作品名 作者名 カップリング
「私の後ろに・・・ エピソード3 理由〜A reason〜」 そら氏 -

小学生の頃・・・好きな子に意地悪をして気を引かそうとしている奴がいた。
もしかしたら、今のマサヒコはそんな気分なのかもしれない。
ついさっき、帰ろうとしているとケイが歩いているのをみかけた。部活だろうか?だが、マサヒコには
そんな事はどうでもよかった。少しずつ・・・少しずつだがケイと仲良くなっていってる自分に少し
自惚れてたのかもしれない。出会いを忘れていた・・・自分たちがどんな出会いだったかを・・・
(確か・・・部室に行く前に人通りのそんなに多くない廊下を通るんだよな。チャンスはすこか。)
少し離れてケイの後ろを歩くマサヒコ。放課後という事で傍から見たら結構怪しいマサヒコの行動だが
廊下に人が多いせいか人にもまれてそんな気配を微塵も見せないでいた。
廊下を曲がり演劇部の部室への道を進むケイ。マサヒコもそれを追う。
(しかしまぁ・・・俺も普通にアホな事してるよなぁ・・・高校生なのに。)
と、自分で自らの行動を笑いながらも止めるつもりはないようだ。
そして、ついに最後の廊下に差し掛かる。ここは人も多くない。気配を殺し、足音を殺し
決して早くないケイの歩みより早く歩き近づいていく。
近づいていくに連れてケイの恐らくシャンプーであろう香りがマサヒコの鼻をくすぐる。
なぜ恐らくかと言えば、そもそもケイの近くにいる時には嗅ぎ慣れている香りであったし
なにより、ケイがそんなにキツイ香水をつけるとも思えなかったからだ。
(ま、その辺が素朴でいいんだけどね。)
徐々に近づくマサヒコ。ケイはまるで気づいていない。残りの距離は7歩ほどか・・・
6歩・・・5歩・・・4歩・・・3歩・・・2歩・・・1歩・・・
マサヒコは小さく息を吸い込むと軽くケイの肩を掴み
「わっ!!」
「きゃぁぁぁぁぁあああああああ!!!???」
と脅かすと同時にケイの肩に触れていた手がビクンと跳ねる。即ち、ケイの体がビクンと跳ねたわけだ。
そして、大きな悲鳴と共にケイはその場にぺタリと座り込んでしまった。
マサヒコはこの時、まだ事の重大さには気づいていなかった。




「ど、どうしたんですかー!?」
演劇部の部室から女生徒がドアをバシーンと開けて出てくる。その女生徒・・・立浪にはどのように映っただろう。
ポカーンと立っている先日見学に来たマサヒコと、顔を伏せて両腕で胸を隠すように・・・いや、実際は自分の
手で体を抱きしめているのだが胸を隠しているように見えるわけで。そして体を震わせているケイ。
「・・・こ・・・小久保君・・・?川上先輩に何を・・・?」
イマイチ状況が掴めない立浪はとりあえず原因ぽいマサヒコに聞いてみる。
「え・・・?いや、ケイさん見かけたからちょっと脅かしてみようかなって・・・」
相変わらずポカーンとしながらマサヒコが答える。まさかこんなに驚くなんて・・・いや、きっと忘れていた。
出会った時もこんな感じだったんだ・・・いや、今回のいたずらはあの時より酷いかもしれない。
「・・・川上先輩、大丈夫ですか?」
未だに体を震わせているケイに寄り添うように屈む立浪。そして、異変に気づいた。
「・・・・・ぅ・・・ぐす・・・・・ひっく・・・・」
「あ・・・・・」
そしてようやくマサヒコは自分の罪深さに気づいた。自分は、ケイを泣かせてしまった。
見えはしない。見えはしないが、それでもケイが泣いているのは明らかだった。
微かに聞こえる泣き声と共に体が震えている。立浪もそんなケイを抱きしめて頭を撫でるしかできていない。
「その・・・ケイさん・・・」
マサヒコは尚も顔を伏せたままでいるケイに近づいていく。
「・・・バカ・・・」
しかし、その言葉でマサヒコの歩みは止められた。相変わらずマサヒコには顔を見せずにケイが言う。
「マサヒコ君のバカ・・・私が後ろに立たれるのも嫌いなの知ってるのに・・・ぐすっ・・・
それなのに・・・脅かすなんてえ・・・酷いよ・・・」
ケイの言葉がマサヒコの胸に突き刺さっていく。そのせいか、謝ろうと思って近づいたものの
マサヒコは何も言えずにその場に立ち尽くしていた。
「大丈夫ですか、先輩?ほら、とりあえず部室行きましょう?」
立浪がケイを支えるように立たせて部室に入っていく。そして、ケイを部室に運び終えると立浪はマサヒコの
所へ戻ってきて、バチン!!と・・・間違いなく本気で平手打ちを放った。
マサヒコの頬に痛みが残る。ただ、不思議とマサヒコにはそれが不快な痛みとは思わなかった。
そしてさらに不思議な事にマサヒコを殴った立浪も決して怒りの表情ではなかった。ただ、
「・・・理由・・・誰にだって理由があるんだよ。」
と言うと、そのままマサヒコを置いて部室に入っていった。残されたのはただ立ち尽くすマサヒコのみだった。



