作品名 作者名 カップリング
「10年前からのプレゼント」 トマソン氏 -


「あ……これは、昔の日記帳……」
 ここは天野ミサキの自室。ミサキは掃除中に本棚の奥に大昔の日記帳を見つけ、開い
てみたところだった。
 幼稚園に通っていたころ、ほんの数日だけつけた日記である。中には、見るからに
幼い子供が書いた、ひらがなとカタカナだけの大きな文字が並んでいた。

「きょうは、マサちゃんの5さいのたんじょうびでした。
マサちゃんと、マサちゃんのママと、ママとで、おたんじょうかいをしました。」

(うっわあ、懐かしい……このころは、毎日毎日マサちゃんと遊んでいたもんね……)

「みんなでケーキをたべたあと、マサちゃんといつものようにおままごとをしました。
たんじょうびのプレゼントのつもりでキスしてあげたら、おこられてしまいました。
でもそのあと、なかなおりして、およめさんにしてもらうやくそくをしました。」

(あ……あの夢のこと……私、日記に書いてたんだ……)
 ミサキは今でも時々夢にみる、マサヒコとの約束のことを思った。




 明日は、小久保マサヒコの15歳の誕生日。
 ミサキは掃除も棚上げにし、机に広げた日記帳に視線を落としながら、実際には何も
見てはおらず、初恋の相手を脳裏に描いて思いを巡らせる。ついあらぬ方向に思考が
行くのも、若さゆえというものか。
 机に手を伸ばし、引き出しからリボンを取り出す。これは以前、自分が両親から
もらった誕生日プレゼントに巻かれていたものだ。あまりかわいいので、捨てられずに
とっておいたものだが、今回は自分の首に巻き、頭のてっぺんで蝶結びにする。
 傍らのタンスから薄いピンク色のかわいいブラジャーを取り出すと、服の上から自分
の胸にあてがい、鏡台に自分の姿を映してみた。
 ちなみにこの下着は、ミサキの両親が結婚記念の旅行で不在になり、ミサキが小久保
邸に泊まったときに、もしかしたらの期待に胸を膨らませて着用していたもの。つまり
勝負ブラである。

(こうして自分にリボンをつけて、可愛い下着を着ていって、マサちゃんに言うんだ……
『マサちゃん、誕生日おめでとう……プレゼントは、わ・た・し……』
 そしたらマサちゃんは、きっと顔を真っ赤にして、
『ミサキ……ありがとう……』
って言って、そっと私の体に腕を回して、優しく抱き寄せて……映画みたいにゆっくり
とキスしてくれるの……そして……いったん唇を離すと、たっぷり見つめあって、もう
一度、今度はねっとりと舌を絡めるキスを……)
 鏡に向かって軽く目を閉じ、半開きの口の中で舌をうねうねと蠢かせ、恍惚の表情を
浮かべるミサキ。






「……ミサキ? 何をしてるの?」
 そこに現れたのは、いつのまに戸をあけたのか、雑巾とモップを手にしたミサキママ。
トリップしているミサキにあきれ顔だ。

「きゃああっ! 勝手に入ってこないでよっ!」
 掃除アイテムを頼んでいたのも忘れて妄想にふけっていたミサキは、あわてて下着を
タンスに戻すが、顔は真っ赤な上、頭のリボンはそのままだったりする。
「もう、掃除中に何を考えてるのよ?」
といいつつ、ニヤつくミサキママであった。
「好きなら、ちゃんと気持ちを伝えなきゃ、駄目でしょ? ひとりで妄想していても、
何も進まないわよ?」
「そそそ、そんな、マサちゃんが好きとか、キライとかじゃなくて……」
「マサヒコ君のことだなんて言ってないじゃない」
 天野ミサキ、語るに落ちてます。
「それより、掃除をちゃんとしなさいね、家事の出来ないお嫁さんなんて、カッコが
付かないんだから」
 自分のことは棚に上げるミサキママ。さらに畳み掛けるテクは人生経験のなせる業か。
「あ、そうそう、マサヒコ君に『わたしをあ・げ・る』っていう時は、ちゃんとこれを
持って行きなさいね?」
 ミサキママがエプロンのポケットから取り出してミサキに渡したのは、しゃれた装丁
のなされた、アルミのパック。もはやこのスレ定番、コンドームのプレゼントですな。
 それが何かを見て取り、ミサキは真っ赤になった。
「……か、母さん!」
「あはは、まあいいから、とっときなさい。あっと、掃除をするなら、リボンは外しと
きなさいね」
 無理にパックをミサキの手に握らせると、雑巾とモップを置き、ミサキママは笑いな
がら立ち去った。
 それにしてもコンドームをエプロンのポケットに常備とは、ミサキパパもまだまだ
現役と見える。さては裸エプ……いや、何でもありません、はい。





