作品名 |
作者名 |
カップリング |
「濡れた初夢」 |
トマソン氏 |
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自室で安らかに眠っていた中村リョーコは、浅いまどろみからかすかに意識が戻って
きたところだった。
(んーっ……なんだか寒い……あ、そっか、シャネルの5番だけで寝たんだっけ……
気取りすぎたかなあ……)
布団を掛けなおそうとしたリョーコだったが。
(……動けない?! それに何かが口に食い込んでる……)
リョーコの体は、ベッドの上に大の字になって横たわっていた。両手両足を何かに
絡み取られがっちりと締め付けられており、身動きが取れない。
(一体、これは……)
リョーコはこわごわ目を開けた。明かりを落とした薄暗い自室の、見慣れた天井が
目に飛び込んできたが、手足が動かないのは相変わらずだ。ひんやりした何かが絡みつ
いているらしい。暖かい羽毛布団は、ベッドの下に滑り落ちているのだろうか、体の上
にはない。
「んー……むうーっ……」
声を上げようとしたが、手足に絡みついたものと同じような、冷たいつるりとした
細長いものが口に食い込んでおり、くぐもった声しか出なかった。
(……これは一体……まさか、泥棒に縛り上げられた、とか……)
力を入れれば、なんとか首だけは動かすことが出来た。力任せに首を回し、左腕に
視線をやると、そこには得体の知れない、太く冷たい何かが絡みついていた。直径は
約4センチというところか。茶色と緑色の迷彩模様を帯びた、長くて柔軟な何かだ。
(……な、何よこれ……)
首を回して右腕を見る。こちらも全く同じ状況だった。
(両脚も一緒なんだろうな……どういうこと……?)
リョーコは身動きも出来ず、腕に絡みつく奇妙に冷たいものを恐怖のうちに眺めた。
そのとき、下半身のほうからかすかな音がした。衣擦れのような、つるりとしたもの
が床を滑るような、ごくわずかな音だ。
リョーコは力を振り絞って首を起こす。
(……?!)
左右に割られ、絡み取られた両脚の間で鎌口をもたげているのは……。
(……へ、蛇?)
では、両手両脚に絡みつき、口を塞いでいるのは、蛇の胴体なのか。
「──?!」
女の口から、声にならない悲鳴が漏れる。蛇の冷たい眼と視線がぶつかったような気
がして、リョーコの美しい顔が恐怖にゆがんだ。
彼女はパニックに陥っていた。自室にこんな大きな蛇が居るはずがない、などという
真っ当な思考が働くはずもない。大蛇の、冷たいツルンとした長い胴に両手両脚を絡み
取られ、均整の取れた美しい全裸の体を大の字に固定されて身動きもとれず、声も上げ
られずにいるのだ。
一体、何をされるのか? それとも、時間が経ち、誰かに気づいてもらえるまで、
このままで居なければならないのか? もし、誰にも気付いてもらえなかったら?
薄い闇のなか、蛇が細長い舌を突き出しては引っ込めるのがぼんやりと見えていた。
蛇のもたげた鎌首が、リョーコの股間に音もなく近づいてきた。
(い、嫌……誰か……)
無残に開かれたリョーコの秘奥に、蛇の冷酷そうに光る眼が注がれている。ぞくっと
冷たいものが彼女の背筋を走った。
「──!?」
蛇が音も無く突き出した細長い舌が、リョーコの媚肉に触れた。女の体がピクンと
跳ね上がり、再び声にならない悲鳴が漏れる。もう一度。そしてもう一度。
(い、嫌……なんで蛇がこんなエッチなこと……蛇って卵生よね……)
自分の知識では説明のつかない蛇の行動に、頭が混乱するリョーコ。そうしている間
にも、細長い、赤くテラテラと光る舌がリョーコの柔肉に触れては引っ込み、彼女の性
感をくすぐった。
次に突き出された蛇の舌は、リョーコのもっとも敏感な小さな豆をつついた。
「むーっ……」
再び女の体が跳ね上がった。必死の思いで悲鳴を上げようとするリョーコ。だがそれ
でも、くぐもった声がわずかにあがるばかりで、助けを呼ぶには程遠かった。
秘裂まであと数センチというところで舌を出しては引っ込めていた蛇の頭が、再び
前進を開始した。それはゆっくりと接近し、ついにひんやりと冷たいツルンとした鎌首
の先端が、リョーコのそこをつついた。
「───!?」
蛇の胴体で猿轡をかまされた形のリョーコの顔がゆがみ、またしても声にならない
悲鳴が漏れるが、蛇の前進は止まらなかった。
冷たい大蛇の鎌首が、媚肉を割り、侵入してこようとしている!
