作品名 作者名 カップリング
「ファイナルエピソード もう一度、自らの足で」 そら氏 -

今日はマサキの三歳の誕生日だ。そしてそれは同時にミサキの三回忌を意味する。
「ぱぱ〜、どこいくの〜?」
チャイルドシートに座り、後ろの座席でアヤナと雑談していたマサキが言う。
「ん?そうだな・・・ミサキママの・・・ところだよ。今日はマサキが三歳になるだろ?だから
こんな大きくなったよって・・・お話に行くんだよ。」
「ふふ、心配しないでもいいわよマサキ。その後で今日はみんなでマサキのお誕生日
お祝いしてくれるからね。楽しみにしてなさい。」
そう言ってマサキの頭を撫でるアヤナ。そうするとマサキはくすぐったそうに笑った。
ミサキの眠る場所へ車を走らせるマサヒコ。それについて来る様に数台の車が走っている。
ふと窓越しに空を見る。雲一つない青空だ。ミサキ・・・三年も待たせちゃったな・・・・

しばらく車を走らせると霊園へつく。他の車も続々と到着し、一向は一つの墓標へ向かう。
「ミサキ・・・ただいま・・・・」
それはミサキの墓。みんなで少々掃除などをした後近況報告に入った。
「まずは・・・マサキ。ミサキママに挨拶しておいで。」
マサヒコがマサキに言う。マサキは言われるままにミサキの墓に近づいた。
「えっと・・・初めましてママ!ママとは会ったことないけど・・・僕のママなんだよね?僕ね
今凄く幸せだよ。みんなといれて凄く楽しいんだよ。だからね・・だから・・ママ、ありがとう!!」
ありがとう・・・ミサキが聞いてれば私はマサキに何もしてないよ?とでも言いそうだ。
でも、マサキは分かっているのだろう。ありがとうとは・・・生んでくれてありがとう・・・
ママが生んでくれたおかげで僕はいま凄く幸せ・・・だからありがとう・・・そう言うことなんだろう。
それだけ言うとマサキはアヤナのもとへ戻った。




続いてアヤナが墓に近づく。
「久しぶりね天野さん・・・私は今あなたとの約束を果たしているわ・・・でも、果たしきったとは思ってない。
私は一生あなたとの約束胸に生きていくわ。小久保君とマサキのことは任せてね・・・ああ、でも
約束のために一緒にいるわけじゃないわよ・・・私はあなたに負けないくらい・・・彼の事好きだから。」
相変わらず照れからなのか、最後の方は小声になるアヤナ。少し目をつぶった後
栗色の髪をかきあげ、相変わらず大き目の胸を張る。
「とにかく!私とあなたは今も勝負中・・・ずっとライバルなのよ!それを忘れないでね。」
そう言うとマサキの元に戻る。

続いてアイが墓へ赴く。
「えへへ、お久しぶりミサキちゃん。元気にしてたかな?私は今は産休も終わって教職に戻ってるよ。
今年からね、地元の小学校に転勤になったんだ。おかげで10年勤続できればマサキ君の
小学校卒業を見送ることができるんだよ。なんとしても10年いないとね・・・それがミサキちゃんとの
約束だから・・・うちのマナミともマサキ君は仲良くさせてもらってるよ。まるで・・・幼馴染みたいに・・・
あはは・・・なんかまとまらなかったけど・・・ゆっくり休んでね・・・ミサキちゃん。」
そこまで言うとアイは目をつぶり手を合わせた。



「よぉ、ミサキ・・・元気か?私は元気だぞ?ああ、セイジも元気だ・・・もちろん夜も元気だ。
私は意外と思われそうだけど専業主婦してるのよ。子供もうちらの中では一番大きくてな。
長男坊はもう小学生だぞ?子供の成長は早いもんだ。マサキ君もきっとすぐだ・・・
マサもアヤナの手を借りてしっかり育児してるよ・・・それでももし二人の手でも厳しそうな時は・・・
そのときはあんたが手を貸してやりな。そうすればどんな壁も越えれるだろうから・・・」
そこまで言うとリョーコは少し自嘲気味にハハッと笑う。
「まぁ、柄にも無いこと言っちゃったな。とにかく・・・マサもアヤナもマサキ君も心配いらないよ。
私達もいるからな・・だから安心しときな、ミサキ。」
そう言って墓を撫でるリョーコ。引き返すとリンコとハイタッチをかわす。

