作品名 作者名 カップリング
「エピソード4 マサヒコとリョーコ」 そら氏 -

「よぉ、マサ。よく来たな。まぁ入れ入れ。」
開いたドアの先にいたのは中村・・・もとい豊田リョーコ。料理でもしていたのだろう
エプロンに長い髪をポニーテールにしていた。普段のリョーコからはなかなか想像しにくい姿である。
「もうすぐ食い物もできるし、そこで座って待ってな。」
言われたまま椅子に座るマサヒコ。そもそも、なんでこうなってるんだろう・・・・
事の経緯ははこうだ。ある日、マサヒコの携帯にリョーコから電話がきた。普段はメールでやり取りが
多いので電話は滅多にこない。つまり、電話がくるのは真面目な話。
さて、何の話かマサヒコが携帯をもって身構えていると次の休みはいつだ、じゃあその日に来い。
との事だった。そしてそのままなし崩し的に豊田邸へ・・・うん、すんごい普通の経緯だ。
「先生・・・今日は子供’Sと豊田先生はいないんですか?」
調理中のリョーコに話しかける。後ろから見る調理しているリョーコはとても家庭的な感じだ。
「ん?ああ、今日はマサと腹割って話したいからちょっと出てもらってんのよ。」
調理しながら答える。パチパチと油の音がする。鳥のから揚げあたりだろうか。
「そぉいやぁ、あんたんトコは?マサキ君どうしとるよ?」
相変わらずマサヒコを見ることなく話すリョーコ。
「ああ・・・今日は的山と若田部が遊びに来てるから見てもらってるよ。今頃ナナコとアマツの
散歩に公園でも行ってるんじゃないかな。」
出されたお茶を飲みながらマサヒコは答える。それにしても・・・・
この人がえらい真面目なのは珍しいな・・・・




「ほい、お待たせ。まぁ、食え食え。今日歩いてきたよな?んじゃあ酒も出すかぁ。」
「確かに歩きだが真昼間から飲む気かよ・・・・」
料理を次々と並べさらに冷蔵庫からビールを取り出すリョーコ。それをマサヒコに渡すと
嬉しそうに缶を開ける。プシュッといい音を立てる。
「ほんじゃ・・・とりあえずかんぱ〜〜〜い。」
マサヒコも缶を受け取り、開ける。そしてリョーコの缶と軽くぶつける。コツっという音が響く。
「んっんっんっ・・・・ぷは〜〜〜!!!昼間でも美味いな、おい。」
から揚げをつまみながら豪快にビールをあおるリョーコ。マサヒコもリアクションは大きくないが
ゲソをつまみにビールを飲む。
「それで・・・まさか今日は飲み会のために呼んだ訳じゃないですよね?」
「あんだよ〜〜、せっかく楽しく飲んでるのにノリわりぃのは昔から変わってねぇなぁ。」
マサヒコの言葉にいささか不満そうなリョーコ。1本目のビールを一気にあけると急に真剣な顔になる。
「んじゃあ・・・早速本題はいろっか。マサ、あんた再婚しないの?」
シンプルイズベスト。文字通り本題をズバっと言うリョーコ。
「某占い師並にズバリ言いますね・・・・再婚ですか・・・」
「そ・・・一応候補はいるだろぉ?リンにアヤナに・・・ああ、アイのトコの義妹さんとかも。」
言われた名前を頭に浮かべる。的山リンコ・・・相変わらずの天然っぷり。しかし、なにげに高給とり。
下手すればマサヒコより稼いでいる。ただ、マサキのことは気に入ってくれてるよなぁ・・・
若田部アヤナ・・・バリバリのエリートOLで色々飛び回って忙しそうだ。一段落ついた時は
必ずうちに寄ってくれている。そういえばこの前その理由を聞いたら「か、勘違いしないでよね!
私はあなたじゃなくてマサキ君に会いにきてるんだからね!」なんて言ってたな。
城島カナミ・・・完全に同期で一番接する機会が多い。家庭的で子供も好きみたいだ。
ただその・・・・最近分かってきたが性格が・・・・
「候補って・・・・確かに多少回りに女性はいますけど、相手の気持ちは知りませんし。」
一通り挙げられた名前の女性の確認をしてマサヒコが言う。



