作品名 作者名 カップリング
「エピソード2 マサヒコとアイ」 そら氏 -

朝、もはや馴染みの目覚ましの音でマサヒコは目を覚ました。
ミサキが旅立ってから数ヶ月。当時よりはマシになったものの、マサヒコの顔は優れない。
ミサキと二人で写った写真を無意識に見る。二人で満面の笑みを浮かべている写真。
しかし、マサヒコには写真の中のミサキは笑っていないように感じていた。

「おはよう、母さん。マサキはまだ寝てる?」
会社へ行く身支度をしたマサヒコが食卓へつく。もともとはアパートで暮らしていたマサヒコだが
これからを考えると仕事を辞めるわけにもいかず、実家へ戻ってきたというわけだ。
ここなら日中は親がマサキを見てくれるし、なにより・・・ミサキの実家も近い。
「おはよう、マサヒコ。あんたねぇ、赤ん坊がこんな時間に起きなすか。」
「はは・・・それもそうだな。じゃあ、今日もマサキの事頼むね。」
マサヒコがそう言うとマサママは少しため息をつく。
「こら、マサ。最近少し育児放棄気味じゃねぇか〜?仕事は分かるけどマサキとコミュニケーションとってるか?」
「ん・・・何て言うか・・分からないんだ。どう接したらいいのか・・・」
マサママの言葉にそう言うマサヒコ。
「分からないって・・・あんたの子供だろぉ?まったくしょうがねぇなぁ。」
「しょうがいないだろ・・・正直言うと・・・怖いのかもしれない・・・」
怖い・・・マサヒコがどういう意味でこう言ったかは本人しか分からないが、きっとミサキと重ねているんだろう。
弱弱しい赤子とあの時のミサキ。すぐに壊れてしまいそうな感じが・・・
「じゃあ、行って来るから・・・マサキを頼む。」
そう言って家を後にするマサヒコ。それを見送るとマサママは再びため息をつきながら携帯を手にとった。
「あー、もしもし〜。私です。ええ、お久しぶりで・・・ええ、ええ。実はお願いがありまして・・・
ええ・・・そうです。お願いできませんかね?いいですか?ありがとうございます・・・アイ先生。」
マサママは思う。いつになっても、どんだけ年取っても子供は子供だなぁと。
感慨にふけっているとマサキの泣き声が聞こえた。どうやらお目覚めのようだ。
「お、起きたな〜。よしよし、今日もおばあちゃ・・・うおお、私はまだばあさんじゃねえ!!!」
事実を認められず一人のたうちまわるマサママ。今日も小久保家は平和だった。



「あ、小久保君。ちょっと待って〜。」
時は過ぎ夕暮れ時。退社しようとするマサヒコをある女性の声が止める。
「城島さん?どうしたの?」
城島と呼ばれた女性。マサヒコと同期の社員、城島カナミ。女性ではあるが一番の有望株と
もっぱら評判だ。まぁ・・・多少性格に難があるらしいが・・・
「お義姉さんからの伝言。今日はウチに寄りなさい。お母さんには言ってあるから心配ありません。だって。」
お義姉さん・・・・そうそれはマサヒコの恩師、濱中アイである。
簡単に説明すれば、就職のため上京してきたカナミの兄であるシンジが縁あってアイと結婚。
その後同じように上京してきたカナミは会社に近いという理由で城島家へ居候しているのである。
ここで一番驚きなのはアイは姉さん女房だと言うことである。家庭教師時代の彼女を知る限り
想像もできないであろう。これにはあのリョーコもしばらく開いた口が塞がらなかった。
ちなみにこのとき「代わりに下の口はセイジに塞いでもらうか。」なんてギャグをとばしたのはどうでもいい話。
とにかく、今のアイは「女教師 姉さん女房 城島アイ」なのであった。
「えーっと・・・それは強制?」
「え?当たり前ジャン。お義姉さんに猿轡つけてでも連れてこいって言われてるし・・・何なら首輪にする?」
「自分の足で歩きます・・・・」
どこから取り出したのか、怪しいグッズを手に持つカナミにうなだれて歩くマサヒコ。
二人で夕暮れ時の町を歩く。ぱっと見は普通のカップルだろうか・・・マサヒコは思い出す。
よく大学の帰りに夕暮れ時、二人で町を歩いたことを。それももう・・・・叶わない・・・
そんな空気を察してかカナミはマサヒコに話題をふる。
「そういえばお義姉さんは小久保君の家庭教師だったんだよね?エロ系家庭教師だった?」
が、若干ズレている。マサヒコももう慣れっこのようで、普通に返す。
「ああ・・・変な人だったかなぁ。いい大人なのに童顔で半天然で・・・でも、何て言うか・・・
ここぞって時には凄く頼りになる人だったな。今でも・・・尊敬してる人だよ。」
尊敬してると言う部分で少し声が小さくなる。
「ははっ、照れちゃって。大丈夫大丈夫、お義姉さんには内緒にしといてあげるからよ。」
そう言って笑うカナミ。こうして談笑するうちに城島家へと到着するのであった。




