作品名 作者名 カップリング
「お嬢様の心の傷とマサヒコ風騎士」 トマソン氏 アヤナ×マサヒコ


「・・・遅くなっちゃったわね」
 あたりは既に薄闇に包まれている。若田部アヤナは家路を急いでいた。
「委員会の仕事も面白いけど、薄暗くなるまでかかるのはきついわね・・・
それにしても、花粉症の季節が終わって本当に良かったわ」

 アヤナの家は学校から近い。ほとんどは明るい道だが、数十メートルの間だけ、
両側に茂みに囲まれた、やや暗い細い道を通らなければならない。
「毎日通ってはいるけど、もう少し明るいといいのに・・・」
アヤナはいつも通り足を進めた、その刹那。
「・・・?」
 何か妙な気配を感じて後ろを振り返ろうとした、その一瞬前に、サングラスをかけた
黒づくめの男がアヤナの後ろから音もなく接近し、こぶしを振り回し、みぞおちに
一撃を入れた。
「くふっ・・・!」
息がつまり、体がくの字になる。
 男はアヤナの体を、強引に茂みのなかに引きずり込むと、地面に押し倒した。
 アヤナは一瞬なにが起こったか分からなかった。腹部にいきなり痛みが走り、
たまらずうずくまろうとしたところを腕と腰を強引につかまれ、体を振り回され、
茂みに連れ込まれる。
 はっと思ったときには、地面に直に仰向けに転がされ、サングラスをかけた男が
自分の体に馬乗りになっていた。
「(・・・痴漢?!)」
「ひょーっ、上玉じゃねえか・・・おとなしくしな。そうすればすぐに終わる」



 粗野なサングラス男は乱暴にセーラー服の上を破り、一方の手でブラのカップを
無造作につかみ上にずらす。もう一方でスカートを思い切り捲り上げる。
「だ、誰か助・・・むぐーっ・・・」
腹部の痛みで思うに任せぬながら悲鳴をあげかけたが、男の手がアヤナの口を乱暴に
押さえる。爪が頬に食い込み、アヤナの顔がひきつる。。
「おとなしくするんだ。さもないと、綺麗な顔がふた目と見られないようになるぜ」
 恐怖に歪んだアヤナの顔を、男が気味良さげに見下ろす。
「ガキの癖にいいオッパイじゃねえか・・・ゆっくり楽しませてもらうぜ」
空いたほうの手がアヤナの乳房に伸びる。アヤナは必死で身をもがき、くぐもった
悲鳴を上げるが、男の手を逃れることは出来そうになかった。 
 恐怖と絶望で、アヤナの気が遠くなっていく。

 マサヒコはサッカーで友人たちと楽しんでの帰宅途中だった。
 夕闇のなか、20mほど前に同じ学校の制服の女子が歩いている。角を曲がって
細い道に入っていった女子生徒を視界の隅で捉えつつ、T字路を直進しようとした。
「だ・・・たす・・・」
 かすかな悲鳴を聞いたのはそのときだった。
 反射的に声のほうを向く。さっきの女子生徒が曲がった細い道を見渡すが、どこにも
姿が見あたらない。
 マサヒコは暗い道に踏み込み、急ぎ足で進みつつあたりを見回す。どこからともなく
低い声が聞こえてくる。茂みが乱れたところを見つけ、中を覗き込むと、黒づくめの男
がセーラー服の少女に馬乗りになっている!
「何をしている!やめろ!」 
 マサヒコのこめかみを石つぶてが掠めた。こちらの足音に気づいた暴漢が投げたもの
に違いなかった。
 マサヒコは大急ぎで大きく息を吸い、
「誰か〜!」
 肺も裂けよと、かつてない声量を発揮した。
「ちっ!」
 男はものすごい勢いで逃げていった。