「・・・はぁ〜・・・・」
それから数日・・・マサヒコは全く身が入ってなかった。今も昼食の時間ながら箸がほとんど進んでない。
「何か小久保君元気ないよね・・・」
そんなマサヒコを横目で見ながらリンコが言う。
「そうだね。何か魂抜けかかってるって言うか・・・」
もしゃもしゃとパンをかじりながらアキが言う。
「もう、二人とも鈍いですね。きっと先日の休日にヌキすぎて腰が抜けてるんですよ。」
マナカがふふんといった感じに言う。もっとも、アキは完全にスルーしていたが。
「・・・ありゃ恋な感じがするケドなぁ。」
少なくともこの中では頭二つ分くらい恋愛経験のあるショーコが言う。
「恋・・・かぁ・・・もしかして!?」
リンコがハッとしたように言う。他の皆もそれに興味を注ぐ。
「幼馴染のミサキちゃんとやろうとしたけど、本当にEDで『また頑張ろうよ』とか慰められたとかー!?」
リンコが童貞と処女の初体験でありがちな事リスト絶望編No1(中村著)から抜粋して推測する。
「へぇ・・・小久保君幼馴染なんていたんだ。」
「EDですか・・・はっ、EDの彼氏と交わりたいが為に様々な痴情を見せ付ける女・・・これイケそうですね。」
「あははははは、確かにそりゃ凹むよね〜。ありがちありがち〜。」
と、三者三様の反応を見せるアキ、マナカ、ショーコ。そんな中、全く反応を見せてないのがカナミだった。
「ん?カナミ?どうしたん?あんたは真っ先に反応しそうな気がしてたんだけど。」
今度をジュースを飲みながらアキが言う。するとカナミがぽそりと言った。
「三年生・・・」
三年生?とみんなの顔にクエスチョンマークが浮かぶ。カナミは続ける。
「うん、きっと三年生の・・・ほら、初めて私たちがリンちゃんと小久保君と寄り道したとき・・・
最後に小久保君と三年生の・・・川上先輩って言うんだけどね?多分・・・それ。」
言い終えてカナミがジュースをズズズ〜っとすする。
「ああ・・・そういえばビックリしたよね。あの大胆告白みたいな感じ。」
アキが思い出したように言う。
「ええ。確かあなたとヤリタイと言ったんですっけ・・・あひはん、ひはひへふ。(アキさん、痛いです)」
冗談なのか、マジなのか。どっちにしろアホな事を言うマナカの頬をつねるアキ。
「んで・・・何でカナミはそう思うのさ?」
「うん、うちの兄妹は結構学校の事とか話すからさ。それで川上先輩がここのところ元気ないらしくて・・・
それで丁度小久保君と被ってるからさ。もしかしたら・・・と思ってね。」
ショーコの問いにカナミが答える。実にその通りな所にカナミの普段は無駄に使われている推理力が
発揮されている。カナミは意気消沈しているマサヒコを見るとう〜んと考え込んで言った。
「仕方ないな〜、ここは私が一肌脱いであげますか!」
カナミが手をグッと握る。ちなみにどこをどう聞き間違えたのか
「え!?ここで脱ぐの?公開ストリップ?」
等とリンコがのたまったのはどうでもいい話。




