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「レイ・プリンセス事務所社長、柏木レイコの残業の一風景」 |
ピンキリ氏 |
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レイ・プリンセス事務所社長、柏木レイコは椅子に座ったまま大きく伸びをした。
次に、自分の肩を交互に拳でトントンと数度叩き、凝りをほぐす。
机正面の壁にかかった時計の針が指しているのは、午後十時を数分回ったところ。
急いで片付けなければならない仕事があったとは言え、仕事には遅すぎる時間だった。
「ふー、やれやれ」
まだまだ若いつもりでいたが、やはり寄る年波には勝てないものね……と、やや年寄り臭い思いを、彼女は抱いた。
以前は、例え一晩中起きていようとも、次の日に無理は効いたのだが、さすがに今はそうはいかない。
根本的な体力気力が十代の頃には遠く及ばないことを、肩や腕、腰にある疲労感が如実に語っている。
「……これ以上残業しても能率は上がらないわね。帰るとするか」
ノートパソコンの電源を落とし、机の上の書類を適当に片付け、ロッカーから荷物を取り出して帰り支度をする。
「んー、疲れた。こーいう夜は、パーッと何かしたいわね」
もう一度、大きく伸びをすると、灯りを消し、社長室から出る。
と、そこで―――
【ケース1・小田の場合】
と、そこでレイコは、自分以外にも残業している人物を見つけた。
社員の机の一つ、先ほどまでの自分と同じように、書類に埋もれ、ノートパソコンに向かっている者がいたのだ。
ゴツイ体につるつるのスキンヘッド。
誰かといちいち確かめるまでもない。
「あら、小田も残ってたのね」
「……」
顔をレイコに向けず、小田はコックリと頷いた。
何とも無愛想なようだが、それでレイコは怒ったりなんかしない。
何せ長いつきあいなのだ。
愛想が無いのではなく、単に不器用なだけであるということを知っている。
営業その他、仕事に関しては文句のつけようがないくらい腕のたつ男であるということも。
丁度いい、とレイコは思った。
自分のストレス解消だけでなく、小田の慰労も込めて、呑みに行けばいいではないか。
「ねえ小田、その仕事、もう終わる?」
「……」
レイコの問いに、作業の手を止めず、無言でコクリと首を縦に振る小田。
「よし、じゃあ終わったら呑みに行きましょうか」
「……」
小田のキーボードを叩く手が止まった。
そして、ゆっくりとレイコの方へ振り向き、堅苦しい表情のまま、さっきと同じように頷いた。
「オケオケ、決まりね。じゃあ、私も手伝うからとっとと終わらせましょ」
◆ ◆
レイコが書類をまとめ、小田がパソコンに打ち込む。
物凄いスピードで、残りの仕事が片付いていく。
この分だと、あと十分もかからないだろう。
「『白濁屋』がいい? それとも『ブッカケ亭?』」
「……」
レイコの言葉に、ただただ頷くだけの小田なのだった。
【ケース2・井戸田の場合】
と、そこでレイコは、自分以外にも残業している人物を見つけた。
社員の机の一つ、先ほどまでの自分と同じように、書類に埋もれ、ノートパソコンに向かっている者がいたのだ。
広い肩に茶色がかった髪。
誰かといちいち確かめるまでもない。
「あら、ヒロ君も残ってたのね」
「あ、社長」
「何の仕事してるの?」
「いえ、一週間後にあるトリプルブッキングのグラビア撮影のことで、ちょっと」
撮影場所がドラマの収録現場と重なり、譲らざるを得なくなった。
それで、カメラマンと相談した上で、別の場所を選ぶことにした―――というのが、ヒロキの話だった。
「ふーん、エライエライ、ちゃんとお仕事覚えていってるじゃない」
レイコは感心したように微笑んだ。
だがもちろん、その後に釘を刺すことも忘れない。
「だけどね、そういうことはちゃんと私に通してからやってね?」
「は、はい! すいません!」
慌てた顔で、ペコペコと頭を何度も下げるヒロキ。
この辺り、ヒロキは今時の若者に似合わず、妙に腰の低いところがある。
「さ、もう終わりにしなさい。これ以上やると、明日の仕事に障りがあるわよ?」
「はい。あ、イテテ……!」
椅子から立ち上がったヒロキが、腰に手をあて、顔をしかめた。
「あら、どうしたの?」
「長い間同じ格好で座ってたので、こ、腰が」
「あらあら」
と、ここでレイコの目がキラリと光った。
