作品名 作者名 カップリング
「Get up after millions fallin' down」 クロム氏 -

私は叶ミホ。
私は今、人生最大のチャンスを迎えています。
なんと、憧れの城島先輩に、私の想いを綴った手紙を渡すことができたのです!
放課後、城島先輩の下駄箱に手紙を入れてことの成り行きを見守っていたのですが、
先輩が私の手紙をカバンにしまうところを、この目でしっかりと確認しました。
手紙を渡したくらいで何を大騒ぎしてるんだと思われるかもしれませんが、私にしてみれば大金星なのです。
なにしろ、今までの私は告白どころか先輩とろくに言葉を交わすことすらできなかったのですから。
告白を決意するたびに邪魔が入り、小宮山先生には玩具にされ、マリア先生には弄ばれ、
おまけに出番まで減らされて、それでも諦めずに頑張ってきた甲斐がありました。
神様は私を見捨てはいなかったのです。
もちろん、この後先輩がどういう反応をするかはわかりません。
上手くいけばいいのですが、当然フラれることだって有り得るでしょう。
ですが、想いを伝えられないでやきもきしているよりよっぽどマシです。
ここからが本番、勝負はこれからだと思うとファイトが湧いてきて、拳をギュッと握り締めていました。
その時でした。
「ふふ、どうやら上手くいったみたいね」
「きゃっ!?」
声に驚いて振り向くと、背後に小宮山先生が立っていました。
「せ、先生、いつからそこに!?」
「ん?ああ、城島君が手紙をカバンにしまった辺りからね」
「それって…ほとんど最初からじゃないですか……ビックリさせないで下さいよ」
「何言ってんの。アンタが一人で悦に入ってて、私に気付かなかったんでしょ」
「うっ……」
それを言われるとどうしようもないんですが。
「まあいいわ。そんなことより、どうするの?」
「え?何をですか?」
「何をじゃないでしょ!手紙渡して、その後どうするのかって聞いてるの」
「はあ…一応明日の放課後返事をもらうことになってるんですけど……」
「ふうん……じゃ、まだ時間はあるわね。叶さん、ちょっといらっしゃい」
「えっ?でも私これから友達と約束が……」
「私が今から恋愛の最終奥義を伝授してあげるって言っても?」
「さ、最終奥義!?」
「そ。これを使えばどんな男だってイチコロよ」
「イ、イチコロ……」
イチコロ…ああ、なんて甘美な響きなのでしょう!私の中の天秤は、あっさり先生の側に傾きました。
友情も大事ですが、やっぱり恋の魔力には敵いません。
「先生、お願いします!!」
「ふふ、任せなさい。叶さんの恋、私が見事成就させてみせるわ」
先生の言葉に、思わず目頭が熱くなります。
いいかげん遊ばれてることに気付けよ、とか言わないで下さい。
「そ、それで先生…その最終奥義というのは……」
場所を化学準備室に移すと、私は早速尋ねました。
「ふふ…いい?恋愛の最終奥義―それは……」
「えっ、えええっ!?」
先生の言葉に、私は思わず大きな声をあげてしまいました。
「そ、そんなことを……」
「実行するかどうかは貴女次第よ。でもね、ここで頑張れば、貴女の今までの努力も全部報われるのよ」
今までの失敗の数々が脳裏に浮かんできました。あんな思いをするのはもう嫌です。
「そ、そうですよね…先生、私…私やります!!そして今までの自分に終止符を打ちます!!」
「そう!貴女ならそう言うと信じてたわ。じゃあ早速実戦に入りましょうか」
「え…実戦って……?」
先生は私の質問には答えず、パンパンと手を叩きました。
すると奥の扉が開いて、そこから満面の笑みを浮かべたマリア先生が……
ここから家に帰るまでの記憶がありません。なんででしょう……?



