作品名 作者名 カップリング
「あだゆめ」 郭泰源氏 加藤×シンジ

「ウン、文章そのものは上手くなってきてるわ。ただ、ここの接続詞の使い方かしら?
ちょっと小論文としてはつながりが弱い感じがするから、そこを改善すればいいかな?」
「あ〜〜、確かに前後のつながりがちょっとゴチャゴチャしてるかもですね」
夕日の射しこむ進路指導室、シンジは国語教師・加藤から丁寧な指導を受けていた。
彼の志望先である神宮大学の文学部では小論文が必須であるため、
文章力に自信のないシンジが加藤に相談したところ、快く引き受けてくれた、という次第である。
最近では週二回ペースの熱心な指導のおかげでシンジの文章力も確実にアップしていた。
「ふぅ〜〜〜、しかし今更ですけど日本語って難しいですね。
ちょっと前後入れ替えただけで全然印象が違ってくるんだもんな……」
「ふふ、でしょう?それが文章の面白さでもあるんだけどね。
さて、と。そろそろ一息入れましょうか。コーヒーでも飲む?」
「え、良いんですか?」
「ふふ、最近城島君頑張ってるからご馳走してあげる。
最近コーヒーの美味しい喫茶店を見つけたの。
そこから特別に分けてもらった豆を使ってるから、じっくり味わってね?」
「あ、ありがとうございます」
にこやかにそう告げると、加藤がコーヒーメーカーをセットした。
(はあ〜〜、でもキレイだな、加藤先生って)
大人の女性の色香というものだろうか?そのしなやかな仕草に目を奪われるシンジ。
(俺の周りの女の子には……いないタイプだもんな……)
カナミ(思春期)・マナカ(耳年増)・ショーコ(変態)・カオル(ピュア)・ナツミ(暴力)
と個性豊かな面々が集まっているのは良いのだが、
いずれをとっても女性として見るのが困難なメンツであり、
また外見だけならばなかなかの美少女揃いなのが悩ましいところでもある。
「私はブラックだけど……城島君は?」
「あ……砂糖はいいんで、ミルクだけいいですか?」
「うん、わかったわ。はい、どうぞ」
「すいません、先生……」
加藤が手を伸ばし、シンジの前にコーヒーを置く。
―――と、その瞬間。窓から風が吹き込み、彼女の長い黒髪を揺らした。
「あら、風……ふふ、秋の風って気持ち良いわね……」
どこか楽しげに呟きながら、加藤が髪をかき上げる。
(いい匂いだな………)
加藤のものであろう香水の、控えめでありながら上品な香りにシンジは陶然としていた。
「いい香りでしょう?挽きたてのコーヒーの匂いって、いいわよね」
「あ、は、はい!」
不意をつかれ、真っ赤になってうなずくシンジ。
(やっべ〜〜〜、まさか先生の匂いでウットリしてましたなんて言えねえ)
そんなシンジの心中に気付くこともなく、加藤はにこやかに彼を見守っている。
「コーヒー、熱かったかしら?顔、赤いけど?城島君……」
「い、いえ……なんでもないんです。すいません、最近俺、ちょっと寝不足で」
「あら。頑張るのは良いけど、あんまり今から追い込み過ぎると息切れしちゃうわよ?」
「いえ……勉強で寝不足なんじゃなくて、その……」
「?」
「実は……妹が、なにかと俺に構ってきて、どうも落ち着かないっていうか……」
「妹……ああ、1年の城島カナミちゃんね?」
「はい……その、ウチの妹、思春期すぎるっつーか……」
「ふふ、知ってるわ。有名だもの、城島君にべったりの可愛い妹さんがいるって」
「それだけなら良いんですけどね。あの……こういうの、
先生の前では言いにくいんですけど、アイツ、過剰にその……」
「………耳年増、なのよね?」
「………それも、有名なんですか?」
「私も受け持ちじゃないから、そんなに詳しいわけじゃないんだけどね。
だけど職員室でも有名は有名よ。ウチのクラスの男の子もね、
『城島さんって見た目は超可愛いのに、性格イタいからな〜〜』
って言ってたし……。あ、ごめんなさい?その子も別に悪気があってそう言ったんじゃ……」
§


「いえ……いいんです」
全くそのとおりなので、シンジは苦笑してうなずくしかなかった。
「アニキとしては、もう少し……先生みたいにその、落ち着いて欲しいっつーか、
おしとやかになって欲しいっつーか、そういう感じなんですけど」
「あら?褒めていてくれてるのかしら?それともオバサン臭いって意味なのかしら?」
ちょっと悪戯っぽく加藤が微笑む。
「い、いえ!全力で、褒めているんです!先生って大人の女の人って感じで、
いつもキレイだし知的だし、そ、その、素敵です!」
「ふふ、そんなあせらなくてもいいのに……でも一応褒めてくれてるみたいね、ありがとう」
慌てふためくシンジを、加藤は楽しそうに見つめている。
(あはは、慌ててる。城島君ったら、可愛いわね。……そう言えば、
出会った頃のあの人に少し似てるかしら?優しそうで頼りなさそうで、鈍そうなところが……)
自分の夫の若い頃の姿に、シンジを重ねながらそう思った。一方、シンジも―――
(危ねえ……やべえって、よく考えたら先生と………俺、もしかして今?)
小笠原高校全男子生徒憧れの的・加藤と、
ふたりっきりだという状況に今更ながら気付いたシンジ。
「お嫁さんにしたい先生No.1」
「小笠原高校の白石美帆」
「母性と知性と美貌を兼ね備えた理想の女性」
……etcと、なにしろ男子生徒が彼女を形容する言葉といえば賞賛の言葉ばかりなのである。
その反面、女子生徒の間では少々生真面目すぎる性格が災いしてか、
好き嫌いがはっきり別れてしまうのであるが。
「それじゃ休憩はこれくらいにして、そろそろ問題にとりかかりましょうか?」
「は、はいッ!」
加藤がそう行って再び授業に戻ろうとするが、シンジの方はなかなかそうもいかないわけで。
「そうね、ここで文章を受けるのは………」
(はぁ……先生、やっぱりキレイだな……)
思春期男子であった頃を思い出して欲しい。
なんでもないと思っていたコでも、ひとたび意識してしまうとどうなってしまうか?
今現在シンジはその思春期全開の状態なのである。
(であ?せ、先生?)
しかも本日のシンジの守護霊は絶好調らしく――――
「………どうしたの、城島君?なんだか集中してないみたいだけど」
「いえ、その、なんでもありまっせん!」
(せせせ、先生、ブラのその、紐が………)
やや肩口の広いブラウスを着ていたためか、
加藤の右の肩からは薄い青のブラストラップがのぞいていた。
無論それはいわゆる見せ下着ではなく、たまたまのはずみで見えてしまったものだった。
(お……おお、こ、コレは………)
スカ、アナル、SMと数々のアブノーマルなAVを堪能してきたシンジだが、
現実世界ではいまだ一軍での実戦登板のない新品童貞君である。
たかだか下着の一部が見えるというだけのシチュエーションながら、
目の前の風景は予想以上に刺激的なものらしく―――
(当然……このブラ紐の先には……加藤先生の、その……)
実は男子生徒の間で「隠れナイスバディ」という、
もうひとつの呼称もあるほどスタイルの良さに定評のある加藤。
シンジは一本のブラストラップから想像力をフル動員し、あらぬ妄想を逞しくするのであった。
(白くて……おっきくて……柔らかい、加藤先生のおっぱい……)
「……城島君?」
「ああああ、はいッ!!!」
さすがにシンジの様子を不審に思った加藤が声をかけると、
妄想爆発状態のシンジがようやく我に返って返事をした。
「どうしたの?なんだかまた顔も赤くなっちゃって……」
「すいません……どうも、風邪気味みたいで……き、今日はこのくらいでいいですか?」
「?ええ、城島君がいいなら……いいけど?」
§


