作品名 作者名 カップリング
「私の後ろに・・・ エピソード1 出会い〜An encounter 〜」 そら氏 -

もし彼がこの出会いを後に振り返ったならばこう言うだろう。
「きっと、一目惚れだった。初めて出会った時から何かを感じていたんだ。」と・・・

咲き誇っていた桜も影を潜め徐々に夏に向かっていく五の月の下旬。
四月に入学してきた初々しい一年生たちも少しずつだが学校に慣れてきて校内にも
新風と言うべきか、新しい活気が生まれてきている。
そんな中、一人の男子生徒が教室名を示すプレートを見ながらフラフラしている。
決して身長は高くないが、中性的な顔立ちで優しそうな雰囲気がある。
「やれやれ、先生も教材くらい自分で運んで欲しいもんだ。中学も高校もこの辺は同じだよなぁ。」
廊下でその少年が男子生徒がぼやく。彼の名は小久保マサヒコ。この春に英稜高校の一年生となった少年だ。
彼は担任の坪井先生に日直と言う理由で視聴覚室にある、資料を持ってくるように言われているのだった。
しかし・・・まだ入学して一ヶ月たらず。特別教室の位置などそんなに把握していない彼にとって
先生の命令はあまりに過酷だった。
「全く・・・せめて何階かくらい教えてくれてもいいのに・・・二階にもないなら三階かなぁ?」
マサヒコが三階への階段を上っていく。ここ英稜高校では学年で階が分かれており
一年生は一階、二年生が二階。そして三年生が三階となっている。
(ここが三階か・・・う〜ん、三年生の階ってイマイチ近寄りにくいんだよなぁ・・・)
マサヒコに少しの緊張が走る。学生にとって学年の差というのは結構大きい。
中学に比べれば高校では緩和されてると思うが、やはり上級生というのは苦手だ。
英稜高校は一般的な地元の公立高校ながら俗に言う不良生徒はほとんどいない。
これには小宮山という先生が一枚噛んでいるらしいが・・・まぁ、そんな事は今のマサヒコにはどうでもいい。
三年生の目を掻い潜りながらマサヒコは視聴覚室のプレートを探して目を滑らしていく。
(あ〜、くそ!全然見つかる気がしねぇ・・・)
しかし、一向にそれらしい部屋は見つからなかった。マサヒコは少しイライラしたように頭を掻く。
放課の時間もそうは長くない。このまま帰れば先生に何を言われるか分かったもんじゃない。
まぁ、場所も言わず視聴覚室に来いって言う先生も先生だが・・・
いっそ三年生に聞いてみようか・・・とマサヒコは思う。たかだか二つしか変わらない年齢。
社会に出れば全く大したことのない年齢差だが、学生にはそれはとても大きい差だ。
なかなか話しかけるのを躊躇ってしまう。そんなマサヒコの隣を通り過ぎる女生徒がいた。
黒い、肩より少し上までの女の子にしては少し短めの髪。大人しそうな印象を与えるが整った顔立ち。
背もそんなに高くはないが、出るところはでている女性らしい体つき。
もしかしたら教室移動か何かなにか、本らしきものを胸でしっかりと抱きしめている。
その女生徒は一般的に見れば地味な方に入るかもしれない。
実際、マサヒコの近くの女性から比べても地味だろう。彼の中学時代の家庭教師である濱中アイや
中村リョーコ。クラスメイトの的山リンコや幼馴染の天野ミサキ。今はアメリカにるが友人の若田部アヤナ。
しかし、マサヒコはその女生徒から友人達とは違った、何ともいえない魅力を感じていた。
(・・・そうだ、この人に聞くか。多分三年生だろうし。)
マサヒコは一人でウンと何か決心するとその女生徒の後を追った。
その女生徒は別に急いではいないのだろう、ゆっくり歩いているせいかマサヒコはすぐに追いついた。
彼女に揺れる髪から甘い香りがマサヒコの鼻腔をくすぐる。思わず嗅いでいたくなるような香り。
(って!俺これじゃ変な人じゃん。)
マサヒコはブンブンと首を振る。そしてフゥ〜と一度深呼吸をすると女生徒に声をかけた。
「あの、すみません。ちょっといいですか?」
これが二人の出会いだった。もっともその出会いはお世辞にも運命的とは言えないものかもしれないが。
「え・・・きゃ・・・わぁあああ!!!」
女生徒の悲鳴のような声が廊下にこだました。