あれから1週間ほどがたっていた。一人でとぼとぼと帰るマサヒコに背後から忍び寄る影が3つ・・・
「小久保君。」
マサヒコが振り返るといたのはカナミとシンジ。そしてナツミだった。
「あ、城島・・・と、お兄さんでしたっけ。後は・・・?」
確か・・・そうだ、ケイといつも一緒にいる人だ。ナツミが一歩進んでマサヒコの正面に立つ。
「えーと、小久保マサヒコ君だったっけ?あ、私は今岡ナツミ。呼び方は何でもいいよ。」
「あ、はい。小久保マサヒコです。それで何か?」
「うん、ちょっとね。あ、城島君とカナミちゃん。ありがと。後は私でやるからさ。」
そう言って二人を帰すナツミ。まったく話が見せてこないマサヒコは唖然としている。
「さて、それじゃちょっとあそこに寄り道でもしよっか。」
ナツミがマサヒコの手を引いて店の中に入っていく。とりあえず飲み物を頼んで席につく。
「ええっと・・・それで話って何ですか?今岡先輩。」
恐る恐るマサヒコがhなしを切り出す。飲み物を飲んで一服したナツミは口を開いた。
「うん、単刀直入にいうと、ケイの事なんだけどね。」
マサヒコの体がビクッとする。
「ケイさんが・・・どうかしたんですか?」
「ふふっ・・・私は今岡先輩で、ケイはケイさんかぁ。成る程ねぇ〜。」
ナツミはニヤニヤしながら言った。その態度に少しマサヒコはムッとする。
「呼びなれてますから・・・それでー」
「ああ、本題ね。まぁ、御節介なんだけどね。ケイはね、知ってると思うけど凄い怖がりでね。」
知っている・・・知っていたのに過ちを犯したのが自分だ。
「でもね、それにはちゃんと理由があるんだよ。」
「理由・・・ですか?」
立浪の言葉が頭をよぎる。理由・・・ケイが後ろを極端とも言えるほど怖がる理由。
「教えてください・・・俺、ケイさんが後ろから話しかけられたりするのが嫌いなの知っててー」
「あっれー、忘れてたなぁ〜。」
マサヒコの言葉を再び遮ってナツミが言う。
「そういえば、ケイ。今日は演劇の練習で一人で部室に残るって言ってたなぁ〜。いやぁ、うっかり。」
わざとらしい・・・実にわざとらしいが。それでもマサヒコは無意識に席を立った。
「今日みたいな日は一人演技で色々教えてくれるかもなぁ〜。あっははははは。」
次の瞬間にマサヒコは500円を置くと駆け出していた。
「俺の奢りです!その・・・ありがとうございました!」
走りながら言うマサヒコ。その先は言うまでもなく学校の演劇部室。
「ふふ、お膳たてはここまで。お互い純情すぎると仲直りも難しくて困るわよね。まぁ、初々しくてイイケド。
後は・・・自分で聞いた方がいい事もあるって事よ・・・君ならケイを任せれるから。」
ナツミはマサヒコの置いた500円玉を親指でピーンと弾くとご機嫌そうに残りのジュースをすすった。