「……そう言えば、最近は結構ご無沙汰だったわよねー」
「イタタタ。え? な、何がですか」
「ああ、ウフフ、気にしないで。ところでヒロ君?」
「はい?」
「腰の痛みと重さ、解消してあげようか?」
さっきまでの口調とは一変、甘ったるい声でレイコはヒロキに擦り寄って行く。
「へ? は? な、何ですか? どうするっていうんですか?」
「フフ……こうするのよ」
言うや否や、レイコはヒロキの前に跪くと、ズボンのジッパーを下ろした。
そして、目にも止まらぬ速さで指をトランクスに突っ込み、ポロリとモノを外へと取り出す。
「わ! しゃ、社長! な、に、ぬ、ね!」
「最近、オヤジばっかり相手にしてて、若いコのエキスが足りないのよねー。あら、結構立派なモノを持ってるじゃない」
パク、とモノにしゃぶりつくと、鍛えに鍛えた舌技を繰り出していく。
「れろ……ちゅ、ぷ……。うふ、コレをすると腰の痛みなんてスーッと取れるはずよ」
「だ、駄目ですしゃ、ちょ……う、うわ……」
「私って疲れるとムラムラしてくる癖があるのよね。ヒロ君も私も解消できて、一発二鳥!」
「そ、そんな問題じゃ、うわ、あ、ああ、も、もう出ます……うっ」
「はむ、あむ……うふふ、この後、応接室のソファーでねっとりと、ね……?」
◆ ◆
レイコは閉じた目をそっと開いた。妄想時間、ドアを開けてからわずか十数秒。
(なーんて、ね)
疲れてくるとムラムラッとしてくるのは本当だが、いくら彼女でも、部下に手出しをしたりなんぞはしない。
他社の人間はともかく、同じ職場、つまり常に顔を合わせっぱなしの人間と関係を持つと、話がこじれてややこしくなりかねないからだ。
過去の経験から、彼女はそれを嫌というほど知っている。想像程度に留まらせておくべきなのである。
「あら、ヒロ君も残ってたのね」
自分がどんなことを考えていたかなんぞはオクビにも出さず、レイコはヒロキに近づいた。
「あ、社長」
「ねえヒロ君、その仕事、もう終わる?」
「え、あ、はい。もうちょっとですけど」
「よし、じゃあ終わったら呑みに……」
【ケース3・三瀬の場合】
と、そこでレイコは、自分以外にも残業している人物を見つけた。
社員の机の一つ、先ほどまでの自分と同じように、書類に埋もれ、ノートパソコンに向かっている者がいたのだ。
小さな背中に、ミディアムな髪。
誰かといちいち確かめるまでもない。
(あら、彼女も残ってたのね)
レイコはしばらく黙ったまま、三瀬の仕事ぶりを背後から眺めた。
振り返らないところを見ると、どうやら彼女は気づいていないらしい。
(……うふふ)
レイコの顔が悪戯っ子めいたものになった。
足音を立てないようにつーっと三瀬の背後に近づき、がばっと両手を広げて、狙いを定める。
「あらー、あなたもまだ残ってたのねー?」
三瀬の脇から腕を通し、両の掌でその胸を鷲掴みにする。
「あ、きゃあ! しゃ、社長!?」
「んー、あなた、結構着痩せするタイプ? なかなかボリュームあるおっぱいじゃない。うり、モミモミ」
「や、あ、しゃち、ょ、ダメ、やめ……てくだ、さ……!」
三瀬の非難の声も何のその、力を弱めるどころか、逆に指の動きを強く、複雑なものにしていくレイコ。
それに伴い、三瀬の上半身がクネクネと、まるで操り人形のように動く。
「もったいないことしたかもねぇ、あなたもモデルとして雇っておけばよかった。ほれ、モミモミ」
「ダメ、ダメです……ぅ! わた、私、胸は、ダメ……!」
「……あり?」
レイコは本気ではなかった。
本気ではなかったが、経験に裏打ちされたその指テクは、服越しとは言えどうやら三瀬には効き過ぎたようで。
「あ、う……!」
三瀬は小さく悲鳴をあげ、首を前に折ると、机に突っ伏し、ピクピクと体を震わせ始めた。
「もしもし? おーい?」
レイコは手を三瀬の脇の下から抜き、トントンと肩を小突いてみた。
が、三瀬は何の反応も示さない。半開きになった唇から、荒くて熱い吐息が漏れるのみだ。
「あらウソ、もしかしてイッちゃった?」
◆ ◆
三瀬が正気に戻ったのは、それから三十分はゆうに経った頃。
思い出して半泣きになる彼女を、レイコは平謝りに謝り、なだめになだめた。
そして、お詫びに全額負担の条件で、彼女を呑みに連れ出すのだった。
「ううう……私、もうお嫁にいけませえん……」
「ゴメン、本当にゴメン」
「ううううう」
「ほら、行こ? どこがいい? 洋風居酒屋の『アナーラ』? 『クリスティーアリス』? それとも……」