作品名 作者名 カップリング
「○○卒業」 トマソン氏 -


(マサヒコ君もとうとう卒業かあ……でも……)
 ある春の夜のこと。濱中アイは自室で悩んでいた。

 二年半にわたって家庭教師として面倒を見てきた小久保マサヒコが、もうすぐ中学を
卒業し、自分のもとを巣立っていく。
 それはもちろんめでたいことなのだが……まだやり残したことがある、という思いに
アイは取り付かれていた。
(卒業といったら、やっぱり童○卒業よね……私がちゃんと責任持って、卒業させてあ
げたい……)
 相変わらずアレな思考だが、家庭教師のアルバイトを始めたとき、先輩である中村
リョーコから
「ちゃんと卒業まで面倒みてあげなくちゃね。学校も童貞も」
といわれたのが頭に刷り込まれていたらしい。本人は意識していないが。
 アイは責任感は強い。これは半天然やエロ発想とは別だ。マサヒコの女性遍歴がこれ
からどうなるか分からないが、そのスタートが素敵なものになるかどうか、その全てが
アイの肩に掛かっているのだ。

 かといって、アイに自信があるわけでもなかった。
(……うまく指導出来るかな……私も一緒に処女卒業になるわけだけど……自信ないよ
……教えるどころじゃないかも……)
 そこは家庭教師と生徒の間柄なのだから、面倒を見るのはあくまで自分であるべきだ
が、自分自身が処女のアイに、教えるほどの経験値があるはずもない、というか男性と
付き合った経験すらない。
 いっそ、逆に教えてもらってもいいが、マサヒコも童貞だろうから事情は同じで、
教えるところではないはずだ。

(うまく行かなかったら傷つけちゃうかも知れないし……どうしよう……あっ)
 悶々としていたアイの脳内で豆電球がピカリと光った。
(だったら、誰かにマサヒコ君を指導してもらえばいいんだ。マサヒコ君が上達した後、
私が教えてもらえば……)
 一挙両得とはこのことだ。マサヒコの筆おろしは済むし、性技は上達するし、アイも
無事、処女を卒業できるというわけだ。
(マサヒコ君の初めてを私が面倒見られないのは残念だけど……でも失敗してマサヒコ
君が自信喪失なんてことになったら大変だし……うん、きっとこれが一番いいよね)
 あまりにもアレな発想を経て、自分を納得させるアイだった。

 だが、こんなことを誰に頼めばいいのか? 真っ先に頭に浮かんだのは、大学の先輩
である中村リョーコだったが、さすがにマサヒコも嫌だろうし、第一、マサヒコが
リョーコの奴隷にされかねない。
(もしマサヒコ君が、担任のあの人……えーと、豊田先生みたいになったら……)
 実例を見ているだけに想像が生々しい。リョーコの言いなりになるマサヒコを思い浮
かべ、アイは背筋に冷たいものが上下した。
(そっか、その頼んだ人とマサヒコ君は肉体関係になるんだ……後を引かないように、
人選を考えないと……)




 その数日後、今日はアイによる最後の授業である。
 しばらくは普通に授業が行われたが、そのうちに少々しんみりした雰囲気になるのも
ごく自然な成り行きというものだろう。
「……ねえ、マサヒコ君。私、家庭教師としてどうだった?」
「……何ですか、急に」
「今日が最後の授業なのに……まだまだ教え足らないような気がして」
「そんな、大晦日にも言ったじゃないですか。先生のおかげでおつりくるほど学べまし
たよ」
「でも、マサヒコ君は私の最初の生徒だから、志望校行って欲しいし、立派に卒業して
欲しいし」
「いや中学は義務教育だから卒業できますよ」
「いやいや、そーじゃなくて」
 何を思ったか、懐から毛筆とおろしガネを取り出すアイ。
 ゴリゴリゴリ。
 マサヒコの部屋に乾いた音が響いた。ていうか、なんでそんなものを持ってるんだ。
「はっきりいって、そーゆーところはホントに……」
 すかさず突っ込むマサヒコ。
「そういうところは、なあに?」
 マサヒコのセリフが終わるまえに、アイが勇気を振り絞って行動に移った。カーディ
ガンの胸元を開き、上体をマサヒコに向けて倒して、思い切りブラチラのサービスだ。
ついでに悪戯っぽい瞳を上目遣いにして、マサヒコを見つめる。
 マサヒコとて思春期の男子、心臓が跳ね上がるのも当然。
「そ……そういうところは……」
「そういうところは?」
 アイは羞恥に顔を赤らめながらも、今度はスカートをそっとめくってみせた。
むっちりと引き締まった健康的な太腿を、付け根ぎりぎりまで見せ付けてやる。
 まるで超強力磁石で引き付けられたように、マサヒコの視線がそこに貼り付くのも、
これまた当然。
「……ところは………………たまらないです」
 正直に答えるマサヒコ。ズボンの前が膨らみかけている。実に素直な少年なのだ。
「でも……先生」
 マサヒコ、息を荒くして、アイの肩に手を置く。
「本当に先生が……その……いいんですか?」
 ここまで誘惑されたら、甘い言葉でもささやいて押し倒してやればいいのだが、そこ
はマサヒコ、レベルは1、それも経験値ゼロ。これが……若さか!