「もう、母さんったら……」
 部屋に残されたミサキ、とりあえずコンドームのパックをしまい込み、掃除を再開。
が、その前にもう一度、机の上においたままだった昔の日記を見やった。

「たんじょうびのプレゼントのつもりでキスしてあげたら、おこられてしまいました。
でもそのあと、なかなおりして、およめさんにしてもらうやくそくをしました。」

(約束……か……あ、次のページにもなにか書いてある……)
 ページをめくると、そこに幼い筆致で描かれていたのは、ウェディングドレスを着た
女の子の絵。
(このときの私は……こんな風になりたいと思って、この絵を描いたんだろうな……)
その絵が記憶のトリガーになったのか、十年前の情景が不意にミサキの脳内に蘇った。

 おままごとをしている、幼い男の子と女の子。
「ただいまー」
 仕事から帰ってきたつもりの男の子に、いつもなら『おかえり〜、あなた』という
ところだが、この日はすこーし大人のつもりの女の子。不意打ちで正面から抱きつくと、
「マサちゃん、たんじょうびおめでとう……」
チュッと、やわらかい唇同士が触れ合った。
 面食らった男の子に、女の子が恥ずかしそうに笑いかける。
「5さいのたんじょうびの、プレゼントだよ……」
 幼い女の子の、勇気を振り絞った贈り物だったが、男の子は不機嫌になり、向こうを
向いてしまった。
「ミサキ……だめじゃないか、こんなことしちゃ……」
「どうしてぇ?」
「もっとおとなになるまでだめだって、ミサキのママにいわれたろ? おれだって、
ほっぺたにキスしてもらったの、ママにみられて、おこられたんだ……そんなことする
なら、もうあそんであげないよ……」
 何よりも聞きたくない言葉に、女の子の目にじわっと涙がたまる。
「ぐすっ……ごめん、マサちゃん……マサちゃんがあそんでくれないのは、いや……
ぐすん……ぜったい、いやぁ……わあああん……」
 とうとう女の子は泣き出してしまった。
 幼いといえど女の子の涙には、男の子はかなわない。なでなでと、女の子の金髪の
お下げ髪のてっぺんをなでてやる。
「あっ、お、おいほらミサキ、泣くなよ……いいこにしてたら、ずっとあそんであげる
からさ……」 
 くしゃくしゃになっていた幼い女の子の顔が、ぱっと明るくなった。まだ頬を涙で
濡らしたままながら、笑顔が戻る。
「ずっと? じゃあ、ミサキをおよめさんにしてくれる?」
「うん、おとなになったらね」
「やくそくだよ、マサちゃん……」
「うん」
「わーい! うれしいマサちゃん……それじゃおままごとのつづき、しよ?」

……そこで記憶はふっと途切れた。
(私、子供の頃は……あんなふうに、マサちゃんに……)
 今の彼女は、すぐ近所に住む初恋の人、小久保マサヒコに、リボンをつけて迫るどこ
ろか「好き」の一言を伝えることも出来ない、悩める少女。
 マサヒコの誕生日のプレゼントにと用意した、しゃれた携帯ストラップの包みを手に、
もう一度鏡台に向かい、笑顔の練習をしてみる。
(今はこれが精一杯……明日はとっておきの笑顔で、これを渡すんだ……)
 ミサキはブンブンと頭を振り、リボンと日記帳を片付け、掃除に戻った。




 翌日。小久保マサヒコの十五歳の誕生日。
 小久保邸に濱中アイ、中村リョーコ、的山リンコにミサキといったいつものメンバー
がいつものように集まり、授業が終わったところで、この日は主賓のマサヒコを囲んで、
マサヒコママの心尽くしのケーキを真ん中に、簡単な祝宴を張った。
「♪ハッピバースデイトゥユー、ハッピバースデイトゥユー〜」
「おめでとう、マサヒコ君。また少し大人になったね」
「おめでと、マサ」
「……いや、嬉しいんですけど、恥ずかしいからそれくらいで……」
「照れることないじゃないの、いまさら。男らしく運命を受け入れなさい」
「いや、でも……」
「いいからいいから。それじゃみんな、プレゼントを渡そうか?」
 アイのせりふに、包みを取り出したミサキ。その他の三人、アイ、リョーコ、リンコ
はなぜか目配せを交わすと、洒落たリボンを取り出した。
 いぶかしむミサキを尻目に、リンコはおでこに蝶結びの蝶が来るように、可愛い水色
のリボンをハチマキ風に頭に結ぶ。
 アイはカチューシャよろしく頭に蝶がくるように、これまた可愛らしくオレンジ色の
リボンを結んだ。
 リョーコは何を思ったか、長い赤い色のリボンを体にたくみに回し、胸の膨らみを
強調するように……って、この縛り方は、亀甲縛りですかお姉さん。