今日、オレは生まれて初めてラブレターというモノをもらった。
最初はいつぞやのようなカナミの悪戯かと思ったが、どうやら違うみたいだ。
家に帰ると自室に籠り、早速手紙を開けてみた。
差出人の名前は叶ミホ。叶さんは、カナミたちと同じ一年生らしい。
なんでも入学当初からオレのことが気になっていて、今回手紙を書いたのだという。
『先輩さえよろしければ、ぜひ私とお付き合いして下さい。明日の放課後、化学準備室で待ってます』
手紙の最後にはそう綴られていた。
「まいったな……」
言葉とは裏腹に、顔はニヤけている。こんな手紙をもらってそうならない男がいるだろうか。
まして、生まれて初めてもらったラブレターである。嬉しくないわけがない。
(とは言うものの……)
一つだけ、気になる点が。
手紙を読んでわかったのは叶さんが一年生ということだけで、その他の彼女に関する情報は皆無なのだ。
いくら嬉しいからと言っても、オレはどこの誰ともわからない女性に懸想するほど愚かじゃない…はず。
いきなり付き合ってくれと言われても、はい喜んで、と即答するわけにはいかないだろう。
しかし、だからといって放っておくのも相手に失礼だし、そんな勿体ないことはできない。
「さて…どうしたもんかね……」
18年生きてきた中で一度も経験したことのない贅沢な悩みに、しばし頭を働かせる。
だがしかし。経験したことがない以上、当然答えの出し方も知らないわけで。
どれだけ頭を捻ってみたところで、良い考えなど浮かぶはずもなかった。
「これじゃダメだよなぁ…」
せめて何か、彼女に関する情報でもあればいいのだが…。
「何がダメなの?」
「おわッ!?」
突然背後から声をかけられ慌てて振り返ると、そこにカナミが立っていた。
「お、お前、何してるんだよ人の部屋で!!」
「何って、さっきから呼んでるのにお兄ちゃん全然気付いてくれないんだもん。
それより、お兄ちゃんこそさっきから何コソコソやってるの?」
「い、いや、別に…」
適当にごまかしながら手紙を隠す。こんなものこいつに見られたら後が面倒だ。
だが、その思いも虚しく手紙は見つかり、あっという間に取り上げられてしまった。
「やだ、何コレ、ひょっとしてラブレター!?」
「か、返せよ!!」
取り返そうと手を伸ばしたが、あっさり躱されてしまう。
「なになに…『拝啓、城島先輩。突然のお手紙で驚かせてごめんなさい』」
「こ、声に出すなぁぁーーッ!!」
オレの叫びを無視してカナミは続ける。
「『先輩のことがずっと気になっていました。こんな形でしか想いを伝えられないのは情けないですが、
先輩のことを想うと胸が張り裂けそうになります。先輩のことを考えると夜も眠れません』だって。
うわぁ〜、すごい。今時ベタだけど、こんなに想われてるなんて、お兄ちゃんも隅に置けないんだねぇ」
ニヤニヤ笑いながら肘でオレをつつく。オレはと言うと、気恥ずかしさのあまり力尽きていた。
こういったものを読んで聞かされるのは、一種の拷問ではないだろうか?
「で、どうするの?」
「どうするって、何がだよ」
「何がじゃないでしょ!OKするの?しないの?」
「んなこと言われても…だいたい、オレはその叶って娘をまったく知らないんだぞ。
それなのに付き合って下さいなんて言われても、なんて答えたらいいかわかんねーよ」
オレはカナミから手紙を奪い返した。
「う〜ん、叶さんかぁ…私もクラスが違うからよくは知らないんだけど…あ、そうだ!」
カナミは突然声を上げると、ちょっと待っててと言い残して部屋を出ていった。
かと思ったら、手に何枚かの写真を持って引き返してきた。
「これこの前の体育祭の写真なんだけど、確かどこかに叶さんが写ってたんだ」
「それはまた…なんとも都合のいい話だな」
「都合がいいのはいつものことでしょ。文句があるなら作者に言ってよ」
そう言って一枚ずつ写真を捲っていく。
「あっ、これこれ!ほら、この娘が叶さんだよ」
オレはカナミが示した写真を覗き込んだ。
並んでポーズをとるカナミ達の後方、写真の端に一人の少女が写り込んでいる。



(か、かわいい…!)
一目見てそう思った。キレイな長い髪、整った顔立ち、清楚な雰囲気。どれを取ってもパーフェクト。
写真の少女は、はっきり言ってオレのストライクゾーンど真ん中だった。
「結構美人でしょ?お兄ちゃんにはちょっと勿体ないかなぁ」
カナミが何か言ってるが、オレには聞こえない。
(こんなかわいい娘がオレに……)
この手紙に書かれていることが本当だとすると、これは願ってもないことだ。
こんなにかわいい娘なら、むしろオレの方からお願いしたいくらいだ。
今まで周囲の女性陣にいいように振り回されてきたオレにも、ようやくツキが回ってきたということだろう。

