作品名 作者名 カップリング
「サンタと乙女の狂想曲」 72氏 -

「はぁ…サンタさんにちゃんとしたお礼をしたいなあ…」

「……は……?」

時はクリスマスイブ。
城島家ではマナカの誕生日祝いも兼ねたクリスマスパーティが行われていた。
そしてすっかり夜も更け、宴もたけなわと言った頃
カオルがポツリと呟いた一言のおかげで、城島家のリビングは一瞬にして静まり返った。

「…え、えっと…カオルちゃん?サ…サンタさんに?お礼?」
頭の上に疑問符が浮かびまくっているシンジが、おそるおそるカオルに尋ねる。
「うん…そうだけど。なんか変なこと言ったかな?」
「あの、えっと…」
カオル以外の全員が『お前は何を言っているんだ』と言いたげな表情になるが、
当の本人はキョトンとした顔である。
この娘はまだサンタさんを本気で信じているのだ。
「昨日サンタさんから手紙があったんだ。
『今年はカオルちゃんはイブの夜にお泊りのようなので、
特別に次の日の夜に来ることにします』ってさ」
「あ…そう…」
毎年サンタクロースに手紙を出していたと聞いていたものの、
ここまで乙女回路全開だったとは。
その場の全員が、半ば呆れ顔でカオルを見つめていた。

「…でさ、今年こそはちゃんとサンタさんにお礼を…と思ってね。
いつも寝た後にサンタさんが来るからさ、
今年は寝たふりをしてサンタさんが来るのを待って、直接何かお礼をしたいんだ。
ねえ、何がいいと思う?」
「え…あ…うーん…?」


皆がその返答に困る中、
そんな様子を冷静な目で見ていたマナカの頭に、ピカッと電球が灯る。
―その顔には明らかに悪戯心が浮かんでいた。
「そんなの簡単ですよ。サンタさんが一番喜ぶプレゼントはですね―」
「うんうん」
「―カオルさんが『ミニスカサンタ』の格好で
サンタさんを迎えてあげればいいんですよ」

「み、みにすかさんたあ!?」
意外なマナカからの答えに、カオルは思わず聞き返す。
「…ええ、ミニスカサンタです。それが何か?」
「ミ…ミニスカって…あ、あんなハレンチなカッコで、サンタさんが喜ぶわけないじゃない!!」
『ミニスカサンタ』がいかなる物かはカオルも流石に理解しているようで。
(彼女が一体どの程度の物を想像しているのかは分からないが)
その顔がほのかに赤くなる。

しかしマナカは、困惑するカオルに対して冷静にこう切り返す。
「ふう…甘いですねえ、カオルさんは。
カオルさんはなぜサンタクロースの服が赤いのか、その理由を知っていますか?」
「…え?知らないけど」
「では教えてあげましょう…
『真っ赤なお鼻のトナカイが、サンタに笑われたことに対する腹いせに服を赤く染めた』とか、
『ある戦争中の国の子供たちにサンタがプレゼントを届けるため、
戦場を駆け抜ける途中に返り血を浴びて真っ赤になった』とか…
まあ諸説ありますが…」

…既にこの時点で、でまかせにも程があるのだが。
マナカの思考も、気付かないうちにだいぶ小宮山に侵されているようだ。
この時点で何かおかしいって気付くだろう…と思いきや、
当のカオルの顔は、これがもう至って真剣で。
シンジ以下、他の面々は何も言えなくなってしまった。


そしてマナカの嘘八百劇場はなおも続く。
「その中でも、一番有力な説はですね…
『赤い服は純潔な処女の血を意味している』というものです」
「えっ、そうなの?」
「ええ、意外と知られていない事実なんですが…
もともとサンタクロースの起こりとは―

『18世紀のヨーロッパにおいて
クリスマスの日に年頃の少女たちが
恵まれない貧しい人々のために、プレゼントを配り歩いた』

―という逸話が始まりと言われています」
「へー…そうなんだ…それは初耳だね」
『そりゃあそうだ』とカオル以外の全員は心の中でツッコミを入れる。

「…で、その少女たちに求められた条件が『処女』だという事です」
「え、しょじょ!?」
「ええ、聖母マリアの処女受胎の逸話を筆頭に、
キリスト教では『処女』というのが重要な意味を持っています。
その時代、貧しい人々に清らかな心で奉仕を行うのは
まだ男を知らず、汚れていないとされた少女たちが最適とされたのです。
あの赤い色は彼女たちがまだ失っていない『破瓜の血』を表しており、
それを示すために、彼女たちはあの赤い服を着るようになったのです」
「へー…」
「ちなみに『ミニスカサンタ』は、彼女たちが当時着ていた服装を
原型に作られたと言われる、由緒正しきものです」
「え、マジで!?」
「ええ、ですからミニスカサンタは決して破廉恥な格好ではなく、
クリスマスにおける神聖な服装なのです」
「へー…」
「というわけで、カオルさんもミニスカサンタの格好で
サンタさんを迎えてあげましょう」
「うん、分かった!」


