作品名 作者名 カップリング
「暴走回避」 トマソン氏 -


(……なんていうか……目のやり場に困るっつーか……)
 小久保マサヒコは少々困惑していた。
 ここは小久保のマサヒコの部屋。いつものように、マサヒコ、濱中アイ、的山リンコ、
中村リョーコの四人で二組の家庭教師の授業が行われている。
 もうすっかり夏とあって、女性陣がみな、薄着なのは当然ではある。その中でもとり
わけ無防備なのが、的山リンコ。彼女はかわいいピンク色のタンクトップを着て、マサ
ヒコの左隣に座り、向かいの席に座った中村の授業を受けている。
 リンコは机に広げたノートに真剣なまなざしを向けている。それはいいのだが、机に
向かって前かがみになっているため、重力に従ってタンクトップの胸元が開いてしまい、
隣に座ったマサヒコの視点からは純白の子供っぽいブラジャーが丸見えだ。それどころ
か、わずかな胸のふくらみとブラジャーとの間に隙間が出来て、絶妙の角度でほのかな
隆起と、その先端に息づく桜色の可愛い乳首までがチラチラとのぞいていた。
(ゴクリ……)
 思わず横目で眺めてしまう。たまらず口のなかにたまった生唾を飲み込む。
 思春期の男子に授業に集中しろといってもこれでは無理だ。



「I went to the library to read a newspaper. この二つ目のtoは目的を示す不定詞
の副詞的用法っていうあれね。
To read a newspaper needs much time. これは名詞的用法で……マサヒコ君?」
「……ひゃ、ひゃいっ!」
 横目でリンコの乳首を注視していたマサヒコは、アイに話しかけられ、思わず声が
裏返った。あわててアイの方に眼球を向ける。
「どうしたの? なんだか集中してないわよ」
「いえ、そんなことは……」
「そう? それならいいけど……それで不定詞っていうのは……」

(つーか、濱中先生は濱中先生で……)
 マサヒコの向かいに座った濱中アイは、これまた胸元の開いたブラウスを着て机に
かがみこみ、マサヒコのノートに目を落としている。その結果、マサヒコの目には、
清楚な薄いブルーのブラジャーと、リンコにはない豊かな胸の膨らみ、その間にある
谷間、谷間を頼りなく渡っているカップの間の紐までも丸見えになっている。
 首筋から胸元までのすっかりあらわになった真っ白な肌。カップの縁についている
レースと思しきフリル。そして胸の膨らみを覆っているカップには、アジサイの花模様
だろうか、ちょっとした刺繍がなされている。
 マサヒコは英語の授業に集中するどころではなく、視線をそこから離せなかった。
(ゴクリ……)
 またしても生唾を飲み込む。胡坐をかいて床に座った股間が熱くなってきた。

(ふーん……マサも男の子らしくなってきたかね)
 そんなマサヒコの様子にいち早く気がついたのは、もちろん中村リョーコだ。
 それならリンコやアイに注意を喚起するかといえば、面白いから放っておく。いや
それどころか、むしろ焚き付けるのが中村クオリティ。


「マサ? アンタも女の体に興味を持ち始めたってことね?」
「あ゛? いや、その、なんでもないです、はい。それより授業を……」
「いいからいいから。男の子なんだからね」
「? 先輩、なんのことです?エロ本でも見つけましたか?」
「というか、まだ気づかないアンタたちもすごいわね」
「?」
 確かに、ここまで会話のネタにされても、全く気づかないアイとリンコの天然ぶりも
凄いものがある。
「じゃ、アタシもちょっとサービス」
リョーコ自身は普通のTシャツにジーンズ姿で、ブラチラの恐れはない。その代わり、
後ろを向くと、しゃがみこんだ姿勢で上半身を前に倒す。
 ローライズのジーンズの上の縁から、パンティの後ろの上縁があらわになった。
「どうかしら?」
「ちょ、ちょっと中村先生……ってなんですか、その紫のラメは。」
「あら、純真な中学生には刺激が強すぎたかしら?」
 というか、それは中学生を萌えさせるアイテムじゃないぞ中村リョーコ。
「先輩、そんなモノ見せちゃ……」
「アンタに言われたくないんだけどね」
「?」
「? 先生、何のことですか?」
 アイもリンコもいまだに、自分たちがマサヒコの視線に何を晒したか、気がついて
いない。リョーコは体の向きを直した。
「さ、授業を続けるわよ」
「……? はい」

