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「エピソード3 マサヒコとリンコ」 |
そら氏 |
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マサキが生まれてもう2年がたっていた。初めはあったマサヒコとの溝も今はどこへやら、マサヒコも
すっかり親馬鹿状態である。マサキも誰に似たのか好奇心旺盛で何にでも興味も持ち始めた。
たまに訪れる、元淫猥家庭教師リョーコの言葉にも興味を持つのでなかなか躾が大変ではあるが。
例えば先日、マサヒコはマサキと出かけた先で
「パパ〜。パパっていーでぃーだってリョーコせんせえが言ってたけど、いーでぃーって何?」
なんて街中で聞いてきおった。運悪く某上Oクリニックの前でさぁ大変。
周りの人には哀れみの目で見られマサヒコはダッシュで逃げた事もあった。
また、人と話すのが好きなようで、さきほど出たリョーコはもちろん、アイやアヤナ、カナミやマナミとも
楽しそうに話している。その時の笑顔は親にはクリティカルヒットなほど愛らしい。
誰とも楽しそうに話すマサキだが、一番のお気に入りの人がいた。それが的山リンコ。
精神年齢が近いのか、或いは直感的なものなのか・・・とにかくマサキはリンコが好きなようでいつも
「パパ〜、リンちゃんと遊びたい〜。ナナコと遊びたい〜。」
と言っている。さすがにこれはマサヒコも軽く嫉妬しているようだが。
リンコが人気の理由。それは基本的に毎日でも遊べるのがあるだろう。
リンコは高校卒業後ファッション関係の専門学校に進学。そこでデザインした子供服が大当たり。
今ではそれなりに名の知れたデザイナーなのである。
リンコもよくマサキを被写体にしているらしく、しょちゅう着せ替えをしたりしている。
ともかく・・・リンコとマサキは一緒にいる時間が長いのだ。これは・・・ミサキとの約束でもあった。
「リンちゃん。この子とたくさん遊んであげてね。リンちゃんならきっとイイお友達になれるから。」
今はもういない、親友との約束。少なからずリンコはこれを意識していた。
ある日、久々にみんなで集まることになった。提案者はリョーコ。昔からと言うのか、理由はなんとなくだ。
「みんないらっしゃ〜〜い。ゆっくりしていってね〜。」
リンコが言う。リンコは結構な収入であるが相変わらず実家暮らしであった。
理由の一つとして愛犬ナナコの存在である。中学時代は元気だったナナコも今では結構な歳である。
一度、マンション暮らしをしていたが二年前・・・つまりミサキの死以来は実家に戻っている。
ミサキの死は少なからずリンコに影響を与えている。リンコはほとんどと言っていいほどミサキの最後を
見守ることができなかった。そのせいだろう、例え辛くても大切な物の最後を見守ってやりたい気持ちが
人一倍強いのである。もっとも、ナナコはまだまだ元気で問題ないようではあるが・・・
「あら?リン、ナナコはどこいったのよ?」
「ああ、最近ナナコは一人で散歩行くのが好きみたいで・・・最近は私が連れてっても
引き連られちゃいますしね。」
リョーコの言葉にテヘ、と舌を出して答えるリンコ。それに不満そうなのはマサキである。
「えぇ〜、ナナコいないの?ナナコと遊びたいのに・・・・」
と、残念な声をあげる。それに対してアヤナが言う。
「あらあら、じゃあマサキ君。私と遊びましょうか。」
普段の凛々しいアヤナとは程遠い緩みきった顔。保育士にはならなかったが、今でも子供が好きなようだ。
マサキの手を引いて抱きしめるアヤナ。マサキも嬉しそうな顔をする。
「ん・・・アヤナおねえちゃん・・・あったかくてやわらかい・・・」
そう言ってアヤナの胸に顔をうずめるマサキ。
「わ〜、やっぱアヤナちゃんの胸はすごいなぁ〜。マサキ君の顔が挟まっちゃってるよ〜。」
「アヤナ・・・それは新しいプレイかしら・・私もセイジの顔挟んでみるかぁ・・?」
微笑ましい光景になんだか卑猥な言葉を投げかけるアイとリョーコ。
「いいなぁ〜、私全然成長しなかったし・・・小久保君も挟んでもらえば?ナニを。」
「いや、間違いなく殴られるから・・・はぁー、それにしてもマサキは可愛いな・・・」
危ないことを言うリンコに親馬鹿爆発のマサヒコ。そんな4人をよそにジャレあっているアヤナとマサキ。
「ふふ、マサキ君は甘えん坊ね・・・よしよし・・・いい子ね〜。」
明らかにミサキからの遺伝と分かる色素の薄い髪をなでる。マサキもくすぐったそうにする。
「ん・・・アヤナおねえちゃん・・・ママみたい・・・・」
ママみたい・・・マサキが感じた事がないであろう感覚。そんなマサキに母親の暖かさを感じさせるアヤナ。
普段はツンとしているアヤナも母性愛溢れる女性なんだろう。
ふと、窓の外から犬の鳴き声が聞こえる。ナナコの鳴き声だ。もっとも、もう一つの鳴き声があったのだが。
「あ、ナナコ帰ってきたね〜。おかえりー・・・・・あれ・・・・?」
鳴き声を聞いて外へ出るリンコ。そこで目を丸くする。
