作品名 作者名 カップリング
「一番欲しかった物」 そら氏 -

時は12月。クリスマスだの大晦日だので何かと慌しい時期である。しかし、学生はもうすぐ冬休みだ。
このお話の主人公、天野ミサキも期末テストを終えようやく一息ついていた。
「ミサキちゃん、今年もアヤナちゃんの家でクリスマス会やるんだけど、来るよね?」
彼女の友人、的山リンコが話しかけてくる。
「あ、今年もやるんだ。じゃあ、お邪魔させてもらおうかな。」
そう言ってふと、とある人物を見る。彼女の昔からの思い人小久保マサヒコ。
「ね、リンちゃん。もちろん中村先生やアイ先生もくるんだよね?」
「うん、小久保君も来るからいつものメンバーだよ~。」
そう聞いてホッとするミサキ。しかし、この後彼女の瞳に衝撃的な絵が写る。
リンコと帰っていたミサキ。クリスマス会の会場、若田部邸付近に見覚えのある人物が二人。
一人は家の主若田部アヤナ。そしてもう一人は・・・・マサヒコ。
二人はなにか袋のようなものをもってそのまま家へ入っていった。
「あれ?今のアヤナちゃんと小久保君じゃない?何してるんだろ?」
「え・・・?見・・・見間違えじゃないかな・・・?あ、私今日家の手伝いあったんだ・・ごめんね、先に帰るね。」
「え、ミサキちゃ・・・・お~~~~~~~い~~~~~」
リンコの引きとめも聞かず一目散に家へ走るミサキ。家につきそのままベッドに突っ伏す。
見間違えるはずもない・・・あれはアヤナとマサヒコ。なんで?どうして?いつの間に?
様々な疑問がミサキの頭を襲う。その疑問が片付かないままミサキの意識は闇の中へ落ちていった。

一方若田部邸。アヤナとマサヒコの声が聞こえてくる。
「ダメよ、それはここにさして・・・そう・・・上手・・・」
「ここか・・・?難しいな。え~~っと・・・次はこっちの穴?」
「きゃ、ちょっと、そこじゃないわよ!そこはダメだってばぁ~~~~。」
なんだか卑猥なのでカット




翌日。少し遅めの登校になったミサキ。教室に入るとアヤナとマサヒコが楽しそうに談笑しているのが見えた。
昨日のことはやっぱり現実なんだろうか。今までは二人が話していても何も思わなかったミサキだが、
昨日の光景はかなりショッキングだったんだろう。アヤナとマサヒコもミサキに気づき朝の挨拶を交わす。
「あら、おはよう天野さん。」
極々普通の挨拶が今のミサキには勝者の余裕に思えた。
「よう、ミサキ。おはよう。」
大切な人からの挨拶が、ミサキを何とも言えない気分にした。ミサキは
「あ、おはよう・・・二人とも。」
と、だけ言うと机に向かった。ちなみに、リンコが遅刻ギリギリだったのはどうでもいい話。

放課後。マサヒコとリンコの家庭教師の二人、濱中アイと中村リョーコがもはやお馴染みといった
感じで教室に現れた。
「じゃあ、今日もマサヒコくん家でやろっか~。あ、ミサキちゃんは来る?」
アイがミサキに問いかける。ミサキもマサヒコの家で勉強しているのは周知の事実。アイも聞くまでもない
ことを聞いたかなと思った。しかし、ミサキの口から出たのは
「あ、いえ・・私今日は一人で勉強しますんで・・・先に帰りますね。それじゃあ。」
そういって教室を出る。
「?おい、ミサキどうかしたのか?」
マサヒコがミサキに言う。ミサキは思う。
(アナタノセイ・・・ヒトノキモシラナイデ・・・ワタシハアナタトドウカオヲアワセレバイイノ?)
ミサキはマサヒコの言葉も無視し、そのまま家へと向かった。
「ほぇ~、ミサキちゃんどうしたんだろ・・・?昨日もあんな感じだったし。」
「リン・・・分かってないわね。女の機嫌が悪くなる日といえば・・・・あの日なのよ。」
分かってないのか実は分かっているのか、リョーコもミサキの後姿を見届ける。
「マ、マサヒコ君。ミサキちゃんに何かしたんじゃないの?」
と、おろおろするアイ。
「いや・・・なにがなんだかさっぱり・・・」
自分のことのよう動揺するアイをよそに首をかしげるマサヒコだった。




