作品名 作者名 カップリング
『Warp 君のためにできること』 白帯侍氏 マサ×アヤナ

とあるアパートの一室。
2人の男女、小久保マサヒコと若田部アヤナは向かい合って立っていた。
目の前に2人を隔てるものはない。手を伸ばせば顔に手が届く距離だ。
マサヒコはある決意をしていた。
今日こそは、この関係に決着をつけるという決意を。
腹はすでに括った。あとは言葉にするだけだ。
「若田部・・・・俺、お前の事が・・・っ!」
意を決して口を開いたマサヒコの前に、いきなり白い手が現れた。
それはアヤナが手を突き出したものだった。
彼女のしなやかな手はマサヒコの目の前にかざされ、マサヒコの視界を完全に遮った。
「わか・・・たべ・・・?」
突然のアヤナの行動に戸惑いを隠せないマサヒコ。
目の前に突き出された手がゆっくりと下げられる。
するとそこには、制服姿の少女——中学時代のアヤナが立っていた。
「小久保君、それ以上は・・・言わないで」
愁いを帯びた少女の眼差しは、マサヒコの瞳に真っ直ぐと注がれていた。
そして次の瞬間。
マサヒコの部屋だったはずの空間が、闇に覆いつくされていった。
周りが完全な黒に化す。そこにはマサヒコとアヤナだけが残された。
「それじゃあね、小久保君」
そう言って振り向いたアヤナは、ゆっくりと闇の向こうへ歩いていく。
彼女を引きとめるためにマサヒコは手を伸ばそうとする。
が、突き出した手は押し寄せる闇に取り込まれた。
闇は腕の方からどんどんとマサヒコを侵食していく。
どんどん闇に包まれていくマサヒコは、小さくなっていくアヤナの背中へと声を張り上げた。
「若田部!待ってくれ!若田部!」
しかしアヤナは振り向く事もなく、少しずつ、だが確実に小さくなっていく。
そしてマサヒコは完全に周りの闇と同化した。
薄れていく意識の中で、マサヒコは遠くに消えていくアヤナの名を呼び続けた。

眩しい光を顔に受けて、マサヒコは目を開けた。
ぼんやりした頭のまま、目の前に手をかざしてその光を遮る。
窓から入ってきた日光が部屋に差し込んできていたようだ。
軽く周りを見回す。そこは、紛れもなく自分の部屋の朝であった。
結局昨日はビールを全部開けてから呆けているうちに眠ってしまったのだ。
テーブルに突っ伏していたらしく、目の前には涎と思しき液体が。
マサヒコは散らばっていた缶を集めて、テーブルの上の涎をティッシュでふき取った。
(それにしても・・・・)
マサヒコはすっきりしてきた頭で、先ほどまで見ていた夢のことを思った。
シノブと話したその日に、この夢だ。シャツが汗で濡れたせいで背中が冷たい。
どういうつもりで言ったかは知らないが随分残酷なことをしてくれたものだ。
本来ならば、それを怒ったり恨んだりするべきなのかもしれない。
しかしマサヒコの胸には、そのような気持ちなどは欠片も湧き上がってこなかった。
そんなものはこの悩みの解決に全く役に立たないのだから。
自分の選択を、誤りに導いてしまうだけだろうから。


「久しぶり。元気でやってるか?」
スタンドが仄かな明かりを放つ薄暗い一室。
電話の向こうにいる人物に対して、シノブは明るい声で話しかけた。
『まぁそれなりに。兄さんは相変わらずみたいね』
受話器の向こうから返ってきた声は、対照的にどこか固い雰囲気だった。
「そうか?まぁお前の元気そうな声を聞けて良かったよ。
前に電話したときから結構経ってたからさ」
『・・・・そんなこと聞くために電話したんじゃないでしょ。用件は何?』
先ほどより一際低い声が受話器から聞こえる。
率直な質問にシノブは先日に会ったマサヒコのことを思い出した。
微妙に彼らは似たところがあるらしい。
受話器の向こうで顔をしかめているだろう妹のことを想像しながら、シノブは口を開いた。
「もうちょっと世間話に付き合ってもいいだろ。そんなに怖い声出すなよ」
受話器からは沈黙しか返ってこない。
シノブはやれやれといった感じで首を振った。
「・・・・久しぶりに直接会って話がしたいと思ってな。ダメか?」
再び沈黙。
しかし数秒後、受話器の向こうから返答が返ってきた。
『・・・別にいいわよ、私も言いたいことあるし』
「そりゃ良かった。断られたらどうしようかと思ったよ。
じゃあ金曜日にでも。今週はその日くらいしか暇できなさそうだから」
『・・・・・・』
3回目になる沈黙。
だがこの沈黙が、先ほどまでのものとは違ったものであることをシノブは知っていた。
「もしかして、用事でも入ってるか?」
『え!?う、うん・・・・その日は・・・友達と、食事の約束が入ってて』
歯切れの悪い答えが返ってくる。やっぱりな、とシノブは思った。
「じゃあ日を改めて、ってことか。まぁいいや、急いでるわけじゃないし」
『うん・・・ごめんなさい』
沈んだ感じの声が返ってくる。明らかな態度の変化にシノブは微笑を浮かべた。
「だからいいって。じゃあまた電話するから」
そう言ってシノブは通話を切る。
いったん息を吐いて、再び電話をかける。もちろん妹のところではない。
「もしもし、母さん?俺・・・・・うん・・・・大丈夫、意外とすぐ戻ってくれると思うよ。
そっちはアイツを上手く受け入れる準備でもしたら?・・・・うん、じゃあな」

