作品名 | 作者名 | カップリング |
「繋がった心」 | さくしゃ氏 | マサヒコ×ミサキ |
―――そう。 ―――あなたと私は、例えるなら月と地球。 ―――いつまでも、離れずに、あなたの側にいられますように―――……。 「明日、お祭り行こっか」 脈絡ないアイの提案に、三人は一斉にアイに視線を向ける。 ちなみにここはマサヒコの部屋。例のごとく授業は脱線している。 「いや…いきなり何言ってるんですか」 マサヒコの言葉に、アイはびしっと空を指さした。…まぁ、正確に言えば天井なのだが。 「ほら、明日はお月見でしょ? んで、この前花火大会が行われた場所で月見祭りみたいなのやるんだって」 「お月見…って…」 マサヒコは苦笑する。十五夜にお月見をした経験など、小学校低学年に一度しかない。一年の中で、目立たない部類に入るイベントだろう。それなのにわざわざお祭りを開催するとは…。現代っ子のマサヒコにとって、今ひとつ理解できなかった。 「別に月なんてどこで見たって…」 「バカッ!!」 いきなり頬を叩かれる。これで三度目だ。 「お月見をバカにしちゃ駄目よ! 古く日本に伝わる伝統的な行事だし、空を見ることを忘れた現代っ子に月の美しさ、星々の輝きを思い出してもらう効果もあるのよ! あと月見だんご美味い」 「先生の場合、最後の一言がメインだと思う」 二人のやりとりを見ていたリンコは、嬉しそうに笑う。 「わーい! お月見だーっ!」 「たまにはそういうのも情緒があっていいわね」 リョーコも、先程までいじっていた携帯電話を閉じ、アイの提案に賛成した。 「この前見た花火もよかったけど、所詮人の造りし物よね。お月様の、特に満月の美しさは人には絶対造れないものだからね。たまにはそういう、自然、天然な美しさに見とれるのもいいわ」 「さすが先輩! いいこと言いますね!」 「…でも、私が行ったらお月様が二つになってしまうわね」 「?」 「だって私いま、お月様もといオツキサマで」 「で? 集合時間は何時にします?」 リョーコのボケを鮮やかに受け流し、マサヒコがアイに尋ねる。 「なんだよー、最近またノリわりぃーっ!」 「あのな、毎回毎回ツッコミを考える俺の身になれ」 相談の結果、集合時間は夕方の18時、現地集合ということで決定した。ミサキとアヤナにも連絡をし、二人も来ることになった。 そして、次の日―――。 「んじゃ、行ってきまーす」 母親にそう言い残し、マサヒコは家を出た。集合場所を目指し歩いていると、前方に見覚えのある後ろ姿。 「おーい、ミサキーっ」 マサヒコがそう叫ぶと、その後ろ姿の人影は振り返る。 「あ…マサ君!」 こちらを見て嬉しそうに返事をするその人は、マサヒコの幼馴染みでクラスメイト、天野ミサキであった。 「なんだよ、お前も今行くところだったのか?」 「う、うん」 「じゃ、一緒に行くか」 「うん!」 そうして、二人は共に集合場所へと向かった。 集合場所に着くと、既に他の四人は集まっていた。 「すいません、お待たせしました」 「別にそんな待ってないからいいよ」 と、リョーコが二人をじと目で見る。 「ふ~ん…」 「な…なんですか?」 「いや、なんでもないわよぅ?」 ……怪しい。 「…なんなんですか?」 「いや、だからなんでもないってば」 じと目で睨み合っているマサヒコとリョーコに、アイの声が届く。 「二人とも、早く行きましょうよー」 「あぁ、ごめんごめん」 そして一行は、月見祭り会場へと足を踏み入れた。 「んじゃまず、なに食べよっか?」 「…いきなり食べ物ですか」 「あ! あのたこ焼きおいしそーっ!」 