 ともあれ、その日の授業は無事に終わった。
(さてと、マサがこうなったからには、焚き付けるのは一人しかいないわねえ……)
中村の悪企み、発動。




 翌日。
 リョーコ、アイ、天野ミサキの三人が喫茶店でお茶を楽しんでいた。
 リョーコとミサキの前にはミルクティーとケーキの皿。パフェを口に運ぶアイの前に
は、空の皿が既に3枚ほど重なっているのはお約束だ。
「ところでミサキ」
「はい? なんですか、中村先生」
「この前、マサと一晩一緒に過ごしてから、お互い、名前で呼び合うようにはなった
みたいだけど……」
「な、ななな……」
「まだ、最後までは行ってないみたいね」
「!”#%&」
「……先輩、もう少し遠慮ってものが……」
「あら、そう? ミサキ、あんただって、ほかの女にマサを取られたくないでしょ? 
マサも最近、女の体に興味を持ち始めたみたいだし……」
「またそれですか。一体、何があったんですか?」
 アイの質問には答えず、リョーコはミサキの耳に口を寄せ、リンコとアイの胸チラに
マサが授業どころではなくなったことをささやく。
 事ここに至っても、アイにはばらさないところもまた、中村クオリティ。



「なっ……そりゃ、マサちゃんだって男の子なんだから、見たいかも知れないけど……
でも、そんな……そんな……」
 話を聞いたミサキが、いわくいいがたい視線をアイの胸の隆起に向ける。自分には
ない、豊かな盛り上がりに向けたその視線は、自分が好きな男を誘惑したことへの怒り
と、それ以上の羨望と嫉妬とがこもっていた。
 小さな体の周りから、闘気がわずかに噴き出す。同時にその瞳に、じわっと涙が
溜まっていった。
「ミサキちゃん? いったい、なあに?」
 アイはもちろん、マサヒコに何を晒したか気が付いていないのだから、マサヒコを
誘惑したつもりなどこれっぽっちもない。ミサキのすさまじい視線も、何がなんだか
分からず、ぽかんとミサキの名状しがたい表情を見つめる。これがアイ・クオリティ。
「う゛〜〜……」
 ミサキは自分の貧弱な胸が悲しかった。ブルブルと体を震わせ、その両頬を涙が
伝って流れた。
(またやっちまった!?)
 中村リョーコはまたミサキを泣かせてしまった。

「いやでも、ほら、それは男として当然のことだから。マサも、やっと女の体に興味を
持ち始めたってことで、いいことなんだから。ほら、ここでアンタが一押しすれば……」
必死のフォローも後手に回った。既にミサキの心は先走り、止まらなくなっていたのだ。
 涙をボロボロとこぼしながら、ミサキは心に決めた。
(こうなったら……こうなったら……私の体で……)
 ミサキ暴走モード、開始。



「ただいま……って、鍵しまってたんだから、誰もいないよな」
 マサヒコは丁度、中学から家に帰ってきたところだった。食卓の上には、いつもの
ようにマサママの書置きが残っている。
「町内会の集まりで出かけます。食事はカレーが出来てるから、暖めて食べてね」
『カラオケ』というのが二重線で消され、『町内会の集まり』に訂正されている。
 これもいつものマサママ・クオリティ。
「やれやれ、母さんはまたカラオケか……」
 なにはともあれ、着替えたマサヒコはカレーの鍋を火にかける。そのとき、玄関の
ベルがピンポーンと鳴った。

「ん? ……はーい」
 マサヒコが玄関に出てみると、そこには食器が乗ったお盆を手に、天野ミサキが
立っていた。
「マサちゃん……うちの母さん、どこかに出かけていて、いないの……食事は作って
いってくれたんだけど、一人で食事してもおいしくないから……一緒に食べよ?」
「お、天野か。きっとお前んとこの母さんも、うちの母親がさらっていったんだな。
それじゃ、上がってくれ。」
 ミサキは土間から上がろうとしない。目に涙を溜めて、マサヒコを見つめている。
「……天野?」
「ぐすっ……この前、名前で呼んでって、いったでしょ? ぐすっ……ミサキって、
呼んでよ……」
 ミサキはもう涙声だ。



 マサヒコは、先日ミサキが自宅に泊まった時のことを思い出した。
「私たち、幼馴染でしょ…… 私のことも……名前で呼んで……」
 パジャマ姿のミサキがマサヒコの手に自分の手を合わせ、潤んだ瞳でマサヒコの瞳を
まっすぐに見つめ、そういったのだ。
 あの時はマサヒコだって心臓が爆発しそうだったのだ。照れ隠しに
「ミサキ……口、ニンニクくさっ!」
といってごまかしたが、そうでなかったら、マサヒコの自制心だってどうなっていたか
分からない。

 ミサキはお盆を手に、目に涙をため、マサヒコが名前で呼んでくれるのを待って
立ち尽くしている。
(……駄目だ)
 マサヒコはこの沈黙に耐え切れなかった。求められるままに下の名前で呼びかける。
「……そうだったな。ミサキ、上がってくれ……」
「……うん……」
 ミサキは名前で呼んでもらい、ようやくマサヒコに笑顔を見せてくれた。