と、普通ならこうなるのだが。

確かにかわいいと思うし、オレのタイプであるのも嘘ではない。嘘ではないのだけれど。
何故だろう。それと同時に、物凄く嫌な予感がする。
どこがどう、と上手く言い表すことはできないが、オレの第六感が警鐘を鳴らしているのだ。
(まさか…考え過ぎだよな……)
考え過ぎだとは思う。ただ、オレの予感は結構当たる。それも、あまり好ましくないことに限って。
「どうしたの?顔色悪いよ。もしかして女の子の日?」
「い、いや、大丈夫…なんでもない」
カナミのボケに反応できない時点であまり大丈夫ではないのだが。
「そう?ならいいんだけど。ね、それよりどうするか決めた?明日返事するんでしょ?」
「写真見ただけで決められるかよ。明日会うだけ会ってみるけどさ……」
「ふうん…ま、なんにしてもしっかりね!これを逃したら二度と彼女できないかもよ」
「大きなお世話だ」
まったく、自分を棚に上げて何を言ってやがる。
「あ、それと避妊だけはしっかりね。これあげるから」
カナミはそう言ってポケットの中のものをオレに押しつけた。それが何かを言う必要はないだろう。
「……お前、いつもこんなもの持ち歩いてるのか?」
「失礼ね!そんなわけないでしょ。たまたま持ってたのよ」
「ほう…オレにはたまたまでこんなものを持ち歩く状況が想像できないんだが」
「それ今日アキちゃんにあげようと思ったんだけど、突っ返されちゃったの」
「当たり前だ。オレもいらん」
「え〜ッ!?その辺はきっちりしとかないと、後で辛い目にあうのは女の子なんだよ!?」
「だからなんでそうなるんだッ!!」
カナミのボケなのかマジなのかわからない言葉にツッコミを返す。
その後しばらくここに記すのも憚られるような応酬が続いたので、そこは省略する。
ただ、この時オレは三つの間違いを犯していた。
一つは、ツッコミに夢中になって、叶さんの外見以外の情報を聞きそびれたこと。
一つは、化学準備室と聞いた時、すぐにアレの存在を連想しなかったこと。
そしてもう一つ、オレの予感はこと女難に関しては百発百中であるのを見落としていたこと、であった。

で、次の日。時刻は放課後。オレは化学準備室の前に立っていた。
さっきから中に入ろうとはしているのだが、いよいよとなるとなかなか決心が着かない。
もうかれこれ五分、扉に手をかけたり引っ込めたりを繰り返していた。
叶さんはもう来ているのだろうか?もし来ているのならあまり待たせるのもよろしくない。
大きく深呼吸をすると、覚悟を決めて戸を開ける。
部屋の中央には、昨日写真で見た少女が、一人ポツンとたたずんでいた。
「あの……叶さん、だよね?」



「あの……叶さん、だよね?」
声をかけられても、私はしばらく反応できませんでした。
先輩が…今まで何故か近付くことすらできなかった城島先輩が、私の目の前にいるのです!!
手紙を渡すことができても、先輩が来てくれなかったらどうしよう。昨日からそのことばかり考えていました。
そのおかげで寝不足ですし、授業中もほとんど上の空。はっきり言って抜け殻状態でした。
でも…でも先輩は来てくれたのです。私なんかのために!
嬉しさで頭が一杯になり、思いっ切り舞い上がってしまいました。
「えっと…叶さん、で合ってるよね?」
二度目の呼び掛けでようやく我に返り、慌てて言葉を返します。
「は、はい、合ってます。すみません、こんな所に呼び出しちゃって……」
「いや、いいんだ……」
先輩は後ろ手に扉を閉めると、私の方へ近寄ってきました。
狭い部屋に先輩と二人っ切り…そう思うと私は…私は……
おっと、トリップしてる場合じゃありませんね。早く本題に入らなくては。
本当なら今すぐ先輩の胸に飛び込んで大声で愛を告白したいところですが、ここはあくまで冷静に……
今までの経験から、ここで焦ったら失敗するのは目に見えてます。とにかく気を鎮めて……
「あの…手紙、読んでいただけましたか…?」
多少声が上擦ってますが、なんとか自然な形で聞くことができました。
読んだからここに来てるんだろ、とかいうツッコミも、できればナシでお願いします。
「あ、うん、読ませてもらったよ。正直、ちょっと驚いてるかな……。
ああいう手紙もらったのって初めてだったから、何て言うかその……」
照れたような表情を浮かべて頬を掻く先輩。そんな先輩を見て、私の心拍数は跳ね上がりました。
ちょっとマズいかもしれません。初めて見る先輩の表情に、理性のタガが外れてしまいそうです。
正気を保っていられるうちに全てを終わらせなくては。
(落ち着け…大丈夫、きっと上手くいく……)
なんとか気持ちを落ち着かせ、先輩の方に向き直りました。
「あの、先輩…私……私、ずっと先輩のことが好きでした!!私と付き合って下さい!!」
最後の方はほとんど絶叫でした。それでも、自分の想いを直接伝えることができたのです。
いろんな感情がごちゃ雑ぜになって、涙が溢れてきます。それでも、私は先輩から目を逸らしませんでした。
そんな私に、先輩は優しく微笑みかけてくれました。
「叶さん…ちょっとオレの話を聞いてくれるかな…?」


