作品名 作者名 カップリング
「私の後ろに・・・ ファイナルエピソード あなただけ 〜Only as for you〜」 そら氏 -

無機質な音が部屋に響く。マサヒコは気だるげに体を持ち上げると携帯のアラームを止める。
日付を見る。昨日から一日たっていた。いや、当たり前の事なのだが。
ただ、マサヒコにとってはその事実が苦痛だった。
ケイから告げられた別離の言葉は夢でも何でもない。全ては現実。俺は・・・ふられたんだ。
「うっ・・く・・・何で・・・だよ・・・ぐっ・・・ふっ・・・」
マサヒコの瞳から幾条もの涙がこぼれて来る。脳裏に浮かび上がるのは昨日の放課後の廊下。
「君にはほら・・・幼馴染の子が居たよね。彼女は君をとても想ってくれている。だから・・・
私みたいな子より彼女みたいな子が君には似合ってるよ?だから・・・私は君とは付き合えない・・・」
ケイの言葉が反芻する。ケイはミサキに気を使ったって事なんだろうか。だとしたら・・・そんな理由は
あんまりだ。あんまりだが、ケイらしいのかもしれない。自分の幸せより人の幸せを望む優しい少女。
「もう・・・会わないほうがいいと思うんだ。だから・・・さようなら・・・・マサヒコ君。」
だから、彼女はマサヒコに別離を告げたのだろう。顔を会わせれば辛くなってしまう。
思い出してしまう・・・思い出を、温もりを、そして気持ちを・・・
それを思うとマサヒコの涙は止まらなかった。
「あんたさ、男がワンワン泣くのは情けないべー?全く・・・・」
ドアから聞こえた声の主をマサヒコは見る。いつもなら勝手に入るなよと言いつけるところだが
生憎と今はそんな元気はない。
「あらぁ?随分凹んでるわねぇ?でもさぁ、マサヒコ?それってそれだけその人好きだったって事じゃない?
いや、だったってのは語弊があるわね。好きなんでしょ?まださ。」
マサヒコはマサママにケイの事は全く言っていない。それでも、この偉大な母親は大体の自体を把握してる
ようだった。マサママはマサヒコに近づくと子供をあやす様に頭を撫でた。
「同じ失恋なら未練が残らないように思い切り砕けてきな。一回フラレテんだ。2回も3回も
同じだろぉ?ぶつかって来い。後悔が残らないようにね。」
マサママは満足したのか、早く降りて飯を食えと付け加えるとそのままリビングへ降りていった。
「2回も3回も同じか・・・だったら・・・しなくてもいいじゃないか。またあんな思いをするのは・・・嫌だ。」
マサヒコは重い体を引きずりながらリビングへ向かっていった。



学校へ向かうと益々マサヒコの体は重く感じられた。楽しそうに談笑するクラスメイトがやけに鬱陶しく感じる。
「おっはよー、小久保君。おりょ?何か元気ないね。」
年がら年中元気なリンコがマサヒコの顔を覗く。マサヒコは適当にああ、と答えるとそのまま机に突っ伏してしまう。
「寝不足?も〜、夜遅くまでシコシコしてるからだよ〜。」
リンコがボケる。いや、素かもしれないが今はどうでもいい事だ。マサヒコは反応しない。
「あ、分かる分かる。ウチのお兄ちゃんも何故かオナる時は夜中なんだよね〜。」
カナミが会話にのってくる。しかし、マサヒコは変わらずノーリアクションだ。
「小久保君?調子悪いの?だいじぶ?」
常識人、アキがマサヒコを気遣って声をかける。それに対してマサヒコは素っ気無く何でもないと答える。
「何でもなく見えないんだけど。本当にだいじょうー」
「何でもないって言ってるだろ!構わないでくれ!!」
マサヒコが顔を起こして叫ぶ。その声に教室中がシーンと音を鎮める。アキもビクリと体をすくめていた。
「あ・・・ごめん。やっぱりちょっと保健室行って来る。ごめんな。」
マサヒコは静まり返る教室を出て行く。教室に残ったのは驚きだった。クラスの認識としてはマサヒコは
至って温厚で、女の子にも優しいため人気があった。その彼が自分を気遣った女の子に対して
怒りをぶつけて怒鳴ったのだ。普段の彼からすると全く想像出来なかった。
「何かあったのかな・・・小久保君。」
怒鳴られながらもマサヒコを心配するアキ。カナミ達も心配そうにマサヒコの後姿を見つめていた。
「くそ、情けない・・・何イライラしてるんだ?俺は。」
「そうだね、女の子に対してあれはいただけないかな。」
マサヒコは保健室へ向かおうとする途中、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
今時の女子高生らしく茶色に染めた肩くらいまでの長さの髪。女の子にしては少し高めの身長で
スラッとしたスタイル。そして愛嬌たっぷりの顔立ち。ご存知2年の演劇部員立浪さんだった。
「立浪さん・・・何でこんなトコに?」
「そりゃ君に用があるからに決まってるっしょ。保健室でサボるつもりなんでしょ?だったら屋上いこまい。」
立浪がマサヒコの手を引いて屋上へ連行する。マサヒコも特に逆らう理由もなく引っ張られていった。