 マサヒコは追いかけようとしたが足を止めた。足の速さではかないそうにない、それより
女の子を助けなければ。
「大丈夫ですか・・・!?わ、若田部!?」
 アヤナは地面にあおむけになったまま、まだ呆然としていた。頬には爪が食い込んだ
跡が痛々しい。セーラー服は無残に破れ、ブラジャーは上にずらされ、両方の豊かな
乳房があらわになっている。スカートはすっかりまくりあげられ、大人びたパンティが
上のラインまでマサヒコの目に飛び込んでくる。
 アヤナの無残な姿にマサヒコも一瞬固まり、魅惑的な眺めから視線を外すのに大変な
努力を要した。が、ここで救ってやれなくては男子の沽券にかかわる。
 危ないところだったが、貞操に大事はなさそうだ。マサヒコはアヤナの肩をつかんで
揺さぶった。
「若田部!おい、若田部!しっかりしろ!」
「・・・こ、くぼ、くん・・・?」
 ようやく目の焦点が合ったアヤナは、自分の姿に気づき、あわてて胸を隠し、
スカートの裾を直すが、その目からはじわっと涙が噴きだした。
「う・・ひっく・・・あ、うう・・・ひくっ・・・」
「ひどい目にあったな・・・怪我は大丈夫か?」
 アヤナは答えることが出来ず、すすり泣いた。マサヒコは上着を脱ぎ、ようやく体を
起こしたがまだ地面にすわったままのアヤナのそばにしゃがみこみ、アヤナに上着を
かけてやった。




「・・・小久保君・・・」
「ああ、俺だ。もう大丈夫だ」
「小久保、君・・・」アヤナはたまらず、マサヒコにすがりついた。両手を首にまわし、
ぬくもりを欲するかのようにその体をマサヒコの体に押し付け、すすり泣く。
「ぐす・・ひっく・・・小久保君、ありがとう・・・怖かった、怖かったよう・・・」
 マサヒコはアヤナの背中に腕を回し強く抱きしめ、今は泥さえついているが美しい
栗色の髪の毛をやさしく撫で続け、
「もう大丈夫、大丈夫だ・・・」
と落ち着かせ、アヤナが多少なりとも自分を取り戻すまで待った。
 マサヒコとて男、首にからみついたアヤナの腕のすべすべした肌、アイより大きそうな
アヤナの胸の感触を感じて心臓が高鳴っていたが、ここで勃たせるわけには行かない。
さっき学校で習った因数分解の問題を思い出し、必死にこらえた。

 マサヒコの大声で出てきた近所の老人が、事態を見て取って救急車を呼んでくれた。
アヤナの顔の傷が心配だったが、1,2日で綺麗になくなると知り、マサヒコは安堵した。
そこへ、若田部アヤナの母、ハルナが病院に着替えを持って駆けつける。
警察にも回ってから、マサヒコはアヤナ&ハルナを自宅に送り届けた。



 もう時刻は9時近い。アヤナを落ち着かせ、なんとか寝かしつけたハルナが
マサヒコに何度目かのお礼を言いつつ、お茶をご馳走していた。
「小久保君、本当にありがとう。あなたが居なかったら今頃アヤナは・・・」
「いや、礼なんて。それより、わかた、いや、アヤナさんが無事でよかったです。」
「何度お礼を言っても足りないくらいよ。今度、ご両親にも挨拶させていただくわ。」
「いえ、気になさらずに・・・」
「ところでね小久保君。お願いがあるの。」
 ハルナは座りなおし、まっすぐにマサヒコを見つめた。年齢は40には満たないだろう、
アヤナと同じ栗色の髪の毛を後ろで無造作に束ね、主婦然とした地味な姿だが、
まだまだ美貌は衰えていない。
「なんでしょう?」
「あのね、アヤナを守ってやって欲しいの」
「え?あの、守ってって・・・」
「あなたのおかげで体の傷はたいしたことはなかったけど、あの子の心はひどく傷つい
ているわ。多分、男の子には分からないでしょうけど、あの子の心は今、壊れる寸前。
ちょっとした冗談でもどうにかなってしまうかも知れない。
 見ての通り、愛想のない娘だけど、ああ見えても繊細な心の持ち主なの。
 家にいるときは私が気をつけるし、パパやあの子の兄にもよーく言って聞かせる
けれど、学校にいるときや帰り道が心配なの。
 だから、お願い。あの子の心の傷が癒えるまで、あなたの目の届くところにいる間は
あの子を守ってあげて。」
「・・・分かりました。やってみます。
 ・・・あの、もう遅いから、これで失礼します。」