屋台を見つけるやいなや、アイはダッシュで屋台へ駆け寄って行った。さすがである。 「あの人は…あんな細い体のどこに大量の食物が入るんだろ?」 半ば呆れつつマサヒコが言うと、隣にいたミサキがうんうんと頷く。 「ホントだよね……でも全然太らないよねー…羨ましい…」 「はは…」 天然娘、リンコは屋台を見回した後、一人嬉しそうにはしゃいだ。 「わーっ、お店がいっぱいだーっ!」 走り出そうとするリンコを、リョーコが制止する。 「駄目よ、リン。あんたどうせ迷子になるんだから…。ほら、繋いであげるから」 リョーコの言葉に、リンコは木に両手をついてお尻をリョーコに突き出した。 「だぁかぁらぁ、その繋ぐじゃなくて手を」 「もうそのネタいいから」 つい最近の英稜高校での学園祭でも同じネタをやられた。リョーコはリンコにどんな教育をしてるのだろう……。マサヒコが、不安を覚えたネタであった。 「じゃあ中村先生、一緒に行きましょーっ」 「分かったから、走るな」 そう言いながら、二人は人ごみの中へと消えていった。 「あぁ! 待って下さい、お姉様ーっ!」 アヤナも追って、その姿を消した。 そして取り残されたのは、マサヒコとミサキ…。 「えー…と」 マサヒコは痒いワケでもないのに頬を掻く。 「とりあえず…俺らも見て回るか…?」 「うん!」 そして二人も、人ごみの中へと消えていった。 月見祭りと言っても、基本的にはごく普通の夏祭りとなんら変わりはなかった。たこ焼き屋があれば焼きそば屋があり、射的があれば金魚すくいがある。 金魚すくい…。ふと、ミサキは思い立った。 「ねぇ、マサ君」 「ん?」 「一緒に金魚すくいやろ?」 「あぁ、別にいいけど…」 二人はお金を払い、ポイを受け取る。 「どっちが多く取れるか勝負ね!」 「若田部か、お前は…」 五分後。 「ははっ、俺の勝ちだな」 「むぅー…」 金魚が三匹入ったビニール袋をミサキに見せびらかしながら、マサヒコが笑う。一方のミサキは、開始直後にポイを破り、五本も追加した。…まぁ結局、一匹も取れなかったワケだが。 「昔っからマサ君、金魚すくい上手だったもんねー…」 「こーいう頭使わないのだったら、お前にも勝てるな」 「むぅー…」 頬を膨らませるミサキに、マサヒコは取ったばかりの金魚を差し出す。 「ほらよ」 「え?」 「なんか随分悔しそうだし…やるよ」 「い、いいの?」 「あぁ」 「ありがとうマサ君!」 ミサキは嬉しそうに金魚を受け取った。本当は、マサヒコから金魚を貰いたいが為に、できもしない金魚すくいをやったのだ。 (…しっかし…本当に嬉しそうだな…) ミサキの横顔を見、マサヒコは思う。 (そういや、こいつと二人っきりになるのって久しぶりな気がする…) 「あ! マサ君、見て見て!」 「はぇ!?」 急に声をかけられたので、思わず間抜けな声を出してしまう。 「ど、どうしたの?」 「あ、いや、なんでもない。で、なんだよ?」 「ほら、上、上!」 「上?」 マサヒコはミサキの指さす方向を見た。 そこには、仰ぐほど大きな満月。 「うゎ…!」 マサヒコは思わず声を出してしまう。それほどに、今宵の満月は丸く、美しかった。アイやリョーコの言葉が、なんとなく分かった気がした。 「綺麗だね…」 「あぁ…」 二人、我を忘れて黄金の月に見入る。しかし、ここでは通行人に迷惑がかかる。 ミサキはキョロキョロと辺りを見渡し、マサヒコの腕を引っ張る。 「なっ…なんだよ」 「マサ君、あっちに行こ!」 「お、おい!?」 ミサキに引っ張られて着いた場所は、祭り会場から少し離れている人目につかない場所だった。