電話を切ったシノブはパソコンの電源をつけた。
低い駆動音が暗めの部屋に響く。
今できることは一通り済ませた。あとは他で勝手にやってくれる。
そして最後に自分が仕上げをすればいい。それでこの仕事は終了だ。
シノブはコキコキと首を鳴らしてパソコンの前に座る。
そして息を大きくついて、作成中の企画書を睨み付けた。
キーボードを打ちながらシノブはぼんやりと今週の金曜日のことを思った。
その晩には、大切な取引先との接待が入っていた。


シノブとマサヒコの出会いから早くも3日が過ぎた。
つまりそれは、アヤナがマサヒコの家に来るまであと1日しかないことを意味していた。
この3日間マサヒコは、アヤナとの関係をどうするかということだけに思考が支配された。
講義の内容は頭に入らず、友人の呼びかけに対しても生返事ばかり返していた。
バイト先でも失敗を連発し、いつもそつなく仕事をこなすマサヒコは皆からひどく心配された。
あれからシノブから連絡はない。
喫茶店で言ったとおり、マサヒコからの連絡を待つつもりなのだろう。
あの日言ったシノブの言葉は、日に日にその意味を深くさせていった。
『アヤナのことをよく考えてもらいたい』
これだけの言葉だというのに、それはマサヒコにとってどんな難題よりも複雑であった。
単純だからこそ、それは無限ともいえる思考の連鎖を生み出す。
マサヒコの思考はすでに幾度となく行われた葛藤で疲弊しきっていた。
一週間前に告白を決心したのが嘘のようだ。
あんなに呑気に過ごせたこと、それ自体が夢のようであった。

木曜日の夜、バイトが終わったマサヒコは電車のホームでベンチにもたれかかっていた。
電車を待っているわけではなかった。この駅から少し歩けば彼のアパートだ。
ただ、家にはまだ帰りたくなかった。
帰って、食事を済ませ、身体を休ませれば、すぐにアヤナはやってくるのだ。
線路の向こうから光がホームへと近づいてくる。
電車は駅に止まらずホームを走り抜けていく。
電車の中から外を眺める子供と目が合った。
が、次の瞬間には少年は遥か前方へと消え去っていった。
電車が完全にホームを通り抜ける。
マサヒコは走りすぎた電車の後ろ姿を見つめる。
それが見えなくなるとマサヒコはまた正面に虚ろな視線を向けた。

正直、自分の心の中では答えは出ようとしていた。
やはりどう考えても自分と彼女はかけ離れすぎている。
大体アヤナを諦めるからといって何が変わるというのだ。
ただ、またアヤナのいない毎日に戻るだけだ。
心穏やかに過ごせる日々に。
変わりばえの無い、ただ繰り返されるだけの日々に。


