作品名 |
作者名 |
カップリング |
「下着騒動」 |
トマソン氏 |
- |
「今日のワーストさんは、乙女座のあなた! ちょっとした不注意が思わぬトラブルを
招きそう!」」
濱中アイは自宅のアパートで、ヘアブラシで髪を整えながら食パンをかじり、同時に
テレビの占いをチェックしていた。忙しい朝における彼女の日課である。
(ありゃ……今日はあんまり運が良くないみたい……)
テレビの中で描かれた天使が泣いている。不運を伝える占いの内容に、アイは表情を
曇らせた。かといって、家に閉じこもっているわけにもいかない。
「ま、しょせん占い、こんなの気の持ちようだよね〜」
プラス思考に頭を切り替えて明るい表情に戻ったアイは、ちゃぶ台に向かい腰を下ろ
した。不運なことに、ちょうどアイの尻の下には、キャップ式の蜂蜜のビンが置いて
あった。
ずぶり。
円錐状に尖ったビンの注出口が、見事にアイの急所を貫いた。厚い生地のジーンズ
ごと、先端がアイの体内にわずかながら侵入し、普段触れることのない場所に遠慮なく
摩擦を加えた。
「───#$%&!?」
声にならない悲鳴が響く。アイは弾かれたように腰を浮かした末、そのまま床に倒れ
こみ、悶絶した。肛門に残る異物感に、大きな黒目がちの瞳にじわっと涙が溜まる。
(……あう……やっぱりツイてないかも……笑っていれば、いいこともあると思ったの
に〜!!)
人生そんなに甘くない。いやまあ、このジーンズの尻にかすかについたシミは、嘗め
れば甘いだろうが。
「……でも……出かけなきゃ……あ、ジーパンにシミが出来てる……」
確かにアンラッキーではあったが、誰に文句を言えることでもない。まもなく立ち
上がったアイは、手近にあったスカートに穿き替え、部屋を出た。
出掛けにポストを覗くと、そこには回覧板が入っていた。
(あ……なんだろ)
取り出して見ると、それには物騒なことが書かれていた。
『〜変質者に注意〜
最近、町内にて黒づくめの不審な人物が目撃されております。また、隣町では下着泥
棒の被害も発生しております。
住民の皆様は十分に注意の上、不審な人物を目撃した場合は通報を。
お出かけの際は、たとえ短くとも戸締りをして、お隣に声をかけて……』
(えーっ……いやあねえ、やっぱり女の一人暮らしって何かと不安……この前、パンツ
がなくなったときは怖かったなあ……)
先日、ベランダに干してあったショーツが一枚無くなっていたことがあり、ここにま
で誰かが侵入してきたのかと、アイは心底震え上がったのだ。
そのときは、一緒に干してあったほかの下着は無事であったことを不思議に思って
アイが回りを調べてみると、その一枚はエアコンの室外機の陰に落ちており、要するに
洗濯バサミがゆるくて風に落ちただけの話だったのだが。
(やっぱり……男物の下着を一緒に干せば、気休めにはなるよね……でも、自分で買う
のは恥ずかしいし、男の人の知り合いなんて……マサヒコ君しかいない……)
年頃の娘として、それはそれで非常に情けない。が、当座は男物の下着を手に入れる
のが先決である。アイはぶんぶんと頭を振り、大学へ向かった。
学校も終わり、帰宅した小久保マサヒコが自室で家庭教師の時間に備えているところ
へ、いつものように濱中アイが到着した。だが、アイの態度は普段とは違っていた。
「ま、マサヒコ君! おねがあああああい! マサヒコ君のパンツちょーだい!」
部屋に入ってくるなり、挨拶もなしにマサヒコに潤んだ目を向けてパンツをせがむ
アイ。マサヒコはたまらず固まった。
が、まあこの人の天然ボケは毎度のことだ。
「あ、あの濱中先生……とりあえず落ち着いて、はい深呼吸〜」
普段のアイは、こういえば素直に深呼吸くらいしてくれるのだが、今日ばかりは聞い
ちゃいない。
「お願い、ちょーだい! ただでとは言わないわ、このパンツと交換で!」
「……」
ハンドバックから取り出した女物のショーツをマサヒコに突き出すアイ。世間一般に
は、アイの下着のほうが圧倒的に価値があるのだが、というよりそもそも、マサヒコの
パンツなど誰も欲しがらない。いや、今のアイは別だが。
「いやあの、濱中先生……年頃の娘さんが、パンツ上げるなんて言っちゃあ駄目ですよ」
アイはマサヒコの諫言など耳に入らない様子で、願いごとを繰り返すばかりだ。
「お願い……あの、これじゃ駄目?……そうだ、じゃ、今はいてるパンツと交換で……
おねがあい……」
瞳に涙をためて懇願するアイの姿に、さしものマサヒコも降伏。彼とて男の子、女性
の涙にはかなわない。
「あの……分かりました、先生。僕のパンツくらい差し上げますから、泣き止んでくだ
さい。お礼なんか気にしなくても……って、おーい」
セリフの後半をアイは聞いていなかった。マサヒコのセリフにぱっと顔を明るくした
アイは、既に部屋の戸口から外へ出かかっていた。
「あ、ありがとうマサヒコ君! それじゃ、今はいてるパンツ、脱いでくるね!」
「いや、だから先生……」
アイの姿はもうなかった。軽やかに階段を下りていく足音が聞こえてくる。
(……まさか、本当に生パン持ってくるのかな?!)