「叶さん…ちょっとオレの話を聞いてくれるかな…?」
目の前の少女に、オレは言葉をかけた。
涙を湛え、それでもしっかりとこちらを見据える姿はあまりにも健気で、
その身体を抱き締めたい衝動に駆られるのを、オレは必死で抑えていた。
昨日、あれからオレは一つの結論を出していた。それを彼女に告げようと思う。
「叶さん…君の気持ちはとっても嬉しい。好きだなんて言われたのは生まれて初めてだしね。
でもね、オレは君のことをよく知らない。それなのに君と付き合うことはできないと思うんだ」
「それって…ダメ、ってことですか……?」
少女の顔が見る間に曇っていく。オレは彼女の陰りを払うように、ゆっくりと首を横に振った。
「違う、そうじゃない。オレは君のことをもっと知りたい。君にもオレのことをもっと知って欲しいんだ。」
オレはそこで一旦言葉を切り、彼女に一歩近付いた。
「いい加減な気持ちで付き合うとかは絶対に嫌なんだ。オレが君のことを好きになれて、
君がまだオレのことを好きでいてくれたら…その時改めて、オレの恋人になって欲しい」



これが、オレの出した答えだった。
かわいいから、とか、彼女がその気だから、とか、そんないい加減な気持ちでそういう関係になるのは、
彼女の好意を利用した小手先だけの狡いやり方のような気がするし、何よりこの健気な少女に対して失礼だ。
彼女の気持ちに応えるのなら、こちらだってそれなりの態度で臨むべきだと思う。
もちろんこれはオレの独り善がりな考えでしかないし、こんなことを言うのだって失礼なのかもしれない。
だけど、これがオレの正直な気持ちだった。仮に嫌われたとしても、それはそれで仕方無いだろう。
「ハハ…ごめんね、なんか偉そうなこと言って……って、叶さん?」
そこでオレは異変に気付いた。オレの話を聞いていた叶さんの様子がおかしい。
顔を伏せて肩を震わせ、何やらブツブツと呟いている。
(ひょっとして怒らせちまったかな?)
慌ててフォローを入れようとしたのだが。
「そ……」
「そ?」
「そうですよねっ!!!」
「おわっ!?」
叶さんがガバッと顔を上げて叫ぶ。その勢いにオレは思わずのけ反ってしまった。
「そうですよね先輩!やっぱりお互いの全てを知ることから始めるべきですよね!!」
「え、あ、う、うん……」
彼女のあまりの豹変ぶりに間抜けな返事を返す。さっきまでの健気な姿が嘘のようだ。
その瞳には力強い意思の炎が宿り、さっきまでの涙も蒸発してしまっている。
「そうか…そうなんだ…やっぱり男と女はそうでないと……」
「あ、あの、叶さん?」
「先輩に…先輩に私の全てを知ってもらわないと……」
「いや、だから……」
「私の…私の全て…隅から隅まで……」
「おーい、もしも〜し」
どうやらオレの声は届いてないようだ。完全に自分の世界にはまり込んでいる。
そして向こうの世界に行ったまま、彼女はとんでもないことを口にした。
「先輩、私を抱いて下さい!!」
「………は?」
あまりに唐突過ぎて、16ビットのオレの脳では彼女の言葉の意味をすぐには処理できなかった。
情報処理完了まで3…2…1……
「な、な、な、なにぃぃぃーーーーッ!!!???」
脳が言葉の意味を理解したのと同時に、オレは絶叫した。
抱くという動詞がこの状況下で意味するのは、恐らくアレなわけで……
「先輩…あんまり大きな声を出すのは……」
叶さんが顔をしかめる。
「えっ、あ、ごめん……って、そうじゃないだろっ!」
思わずカナミ達にするようなツッコミを入れてしまった。
「だいたい…なんでいきなりそうなるの?」
「えっと、本当は小宮山先生にも言われてたんです。男女の関係はお互いを知ることから始まるって……」
「ああ、そう…小宮山先生に……」
小宮山の名前が出た時点でろくなことではないのだろうが、その部分はオレの主張と合致している。
「うん、なるほど……で、それと今の君の発言と、どういう関係が?」
「あの、それでその……お互いを知るのに一番いい方法は…その…せっ、せっくすだって…先生が……」
言いながら叶さんの顔が真っ赤に染まる。どうやら自分の言葉で回路がショートしてしまったようだ。
かく言うオレも、彼女の発言に少なからずダメージを受けていた。
(こ、小宮山…この娘に何吹き込んだんだよ……)
軽く目眩を覚えたが、それよりまずすべきなのは、あの変態の被害者を正しい道に戻してやることだろう。
オレは脱力する身体に鞭を打ち、残った気力を振り絞って彼女に向き直った。