「では早速ですが、カナミさん。アレを…」
「え?あー…アレね。じゃあマナカちゃんとカオルちゃん。一緒に来て…」
そう言うと、カナミは二人を連れて自分の部屋へと向かった。


―そして、それからしばらくして。

その準備が終わったのか、三人が二階から降りてきた。
まずはカナミ一人がリビングへと入る。
「えー、おほん。それではカオルちゃんのミニスカサンタです。どうぞー!」
カナミのその言葉と共に、マナカに背中を押されたミニスカサンタがリビングへと現れた。
その正体はもちろんカオル。やはり少し恥ずかしいのか、その顔は若干うつむき気味である。
「…へへ、どうかな…」

「へえ…けっこう似合ってるわね…」
カオルのミニスカサンタの姿を見て、素直な感想を漏らすアキ。
頭にはサンタ恒例の赤い帽子。カナミのミニスカサンタの衣装は、
スレンダーなカオルの体にジャストフィットのようだ。
「うん、サイズもピッタリだね。…まあ、アキちゃんだったらこうは行かないけど、ね?」
「ええ、その“バスト”のせいでキツくて着れないでしょうから。ねえ、アキさん?」
「お前ら、性懲りも無く…また胸いじりかよ!!」

「…へへー、そうかな?」
カナミとマナカにキレるアキをよそに、褒められて嬉しそうな様子のカオルは、
続いて何故か明後日の方向を見ているシンジに感想を尋ねる。
「…あの、どうです?シンジさん?コレ似合いますか?」
「え!…あ…そうだね…」
突然のことに動揺を隠せないシンジ。
その目はまともにカオルを見ることが出来ないでいた。

確かにそのカオルのサンタ姿は似合っているし、
正にシンジのストライクゾーンなのだが…
よりによってカナミがカオルに着せたのは、
それを見た誰もが「風邪引くぞ」と言わんばかりの
露出度がかなり高めの衣装であり、スカートの部分がかなり短い。

…が、当の本人はそれを全く気にする様子も無く、
(「これが正式な衣装ですよ」とでもマナカにでも言いくるめられたのか)
彼女が嬉しそうにくるりくるりと身体を回すたびに
パンツがそのミニスカの下から、“ふわーり”と顔を覗かせるものだから…
おかげでシンジは三人が戻ってきてから、ずっと前かがみ気味で耐えるハメになっていた。
(いや…全く…目のやり場に困る…
…ああ、カオルちゃんは縞々パンツか…っておいぃっ!!)
内心では少し嬉しがっている自分を反省しながらも、
それでも男の本能なのか、シンジの目はカオルの方をチラ見してしまうのだった。


さて、自らのミニスカサンタ姿にすっかり気を良くしたカオルではあったが。
「でもさ…やっぱサンタさんには
ちゃんとしたプレゼントも渡したいんだ…何がいいと思う?」
再び知恵を借りようと、彼女はマナカに相談を持ちかける。
「うーん、そうですね…じゃあこんなのはどうです?」
そう言うとマナカは先ほどカナミの部屋から持ってきた、
ある“ブツ”をカオルに手渡した。
「え、これって『鞭』…だよね?こんなのでサンタさんが喜んでくれるの?」
「ええ、言うことを聞かないトナカイを調教するのにいつも使ってますからね。
きっと今使ってるのはボロボロになっているでしょうし、
新しい鞭をプレゼントしてあげたら、サンタさんも喜ぶでしょう」
「あ、そっか。なるほどなるほど…」
悪ノリしたマナカの適当ぶっこいた説明に、疑いもせず納得してしまうカオル。

…だが彼女に手渡されたその鞭は、どう見ても女王様仕様の“アレ”である。

「あ、せっかくですから暗い夜道用にこのロウソクも一緒にプレゼントしてみては?
太くて大きいですから、長時間使える優秀なタイプですよ」
「へー、赤いロウソクか…いいね、コレ。サンタさんも喜ぶかな?」
「ええ、きっとサンタさんも涙を流して喜びますよ。
あと吹雪の時用に、ゴーグル代わりとしてこのメガネも一緒に…」
…と、調子に乗ったマナカは何かと理由を付けて、
ありったけの女王様グッズをカオルに渡すのであった。


「プレゼントも用意できたし―よーし、これで準備はバッチリだね♪」
「あ、そうだ…一つ忘れてました。
明日の夜にサンタさんに会ったら、
まずは『お帰りなさいませ、ご主人様♪』の挨拶を忘れないで下さいね」
「…え?なにそれ?」
「知らないんですか?これも由緒正しきサンタさんを出迎える時のセリフですよ。
貧しい人々にも王侯貴族の気分を少しでも味わって貰おうと考案されたもので…」

(おいおい…いくらなんでもそれは…)
「流石にそれは無いだろう?」…と思うシンジら周囲をよそに、

「へー、そうなんだ…分かった、明日の夜にやってみるね!」

…と、最後までマナカにすっかり騙されるカオルであった。



さて…次の日の夜―金城家の“サンタクロース”が散々な思いをしたのは、言うまでもない。

(おしまい)

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