そんなこんなでシンジが慌てて進路指導室を後にしたその日の深夜――
(あ……ああ、先生……加藤先生……うッ)
"ぴゅッ……びゅッ"
当然のように自室で自家発電に勤しむシンジの姿があった。
(……はぁ……虚しい……しかし、止められん………)
それが終わった後男ならば誰しもが抱く虚無感を思いながら、
シンジは自分のモノを握りしめていた。
(だけど……一番の問題は……)
次回の個人指導の時間だ、とシンジは思った。
シンジ自身が思いっきり加藤を女性として意識してしまった以上、
今日のように挙動不審の行動をまたとってしまう可能性は高い、
と言うかぶっちゃけこうしてヌいている時点で既にアウトである。
(かといって、ここまで熱心に教えてくれてた加藤先生に、
いきなりもう止めますなんて言うのもヘンだろうし……。
う〜〜ん、気は進まないけどやっぱりあの手しかないか………)
悩んでいたシンジだが、とある結論に達してその日はようやく眠りにつくのであった――

「じゃあ、今日もよろしくお願いします、先生」
「あ……ああ、そうね、じゃあ……」
いつもの放課後職員室を訪れ、加藤に指導を乞うシンジ。
先日の煩悩まみれの彼とは思えぬほど、晴れやかな表情である。
「………体調は、大丈夫?」
「はい!いや〜〜〜、あのあと風邪薬を飲んだらイチコロでしたよ、あははは」
「………そう」
爽やかに笑いながら、シンジは前もってしておいた<対策>の効果に満足していた。
(ふ〜〜〜、しかしさっきしてる最中はマジでビクビクもんだったが、こんなに効くとはな。
カズヤと同じく俺も変態になっちまったかと、さっきは自己嫌悪だったけど……)
勘の良い読者諸氏ならお気づきだろう。シンジは先ほど職員用トイレでヌいてきていたのである。
(放課後だし、男の先生ってほとんど部活動に行くから、
放課後の職員室トイレって盲点なんだよな……いや〜〜〜、我ながら妙案妙案)
……というか、君、凄いよ。もしかしたらカズヤを抜いたかも……色んな意味で。
「じゃあ……今日は、ここから……」
「はい、先生!」
元気いっぱいに答えるシンジだが……やがて、加藤の様子がおかしいことに気付いた。
「先生?ここなんですけど……」
「………!あ、ごめんなさい、城島君……な、なに?」
「?いえ、いいんですけど……ここの文節なんですけど、長すぎませんか?
いったん切って、後で受けた方が……」
「ええ……そうね……」
(………?加藤先生、なんだか……)
穏やかながら鋭い指摘をする加藤とは思えないほど、ボーーーっとしていた。
シンジの質問にも、どこか上の空だ。
「あの……先生?」
「……あ……なに?城島君?」
「今日……もしかして体調、悪いんですか?なら無理して俺に付き合ってくれなくても……」
「!ううん……なんでもないの、なんでも……ないのよ、城島君」
言葉ではそう言うものの、明らかに様子がおかしい。シンジは心の中で首をひねった。
(……!まさか、この前、先生でエッチなこと考えてたのがバレたのか?
それとも……さっきヌいてきたのが………?ま、マジでそれはヤバいんだが……)
想像は悪い方へ悪い方へと転がっていく。
「……ゴメンね、確かに調子良くないのかも。
悪いんだけど、今日はこれくらいで終わりにしていいかしら?」
「!あ、そうですね。た、体調悪いときは、早めに帰って休んだ方が良いですよ。
先生、お子さんがいるから普段から大変かもしれないですけど、
今日ぐらいは旦那さんに任せてゆっくり休んだ方が……」
§