冬休みに入ったが、相変わらずマサヒコ達と顔を合わせることなく過ごすミサキ。
今までなら授業の日は家に行っていたが・・・今は行っていない。顔を合わせられない。
単なる嫉妬なのは分かってる。我侭なのは分かってる。それでも、気持ちに区切りはなかなかつくものじゃない。
ベッドに突っ伏していたミサキの携帯の着信がふいになる。リョーコからだ。内容は
「何があったか知らないが明日のクリスマス会は何があっても来なさい。あんたがいないと意味ないから。
多分、そこに答えがあるから。」
そういった内容だった。もっとも、今のミサキにはついにアヤナとマサヒコの関係を公表されるんじゃないか
とかしか思いつかないわけだが・・・・それでも・・・普段はふざけてるリョーコが絶対に来いと言っている。
メールも普段は胸でかくなったか?とかなのに、今日は初めて真面目な内容だ。
そこに答えがある・・・どんな答えかは分からない・・・けど・・・
やらずに後悔するより、やって後悔したい。ありがちな言葉だがミサキには一番の言葉。
「よし!!」
一人で気合を入れると明日に迫ったクリスマスの準備をミサキは始めた。

クリスマス当日。そこに、今までのミサキの顔はなかった。なにがあっても驚かない。そして、自分の気持ちを・・・
「天野さん、いらっしゃい。あなたで最後よ。」
家の主、アヤナがミサキを迎え入れる。かくしてパーティーは始まった。
パーティーの最中は今までが嘘のようにみんなと話した。リョーコとも、アイとも、アヤナとも、リンコとも、
そして、マサヒコとも。そして、メインイベントらしい、プレゼント交換が始まる。
「さて、プレゼント交換の時間だが・・・マサ!あんた、あるんでしょ?」
リョーコがマサヒコに言う。
「ん、ああ・・・なんかこう場が緊張するとなんていうか・・・」
「マサヒコ君、度胸ないよ。せっかく頑張ってきたんだから。」とアイ。
「そうよ、男らしくないわね。」とアヤナ。
「そーだそーだ。早くしないと明日から小久保君のこと、パイパンの心臓って言っちゃうぞ?」とリンコ。
「そういうわけだ、マサ。ちOこついてんのか?」と、さらりと危ないことを言うリョーコ。
ミサキは思う。ああ・・・ついにきちゃうんだな・・・私の初恋・・・終わっちゃうんだな・・・
「ミサキ・・・・これ・・・受け取って欲しい。」
そういってミサキに袋を差し出すマサヒコ。目を丸くして受け取るミサキ。そして中には・・・
「タートルネックセーター・・・・?これは・・・??」
「それはね、マサヒコ君がミサキちゃんのために一生懸命手編みで作ったんだよ。」
ミサキの疑問に答えるアイ。アヤナが口を開く。
「初めいきなり、天野さんのサイズを教えてくれって言われたときは殴ってやろうかと思ったわ。」
「いや、実際なぐ・・・・ごほん、なんでもないです・・・」
言いかけて、アヤナのするどい視線を感じ訂正するマサヒコ。
「思ったより小久保君不器用でね~。それで私の家で特別に指導してあげてたのよ。」
・・・全ての糸を合わせる・・・二人が袋をもって家へ入っていく・・・これか・・・
ミサキには聞こえていないが、二人の卑猥な会話。編んでたのか・・・
リョーコのメール。ミサキが主役で全ての答えがある・・・・その通りだ・・・
「どうかな、ミサキ?初めて作ったもんでヘタクソだけど・・・お前にはずっと世話になってるし、
毎日遅くまで勉強してるだろ?前もテスト前に風邪引いたりしてたし。だから、作ってみた。
・・・って・・・ミサキ?」
「え・・あ・・はは?なんでだろ・・・なんか・・・涙が・・・はは・・・」
安心と喜びと・・・何もかもが絡まりあって涙を流すミサキ。すぐにそれを拭うとミサキは
いたずらっぽい笑みを浮かべてこう言った。
「まぁ、一番欲しかった物ではないけど・・・・ありがとう!!!」と・・・・



パーティーも一段落するとリョーコがミサキに近寄ってきた。
「よ。どうだった?全て分かったろ?」
ああ、やっぱりこの人は全部知ってたんだな・・・
「ところでさ・・・一番ではないって言ったよな?一番はなんなのかぁ~?」
ニヤニヤしながらミサキに問う。明らかに分かっているが敢えて問う。
ミサキは答えない。否、言うまでもない。一番欲しかった物はもちろんマサヒコ。
「教えませんよ・・・それに・・・今はこのセーターが一番ですから。」
ミサキの答えにきょとんとするリョーコ。
「一番大切な人が頑張って作ってくれたんですから・・・これが一番ですよ!」
そう言ってリョーコに笑顔を向ける。リョーコもニヤリと笑って言う。
「はは、あんた分かってるじゃない。その気持ち・・・ずっと持ってるんだよ。」
一番欲しい物をあげるのは本当に難しい。なぜなら例え相手がどれだけ好きでも他人だから。
それでも・・・気持ちのこもってる物が・・・受け取る側は一番嬉しいんですよ。

     FIN

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