マサママに声をかけ、風呂場の脱衣所を借りたアイ。
(良かった、これで男物のパンツが手に入る……)
自分のショーツがどうなるかは思い至らないのが、アイの半天然たるゆえんである。
アイはスカートの左右からそっと手を差し入れると、ナチュラルカラーのパンストを
するりと下ろし、抜き取った。屋内とはいえ冬の冷たい空気が、素肌をすうっと撫でる。
(うう……やっぱ、パンストなしじゃ寒いわね……でも……マサヒコ君との約束……)
アイはもう一度スカートの左右から手を差し入れた。一瞬ためらったが、意を決して
そっとショーツを下ろす。
左右の脚を順に持ち上げて、つま先からそれを抜いてしまうと、まだ温もりの残る純
白の可愛いショーツに、アイは目をやった。
(これを……マサヒコ君にあげたら……)
ここに至ってそんな思考が頭をよぎったが、ここでマサヒコの使用方法を想像して
体がジュンと熱くなるほど、アイのエロ経験値は高くない。いやそれ以前に、パンスト
もパンツもなしではアイ自身が寒くてたまらなかった。
とりあえず、アイはさっきマサヒコに突き出した替えのショーツを穿き、もう一度
パンストに脚を通した。
(ふう、これで寒くない……マサヒコ君、これ自分で穿いたりするのかな……)
そんなボケた妄想を抱きながら、脱ぎたてのショーツをもう一度眺める。内側を
チェックしたところで、アイは固まってしまった。
(……#$%&!? なっ……こっ、この汚れは……)
布地が少し厚くなっているところ、微妙な部分を覆い隠す部分についたそれは、おり
ものにしては色が濃いし、位置も後ろに下がりすぎている。これは、まさか……。
そこでようやく、アイは朝の出来事を思い出した。
蜂蜜のビンの上に座りかけてしまい、強烈なかんちょう攻撃を食ってしまったこと。
心ならずもビンの先端をずぶりと受け入れてしまったあの時、ジーパンごと、この
ショーツもアイのアナルの中に侵入したわけだ。では、この汚れは……。
(すっかり忘れてた……どうしよう、こんなの、男の子にあげられない……)
汚れてなければいいのかという突っ込みは、この際、却下。
(あう……じゃ、着替えたこのパンツを……あ、でも、『今はいてるパンツ』って約束
しちゃった……仮にも家庭教師たる私が、マサヒコ君との約束を破るわけにはいかない
よう……)
汚れたパンツを差し出すのはあまりにも恥ずかしい。かといって替えのパンツを出し
たのでは約束違反になってしまう。
(ど、どうしよう〜〜)
かすかに茶色の汚れのついたパンツを手に、アイは七転八倒した。
「ちょっとアイ、何してるの? こんなところでサボってたら、職場放棄よ?」
そこへ、脱衣所のドア越しに中村リョーコが声をかけてきた。
的山リンコと共に後からマサヒコの部屋に到着した彼女だったが、アイがなかなか
戻ってこないため、心配して見に来てくれたらしい。
「せ、せんぱあい……とりあえず入ってください……実はこれこれこういうわけで……」
アイは脱衣所にリョーコを導き入れ、わけを話した。
しょうもない事情を聞いて息をつくリョーコ。が、年頃の娘が男の子にショーツなん
て渡しちゃいけないと諭すような、真っ当な性格の持ち主ではない。
「ん〜確かにキツいわねえ。でも約束だし、それ、上げるしかないじゃない」
汚れたショーツを平気で指差すリョーコ。
「そ、そんな恥ずかしいです! こんなの、男の子に見せるわけには」
「でももしかしたら、マサの趣味に合うかも知れないし」
一時は呆れたリョーコだったが、ここに至ってはもう完全に楽しんでいる。マサヒコ
の反応が楽しみで仕方ない、そんなニヤニヤ笑いを浮かべていた。
「そそそそそ、そんなまままま、まさかマサヒコ君が、この汚れを見て匂いを嗅いで
ハァハァなんて#$%&¥」
パニックに陥り、真っ赤になった顔を両手で覆うアイ。その様子は可愛いのだが、頭
の中を駆け巡る思いはアレすぎる。
焦りまくった様子のアイに、一方のリョーコもちょっとは反省したりして。
「……そこまで言ってないわよ。じゃ、代わりに今はいてるの、上げればいいじゃない。
もう、十分に暖まったでしょ?」
「でもそれじゃ、マサヒコ君に約束したときの『今はいてるパンツ』じゃないし……」
「そんなことマサに分かるわけないじゃない」
「でもでも……家庭教師たる私が約束を破るわけには行かないし……」
相変わらずズレた真面目さだ。というか、真面目な女性はショーツを人に上げたりし