「!そ、そうね、じょ、城島君!」
「?」
シンジの気休めの言葉に、なぜか過剰反応して声を裏返らせる加藤。
不思議そうに自分を眺めるシンジに気付いたのだろう、彼女は顔を赤くした。
「……じゃ、じゃあ……今日は帰るわ、城島君」
「?はい。ありがとうございました、先生」
ぎこちなくシンジに微笑むと、加藤は部屋を後にした。
(………?バレてるとか、そんな感じじゃなかったけど……?)
頭の中に疑問符を浮かべながら、シンジも進路指導室を後にした。
教室に戻ると、既に7時近くで誰も残っていなかった。
(今日はあんまり勉強出来なかった感じだけど、それでももうこんな時間か……)
部活で残っている人間以外は、さすがに帰宅の時間である。
シンジも鞄の中に教科書やノートをつっこんで帰路につく。
(しかし……今日の加藤先生、何だったんだろう?)
そんなことを考えながら校門を過ぎてしばらく歩いていたとき―――
"プップ―――ッ!!"
「え?」
後ろから、車のクラクションが聞こえて驚くシンジ。
見れば、運転席の窓からは加藤が顔を突き出していた。
「………乗って、城島君」
「?え?で、でも……」
「………いいから、乗るのよ」
先ほどまでの思案顔と打って変わって、加藤はひどく冷たい表情をしていた。
「は……はい」
命令口調に逆らえず、大人しく助手席のドアを開けて乗り込むシンジ。
"ブロロロロ………"
低いエンジン音を残して、加藤が車を走らせる。
ギアノブを握ると、凄まじい勢いでギアチェンジして爆走する。
シートベルトを締めながら、シンジは緊張しながら彼女の横顔を盗み見た。
―――無表情だった。普段の優しげな、母性的な笑顔からは想像もつかないほどに。
(?俺、なんか先生を怒らすようなこと言ったかな?それとも……やっぱ、ヌいたのがバレたのか?)
そんなシンジの心中などおかまいなしに加藤はフルスピードに近い状態を維持して爆走中である。
「あ………あの、先生?」
「………」
「お、俺の家、向こうの方なんですが……」
無言の壁に勇気を振り絞って聞くシンジだったが……
「…………悪いけど、今日はちょっと付き合ってもらうから」
冷たくそう言い放つと、加藤は再び無言の壁を作る。その空気に、シンジは黙り込むしかなかった。
「…………」
「…………」
どれくらいの時間が過ぎただろう―――
永遠ともシンジに思えた時間がやっと過ぎ、加藤はあるマンションの前に車を止めた。
「…………あの、先生?」
"カチッ……ブィ〜〜〜〜"
カード型キーを操作すると、駐車場の扉を上げて車を中へと滑り込ませる加藤。
いまだ、無言のままだ。
「あの……ここって」
「…………私の、家」
「………はぁ」
"バタンッ"
それだけシンジに答えると、加藤が荒っぽくドアを開けて車から降りる。
シンジは慌てて彼女に続くしかなかった。
早足で加藤がエレベーターまで歩き、それに乗り込むと9階のボタンを押した。
「………9階、なんですね」
「見ての通りよ」
§


冷たく言い放つと、加藤がさっさと鍵を突っ込んでドアを開ける。
“ガチャ”
そのまま玄関にヒールを乱暴に脱ぎ捨てると、スタスタと廊下を急いでいった。
「あの……先生?」
まだ躊躇しているシンジだが、加藤は振り返ると睨みつけるように彼を見て、言った。
「入って」
「でも………」
「いいから」
迷ったものの、仕方なくシンジは加藤の言葉に従った。
“ガチャ………パチッ”
加藤がドアを開けて灯りをつけると、そこは広々としたダイニングだった。
だが、そこには―――まるで、人のいる気配が、なかった。
(……………?)
いや、それだけではない。家具が存在するものの、
引き出しは半分程度開けられたままだし、食器棚もところどころ中身が抜けていた。
「先生?あの………ご家族は………」
恐る恐る尋ねるシンジだが、加藤は彼の言葉を完全に無視してキッチンに向かい、
冷蔵庫を開けると中から缶ビールを取り出した。
“プシュッ”
無言で勢いよくそれを開けると、加藤はビールを豪快に飲みほし始めた。
“ごくッ、ごくッ”
(…………先生?)
呆然と加藤の姿を見つめるしかないシンジ。
真っ白ですらりとした、陶芸品のような彼女の喉がビールを飲むたび、小さく動いていた。
それは、ひどく非現実的で――奇妙に、エロティックな風景だった。
「………………」
今更気付いたように加藤がシンジに視線を向けると……
“スッ”
無言のままもう一本、缶ビールを冷蔵庫から取り出して彼に向けた。
「あの………俺、一応未成年なんすけど………」
「いいのよ。どうせ、飲んだことあるんでしょう?」
冷笑気味に、加藤が言った。普段の彼女に似合わない口調だが、
シンジにはなぜかそれがひどく……痛々しく、見えていた。
「あの………先生?なにか、あったんですか?」
「………城島君が飲んだら、教えてあげる」
子供のようなワガママを言う加藤に少々呆れながら―――
“ぷしゅ……ごくッ”
意を決してシンジもビールを飲んだ。良く冷えてはいたが、
それはビールの味をひきたてるのではなく、むしろ飲む人間の体温を奪うだけの………
この部屋の寒々とした感じを、ただ強調するかのような、虚しい冷たさだった。
「…………飲みましたから、教えて下さい」
「………出てったのよ」
「…………?」
「子供を連れて、アイツ、出て行ったのよ」
「もしかして………」
「ダンナのこと」
「……………はあ」
ぐびぐび、とビールを飲みながら加藤が話すことには――ここ最近、夫の帰りが遅くなっていた。
遅いだけならば良いのだが、どうもそれだけではない雰囲気のうえ、
携帯に頻繁にメールが来ていた。疑った彼女がこっそりメールBOXを上から順に覗いてみると……
「琴絵でちゅ&hearts昨日はたのしかったでちゅ&heartsまたいっぱいエッチしまちょ&hearts」
………それはそれは、アホな内容のメールが見つかったという。
激怒した加藤が、夫を問いつめたのだが―――
「バレた?あははは、ま、そういうコト」
あっけらかんとした夫の反応に、逆に彼女は面食らった。
§