「あのね、叶さん。それは絶対間違ってるから。ダメだよあの人の言うこと真に受けちゃ。
それにそんなことしなくても、相手を知る方法はいくらでも…って、もう脱いでるし!?」
目の前の少女はいつの間にか下着姿になっていた。
「ちょっ、叶さん、何やってんの!?」
慌てて顔を逸らすが、彼女の白い肌が目にしっかりと焼き付いてしまった。
「先輩…私、先輩に私の全てを見て欲しいんです……」
声の穏やかさとは裏腹に、彼女が冷静さを欠いているのは明らかだった。
赤かった顔をさらに紅潮させ、ゆっくりとオレに迫ってくる。
先程のショートで行為に歯止めが効かなくなったようだ。目が正気じゃない。
(ヤバイ…ヤバイって!いくらなんでもこれはマズいだろ!早くなんとかしねーと……)
目の前の光景に慌てふためくオレを無視し、彼女はさらに近付いてくる。
「先輩…好きです……」
彼女がオレに抱き付いた。制服の上から女性特有の柔らかな感触が伝わってくる。
「ちょっ、ちょっと叶さん……」
「ミホって呼んで下さい」
「えっと、じゃあミホ…さすがにこれ以上はシャレにならないから……!」
「私はシャレのつもりでやってるんじゃありません」
「いや、だって、この状況を人に見られたら……」
「大丈夫です。小宮山先生が人払いをしてくれるって言ってましたから」
また小宮山か。アイツはこういう展開になるのも承知の上でこの娘を唆したんじゃないだろうか。
楽しそうだから、という極めて身勝手な思惑のために。
(ちくしょう、今後アイツがボケても二度とツッコまないからな!!)
頭の中で少々情けない復讐を誓うが、それで事態が改善されるわけではない。
いや、むしろマズい方向に進んでいる。
「先輩…私、先輩のことももっとよく知りたいです……」
彼女はそう言ってオレのズボンに手をかけた。
「のわっ、ちょっ、ストップストップ!!ちょっと、叶さん!」
「だからミホですって」
「じ、じゃあミホ、とりあえず一回落ち着いて…冷静になろう……」
「私は冷静です。落ち着いてます」
どこがだよ!とツッコむ余裕はオレにはなかった。
こうしている間にも彼女の手は澱みなく動き、オレのズボンを脱がしにかかる。
脱がされまいと抵抗してはいるのだが、有り得ない状況にテンパってしまい思うように動けない。
「もうっ、じっとしてて下さい!!」
「は、はいッ!!」
それどころか、迫力ある声に気圧されて思わず直立不動の姿勢をとってしまった。
その隙にファスナーとベルトを外され、ズボンを一気に膝まで下ろされる。
露わになったトランクスの下で、オレのモノは早くも固くなり始めていた。
そりゃそうだろう。下着姿の少女が目の前にいて、あまつさえその少女にしがみつかれているのだ。
シャンプーのいい香りが鼻孔をくすぐり、首筋には彼女の熱い吐息がかかる。
これで我慢しろというほうが無理だ。オレだって健全な男なのだから。



