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「私の後ろに・・・ エピソード2 恋心〜A love feeling 〜」 |
そら氏 |
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夜、マサヒコは部屋のベッドで携帯を眺めながらニヤニヤしていた。
画面にはケイとのメールがビッチシだ。所々にリンコやカナミ、アイ等からのメールも見られるが
大半はケイとのメールで埋め尽くされている。何の他愛もないようなメールの内容。
しかし、それを見ているだけでもマサヒコは幸せな気分だった。
「明日も会えるかなぁ・・・やっぱり直接話したいもんな。」
ゴロンと寝転がりうつ伏せになる。思い浮かべるのはケイの顔。
決して派手ではないけれど、人を和ませる不思議な笑顔。一目惚れに近いけど、それでもケイの魅力の
一つなのは間違いない。
「そういやぁ・・・」
今度は仰向けになるマサヒコ。天井を見上げながら一つの不安をこぼした。
「ケイさんって・・・彼氏いんのかな・・・」
マサヒコの心臓が不安で高鳴る。そういえば確認していない。というか、なかなか聞けない。
もし・・・もし彼氏が居たら自分はどうすればいいんだろう。無視して気持ちを伝えるべきなんだろうか。
「やべぇ・・・すげぇ気になってきた・・・」
マサヒコがベッドでゴロゴロのたうち回る。が、すぐにその動きは止まってしまいボソリと言った。
「はは・・・こんなん初めてだな。もしかしたこれが俺の初恋・・・かな?」
「おっはよ〜、小久保く〜ん!」
「おう、的山か。お早う。」
翌日、学校へ登校していたマサヒコの後ろからリンコが追いついて話しかけてくる。
結構頻繁に起こる光景だ。マサヒコも初めはさすがに戸惑っていたが、今では慣れっこのようだ。
「そういえばさ、小久保君ミサキちゃん元気?」
リンコの言葉に少しビクッとするマサヒコ。ミサキ・・・彼女が自分に好意らしきものを持っていた・・・
否、もしかしたら今でも持っているのかもしれない。そのせいだろうか・・・ケイを思うと同時にミサキの
顔がマサヒコの頭に浮かぶ事もある。
「あー、俺も最近会ってないなぁ〜。ほら、あそこは優等生学校だからな。忙しいんじゃないか?」
とりあえず適当に話をしておく。リンコもそっか〜と納得はしてくれたようだ。
マサヒコも安心しながらいつまでも放っておける事でもないなと思うと、少し頭が痛くなった。
「小久保君ばいば〜い。」
放課後、近くを通りかかったカナミがマサヒコに声をかけて帰っていく。先日以来、マサヒコはあの面々とも
仲良くやっていた。マサヒコは特に用事もないのでどうしようか、と思案しながら廊下に出た。
「あ、マサヒコ君。こんにちは。」
すると思いがけない幸運と出会った。マサヒコに声をかけたのはマサヒコの想い人の川上ケイ。
「あ、ケイさんこんにちは。帰りですか?」
あわよくば一緒に帰ろうと画策するマサヒコ。しかし、ケイは簡単にそれを打ち砕く。
「ううん、これから用事があるんだよ〜。」
「あ、そうなんですか。そ、その・・・・デートとかですか?」
残念そうにしながらここぞとばかりに気になることを聞くマサヒコ。
「?デート?私が?誰と?」
「いや、だからその・・・彼氏さん・・とか?」
何故か疑問系になるマサヒコ。彼女だったらそれはそれでマズイ訳だが。
「わ、わたしぃ!?か、彼氏とかそんな・・・い、いそうに見える?」
顔を赤くしながら何故かアタフタと手をブンブンするケイ。
「いやだって、ケイさんて優しそうだし、癒し系だし・・・その・・・可愛いし・・・」
後半はボソボソと話すマサヒコ。しかし、ケイはそれを気にする事もなく・・・というか、動揺して聞こえていない
ようだが。とにかく少し興奮気味に言う。
「そ、そんなぁ。彼氏なんて今まで・・・いたことないよぉ・・・」
