作品名 作者名 カップリング
「恋わずらい」 郭泰源氏 -

「今日で、卒業か……なんだか三年間あっという間だったな……」
城島シンジは桜吹雪の舞う中、感慨深げに呟いた。

卒業式も終わり、クラスの友人達とも再会を約束して教室を後にしたところである。
このまま母校を去っていく、そのつもりだったのだが―――ふと思いついたシンジは、
風紀委員として除草や害虫駆除等、あれこれと手をかけてきた花壇にきていたのだった。
体育館裏の花壇の周りには桜の木々が十本ほど植えられており、
満開を過ぎた桜はシンジたちの卒業を祝うように最後の花を散らせていた。
(はは………よく小宮山先生に、木を大切にしろって言われたっけ……特に、この木……)
シンジが歩み寄ったそこには、ひときわ大きな桜の木があった。
(ウチの高校ができたときに植えられたって言う木なんだよな……)
なんとなく去りがたくその古木の表面に手をやって撫でるシンジだが、
手のひらから、なにか人の手で刻み込まれたような感触が伝わってきた。
「………?」
指で何度かなぞると、そこには確かに彫刻刀かなにかで彫られたあとがあった。
不思議に思って、目をこらすと―――

ぼ    っ    木

(…………………………………………………)
確かに、そう刻まれていた。
(……小宮山先生か、カナミか、マナカちゃんか、それともカズヤがノリでやっちまったか……)
すらすらと、犯人候補を頭に思い浮かべるシンジ。
(最後の最後まで、アイツらだきゃあ………)
厳粛な気分をぶち壊しにされて溜息をついた、そのときだった。
「せせせせせ、せんぱいッ!!!!!」
「?………はい?」
後ろを振り向くと、そこには顔を赤くしてブルブルと震えている少女がいた。
「あ、あの。わ、私ッ!一年の、かか、叶ミホと言いますッ!あ、怪しいものでは、ありません!」
(いや、十分怪しいんだけど……)
「えっと、君確か、よく小宮山先生と一緒にいる子だよね?」
「!おおお、覚えていてくれたんですか!」
「うん……そりゃ、まあ………信号待ちしてたときに股間触られたりとか、
文化祭のときにいきなり『ヌいてあげます』って言われたりとか、
階段の上から落ちてきて下にいた俺が怪我してしばらくエライ目にあったりとか、
突然エロ小説をプレゼントされたりだとか、『千円で私を買いません?』って言われたりとか……」
「!!!!!!!!!!!!!」
「心配しなくても、君が変な子だなんて思ってないよ。
どうせ小宮山先生やマリア先生あたりが妙なことを吹き込んだんだろう?」
さすがに鋭いシンジだが、彼女達のアドバイスを実行するミホもどうかと思う。
「あ……あの、その……」
一方、ミホはしどろもどろになっていたが―――
(ダメ……今日を逃したら、絶対ダメよ……)
最後のチャンスと開き直った分、いつもより回復は早い。
「あの、せ、先輩!い、色々と……変なことをしたり、言ったりしてすいませんでしたッ!」
「だから、いいよ別に……もう、最後だし」
「…………最後だから、先輩……最後に、ひとつ……聞いて欲しいんです」
「?」
「私……先輩のことが、好きでした!一年間、あなただけを見てました!
あ、あの……もしよろしかったら、つ、付き合って下さい!」
(言えた……最後に、言えた……頑張ったよ、私)
やっと自分の想いをシンジに伝えることができて、思わず涙ぐんでしまうミホだが。
「………………………へ?」
完全に不意打ち状態のシンジは、ポカンと口を開け……彼女を、ただ見つめていた。
「あの……先輩?」
§


「あ、ああ、ご、ゴメン……」
ミホの言葉にようやく正気に戻ったシンジは、自分を心配そうに見つめている少女を見た。
顔立ちは、少し幼い感じがした。大きな瞳に比べて鼻と口はごく小振りで、
猫系の小顔にちんまりとおさまっていた。不安げな表情のせいか、道に迷った子猫のような……
どこか男の保護欲を刺激するような、そんな美少女だった。
(……そりゃ、俺だって願ってもない話なんだけど……)
「あのさ、叶……さん?」
「は、はい!」
「いきなり好きだって言われて、俺、ビックリしてる。一応聞いておくけど、
小宮山先生やマリア先生の仕組んだドッキリとかじゃないよね?」
「ち、違います!」
「はは、ゴメン………ありがとう、すごくその……嬉しいよ」
「……それで……先輩、お返事は……」
不安げに、ミホがシンジを見上げる。
「いや……俺としても、喜んでよろしくお願いします、って言いたいところなんだけど……」
「…………?」
「ひとつ、聞いておきたいんだ。君、なんで俺を好きになってくれたの?
先輩って言ってもさ、俺、部活に入ってなかったし。委員会でも一緒になったことないよね?
もし同じ中学とかだったら悪いんだけど、君の記憶がないんだよね。
それにまさかとは思うけど、一目惚れされるほど顔に自信もないし」
「!い、いえ、先輩は、素敵です!」
「……ってやっぱり一目惚れなの?」
「………覚えてないんですね……」
「?」
「私が……この高校に入学したときです。先輩、私を……助けてくれたんです」
「??」
「髪の色のことで、緒方先生に叱られてたときに、先輩が助けてくれたんです」
「………?あ!もしかして!」

「全く、入学早々こんな色に髪を染めてくるとは……」
「違うんです!せ、先生、私、地毛で……」
「ふん、ごまかされんぞ。入試のときはお前、黒髪だっただろうが。
私が試験監督のときに筆記用具をぶちまけてオロオロしてたから、覚えていたんだ」
「ほ、本当なんです!信じて下さい。実は……」
「聞く耳持たんわ!いくらこの高校が自由な校風だからと言って、
お前みたいなチャラチャラした奴を野放しにすると……」
「緒方先生〜〜それくらいにしておきましょうよ。彼女、泣いてるじゃないですか?」
「な、なんだ、城島!貴様、風紀委員の癖して校則違反を見逃すのかッ!」
「いえね、先生?確かに校則でも染めるのは禁止、とありますけど。
地毛の場合はなにも規定がありませんし、彼女の言うとおりなら校則違反にあたらないかと……」
「ふん。だからコイツは入試のときには……」
(小声で)「それより緒方先生……マズイですよ?」
「?な、なにがだッ!」
(小声で)「ホラ、先週、先生一年の矢野さんの髪の色のことで指導してたでしょう?
そのとき、泣きじゃくる彼女にパンツを下ろさせて下の毛と比べたっていう噂が……」
「!%‘&“+ああああ、あれはお前の妹がッ!!!!!」
「噂ってのは怖いですね〜〜、今日の風紀委員でもそれが話題で出まして。
いえ、俺は事実と違うって言ったんですよ?でも風紀委員の担任が例の小宮山先生でしょう?
にや〜〜〜って笑って、『その噂、私に任せてくれないかしら?』って言ってたんですけど……」
「※★☆@!!!!!なにいいいいいいいいいいいいい!!!!!!」
「それで小宮山先生、そのまま職員室に向かったんですが、今ならまだ間に合うかと………」
「!!!!わ、分った。すまん、城島!!!!!!!!!!!!!」
「あ〜〜あ、緒方先生すげえスピード……廊下は走るなって普段言ってるくせに……」
「………あの………」
§


「ん?ああ……はは、緒方先生ってさ、ウチの高校にしては珍しくお堅い先生なんだよね。
入学早々嫌な思いをしたかもしれないけど、気にしないでね?」
「は、はい!ありがとうございました!」
「はは、別にいいけど……にしても君、染めるなら二学期にすれば緒方先生だって……」
「!ち、違うんです。嘘じゃなくて、本当にこっちが地毛なんです!
……私の中学、校則が厳しくて。地毛なのに無理矢理黒に染めさせられてたんですけど、
小笠原高校は自由な高校だって聞いてたから、思い切って染めるの止めて……」
「へえ、本当に地毛なんだ……キレイだね、君の髪」
「!………あ……」
「!ご、ゴメン。あんまりキレイなんでつい、触っちゃった。セクハラだよね、ゴメン!」
「……い、いえ……あの……」
「お〜〜〜い、シンジ〜〜〜!!!早く行こうぜ〜〜!」
「ああ、わりいカズヤ……じゃ、ゴメンね〜〜」
「あ…………せん……ぱい……」