そんなことをぼんやりと考えていると、ポケットの中から軽快なメロディが飛び出した。
携帯を取り出して誰からの電話かを確認する。
『中村 リョーコ』
マサヒコは思わず顔をしかめて明滅し続けるライトを見つめた。
なんというか、実にタイミングの悪い女性だ。
いつもは渋々付き合っているが、今はとてもじゃないが付き合う気分ではない。
後でうるさいだろうが今日は断らせてもらおう。
携帯を開いて電話を切ろうとキーに親指をのせる。
が、指に力を入れようとして、そこで止まった。
やかましく鳴り続ける携帯をじっと見つめる。
何秒か経ってから通話ボタンへと指をずらし、キーを押す指に力を入れた。
静かに携帯を耳に押し当てる。聞きなれた女性の声が向こうから聞こえてきた。
「もしもし・・・・すみません、ちょっと他のことしていて。
・・・・・違います、握ったりなんかしてません・・・・・はい、すぐ行きます。
・・・・・そうですか?まぁ、いいじゃないですか。じゃあ切ります」
話を終えたマサヒコは電話を切り、ポケットの中へと携帯を突っ込んだ。
大儀そうに腰を上げて、大きく身体を伸ばす。
予想以上に身体が固まっていたのでマサヒコは思わず呻き声を漏らした。
目を瞑ってその場で大きく息を吐く。そして静かに目を開けて足を進めた。
ホームを歩きながらマサヒコは何気無しに想像した。
生きる事に疲れた囚人が死刑台の階段を上るときの気持ち。
今の自分の気持ちは限りなくそれに似ているのではないかと。

「お邪魔します」
「おう、来たわね。さっさと上がりなさい」
マサヒコが玄関で声を上げると、奥の部屋から女の声がそれに答えた。
リビングに入るとちょうど今持ってる缶を飲み干したリョーコの姿が目に入った。
「お、結構買ってきたじゃない」
すでに何本か空けた缶をテーブルに転がしていたリョーコは
すぐにマサヒコが買ってきた次の獲物へと目を向けた。
苦笑いを浮かべながら、マサヒコはテーブルに買ってきた酒を置く。
リョーコは断りもしないで袋の中からビールを取り出し、プルタブを引いた。
「アンタも座りな。ほら」
まだ立ったままのマサヒコにリョーコは開けた缶を差し出す。
戸惑いながらもマサヒコはそれを受け取り、腰を下ろした。
マサヒコが座るとリョーコは新しい缶を取り出して自分の分をまた開けた。
「それじゃ、とりあえず乾杯」
「‥‥はい」
マサヒコとリョーコは軽く缶を合わせて、一缶目を豪快に呷った。


リョーコは月に1、2度マサヒコを飲みに誘っていた。
これが始まったのはマサヒコが高校1年の時からだった。
部活の練習を終えたマサヒコは、ある夜偶然リョーコと再会を果たした。
マサヒコは半ば強制的にリョーコの家に連れられ、言葉の如く浴びるように酒を飲ませられた。
暇潰しにこのような行為に及んだリョーコはこの時マサヒコの酒の強さを知り、
それ以来こうやって彼を呼んで酒に付き合わせていたのであった。

酒の席での話は様々だったが、大抵はリョーコの愚痴だった。
そして今日の話の内容もその例に漏れないもので。
リョーコはたらたらと愚痴をこぼし、マサヒコはひたすらそれの聞き手に回っていた。
「今の職場は生真面目すぎるっつーか、固いっつーか・・・とにかく私に合わないのよね。
一発抜いて萎えさせてやろうと何度思ったことか・・・・」
「あなたみたいな人に合う仕事なんて夜の仕事くらいです。
こんなこと言う人がよく今まで仕事してきましたね」
「一応ストレス発散のはけ口があるからね。猫かぶるのも楽じゃないわ」
足を投げ出しくつろぎながら毒づくリョーコ。
マサヒコは乾いた笑いをあげながら、かつての恩師のことを思った。
リョーコの言ったはけ口、それは豊田セイジのことだ。
中学時代から唯一変わらずに続いている関係。
それは当時偶然の再会を果たしたリョーコとセイジだった。
マサヒコが聞くところによると、案外2人はあの頃より上手くやっているらしい。
「さっさとくっついたらどうですか?お互いもういい歳でしょ」
「うっさいわね。アンタにゃ関係ない」
ムスッとしてリョーコは缶をグビッと呷る。
彼女は人をからかって遊ぶ質があるが、自分のことに踏み込まれるのを嫌っている。
セイジとの関係があと一歩のところなのもきっとその考えが
根底にあるからなのかもしれないな、とマサヒコは思った。
「ところでアンタはどうなのよ?」
「俺ですか?」
「そう。アンタ今アヤナとよろしくやってんでしょ」
「なっ!?」
突然アヤナのことを言われて、あからさまに驚くマサヒコ。
リョーコはニヤニヤしながら困惑しているマサヒコを見た。
「アヤナこっちに帰ってきてるでしょ?それ以来何回か会ったりしてるんだけどね。
ちょっと突いてやれば面白いくらいに話してくれるわけよ。
見せてやりたいわね〜アンタのこと話すアヤナのこと」
フフフフと怪しい笑みを浮かべるリョーコ。
マサヒコのリアクションに随分満足しているご様子だ。
(そっか・・・もう知ってんのか・・・)
リョーコの反応にマサヒコは気恥ずかしさを感じると共に、少しの安堵感を覚えた。
これなら話を切り出しやすいし、より的確な意見を得られそうだ。
マサヒコは苦笑いを浮かべたまま、空になった缶をテーブルに転がした。


