作品名 作者名 カップリング
「エピソード1 マサヒコとミサキ」 そら氏 -

マサヒコとミサキが中学を卒業して早7年の月日が流れていた。
中学の卒業と同時に付き合い始めた二人は長い交際を経て先日大学を卒業と同時に結婚。
さらに、ミサキのお腹には二人の愛の結晶が宿っていることが発覚。二人は幸せの絶頂にあった。
しかし、出産予定日を間近に控えたある日ミサキの体調が急変する。
医者に言わせれば今まで見たことのないウイルスとのことで、このままミサキの体を蝕んでいけば
出産の体力消費に体がついていかず子供は無事でも母体のほうは悪くすれば・・・死・・・
マサヒコは説得を試みたがミサキは決心を変えることはなかった。
そんなある日ミサキの友人達が病室を訪れる。友人たちと談笑を楽しむミサキ。しかし、友人達の表情は
どこか曇りを見せていた。すっかり痩せてしまったミサキを直視できなかったのだろうか。
そんな空気を察してかミサキが口を開く。
「アイ先生。」
そう呼ばれてミサキを見たのは城島、旧姓濱中アイ。
「アイ先生、もうすぐ教職にお戻りになるのですよね。この子が小学生になったらよろしくお願いしますね。」
現在は育児休暇で仕事はしていないが、小学校の教師になったアイ。お腹を撫でながらお願いする
ミサキに、アイはただうんうんと頷くコトしかできなかった。
「豊田先生・・・うちの子に変なこと教えないでくださいよ?」
「うん・・・ちゃんと役に立つこと教えるわ・・・立派な子にしてあげるから・・・・」
そう言って豊田、旧姓中村リョーコは背を向ける。その目には涙が宿っていた。
「リンちゃん。この子とたくさん遊んであげてね。リンちゃんならきっとイイお友達になれるから。」
リンコはそのお願いに答えることはできず溢れる涙をこらえるしかできない。いや、こらえれてもいない。
「そして・・・アヤナちゃん。マサちゃんのこと・・・・よろしくお願いします。」
表情を変えないアヤナにニコッと微笑んでお辞儀をするミサキ。少し表情を崩してアヤナは言う。
「嫌よ。だいたい、彼の奥さんはあなたでしょ?彼の面倒は一生あなたが見なきゃ。」
そう言い放つアヤナに再び笑みを返すミサキ。
「うん・・・そうだね。そうだよね・・・・ごめんね。変なお願いして。」
そう言って窓の外を見るミサキ。そして友人達に言う。
「今日は本当にありがとうね。みんなに会えて・・・・本当によかった・・・・」
そして、ミサキは友人達に再び笑顔を見せる。友人達は思っていた。きっとこの子は
もう分かってるんだろう。自分の体の事だ。一番分かってるに決まっている。
それを思うと何も言えなくなり友人達は病室を後にした。




出産予定日当日。手術の可能性もあるので病室に立ち入れないマサヒコと、ミサキは話していた。
「いよいよ予定は今日だね・・・きっと元気な子が産まれるよ。マサちゃん名前考えておいてよ〜?」
そう言って楽しそうにはしゃぐミサキ。ただ、体は思うように動かないようだが。
「ミサキ・・・後悔はしてないか?」
沈んだ表情をしたマサヒコがミサキに言う。
「マサちゃんとの子供産むのに後悔はしてないよ。ただ・・・理由も、原因も分からないこの病気に
かかったのだけは残念かな。本当はみんなもっと喜んでもいいはずなのに、これのせいで・・・・」
そう言って俯くミサキ。しかしすぐ笑顔をマサヒコに向ける。
「でも・・・それでも私はこの子産みたいから・・・大丈夫だよ。絶対マサちゃんの元に帰って来るから。
楽しいのはこれからなんだから。マサちゃんとこの子育てて・・・いつかこの子も大人になって・・・
子供と孫に囲まれて余生すごして・・・だから・・・私頑張るから・・・・」
そう言われるとマサヒコは何も言えなかった。そして、運命の時間を迎える。
「それじゃあ・・・行って来るから・・・マサちゃん・・・・」
「ああ・・・頑張ってこい・・・ミサキ・・・・」
ミサキは少し不満そうな顔をしたが、静かにキスをして別れた。
マサヒコが待合室に戻ると二人の両親、そしてお馴染みの面々が待っていた。
それぞれが祈るように両手を組みミサキの無事を案じていた。そんな中リョーコが話しかけてきた。
「マサ・・・愛してるくらい言ってやったか?」
「言いませんよ・・・分かりきってることですから。」
そう言うとリョーコは不満そうな顔を向ける。
「お前駄目だなぁ・・・ミサキはきっとそれを求めてたってのに・・・ほらあんたも祈れ、甲斐性なし。」
なんだかひどい言われようだが、みんなと同じように祈るマサヒコ。
神様なんか信じたことはないが、今だけは信じる。ミサキを・・・お腹の子を無事に・・・・
どれだけ時間がたっただろう・・・一瞬だった気もすればめちゃくちゃ長くも感じた・・・・
マサヒコが手術室のドアを見る。と、同時に産声があがる。それを聞いてマサヒコは手術室へ駆け込んだ。