「そう言えば………あのとき……」
こくり、とミホが頷いて熱っぽい視線をシンジに向ける。
「私……あのときから、ずっと……ずっと、先輩のこと、素敵だなって思って」
「あ、あのね、叶さん?そうは言っても君、俺のことそれ以外は良く知らないだろう?」
「いいえ!知っています!」
強く……妙に自信ありげに頭を振るミホ。しかしシンジはその様子になぜか嫌な予感が。
「優しくて、たくましくて、笑顔が素敵で、妹思いの妹フェチで、アナル好きで、
右手が恋人で、メイドやナースのコスプレが大好物!そうですよね!」
―――そして、予感は的中した。
「………出来たら『妹思い』以降は君の記憶から削除して欲しいんだけど……」
「だ、大丈夫です!先輩!わ、私、小宮山先生とマリア先生から、
先輩の理想の女の子に近づくために、数々の特訓を受けてきました!
ですので、妹プレーも、コスプレも、せ、先輩が望むなら、お、お尻の穴も……OKです!」
「……叶さん、お願いだから、大きな声で言わないで………」
さすがに泣きそうになったシンジは両手を合わせ、拝むようにミホに言った。
「……………あの……叶さん?」
「はははは、はいッ!」
「ちょっと戸惑いもあるけど、正直すごく嬉しいよ。でも、俺、君のことよく知らないんだ。だから……」
「………私じゃ、ダメなんですね。私みたいなつまらない普通の女じゃ……わかりまし」
「違うよ。今話していても、どうも君の中で俺っていう人間が誤解されまくっている気がするし、
それをまあ、修正したいっていうか。それに君、自分で思ってるよりすごく面白い子だし。
なんていうか……俺も君のことを、もっと知りたいし、俺のことも、もっと良く知って欲しいっていうか」
「!!そ、それってもしかして………」
「だから……俺で良かったら、付き合ってくれない?」
「!!!!!ははははははは、はいッ!」
完全に舞い上がり、喜びのあまりその場でぶっ倒れそうなミホだが、
シンジはにっこりと微笑むと彼女の赤みがかった髪に手をやって優しく、撫でた。
「…そう言えば、覚えてたよ。すごく……すごく、髪のキレイな子がいたなあって」
「!…………先輩…………」
涙ぐみながら、うっとりとシンジの行為に身を任せるミホ。
ふたりは、そして………どちらともなく、体を寄せて、抱き合っていた。
「……叶さん、あのさ、俺、浪人しちゃったから時間だけはあるんだよね」
「で、できたらミホって、名前で呼んで下さい!」
「う、うん。なんでね、ミホちゃん?君の都合の良い日にでも、デートに行こうか?」
「!!!は、はい、よろしくお願いします!あの、ナースとメイドのコスプレの用意は!」
「……………しなくていい」
「でででではッ、避妊具の用意はッ!」
「………それも、しなくていい」
しかし、この子の中での自分像というのはどうなっているのか………
当分は誤解を解くのに時間がかかりそうだな、と先が思いやられるシンジであった。
§


「……少し早く来過ぎちゃったかな?」
シンジは駅前のターミナルで欠伸をひとつかみ殺した後、一人ごちた。
ミホからの告白を受け、ふたりが付き合うようになってから一週間が過ぎた。
予備校生になり時間を持て余していたシンジはその間、
毎日のように彼女とメールや携帯で連絡を取り合っていた。
ミホはメールだけでなく直接シンジと会いたかったらしいのだが、
浪人生という立場とカナミの目もあってズルズルと会い続けるのがなんとなく気まずかったため、
ようやく今日がふたりの初デートとなったわけである。
(う〜〜ん、しかしこんなカッコで良かったのかな?)
普段服装にさほど凝る方ではないシンジだが、
今日は自分なりに気合いを入れてデート服を着てきたつもりだった。
(それで今日は映画を見て……そんでメシ食って、あとはブラリとショッピングして……)
なにせシンジにとっても人生初デートである。ミホを待つ時間、
不安になりながら頭の中でデートの予行演習を繰り返すのであった。
(一応財布の中身ももう一回……ん?)
出かける前に一度チェックしたはずの財布の中に、小さな白い紙の包みが入っていた。
とてつもなく嫌な予感がしたシンジがそれを恐る恐る取り出すと、
(………カナミの野郎…………)
予想通り、それはコンドームだった。包みの中には――
「おにいちゃん、頑張って!GOGO大人の階段!GOGO童貞喪失!」
文面に似合わない、カナミの可愛い文字が踊っていた。
(確か今年からミホちゃんとカナミ、同じクラスなんだよな〜〜。
妙なことを吹き込まれてなきゃいいけど……そう言えば、おととい矢野ちゃんからも……)
ミホとシンジの交際はあっという間にカナミたちの知るところとなった。
そして二年になってミホとカナミとアキは同じクラスになり、マナカとショーコは別のクラスになった。
カナミはふたりの交際を祝福し、ミホともすぐにうち解けて友人になった。
元々社交的なアキもミホと仲良くなった(彼女から受けた痴女行為は忘れてしまったらしい)。
――そこまでは、良かった。
「お兄さん!何とかして下さい!ツッコミ疲れで死にそうです、私!」
問題は――シンジの携帯にアキからの泣き言メールが凄まじい勢いで入ってくるようになった、
ということである。

「ミホちゃん!お兄ちゃんのアナル好きは筋金入りなんだから、これで毎日鍛えて!」
「!でででも、カナミちゃん!こんな太いの……私……私……」
「初心者には厳しいかもしれないけど、でもこれも試練だと思って……もし本当に無理なら、
ショーコちゃんが極細タイプのバイブを持ってるはずだから借りてこようか?」
「授業中なに話しとんじゃお前ら―――!!!!!!」

アキが言うには――マナカとカナミは似たタイプのため、対処法もほぼ同じ。
ショーコの場合はマナカナコンビのボケに乗っかってくることはあったとしても、
基本的に彼との変態行為についてのボケが多いため、彼女個人にツッコめば良かった。
しかし、ミホの場合はシンジのことを知りたいという純粋な恋心が暴走したうえで
カナミのエロボケに真剣にのってくるため、手に負えないらしい。
(アキちゃんには迷惑かけるけど………)
それでも彼女がいる限りはカナミがミホを焚きつけるのも少しはマシになるだろう、
とシンジはのんびりと思っていた。
(それにしても……ミホちゃん遅いな………)
「せ、先輩!」
「ん?あ、ああ……ミホちゃん、おはよ……」
「お、おはようございます!すいません、遅れてしまって!」
「はは……いいんだよ、俺もついたばっかだし」
一応待ち男の決まり文句を言うシンジだが、視線はミホに釘付けだった。
(へえ…………ミホちゃんって……)
私服でミホと会うのは、初めてだった。制服姿のときの彼女もなかなかの美少女ぶりだったのだが。
「………先輩?なにか変ですか、私?」
§


ピンク色の浅いパンプス、そしてそれに合わせた淡いピンク色のスカート。
白地のインナーと、その上に光沢のある黒のキャミ。
両手でバッグ持っている彼女の姿は、可憐そのものだった。
「い、いや……改めてさ、思ったんだけど……」
「?」
「ミホちゃんってキレイな子なんだなあって思って……見とれちゃったんだ、ゴメン」
「!や、やだ、先輩!」
お互い顔を赤くしてうつむくふたり。初々しい姿ではある。
「ゴメンね、変なこと言っちゃって……じゃ、行こうか?」
「あ……はい!」
ふたりは――少しぎこちなく微笑みあうと、並んで歩き始めた。
「今日はさ……映画でも見に行こうかと思うんだけど、ミホちゃんは好みのジャンルとか、ある?」
「は、はい!えっと……ら、ラブストーリーとか好きです!あと楽しいのとか……」
「あ〜じゃあちょうど良いかな?実は割引券貰ったんだ。
『ノッティングヒルマンの恋人』って言うラブストーリーらしいんだけど」
「わあ!それ見たかったんです、私!」
「はは……そんな、無理に合わせてくれなくても……」
「ホントに見たかったんですよ!私、主演のヒュー・ブライアントのファンで……」
「あ〜〜タレ目で福山雅治似の俳優だよね?そっか、ミホちゃんああいうタイプが好みなんだ?」
「!ちち、違います!だって……あのひと、先輩にちょっと似てるから……」
「似てないよ〜〜、ま、誉めてくれたんならありがとう」
「…………そういうところが、似てるんですよ」
「?どういうところ?」
「………もういいです!」
(親切で優しくてちょっとマヌケで……モテるのにドンカン……先輩そのもじゃないですか)
そう思って、ミホはちょっと怒ったような表情になってしまっていた。
シンジは彼女の様子を不思議そうに眺めた後……
“ぎゅ……”
「え?……先輩?」
不意に、彼女の手を握った。驚いてその場で固まってしまうミホ。
「ね、ミホちゃん?」
「は、はい」
「せっかくのふたりの初デートなんだしさ、楽しい時間を過ごしたいんだよね。
君のそういう怒った顔もそれはそれで可愛いんだけど。俺は………できたら、
君の笑った顔や楽しそうな顔を見ていたいんだよね。だから……そんな顔しないでよ?」
「先輩………」
ミホは、ただ嬉しかった。
(こんなに……幸せでいいの?)
初めて出会って恋に落ちたときから、シンジと恋人になることを夢見ていた。
それが現実のものとなっても、心の中ではどこか懐疑的だった。
(先輩は……モテるから)
シンジの周りには、常にと言って良いほど女の子がいた。それも、美少女達が。
(私は……アキちゃんみたいにスタイル良くないし、マナカちゃんみたいに美人じゃないし、
カオルちゃんみたいに可愛くないし、今岡先輩みたいに明るくてかっこいいわけじゃないし、
ケイ先輩みたいにキレイでおしとやかじゃないし……)
そんなことを思って自己嫌悪に陥ってしまうことさえ、あった。
それでも、シンジはミホの告白に答えてくれて、こうして隣にいてくれる。
ようやくシンジと恋人同士になったということを実感して―――ミホは、最高に幸福だった。
「ミホちゃん?」
幸せのあまり、ボ〜〜ッとしていたミホの顔を不思議そうにシンジがのぞきこむ。
「!あ!あのッ、すいません、先輩!」
「はは……別に謝らなくてもいいんだけど。でもなんだかミホちゃんってさ、
俺に話しかけられるといっつも慌ててるよね?まだ俺と話すの緊張する?」
「………緊張、しますよ。だって……」
「?」
§