「……マサヒコ君。それは駄目」
 この後におよんで、アイはわずかに身を引き、申し訳なさそうな表情を浮かべた。
 ここまで誘惑しておいて、そりゃないぜ不二子ちゃん。
「え? で、でも……先生が……」
 あからさまに失望の表情を浮かべたマサヒコに、アイは微笑んだ。
「うふふ、ごめんね。本当は、私も自信がなくて……ほら、私も初めてだから……」
 顔を真っ赤にするアイ。その様子たるや可愛いぜコンチクショー、なのだが、では
どうする気なのか?
「でも、ちゃんと面倒みるから、心配しないで」
「……?」
「信頼できる別の人に頼んだの。マサヒコ君の筆おろしをして、ベッドマナーを伝授し
てください、って」
「……あの……まさかとは思いますが……」
 こんなことを頼めるほど経験豊富な、アイの知り合いの女性といえば? 
 マサヒコの脳内にもまた、中村リョーコの姿が浮かんだ。いつものように眼鏡をかけ
漆黒のロングヘアを垂らして、四つんばいにさせた豊田セージに嵌めた首輪から伸びる
紐を手にして、ニヤニヤと笑っている情景だ。
 次の瞬間には、マサヒコ自身が豊田セージに代わって首輪をはめられているシーンが
頭に浮かび、彼はぞっとした。
「ううん、先輩じゃないよ?」
「……ふう」
 マサヒコは心底ほっとした。
「だってマサヒコ君、豊田先生みたいになりたくないでしょ?」
 アイも同じことを考えたらしい。担任の先生をこう表現されるのもすごい話だが、
まあ、事実その通りではある。
「……そうですね」
「だから、別のところで知り合った女の人にお願いしたの。あ、もちろんミサキちゃん
とか他の女の子には内緒だし、浮気だなんて騒がないから、心配しないで」
 ミサキの名前を聞いて、マサヒコも多少は冷静に戻った。
「でもあの……俺、やっぱり、初めては好きな人と……だから、その……」
「あのね、マサヒコ君。うまくいかなくて大切な人を傷つけるくらいなら、練習して、
上達してから大切な人を愛してあげたほうがいいと思うの。だから、まず経験して、
うまくなって。それから私にエッチを教えて、ね?」
「……えーと、あの、最後の一言がものすごく気になるんですが……」
「ウフフ……だから、上手になってね」
 悪戯っぽい表情でマサヒコを見つめるアイに、マサヒコもたまらず白旗を挙げた。
「……ま、それはそれとして……どんな人なんです」
「経験も外見も飛び切りの人を用意したから。ぱっと見た目は冷たく見えるかもしれな
いけど、本当は優しい人よ? 初体験とベッドマナー伝授のセットコースでよろしく、
ってお願いしてあるから、安心して身を任せてくれればいいはずよ」
「……どんなセットコースなんですか」
「だからそういうセットコースよ。じゃ、○時に○×ホテルの□△号室に行ってね」




 てなわけで、指定された時間に指定されたホテルの部屋に到着したマサヒコ。
(えーと……ここか。はあ、結局来ちまった……俺も優柔不断だな……ていうか……)
 ホテルの廊下で虚空を見つめ、マサヒコは思いを巡らせた。
(濱中先生って不思議だよな……行き当たりばったりの迷惑行動を取るけど、知らない
うちにいつもオレはそのペースに巻き込まれている……)
 ──などという多少は真面目な思考もここまでだった。
(……ていうか俺、どうしてこんなところにいるんだ? なんで会ったこともない人と
エッチしに来てるんだっけ?)
 いまさらながらそんな真っ当な疑問を抱くマサヒコ。だが、既にホテルの部屋の前ま
で来ているのだ。サイは投げられた、とでもいうところか。
(ま、なるようになるさ……)
 諦観の境地に達したマサヒコは、部屋のブザーを押してみた。
「はーい」
 澄んだ声が響き、がっちりしたドアが内側に開く。
「こんにちは、アナタがマサヒコ君ね?」
 迎えてくれた女性に、不覚にもマサヒコは見とれた。諦観の境地も、なんで好きでも
ない人とエッチするんだという疑問もどこかに吹き飛び、呆けたような表情でその人を
見つめてしまう。