「ミサキ!ミサキーーーーーーーーーーーーーー!!」
声を張って中に入ったマサヒコ。医師達もほっとした表情。つまり・・・・
「駄目だよ・・マサちゃん・・・この子がびっくりしちゃう・・・」
弱弱しい声。しかし、その目にはしっかりと命が宿っているミサキ。
「男の子だって・・・・マサちゃん・・・名前考えて・・・くれた?」
ミサキに言われハッとするマサヒコ。
「あ・・・すっかり忘れてた・・・ミサキの事しか頭になくて・・・」
マサヒコがそう言うとミサキはクスッと笑う。
「駄目だなぁ、マサちゃんは・・・じゃあ・・・私が考えた名前でいいかな・・・?」
「何だ、ちゃんと考えてたのか・・・もちろんいいよ。」
「ううん・・・出産中に思いついちゃったんだ・・・私とマサちゃんの子供で男の子だから・・・マサキなんてどうかな?マサヒコのマサとミサキのサキ・・・なかなかいいでしょ?サは・・・私とマサちゃんが繋がってる感じで・・・」
そう言って赤子の方を向くミサキ。
「マサキか・・・いい名前だな。よし、この子の名前はマサキだ!」
看護婦からマサキを受け取り抱っこをするマサヒコ。
「ふふ・・・よかった・・・マサちゃん・・・マサちゃんをお願いね・・・私はちょっと・・疲れ・・・ちゃ・・った・・・」
「!?先生、患者の容態が!」
「ミサキ!?ミサキしっかりしろ!ミサキ!!!」
安息もつかのま、再び戦場となる手術室。そんな様子は外で待ってる人にも異変を悟らせる。
「ちょっと!私達も入れなさい!中がおかしいのよ!」
鬼の形相で看護婦につめよるリョーコ。
「お願いします!友達が!ミサキちゃんが中で戦ってるんです!私達もそばにいさせてください!」
軽い乱闘でメガネを吹き飛ばしながらも、涙でグシャグシャの顔で必死に懇願するリンコ。
「この子達は・・・そう!私の隠し子なの!だから一緒に入れなさい!無理にでも入るわよ!」
無茶苦茶な理屈で無理を通そうとするマサヒコママ。看護婦達もこの猛攻に耐えられるはずもなく
ドアが開かれる。そしてなだれ込むみんな。しかし、すでにそこは静かな空間だった・・・・
ミサキの、今にも消えそうな声だけが響いていた。
「マサちゃん・・・泣かない・・で・・・最後に・・・えが・・おを・・・覚えて・・おき・・た・・いから・・・」
神はなんて意地悪なんだろう。実らないといわれていた初恋を実らせた少女を・・・
こんな形で実らせなくしてしまうのだから・・・・・
マサヒコは必死に涙をこらえて笑顔を作る。後で見ればそれは笑顔になっていたかも分からない。
それでも、精一杯に笑顔を作り、ミサキの手を精一杯握る。手に感じる暖かい感覚。
ミサキはまだ生きている。ミサキからも感じるか感じないかの力を感じる。
「マサちゃん・・・・・」
見える・・・好きな人の笑顔・・・感じる・・・・好きな人の体温・・・・最後に感じた最高の幸せ。
ミサキは笑顔を見せる。それはきっと、彼女の親も、マサヒコさえも見たことがないくらいの最高の笑顔。
ミサキは目を閉じ。ゆっくり口を開き、聞こえるか聞こえないか位の声で・・・それでも・・・
みんなの耳に残る声で最後の言葉を言った。
「・・・好き・・・・」
瞬間、マサヒコはミサキの手から力を感じなくなる。周りのよく分からない機械も無機質な音を立てる。
医師は目を伏せる。両親は崩れ落ちる。アイの目から止まることなく涙が溢れる。
人前で涙を見せることなどないだろう、リョーコもミサキを直視し泣いている。そんなリョーコに
抱きつくような形で泣きじゃくるリンコ。立ったまま、ただ呆然としているアヤナ。
ミサキは・・・・遠く・・・きっと生きている間は追いつけないくらい遠くへ・・・旅立っていった。
マサヒコとの絆、マサキを残して。