「……ずっと……ずっと、先輩のことが大好きだったんですよ、私。だから……」
そう言ったまま、頬を染めて黙り込んでしまうミホ。
シンジは微笑みながらそんな彼女を見つめると、手を強く握って、言った。
「ミホちゃんにそんなに好きでいてもらったのは、すごく嬉しいよ。
だから……そのお礼に、俺も君のことをたくさん知りたいし、
これから楽しい時間をいっぱい過ごしたいって思う。今日はそのスタートってことで、いいかな?」
「はい。あの……私も、嬉しいです、先輩」
まだふたりの間でぎこちなさが消えたわけではないが、不自然さはなくなっていた。
映画館までの道を、手をつないだままふたりは、歩いた。
(やっぱり先輩って背が高い……それに、おっきくてあったかい手……)
(ミホちゃんっていい匂いだな……香水とかつけてんのかな?)
ふたりともなんとなく気恥ずかしいような、くすぐったいような思いを抱いていた。

「はい、先輩、ポテトです」
「あ〜〜、そんな気を使わなくても良かったのに」
「いえ、ホントは私が食べたかったんです」
そう言って、ミホがぺろりとピンク色の舌を出した。
(可愛いな……ミホちゃんは、やっぱりこういう顔が似合うよ……)
恋人の無邪気な仕草に見とれてしまうシンジ。映画館はじきに暗くなり、上映となった。

『ボクも……君のことは、好きだよ。でも……ボクと君とは、住む世界が……』
『逃げないで。私も、ただの女なの。ただの、恋する、女』

映画は、偶然知り合うことになった人気女優と小さな本屋を営む冴えない男との、
身分違いの恋愛をコミカルに描くラブストーリーだった。
最初こそ、ほの暗い映画館の中で隣の席にシンジがいるというシチュエーションに
ガチガチに緊張していたミホだったが、次第に映画のストーリーにのめり込んでいった。
(あ……ダメ。諦めちゃ、ダメ。絶対、恋は実るんだから)
主人公ふたりに感情移入しまくってうっすらと涙さえ浮かべてしまうミホ。
そしてシンジは……映画よりも、隣の彼女の表情ばかりが気になってしまっていた。
(しかし……ミホちゃんって、感情が豊かっていうか、のめり込むタイプっていうか……)
ストーリーの起承転結に合わせてくるくると変わる、ミホの表情。
涙ぐんだり、笑ったり、怒ったり、喜んだり……
そのたびに、彼女の少し赤みのかかった髪がふわふわと揺れていた。
シンジは、そんな彼女の様子をただ飽かずに見つめていた。

「ハッピーエンドで良かったですよね、先輩!」
「ん?ああ、そだね」
映画の内容そっちのけでミホを見ていたシンジは、生返事をするしかなかった。
「恋は、実るんですよね、やっぱり。思い続けていれば……きっと」
切なげな表情で見上げるミホの表情に、シンジはなぜか慌ててしまうのだった。
「えっと……ねえミホちゃん?そろそろ12時だしさ、飯食わない?」
「あ、はい!私も、ご飯食べたいです」

「ふわ〜〜、しかし、辛いね、タイラーメンって……」
「?先輩、知らないで注文したんですか?」
「うん。ラーメンは好きだから頼んでみたけど……こりゃ日本のラーメンとは別物だね」
シンジがランチの店に選んだのは、洒落た感じのアジアンカフェだった。
ラーメン好きのシンジはタイラーメンを、ミホはドネルケバブとココナッツジュースを注文した。
「うっは〜〜、汗止まらないよ……美味しいんだけど、こりゃすごいな」
「あ、あの先輩?ならココナッツジュース飲みます?冷えてて、お、美味しいですよッ!」
「?ああ、ならありがたく……」
(……先輩が私の口をつけたストローでジュースを……間接キス……)
いつもどおり、乙女心暴走中のミホ。
「ああ、生き返ったよ……?ねえ、ミホちゃんのその……ケバブだっけ?それも美味しそうだね」
§


「!なら、これもい、いかがですか?先輩!」
「いいの?ミホちゃん?」
「はい!あの……その代り、先輩のタイラーメンを頂いて良いですか?」
「ああ、交換しようか?」
互いの食べ物を交換するふたり。
(先輩の……タイラーメン……先輩の……食べたタイラーメン……)
乙女心炸裂中のミホは、夢中になってタイラーメンを口に入れていた。
「?ミホちゃん辛いの好きなんだ?」
「!!い、いえッ!その……」
がっつくミホを見て面白そうに聞くシンジだが、
(…………私が本当に好きなのは、タイラーメンじゃなくて先輩なんです。
でも……私、ちょっと食べ方汚かったかも……)
と、思いながらミホは顔を赤らめてしまうのだった。
「はは、でも美味しそうに食べる女の子は好きだよ、俺。
うん、初めて食べるけど美味しいね、このケバブって」
「!あ、おおお、美味しいですよねッ!ちょっとお肉の匂いにクセがありますけど……」
「多分羊の肉だろうけど……ハンバーガーみたいな感じだね」
もしゃもしゃとドネルケバブを頬張るシンジの様子を、ミホは夢見心地で眺めていた。
(先輩が私の口をつけたドネルケバブを食べてる………)
―――懲りない乙女心、引き続き妄想中。
その後もふたりは噛み合っているようないないような会話を続け、店を後にした。
「んっと、ミホちゃんなにか欲しいものとかある?」
「え?」
「実はさ、俺バイト代出たばっかなんだよね。あんま高いのは無理だけど………
初デートのお祝いになんかプレゼントしたいっつーか」
「!そそそ、そんなッ!い、いいですよ!」
「うん、良いんだね?じゃ、OKってことで」
悪戯っぽくそう言うと、シンジは少し強引にミホの手を引いて町を歩いた。
ミホは――慌てながらも、シンジの行為にうっとりと身を任せていた。
(やっぱり、男の人はリードしてくれた方が………良いかも)
結構ポイント稼いでるみたいです、シンジ君。

「どう?ミホちゃん、こんな感じのアクセサリーは?」
「えっと……あの……」
「あ、気に入らない?」
「お似合いですよ。彼女さん、色が白くて鎖骨がキレイだから、
これくらい大きめで主張する感じのブローチの方が……」
(彼女さん………他の人が見てもそう思うんだ……)
この状況で見れば、おそらくほとんどの人間がそう思うはずなのだが……
店員のセリフに、ミホは恍惚の表情を浮かべていた。正直、ちょっと危ない。
「う〜〜ん、でももう少し抑えめの感じが良いかもですね、じゃこっち……」
女の子のショッピングに付き合うのを嫌がる男は多いが、
カナミの買い物に付き合うのに慣れているせいかシンジも意外にノリが良かった。
面倒くさがることもなく、むしろ喜々としてミホへのプレゼントとなるアクセサリーを選んでいた。
「あ……あの、先輩からのプレゼントならなんでも嬉しいんですけど……
私、こっちの方がデザインとか好きかもです……」
「なるほど、こっちかあ……うん、これも良いよ。上品な感じで……」
いつの間にか、ミホ自身も自然と自分の好みを口にするようになり、
シンジとの会話もずっと滑らかなものになっていた。
その後も何軒かアクセサリー・ショップや雑貨店などをまわるうち、
ふたりはずっとうち解けた雰囲気になっていた。