 用意が整った三人は同時にマサヒコのほうに向き直った。
「え? え?」
 妖しく光る三人の瞳に、マサヒコは激しく動揺するが、逃げ場などない。
「マ・サ・ヒ・コ・君」
 まずアイが、マサヒコの右手にすがりつく。マサヒコの体にそっとしなだれかかり、
マサヒコの顔に腕を回して優しく自分の方を向けさせる。アイの甘い吐息がマサヒコの
顔にかかり、トロンとした女の目が少年の瞳を覗き込んだ。
「ちょ、ちょちょちょっと、濱中先生……」
「あーっ、そっちばかり、ずるい……こ・く・ぼ・くーん……」
 今度はリンコが、胡坐をかいたマサヒコの膝にちょこんと座った。
「お、おおお、おいまま、ま的山……」
 リンコが顔をマサヒコの胸にうずめ、甘えるようにこすりつける。リンコの真っ白な
細い腕がマサヒコの体に回り、手のひらが背中を優しく撫で回した。マサヒコの心臓が
バクバクと高鳴っているのが、リンコにさえ感じられる。
「あん……アタシもかわいがって、マ・サ……」
 真打ち登場。リョーコはマサヒコの左腕を取り、若い女の体を押し付ける。リボンに
によっていやが上にも強調された、豊かな胸の隆起の間にマサヒコの左腕をはさむと、
そっと自らの体を上下させた。少年の腕に、服越しに柔らかく張りのある膨らみがこす
りつけられる。こ、これはまさに腕パイズリ!
「な、なな、中村せ……ぬおっ……」
 リョーコのほうを向いたマサヒコの頬に、そっとリョーコが頬擦りをした。
「の、のおおおっ! ちょ、ちょちょちょちょちょ、ちょっと」
 マサヒコ君、三人に迫られて思考停止。そりゃそうだ。てか、マサヒコ、俺と代われ。
 二人の女子大生と一人の女子中学生がマサヒコの顔に思い切り顔を接近させ、二人は
甘く、一人は可愛らしくささやく。
「「「プレゼントは」」」
「わ」
「た」
「し」

「…………」
マサヒコ君、石化してます。





 プレゼントの包みを手にしたミサキは、信じられない情景に固まっていたが、ここで
ようやく体を動かせるようになり、弾かれたように突進した。パニックに陥り、目に涙
をためて、悲鳴に近い声を上げながら、あわてて三人を同時にマサヒコから引き離そう
と無駄な努力を繰り返す。
「だ、だめええええええぇ! 離れてぇっ!」
 しばらくじたばたした挙句、三人同時には無理と悟り、まずリンコを首に腕をかけて
マサヒコの膝からぐいとひっぺがし、中村リョーコを髪の毛を引っ張って力ずくで引き
離し、続いてアイの腰に自分の頭を当てて、渾身の力でブルドーザーよろしくマサヒコ
から押しはがす。
 リンコはともかく、ミサキよりはるかに大柄なアイやリョーコを腕力でマサヒコから
離せるはずはなく、二人が手加減したというのが真相だが、ミサキはそんなことに気づ
く精神状態ではなかった。
 ようやくマサヒコを一人にしたところで、ミサキは泣きながらマサヒコの胸に飛び込
むと、首に腕を回して薄いマサヒコの胸にすがりつき、そのシャツを涙で濡らした。
「マサちゃんには、ぐすっ……マサちゃんには……私がいるもん……」
 ミサキはマサヒコの胸に頭をうずめ、すすり泣いた。