「ミサキちゃん!!!!」
リョーコと変わったリンコは墓の前にくるなり大声で叫んだ。
「ごめんね!!私、ミサキちゃんにお別れできなかった!!泣くことしかできなくて・・・お別れできなかった!
本当にごめんね!ミサキちゃん!」
後ろからは見えないが恐らく泣き顔でむちゃくちゃなんだろう。声が上ずっている。
「さよならは言えなかったけど・・・約束はきちんと守ってるよ・・忘れっぽい私だけど・・・ちゃんとマサキ君と
遊んでるよ!マサキ君はとってもいい子でね・・・まるでミサキちゃんと遊んでるみたいなんだ・・・
えへへ・・・言いたいこと沢山考えてきたんだけど・・・忘れちゃった・・・だから・・・
遅くなっちゃったけど・・・ばいばい、ミサキちゃん!また・・・会おうね!!」
服の袖で涙を拭うリンコ。拭い終わるといつもの笑顔で戻ってきた。




さて、両親からの報告も終わり、最後は当然マサヒコ。マサヒコが墓へ向かう。すると
「ごほん!えー、マサは長くなりそうだからな。みんなで先に車へ戻っておこうか。さぁさぁ、早く早く。」
わざとらしく咳払いをしてリョーコが言う。
「え?いや、別にそんなことしなくても・・・・」
「いーや!二人でゆっくり話な・・・ほらほら、車戻るぞ、皆の衆。マサキ君の誕生会の準備しないとな。」
「わ〜い、リョーコせんせえありがと〜。」
そう言ってはしゃぐマサヒコ。その手を繋いでいたアヤナがマサヒコに目配せをする。
そのままマサヒコを置いてみんなは車へ戻っていった。さっきまでたくさんの人がいた墓の前も
今はマサヒコ一人。マサヒコは改めて墓に手をつく。言いたいことはきっとたくさんあるんだろう。
ミサキとの別れ・・・失意のどん底・・・マサキへの恐怖・・・アイの指導・・・アマツとマサキ・・・
リンコの優しさ・・・リョーコの教え・・・そしてアヤナとの再婚。本当に色々あった三年だった。
それでも、マサヒコが一番言いたいことは一つだった。三年越しの言葉だ。マサヒコは目をつぶる。
「ミサキ・・・・愛してる・・・・」



幻影なんだろうか・・・いまだに目をつぶったままのマサヒコの眼前にミサキがいた。
マサちゃん・・・ありがとう・・・私もだよ・・・
ミサキ・・・ごめんな・・・三年も待たせて・・・
ううん・・・マサちゃんには・・・たくさん苦労かけちゃったね・・・
いや・・・俺にはみんながいたから・・・ミサキもずっと傍にいてくれたんだな・・・ずっと支えてくれてたんだな・・・
えへへ・・・マサちゃんは昔から世話がやけたからね・・・私が傍にいてあげないと・・・でも・・・
ああ・・・そろそろミサキにも休んでもらわないとな・・・三年も支えてくれてたんだからな・・・
うん・・・今は若田部さんもいるしね・・・
はは・・・妬いてるのか・・・
ううん・・・若田部さんなら安心できるよ・・・だからマサちゃん任せたんだから・・・
そうだったな・・・俺もそろそろ・・・一人で歩かないとな・・・
うん・・・もうマサちゃんは大丈夫だよ・・・きっと一人で歩けるよ・・・
ああ・・・俺はまだ生きていかないといけない・・アヤナと・・なによりマサキのためにな・・・
うん・・・私はずっと・・・ずっとマサちゃんとマサキちゃんと若田部さんの傍にいるから・・・
ああ・・・見ていてくれ・・・俺は・・・精一杯生きていく・・・だから・・・おやすみ・・・ミサキ・・・

マサヒコは目を開ける。もちろんミサキはいない。それでも、彼の傍にミサキはいた。
空を見上げる。雲ひとつない青空だ。きれいなそら。
さて、みんなの所に戻るか。マサキの誕生会してやらないとな。マサヒコは墓に背を向ける。

さぁ、歩き出そう・・・・もう一度、自らの足で

FIN

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