「本当に……ありがとうございます、嬉しいです、先輩」
「はは、なんていうか……初めてのデートなんだしさ、それっぽいことを俺もしてみたかったっつーか」
ちょっと照れ気味の笑顔を浮かべるシンジだが、そんな表情もミホにとってはたまらないわけで。
§


「あ、でももう7時近いね。ミホちゃんの家って、門限とかある?」
「は、はい。あの……一応、8時前くらいって決まってます……」
「ふ〜〜ん、結構早いね。じゃ、そろそろ帰ろうか?」
「あ……あの、せ、先輩?」
「なに?ミホちゃん」
「えっと……私、行きたいところがあるんですけど……」
「?どこ?」
「公園なんですけど……ここから歩いてすぐ近くなんです。
ドラマで撮影されたこともあるっていうすごくキレイな公園で、それで……
あの、もう少し私、先輩とお話したいから……」
「うん、良いよ?じゃ、行こうか?」
恥ずかしそうなミホの手を握りながら、シンジが微笑む。
(うん、やっぱり最初はこういう健全なデートだよな。
……なんか一瞬小宮山先生の顔が見えて妙な予感がしたんだけど)
嫌な予感が外れ、安心するシンジだが―――

(しかし………ネーミングもストレートだけど、こりゃあ……)
ふたりがついたのは、『えきまえの公園』というヒネリもへったくれもない名前の公園だった。
名前だけなら、笑い話で済ますことが出来るのだが。
「ん……ッ、あッ……セイジ……」
「だ、だからリョーコ、こんなとこでそれは俺の立場上……」
「なによ……私に逆らう気?犬のクセに……」
ふたりの正面のベンチでは、髪の長い女とスーツ姿で一見勤め人風の男が
なにやら揉めながらも激しいキスを繰り返していた。
しかも彼女たちだけでは、ない。斜め向こうでもなにやら切なげな吐息が漏れ聞こえているし、
シンジたちの座るベンチの後ろでも、なにやらガサゴソと衣擦れする音が聞こえていた。
「あ……あの……み、ミホちゃん?」
気まずくなったシンジはミホに声をかけるが、彼女は顔を伏せて一言も発さないままだ。
(まさか夕方はこんな場所になるとは思わなかったからミホちゃんも気まずいんだろうな……)
「好きっ!!」
(!………おい、まさか……)
「好きなの、タケシの○×▲がっっ!!あああすご〜〜〜〜い!!」
(………始めやがったよ、後ろの連中……)
「あ、あのさ、ミホちゃん、そろそろ帰ろ………」
さすがに居たたまれなくなったシンジは強引にミホの手を取って席を立とうとしたが……
“ぎゅッ……”
「み、ミホちゃん?」
それを制するように、ミホが抱き付いてきた。
「先輩………」
「ちち、ちょっと?ミホちゃん?」
うるうると濡れた瞳でシンジを上目遣いで見るミホ。
ただでさえ男の保護欲を刺激しまくるタイプである彼女の行為に、
上目遣いフェチのシンジの理性は崩壊寸前だった。
「あの……私、私……ずっと先輩と恋人になりたいって……そう、思ってました。
それで……キスしてもらうなら……この公園だって、決めてたんです。だから……」
そう言って、ミホは目を閉じてピンク色に潤んだ唇をすぼめて突き出した。
「ミホちゃん………」
可愛い、と思った。今日一日一緒にいて、シンジは楽しかったし、
こんなに自分を純粋に好きでいてくれるミホのことを愛おしく思っていた。
ただ―――ミホが、自分と話すときにいまだ緊張が解けないままなのが少し不満だった。
(映画館で見せてくれたみたいな、ああいうミホちゃんの方が可愛いよ、絶対)
本当のミホは、表情も感情も豊かで、もっと可愛い少女のはずだとシンジは気付いていた。
それだけに、自分の目の前で硬い表情になるのが納得できないのだった。
「ねえ、ミホちゃん?キスの前に、お願いしても良いかな?」
「は、はい!なんですか?」
§


「ここでキスしたら……そっから君、俺に敬語使うの禁止」
「…………え?」
「それと、先輩って俺を呼ぶのも禁止」
「…………?あの……」
「恋人同士なんだしさ、もっとうち解けたいんだよね、俺。前も言ったけど、
ミホちゃんの色んなとこ知りたいっつーかさ。だから、俺の前ではもっとリラックスして欲しいんだよね」
「じゃあ……あの、なんて呼べば……」
「シンジでいいじゃん」
「し………シンジ……さん」
「……ま、それでも良いけど」
「け、敬語についても、努力します!だから……」
ミホはおねだりするように、再び目を閉じて唇を突き出した。
「そう言いながらさっそく敬語使ってるじゃん、ミホちゃん」
「あ!」
「ま、いきなりは無理か……でも少しずつでいいから、ね?」
「はい………」
シンジは、にっこりと微笑んでミホを見つめると―――
“ちゅ……”
小さな唇を、啄むようなキスをした。
(………やらけえ……ミホちゃん)
(あ……先輩の……キス……あ……本当に、先輩とキスしてるんだ、私)
ぎこちなくて、初々しいキス。慣れないふたりは、
唾液が唇の端から漏れそうになるのも構わず、唇を吸い合った。
――――そして夢中でキスを続けていた、そのときだった。
“ポツッ………”
(…………ん?冷て?)
“ざ…………ざああああああああああああ”
突然の大雨が、ふたりを――いや、公園で営みに励んでいた人々を襲った。
「?で?ど?わああ!み、ミホちゃん!」
「!あ、雨ですね、先輩!」
キスの真っ最中に降りしきるスコール並みの大雨に驚くふたり。
しばし、ふたりとも唇を離して呆然としていたが………
「!ずぶ濡れになっちゃうって!こっち、ミホちゃん!」
やっと正気に戻ったシンジが、ミホの手を引いて木々の中へと待避した。
「はあ〜〜、ま、こっちの方がまだマシだよね、しかしすげえ雨……?」

「あッ!いいッ!タケシッ!タケシィッ!いくッ!私、イクのおッ!」

(しかし天候の変化も気にないんかい、おまーら……)
例の青姦カップルは、この大雨にもかかわらず行為に励んでいたようだ。
ガサガサと、植え込みを激しく揺らせながら女が鋭い歓声をあげていた。
林の中へと移動したせいか、その声はより至近距離でふたりの耳に響いてきていた。
(コレは……マズイ……)
事態の悪化に慌てるシンジだが……ミホは、沈黙を守っていた。
「あのさ、ミホちゃん、あっちの方へ……え?」
“するッ……”
ミホは、シンジの手を取ると――キャミの中へと、それを導き入れた。
「っちちち、ちょっと?ミホちゃん?」
「唇だけじゃ……イヤ」
「………」
「もっと……私を、触って……感じて……シンジ、さん……」
雨に濡れ、べったりとミホのキャミもインナーも彼女の肌に張り付いていた。
うっすらと、ブラすらも透けて見えていた。
「ミホちゃん………」
「私………シンジさんにもっと、私を触って欲しい……私のカラダを、知って欲しいんです」
§