「へ・・ええ??」
マサヒコは口をポカーンと開けていた。頭の中で状況を整理してみる。
視聴覚室分からない→三年生に聞いてみよう→声かける→何故か悲鳴をあげられる。うん、OK。
マサヒコが声をかけた女生徒はビックリした顔でマサヒコを見ながらペタンと廊下に座り込んでいる。
よく見るとうっすら涙を浮かべているように見える。何だかマサヒコがいじめたように見えてしまう。
女生徒の悲鳴を聞いた廊下にいた三年生も何事かとこっちをジロジロ見ている。
(ま、まずい。何か俺がやったみたいだ・・・どうする?)
頭を可能な限り働かせてどうにかしようと考えるマサヒコ。とりあえず彼のとった行動は
「あ・・・あの。すいません。その、大丈夫ですか?」
マサヒコが女生徒に近づいて手を差し伸べながら聞いてみる。
するとその女生徒は顔を上げてマサヒコの顔を見た。若干涙の後が残っている。
「あ・・・」
女生徒が口を開く。たった一言だが女の子らしい可愛らしい声にマサヒコの心臓は高鳴った。
次の瞬間、マサヒコの手に体温が伝わる。女生徒はマサヒコの差し伸べた手を握って
立ち上がった。柔らかくて温かい。それがマサヒコの感想だった。しかし、何だか恥ずかしく繋がっている
手から目を離すマサヒコ。目を離した先は女生徒の顔だった。可愛らしい清楚な顔立ち。
恐らくマサヒコのせいで目尻に涙の後があるが、彼女も恥ずかしいのか頬がほんのり赤い。
「あの、その・・・なんかビックリさせたみたいで。すいませんでした!」
女生徒が立ち上がったのを確認すると手を離して謝るマサヒコ。すると女生徒は言った。
「あ、私の方こそごめんなさい。急に後ろから声をかけられたからビックリしちゃった。
えへへ、私怖がりなんで・・・後ろから声かえられたりするとこんな風に驚いちゃうんですよ。」
『ほにゃっ』という擬音が似合いそうな顔で微笑みながら女生徒は言う。
その笑顔にマサヒコは再びドキリとする。とても印象に残る笑顔だ。
一点の曇りも穢れもない笑顔。もしかしたら今まで出会った事のないような笑顔かもしれない。
「そうなんですか。すいません、知らずに・・・」
「あ、気にしないで下さい。何せ友達が後ろから声かけてもビックリするくらいなんで。」
マサヒコの言葉を遮って女生徒が言う。どうやら怒ったりはしていないようだ。
「あの・・・それで私に何か御用ですか?」
女生徒がマサヒコに言う。するとマサヒコはハッと元々の用件を思い出した。
「あ、そうだ。視聴覚室・・・どこにあるか教えてもらえないですか?」
「視聴覚室?あ、もしかして新入生君かな?いいよ、教えてあげるね。」
マサヒコの申し出を快く引き受ける女生徒。どこか幼さがあるが、やはり上級生のようだ。
「視聴覚室はね、三階の向こうの棟にあるんだよ。そら、あそこ。見えるかな?」
女生徒が廊下の窓から指差す先。そこにある教室が視聴覚室だと言う。
「あ、あんな所に。すいません、助かりました。」
マサヒコが女生徒に頭を下げる。
「ううん、いいよ。少し分かりにくいもんね。あ、私も教室移動だった・・・それじゃあね。」
女生徒は微笑みながら手を振って去っていった。マサヒコはその女生徒の後姿をしばし眺めながら
思い出す。あ・・・名前・・・何て言うんだろう。