「・・・イ!ケイ!」
「はひゃ!?な、何ナツミ?ビックリさせないでしょ〜。」
一方、こちらは三年の教室だ。
「ビックリも何も、さっきから散々呼んでるのに反応しないんだもの。何か考え事?」
「おいおい、今岡も女なら悟ってやれよ。川上はきっとアノ日・・・ひゃぶちゃ!!」
二人に近寄って阿呆な事を言い出すカズヤにナツミは裏拳で撃沈させる。
「ま、カズヤは放っておいて確かに川上おかしいぞ?さっきから上の空ってーか。」
ぶっ倒れているカズヤを跨いでシンジが話しに参加する。ケイはただ俯いて
「な、何でもないよぉ?うん、何でもないよ。」
と繰り返すばかりだ。
「ふ〜ん?まぁ、それならいいんだけどさ。あ、そういえばさこの前の小久保君と女の子!何だったんだろうね?」
ナツミの言葉にケイがビクリと体を震わせる。
「ケイとしては気になるトコじゃなぁ〜い?うりうり〜。」
ナツミがニヤニヤしながらケイの肩を肘で小突く。
「小久保って・・・確かカナミと同じクラスの子だったな。何だ、川上は年下が好きだったのか。」
「・・・じゃないよ・・・・」
ケイがボソリと声をだす。その声が小さかったせいか、二人は全く聞いていないようにケイに絡んでいた。
「好きじゃない・・・好きなんかじゃないよ!あの二人は幼馴染で・・・私が出る幕はないんだよ・・・だから・・・」
ケイが少し強めに声を出す。はしゃいでいた二人は目を丸くして呆然としていた。
「だから・・・気にならないし・・・何より私はもう関係ないから。」
「へ?ちょ、ちょっとケイ?それどういう・・・」
ナツミがケイの肩を触る。しかし、ケイは立ち上がってそれを振り払うと俯いたまま
「ごめん、ナツミ。ちょっと調子悪いから怒鳴っちゃった・・・保健室行ってくるね。」
と小さく告げて教室を出て行った。
「ケイ・・・・まさかあんた・・・」
「ふっ・・・言ったろ?やっぱり川上はあのひでぶ!!」
ナツミは復活したカズヤを制裁すると心配そうにケイの後姿を見送った。
「マサヒコ君・・・私は・・・私は・・・」
ケイは重い足取りで保健室へ向かっていった。幸いなのは偶然立浪がマサヒコを屋上へ連れて行った
事で鉢合わせにならなかった事だろうか。