シンジは、無言で唾を飲み込んだ。
(………あったかい)
指先から伝わる、ミホの体温。そして、それ以上にシンジの心をとらえたのは、
ミホの肉体の柔らかさだった。
(着痩せするタイプなんだ、ミホちゃん……)
女性的なふくよかさよりはまだ少女としての固さを思わせていたミホの体だったが、
触ってみるとそれは、ほっそりとしながらもしなやかな肉体で覆われていた。
華奢、というより野性的な体つきと行った方が正しいような気がした。
そして並んで歩いたときから気付いていたミホの甘い香りが、
雨の匂いと混じってより強烈にシンジの嗅覚をくすぐっていた。
濡れた黒のキャミソールはべったりとミホのからだにはりつき、
彼女の体のラインを強調していた。都合の良いことに、
白地のインナーまで水気を含んで彼女の肌をうっすらと透かせ―――
隙間からは、ぷっくりとした乳首がかすかに透けて見えてさえいた。
“ごくり”
視覚的にも嗅覚的にも刺激され、再びシンジは唾を飲んだ。
「シンジさん………私……私……」
またも濡れた瞳で、ミホがシンジを見上げる。
「み、ミホちゃん……」
シンジの理性は、この瞬間完全に吹き飛んだ。
“くちゅ……”
ミホの胸を揉みながら、唇を重ねた。そして強引に、舌先を彼女の口内にこじ入れる。
口の中でミホの舌が、とろける。酸味にも似た味が一瞬シンジの口内に広がり、
次第に陶然とした深い甘さに変わっていった。
「あ………んッ」
重ねた唇の間から、ミホが甘い声を漏らす。
興奮したシンジは、さらに深く激しく舌で彼女の口内を掻き回した。
“ちゅぃ……くちゅ、ぷちゅ”
指先で、乳首を愛撫する。マリア以外の誰の愛撫も受け入れたことのない、
ミホの乳首は――シンジの拙い愛撫に、固くしこって赤く染まる。
「ミホちゃん……」
「シンジさん……」
ふたりは唇をいったん離すと、再び見つめ合って抱き合った。
「雨……やんだね、ミホちゃん」
「?あ……」
激しい雨は、スコールさながらに短い時間だけ猛威を振るって去っていった。
公園から見えるビルの谷間は、浅い闇の中でネオンの光を反射していた。
「ねえ、ミホちゃん……もう、行こうか?」
「!や!イヤ!私……私……キスだけじゃ……」
シンジの気持ちが萎えたと思ったミホは必死の思いで抱きつくが……
「違うよ、ミホちゃん」
「?」
「あのさ……初めてなんだよね、俺たち」
「?はい?……」
「だからってゆーか……初めてのそれはさ、キレイな思い出にしたんだよね。
こんな外とかじゃなくて……ね?ミホちゃん。あの……多分、
ここからちょっと行けばそういう施設が……あると思うから……」
「………??あ!!」
随分と回りくどい言い方だが、シンジがホテルに誘っていることにようやくミホも気付いた。
「今日は……遅くなっても良いかな、ミホちゃん」
「は、はい。家の門限って、一応ありますけどそんなに厳しいわけじゃないんです!だから……」
「うん……じゃ……」
ひとたび見つめ合い、なぜか今更のように照れたシンジとミホは、林の中から出た。
「俺のも濡れてて、あんま意味ないかもしれないけど、ホラ」
濡れてしまったミホを気遣い、シンジが自分の羽織っていたジャケットを彼女の肩にかけた。
§


「!そ、そんな、いいですよ、シンジさん」
「………君、気付いてないよね?」
「?」
「服、透けてる……ブラが、見えちゃってる」
「!!あ!」
その言葉に慌てて胸元を隠すミホ。先ほどまで自分を大胆に誘っていたとは思えない、
そんな彼女の恥じらう姿をシンジは微笑みながら見つめていた。
「じゃ、行こうか、ミホちゃん?」
「でも……良いんですか?シンジさんも、寒いんじゃ……」
「……だって、ムカツクからさ」
「………!すいません!私、なにか悪いことしました?」
「違うよ。自分の彼女を他の奴にエロい目で見られたりしたら、
俺もやっぱムカツクからね。せめて隠してもらわないと」
「!……は、はい!」
(先輩……私のコトを……彼女って……それで私が見られるとムカツクって……)
考えようによっては結構身勝手なシンジな発言だが、それでもミホは嬉しかった。
ふたりは、肩を寄せ合うように――お互いの体温を感じながら公園内を歩き、町へと出た。

「先に風呂入んなよ、ミホちゃん。濡れちゃって寒いだろ?」
「でも……」
「いいから。俺はそんなでもないからさ」
「は、はい……」
ふたりが迷いながら選んだのは、落ち着いた感じのファッションホテルだった。
ほの青い灯りを照らす間接照明、エスニック調の壁紙、観葉植物を模したインテリア――
それらがふんだんに部屋を彩り、ぱっと見は南国のリゾートホテルを思わせるような内装だった。
(ふうん……意外に、ソレ目的って感じでもないんだな……)
初体験であるホテルの内部を興味津々の面持ちで見回してしまうシンジ。
「あの……でも、お風呂に入ってるとき、のぞいたりしちゃイヤですよ?」
「!し、しないよ、そんなことッ!」
キョロキョロしているシンジの様子を、ミホはあらぬ方向に誤解して釘を刺す。
実際、そんなことは考えていなかったのだが……なぜかシンジも必要以上に焦って答えた。
「……じゃあ、お先にお風呂いただいてきます……」
そう言うとミホは少しはにかんだような微笑みを浮かべ、浴室へと消えていった。
“ざあああ……”
(勢いで来ちゃったけど……良かったのかな?)
浴室から漏れ聞こえるシャワーの音に邪念が入りまくりながらも、
それでもシンジは復活してきた自分の中の理性と語り合っていた。
(ミホちゃんのことは……)
好きだ、と思った。告白後、携帯で話したりメールのやりとりをしているときも、
彼女のことは可愛いと思っていたし、今日のデートでもその思いに変りはなく――
むしろ、愛しさはより強くなっていった。
(でも……告白されてたった一週間そこいらでファーストキスは良いとしても、
いきなり初体験までって……早すぎねーか?)
「あの……シンジさん?」
「わッ!ご、ゴメン、ミホちゃん!もう上がったの?」
「?………それでも20分くらい私、お風呂にいましたよ?」
「あ……もうそんなたったんだ……あ、じゃあ……俺も……」
「はい……どうぞ」
(………ミホちゃん……色っぽい……)
湯上がりの濡れた髪、ほんのり朱色に染まった頬、
そしてなにより清楚でありながらたまらなく扇情的な彼女のバスローブ姿に、
それまであったシンジの理性は瞬時に撤退していった。

“ざぶッ〜〜〜〜ん”
(はああ………気持いい………)
§


実は先ほどの豪雨で体の芯まで冷えてしまっていたシンジ。
ミホの手前我慢していたのだが、湯に浸かってようやく生き返ったような気持ちになっていた。
(ふう……でも……アレ?なんだ、コレ?)
初めは湯気で煙って見えなかったのだが……シンジは浴槽の上のくぼみのようなところに、
小さなスイッチのようなものがあることに気付いた。
(?換気扇か……なにかの、スイッチかな?)
好奇心のまま、それを押してみると………
“カチッ……グイ〜〜〜〜ン”
(…………え?)
ホテルの演出なのだろう、スイッチを入れるとバスルームの壁が一瞬で切り替わった。
向こうのベッドルームがマジックミラーで透けて見えるようになったのだ。
(……?)
そこから見えたのは―――バスローブ姿のまま、
かいがいしくシンジの服をハンガーに掛けているミホの姿だった。
(ミホちゃん………)
思いを込めるように、ぎゅっと服を一度胸で抱いたあと、
それらを丁寧に広げ、ハンガーにあててエアコンに近い場所に掛けていくミホ。
(さっき……俺が適当に脱ぎ散らかしてた服を……)
彼女の献身的な姿に感激しながら――
(でも……どうして……そんなに俺なんかを、好きでいてくれるんだろう?)
そう、シンジは思った。私服のミホは十分に人の目を惹きつける美少女だったし、
今まで他の男に声を掛けられたことがないとはとても思えなかった。
(そりゃま……好きでいてくれるのは有難いんだけど……)
贅沢な悩みだとは知りつつ、シンジはほんの少し複雑な思いに駆られていた。