「ただいま〜。小久保君つれてきたよ〜〜〜。」
「お邪魔します。」
ドアをくぐると2歳ほどの女の子がトコトコ歩いていた。その後ろからアイが現れる。
「おかえり、カナミちゃん。それから、いらっしゃいマサヒコ君。よく来てくれたね〜。」
1年前から・・・と言うか学生時代からほとんど変わり映えしないアイ。恐らく同年代では
ブッチギリの若さを誇っているだろう。
「ただいま、お義姉さん。マナミちゃんもただいま〜〜。お姉ちゃんが帰ってきましたよ〜。」
「お前はお姉ちゃんじゃなくて叔母さんだろう。」
シンジとアイの娘、マナミに擦り寄るカナミに強烈な突っ込みを入れるこの家の家主、シンジ。
「いらっしゃい、マサヒコ君。その節は・・・行けなくてすまなかったな。出張先で話は聞いたよ。」
その節・・・当然ミサキの事だ。マサヒコとミサキは城島一家と浅からず交流はあった。
「いえ・・・シンジさんがお気になさる事じゃないですよ。お気持ちだけで充分です。」
そう言って笑うマサヒコ。カナミはと言えばマナミに夢中のようだ。
「さ、みんな揃ったしご飯にしようか。今日は腕によりをかけたからね〜!」
少し暗めになった雰囲気を吹き飛ばすアイ。昔から彼女はこういう空気には鋭かったのかもしれない。

夕食も食べ終わり片づけをするアイ。談笑をしているシンジとマサヒコ。マナミと遊んでいるカナミ。
みんながそれぞれの時間を過ごしていた。そこに片付けを終えたアイがやってくる。
「さてと・・・今日のメインイベントと行こうかな・・・シンジ君ちょっと外してもらっていいかな?」
「ああ・・・それじゃあマサヒコ君。俺は部屋に行くから・・・久々に授業うけていってくれ。」
そういって部屋に戻るシンジ。
「カナミちゃん、マナミの事ちょっとお願いね?」
「はいは〜い、ささマナミちゃん。カナミお姉ちゃんと遊びましょうね〜。」
恐らくアイに言われるまでもなくマナミと部屋を後にするカナミ。ちなみに、マナミの名付け親は
カナミである。女の子だったのでアイとカナミをくっつけてマナミにしたらしい。シンジも考えてはいたが
アイ自体マナミを気に入ったために却下された。カナミのマナミへの溺愛っぷりはここからきている。
さて、こうして部屋はマサヒコとアイの二人だけになる。
「えっと・・・先生。これは一体?」
当然の疑問を浮かべるマサヒコ。アイは答える。
「実は今日ね、マサヒコ君のお母さんから電話があってね。子育ての基本を教えてやって欲しいってね。
だから、今日は久々にマサヒコ君の家庭教師になります。」
そう言ってふふんと胸をはるアイ。




「それじゃあ早速・・・マサヒコ君はマサキ君が嫌いなのかな?」
一気に核心に迫るアイ。昔から言われた事はやったマサヒコ。聞かれたことも答えます。
「嫌いなんかじゃないですよ。マサキは・・・ミサキとの絆ですから・・・ただ・・・分からないんです。
どう接してやったらいいのか。それに・・・ミサキの事どう言えばいいのか・・・」
「どう接したらいいか、か・・・マサヒコ君はお母さんにどうしてもらってきた?」
マサヒコの言葉にアイが答える。
「え・・・どうって・・・多分普通だと思いますけど。」
「うん、じゃあ普通でいいんじゃないかな?確かにマサキ君には・・・お母さんがいない。それはとっても
大きなこと。でも、マサヒコ君が普通に接してあげなかったらどうなるかな?お母さんの話だと
あんまりコミュニケーションとってないみたいだけど・・・このままじゃマサキ君は・・・お母さんも・・・
お父さんの愛情も感じずに育っちゃわないかな?赤ちゃんってね、何も考えていないように思うでしょ?
確かに考えていないもしれない。でも、しっかり感じてると思うんだ。」
マサヒコに優しく諭すように話すアイ。さらに続く。
「それに・・・ミサキちゃんの事は今考えることじゃないと思うよ。もっと大きくなってから・・・
その頃にはマサキ君は分かってくれるんじゃないかな。なんせマサヒコ君とミサキちゃんの子供だからね。」
長く話したせいかお茶をすするアイ。
「そうですよね・・・確かに俺があいつを感じてやらないとダメですよね・・・ミサキの分まで俺が愛してやらないと
・・・俺がしっかりしないと・・・!」
俯きながらマサヒコは言う。そんなマサヒコにアイは再び口を開く。
「マサヒコ君、気負いすぎはダメだよ。はじめから完璧な人なんていないんだから。ゆっくり・・・ゆっくりで
いいんだよ。きっと分かり合える。だって・・・二人は血のつながった親子でしょ?分かり合えないはずないよ。
それからね・・・マサキ君を育てるのは君だけじゃないんだよ。自分だけで育ててると思ったらそれは傲慢だよ。
マサキ君はみんなの力で育っていくんだから・・・」
そう言って微笑むアイ。俯きながらマサヒコは言う。
「そうですよね・・・俺本当にダメだな・・・いつまでたっても母さんや先生に迷惑かけて・・・
こんなんじゃ父親失格ですよね・・・」
「それで・・?私に何て言って欲しいの?」