息を荒げながらマサヒコは演劇部室の前に来ていた。もう、夕日が廊下をオレンジに染めている。
店から結構な距離にもかかわらずマサヒコには不思議と疲労感はなかった。
この扉の向こうにきっとケイがいる・・・マサヒコは一度深呼吸をすると意を決して部室のドアをあけた。
「・・・・・・・・・・・」
マサヒコは声が出なかった。そこには夕日に照らされた目を閉じた一人の少女がいただけだった。
それはとても幻想的で、儚げで。そして・・・何より美しかった。
マサヒコが未だに何も言えずにいると、少女はゆっくりと瞳を開けて小さな口を開いた。
「ある時・・・とても怖がりな女の子と、少しだけ意地悪で・・・でも優しい男の子がいました。」
演劇のナレーションのように声を発する少女。マサヒコはただ聞き入っていた。
「二人の出会いは素敵とは言えるものじゃありませんでした。男の子は道に迷って女の子に後ろから
声をかけました。どうってことない事です。しかし・・・女の子は悲鳴をあげて座り込んでしまいました。」
マサヒコの頭に少女の声がダイレクトに伝わっていきそのシーンが見事に再生される。
「そんな可笑しな出会いをした二人でしたが、何故か意気投合。二人は・・・お互いに惹かれあって
いきました。しかし、そこでちょっとした事件がおきてしまいます。」
少しだけ顔を赤くしながら少女は続ける。
「ある日、男の子は女の子が怖がりなのを知っていながら後ろから脅かそうとしてしまいます。女の子は
本当にビックリして泣き出してしまいました。男の子はその罪悪感にさいなまれ女の子と距離をおきます。」
マサヒコの胸が痛む・・・しかし、次に紡がれた言葉は意外なものだった。
「でも・・・女の子は知っていました。男の子が後ろにいる事を。そして声をかけてくれるのをずっと待っていた
のです。そして・・・きっと後ろから声をかけるのも分かっていました・・・心の準備はしていました。
ビックリしないようにしようと・・・それでも・・・女の子には後ろから声をかけられる。増して、驚かされる
のは耐性がなかったのです。」
マサヒコはビックリしていた。ケイが気づいていた事に・・・そして、自分が声をかけてくれるのを待ってた事に。
「そして、そのまま関係が切れたように二人は疎遠になってました。日に日に元気がなくなっていく
二人に、気をきかせた友人が仲直りの場を繕ってくれたのです。そして、再び再会した男の子に
女の子は自分が後ろを極端に恐れる理由を話すのでした・・・」
そこまで言うとケイはマサヒコの方に歩み寄ってきた。そして、椅子に座るとマサヒコにも座るように促す。
「さて・・・今の話は未完成なんです・・・続きは今から作りますけど・・・聞いてくれますか?」
マサヒコを見ずに正面を見据えたままケイが言う。マサヒコも同じように正面を見たまま
「はい・・・もちろんです。」
と言った。ケイは少しだけ笑うと再び話を続けた。



「私ね・・・小さい頃・・・誘拐されかけたんだ・・・」
小さな声で・・・しかし、しっかりと声を出すケイ。
「ほら、ドラマみたいに後ろからハンカチみたいので口を押さえられてね。たまたまお巡りさんが通って
事なきを得たんだけどね・・・それ以来なんだ。家族にも後ろに立たれるのが怖いんだ・・・」
トラウマというやつだろう。幼い頃のケイの経験が心に深い傷を残し、それは今でも癒えていない。
「まぁ、もともと臆病で怖がりだったんだけどね。それに拍車がかかっちゃったんだ。」
マサヒコは黙って話を聞いている。自分が口出しする場面じゃないと思っているのだ。
「家族や親友のナツミにも後ろに立たれるのが怖いんだ・・・だから・・・マサヒコ君に脅かされたときは
凄くビックリした・・・肩を触られたときね・・・あの時の記憶が蘇っちゃったんだよ。」
それは背後から羽交い絞めにされて誘拐されそうになった時の記憶。そして、ケイの最大の恐怖だ。
「でも・・・本当に怖いのは・・・後ろから話されるのは、相手の顔が見えないって事・・・
相手がどんな顔してるか見えないって言うのは相手の本当の気持ちが分からないって事だから。
私は・・・それが一番怖いんだ。」
マサヒコは想像する。顔の見えない相手と話す事。調子のいい事を言っていても、その実凶悪な顔を
して今にも自分を後ろから刺そうとしているかもしれない。マサヒコは身震いする。
「お互いが顔を合わせてお話しするのはとっても大事な事だよ。自然と気持ちも伝わるから・・・
でも・・・後ろから話されるのは臆病な私には・・・ダメなんだよ。気持ちが伝わらないから・・・」
「俺・・・とんでもない事しちゃったんですね。知らなかったとは言っても・・・あんな事。
マサヒコは顔を伏せる。そんなマサヒコにケイは相変わらず正面を向きながら・・・頭をマサヒコに寄せた。
「ケイ・・・さん・・・?」
「確かにね、後ろは怖いよ。でもね・・・後ろはダメだけど・・・」
マサヒコがケイの顔を見る。ケイもマサヒコの顔を見る。実に1週間ぶりに目を合わせた二人。
ケイは少し恥ずかしそうに言った。
「マサヒコ君なら・・・隣に居てもいいよ・・・」
「え・・・それって・・・」
マサヒコの顔も赤くなっていく。これって・・・もしかして・・・?
しかし、マサヒコの期待を余所にケイは立ち上がると久々に笑って見せて言った。
「さ、寄り道でもしていこっか。ナツミ達もいるしね。」
そういってマサヒコの手を握るケイ。マサヒコも久しぶりに想い人の体温を感じると引かれるがまま
ケイの隣を歩いていった。廊下には夕日に照らされた二人の影が伸びていた・・・

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