ないわけだが。
その瞬間、アイの脳内で豆電球が光った。
「そ、そうだ! 先輩お願いです、先輩が今はいてるパンツ、ください! 後で可愛い
やつをプレゼントしますから!」
「……だからそれじゃ『アンタが今はいてるパンツ』じゃないでしょ?」
「『私が』今はいてるパンツ、とは言ってないんです! お願いです! それに先輩、
今日は珍しくスカートだから脱ぐのも簡単でしょ?」
「……駄目よ」
「せ、先輩! 助けると思って!」
「駄目。だって今、穿いてないもん」
衝撃の告白に、今度はアイが固まった。
「……え?」
「ほらこの前、アンタ達に無理やりスカート穿かされたじゃない。あの時、新しい感覚
に目覚めちゃってね。通気もいいんだけどなにより、下ががら空きのスカートで、それ
でいてノーパンっていう危なっかしさが気持ちいいのよね〜。あ、もちろん寒いから
パンストは穿いてるわよ?」
「え、えーと……あの、先輩」
「だから、今はいてないから、ない袖は振れない、ないパンツは上げられないってわけ」
まあ、確かにないものはもらえないのはもっともだ。それはアイも分かったが、さて
マサヒコに渡すショーツをどうするか、肝心の点は未解決のままだ。結局リョーコへの
相談は、何の役にも立たなかった。
「……うううぅ……どうしよう……」
「ま、好きにしなさい。さあ戻るわよ」
「ううう〜やっぱり、約束は守らなきゃ……コレをマサヒコ君に見られちゃうんだ……」
汚れたショーツを涙目でハンドバックにしまうアイ。渡すのはリンコが帰ってからに
なるが、一体、どんな顔で渡せばいいのだろう? 茶色っぽい汚れを見たマサヒコは、
どう思うのだろうか?
「ちょっと」
脱衣所を出た二人を、マサママが呼び止めた。手にした、薄いピンク色のショーツを
アイに差し出す。
「先生、これ上げるわ」
「えっ? あのお母さん……これは?」
「ごめんなさいね、話、聞こえちゃったの。誰のでもいいなら、私のでもいいわよね、
今まではいてたやつだから嘘にはならないし」
「あ……あ、ありがとうございます!! 助かりました!」
恥ずかしく汚れた下着を、マサヒコの視線に晒さずに済む。その事実に限りなく安心
してしまったアイは、受け取ったマサヒコがそのショーツをどうするかなど、考えも及
ばなかった。
もっとも、中村リョーコはニヤニヤ笑っていたが。
そんなことがあってから二時間ほど経った後。授業も終わり、マサヒコのトランクス
を受け取ったアイは、嬉々として帰っていった。
(無理やり渡されたはいいが、こんなもの、どうすりゃいいんだ……)
強引にアイから渡された女物のショーツを前にして、マサヒコは途方にくれていた。
(大体、ブルセラショップじゃあるまいし、こんなもの寄越す嫁入り前の娘さんがどこ
にいるってんだ……)
始めはそんなまっとうな感想を抱いていたマサヒコだったが、彼とて思春期の男子、
眺めている間にちとおかしな方向に思考が行くのも無理はない。
(……でも、この布切れが……アイ先生の体を覆っていたのか……)
念のため、彼以外に誰もいるはずのない自室を見回して誰もいないことを確認すると、
マサヒコはショーツを手に取り、まじまじと眺めた。
薄いピンク色をした、可愛い下着だ。柔らかな手触り。前についているワンポイント
の飾り。縁についたちょっとした刺繍。アイの温もりが残っているような気さえして、
マサヒコの鼓動が次第に早くなっていった。
股間を覆う、幅の狭い部分の内側にかすかにこびりついているこれは、一体なんだろ
うか? そっと指で触れてみたマサヒコだったが、おりものだの、愛液だのという知識
は彼にはまだない。だが、それでも──女体の芯から分泌されたものであろうその汚れ
から、マサヒコは視線を離せなかった。
やがて、少年の下半身に血液が集中し始めた。
我慢できなくなった彼は目を閉じて、思い切って柔らかい布切れに顔をうずめた。
「すぅー、はぁー……」
(これが……濱中先生の匂い……」)
それが覆っていたはずの、柔らかく成熟しかけた、シミ一つないであろうアイの女体
を思い浮かべ、マサヒコの興奮がさらに高まっていく。
(先生………せんせえ!)
たまらなくなったマサヒコは、既にいきり立って血管を浮かび上がらせている肉棒を
ズボンから引っ張り出すと、傍らのティッシュの箱に手を伸ばした。
「はぁ……はぁ……」
マサヒコは幸せだった。それが、母の下着であるとは知らずに。