 その翌日から、マサヒコは学校にいるときは常に視界の中にアヤナを入れておき、
帰り道はアヤナと一緒に帰るようになった。
 アイが学校に迎えに来るのも断り、アヤナと二人で歩くほんの5分ほどの回り道。
 言葉少なで、表情も陰りがちだった数日の後、アヤナはどうにか他愛のない話を
しながら歩けるようになった。
「小久保君・・・合宿の時の責任は、これでチャラにしたげる。
でも、私のハートを盗んだ責任が新しく出来ちゃったわよ?」
「冗談はよせよ、本気にしちまうぞ」
「いいよ?あ、でも、風紀を乱しちゃダメよ?ウフフ」
「そういえば、あの金魚、まだ生きてるのか?」
「ええ、元気よ。」
「金魚すくいの金魚なんて大概、長持ちしないそうだけど・・・」
「小久保君がくれた、初めてのプレゼントだもん。あれが死んじゃったら、
私、悲しいな。」
 いままでのアヤナだったら考えられないような台詞だ。貞操の危機を救ってもらった
ことで、純粋な信頼とわずかな甘えがアヤナの中に生まれたようだった。マサヒコも
そのちょっとした甘えに悪い気はしない。
 そして、こんなときのアヤナは、それまでは見せたこともないような天使のような
笑顔をマサヒコに向けてくる。マサヒコはそのまぶしさにくらくらしていたが、精神力の
限りをつぎこみ、内なる欲望を断ち切った。
 マサヒコはアヤナに邪心は持つまいと心に決めていた。
 俺の欲望なんかどうでもいい。万が一にも、今、この娘の心に傷を重ねては
いけない・・・。



 その日は家庭教師はない日だった。家に帰ったマサヒコはワイシャツのままベッドに
身を沈め、もの思いにふけった。時々、アヤナの笑顔がひとりでに脳裏に浮かんでくる。
「(そういえば若田部の屈託のない笑顔なんて、いままではめったに見なかったな。
ま、もともと学年でも屈指の美少女だし、その上成績優秀、料理も裁縫も完璧とくれば、
これで愛想が良かったら親衛隊が出来ちまうだろうが。
 でも、あの笑顔は今のところ俺にだけ向けてくれているようだ。あれが誰にでも向け
られるようになったら、俺の仕事も一段落か。
 ハルナさんの願いにも、なんとか応えられるかな。)」

 さらに数日後。アヤナは以前通りに、いや、以前にも増して明るくなった。尖がった
ところがなくなり、接した相手に厳しさより優しさを感じさせるようになったと
もっぱらの評判だ。
 笑顔も、マサヒコだけでなく、皆に向けることが出来るようになったらしく、若田部
の笑顔に皆、幸せな気分になっているようだ(戸川ユキを除く)。
 クラスの男子は本当に親衛隊を作ろうと画策しているらしい。
 もう、大丈夫だろう・・・。




 その日もアヤナを送り届けたマサヒコは、お茶をご馳走になりつつ、アヤナが
中座した隙にハルナに話しかけた。
「あのう・・・アヤナさんの心が癒えるまで、アヤナさんを守って、というお話
でしたが・・・もう、大丈夫だと思います。以前よりもいい笑顔を見せていますよ。」
「そうね、私もそう思う。あの子は以前は自分の力だけを信じているようなところが
あったけど、怖い体験をしたことと、あなたに助けられたことで、周りの人との
接し方を考えるようになったのね。マサヒコ君、本当にありがとう。
・・・でも、もう終わりでいいの?あの子を一生、守ってくれてもいいのよ?」
「え?!いやあの、えーと、それはまあ、成り行きしだいで・・・」
「へえ、成り行きね・・・それじゃ、期待してるわね。」
 アヤナが戻ってきたのをしおに、お茶会を切り上げ、ハルナはウインクで
マサヒコを送りだした。
・・・それにしても、世の中のママンはみんなこうも色ボケなのだろうか?
帰路、マサヒコはしばし悩むのであった。