夜が更けていくにつれ、次第に和やかな空気がすっと消えていった。
自然と会話がなくなり、2人は黙って酒を口に運ぶようになる。
笑みを浮かべていたリョーコの顔はすでに口を一文字に結んだようになっていて、
マサヒコも強張ってしまった顔を俯きがちにしていた。
「ねぇ・・・」
沈黙にリョーコの言葉が浮かぶ。
マサヒコは顔を上げずに小さな声でそれに答えた。
「何ですか」
「今日は随分すんなり誘いに乗ったわよね」
「そう・・・ですかね」
「アンタさ・・・そろそろそっちの用件言ってもいいんじゃない?」
リョーコはとっくに分かっているとでも言うように口を開く。
俯いていたマサヒコはリョーコの言葉に静かに顔を上げた。
「アヤナのこと、よね」
詰問というよりも確認といった方がいい口調だった。
マサヒコは神妙な顔つきで頷く。これ以上の沈黙には意味が無いと思った。
「一発決めるタイミングが分からないとか?」
「・・・違います」
「やりたくても持病のせいで事に及べない?」
「当てる気全く無いですね」
どこか重い雰囲気だというのにいつも通りのくだらない戯言。
マサヒコはこれに思わず苦笑いを浮かべた。
リョーコなりに自分の背中を押してくれているのだ。
マサヒコは心の中で軽く礼を述べて、聞きたいことを尋ねる決心を固めた。
「先生、正直にお願いします。俺って・・・若田部と釣り合う男でしょうか?」
マサヒコは静かに、はっきりと言の葉を紡いだ。
リョーコの瞳の中心を食い入るように見つめる。
それに対してリョーコは顔色も変えずに注がれてくる視線と向き合った。
あまりの変化のなさにマサヒコは顔を背けたくなったが、なんとかそれに堪える。
遠慮した意見など聞きたくないからここに来たのだ。
変に勘ぐられて心にもないことを言われては意味がない。
しかし、それは全くの杞憂だった。
「・・・正直に言えばノーね。容姿、経済力、生活能力。
どれをとっても及ばない。まさに高嶺の花。月とすっぽん」
リョーコはマサヒコから視線を外さないまま、いつも通りの口調で答えた。
それはまさにマサヒコが望んだ、忌憚のない回答だった。
心の中でかすかに燃えていた火が消える。
マサヒコは一人で頷いて笑みを作ってみせた。
「そう・・・ですか。うん、そうですよね」
意味分からないこと聞いてすみませんと、マサヒコは頭を掻く。
自虐的な笑みではなかった。予想通りの答えを生徒が答えた時に見せるような、そんな笑顔だった。
「・・・・ん」
黙ってマサヒコの笑顔を見ていたリョーコが、缶を差し出す。
マサヒコは苦笑いを浮かべて、それを黙って受け取った。


それから2人はまた宴を再開した。
マサヒコは湿った空気を入れ替えようと、必要以上に自分から話題を振った。
リョーコもそれを感じ取ってくれたのだろうか、
マサヒコの言葉にいつも通りのくだらない相槌を打った。
だが、本当にそれだけだった。
それはただ空間に言葉が投げ出されて、相手がそれを返すだけの器械的な会話だった。
十数分後、用意された酒は二人の酒豪に飲み干された。
マサヒコは最後の一缶を一気に飲み干して、静かに腰を上げた。
「じゃあ帰ります」
それだけ告げてリョーコに背中を向ける。
もうマサヒコは家に帰ることになんら抵抗を感じなかった。
リョーコの意見に背中を押してもらってよかった。
もう自分を悩ませるものは何もない。明日は毅然とした態度で彼女を迎えよう。
リビングから足を踏み出そうとする。
が、それは背後からの声に止められることになった。
「マサ、ちょっと待ちな」