「はぁ?あんた昔っから鈍かったけど、今も鈍いわねぇ・・・少なくともみんなあんたに好意は
あると思うわよ?まったく、エロゲーの主人公状態ね。」
2本目もすでに半分空けながらリョーコが言う。
「そうですかね?でも・・・再婚は必要ないような気もしますよ。男手一つでもマサキは
育ってますしね。このままいけると思ってますよ、俺は。」
はははっ、と笑いながら答えるマサヒコにリョーコはグーでオデコを殴る。
「ったあ!いきなり何するんですか!?」
「私のボケをスルーするな・・・じゃなくて・・・あんた今なかなかとんでもない事言ったわよ?ったく
このままいけるだぁ?男手一つで育ててるだぁ?いつからそんな偉そうな口聞けるようになった!
昔アイに言われたの忘れたのか?自分一人で育ててると思ったらそれは傲慢でしかないって。
私はしっかり覚えてるわよ。あの日のアイは嬉しそうで全部教えてくれたからね。
子供はなぁ、親の手だけで育つんじゃないんだよ。身近に言えばばあちゃんの手で、
少し大きくなれば幼稚園や学校の先生の手で、同級生の手で、これから出会うであろう
たくさんの人の手で、いわば世界の手で育つんだよ。それをあんたは・・・・!」
鋭い目でマサヒコを睨みながら捲くし立てるリョーコ。マサヒコの頭に殴られたような衝撃が走る。
いや、実際殴られたんだが・・・事実、少なからずマサヒコには自惚れがあった。
日に日に成長していくマサキ。それは全て自分の力だと錯覚していた。
「・・・すいません・・・忘れてました。先生の言葉・・・あれだけ胸に染みたのに・・・」
自分の自惚れに気づき顔を伏せながらマサヒコが言う。
マサキとの溝を埋めてくれたアイの言葉。それを忘れてしまっていた自分。まったく、情けない。
「まだまだ俺も子供ですね・・・こんな歳になってまで先生達に教えられるなんて・・・」
「まぁ、いいんじゃない?あんた達はいつまでも私達の生徒だし・・・それに私だってまだ子供だわよ。
どっかで聞いた事あるんだけど・・・人は皆大人になろうと懸命に努力している子供なんだってよ。
例え子供でも、大人になろうって努力してればいいんじゃないか?あんたは立派になったよ、マサ。」
常に破天荒で変な先生だったリョーコ。それでも、やっぱりこの人にも敵わないなとマサヒコは思う。
照れなんだろうか、素直にアドバイスはできないがそれでも心底生徒の身を案じている・・・
やっぱりこの人も・・・俺の恩師だ。




