」
「お願いしますよ、シンジさん?」
「私も、お願いします」
「いや、そんな期待されても……正直、俺人にものを教えたことなんてないんだから……」
「え?モノを教える?」
「…………お前の思う、“もの”ではない」
従兄妹ふたりのボケとツッコミがとりあえず終了したところで、三人は去っていった―――

「ふぅ………」
女が三人寄れば姦しい、と言うとおりにぎやかだった。
テーブルの上には、エーコたちの買ってきたケーキやスナック菓子の残骸が横たわっていた。
「せっかく……きれいにしたのにな」
そう思って苦笑するシンジ。片づける前にタバコでも吸おうかと、胸ポケットに指を突っ込んだ
――――そのときだった。
“ガチャ”
「え?」
突然ドアが開いた。そして―――顔をのぞかせたのは、
さきほどまでこの部屋にいた、少女のうちのひとりだった。
「………?忘れ物?福浦さん?」
「………………」
§


そこには初対面の時と同じく、やはり仏頂面のマホが立っていた。
「あの………?福浦さん?」
無言のままのマホの妙な迫力に圧倒され、困惑してしまうシンジ。
「………チカと、エーコは」
「?」
「私の……大事な、ともだちなんです」
「??う、うん」
「エーコは……活発で、可愛くて、クラスの人気者で。
それで、あなたにすごくなついてます。従兄だって以上に」
「?………そ、そうかな?」
「チカは……あのとおり、すごく素直で良い子なんです。
学校でも結構モテるし。だけど……あなたに、一目惚れだったみたいです。」
「?…………あのね、それはでも……」
「今日あなたに会って……少しだけ、安心しました」
「?ど、どういう意味かな?」
「……エーコの話からすると、あなたはエロ本好きの、その……お尻フェチの、
ド変態かと思ってたんですが……」
「…………それでよそよそしかったんだ、福浦さん」
「ええ。でも、思ったよりマトモそうですし。……本当のことを言います。
私、今日はわざと短めのスカートをはいてきたんです。
それで、わざと足を……何度も、動かしたりしてみました」
「!!!!わざと?ってことは……君、俺を試したの?」
「……はい。確かに何度か見てましたけど……私に、気付かせようとしてましたよね?」
「そりゃ、そうだよ。どう伝えようかと思って……」
「それであなたを見直しました。少なくとも、ド変態では無さそうです」
「………頼むから、その“ド変態”ってのは止めてくれないかな?」
「失礼しました。だからと言って、まだあなたのことを信用したわけではないです。
もしあの子たちの好意につけ込んでイヤらしいことをしたりしたら、私、あなたを許しません」
「あのねえ……しないよ、そんなこと」
(……このくらいの年頃の子ならではなんだろうな、友情が暴走しちゃうっていうか……)
苦笑して誤解を解こうとしたシンジだが――彼女の次の言葉に、耳を疑った。
「もし……どうしても、我慢できなくなったんなら、わ、私に言って下さい。
そ、そういう体験あるわけじゃないんですけど、それでも私で良かったら、し、してあげますから」
「………………へ?」
「…………だから、絶対、絶対!エーコとチカには手を出さないで下さいね?」
顔を真っ赤にして、相変わらず怒ったような口調でそう言うと――
“バタン”
ひどく乱暴に、ドアを閉めてマホは出て行った。シンジは……ただ呆然とその姿を見送り、
彼女がいたはずのところを見つめていた。
「………してあげるって?のなあ……俺は、ケダモノかよ!」
しばらくしてやっとのこと、そう力無く叫ぶシンジ。
(はあ……あの調子だと家庭教師のバイトも、多分俺を見張るために頼んだんだろうな。
そりゃ確かにエーコは俺にベタベタしてくるところはあるし、
チカちゃんが俺のことを気に入ってくれてるのも気付いてたけど……)
エーコも、チカも、マホも確かに可愛い子なのはシンジも認めていた。
さりとて、さすがに相手は中学生である。
(………いくら俺でも、手なんて出さねえっつ――の……)
そう思いながら――それでもシンジの脳裏には、
今日マホが何度も見せてくれたスカートの中が蘇ってきた。
白地に、青のピンストライプが走る清純そうなショーツ。
健康的に鍛えられながらも、少女から大人へと成長する途上にある、
まだどこかアンバランスにほっそりと肉付いた太腿。
(うう……俺は、ド変態なんかじゃない………断じて、無い……)
なぜか、何度もそう自分に呟くシンジ。
このとき彼は、まだ自分のあまりに幸せで過酷な未来を予想すらしてなかった――

続く

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