「なあ、いいだろ?どうせお前、大して俺のこと好きじゃないんだし」
「……なにを、言ってるのよ!!」
「今お前が怒ってるのもさ、浮気されて自分のプライドが傷ついたからだろ?
俺のことなんて、本当はどうでもいいんだろ?」
「開き直って、誤魔化す気?そうはいかな………」
「なあ……俺がさ、お前のこと、どんだけ我慢してきたか、お前、知らねーだろ?」
「!………」
「女が仕事することに理解があって、家事にも協力的で、ルックスも学歴もまあまで、
なおかつそこそこエリートで……お前が俺を選んだ理由、その程度だったんだろ?」
「そ、そんなコト………」
「あるんだよ。結局さ、お前って一度も俺の前で本音を言ったこと、ねーじゃん。
俺はさ……夫婦なんだから、弱音を吐いたり、助け合ったりしたかったんだよ。
でも、お前ってそういうこと、一切言わなかっただろ?」
「…………それは………だって……」
「そんでさ、俺がお前に愚痴とか言おうとすると、露骨に嫌そうな顔してたろ?
なあ………夫婦なんだし、愚痴ぐらい、言いたくなること、あるだろ?
馬鹿な上司や同僚や、顧客の悪口を、ずっと会社でいる間我慢して……
やっと家に帰って、嫁さんに愚痴を言いたいのに言えないときの気持ちって、お前、分るか?」
「……………」
「ま、お前はそういうの平気な強い女なんだろ〜けどな。俺はさ、悪いけど、もう無理なんだわ。
俺に大して感心のない女とこれ以上一緒にいるのが」
「………それは、違うわ。私は………あなたのことを……」
「ならさ、試しに言ってみてくれよ?俺の誕生日って、お前、いつだか覚えてるか?」
「…………」
「な?お前は別に俺じゃなくても良かったんだよ。……俺はお前のこと結構好きだったんだけどな。
ははは、未練がましいか。ま、いいや。てなわけで、終わりにしようぜ。もうお互い限界だろ?」
「ち、ちょっと待ってよ!たかが一回の浮気で………」
「断言するけど、お前はこの先さ、浮気した俺のことを許せねーと思うぜ?お前は、そういう女だよ」
「だけど……子供のことだって……」
「あ、それは任せて。慰謝料はキチンと払うし、親権で揉めることは無いようにしとくから」
「………で、でも………」
「そんなわけで、俺、もう寝るわ。お互い明日も仕事なんだし、
細かいところは後で決めるってことでOKな?」
快活に……まるでセールストークのように話を進める夫に、完全に煙に巻かれる加藤。
夫はひとり書斎に向かうと、そのまま出てこなかった。
(………悪い、夢でも見てるみたい………)
加藤が寝室で眠れない夜を過ごしたあと―――
「おはよう、あのさ、荷造りとかは今週末でいい?」
次の日の朝、夫は何事もなかったかのように……しかし、
昨日のやりとりが紛れもなく事実であったことを、やはり快活に話しかけてきた。
「………ねえ、あなた……やっぱり、もっと私たち、話し合った方が……」
「話したじゃん。昨日、あんだけ」
「……でも………」
「想像してみろよ」
「………なにを?」
「これから先のことだよ。お前はさ、これから先、俺とセックスしたり、子供育てたり、
もうひとり子供つくったり………一緒に生活していくの、想像できる?」
「…………」
「な?俺もできねーもん。実際のとこ、お互い限界だったんだって。
俺の浮気って、本当はただのきっかけだったんだよ。はは、でもこれは言い訳くせーけど。
ま、お前にわざと見つかるように浮気したってとこもあるんだけどな、あははははは……」
そして―――魂が抜けたような状態で、加藤が出勤したのが昨日のことだった。
授業も上の空で帰宅すると………そこは、ほとんどもぬけの殻だった。
夫の衣服、本、CD、パソコン………全てが、持ち去られていた。
念入りなことに、彼の気に入っていた食器までもが、消えていた。
§


「……………」
なぜか、加藤もそれを予想していた。ダイニングのテーブルには、置き手紙が残されていた。
「慰謝料として、このマンションを贈与します。今でも売れば一千万程度にはなると思います。
子供は俺が育てます。幼稚園から迎えにいったので、あとは任せて下さい。
親権について争うことになると面倒くさいですが、こちらとしても譲る気はありません。
なお、慰謝料に不足があるときは計算書等を添付のうえ、実家まで送って下さい。
可能な範囲で答えたいと思います。では」
事務的で、サバサバとした内容だった。しばし、加藤は呆然として………
「は……あはははっはははははははははは」
涙をこぼしながら、爆笑するしか、なかった。

「それが、昨日のことよ」
ぐびぐび、と二本目のビールを飲みほしながら、加藤が続ける。
「………先生……でも、それって………」
「ねえ、城島君?」
「………はい」
「……………」
シンジに呼びかけたまま、しばし加藤が口を閉ざした。
迷いながら……言葉にならない言葉を探すような……そんな、表情で。
「……私、両親とも教師の家庭で育ったのよね」
「…………そうなんですか?」
「で、私長女だったんだけど。自慢じゃないけど小さい頃から勉強も運動もそこそこ出来て、
高校も地元の進学校で。だから、親も私が教師になるもんだって期待……ううん、
あれは今思えば押しつけって言うか、勝手な決めつけだよね。とにかく、そんな環境で。
私も勉強はそんなに嫌いじゃなかったし、教師っていう職業に憧れもあって、
地元の国立の教育学部に進学して……それで大学のサークルでアイツと出会って。
付き合ってた頃はね、私の教職志望を理解して、応援してくれて。
私も……すごく頼りにしてたし………こんなことになって言うのは口惜しいけど、好きだったし。
でね、私は希望通り教師になって、アイツも働き初めて……子供も生まれて。
確かに大変だったけど、自分は幸せなんだって……そう思ってた。……思ってたのに………」
それまで―――抑えていた感情を、暴発させるように、一気に加藤が、話していた。
双眸からは涙が溢れ、酔いだけではなく………顔が、赤かった。
「ねえ、酷いと思わない?ずっと私のこと我慢できないって……そう思ってたんなら、
言ってくれればいいじゃない。私だって……アイツの変な癖とか、我慢していたこと、
いっぱいあったのよ?でも私は、言わなかったのに。もしアイツが言ってくれていれば……
私は、直したのに……ううん、今までずっと……直して、きたのに」
(先生……)
痛々しかった。加藤は……シンジに、感情をぶつけながら、自分自身を傷つけていた。
それは――彼女にとって、気持ちを整理する上で必要なものなのかもしれないが、
剃刀で頸動脈を自ら切るような、自傷的な行為だった。
「……教えてよ。私のなにが……そんなに、気に入らなかったのか。
味噌汁の味が口に合わないって言われれば、他の先生に聞いて出汁の取り方を変えたのに。
服の好みも、アイツに合わせたのに。クルマだって、女に似合うのは赤いプジョーだって言うから、
そうしたのに。ねえ………教えてよッ!!!!!」
そう言って髪を掻きむしると、加藤はその場で泣き崩れた。
シンジは………ただ、彼女を見つめていた。八つ当たりなのは分っていた。
しかし、なぜか――醒めている、というのとは違い、不思議なほど――冷静だった。
「…………うッ、ううッ………ううッ……」
「………先生」
嗚咽を漏らし、泣き続ける加藤の後ろに回ると、シンジは壊れ物に触れるように――
ぎこちなく、彼女の背中を抱いた。ひどく、冷たくて……小さく、柔らかな背中だった。
「俺………今まで女の子とつきあったこと、ないし。全然、分らないですけど……
先生は、頑張っていたと思います。それを……非難する資格なんて、誰にもないと思います。
それはたとえ……先生の、旦那さんでも」
「……………」
§