「ふう……良い湯だったね、ミホちゃん……」
「あ……温まりましたよね、お風呂って良いですよね……」
どこかギクシャクとした感じで笑顔を交わし会うふたり。
「ありがとね、ミホちゃん……服、乾かしてくれてたんだ」
「あ!はい。あの……余計なお世話かもしれませんけど、シンジさんの服も濡れてたから……」
「いや、ホントありがたいよ。家庭的なんだね、ミホちゃん」
「そんな……これくらい、カナミちゃんに比べたら全然ですよ」
「ああ……確かにアイツ、家庭的ではあるんだけど……なんて言うか……その」
家事のほぼ全般をこなしながら成績も優秀なカナミは確かに非常に良くできた妹ではあるのだが。
なにせ日々カナミの思春期ぶりに振り回されているシンジの立場としては、
少々歯切れが悪くなってしまうのも致し方ないところで。
「…………?シンジさん?もしかして……」
「!い、イヤ、あいつに不満があるってわけじゃ……いや、ないわけでもないんだけど……」
ミホに誤解をされたのかと慌ててしまうシンジだが――確かに、彼女はあらぬ方向に誤解していた。
「……そうなんですか……わかりました。わ、私で良ければ!」
「へ?」
「抱いて……おにいちゃん……」
「はい?」
突然のミホの不意打ちにフリーズ状態のシンジだが、彼女の表情は真剣だった。
「おにいちゃん……私……私……ずっと、おにいちゃんのこと……」
完全に脳内妄想に浸りきったミホは、ゆっくりとバスローブを肩から、脱いでいく。
「!ど、ちょっと、ちょっとちょっとちょっと、ミホちゃん?」
慌てふためきながらも、シンジの目は彼女の上半身に釘付けだった。
アクセサリーショップの店員にも誉められた、綺麗に浮き出た鎖骨のライン。
大きくはないが、てのひらサイズで形の良い乳房。その先には、やや大ぶりな赤色の乳首。
なめらかに曲線を描くウェストの中央には、可愛らしくすぼんだお臍が見えていた。
「お願い……私、初めては……おにいちゃんって決めてたの。
いいじゃない……兄妹っていっても血がつながってないんだから……」
「ノウ!ストップ、スト〜〜〜〜〜〜〜〜ップ!ミホちゃん!」
「……?」
§


なおも続きそうだったミホの熱演を、呆然と見つめていたシンジだったが……
やっとのこと、我に返ると慌てて遮った。
「み、ミホちゃん?君、いったい………」
「あの……だって、シンジさんってやっぱり……妹萌えで、
カナミちゃんに思いが残っているのかと思って……だからその、そういうプレーがお望みかと……」
「全く違う。カナミは確かに大事な妹だけど、そんなことは思ったことも……」
「………本当ですか?」
「え?」
「私、正直、不安だったんですよ。カナミちゃんってすごく可愛いくて女の子らしいし。
それにシンジさんのこと、すごく大好きだし。……ふたりって、仲良すぎですよ。
シンジさんも、メールとかでカナミちゃんのこと良く書いてるじゃないですか?」
「そ、そんなことないって。君とカナミが同じクラスだっていうから、話題にしてただけだって。
俺だってケダモノじゃないんだし、さすがに実の妹をそんな風な目で見ることはないよ」
「……でも、前見ちゃったんです。近所のスーパーで、カナミちゃんとシンジさんが買い物してるの。
ふたりとも、すごく楽しそうで……なんだか、恋人同士か若夫婦みたいでした」
「そ、そりゃ兄妹だからそんな風に見えるだけだって。あくまで兄妹だから……ね?」
「信用して……良いんですね?」
まだちょっと疑り深そうな表情のミホだが、シンジはそんな彼女を抱き寄せて――耳元で、囁いた。
「俺は、ミホちゃんだけだって。だから……安心してよ」
「はい……あの、それで……シンジさん」
「うん……」
“ちゅ”
やっと、唇を重ねるふたり。公園でしたときよりは幾分スムーズに――
そして、より熱っぽい、キスだった。
“ちゅ………くちゅ”
ふたりは互いの舌を伸ばし、絡め合った。
唾液が混ざり、ミホの香りがシンジの口内で弾ける。
湯上がりの匂いと混じったそれは、さらに強烈な刺激となってシンジを襲い、
口の中で意識がほんわりと崩れていくような錯覚を感じていた。
「シンジさん……私……私……」
「ミホちゃん……ちょっと、我慢して」
“つ……つる”
「あッ……」
シンジの舌が、ミホの耳たぶを舐める。紅く染まったそれを、執拗なくらいに舐め続ける。
「きれいだよ……ミホちゃん。……形の良い、耳たぶだなあって……思ってた」
「きゃん……そんな……」
「それに……ここも、きれいだし」
「!あ……」
“かぷるッ”
ミホの右肩を軽く噛んだ後、ちろちろと舌先を鎖骨のくぼみに這わせる。
ほんのりと、汗ばんだ匂いとミホの甘い香りが混じってシンジの嗅覚を刺激する。
「すごく、キレイだよ。ミホちゃんの鎖骨って、本当に……可愛い」
「あ……ン……くすぐったい……」
恥ずかしさと初めての快感に身を捩るミホだが――
“ちゅる……”
「あ!ふわ……ダメです、そんなトコ……」
ミホが体を捻った瞬間、わずかに開いた隙を狙ってシンジは舌先をミホの腋の下へと移動させた。
先ほどよりも、より強い香りがした。汗と、ミホの匂いと、石鹸の香りと……
(?なんだろう、この匂い?………あ!雨の……)
先ほどまで一緒にいた、公園の雨の匂いにも似た香りだった。
夢中になって、シンジはミホの腋を舐め続けた。
「あ……くすぐったい……あ……いや……」
最初こそ抵抗していたミホだったが、細い手首はシンジの手にしっかりと握られていた。
やがて―――諦めたように、くたり、と力を抜いた。そんな彼女の様子を見て……
“くり……きゅッ”
§


「!きゃ……」
シンジの左手が、ミホの乳首を摘む。くりくり、とひねられ、擦られる。
甘やかなくすぐったさに浸って切ない吐息を漏らすミホ。
そして―――ゆっくりと、シンジは舌先をミホの右の乳首に這わせる。
“ちゅろ……”
「あ……ン……」
左の乳首はシンジの指先に弄ばれ、右の乳首は舌先で転がされて……
ミホは、夢見るような快楽に溺れてゆく。
「ミホちゃん……」
“すッ……”
「あ……」
シンジの手が、ようやくミホの下半身に伸びてきた。バスローブの中は……やはり、全裸だった。
熱を帯びたミホの股間をまさぐる。きゅりきゅり、と恥毛が指先で擦れる感触が伝わる。
(思ったより………)
ミホのそこの毛は、剛めで、多めだった。
擦るたび、弾力性を持ったそれが反発するように指先に絡みついた。
「ん……あ……あっ……」
「ココくすぐられるの、イヤ?ミホちゃん」
「い……イヤじゃ……ない……」
「それじゃ……いい?」
シンジがそう言ってバスローブの裾に手を掛けると、
ミホは顔を赤くして無言で頷いた。ゆっくりと、ミホのバスローブを脱がしてゆく。
真っ白な、ミホの肢体が青白い部屋の光に照らされてシンジの目の前に現れた。
(………キレイだ……)
生まれて初めて生で見る、女性の裸体。
ミホの体は、真っ白で染みひとつ無く――少し赤く上気して、汗ばんでいた。
「ミホちゃん……」
シンジは我を忘れて、ミホの股間に顔を埋めた。
「あ!……ダメ……そこは……」
慌てて両脚を閉じようとするミホだが、シンジは強引にそこに顔を近づけた。
―――先ほど、風呂に入ったばかりにもかかわらず、そこからは汗の匂いが微かに香った。
ミホの甘い匂いとそれが混じり、甘酸っぱい香りになってシンジの鼻腔を満たす。
肺の奥までそれを吸い込んで、シンジは目の前の景色が、ぐらりと揺らぐような錯覚を見た。
“ちゅッ……”
「…あ……」
ミホのそこに、キスをする。唇に、じゃりじゃりとした恥毛の感触と、汗の塩辛さ。
指先で、みっしりと生い茂った小さなそこを拡げる。ミホの、可愛い大陰唇がはっきりと見えた。
目を閉じて、そこに舌を這わせる。ミホも興奮していたのか―――
シンジがほんの二三回舌を往復させただけで、そこからはすぐにとくとくと愛液が分泌されてきた。
「あ……や……ダメ……シンジさん、私……感じちゃう……」
「すごく……可愛いよ、ミホちゃん……でも君、感度良いね?マリア先生によっぽど……」
「!いや……そのことは……言っちゃ、イヤ!」
両手で顔を隠して恥じらうミホだが、
処女にもかかわらずここまで彼女の肉体が開発されてしまったのは
マリアの熱心な指導の賜であることは疑いのないところだった。
(俺としちゃちょっと複雑なとこではあるんだけど……ま、でも、
こんなにミホちゃんの感度が良くなったんならマリア先生にも一応感謝しとかなきゃなのかな?)
そんなアホなことを思いながら、ひたすらシンジはミホのピンクの裂け目を舐めまくった。
そしてそこから分泌される粘りつく液や襞の具合、かすかにひくつく動き等を夢中になって眺めた。
“ちゅ……じゅる、ぷちゅ……”
「あ……ふぁ……ああッ!」
シンジの舌の動きに合わせ、面白いように体を跳ねさせるミホ。
“ぐりゅ……くちゅ……”
調子に乗ったシンジは、ミホの肉の、奥の奥まで……舌を伸ばし、くすぐるように、回転させた。
「あ!!!ダメ、そんな……奥まで……や……あ…ふッ…ふああああン!!!」
§