「これが…先輩の……」
ミホは息を呑むと、その細い指でトランクス越しにオレのモノに触れた。
そしてそのまま優しくゆっくりと撫で上げていく。
「う、あっ……」
初めて他人に触られたオレの分身はあっという間に形を変え、布の下で痛いくらいに張り詰めている。
最後の一枚も、やがてミホの手によって下ろされてしまった。
「うわぁ、おっきい……」
反り返ったオレのモノを、興味深そうに見つめている。はっきり言って物凄く恥ずかしい。
そしてミホは両手を根元に添えると、柔らかな唇をチュッと先端に押しつけた。
そのまま唇が開き、かわいい舌が顔を覗かせる。ミホは躊躇うことなくオレのモノに舌を這わせた。
舌はまんべんなく動き、アイスキャンディーでも舐めるようにチロチロと全体を這い回る。
オレのモノが彼女の唾液に塗れていく。込み上げる衝動に、オレはいつしか抵抗するのを忘れていた。
「先輩…気持ちいいですか?」
「あ、ああ……」
ミホはオレの答えを聞いて満足そうに微笑むと、口を大きく開けてイチモツを呑み込んでいった。
「うわっ……」
狭い口腔内で全体が熱い粘膜に覆われ、自分でするのとは比べ物にならない快感に包まれる。
彼女はそんなオレの反応を楽しむように、口に含んだものを刺激した。
オレのモノに舌を絡め、頬をすぼめて吸引する。さらに顔を前後に動かし、より深くまで咥えていく。
そして時々思い出したように口を離し、唇と舌と指での愛撫を繰り返す。
ミホの動きに合わせて、口の中に溜まった唾液が唇の端から垂れていき、卑猥な滴になって床に落ちていった。
だがミホはそんなことも意に介さず、息を荒げながらその淫らな行為を続けていく。
(な、なんでこの娘こんなに上手いんだ…?)
これまでのやり取りから見ても、彼女には男と付き合った経験がないだろう。
それなのに、彼女のテクニックは素人のオレでもわかるほど熟練されたものだった。
あとで判明したことだが、これらは全てマリア先生によって、半ば強制的に覚えさせられたものであるらしい。
つまり、ミホは小宮山・マリアの色モノ変態コンビの弟子にして被害者なのであった。
「う、ぁッ……」
そんな彼女のテクニックに童貞のオレが敵うはずもなく、オレのモノは早くも限界に近付いていた。
さすがにこのまま出すわけにはいかないと思い身体を離そうとしたが、
「ふふ、先輩…いいですよ。そのまま出して下さい……」
ミホは妖しく笑うと、再び深く、そしてより強くオレのモノを咥え込んだ。
舌が亀頭を集中的に舐め上げていき、先端で尿道口を刺激する。
「うっ、ク…で、出るッ…!」
オレはミホの口腔内に自らを解き放った。熱い液体が彼女の口に注ぎ込まれる。
ミホは眉をひそめながらも全てを受け止め、ゴクリと喉を鳴らしてそれを嚥下した。
(うわっ…の、飲まれてる……)
AVでしか見たことのなかった光景が、目の前で繰り広げられている。
それはリアリティーを伴わず、むしろ夢の中の出来事のようだった。