「それで・・・何の用ですか?」
屋上で風に吹かれながらマサヒコが若干不機嫌そうに言う。少し強めの風は立浪のスカートをヒラヒラと
めくりそうになるが、生憎マサヒコはそんな事に興味はない。
「君を笑いに来た・・・なーんて、どうどう?似てる?かっこよかった?」
「いや、意味わかんねーす。振られた俺を笑いに来たって事ですか?だったら、存分にどーぞ。」
マサヒコはハァと溜息をつきながら言う。しかし、立浪は一人で考え込んでいた。
「ああ、やっぱりフッたんだ。あの先輩は、まー本当に・・・自分が幸せになるってのが欠落してるってーか・・・」
「あのー、立浪さん?俺はさっぱり分からないですが?」
マサヒコは一応声をかけるが反応はない。しかし、すぐにウンと一人でうなずくとビシッとマサヒコに指差した。
「いい?小久保君。教えといてあげる。川上先輩はね、君の事本当に好きよ。これは間違いないわ。」
マサヒコはただ無言でその言葉を聞いている。立浪が続ける。
「川上先輩はとても優しい人。でも、優しいからこそ自分のせいで誰かを傷つけてしまう事を凄く恐れてる
んだよ。全く、先輩も馬鹿だよね〜。君の幼馴染だっけ?告白したのは。自分のせいでその子が君に
フラレたと思ってるんだから。そして、先輩は君をフッて幼馴染のこと付き合うように言ったと。
気づいてないんだよ・・・その判断が自分が一番好きな人を傷つけてるなんてさ。」
立浪はヤレヤレと心底呆れているようだ。
「それを俺に言って、俺にどうしろと?俺はもうフラれてー」
「だ・か・ら!それは絶対本心じゃないの!わっかんない子だなぁ、もう。君はこのままでいいのかな?」
マサヒコの言葉を遮って立浪が声を荒げる。それにマサヒコは反論する。
「いい訳ないじゃないですか。俺は納得できてませんよ。でも、もう会わない方がいいって言われた
んですよ?さよならって・・・だったら、どんな顔して会えばいいんですか?」
「さよならで他人になったなら、初めましてって会えばいいんじゃない?」
何言ってんの?と当然そうな顔をして言う立浪。マサヒコはポカーンとしている。
「ま、要するに二人が初めて出会ったようにすればいいんじゃない?またソコから始めればいいじゃん。
私が言いたいのはコレだけ。まぁ、決めるのは君だけんどもね〜。ほいじゃね。グッドラック♪」
立浪はマサヒコの額を人差し指でチョンと押すとご機嫌そうに屋上を去っていった。
「出会った時のように・・・か・・・」
マサヒコは屋上に立ち尽くしている。だが、その瞳には光が戻っていた。




「ねー、ケイ?」
「ん?なぁに、ナツミ。」
昼休み、ナツミは保健室から戻ってきたケイと二人で食事を取っていた。ケイはご機嫌そうに箸を進める
一方で、ナツミは何か疑惑の目をケイに向けていた。
「も〜、何〜?そんな目で見ないでよ〜。」
「ケイ。あんたさ、小久保君フッたって本当?」
ケイの箸がピクリと止まる。徐々に顔を伏せると小さくウンとだけ答える。
「何で?私はどうも腑に落ちないんだよね。貴方、あの子の事好きだったじゃない?どうして?」
ナツミの口調は明らかに厳しいようだった。ケイは俯いたまま小さな声で言う。
「ナツミも見たよね?ほら、この前の休み・・・あの子ね、マサヒコ君の幼馴染なんだ。私、あの子を
傷つけちゃった。私がいなければきっと、あの子がマサヒコ君と付き合ってたんだよ。だから・・・」
パン!!と、乾いた音が響いた。ケイは何が起こったかわからなかった。ただ、頬に残る痛みが
その正体を教えてくれた。
「馬鹿!あんたって子は・・・あんたのその行動が彼を傷つけたってどうして気づかないの?
あなた、いつも嬉しそうに彼のこと話してくれたじゃない。なのに、何でそんな事できるのよ!?」
明らかにナツミは怒っている。まぁ、ビンタをするくらいだから言うまでもないのだが。
「私は怖いの・・・私のせいで誰かを傷つけることが。だから、私が身を引けばいいと思って。」
「ああ、もう!何であんたは自分が幸せになるって選択肢がないのよ!?確かに、自分のせいで
誰かがフラれて傷つくのは嫌でしょうね。でもね・・・それを決めるのは貴方じゃないのよ!?
自惚れないで。あの子がフラれたのは、小久保君が決断した事なんだよ!?
ガーッと捲くし立てるナツミ。ケイは俯いて体をただ、震わせていた。
「好きなんでしょ?彼のこと。だったらさ・・・彼の気持ち汲んであげなよ。」
ナツミがポンとケイの肩に手を置く。顔を上げたケイの顔は涙でぐしゃぐしゃだった。
「ナツミ・・・ぐすっ、ひっく、うん、ありがとう・・・ありが・・・とう・・・」
泣きじゃくるケイをナツミは抱きしめた。
「よしよし・・・ケイ。貴方の彼が好きって気持ち、しっかり伝わったわ。辛かったよね。演じるのは・・・」
ナツミがケイの髪を指で撫でる。ケイの髪はサラサラと流れていく。
「私が絶対二人の気持ちは無駄にさせないから・・・ケイ、放課後教室にいるのよ。いいわね?」