 その夜、一仕事終えてほっとしたのが良かったのか悪かったのか、あの時のアヤナの
無残なポーズが、これでもかとあらわになったパンティが、しがみついてすすり泣く
アヤナの乳房の弾力が、マサヒコの脳裏によみがえった。
 アヤナ自身に邪心を感じるわけにはいかないが・・・自家発電の燃料にするなら、
まあいいだろう。
 その夜、マサヒコは脳内で、アヤナの女体を存分に楽しんだ。
 なにしろ生々しい実物の記憶をもとにしたのだ。マサヒコは強烈な快感を味わった。


 翌日。
「おはよう」
 アヤナの笑顔の挨拶を受けたマサヒコの脳裏に、夕べのオナニーの強烈な印象が
よみがえった。邪心をみせちゃいかんいかんと、マサヒコは股間のふくらみをカバンで
巧みに隠し、平静を装って挨拶を返した。
 アヤナは少しさびしそうな、憂いを含んだ笑顔をマサヒコに向けた。
「お母さんに聞いたわ。今まで、毎日送ってくれてありがとう。今日からは、一人で
帰るね。心配しないで・・・気をつけて帰るから。」
「ああ・・・気をつけてな。」

 放課後、カバンを持って校門に向かって歩くマサヒコの目に、校門のそばに
たたずむアヤナが目に入った。
「小久保君、さようなら。・・・挨拶だけ、したかったから・・・それじゃ」
 ごく最近出来るようになった、天使のような笑顔。
「(昨日まで、俺はあの笑顔とともに歩いていたんだな・・・)」
 一人、歩み去っていくアヤナの後ろ姿に、マサヒコはたまらない寂寥感を感じた。
 そうか・・・あの笑顔に、俺はやっぱりやられちまったのか。
「若田部〜!」マサヒコがアヤナに走り寄り声をかけ、アヤナが振り返る。
「・・・?なあに、小久保君」
すう〜。マサヒコは大きく息を吸って、覚悟を決めて一言。
「一緒に帰ろう」
「・・・うん」
 かすかに顔を赤らめ、再び天使のような笑顔を見せ、アヤナはうなずいた。



(エピローグ)
 幸せそうに歩いていく二人の15mほど後ろ、電柱の陰から陰に移動し、
尾行する少女が一人。その小さな体の周りに渦巻く闘気。
「マサちゃん・・・若田部さんと毎日一緒に帰って、いったいどうしちゃったの?
よからぬ振る舞いに及んだら、現場を押さえてやるんだから・・・」

 さらに、前の二人の男女と一人の少女を尾行する、二人の女子大生と一人の少女。
「ふんふんふーん・・・アヤナの奴、最近授業に同席しないと思ったら・・・」
「先輩・・・この尾行、悪趣味じゃありませんか?」
「何いってんの、教え子のことを知らなきゃ家庭教師は勤まらないわよ?」
「そんなこと言って、これから面白くなりそうだとか思っているんでしょ?」
「と〜ぜん!アヤナは私のことを慕ってくれてるから、きっとじきに相談にくるわね。
そしたら、も〜う煽りまくって二人の仲をマッハで進展させてあげるわよ。
それをミサキに事細かに伝えてあげれば、ウフ、フフフフ・・・。楽しそう。」
「先輩・・・」
「そういえば、若田部家は東大卒なのが当たり前だっていうから、マサが三流大学じゃ
肩身が狭いわね・・・アンタ、マサを東大に入れる自信ある?」
「いや、ちょっと・・・」
「ふえ、トーダイですか?港に行けばあるんじゃないですか?」
 天然娘の発言はまるきり無視され、尾行は続く。


 そんなこととは知らず、マサヒコとアヤナはこれからも一緒に帰ろうと
約束をしたところだった。
 マサヒコは邪心をいつアヤナ本人に向けて開放してよいか、考え始めていた。

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