「俺は……変な言い方かもしれないですけど、先生を、尊敬してたんです。
家庭と仕事を両立させて。でも……えっと、全然すごく……その……キレイな女性っていうか。
それにいつも優しくて、落ち着いてて、真面目で……魅力的な、大人の女の人って感じで。
多分、学校でも先生みたいになりたいって思ってる女子や、
先生みたいな女の人と結婚したいって思ってる奴はいっぱいいて……だから………」
「………止めてよ、城島君」
涙で顔を濡らしながら……ようやく、加藤が顔をシンジに向けた。
ファンデーションは涙に溶け、先ほど自ら崩した髪はクシャクシャだった。
(…………先生………)
それでも、シンジは目の前の女性を美しいと思った。
普段の母性的でありながら毅然とした加藤とは全く違う表情だったが―――
ダダをこねる、少女のような彼女の表情を、愛しいと思った。
「私はね……最低の女なのよ。今日君のことを誘ったのも……昔の、アイツに……似ていたから。
普段、学校の子たちに偉そうなことを言っておいて……教え子である君にお酒を飲ませて、
自分の責任で壊れた家庭の愚痴をこぼす、そんな女なの。………あはは、ねえ、城島君?
私ね、昔……これでも、結構モテたのよ?さっきも言ったけど成績も良かったから、
学級委員とかに推薦されたこともあったし。でもね、それは全部……上辺だけなのよ。
本当の私は、そういう自分を内心鼻にかけてる……最低な女なのよ。だからアイツも……」
「違いますよ、先生」
「………」
「俺は、知ってます。俺たち生徒のために、頑張ってる先生を。
俺の相談に乗ってくれて……担任でもないのに、小論文の指導をしてくれた先生を。
旦那さんや、子供さんのために毎日頑張ってる先生を。
だから………自分で自分を、もう傷つけないで下さい。俺……俺……」
シンジは両腕に、力をこめた。強く強く、加藤を、抱きしめた。
その程度のことしかできない自分が……もどかしかった。
「…………」
「…………」
それからしばらく―――ふたりは無言のまま、抱き合っていた。
加藤はまだ小さく嗚咽を漏らし、シンジは彼女を、抱きしめ続けた。

(……いつ以来かしら?こんな風に、男の人に抱きしめられるのは………)
仕事と育児と家事で忙殺される中、夫とのすれ違いが増えてきていたのは彼女も感じていた。
しかし元々が生真面目な性格のせいか――それとも夫の言うとおり、プライドの高さのせいか――
夫に相談したり、甘えたり、夫婦の会話をすることを、無意識のうちに避けていた。
自然と会話も事務的なものが多くなり、“家族”としての帰属感はあっても、
パートナーとしての感情はいつしか薄らいでいった。
(最初は……好きで、好きあって……一緒になったのに、私……どこで、間違ったんだろう)
久しぶりに抱かれる、男の腕の力強さに心地よさを感じながら………
それが教え子のシンジのものであるということに、加藤は甘い罪悪感を抱いていた。

(先生………)
ようやく加藤が落ち着いてきたのを、シンジも感じていた。
荒かった息遣いも徐々にだが、小さくなってきていた。
(どうしてだろ……俺……このまま……ずっと……)
腕に吹きかけられる、生暖かい加藤の息の感触。全身から伝わってくる、彼女の体温。
そして先日の進路指導室で彼を悩ませた、香水の匂い。
全てが、愛おしかった。自分より十歳以上も年上の女性であり、
しかも教師であるということは頭で理解していたが………愛おしくて、胸が、苦しかった。

ふたりには、永遠とも思える時が過ぎた後―――ようやく、加藤が口を開いた。
「城島君ゴ、メンね。私、こんな風に感情を…他人にぶつけることが、ずっとできなかった。
『キョウコはお姉さんなんだから』とか、『加藤さんは委員だから』って言われ続けて……
いつの間にか、自分の感情を殺して、それが当たり前になっちゃってた。
人に弱いところを見せないのが正しいんだって……それが、夫でも……そう、思ってた。
でも………どうしてかしらね?君の前だと……こんな風になれるのは」
§


「………俺なんかで良かったら、いくらでも、その……」
「ふふ、でも怒られちゃうかな?今岡さんや、城島君のファンの子達に」
「な!なんで、い、今岡が……」
「結構有名よ?城島君がモテるって」
「………さっきも言いましたけど、俺、女の子と付き合ったことないんスけど」
「ふぅ〜〜ん、勿体ないわね。こんな、いい男なのに……」
ちょっと悪戯っぽく微笑むと……加藤は、優しくシンジの頬に手をのせた。
彼女の表情と手のひらの冷たい感触に、シンジの心臓は跳ね上がった。
「………先生……お、俺……あああ、あの……」
動揺しまくり、噛みまくるシンジ。
(………可愛い……城島君)
加藤の心にはまだ少し戸惑いが残っていたが……シンジへの愛情が、芽生え始めていた。
それはいつも夫に感じていた、どこか緊張した愛情ではなく――
愛玩動物を可愛がるような、幼いが純粋な感情だった。
「…………ねえ、キス………しちゃおっか?」
「!」
加藤のキャラクターからは想像もつかない、大胆な発言が飛び出した。
しかし彼女の表情はあくまで自然なもので、妙に楽しげだった。
「今日愚痴を聞いてくれて、励ましてくれた、お礼。それともこんなオバサンとじゃ……嫌?」
「い、いえ!あの、初めてなんですけど、よ、よろしくお願いします!」
「………声、大きい」
クスッ、と小さく加藤が笑いながらそう呟くと、シンジの鼻の頭にちょこん、と指先をのせる。
「………すいません」
大きな体を小さくしているシンジを楽しそうに見つめると、加藤は両腕を彼の背中に絡めた。
“ちゅ”
そしてそのまま―――一気に、唇を重ねた。
(……………んッ)
柔らかな肉と肉が触れ合う感触。より濃密に漂う、香水の匂い。
同時に加藤がシンジの背中に手を添わせ、指を優しく這わせる。
その指がしなやかに動くたび……シンジの脚から下が、痺れるような感覚で満たされる。
(う……うわ……すげえ……だけど、どうやって息すればいいの?)
ルーキーシンジは思わず息苦しくなって、小さく口を開いた。
“くちゅ……”
そのタイミングを狙い澄ましたかのように、加藤の舌がシンジの口内に侵入してきた。
(!?!???せ、先生?)
驚くシンジだが、加藤は顔を赤くしたまま、彼の口内を夢中になって吸う。
シンジの口の中で、微かに彼の体温より低めの加藤の舌が、うねるように動いていた。
“ぴちゃ……ぷちゅ、クチュ”
加藤の舌が動くたび、シンジの口内にふたりの唾液が溢れ、混ざってゆく。
その唾液を潤滑油にするようにして、彼女の舌がさらに滑らかに……縦横無尽に、動く。
“れるッ……くちゅッ、れろ、れるッ”
「はぁ……ふッ………んふッ」
加藤は全体重をシンジに預けるようにして、貪るようなディープキスを続けていた。
女性としてはやや大柄な彼女の責め立てるようなキスに、
シンジはたまらず背中に回していた腕をほどくと、後ろに回して床に手をついた。
「んふッ……はッ………」
加藤も絡めていた両手をほどき、いったん唇を離すと……。
「城島……君……」
潤んだ瞳でシンジを見つめ、彼の頬に両手を添えて再び唇を重ねた。
“ちゅむッ………ちゅ、ちゅる”
そして再び貪欲に……シンジの唇を、貪る。
(先生………先生が……こんな……)
普段は貞淑そのものである加藤の、大胆なキスに昂奮したシンジは……
“くちゅッ……ちゅッ”
彼女に応えようと、舌の動きを真似て自らも舌先を尖らせ、絡め始めた。
§