「あ・・・マサちゃん。あの・・・ちょっと時間いいかな。」
マサヒコが学校から帰るとき、偶然か必然か。ミサキと出会った。マサヒコは特に断る理由もなく
ミサキと店に入った。
「マサちゃん、リンちゃんから聞いたけど・・・その、何かあったの?」
「ん?ああ。まぁ、情けない話なんだけどな。」
マサヒコはミサキに全てを話した。話を進めるたびにミサキの顔色は曇っていった。
「ごめんね、マサちゃん。私のせいだ・・・」
「いや、ミサキのせいなんかじゃないよ。気にする事はないさ。」
マサヒコはそう言うが、ミサキの顔は浮かない。矢張り気にしているようだった。
「うん、ありがとう。それで、マサちゃんはこれからどうするの?」
マサヒコは黙ってしまう。その答えは未だに出ていない。確かに母親や、立浪さんの言い分は分かる。
しかし・・・マサヒコには恐怖心が残っていた。
「正直迷ってる。もう一回告白しても、俺はまたフラれるかもしれない。それが怖いんだ・・・」
マサヒコの頭に再びあのシーンがフラッシュバックする。それは言い様のない恐怖だった。
「私は・・・私はマサちゃんにもう一回頑張って欲しいな。」
「え・・・・?」
ミサキの口から出たのは、意外な言葉だった。
「私、分かっちゃってた。あの人はきっとマサちゃんの事が好きで。マサちゃんはあの人が好きで。
えへへ、変だよね。私は不思議な事に二人がお似合いだなぁなんて思っちゃってたんだよ。」
ミサキがニコッと笑顔を見せる。その笑顔はどこか儚くて、綺麗だった。
「ミサキ・・・お前・・・」
「それでね?二人が付き合ったら、あの人を私にも紹介して欲しいな。マサちゃんの、『幼馴染』として。
昔のマサちゃんの話とか、マサちゃんの意外な一面とか・・・たくさんたくさんお話したいんだ。
だから・・・だから頑張ってマサちゃん。」
ミサキの瞳から涙が零れ落ちる。それは、長く抱いてきた恋心との決別を意味していた。
だが、きっとミサキにとって、それは悲しい決別ではなく未来へ進むための決別。
「ミサキ。ありがとう・・・俺、もう一回いって来る。ダメならそれでいい。俺も気持ちを全部伝えてくる。
ミサキの『幼馴染』として、これ以上カッコ悪い事できないからな・・・ありがとう。」
マサヒコがミサキの頭に手を載せる。ミサキも手で涙を拭うと精一杯の笑顔を作って笑った。
それは、少年と少女の淡い恋のピリオドを告げる笑顔だった。




「決心・・・ついたみたいだね。」
後ろから聞こえる声にマサヒコがビクリと体を振るわせた。振り返るとその声の主は今岡ナツミだった。
「幼馴染ってのも難しいわねぇ。でも、やっぱりいい物だね。」
ナツミが一人で納得したように腕を組んでウンウンと頷いている。
「い、今岡先輩。何でここに・・・と言うか、いつからここに!?」
「貴方達が店入るのが見えたからね。それで、もしかしたらと思ってね。さて、鉄は熱い内に打てって言葉
知ってるかな?ケイは、教室にいるよ。ぼーっと外を見てる。あの子だって、後悔してるのよ。
小久保君、行ってあげて。貴方は・・・ケイが本当に望んでいる人なんだから。」
マサヒコはその言葉を聞き終わるか終わらないか、店を飛び出した。目的地は言うまでもない。
「ふふっ・・・頑張れ、男の子。」
「マサちゃん、頑張ってね。」
ナツミとミサキの声を背中に受ける。マサヒコは走った。心臓が激しく動き回る。
全身から汗が噴出すのが分かる。それでも、止めるわけにはいかない。
否、体が、心が、何よりマサヒコ自身が止まる事を許さない。
「ハッ・・・ハッ・・・はっ・・・はぁ・・・はっ・・・・」
息が乱れてくる。特に運動神経が悪いわけではないが、運動部でもないマサヒコに数キロのダッシュは
相当にキツイ。しかし、不思議と足は軽かった。そこにきっとあの人がいるから。
その後なんて考えちゃいない。ただ、顔を合わせたい。話がしたい。気持ちを伝えたい。何より・・・
             逢いたい  想い人に 大好きな人に 川上ケイに 
校門を潜り抜け下駄箱を走り抜ける。まだ校内に残っている生徒は何事かとマサヒコを見る。
しかし、マサヒコには関係なかった。見えていない。見えるのは、あの人だけ。
階段を駆け上る。チラリと演劇部のほうを見る。茶髪の生徒がグッと親指を突き出し微笑んでる気がした。
さらに階段を上る。そして、三年生の教室棟。初めて出会った廊下。別れを告げられた廊下。
思えば、全てはこの廊下で始まったのだった。そして、その廊下には一つの少女の影があった。