例の花火大会の時、アイに連れてこられた場所に似ている。 「ここなら、邪魔にならずにゆっくり見れるね」 「あ、あぁ…そうだな」 そして二人は芝生に腰を降ろすと、再び夜空を仰ぐ。 しばらくして、マサヒコはミサキに悟られないようにその横顔をちらりと見る。 (…二人っきり…か…) そんなことを思っていると、ミサキと目が合った。 (やべっ! もしかして俺、じーっと見てたかも!?) 「なに? マサ君? 私の顔に何かついてる?」 「あ、いや、何も…」 「…そう?」 二人はまた夜空を仰ぐ。しばしの、沈黙。 「……」 「……」 沈黙の中、先に口を開いたのはミサキだった。 「…ねぇ、マサ君」 「…ん?」 「マサ君は、その……私の…こと、どう思ってる…の?」 唐突な質問に、マサヒコは慌てる。 「なっ…なんだよ急に…!」 「ねぇ…」 「うぅ…?」 ミサキは、潤んだ瞳で上目遣いをしている。 その姿を、少年は、可愛いと感じた。 「ぁ…う…その…」 「…」 ミサキは、ただ黙って返答を待っている。 「な…なに言ってんだよ、そんなの……お、幼馴染みに決まってんじゃんか」 「おさ…ななじみ…」 「あ…あぁ」 マサヒコの言葉に、ミサキは一度うつむいた後…マサヒコの手を握る。 「な!? ミ、ミサキ?」 「…ゎ…しは…」 「…?」 何かを伝えようとしたミサキの声はあまりに小さく、マサヒコの耳には届かなかった。 「ミサキ…?」 「…私…は…」 ぎゅっと、手に力が入る。 「私は、マサ君のことが…好き」 「……え?」 驚くマサヒコには構わず、ミサキは続けた。 「私、マサ君のことが…大好きだよ…」 「…えと、それって…」 「…『好き』って言っても、幼馴染みとか…クラスメイトとしての『好き』じゃないよ。……一人の男性として、マサ君が『好き』なの…」 「…あの…」 「でも…でもマサ君は、私のこと…ただの『幼馴染み』としてしか思ってないんだ…」 「…それは…」 「うぅん、何も言わないで。そりゃそうだよね。私なんかより、アイ先生や中村先生、若田部さんやリンコちゃんの方が可愛いし、美人だもんね」 「…ミサキ」 「私が勝手に、好きになっただけだから………だから…気に…しな、い…で」 そこまで言うと、ミサキは泣き出してしまった。 「ごめ……いきなり…泣いちゃって……ホント、に…ごめん…」 話している間にも、涙は止まらなかった。 その涙を見て、マサヒコは胸が痛んだ。 俺の知っているミサキは、的山ほどじゃないけど元気いっぱいで。 俺の知っているミサキは、若田部ほどじゃないけど負けず嫌いで。 俺の知っているミサキは、濱中先生ほどじゃないけど耳年増で。 俺の知っているミサキは、中村先生ほどじゃないけど強くて。 でも。 今、俺の前にいるミサキは、今までに見たことない顔で―――。 そんな顔にさせたのは、俺のせい。 近すぎて、気がつかなかった。 ミサキが、俺のことをどう思っているのか。 俺は、ミサキのことをどう思っているのか。 そうだ。 今……気付いた。 自分の、本当の想い。 無意識の内に、『幼馴染み』という言葉に頼って、隠れて、逃げていたんだ。 ミサキが傷ついているのにも気付かないで、俺は―――。 「…ミサキ」 マサヒコは呟くと小刻みに震えているミサキの肩を掴んだ。 「……なに…?」 目にいっぱい涙を溜めながら、ミサキが顔を上げる。 「俺、さ」 そうだ。 今、気付いた。 ミサキに対する気持ち。 だから。 今なら……云える気がする。 「俺もさ、ミサキのこと……好きだよ」 「…………ふぇ?」 