くちゅくちゅ、と湿った音をたてながら互いの唾液をかき混ぜるふたり。
舌の感覚が麻痺するほどに、吸い合い、絡め合い、つつき合う。
シンジの唾液と加藤の唾液が、完全にどろどろに混ざり、溶け合う。
“……ちゅッ”
快楽に溺れきった後……ようやくふたりの唇が、ゆっくりと離れた。
「…………」
「…………」
またも無言でふたりは、見つめ合った。
しかし先ほどの沈黙とは違い、そこには親密で、柔らかな体温が感じられた。
「………城島君、ゴメンね……」
「………謝る必要なんて……」
「違うの……私、スイッチ入っちゃった」
「へ?!!!わ、わッ、先生?」
突然加藤がシンジを押し倒した。
「しようよ……城島君」
「!!!!!!!そ、それは……さすがに、マズイんじゃ……」
「ここまでやっちゃった時点で、もう十分マズイと思うけど」
「………そうですけど……て言うか先生、十分冷静じゃないですか……」
「城島君……私、君が好き。十一歳も年上で、子持ちのオバサンだけど……でも、好き」
そう言った後、加藤はすりすり、と頬をシンジの頬に寄せた。
「で……でも……」
「城島君は……私のこと、嫌い?」
「嫌いなんて………先生は、俺の……憧れの……」
「いいよ……今日は、最後まで……」
「あの……でも、こんなことして、先生が傷つくのは……」
「ね、城島君?先週の放課後の指導のとき、私のこと見ながらエッチなこと考えてたでしょう?」
「@&5|¥!!!あああ、の、あの、それはッ!」
「ふふ、やっぱり?ね、男の子がそういう風になるのとおんなじように……女もね、
たまらなくなるときって……あるのよ。だから……」
「!!ちょ、せ、先生!?!」
加藤の手がシンジの股間に伸びてきて、もぞもぞとそこをさすった。
「城島君……今、付き合っている子、いないのよね?」
「そ、そうです。け、けど……でも、その……」
「いいでしょ……今はお互い独り身なんだし。今岡さんでも……矢野さんでも……。
君の好きな子の、代りでいいから」
“はむ………”
シンジの耳元に唇を寄せてそう囁くと、そのまま加藤が耳たぶを甘く噛んだ。
「あぁ……はッ」
「気持ち良く……してあげるから。ね?お願い……じっとしてて……」
するり、と加藤がシンジの制服のズボンを脱がすと、
トランクスの中に手をつっこみ、やわやわとその中身を揉みしだく。
「あ……先生……そんな……」
「おっきくなってるね……城島君……」
「だ、だって……」
「私……結婚してたけど……あんまり口でしたことなくて……慣れてないから、
ヘタかもしれないけど……一生懸命するから……」
“ちゅ”
「あ………」
きゅっ、きゅっ、と絞るようにシンジのペニスを擦りながら、加藤の唇が根元に触れた。
柔らかい唇の感触に、シンジの思考が一瞬、止まる。
“くりゅ〜〜〜、ちゅッ〜〜〜”
「は……ひぃッ、はは……」
少し下降して、陰嚢の皺に沿うように舌を這わせる加藤。
くすぐったさに、シンジは思わず笑ってしまっていた。
「城島君……ここ、ダメ?」
§


「い、いや……あの……その」
「じゃ……ここは?」
“ねろ〜〜〜〜〜”
竿を舐め上げるように、加藤が舌と唇を沿わせる。
シンジの視点からはハーモニカを吹く少女のように見えるが、
「はぁッ!!は………う゛ぁあッ!」
勿論されている本人には、そんな冷静な観察をする余裕などあるはずもなく。
ただただ、快楽の渦に巻き込まれていくのであった。
「はぁ……すごく………男の子の匂いがするのね、城島君……」
「あ……その……今日、体育とかあったし……すいません、汗臭いかも……」
さすがに職員用トイレでヌいてきたとは言えないシンジ。
「うふ……でも、私もエッチな気分に……なっちゃうかも……」
学校では決して見せるはずもない――生身の女としての淫らな笑みを浮かべながら、
加藤が上目遣いでシンジを見た。
「せ、先生………」
(う……うお……こ、これが……ギャップ萌えという奴ですか、ジーザス?)
アホな感想を抱きながら、シンジも更にペニスを隆起させる。
「ふ……ぴくぴくしてるよ?城島君の……じゃあ……」
“くぷッ……”
「うは……せ、先生………」
加藤が、シンジの亀頭をくわえ込んだ。
「あむッ……ふッ……」
ちゅぷちゅぷ、と加藤がシンジのペニスの先を舌で転がす。
愛おしそうに、首を前後に動かしては口襞で擦る。
(先生……あの、加藤先生が……俺のを……)
眼下に広がる、信じがたい光景にシンジの昂奮はさらに高まる。
(城島君の……おっきくて……生臭い。アイツのより……ずっと。
ああ……男の人の……匂い……)
今は過去のものと消えた、幸福な夫婦生活の舞台であったリビングで――
生徒であるシンジのペニスを愛しているという背徳感と、
久しぶりの性行為に、加藤は溺れ始めていた。
「んぷッ……は……ん……ねえ……城島君……」
「な、なんですか?」
「んふ……」
ぞくり、とするような淫奔な笑みを浮かべると……加藤がブラウスのボタンを外した。
「!“#&O!」
豊かな谷間を包む、ディープパープルのブラがシンジの目に映る。
“パチッ………”
加藤の下着姿に見惚れるシンジだが、あっという間に彼女はブラを外してしまっていた。
「!t&‘$“’E=!A」
シンジが散々夢想した、加藤の胸が……眼前に、現れた。
それは、予想どおり真っ白で……予想以上の、ボリュームだった。
重そうな……ぷるり、とした張りと弾力を感じさせる乳房。
やや大きめの乳曇には、薄茶色でぷっくりとした乳首がのっていた。
「は……胸で……して、あげる……から。城島君……んッ」
“むにゅう……”
「は……わ……」
ペニスが加藤の柔らかな乳房にくるまれる感触に、シンジは溜息を漏らした。
「ふッ…………」
シンジに応えるように、加藤が小さく溜息をつくと……
“とろ…………”
乳房の中に埋もれ、ほんの頭だけ覗かせているペニスのてっぺんに……唾液を、垂らした。
「!!っひ、ひッ!は、ひぃ……先生……」
思わず悶えるシンジだが、加藤は両手に力をこめてさらに強く……乳房で、彼のペニスを挟んだ。
“きゅうううッ”
§