マサヒコは少女にゆっくり近づいていく。少女は振り返ることはしない。
「よくこの廊下で会いますね・・・先輩。」
「・・・私が後ろから話しかけられるのが嫌いなのは忘れちゃったのかな?」
ゆっくりと二人の距離が縮まっていく。ゆっくり、ゆっくり歩を進める。
「知っていますよ・・・俺は貴方の事なら何でも知ってるつもりですよ。好きですから。」
「そう・・・だったら何で後ろから話しかけるの?」
そして、ケイの真後ろでマサヒコは歩みを止めた。ケイの香りが鼻をつく。それはとても懐かしい香りがした。
「俺もケイさんの言う事分かりますよ。後ろってのは誰でも怖いもんです。でも・・・こんな魔法もあるんですよ?」
「ま・・・ほう?きゃっ・・・・」
マサヒコはケイを後ろから抱きしめた。ただ、優しく。マサヒコの体温はケイに、ケイの体温はマサヒコに。
お互いの温かさが伝わっていく。ケイも始めは体を震わせたが、今はマサヒコの腕の中だ。
「コレが・・・魔法?」
「そうですよ。抱きしめるのは、どんな言葉よりも気持ちが伝わる不思議な魔法なんです。」
マサヒコが少しずつ、少しずつ力を入れていく。ケイの柔らかい体がマサヒコの腕を、体を包み込む。
「でもやっぱり、私は・・・後ろは怖いよ・・・マサヒコ君でも・・・」
「それは嘘ですよ。だって、ケイさんからは・・・ちっとも恐怖が伝わってきてないですから。俺は、こうも
思うんです。自分の後ろを任せられる。それだけ信頼してる。そんな人も、いるべきなんじゃないかって。
俺はケイさんが好きです・・・大好きです。俺に・・・ケイさんの後ろ、守らせてくれませんか?」
ケイは自分を抱きしめているマサヒコの両手を自分の両手で包み込んだ。
「マサヒコ君・・・ありがとう。ごめんね・・・私・・・君を傷つけたのに・・・それでも君はー」
「好きですよ。誰よりも。別れはケイさんの優しさ。俺はそんな優しいケイさんを・・・ずっと守っていきたい。」
マサヒコの手をケイの涙が伝っていく。マサヒコは一層強くケイを抱きしめた。
「私も・・・マサヒコ君が好き・・・大好き。マサヒコ君・・・」
ケイが後ろを向く。久しぶりに合わせる顔。それはどんな花より美しく、一点の曇りもない笑顔だった。
二人はキスをした。それは、長いようで短く、短いようで長く、永遠のようで一瞬で、一瞬のようで永遠だった。
「マサヒコ君。あのね?」
唇を離す。ほのかに朱に染まった頬をしたままケイは言葉を続ける。
「私の後ろに立っていいのは・・・」
二人は、ここからはじまる。長い長い、旅路の第一歩。もし、どんな困難があっても二人なら乗り越えるだろう。
「私を後ろから抱きしめていいのは・・・」
だって、沢山の人が二人を応援してくれてるのだから。少女は、最高の笑顔を、最愛の人に向けた。
「マサヒコ君だけなんだから!」
END

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