若干シュンとしながら言うケイ。安心感とその仕草の可愛らしさからマサヒコは顔が緩んでしまう。
「あー、マサヒコ君笑う事ないでしょ〜?その・・・少しは気にしてるんだから・・・」
「あ、いや、そうじゃなくって・・・えーっと、何て言えばいいのかな。」
マサヒコは必死で言葉を探す。さすがにケイに彼氏が居ないのが安心したからですなんて言えない。
「ふぅ〜んだ、いいよぉ〜だ。どうせ私はナツミとかカナミちゃん達みたいに可愛くないですよ。」
「そ、そんなこと!」
つい勢いでケイに反論をするマサヒコ。しかし、ここまで来たら引っ込みはつかない。
「ケイさんは・・・可愛いですよ・・・その、少なくとも・・・お、俺には。」
マサヒコの顔が紅潮していく。ケイの顔も同じように朱に染まっていった。
「あ、ありがとう。その・・・嬉しいよ。」
きっと彼らの周りにいる人達はあまりの初々しさに顔を覆ってしまっているだろう。それくらに高校生とは思えない
初々しさがマサヒコとケイにはあった。
「そ、それでケイさん。用事って何なんですか?」
微妙な空気の気まずさにマサヒコはとっさに話題をすりかえる。ケイもビックリしながら答えた。
「え、あ、うん。私は部活だよ。よかったら見ていく?私の部活はねーーーーーー」
「へぇー、ケイさんって・・・」
ケイに連れられた部屋でマサヒコは周りを見ながら声を漏らす。
「うん、私演劇部なんだよ。」
そう、そこは演劇部の部室だったのだ。周りには色々な小道具や衣装が置かれている。
「こんちゃーっす。あれ?川上先輩、新入部員ですか?」
部室に入ってきた女子生徒がケイに話しかける。2年生だろうか?
「ううん、見学・・・かな?立浪さんは今日は早いんだね。」
「はい、今日は掃除ないですから。見学ですかぁ・・・私はてっきりぃ〜・・・うふふふふ〜。」
立浪と呼ばれた生徒はマサヒコとケイを見ながらニヤニヤする。
「え?どうかしたのかな?」
ケイが頭にクエスチョンマークを浮かべながら首を傾げる。立浪は口元を手で押さえながら言う。
「いえいえ〜?ついに川上先輩の良さの分かる人が現れたかなぁ〜と思いまして。年下キラーですね。」
立浪が意地悪そうに言うとケイは顔を赤くしながら言う。
「た、立浪しゃん!?そ、そんなんじゃないから。ち、違うからー!」
がぁーっと両手を挙げながら反論するケイ。
「いや、そんな力強く否定しなくても・・・」
そんな力強いケイを見ながら逆に力なく言うマサヒコ。
「ふふ、川上先輩はめんこいなぁ〜。お邪魔な私は退散して準備しますかね〜。ごゆっくりね、1年生君。」
ケラケラ笑いながら部室の奥に入っていく立浪。残されたのは息を荒げたケイと肩を落としたマサヒコだった。
「もう、立浪さんったら・・・ごめんねマサヒコ君。私の・・・その・・・彼氏だなんて。」
未だに顔を赤くしながらケイが言う。ケイの彼氏・・・冗談かもしれないがそう見られた事にマサヒコは
ドキドキしていた。
「あ、いえ、そんな事ないですよ。そう見られたのは・・・嬉しいですし。」
「え・・・あ、あの・・・その・・・私だよ?私はー」
「ケイさんは!」
ケイが何か言おうとしたのをマサヒコは強制的に遮る。そして続けた。
「ケイさんは自分を卑下しすぎです。その・・・可愛らしくて魅力的な人だと思います・・・俺は。」
自分でとんでもない事言ってるなぁ〜とは思いながらも言葉を止めないマサヒコ。
それに対しケイはひたすら顔を紅潮させていた。
「あぅ・・うぅ〜・・・あ、ありがとう・・・」
ただ、ケイはマサヒコにそう言うのが精一杯だった。
「聞いてくれますか?私の秘めた想いを・・・」
ケイは胸に手を置きながら男に向かって言う。
「私の・・・・気持ちです。」
そしてその手で男の手を掴む。
(う〜ん・・・何だかなぁ・・・)
そんなケイを見ながらマサヒコの心境はモヤモヤだ。
「心配しないでも演技だよ?」