 長身の女性は、素肌の上に男物のワイシャツを着ていた。
 ブラジャーはつけていないらしく、シャツの胸にはぷっくりと豊かな隆起が浮かび上
がっている。その先端には周りより色の濃い突起がかすかに透けて見え、マサヒコの
視線を捕えて離さない。
 赤くなったマサヒコがあわてて顔を下に向けると、すらりと伸びた美しい脚、それに
しっとりと輝くような肌の太腿が目に飛び込んでくる。その付け根、シャツの裾から覗
く純白の、清楚だが洒落たショーツに、今度は視線を吸い寄せられてしまった。
 普段から、妙に女性に囲まれているマサヒコだったが、目の前の女性のように色気を
全開にした女性に正面から迫られたことはない。さっきのアイがせいぜいだ。
 もはや視線をそらすことすら出来ず、見とれるままに生唾を飲み込んだマサヒコに、
女性が拗ねたような表情を向けた。
「あん……初めはちゃんと目を見てお話しましょ……体はあとでゆっくり楽しませてあ
げるから……ね?」
 可愛らしいショーツと、その薄い生地を通してかすかに伺える黒みに血走った目を
向けていたマサヒコだったが、女性の甘えたような声に、そこから視線を剥がして顔を
上げた。ベリベリと音がしたように思えたのはきっと気のせいだ。
 女性の顔だちもまた美しかった。輝くようなセミロングの金髪がごく自然に垂れ、純
白のワイシャツの肩に映えている。
(なんて……綺麗な人……)
 ぽっと顔を上気させ、恥じらいをたたえながら誘惑の瞳を向けてくるその女性の表情
に、マサヒコはごくりと唾を飲み込んだ。





 マサヒコに、女性の顔がぐっと接近する。頬にそっと柔らかい唇が触れた。
「う……あの……」
「うふふ、リラックスして……」
 鼻、頬、おでこにキスの雨を受け、荒い息をつき始めたマサヒコをその女性は優しく
脱衣所にいざなった。
「早速、授業に入ろうね。はじめは、一緒にお風呂に入ろ?」
 女性の手が優しくマサヒコの服を脱がし始める。
 たおやかな手が、マサヒコのズボンを下ろす。早くもトランクスの正面にはテントが
張っていた。
「はは、は、はい……あの……」
「私のことは、アヤって呼んでね」
「アヤさん……ですね……」
 マサヒコをリードするその女性は、ご存知、佐々岡アヤ。
 普段は幼稚園で先生をしている彼女は、日々が楽しくないわけではないにせよ、子供
たち相手の仕事に、なんとなくストレスがたまる日々を過ごしていた。そこへ、近所の
カラオケボックスで知り合った濱中アイから相談を受けて、マサヒコの筆おろしを引き
受けたわけだ。

(うふ、やっぱり私はこれが天職かな……童貞君を頂くのも久しぶり……それにこの子、
可愛い……)
「うっ……」
 トランクスが落ちると、男根がピョコンと天を向いて現れた。見るからに未使用のピ
ンク色の亀頭を、アヤがツンとつついてやると、少年は恥ずかしそうに初々しい反応を
返してくる。
 アヤはごく自然に心がウキウキと高揚してくるのを覚えた。弾む内心が表れたか、水
を得た魚のように、輝くばかりの幸せそうな表情を浮かべたアヤは、もう荒い息をつい
ているマサヒコに唇を合わせ、そっと舌を差し込んでいった。
 必死にそれに応えようと、マサヒコもたどたどしく舌を動かす。
 ぴちゃぴちゃと淫靡な音を立て、二人の粘膜が絡み合った。
(即DKも久しぶり……あん、気分が乗ってきちゃった……今日は思いっきりサービス
しちゃおうかしら……)

 この日、マサヒコは桃源郷に足を踏み入れたのだった。

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