そんなオレを尻目に、ミホは尿道に残った残滓まで吸い出し、最後の一滴まで飲み干そうとする。
しかしだいぶ無理をしていたらしく、途中でむせ始めた。
「だ、大丈夫?」
「はい……大丈夫です」
口ではそう言いながらも、床に手をつき苦しそうに咳込んでいる。
オレはどうしていいかわからず、とりあえずその背中を擦ってやった。
それがよかったのかはわからないが、しばらくするとどうにか落ち着いたようだ。
「大丈夫?」
「はい、もう大丈夫です。ありがとうございました」
そう言ってミホが顔を上げる。その唇の端には、僅かだが口から溢れた精液が付着していた。
それに気付いたミホは自らの指でそれを掬うと、その指を口に運び、舐めとってみせた。
その姿は先程の涙を流していた少女とは別人のように妖艶で、その光景にオレは思わず息を呑んだ。
そんなオレの中では、今天使と悪魔が激しい闘いを繰り広げている。
もうこれ以上少女を汚すような行為に走ってはいけない、と諭す天使の声と、
今すぐ目の前の少女を押し倒して自分のものにしてしまえ、と唆す悪魔の声。
決着はなかなかつかない。本来なら彼女を説得して服を着せて終わりにすべきなのだろうが、
先程の口淫でスイッチの入ってしまったこの状況では、そうスンナリとは諦められない。
さて、どうするのが正解か。
オレが究極の二択に頭を悩ませていると、突然ミホが立ち上がった。
頬を上気させ、潤んだ瞳でオレを見上げる。
「先輩…私、すっごくドキドキしてます……」
そう言うとミホはオレの手を取り、自分の左胸へと導いた。掌から少女の体温と鼓動が伝わってくる。
オレの中で、悪魔がやや優勢になった。
ミホはオレの手を放すと、ブラジャーに手をかけた。形の良い胸が露わになる。
オレの中で、悪魔がかなり優勢になった。
ミホはもう一度オレの手を取り、自分の胸に押し当てた。彼女の鼓動がよりはっきりと感じられる。
「先輩…好きです……」
天使は追いやられ、悪魔が全てを占領する。その瞬間、オレの中で何かが壊れた。
オレはミホを引き寄せ、その身体を強く抱き締めた。
「あ……」
ミホが小さく声を上げ、その身を強張らせる。オレは彼女を抱く腕にさらに力を込めた。
「ミホ…本当にいいんだな?後悔しない?」
「はい…しません。私を…先輩だけのものにして下さい……」
オレは彼女の言葉に無言で頷いた。そこまで言われて逃げたのでは男が廃る。
オレは一旦身体を離すと上着を脱いで床に敷き、その上にミホを横たわらせた。
いくらなんでも、彼女の綺麗な肌を冷たい床に直接触れさせることはできない。
「先輩……」
ミホが不安の混じった表情でオレを見つめる。やはりこれから起こることに対する不安があるのだろうか。
だがその表情とは裏腹に、上気した肌はアンバランスな色気を纏いっていた。
少女と女性の両方の魅力を備えた姿がオレの正常な思考能力を奪っていく。
オレは彼女の肌に触れようと手を伸ばした。
「あ、ま、待って……」
ミホがオレの手を掴み、動きを押し止どめた。
「どうかしたの?」
「あの、初めてだから…その…やさしく、して下さい……」
「ああ……大丈夫、わかってる」
やはり、男と女では『初めて』の持つ意味合いが異なるのだろう。
男のオレには異性に身を委ねることの不安というのはわからない。
だがもし彼女が不安を感じているのなら、それを少しでも軽くしてあげなくてはならないだろう。
オレは彼女の頬に手を添えると、その柔らかな肌をゆっくりと撫でていった。




先輩の指が私のほっぺたに触れ、その部分を優しく撫でてくれました。
その感触が、今まで強張っていた身体の隅々まで弛緩させていきます。
先輩は指をゆっくりと動かし、次第に下へ下へと移動していきましす。
顎から首筋、そして肩へと指が這い、そのくすぐったいような刺激に私は酔い痴れていました。
その間も先輩の指は動きを止めず、さらに下へと移動し、私の胸に達しました。
「あっ……」
先輩が私の乳房に触れた途端、私ははしたない声をあげてしまいました。
慌てて口を押さえたのですが、先輩に聞かれてしまったでしょうか。
恐る恐る先輩の顔を見ましたが、先輩の表情からはそれを窺うことはできません。
だけど、先輩が私の胸を集中的に愛撫し始めると、それどころではなくなりました。
どれだけ抑えようとしても、込み上げてくる快感が声になって口から飛び出してしまいます。
「ん、っ…あ…ンッ……ぁッ…」
指の動きはだんだんと激しさを増していき、私の理性を奪っていきます。
食いしばった歯の隙間から洩れる声も、徐々に大きくなっていきました。
「あっ…ン…んンっ…あぁ…ウ…んッ」
頭の芯から蕩けるような感覚に襲われ、次第に思考が麻痺していきます。
「せんぱい…んッ、あぁ……あ…」
身体に力が入らなくなり、何時しか私は自分から先輩の愛撫を求めるようになっていました。
それが先輩にも伝わったのでしょうか。
先輩は胸への愛撫を止めると、その部分に口を付けてきました。
「ひあっ!?」
いきなりのことで驚き、思わず大きな声を出してしまいました。
先輩は私の乳首を口に含み、舌で転がし、奥歯で甘噛みにし、あらゆる方法でそれを弄びます。
「ふ、アッ…んんっ!…ぁぁ…くぅ…ああっ!」
どんなに身体を捩らせても、その刺激からは逃れられません。
それだけでなく、先輩は空いた手をゆっくりと私の下腹部へ伸ばしていきました。
(だ、ダメ…今触られたら……!)
先輩を止めようとしましたが、思うように声が出せません。
先輩の手がショーツの上から私の秘部に触れました。
「ひっ…あアぁッ!!!」
その瞬間私の身体が跳ね上がり、ビクビクと痙攣しました。触れられただけで絶頂に達してしまったのです。
(ウソ…私…イッちゃった……)
あまりのことに呆然としました。
マリア先生に襲われた時も、先輩のことを想って自分でしてしまった時でも、こんなことはなかったのに……。
「えーと、ミホ…ひょっとしてその…イッた…の?」
先輩も驚いた様子で私を見ています。
私は両手で顔を隠しました。だけど恥ずかしくて、顔から火が出そうです。
よりによって、一番恥ずかしい姿を見られてしまうなんて…。恥ずかしさと情けなさとで、涙が出そうです。
(先輩…私のこと、いやらしい娘だと思ってるかな……)
そう思うと、本当に涙が滲んできました。
でも、先輩の言葉はそうではありませんでした。