「さて・・・なんだかしんみりしたがまだ終わりじゃないぞ。あんたが再婚に踏み出せない理由。まだあんでしょ?」
話は終わりじゃないらしい。リョーコが3本目に手をつける。ちなみにマサヒコはようやく1本飲み終えた。
「そうね・・・私が予想するに・・・愛せないってトコかしら?」
マサヒコがビクっと体を震わせる。それを見逃すほどリョーコは甘くない。
「トイレか?違うならビンゴね・・・・あんたらしいわ。再婚して嫁さんもらっても、ミサキ以上に愛せる自信
がないってか?よく分かるわよ。」
さすがはリョーコ、これまた本命にズドンだ。マサヒコが口を開く。
「そうですね・・・きっと俺はミサキ以上に愛する人なんていませんよ・・・そんな俺が再婚しても・・・
きっとその人は俺やマサキの面倒を見るだけ・・・お手伝いさんみたいになってしまいそうで。」
「そうか・・マサはメイド趣味じゃないのか・・・・まぁ、それは置いといて。確かに今のあんたじゃ
お手伝いさんにしかならないでしょうね。」
ゲソを手につけながらリョーコが言う。マサヒコが答える。
「はい・・・それじゃあ再婚相手に悪いですから・・・だから踏み出せないんです。」
2本目をあけ、から揚げを取るマサヒコ。リョーコは目を閉じ、腕を組んでいる。
「なるほどね・・・全く、あんたは甘ちゃんよねぇ。まぁ、そこがいいんだろうけど。自分とマサキ君の事の前に
相手に悪いか・・・じゃあ、それでも構わないって人がいたらどうするよ?」
へ・・・?と目を丸くするマサヒコ。普通に考えればいるわけない。夫は前妻への思いを募らせたまま。
子供は赤の他人。どれでも、一緒にいたいと言う女性。そうそういるもんじゃない。
「その子はね・・・ある意味あんたとマサキ君と一緒にいるのが宿命みたいなもんみたいでね・・・
約束・・・って言ってたかしら?例え今はミサキへの思いが捨てれなくても、同じくらい愛してもらえる
ようにするって。ライバルに追いついてみせるってね。ふふっ、そこで笑えるのは追い抜く気はないみたいでねぇ。
マサキ君にしても、自分の子みたいに可愛がる気満々よ。マサキ君もその子の事好きみたいだしね。」
モテッぷりもエロゲーの主人公並なら鈍さも主人公並、マサヒコにはその女性の姿が見えてこない。
ただ・・・同じくらい愛してもらえるように頑張る・・・それがマサヒコの心を少なからず動かした。
「なぁ、マサ。再婚はミサキに対する裏切りでもなんでもないぞ?あの子の事だ、むしろ再婚して
みんなで幸せになって欲しいと思ってるんじゃないか?あの子はそういう子だよ。」
「そうですね・・・それも考えてました。再婚はミサキに対する裏切りなんじゃないかって・・・
でも、ミサキなら先生の言ったように思ってる・・・そんな気がするんです・・・
ただ、先生の言うような人がいれば・・・ですけどね。」
頭を掻きながらははっと笑うマサヒコ。対してリョーコはため息をつく。こいつ、鈍すぎだ・・・・



どれくらい話していただろう、すでに結構な時間だ。
「それじゃあ・・・今日はありがとうございました。色々・・・教えてもらいました。」
玄関で靴を履きながらリョーコに一礼するマサヒコ。
「ああ・・・あんたの人生まだまだ色々あるだろうが・・・まぁ相談にくれば私なりに答えてやるよ。」
昼間から計5本飲み干したリョーコ。しかし、相変わらず素面のようだ。
「じゃあ、本当にありがとうございました、先生。」
「ああ、マサ、ちょいまち。」
ドアを開けようとするマサヒコを引き止めるリョーコ。
「再婚の話な・・・マサキ君のためにもいいと思う。言ってないかもだけど、私の家、家庭環境
よくなくてな・・・子供にとって母親の存在は大きいんだよ。だから・・・いたほうがいい。
そうじゃないと私みたいに捻くれた奴に育っちまうぞ?」
自嘲気味に笑って言うリョーコ。
「そうですね・・・それは困りまキから考えて見ます。」
「ああ!?そこは私のどこが捻くれてる?そこは否定するトコだろうがボンクラが。」
マサヒコの頭に1発チョップをお見舞いするリョーコ。
「いて・・・でも・・・先生はそんな環境だったからこそ・・・俺にアドバイスくれれたと思うんです・・・
だから・・・きっとそれも無駄じゃないですよ。はは、それじゃあまた会いましょう。おやすみなさい。」
バタンとドアが音をたてて閉まる。無駄じゃないか・・・マサも言うようになったなぁ・・・・
感慨深く思いながらリビングに向かうとリョーコは携帯を取る。
「ああ・・・もしもしアヤナ?・・・うん・・うん・・・後はあんた次第よ・・・うん・・・
そう・・・ミサキとの約束・・・しっかり守りなさいよ。」
そこまで話すと玄関から声が聞こえる。
「おーーい、リョーコーー!今帰ったぞ〜〜。」
セイジと子供達の帰還だ。リョーコは携帯をおくと玄関へ向かった。教え子の行く末を案じながら・・・

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