「ナナコ〜、あそぼ〜〜・・・わ、ナナコの他にわんわんがいるよ〜。」
思う存分アヤナとジャレたマサキも外へ出る。そこにはナナコのほかにもう1匹、子犬がいた。
その子犬はナナコの後ろをついてまわり、ジャレついていた。
「このコ・・・捨て犬かしらね・・?首輪もないみたいだし・・・」
子犬を見ながらリョーコが言う。それにアイも同意する。
「そうみたいですね・・・可哀想に、まだこんな小さいのに・・・・」
その子犬はナナコを母親だと思っているのだろう。子が親に甘えるように懐いている。
ナナコもその子犬の境遇が分かっているのだろうか、優しくその子犬を舐めている。
「パパ、ナナコはこのコのママなの?とっても仲良さそうだね。」
マサキがマサヒコに問う。マサヒコは少し複雑そうな顔をしながら言う。
「いや・・・多分このコはお母さんがいないんじゃないかな。でも、ナナコは女の子だから・・・
だからこのコもきっとナナコをお母さんみたいに思ってるんだよ。」
「そうなんだぁ・・・じゃあ・・・このコは僕とおんなじだね〜。」
マサキの言葉にハッとするマサヒコ。母親がいない以外は恐らく恵まれた環境にいるマサキ。
それでも、きっと心のどこかでは母親を求めているのだろうか。
この言葉にはマサヒコだけでなくそれぞれが顔を伏せてしまう。
「パパ・・・お願いがあるんだ・・・」
マサキが口を開く。
「このコ・・・飼っちゃダメ?僕が遊んであげればきっと寂しくないよね?僕がたくさんたくさん
一緒に遊ぶから。そうすればきっとこのコも寂しくないよね?」
そう言って子犬に近寄るマサキ。ナナコにべったりだった子犬も今度はマサキに尻尾をふって擦り寄る。
マサキが子犬を抱く。マサキも、子犬もとても嬉しそうだった。それを見てマサヒコは言う。
「そうだな・・・マサキが一緒にいてやればそのコもきっと寂しくないよ・・・よし!今日から
そのコもうちの仲間だ!」
そう言ってマサキと子犬の頭をなでる。マサキがえへへと笑った。
マサヒコは嬉しかった。自分と引き換えに母親を失ったマサキ。まだ小さいが多少なりともわかっているのだろう。
親のいない痛み。それが分かるからこそ、マサキは子犬を飼いたいと言ったんだろう。
マサヒコは思う。ミサキ・・・俺達の子供は他人の痛みの分かる立派な子に育っているぞ・・・・
「んで・・・このコはマサん家で飼うとして・・・名前はどうすんのよ?」
浸っていたマサヒコの横でリョーコが言う。
「お名前・・・?そっかぁ・・・このコまだお名前ないもんね〜。」
「吾輩は猫であるじゃないんですから名無しは可哀想ですもんね。」
マサキとアイがリョーコの言葉を返す。しかし、みんななかなか案が出てこないようだ。
腕組をして考えていたリョーコがポムと手を打ち言う。
「いい名前考えたわ。アマツなんてどうかしら?漢字で書くと・・・天・・・よ。」
アマツ・・・漢字で書くと天。果たしてその天が、ミサキの旧姓天野をさすのか、
はたまた天国の天なのか・・・それはリョーコ以外が知る由はない。
アマツとリョーコが呼んでやると子犬は尻尾を振ってワンと吠えた。
「ほら、尻尾振っちゃって嬉しそうじゃない。アマツで決まりよ。」
ほぼ独断で決めるリョーコ。
「尻尾振ってると嬉しいの?・・・じゃあ、君の名前はアマツだよ〜。」
アマツを抱きしめるマサキ。アマツも尻尾をふってマサキの顔を舐める。
「よかったね、アマツ。今日はたくさん大事なモノ手に入れたね。お友達に、お母さんに、それから名前に。」
リンコがアマツの頭を撫でる。
「ナナコは君のお母さんだからね・・・いつでもうちのナナコに会いにきてね。」
「?アマツはママいないのに、ナナコがママなの?」
マサキがリンコに言う。
「そうだよ、マサキ君。確かにアマツはナナコの子供じゃないかもしれない。でもね、とっても仲良しでしょ?
きっと関係ないんだよ・・・血は繋がってなくてもそれより大事な絆があるんじゃないかな。」
今度はマサキの頭を撫でながらリンコはマサキに諭すように言った。
「・・よくわかんない・・・でも・・・アマツにはナナコってママができたんだね。よかったねアマツ!」
そういってニコッと笑うマサキ。
血は繋がってなくても大事な絆がある・・・か・・・・
リンコの言葉がマサヒコの頭を駆け巡る。今までミサキ以外の母親なんて考えてもみなかった。
それでもやはり、母親がいるほうがマサキにもいいのだろうか・・・
自分でもマサキの世話はできている。それでも・・・母親の代わりはできない。
いつも楽しそうに振るまってはいるが・・・やはり母親の愛に飢えているのだろうか・・・
ふと、マサヒコはマサキの頭に手をやり聞いた。
「マサキ・・・ママ・・・欲しいか・・??」
その言葉にマサキ以外が一斉にマサヒコに目を向ける。今まで出るなんて思ってなかった言葉。
「パパの事は大好き・・・でも・・・ママも欲しい・・・アマツもママができてとっても嬉しそう。
だから僕も・・・もっと嬉しくなりたい・・・」
マサキが答える。マサヒコは「そうか。」と空を見る。母親・・・か・・・ミサキ・・・・
新しい思いを胸に、今日も一日が過ぎていった。