「よかった……」
「えっ…?」
「いや…オレも初めてだったから、ひょっとしてミホが全然気持ち良くないんじゃないかなって…
イッたってことは、オレがミホを気持ち良くさせれたってことだろ?そう思ったら安心してさ」
やっぱりこの人は優しいんだ。私は先輩に抱き付きました。先輩は笑って私の髪を撫でてくれました。
先輩の胸は思ってたよりもずっと大きくて、がっしりしてて、温かくて…。
どれくらいそうしていたでしょう。私がようやく身体を離すと、先輩が真剣な面持ちで言いました。
「ミホ…もう、いいかな…?」
「……はい」
私は立ち上がると制服のポケットから小さな箱を出して、先輩に渡しました。
「これを使えって、小宮山先生が……」
「何から何まであの人は……」
先輩も呆れ顔でそれを受け取ります。その表情がおかしくて、クスッと笑ってしまいました。
先輩は付け方がよくわからないらしく四苦八苦していましたが、なんとか付け終え、私の方を向きました。
「えっと、じゃあ…ミホ、いくよ……」
私は無言で頷くと目を閉じました。私の秘所に熱いものが触れ、そしてゆっくりと私の中に入ってきます。
「くっ…い、た…ぁぁあっ……」
先輩が入ってくるのと同時に、身を裂かれるような痛みが全身に走りました。
声にならない声が洩れ、あまりの痛さに気を失ってしまいそうです。
「ミホ…大丈夫か…?やっぱりやめようか?」
先輩の心配そうな声が聞こえます。
「大丈夫…です…ッ…このまま…きて下さ…いッ」
先輩を心配させないよう、無理に笑顔を作りました。上手く笑えたかはわからないけど。
「わかった…ゆっくりやっても辛いだけだから、一気にいくよ…」
先輩はそう言うと、私のさらに奥まで入ってきました。
「あっ…クっ…ああッ…先輩ッ…」
私は先輩にしがみつき、絶え間ない痛みに必死で耐えました。
痛みよりも、大好きな人と一つになる喜びの方が大きいから。
「ミホ…!」
「せんぱい…先輩ッ!!」
頭の中がぐちゃぐちゃになって、視界が狭まります。
「先輩…キスして…!」
先輩の温かい唇が私の唇と重なりました。先輩の動きが速くなります。
「先輩…好き……大好き!!」
身体全体が宙に浮くような錯覚を覚え、目の前が真っ白になりました。
私の中で熱いものが弾け、私はそのままゆっくりと気を失いました。



「大丈夫か?」
「ええ、なんとか……」
私が目を覚ますと、部屋の中はすでに綺麗に清掃されていました。
それに、私もいつの間にか制服を着ていました。先輩がやってくれたのでしょう。
ふらついて上手く立てない私を、先輩が抱き起こしてくれました。
「あの、先輩……」
「あのさ…その先輩っていうの、やめてくれないかな」
「え?」
「いや、だってさ…恋人同士なのに他人行儀だろ?シンジでいいから」
照れくさそうに頬を掻きながら、先輩…シンジさんが笑います。
私は今、どんな顔をしてるのでしょう。泣いてるでしょうか、笑ってるでしょうか。
「ハイ、シンジさん!!」
私はシンジさんの胸に飛び込みました。シンジさんが私を受け止めてくれます。
やっと叶った願い。やっと手に入れたもの。
私は今、とっても幸せです。


(fin)


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