傷も癒えぬまま、告別式になる。それぞれがどん底のような面持ちをしている。写真の中のミサキを除いて。
当然のことながらマサキはまだ病院だ。もっとも、マサキにはさっぱり分からないだろうが。
火葬に赴く際、それぞれが最後の別れをする。そこには執刀をした医師もいた。
「我々医者は無力だ・・・・新型だろうがなんだろうが命を救うのが医師の務めなのに・・・誓おう・・・
君の命を奪った病気・・・必ず解明しこれ以上犠牲者を出さぬように・・・・」
そう言って花を入れる。未知のウイルスとはいえ、むざむざ患者を死なせたのはこれ以上ない屈辱だろう。
続いてアイが近づく。
「ミサキちゃん・・・初めて会った時は私のこと淫乱家庭教師なんて言って敵視してたよね。
仲良くなってからは本当に色々あって・・・・っう・・・」
最後まで言えずに言葉につまるアイ。結局いえた言葉は
「っうう・・っあ・・ばい・・ばい・・・」
だけだった。次はリンコのはずなのだが・・・今の彼女に別れの言葉など無理だろう。飛ばしてリョーコ。
「ミサキ・・・確かあんた成績はトップクラスだったわよね・・・でも・・・・こんなことまで
トップじゃなくていいんじゃないのかしら?まだまだ・・・早すぎるわよ・・・」
おそらく、これがリョーコの精一杯だろう。そして、アヤナ・・・
「天野さん・・あなたと私は一生のライバルだったのよ?なのに・・・ひ・・卑怯よ・・・
勝ち逃げなんて・・されたら・・・私は・・・もう追いつけない・・じゃ・・ないの・・・!!」
そこまで言うとアヤナは声を上げて泣いた。そんなアヤナをリョーコは抱きしめる。そして、マサヒコ。
今になって思う。手術前リョーコに言われた言葉・・・愛してるくらい言ってやったか?
きっとミサキは言って欲しかったんだろう。きっと・・最後に聞きたかった言葉んだろう・・・
どうして・・・愛してるって・・・たった一言なのに。言えなかった・・・本当に・・馬鹿だ。
頭に色々な言葉が去来する。しかし、うまく口に出ない。ただ、一言だけ・・・
「さよなら・・・大好きな人・・・・」

ミサキを伴った煙は空へあがる。ミサキも天へあがる。それを見送るとリョーコがマサヒコに言う。
「マサ・・・分かってるだろうけど本当に大変なのはこれからよ?まぁ、私達も出来る限り協力するわよ。」
「そうだよ、マサヒコ君。何かあったら言ってね。子育ても教えてあげるから。それが家庭教師の務めだからね。」
そう言って微笑むアイ。リンコも続く。
「マサキ君の遊び相手には私がなるからね。遠慮なく遊びにきてね。お洋服とかも選んじゃうんだから。」
そして、アヤナも。
「シャンとしなさいよ!あなたの事は天野さんに頼まれてるんだから。私は・・・いつでも・・・・」
そこまで言うと口をつぐむ。そして、ようやくマサヒコが口を開く。
「みんなありがとう。正直・・・まだまだ立ち直れそうにないけど・・・それでも俺はミサキの願いを
叶えなきゃいけないからな。俺は・・・マサキと一緒に生きていく。」
マサヒコは空を見上げる。空には一筋の飛行機雲が走っていた。まるでミサキを天に送るように・・・

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