(!あ……は、う、あッ……や、柔らかくて……あったかい……すげえ、気持いい……)
ふかふかと温かく柔らかな加藤の乳房に、絞られるように強く挟まれるシンジのペニス。
“むぎゅッ……むにゅ……”
加藤は乳房に手を添えてペニスをしごき続ける。シンジの先走り液と彼女の唾液が混ざり、
その先端は透明な液体でとろとろになっていた。
「はッ……れろ……ちゅッ、ちゅぱ……」
そして加藤は舌先でちゅるちゅる、とペニスの先端を舐め、吸い、くすぐる。
「う゛ぁッ!あッ!先生、俺、もう……んッ!で、出ちゃいま!」
“びゅぶッ!!びゅぴゅッ!!”
「きゃッ!」
引き抜くこともできず、シンジは加藤の乳房に包まれたまま、思いっきり射精した。
突然の暴発に驚いた加藤が思わず小さく叫び声をあげるが、
勢いよく放出されたそれは彼女の胸に、顎に、髪に、耳に……たっぷりと、かかってしまっていた。
“ぷ……ぶぴゅ……”
一回……二回……三回。少しずつ勢いを衰えさせながら、シンジのペニスが精を吐き出す。
ピクピクと小さく痙攣させて……射精は、やっと終わろうとしていた。
「せ……先生……すいません……お、俺……」
「は―――ッ、ん……たくさん出たね、城島君……」
「すいません……俺、気持ち良すぎて……気持ち良くて……止めらんなくて」
(かかってる……私の、顔に……おっぱいに……城島君の……精液)
べったりと乳房にはりついた、白い精。常日頃の加藤ならば、
それは汚らわしいもの以外のなにものでもなかったはずだが………
(あ……男の人の……精液の匂い……すっごくぬるぬるで……エッチな気分……)
既にシンジとの行為に浸りきっていた彼女には、更なる刺激にしかならなかった。
ようやくペニスを胸から解放して半身を起こすと、乳房にかかった精液を……
にちゅにちゅ、と谷間に擦りつけた後、愛おしそうに指ですくって口に含んだ。
「!せ、先生!?そ、そんな……」
「あふ……苦い……でも……美味し……城島君の……」
(やべ……先生……死ぬほどいろっぺえ……)
顔立ちだけは、間違いなく普段の清楚な加藤のものだった。だが、表情はまるで別人だった。
男の精気を吸って生きる娼婦のような、淫蕩な笑みを浮かべながら――
嬉しそうに……楽しそうに……シンジの精を、舌先で転がして味わっていた。
(これって……現実なのか?夢じゃ、ないのか?)
あまりに変貌した加藤の姿を、シンジはただ呆然と見つめていた。
「…………?城島君?」
うっとりとした表情で精液を味わっていた加藤だが、ようやく彼のそんな姿に気付くと……
「うふ………」
とろり、と溶けたような笑みを浮かべてシンジに近づき、
“ドサッ”
体をあずけ、馬乗りの体勢になった。
「せ……先生?」
シンジの目の前には、精液がたっぷりとかかった加藤の乳房が重そうに揺れていた。
「触ってみる?私の……おっぱい」
「え?ええ゛ぇッ!?!!!」
「いいよ……好きにしても」
「は……はいッ……」
加藤の言うがまま、震える手を伸ばすシンジ。
“むにゅ………”
たぷん、と実った二つの果実を、ぎこちなく揉んだ。
「ん………ッ」
(震えてる……城島君、緊張してるのね……)
シンジがガチガチに緊張しているのは加藤も感じていた。
しかしそんなシンジの初々しさは、逆に彼女の母性本能を刺激するだけだった。
「ねえ城島君……舐めてみる?」
「!は、はい!」
§


加藤の言葉に、素直に従うシンジ。
“れろ……”
「……んッ」
シンジの舌先が、乳房を這う。冷たい感触に、忍ぶような声をあげる加藤。
(ええと……AVとかだと、あと……)
ようやく少し余裕の出てきたシンジは、青少年の教科書を思い出しながら……
“はみッ……くきゅッ……”
「ふぁッ……く……ぅうん……」
加藤の右の乳首を軽く甘噛みした後、やや強めに吸い出した。
きゅうッ、と伸びる乳首。ぷるぷる、と震える大きな乳房。
“むに……ふにゅ……”
無意識のうちに、シンジは口にしていない左の乳房を揉みしだいていた。
(……女の人の乳首って、こんなに柔らかいのか……でも初めてなのに……なんでだろう?)
うっすらと残る幼子の頃の記憶。加藤の乳首をねぶりながら、
なぜかシンジは心地よい安心感に包まれていた。
(もっと……もっと味わいたい。先生をもっと……)
“ちゅぱッ……ちゅぅぅう………”
右の乳首から口を離すと、左の乳首も同じように強く吸い出す。
「はッ……ひゃ……ん」
(城島君……赤ちゃんみたい。あの子みたいに夢中になって……私のおっぱいに……)
飢えた子のように乳房を求めるシンジ。加藤は……我が子の面影を、思い出していた。
しかしそれは――淫らな激流に流されようとしている彼女のブレーキには、なり得なかった。
(お願い……今は、今だけは……。私を……女で、いさせて……)
罪の意識を感じながら……加藤は目を閉じ、そう思った。祈るように……思った。
“じゅぱッ……ちゅうッ、こり、くりッ”
シンジは乳首ひたすら舐め、噛み、口内で転がす。
口をつけていない右の乳首をつまむと、指先でこりこりと擦り、つねる。
「あッ……あんッ……城島君……あ……強い……そんな……」
“ちゅぷ……”
ようやくシンジが乳首から口を離す。両の乳首は強く吸われ、いじられ続けたために……
大きく赤く、腫れていた。
「城島君………ごめん………私……」
馬乗りの体勢のまま、ゆっくりと加藤がスカートを脱ぐ。
濃紺のストッキングが、彼女の白く豊かな太腿と見事な陰影を為していた。
そしてブラとおそろいの、ディープパープルのショーツ。
“ごくり”
シンジは思わず唾を飲み込んだ。妹であるカナミやその友人のアキやマナカ、
同級生である今岡やケイ……男子ならば誰もが羨む美少女に囲まれる、
恵まれた環境にいるシンジだが、改めて加藤から漂う、大人の色香に見惚れていた。
しっとりとした肉付きには、少女たちからは決して感じられない、成熟したエロスが宿っていた。
夢にまで見た彼女の艶姿を目にして……ついさっき射精した直後だというのにもかかわらず、
激しく……前回よりもいっそう激しく、痛いほどに、ペニスが勃起するのを感じていた。
「……私、我慢できない。……もう……挿れちゃうから……」
そう言って加藤が人差し指と中指でシンジのペニスを挟み込むと、
“くちゅ……くぷ”
既に先ほどの射精でぬるぬるになっていたペニスの先端を、
自分の裂け目の口に塗りたくるようにしてなすりつけた。
「せ、先生……は、あッ……」
ぶるぶる、とシンジの肩が震える。加藤も腰を震わせながら、体をおとしていく。
“くちッ……ぬ……ずちゅッ”
「ふぁ………うッ、あッ……」
「は……せ、先生……ああッ」
ゆっくりと、ペニスが加藤の中に呑み込まれる。
ちゅぷる、と湿った音を立てながら徐々に徐々に……沈んでゆく。
(ああ……俺のが……俺のが……う、あ……吸い込まれる……)
§