びくん、びくんと体を何度も震わせ……たっぷりと、愛液を奥から漏らしながら、ミホが達した。
「ミホちゃん……」
目の前では、くったりと体中から力が抜けたような状態になったミホがいた。
夢中になって舐め続けていたシンジは、ようやく半身を起こして彼女を見た。
頬を赤く染め、まだ余韻に浸るように小さく体を震わせていた。目尻にはうっすらと涙が残っていた。
「シンジさん……私……私……」
まだ夢見心地のミホが、シンジと視線を合わせてうわごとのように呟く。
思いっきり泣き腫らした後のような……虚ろな表情のミホを抱き寄せると、
シンジは彼女の耳元で、低く囁いた。
「大丈夫……すごく可愛かったよ、ミホちゃん」
「…………」
「もう……大丈夫?その……最後までいっても……」
「!あ……は、はい」
「じゃ、その前に……ホラ、触って?ミホちゃん」
「あ!」
シンジがミホの手を取って、自らの股間へと導く。勃起したペニスの固さに驚くミホ。
「怖い?ミホちゃん」
「い、いえ……でも……大きいんですね、シンジさんの……」
「男としては嬉しい言葉なんだけど……俺のは普通くらいだよ」
「あの……直接見てみても、良いですか?」
「う、ウン……良いけど……」
恐る恐る、と言った手つきでミホがシンジのバスローブの前をはだける。
シンジの股間から、元気よくペニスが飛び出してきた。
(!わあ……ホントに……大きい……)
初めて間近で見る、ペニスの猛々しさにミホは釘付けだった。
「あの……シンジさん……?」
「な、なに?ミホちゃん」
「好きです……」
「え?」
突然そう告白すると、ミホはシンジのペニスに両手を添えて唇を寄せ――
“ちゅッ”
啄むような、キスをした。そして小さなピンクの舌先で、尿道口をちゅるり、とくすぐった。
「!!!!!!!!み、ミホちゃん???」
驚くシンジを無視して、ミホはペニスの先を舐め続ける。
持ち主の意志など構わず、シンジのペニスはミホの舌撫に嬉しそうにふるふると震え、
先端からは早くも先走り液がぷくりと分泌され始めていた。
「み……ミホちゃん、そ、そんな……」
“ちゅッ……くちゅ”
見逃さず、ミホは舌先でそれをすくって口の中で味わう。
じわり、と苦みばしった味が口内に広がる。
「ミホちゃん、も、もう良いよ。初体験なのに、そんな……」
「……んッ…シンジさんだって、さっき私のあそこを舐めてたじゃないですか……
ズルイですよ、私だって恥ずかしかったのに……これで、おあいこです」
「で、でも……汚いよ、いきなりそんな……」
「汚くなんて……ありません。さっき初めて見たときは、確かにちょっと怖いと思ったけど。
シンジさんのおちんちんだと思うと……可愛くて、愛おしくて……」
そんなことを言いながら、ぴちゃぴちゃとミホはペニスを舐め続けた。
やがてシンジのペニスはミホの唾液と先走り液でぐちゅぐちゅにまみれ、
青い照明にてらてらと照らされていた。たまらなく、淫靡な光景だった。
(あ…ああ……気持良いんだ……女の子に舐められるのって……こんな、気持良いんだ……)
それは体中の感覚という感覚が、ペニス全てに集中してどろりと溶けていくような快感だった。
「シンジさん……感じてるんですか?」
「だ、だって……ミホちゃんが、気持ち良すぎて……」
「!……嬉しいです。感じてくれてるんですね?嬉しい……大好きです、シンジさん……」
シンジの言葉ににっこりと微笑むと、ミホは力強くペニスを口の中に含む。
§


“こぷッ”
「!!ああッ!!」
ミホの口内の温かさに、思わず絶叫してしまうシンジ。ぬるっとした粘膜の感触。
さらに、ミホは口の中でも舌を動かしてシンジのペニスをくちゅくちゅとくすぐっていた。
「ん……すりれる、しんり…らん……」
口の中にペニスを含んだままの状態のため、言葉にならない言葉を呟くミホだが、
そんな微妙な喉の動きもシンジには新たな刺激となって………
「す、ストップ!ミホちゃん!!!お願い!ギヴ!ギヴ!」
シンジ、本日二度目のタップ。
「……シンジさん?気持ち良くないんですか?」
自分の愛撫が良くなかったのかと思ったミホは、
ペニスを口内から解放してちょっと悲しげな顔をしてシンジを見上げた。
上目遣いフェチのツボ突きまくりのその表情に、再びたまらなくなるシンジ。
「ち、違うって。その……逆っつーか。気持ち良すぎて、もう……その……」
「?良いんですよ?私、あの……口の中で出されても……ぜ、全部……飲みます。
シンジさんの……だったら、私……私……」
「ミホちゃん……」
(しかし……どこまで良い子なんだ……)
さすがに恥ずかしいのか顔を伏せてそう言うミホを、シンジは改めて愛おしいと思った。
「ありがとう、ミホちゃん……でもね……」
そう言って、シンジはミホを抱き寄せた。
「せっかくの初めてなんだから……俺、ミホちゃんの中できちんと……気持ち良くなりたいんだ。
その……君が、痛いのがイヤだって言うんなら、我慢するけど……」
「!い、いえ……その、よ、よろしくお願いしまっす!」
「じゃ……」
シンジは財布の中から、カナミの用意してくれたコンドームを取りだした。
そして中身を取り出し、装着しようとするが―――
(ん?あり?空気が入ったり……ありゃ、意外にこれ……)
なにしろ若葉マーク君のため、手間取ってしまうシンジ。
その間、ミホはベッドで横たわりながら、両手で顔を隠して待ち続けていた。
(初めて……先輩と……ひとつに……)
期待と、喪失への恐れと、そしてシンジへの愛しさ―――幾つもの感情が交じり合いながら、
ミホはただ、シンジを待っていた。
(で、でけた!)
何回かの失敗の末、やっとのこと装着したシンジは、ゆっくりとミホに向き直る。
「良いんだね?ミホちゃん………」
「はい……お願いします、シンジさん……」
シンジは充血しきったペニスを、ミホの小さな入り口に擦りつけた。
舐め始める前こそ固く閉じられていたものの、シンジの舌撫によりたっぷりと可愛がられたそこは、
ぐっちゅりと濡れて――シンジの侵入を待つように、ぷるり、と震えた。
(ミホちゃん……)
ペニスの根本に手を添え、ミホの茂みを愛おしむように軽くかき混ぜて探った後、
シンジは柔らかく窪んだ小さな裂け目に割り入っていった。
“ぐ……じゅ、ぐにゅッ”
「あ!!!ああああああああッ!!!!」
ミホが鋭い叫び声を上げる。ぷつぷつと、なにかを切り裂くような感触がペニスの先から伝わる。
「み、ミホちゃん……ゴメン、痛い?」
「いい……平気……です」
「でも……」
「大丈夫……ですから……ダメです……シンジさん」
「?な、なにが、ダメなの?」
「こんな中途半端のままじゃ……私、イヤです。思いっきり……私の中に、入って下さい。
そして……私を、感じて下さい……」
ミホは涙を流しながら、シンジに自分の想いを伝えようとしていた。
破瓜の激痛に耐えながら、必死で訴えようとしていた。
§