予想外の言葉に、ミサキは間が抜けた声を出す。 「俺も、ミサキが大好きだ。『幼馴染み』や『クラスメイト』としてじゃなくて…一人の女性として、お前が好きだ」 「……ウソ…」 「本当だよ。この気持ちは……本当なんだ。今まで、俺は『幼馴染み』って言葉に逃げてたんだ。それがお前を傷つけてるとも知らずに……ごめん」 「そんな…マサ君が謝ることじゃないよ? …ねぇマサ君? 無理…しないでもいいよ? 好きじゃないなら別にそんなこと―――」 ミサキの言葉は、途中で途切れた。マサヒコが、ミサキを抱き締めたからだ。 「違う…違うんだ。これは、俺の本当の気持ちなんだ」 「……ウソだよ…」 「ミサキ…俺はお前が…」 「…ホント…に……?」 「ホントさ」 マサヒコはより強く、ミサキを抱き締めた。ミサキも、マサヒコの背中に腕を回した。 「私……私…濱中先生みたいにスタイル良くないけど…それでもいい…?」 「あぁ」 「私……私…中村先生みたいにしっかりしてないけど…それでもいい…?」 「あぁ」 「私……私…若田部さんみたいにお料理上手じゃないけど…それでもいい…?」 「あぁ」 「私……私…リンコちゃんみたいに可愛くないけど…それでもいい…?」 「あぁ…!」 「私……私…」 「お前はまだ…中学生なんだから、濱中先生みたいなスタイルじゃなくて、当たり前だろ…。それに、中村先生がしっかりしてるのは人生経験が豊富だからだよ。お前はお前なりに、もう既にしっかりしてるよ。 料理だって、これから勉強すればいい。それと……ミサキ、お前は十分可愛いよ。ランクをつけるワケじゃないけど…俺は、お前が一番可愛いと思う」 「…マサ君…」 そして。 月明かりの中、二人の影が重なった。 どちらからというワケではない。 ただ、自然な流れだった。 「……ん…」 「…ん……ぅ」 唇を離すと、二人は照れ臭そうに笑う。 「…ファーストキス…だね」 「…さっき食べた、焼き鳥の味がした」 「も…もぉ、マサ君ってばぁ!」 「ははは…わりぃわりぃ」 じゃれあう二人。その顔はとても、とても幸せそうだった。 満月は、二人を祝福するようにいつまでも輝いていた。 「あんた達、どこ行ってたのよ」 もうそろそろ帰る時間となり、一行は夕方の集合場所へと集まった。 リョーコの質問に、マサヒコは苦笑いする。 「い、いえ、二人で月を見てただけですよ」 「ふ~ん…」 リョーコはニヤつくと、携帯電話を取り出した。 「そういえば私、リン達と別行動した時に、面白いもの撮ったのよね」 そう言いながら、慣れた手つきで電話を操作し、アイ達に画面を見せる。マサヒコも、背後から画面を覗く。 「………なッ!?」 マサヒコがそこに見たもの、それは自分とミサキが深いキスをしている最中の写真だった。 「なに撮ってんだアンタはーーッ!! つーか、いつの間に!?」 大慌てで電話を奪い、写真を削除する。 が、時既に遅し。アイ、アヤナ、リンコがこちらをじっと見ている…。 「マサヒコ君、避妊はした!?」 「風紀が乱れてるわ!」 「レモンの味したー?」 三人の言葉に、頭を抱えるマサヒコ。リョーコは、ただ子悪魔的な笑いを浮かべていた。 「おめでとう、少年! もうこれで、種を無駄遣いせずに済むわね」 「お前らうるせーッ!!」 そのやりとりを見て、ミサキは照れ臭く笑う。そして、夜空に浮かぶ満月にその笑みを向ける。 ミサキには満月が、微笑みを返してくれたように見えた。 終わり
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