 カレーも温まったところで、炊飯器からご飯をよそい、カレーをかける。
「せっかくだから、半分こして食べよ?」
 ミサキが持ってきた天野家の料理は、これは天津丼だ。マサヒコとミサキは天津丼を
半分こにして、あとは満腹になるまでカレーを食べた。ミサキはカレーを1/2杯、
マサヒコはカレー2杯。
「やっぱり小久保君のお母さんの料理はおいしいねー。それに、やっぱり、男の子の
食欲ってすごいね……」
 ミサキは成長期の男子の食欲に微笑んでいる。
(やっぱり、可愛いな……天野も……)
 なにかと女性に囲まれているマサヒコだが、一人一人の魅力を認めないわけでは
ない。ただ、特定の一人と親しくなる気がないだけだ。
「ごちそうさま……洗面所、借りるね?」
 食事も済んだところで、ミサキは洗面所に姿を消した。


 マサヒコが居間の二人がけのソファに座ってテレビを見ていると、やがて洗面所から
出てきたミサキがやってきて、隣に腰かけた。
 そっとマサヒコに寄り添い、マサヒコの左腕を取り、自分の肩に回す。その仕種に、
マサヒコの心臓が跳ね上がった。
 ミサキは切なげな上目使いとはにかんだ微笑みを全開にし、隣に座る男性を見つめる。
「お、おいアマ、いやミサキ……」
「……ねえマサちゃん。薄着の女の子って、気になる?」
「……? えーと……」
「中村先生に聞いたの。マサちゃんが、授業中にリンちゃんとアイ先生の胸元を気に
してたって。ねえ、やっぱり女の子の体、見たいの?」
「!@#$%? いや、その……(あのメガネー!!)」
「……いいのよ、それは。男の子なんだから、当たり前だよね。でもね、マサちゃん。
女の子の体が欲しくなったら、私が……私が、いるからね。私に、言ってね……」
 恥ずかしそうに顔を真っ赤にし、それでも視線をそらさず、マサヒコの目をまっすぐ
に見てそう告げるミサキ。
 マサヒコの心中に警報が鳴り響く。これは先日の『名前で呼んで……』よりヤバイ。
 彼は先日のごまかし作戦成功を思い出し、とっさに
「ミサキ……口……」
まで言いかけたが、今日のミサキの口臭は全くいやな匂いがない、いやむしろ清潔な
それであることに気づき、言葉が続かない。
「この前は、口が臭くってごめんなさい……今日は、丁寧に歯も磨いたし、モン〇ミン
でうがいもしたから、大丈夫でしょ?」
 先手必勝。ミサキ、GJ!
「うん、臭くない……いい匂いだな……」
 こうなるとミサキペースだ。



「それで、言いかけたことだけど……女の子の体に興味があるなら、私に……私に、
言って欲しいの。いつでも、女の子の胸が見たくなったら……」
 ミサキはブラウスの胸のボタンをゆっくりと一つずつ外していく。
「お、おいミサキ……」
 マサヒコは狼狽しつつ、あらわになっていくミサキの白い肌から視線を外せない。
「私に、言って……」
 ブラウスを脱いだミサキの上半身は、純白の可愛い模様のついたブラジャーだけを
纏って、マサヒコの視線に耐えている。
 ミサキは続いて背中に手を回し、ブラジャーのホックをぷちんと外す。恥ずかしそう
にゆっくりその布切れを腕から抜くと、ほのかな胸の隆起と、その先端に息づく、ごく
薄い色のかわいらしい乳首がマサヒコの視線に晒された。
 マサヒコは激しく狼狽し、呂律が回らないながらも、
「ミ、ミサキ……服を着ろ、服を……」
 といいつつ、乳首から視線を外せないのは思春期クオリティ。下半身が熱く蠢動を
開始する。
 ミサキは立ち上がると、そっとマサヒコの首に腕を回し、ほのかな胸の隆起を
マサヒコの顔に押し付けた。
「むむぐ……、こら、おいミサキ……」
「ごめんね、私、おっぱいが小さくて……でも私は……私の体は、マサちゃんだけに
見て欲しいの。だから、マサちゃんも、私だけを見て……」
 しばし、その体勢でミサキはマサヒコの荒い吐息をその胸で感じ続けた。
 マサヒコが力任せにミサキを振りほどこうと思えば、出来たろう。しかし、マサヒコ
もまた、この甘美な時間を失いたくなかった。思春期の男なれば当然のことだ。
 しかし、一体どこまで進んでしまうのか? マサヒコの心中には、不安も渦巻いて
いた。