「え・・・??」
微笑んでいたアイはいつの間にか少し厳しい表情をする。それにマサヒコも驚く。
「じゃあ父親失格だね・・・とかそんなことないよとか言って欲しいの?そんな事言えばマサヒコ君はしっかり
する?しないよね?私にはマサキ君は育てられないんだよ?育てていくのはマサヒコ君なんだから。」
厳しい口調。なかなかアイがみせない一面だろう。すっかりうなだれるマサヒコ。
「でも・・・支えることはできるから・・・・マサヒコ君のお手伝いならしてあげれるから。
今日はね、何て言うか親の気持ちって言うのかな。そういうの共有したかったんだ。だって私は・・・
マサヒコ君の家庭教師だからね。」
そう言って再び微笑むアイ。マサヒコは思い出していた。昔、高校の学園祭に行ったとき
アイに言われた言葉。自分に勇気をくれた言葉。それにそっくりだ。
いつもそうだった・・・変な人で・・大人なのにボケてて・・・それでもとても頼りになって・・・
この人は・・・俺にとっていつまでも先生なんだ・・・・
マサヒコは俯きながら震えている。目から汗も流れ出る。言葉が出ない。いや、言葉にならないのか・・・
ただ、一言だけマサヒコはこう言った。
「それ・・・昔も聞きましたよ・・・でも・・・・凄く・・・勇気が出ました・・・・」
それだけ言うとマサヒコは手で顔を覆った。そんなマサヒコの頭をアイは泣き止むなで撫で続けた。
ありがとう、先生。俺はマサキから逃げてたのかもしれない。余りにミサキに似ているから。
でも、それも止めだ。ミサキに似てるんだ、可愛くないわけがない。帰ったらさっそく抱っこして
ほお擦りしてやろう。コミュニケーションの形なんてどうでもいい。お互いを感じれれば・・・・




「ただいま〜。」
アイの授業を終え家へ戻ったマサヒコは真っ先にマサキの元へ向かう。
「おう、おかえり・・・しっかり授業・・・受けてきたみたいね。」
台所から顔を出したマサママが目にしたのはマサキを抱いてキスをしていたマサヒコだった。
マサヒコはとても嬉しそうだ。そして、マサキも・・・
「はぁ〜、やっぱり敵わないわねぇ。マサキ私にはそんな顔してくれないわよ。」
アイの言ったとおりか・・・マサキが今自分を抱いているのが父親か分かっているかは分からない。
だが・・・感じているんだろう。自分への、一番深い愛を・・・・
マサキとじゃれていたマサヒコも母を見つけると、照れながら一礼した。
「母さん・・・その・・ありがとう・・・」
「はぁ?あんたその年になってマザコンぽいわよ?我が息子ながらキモイ!」
そういって顔を引っ込めるマサママ。ただ、その顔はどこか嬉しそうであった。
マサキを抱いて自分の部屋に戻るマサヒコ。
「ほら、見ろマサキ。お前のママだぞ。綺麗だろ〜?」
それが母親と感じているのかはやぐマサキ。そんなマサキを見てマサヒコの顔もほころぶ。
「おら、マサ。風呂わいてるぞ。ガスもったいないから早く入れ!」
下からマサママの声が響く。部屋を後にしようとするマサヒコにふと、ミサキとの写真が目に入る。
写真の中のミサキは朝よりずっと、マサヒコとマサキに微笑みかけていた。

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