温かく、包まれていた。そしてきゅッ、と心地よく中で締めつけられる感触。
シンジは生まれて初めての体験に……しかも、相手が憧れ続けた加藤だということに、
夢見るような思いを抱きながら、本能のおもむくまま、腰を動かし始めた。
“……ぬちゅッ”
(あ……城島君の……入ってくる……おおきい……)
自ら誘い込んだペニスを、より深く味わおうと更に腰を下ろす加藤。
少し痛いような、自分の中から引っ掻かれるような……
それでいて、甘美な感覚。電流が伝うようにそれが、加藤の背中を走る。
小刻みにからだを震わせながら、やがて加藤は……
“ぎゅ……ぐちゅッ、ずぷぅ!”
ぎこちなく突き立てる、シンジの動きにリズムを合わせるように、自ら腰を振り始めた。
「あ……すごい、城島君……あ…………あ……熱い」
「うッ……先生も……すごい……熱くて……ひっぱられるみたい……です」
「城島君……もっと……もっと、いっぱい……」
「あ……先生、あ、うん゛ぁ……」
シンジは加藤の豊かな尻肉に手を回すと、力任せに引き寄せて更に深く……深く、突き立てる。
“ずる!……ずちゃッ……ぷずぅッ!”
「あ!ああッ……いい……城島君……あ、ああン」
「先生……せッ、先生……」
“ぷじゅ……ぬぷ”
ふたりは、夢中で動きを合わせようとしていた。からだのリズムを合わせるたび、
ふたりの溢れる液が混じる。混じりながら、ぐじゅぐじゅといやらしい音が響く。
響く――聞いたこともない鐘の音が、シンジの、加藤の、頭の裏で鳴る。
「ん……あ……ああッ」
“むにゅ……”
突き立てながら、シンジはふるふると揺れる加藤の乳房を揉む。
ぐにぐにと、爪先が柔らかな肉の中にめり込む。
たっぷりと脂の乗った乳房が、シンジの手の動きに合わせて形を変える。
「あ……う、ん……当たってる……奥の方に……当たってる……城島……くん」
「……ぅあッ……先生……俺、もう……い……きそうです……で、出そう……」
「あッ……ごめんなさい……城島君……さ、最後は……そ、外で……はぁあッ!あッ!」
「は……は、はぁわッ……はい、せ、せん……せい」
“じゅるッ……”
シンジは、必死の思いでペニスを引き抜いた。ほとんど間をおかず………
“ぷびゅッ!ぷじゅッ、どくッ!”
二度目の絶頂を、迎えていた。それは、加藤の腹部に――
“びゅう……ぴゅぷ、ぷちゅ!”
たっぷりと……壁に塗りたくるように、発射されていった。
「は………ぁ、あ……」
「はぁ……ふ……」
ふたりは……荒い息を吐きながら、それをただ、見つめていた……

「ゴメンね、城島君。私、私……君のことを」
「先生……俺。でも……俺は……マジで」
「……ダメよ、城島君」
悲しげ微笑むと、加藤がシンジの鼻先を、人差し指でつついた。
「こんな女に、真剣になっちゃダメよ。君には……きっとお似合いの……
素敵な女の子が現れるんだから。あは、もう……現れてるのかな?
今岡さんかな?それとも、矢野さんかな?」
「止めて下さい………俺は……俺は……」
「今日のことは……夢なのよ。そう、きっと……一回きりの……虚しい、夢」
「………先生……」
「私は……寂しかったの。悲しかったの。誰かに、いて欲しかったの。
でもそんなの、理由にならないよね?ごめんなさい、城島君……私、
君の気持ちのこと……全然考えてなかった。最低よね……」
§


シンジは、加藤を見つめた。……微笑んでいた。悲しげで、儚げな、笑顔だった。
「そうですね……夢ですね。でも……」
「?」
「きっと……俺の見た中で、最高の夢です。……絶対に、忘れません。
俺の……憧れの、最高の女の人と、ひとつになれた………そんな、夢です。
だから……一生、忘れません。これから……ずっと」
(城島……君……)
シンジの言葉を聞きながら――加藤は、思っていた。
(男と女は……話さないとダメなんだ……言葉だけじゃなくて、カラダでも話さないと、
ダメなんだ……セックスって……そういうことだったんだ……あはは、でもみっともないな……
結婚して、子供までいるのに、今更やっとそんなことが分ったなんて。
こんな私だから、アイツは……愛想を尽かして……)
笑いながら涙が、再び溢れた。後悔の涙なのか……自嘲の涙なのか……
どうしても彼女には、それが分らなかった。
(先生……)
“ぎゅッ”
シンジは……涙を流す加藤を、無言で抱き寄せた。
(夢だって……諦めるけど……だからこのまま……今だけ……このまま……)
そう思いながら……ただ、抱きしめ続けた。

END

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