 数秒後。
「くくくっ……」
「あ、あはははは……」
「あー、本当にミサキちゃん、小久保君のこと好きだったんだー!」
(……?)
 顔を上げたミサキの目に入ったのは、リボンをつけたままで、腹を抱えて笑う大学生
コンビと、好奇心の目を燃やしている天然娘。
「あはは、ごめんねミサキちゃん、あはは、つい……」
「アンタ達、ぜんぜん進まないから、ショック療法よ、くくくっ……こうやってマサを
たぶらかせば、アンタが介入してくると思ったんだけど、いやあ、もう見事にコクって
くれたわねえ……くくくっ」
「というわけだから、マサヒコ君、覚悟はいいわね? ちゃんとミサキちゃんを大切に
してあげるのよ?」
「ミサキちゃん、パンツ濡れてない? 好きな人のことを考えるどころか、胸に飛びこ
んじゃったんだもんね」
 三人は口々に勝手なことを言っている。

 ここでようやく、三人の……というよりおそらくは、中村リョーコの作戦にずっぽり
とはまったことを悟ったミサキ。あわててマサヒコにもたれかかった体を起こす。
「えっ……ち、違くて、そういう意味じゃ……そうじゃないのマサちゃん、これは……」
「……」
 マサヒコは思考停止の上に、展開が速すぎて気の利いたことなどいえる状態ではない。
「じゃ、ちょうどケーキもあることだし、二人でケーキカットといきましょうか。はい、
包丁」
と、リョーコが包丁をミサキに渡す。
「それでは、新郎新婦によるケーキ入刀です!」
「パチパチパチ」
 ノリノリのアイとリンコが煽る。いつから結婚式の司会になったんですかアイさん。
「そ、そうじゃなくて……わ、わああああん!」
 ミサキはまたしてもパニックに陥り、顔をくしゃくしゃにしたまま、ぶんぶんと腕を
振り回した。ようやく石化が解けたマサヒコはそのミサキの至近距離にいた。
「わ、わ、馬鹿、ミサキ! 包丁を振り回すな! 危ないから!」
 マサヒコ君、命がけだから必死です。

 この後、マサヒコママまで加わっての大騒動になったのだが、まずミサキからナイフ
を取り上げた後、冷やかし、からかい、否定、ボケ、冷静な突っ込みが約一時間に渡り
飛び交った挙句に、ようやくにしてその騒ぎも静まり、皆でケーキをパクついた。
「わかってるよ、ミサキはまじめだから、風紀が乱れると思って止めに入ったんだろ?」
と、ニブチン全開のマサヒコには、ミサキ以外の女性陣一同、不満たらたらだったが、
なにはともあれ、マサヒコの誕生会は無事に終了した。
 明日から、また平穏な日々が待っていることだろう



 自宅に戻ったミサキは、自室に閉じこもってベッドに身を投げ、さっきの誕生会での
出来事を反芻していた。
(もう、三人とも、意地悪なんだから……。結局、マサちゃんは私の気持ちに気づいて
くれないし……って、必死に否定したのは私だけど……。あんな勢いだけの方法じゃ
なくて、ちゃんとロマンチックな場所で告白するんだもん……。
 でも、リボンをつけて、『プレゼントはわ・た・し』か……さっきのマサちゃんを
見れば、効果があるのは間違いないみたい……。
 マサちゃん……今はまだ、私をなにもかもあげる勇気はないけれど……あの約束、
私は忘れないからね……いつかきっと……)
 つと身を起こし、机の上に置いたままの昨日見つけた日記帳をそっと開く。

「およめさんにしてもらうやくそくをしました」
 ほんのり頬を赤らめ、その幼い文字を凝視するミサキ。

(私を全部あげるときは、中村先生みたいにリボンを巻いていこうかな……そうすれば
胸も少しは大きく見えるかも……)
 亀甲縛りという言葉も知らずに、乙女の妄想からはみ出ているミサキであった。


一方、こちらは帰路を歩くアイ、リョーコ、リンコの会話。
「あー、面白かった」
「作戦は成功したけど、マサヒコ君のニブチンは相変わらずですねえ。もっと強烈な
手を考えましょうか」
「先生、今度はいっそ、ミサキちゃんのパンツが濡れてるところを、小久保君に見せ
ちゃったらどうでしょう?」
「でも、パンツじゃありきたりねえ。どうせなら、ノーパンの気持ちよさにミサキを
目覚めさせてからにすれば……って、アタシもこの前目覚めたばかりだけど」
「でもそれじゃ、濡れたアソコが見えちゃいますよお」
「アハハハハ」
 過激な会話に似つかわしくない、華やいだ笑い声が響いた。

 前言撤回。平穏な日々など待ってはいない。次なる騒動がすぐそこまでやってきて
いた。

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