(い、嫌あああぁぁぁっ! なんで、蛇がそんなところに入りたがるのよっ!)
リョーコは必死で腰をもがき、避けようとしたが、両手両脚を固定されていては、
悲しい程に無力な抵抗しかできなかった。かすかに揺れるリョーコの腰の動きに、蛇は
やすやすと追従した。鎌首をわずかに振るだけで、それは熟れた割れ目の正面に再び位
置を占め、割れ目に先端があてがわれるのだった。
「んーっ……んふっ……」
散々腰をもがいたため、リョーコの息は荒くなっていた。蛇の胴体の、リョーコの唇
に食い込んだ部分は、既に女の体温で生暖かくなり、唇と蛇の胴体とのわずかな隙間か
らは、唾液がつーっとすべすべした頬に垂れていた。
(い、嫌……濡れてもいないのに、そんなのが入ってきたら痛いんだから……)
ゆっくりと、冷たくツルリとしたものが侵入してくる。意外なことに痛みはない。
(……まさか……アタシ、濡れていた……の? )
自分は蛇の舌に責められて愛液を漏らしたのか? リョーコは愕然とした。
さらなるパニックに陥るリョーコにはお構いなしに、蛇はゆっくりと女体への侵入を
深めていった。
とうとう鎌首の太いところまでひんやりした蛇の頭を受け入れ、リョーコの体から
がくりと力が抜けた。
(い、嫌、嫌ぁ……そこに入っていいのは、熱いアレだけよ……冷たい……)
蛇の頭が、さらに体内深くまで侵入してくる。
それが体の芯、一番奥をつついたとき、美しい女の体が痙攣し、リョーコの意識は
ふっと消えた。
時は一月二日の深夜。というか三日の早朝。
中村リョーコは全身にびっしょりと汗をかいて目を覚ました。
(……夢、か)
それにしても、まさか初夢で蛇に犯されるとは。
(アタシってば、欲求不満がたまっているのかなあ)
しっとりと濡れた股間を指先で確かめ、溜息をつく。
確かにこのところ、引越しの手続きだの、卒業前の挨拶周りだの、入社前研修だのと
面倒なことが多く、少々疲れてはいたが……。
(だからって、裸で寝ただけでこれじゃあ困るわね)
というか、この寒い季節にモンローごっこもないものだが。
(これはやっぱり、思いっきり発散してやるしかないわねえ)
リョーコは携帯を手にしてMAILボタンを押した。
(新規作成、と……)
『TO: 豊田セージ
姫初めさせてやるからすぐ来い』
ぽちっと送信。
(……やっぱり、冷たいのは嫌。お熱いのが欲しいわよね)
と、心の中で考えたとき、なぜかリョーコの脳内にマサヒコの声が響いた。
『中村先生、蛇は変温動物です。冷たいのは当たり前です』
さすがマサヒコ、脳内にさえ突っ込み役として登場とは。
(そうじゃなくて、蛇は嫌なの! いいのは亀の頭だけよ! 熱くてふっといやつ!)
中村的ギャグを頭の中で飛ばしたところで、今度はなぜかアイの声が脳内に響く。
『あのう、先輩。亀もやっぱり爬虫類で変温動物ですから、冷たいと思いますけど』
アイは脳内でもやはり半天然だった。
(……って、そんな漫才はどうでもいいわよ! もう、セージ、早く来なさいよ!
来たらすぐできるように、綺麗にしといてやるから!)
彼女はベッドから全裸の体を起こし、バスルームに向かった。