「お〜〜い!小久保く〜〜〜ん!」
放課後。教室で帰る準備をしているとクラスメイトの的山リンコが話しかけてきた。
リンコは中学時代と全く代わり映えがなく、男子女子なんて関係ないって感じである。
「ん?何か用か?的山。」
「特に用はないよ〜?ただ暇なら一緒に帰ろうかなって。」
その声にクラス中がザワっとする。まだ新しいクラスになったばかり・・・特別仲のよさそうな男女は噂になったり
するのは実に自然な流れであった。
「へ〜、的山さんと小久保君は付き合ってるの?」
すると近くの女子生徒が話しかけてくる。ミサキを思わせる色素の薄いショートの髪。
とても一年生とは思えないスタイル。矢野アキだった。
「あ、それは私も気になってた。二人は同じ中学か何か?」
それに便乗して肩くらいまでの黒髪に可愛らしい顔立ちの少女、城島カナミが聞いてくる。
「うん、同じ中学だよ〜。小久保君とはよく家で勉強してたんだ〜。」
リンコが嬉しそうに言う。それに目を光らせたのは長い少し癖のある黒髪に、釣り目の少女。
確か入学して少ししてから引っ越してきた黒田マナカという子だ。
「成る程、つまり保健の勉強もしてたって事ですか?狭い部屋で二人の男女が勉強会と偽って
保健体育の予習・・・これネタに使えるかも!」
「えー、高校生にもなればもう予習じゃないんじゃない〜?」
マナカの発言に少し不満そうに言うのは岩瀬ショーコ。彼氏持ちとの話だ。
「いや、勉強してたって言ってもカテキョ同士が友達同士で勝手にウチ使われてたと言うか・・・」
「ハーレム!?中学生で!?う〜ん、進んでるなぁ〜。」
カナミがウンウンと何か納得しながら言う。するとリンコが
「あ、それだけじゃなくて、小久保君の幼馴染の女の子もよく一緒だったよ〜。」
と余計な事を言う。
「クラスメイト、カテキョ、幼馴染。入り乱れる嫉妬の感情。そして5P!イケますね!」
マナカがグッと拳を握る。マサヒコは多少呆れながら弁解をするが全く聞いてもらえない。
「諦めなよ・・・私は分かってるつもりだから・・・頑張って二人でツッコミ入れようよ。」
そんなマサヒコの肩をポンと叩きながらアキが疲れたように言う。ここにマサヒコとアキの間にツッコミ同盟が
生まれたのだった。
「面白そうね〜。そうだ、私達も一緒に帰りましょうよ。んで、道中寄り道して話聞かせてよ。」
ショーコがポンと手を打ちながら言う。他の面々もいいねえ〜と乗り気のようだ。
「え?いや、それは俺は抜きだよね?」
聞いても無駄な気はするが一応聞いてみるマサヒコ。
「え?何で?いいじゃん、一緒におしゃべりしようよ。」
カナミが不思議そうな顔してマサヒコに言う。
「いや、だからさ。こんな女の子の中に男が俺一人ってのもさ・・・」
マサヒコが手で意味不明なジェスチャーをしながら言う。比較的良識のあるアキは「あー、成る程」と
分かってくれたようだが、リンコの
「え?中学の時と人数一緒だよ?前は私にミサキちゃん、アヤナちゃん、アイ先生に中村先生で5人でしょ?
今は同じく私にカナミちゃん、アキちゃん、マナカちゃん、ショーコちゃん。ね?一緒。」
の言葉で全てが台無しになった。結局、はべらしてる人数は同じって事でマサヒコは強制連行されるのだった


「でね、お兄ちゃんったらね・・・」
連行されたマサヒコの行き着いた先はファーストフードショップだった。
周りから奇異の目で見られながらも中学時代と同じような感覚と言い聞かせると不思議とマシな感覚になった。
すでに一時間くらい話しているが、その中である程度みんなの性格が分かった気がした。
リンコは言うに及ばすだが、まずカナミはアイ先生に似てる気がした。エロボケを連発するが、天然なのか
素なのか分からないのが理由だろうか。そういえばクラスの男友達が「城島さんは可愛いけど、性格がな」
と言ってたのを思い出した。ああ、確かにって感じだ。確かに可愛らしい。だが、その性格はかなり問題
ありだろう。性悪ってわけじゃないが・・・何というかマトモに付き合うのは大変そうだ。
次にマナカ。クラスではマナカナコンビと言われるほどカナミと仲がいい。実際幼馴染らしく
相性も抜群な感じだ。ちなみに、どうでもいいが本物のマナカナ姉妹はよく似ているがなんと
二卵性であるそうだ。彼女は官能小説家を目指してるらしく、暇さえあればネタを探している。
幼少時から官能小説を読む子供だったらしいから、色んな意味でカナミと同じ感覚である。
ショーコは比較的常識人な気がしなくもないが、彼氏が絡むと一気にあのメガネと同じような感じになる。
言ってしまえば変態の域かもしれない。事実、アキがキツイツッコミを入れるときは「あー、あんた自分が
変態なの自覚してんだ。」と言うほどである。是非中村VS岩瀬を見てみたものだ。
どうでもいいが、数年前までは我らがドラ○ンズでバッテリー組んでたな。この二人。
そして、最後にアキ。ひたすらツッコミを入れる苦労人で、ツッコミの鑑な気がする。
マサヒコも中学時代は結構突っ込みを入れていたが、ミサキやアヤナというツッコミがいた。
しかい、彼女は一人で今まで担っていたのだ。その苦労は計り知れない。
後は巨乳ネタで結構カナミとマナカにいじられている。あ、今日からリンコも加わったか。
その点ではアヤナと通じるところがあるかもしれない。
「ん?小久保君どうしたの?私達の顔ジロジロみて。」
マサヒコがそんな事を考えていると、カナミが不思議そうに聞いてきた。
「は・・・まさかハーレム慣れしてるから今日は誰にしようと考えてるとか!?」
「いや〜、私はこれでも二股はなぁ〜。」
マナカとショーコが明らかに勘違いしているようだが、無視してマサヒコは言う。
「ああ、いやさ。何となくだけどみんなの性格が掴めてよかったなぁ〜ってさ。」
「そだね。せっかく同じクラスになったんだし、仲良くしたいもんね。」
アキがウンウンと同意する。みんなもそれに同調したのか笑っていた。
話も適当に切りをつけてそろそろ帰ろうと、そんな時だった。
「あ・・・お〜い、おにいちゃ〜〜ん!!」
カナミがブンブンと手を振る。その先には男女四人組がいた。そのうちの一人の男性がこっちを見る。
どうやらカナミの兄のようだ。しかし、問題はそんなトコじゃない。
「あ・・・あの人は・・・」
マサヒコは一人つぶやいた。何故なら廊下で出会ったあの三年生の女生徒がいたんだから。