「うわぁ!?」
そんなマサヒコの背後からボソリと口添えをしたのはあの立浪だった。相変わらずニヤニヤしている。
「ええっと・・・立浪さんでしたっけ?」
「そ、立浪。君はなんて言うの?」
よっと言いながらマサヒコの隣に座る立浪。
「あー、俺は小久保です。それで・・・別に演技くらい分かってますよ。演劇部なんですから。」
マサヒコが少しムッとしながら言う。しかし、それすら立浪は意に介さず言う。
「ふぅん・・・まぁいいや。どう?川上先輩。演技上手いでしょ〜?」
立浪がウンウンと腕を組みながら言う。確かに言うとおりだった。ケイの演技は見るものを引き込ませるような
演技なのだった。しかし、それ故にか・・・マサヒコは相手役の男子生徒に嫉妬を抱いていた。
引き込まれるが故に・・・ケイが本気でその男に対して想いを抱いているように思えるのだった。
「愛してます・・・貴方の事を・・・・」
ケイの台詞に思わずドキリとして振り返るマサヒコ。ケイの腕は男子生徒の首にかかっている。
マサヒコの心臓が一層締め付けられる感覚に陥る。頭では演技だ、演技だと繰り返しているのだが
心はそれを認めていないようだ。
「さぁて、そろそろ締めのキスシーンかなぁ〜。」
そんなマサヒコを察してか意地悪そうに立浪が言う。マサヒコは思わず自分の胸を掴んでしまう。
キス・・・?バカ演技だろ?でも・・・演技でもキスシーンてどうするんだ?本当にするのか?
それともしてるフリなのか?それでも・・・限りなく近づくんじゃないのか?
マサヒコの思考が激しく動き回る。動き回ってはいるが機能しているかは微妙だ。
「い、嫌だ・・・嫌だ・・・うっく・・!!」
益々胸が締め付けられる。意識が遠くなりそうだ。ただ・・・
「ま、マサヒコ君?大丈夫!?」
愛しい人の声だけが聞こえた気がした。
「んっ・・・・」
ゆっくりと意識が覚醒する。何があったんだ?マサヒコは思考を張り巡らせる。
「あ・・・大丈夫?マサヒコ君。も〜、ビックリしたんだから〜。」
ケイの声が聞こえる。マサヒコが目を開けるとそこにはケイの顔があった。
「ケイさん・・・?俺は一体・・?」
「うん、締め切って練習してたからね。慣れてない人は暑さと湿気で倒れちゃう時があるんだ・・・きっとそれ。」
ケイが汗に濡れたマサヒコの髪を手で払う。マサヒコの頭部にケイの手から体温が伝わる。
「そう・・なんですか。すいません・・・邪魔しちゃって・・・」
「ううん、私が悪いんだよ。すっかり忘れてたから・・・本当にごめんね、マサヒコ君。」
本当に悪そうにマサヒコに謝るケイ。徐々にマサヒコに感覚が戻ってくる。すると次第に違和感を感じる。
「・・・あの・・・ケイさん・・・俺・・・どこで寝てます?」
「え?えーっと・・・気になる・・?」
ケイが顔を赤くするのが分かる。いや、そもそも元から赤かった気もする。
マサヒコは後頭部に温かさと柔らかさを感じる。鼻で息をすれば心地よい香りも感じる事ができた。
「ケイさん、これって・・・」
そもそも・・・目をあけたら上にケイの顔がある時点で気づくべきだったのかもしれない。
「んと・・・膝枕・・・立浪さんがね、こうすれば良くなるって言うから・・・」
想像通りだった。今度あの人に会ったらお礼を言っておかないといけないな、とマサヒコは思う。
「マサヒコ君、良くなった・・・かな?」
ケイはマサヒコの頬に手を添える。触れ合った場所からお互いを感じる。
「はい、大体は・・・でも・・・」
「ん?何かな?」
ケイはマサヒコにニッコリと微笑みを返す。その笑顔はマサヒコの心にさらに深く想いを募らせていく。
「もう少しだけ・・・このままでいいですか?」
するとケイはビックリする事もなく、ただただ笑顔で言った。
「ふふ、甘えん坊だね。しょうがないなぁ、もう少しだけ・・・・もう少しだけだよ。」
ケイがマサヒコの頭を撫でる。マサヒコは再び目を閉じると幸せを噛み締めるのだった。