シンジも……彼女のそんな姿に、何故か涙が溢れてきていた。
「分ったよ……じゃ、行くよ?」
「はい……」
“ぐぅりゅ……”
シンジは、一気にペニスを根本まで沈めていく。
狭く、小さなミホの中がくちくちとシンジを挟み、しごくようにすぼまる。
(うわ………こんな……気持ち良いんだ……こんなに……気持良いんだ……セックスって)
初めてのセックスの、初めての感触。腰の裏までぶるぶると震えるような、快楽だった。
「あッ……んうッ……ぐッ……」
「多分……もう、全部入ったよ。大丈夫?ミホちゃん」
「んッ……は、はい。わ、私のあそこ……シンジさんで、いっぱいに……なってます」
「あの……やっぱ痛い?」
「い、いえ……さっき、入ってくるときはすごく……痛かったですけど、
入っちゃったら……大丈夫みたいです」
「…………動いても、良いかな?」
「!は、はい!頑張ります!」
「いや、そんな頑張ってもらうとこっちも……」
初体験というシチュエーションにもかかわらず、掛け合い漫才になってしまうふたり。
シンジは苦笑すると……ミホの頬に、
“ちゅ”
小さな、キスをした。
「?………シンジさん?」
「ね、ミホちゃん……正直俺さ、戸惑ってる部分もあるんだよね。君はすごく可愛い子だし、
なんで君みたいな良い子が俺のことをそんなに好きでいてくれるのか分かんないし」
「!そんな!私の方が……」
「ま、良いから聞いてよ。それでね、もしかしたら今日初めてのデートでさ、
失敗しまくって実際のしょうもない俺を君が知っちゃって、
幻滅していきなり振られたらどうしようなんて考えてたくらいだし」
「……そんなこと、絶対……」
「いや……それでね、今日初デートをして、初めて手を握って、
初めてキスして……おまけにその、こんなことになって……俺、気付いたんだ」
「?」
「俺、君のことが、すごく好きだ」
「!!!!え!」
「なんていうか……君に嫌われたくないし、君にずっと好きでいて欲しい。
だから……無理しないでよ。痛かったら痛いって言えば良いし、君の嫌なことはしたくないよ」
「シンジさん……」
ミホの双眸から、再び涙が溢れた。
(私だけが、好きなわけじゃ……なかったんだ……片思いなわけじゃ……なかったんだ)
泣きながら……ミホが両腕でシンジの体をきゅ、と抱き締める。
「ひとつだけ、お願いがあります」
「……なに?」
「もう一回、言います。私のことが、本当に好きなら……止めないで下さい。
愛して、下さい。痛くても……シンジさんなら、良いんです。
シンジさんは……私の、大好きな思い人で……特別な、人だから……」
「……分ったよ、ミホちゃん。君も……俺の、特別な人だよ」
そうミホに語りかけると、シンジがゆっくりと腰を動かす。
“ぬぅ〜〜〜ぬ……”
柔肉の奥までぴっちりと納まっていたペニスを入り口近くまで戻し、再びまた深く挿し入れてゆく。
「ふ……ふぅ……はぁぁ……」
シンジに抱きついたまま、その動きに合わせて吐息を漏らすミホ。
“ぐ……ぬッ〜〜〜るッ、ぷぬっ……”
ゆっくり、反復運動を繰り返す。
「あ………ああ、あッ!」
「……ねえ、ミホちゃん?もしかして、まだ奥の方だと痛い?」
§


「あの………痛いっていうより、体が勝手に動いちゃうっていうか……怖いみたいな……」
「……なら、奥の前くらいで動くよ?」
「は、はい……お願いします」
“ぬ……くッ、ぷつッ……る〜〜ッ”
少し浅めに、抜き差しする。今まで以上にゆっくりと挿し、ゆっくりと抜く。
「はあ……ぁ……あッ……」
ぬるぬるとしたミホの入り口から真ん中あたりを、擦り上げるように突く。
奥まで突かないよう、気を付けながら動く。
(あ……でも、ミホちゃん……い、入り口の方が……気持良い……)
狭くて固いミホの肉の口が、くいッくいッ、とシンジのペニスを締めつける。
「う……あ……シンジ……さん……シンジさん……ふぅ……あ……」
何度も何度も突かれ、そのたびにミホの吐息は切なく、深くなってゆく。
「んッ……ねえ……少し、早くしても良いかな?ミホちゃん?」
「!は、はい!私……もう、だいぶ痛くなくなってきたみたいです……」
「じゃ……」
シンジの反復運動に馴染むように、ぎちぎちに固かったミホのそこは少しずつほぐれてきていた。
“ぬ……ぐ、”
柔らかくなったそこを、突く。動きを、早める。少しずつ、奥の方へと。
ペニスの裏側に、先に、そして全体に、快感が痺れるように伝わる。
「ふあ……み……ミホちゃ……ん……」
「ふぅぅぅん……ふはッ、はぁ………」
部屋の中に――ふたりの荒い息遣いと、繋がったところから漏れる、湿った音が響く。
くちゃりくちゃりと肉がぶつかり合い、擦れ合って奏でるリズム。
フォービートをエイトビートに、エイトビートを16ビートに……そのスピードは上がってゆく。
「はあ……うッ、シンジ……さん、私……も、もう……」
ミホが腕に力をこめ、シンジの体を強く抱く。
「み……ミホちゃん、俺も……」
「あ……だ……あ……私、わた……あッ‥あ、ああッ!!!」
「!!わ、み、ミホちゃん!そんなに……強く……あ……」
絶頂に達した瞬間、ミホは無意識のうちに思いっきりペニスを締めつけた。
きゅっ、きゅっ、と強く圧迫され、あまりの快感にシンジも為す術無く―――
“ぷッ……ぴゅうッ……どぷッ!”
思いっきり精を、放出した。
“ぴゅくッ……ず……ぶぢゅ……”
コンドームの中で跳ねるように、何度も何度も激しく精液を吐き出す。
「は……あ……はぁ………」
一滴一滴、漏らすたびにシンジの体から力が抜けてゆく。
「あ……シンジさん……あ……あ……」
先に達したミホも、完全に脱力状態のまま……
ふたりは、重なり合いながら、魂が抜けたような表情でいた―――

「………大丈夫?ミホちゃん……」
「はい……ちょっと、歩きづらいけど……大丈夫ですよ、私……」
どれくらい、ベッドの上で惚けていたのだろう――気付けば、既に10時間近だった。
先に気付いたシンジが慌ててミホを起こし、ふたりは急いでホテルを後にした。
ただシンジは、なんとなく歩きづらそうでいるミホが気がかりだった。
「ゴメンね……ミホちゃん……俺……」
「ふふ……謝らなくても良いんですよ、シンジさん?私……今、最高に幸せですから」
満面の笑みで、ミホがシンジを見ていた。それは、嘘偽りのない、笑顔だった。
「……ミホちゃん……」
既に、彼女の家の近くだったが――感情のまま、シンジはミホを抱き寄せた。
「ずっと……ずっと、一緒にいようね、ミホちゃん」
「はい……私も……同じ、思いです……」
暗がりの中で、隠れるようにキスをするふたり。
そしてミホを家の前まで送った後……シンジは、何度も後ろを振り返りながら、帰路についた。
§


「お帰り〜〜〜お兄ちゃん、どうだった?初体験の実感は……」
「…………」
相変わらずのカナミを、無言のまま無視しようとしたシンジだったが……
カナミは構わず鼻を寄せて、くんくんとシンジの匂いを嗅いだ。
「………お兄ちゃん、石鹸臭い……お風呂、入ってきたんだね?
てことは……やっぱり童貞喪失かぁ〜〜〜〜」
「!!!お前…………」
「ありゃ〜〜〜、冗談だったのに、マジだったんだ?うわ〜〜ねね、どう?どうだった?」
「……馬鹿野郎、言えるか、そんなこと……」
「ふ〜〜ん、そんな態度なんだ……でも、いいもんね。私、今日は良いことしたから」
(ま……確かにあのコンドームは有難かったけど……)
心中渋々ながらカナミの厚意に感謝するシンジだが――
「少子化の進む日本の為になることをしたんだもん、表彰状もんだよね」
「……は?」
「あ、やっぱり気付いてなかったんだ?あのね、私コンドームの先に画鋲で穴開けといたの」
「!!!!!ななななな、なにいいいいい!!!!」
「あははは、慌ててる♪」
「ちょっと待てえ、カナミッ!!お前それシャレに……俺、安心して思いっきり……」
「な〜〜んて、嘘だよ〜〜ん。お兄ちゃんって騙されやすいよね〜〜♪」
「………お前なあ……」
「ま、めでたく童貞喪失したんだから、バリバリやりまくってね?」
「お前に言われる筋合いはね――!ったく、俺もう寝るから邪魔すんなよ?」
「………で、ミホちゃんでセックス上手くなったら、私の処女ももらってもらうからね……」
「………?カナミ、今お前なんか……」
「なんでもないの!じゃ、おやすみ、お兄ちゃん!」
いつもどおりの無邪気な笑顔でシンジに手を振るカナミ。
だが、その笑顔は……少し、悲しげで、少し、冷たかった。
(………?)
釈然としないものが残りながら、シンジは階段を上り、自分の部屋へと入る。
「そのときまでは……ミホちゃんに、貸してるだけなんだから……
お兄ちゃんは、私のものなんだから……誰にも、絶対渡さないんだから……」
シンジの姿を見送った後、小さな声で呟くカナミ。その目には、はっきりと狂気の色があった。

END

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