「何だ、お前らは寄り道か〜?」
カナミにお兄ちゃんと呼ばれた男が近づいてくる。
「うん、一種の交流会かな?あ、こっち的山リンコちゃんと小久保マサヒコ君。」
カナミが兄にマサヒコとリンコを紹介する。二人とも流されるように頭を下げる。
「あ、俺はこいつの兄で城島シンジ。しかし珍しいな〜。お前が男友達とはね・・・」
シンジがアゴに手を当てながらマサヒコを見てウンウンと頷く。そんな状況の中、シンジと一緒にいた
他の三人も近づいてきた。マサヒコの心臓が少しずつ高鳴っていく。間違いない・・・あの人だ。
「何だ、シンジの妹と仲間達か〜。久しぶり〜。」
もう一人の今風の男が気楽そうに声をかけてくる。しかし、マサヒコにはそんなの問題じゃなかった。
問題はこの四人がどんな関係なのか・・・もしかしたら・・・付き合ってるんではないか。それだけが
頭の中を駆け巡っていた。
「カズヤさん、こんにちは。もしかして・・・デートですか?」
カナミがカズヤに言う。マサヒコもギクリと反応する。
「あ、やっぱそう見える〜?いや、実はさ〜・・・へぶし!?」
「調子に乗るな!違うわよ、カナミちゃん。委員会で遅くなったからね。一緒になってるだけよ。」
そんなカズヤを鉄拳一発で沈めた肩くらいの髪を外に跳ねさせている女性が言う。
その言葉に少しだけほっとするマサヒコ。よかった・・・違うみたいだ。
「そうだ、カナミ。せっかく一緒なんだ。買い物して帰ろうか。」
シンジがカナミに言う。そういえば城島家は現在兄妹二人暮しって言ってたな。
「そうだね。じゃあここで解散しよっか。」
カナミが言う。他の面々もそうだね〜と言い、それぞれ別れの挨拶を始めていた。
が、マサヒコにはそんな事はどうでもよかった。あの人が目の前にいる・・・何故だか分からないけど
とても気になる人。名前も知らない人・・・そうだ、名前も知らないんだ。だったら・・・
「あ、あの!」
そう思った瞬間マサヒコの体は動いていた。そう、あの女生徒の前に。
マサヒコの声と行動に一同シーンと声を潜める。
「あの・・・覚えてますか?今日の・・・」
マサヒコの言葉に女生徒はニッコリ笑うと
「うん、覚えてるよ。視聴覚室には行けたかな?」
と言った。マサヒコはドキドキと鳴っている自分の心臓を押さえ込むと緊張しながら言った。
「お陰さまで。それでその・・・えっと・・・急にこんな事言われて困るかもしれないですけど・・・」
周りの緊張が高まる。このシチュエーションは・・・女生徒も顔を赤くして次の言葉を待っている。
マサヒコは一度息を呑んで自分の中で再び決意すると声をあげた。
「名前・・・教えてください!!」
ズルっと・・・そうギャグ漫画のように盛大に女生徒以外が滑った。それはそうだろう。
いかにも告白のシチュエーションで名前教えてください・・・だ。
だが、女生徒だけはそんなマサヒコをジッと見据えると『ほにゃっ』と笑って言った。
「私はケイ・・・川上ケイだよ。英稜の三年生だよ。えへへ・・・よろしくね。」
そう言ってケイはマサヒコにスッと手を差し伸べた。
マサヒコは少し顔を火照らせた後、状況に気づいてケイの手を握って言った。
「あ・・・俺小久保マサヒコです。その・・・よろしくお願いします。」
二人に体温が手から徐々に伝わっていく。それは、この物語の始まりだった。


Gポイントポイ活 Amazon Yahoo 楽天

無料ホームページ 楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] 海外格安航空券 海外旅行保険が無料!