 ようやく体を離したトップレスのミサキは、ソファに座るマサヒコの前に立った。
「女の子のパンツが見たくなったら……」
 ミサキは羞恥に全身を染め上げながら、ミニのフレアスカートの脇のファスナーを
下ろす。布地をつまんだ指を離すと、ストンとスカートが落ち、ミサキはこれまた純白
のかわいらしいパンティ一枚を纏うばかりになった。
 すらりと伸びた脚、ほっそりした太腿。腰の周りを覆う布切れは、縁の飾りも、ワン
ポイントの刺繍も、微妙なあたりのほのかな隆起も、隠さずマサヒコの視線に晒されて
いた。
「私に、言って……いつでも……」
「み、ミサキ! 待て、落ち着いて、服を着ろ……」
「マサちゃん……好き……私、マサちゃんだけに、見て欲しいの……」
 初恋に落ちて以来これが初めてだった、「好き」の一言。自分の言葉に背中を押され
るかのように、ミサキはわずかに腰の周りのみを覆うパンティの縁に指をかけた。
「だから、女の体を何もかも見たくなったら……」
一瞬の躊躇ののち、最後の一枚を自ら剥き下ろしていく。
 マサヒコの下半身はもう痛いほどに充血している。が、彼は、この幼馴染の美しい体
を穢す気にはまだなれなかった。
「み、ミサキ! 落ち着け……」
 ミサキはとうとう全裸になった。羞恥に全身を桜色に染めた、少女の体がマサヒコの
視線に余すところなくあらわになる。
 ミサキは、マサヒコをソファに押し倒した。これまた、マサヒコがミサキを押しのけ
ようとすれば出来たろうが、力任せに押したら壊れてしまいそうな、たおやかな裸身に
乱暴をする気には、マサヒコはなれなかった。
「私を、私だけを、見て……」
 なんとミサキは、ソファに横たわるマサヒコの顔の上にまたがり、そっと腰を下ろ
した。普段着の男子中学生がソファに横たわり、その顔面に騎乗するポーズの全裸の
金髪の少女。そのアンバランスがなんとも卑猥な情景を形作った。



 マサヒコの前に、ミサキの秘奥が広がった。自分の頬に押し付けられた、すべすべの
太腿。まだ濡れていない、処女そのものの薄い色をたたえた、ぴっちりと閉じた割れ目。
それを覆うには程遠い、産毛程度に生えた、やはり金髪の恥毛。マサヒコの鼻腔を、
すえたチーズのような匂いがくすぐった。
 マサヒコも目の前に広がった女の体をじっくり眺めたいのは確かだったが、わずかに
残った、最後の自制心が、暴発気味ながらいい仕事をした。

(や、やばい! いくらなんでもこれはヤバイ! ……そうだ、こうなったら……
ごめん、天野……)
 マサヒコは内心でミサキに謝りながら、絶対タブーの一言を口にした。

「ミサキ……下の口、くさっ!」

 その一言に、ミサキは体を硬直させた。体を浮かし、ソファから降りると、
目に涙を一杯にして、脱ぎ捨てた衣服を拾い集める。
「マサちゃん……ひどい! うわ〜ん……」
 ミサキの打ち下ろしストレートがマサヒコの顔面に炸裂! ミサキは号泣しながら、
洗面所に消えていった。
(天野……ごめん……本当は、むしゃぶりつきたいくらい綺麗だったし、いい匂い
だったけど……でも、今の俺達には、あれ以上は……)
 マサヒコは顔を押さえて痛みに耐えつつ、さっきの眺めを反芻する。当分、夜の
おかずには困らない。
 ようやく服を来たミサキは、泣きじゃくりながら、小久保邸を走り去っていった。



 ミサキは自室のベッドで泣き続けた。枕がすっかり濡れたころ、ようやく涙も
枯れ、顔を上げたミサキは決心した。

 次は歯磨きだけでなく、お風呂に入って、よーく体を洗ってから行こう。
 私の体を見せるだけじゃなく、マサちゃんの体も見せてもらおう。

 耳年増で、健気で、一本気。これがミサキ・クオリティ。


 ついでながら、マサヒコが翌日、中村・濱中タッグにボコボコにされたことは
言うまでもない。
「マサヒコ君、デリカシー無さすぎよ!」
「処女なんだから匂いくらい覚悟しときなさい!」
ドスッボカバキッゲシッ!
 袋叩きにされながら、マサヒコはそう悪い気分ではなかった。
(ごめん、天野……でもやっぱり、まだお前を穢す覚悟は出来ないし、もうしばらく、
みんなでバカやって生きていたいんだ……)
 優柔不断、事なかれ主義、でも優しい。これが最後を飾るマサヒコ・クオリティ。

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