「別にこっち向かなくてもいいから黙って聞きなさい」
ピシャリとした言葉がマサヒコの後ろから放たれた。
マサヒコは怪訝に思いながらも、そのままの姿勢で耳を立てる。
リョーコは少し間を空けて、いつものぶっきらぼうな口調で言った。
「恋愛なんてさ、本来当事者以外が口を挟むもんじゃないのよ。
相手の立場なんか分からないんだから。どんなことを言おうと、そんなもん嘘っぱちよ」
「・・・・・・」
「さらに言えば。その恋愛の当事者だったとしても、相手の気持ちまでは分からない」
「何が言いたいんですか?」
マサヒコは静かに後ろを振り向く。
彼の目に、何も無い空間をぼんやりと見つめているリョーコの姿が映った。
「・・・・アンタさ。アヤナのこと、どうするわけよ」
「何でそんなこと言う必要が・・・」
「はっきりいいな。どうするの?」
「・・・ちゃんと考えてますよ。もちろん若田部の立場からも。
アイツのこれからとか・・・・何ですか」
マサヒコは言いかけていた言葉を切った。自然と握られた拳に力がこもる。
リョーコが、マサヒコの話を聞いて鼻で笑ったのだ。
刺さるような視線を受けながら、リョーコは再び口を開いた。
「はっ・・・マサ。アンタ、私が普段どんなこと考えているか分かる?」
「・・・・分かるわけないじゃないですか」
不機嫌さを隠す気もない様子で答える。リョーコはそれに当然といった顔で頷いた。
「そうね。じゃあ質問を変えるわ。アンタ、アヤナの気持ちは分かる?」
「っ・・・!それは・・・・」
「分かるわけない。でしょ?」
よっこいしょと立ち上がるリョーコ。
そして彼女は話し始めてから初めて、マサヒコを正面から見た。
向かい合った時に見せたリョーコの顔は、今まで見たどんな顔より穏やかだった。


「人の立場に立ってものごとを考える。確かに聞こえはいいわね。でもそれって傲慢よ。
自分のことは自分しか分からない。アヤナのことはアヤナしか分からない。
もちろん、アンタのこともアンタしか分からないわ」
「・・・・・」
真っ直ぐマサヒコへと注がれる視線。マサヒコの拳はいつのまにか解かれていた。
「マサぁ・・・アンタもっと正直になりなよ。そんな一歩引いたとこから見るんじゃなくてさ。
アンタがアヤナに抱いてる気持ち、正直に見せてやりなさいよ」
「でも・・・」
マサヒコは弱々しくリョーコから視線を外す。
リョーコが言いたいことは分かる。もっと自分の気持ちのままにやれと言っているのだ。
自分は確かにアヤナのことを考えすぎているかもしれない。
しかし、だからといって簡単にそれをよしとする事もできないのだ。
「でも・・・もし、俺の気持ちが若田部に迷惑をかけるとしたら・・・」
「アヤナの決断、信じてみなさいよ」
「え・・・・?」
リョーコの言葉に顔を上げるマサヒコ。
が、そこで思いもよらない衝撃。いきなり頭をがっちり両側から掴まれた。
リョーコはあと少しで唇がくっつくくらいまで顔を近くまで寄せる。
そしてマサヒコの心に刻み付けるようにはっきりと語りかけた。
「アンタは後ろ向きな考えしたり、甲斐性もありゃしないED野郎だけどさ」
「・・・・最後は余計です」
突っ込むところは突っ込むマサヒコ。リョーコは構わず言葉を続けた。
「もしアヤナがアンタといることに幸せを見出してアンタを選ぶんならさ。
それはアヤナの選択は間違いじゃないってことよ、少なくともあの娘にとっては。
アンタがすることはアヤナの気持ちを考えることじゃなくて、信じてやること。
信じてやりなよ。あの娘が下す、決断ってやつを」
「考えるんじゃなく・・・信じる・・・・」
ポツリとマサヒコが呟く。今までに考えた事もないことを、本当にただ呟いた。
リョーコはそれを見て、不敵な笑みを浮かべる。
それは、彼女がくだらないことをする時に決まってみせる笑みだった。
「さぁ、ここでクエスチョン。今、小久保マサヒコのするべきことは何でしょうか?
A、嫌な事を忘れるため素敵な大人の女性と夜を過ごす。
B、さっさと帰って最後まで足りない頭を働かせる。
さぁ、どうする?」

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