作品名 |
作者名 |
カップリング |
「ジンジン、チクチク」 |
ピンキリ氏 |
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ぼんやりと光る街灯の下を、一組の少年少女が歩いていく。
正確に言うと、歩いているのは少年だけで、少女の方は、少年におんぶされている。
「大丈夫、重くない?」
「ん?」
背負っている側の少年の名前は小久保マサヒコ、英稜高校の一年生。
そして、背負われている側の少女の名前は的山リンコ。同じく、英稜の一年生だ。
無論、こんな状態になっているのには、理由がある。
英稜高校の文化祭はその規模が大きいことで近隣では有名だが、
マサヒコとリンコのクラスは、教室を改造してお化け屋敷をすることになっていた。
二人は小道具係で、本番を明後日に控えた今日、学校に残って、突貫で最後の仕上げ作業を行った。
何とか出来上がり、いざ帰宅という段になって、リンコが階段で躓いてこけ、足をくじいてしまった。
幸い保健の先生が残っていたので手当ては何とかなったが、ジンジンとした痛みで自力では歩けそうになく、
結局、リンコはマサヒコに背負われて帰ることになった―――というわけだ。
「ああ、重くないよ」
「……ホント?」
リンコは問い返した。
以前、コンタクトを無くした時、同じようにマサヒコに背負ってもらって家へ帰ったことがあった。
あの時、マサヒコは額から汗を流し、しんどそうに息をついていた。それをリンコは覚えている。
「ゴメンね、小久保君……」
しんどかったはずだろう、当時、マサヒコはまだ本格的な成長期に入る前だったのだから。
さすがに小柄なリンコよりは大きかったが、それでもリンコ一人を軽々と担げる程の体格ではなかった。
「小久保君、おっきくなったね」
「何を突然?」
だが、今はどうだろう。マサヒコはあの時より遥かに身長が伸び、体つきも逞しくなった。
「私はほとんど身長伸びてない……それに貧乳のままだし、ゴメンね、おぶってても面白くないでしょ?」
「お前、結局そこに話が行くのか。ってか、気にするなって」
「小久保君……」
「だって俺たち、友達だろ?」
「……うん、そうだね」
マサヒコの言葉に頷いたリンコだったが、一瞬胸の奥に、かすかな痛みを覚えた。
(あれ、何で私、心臓がチクチクしたんだろ……)
病気だろうか、と一瞬リンコは思ったが、今朝から特に体調が悪かった覚えはない。
「何でだろ……」
「ん? どうした?」
「あ、ううん、何でもない」
リンコはマサヒコの右肩に、左頬を埋めるようにして顔を伏せた。
痛みを、気のせいだと思うことにして。
(小久保君の背中、広くてあったかい……何か、すごく、安心出来る……)
優しい温もりに包まれているような気がして、リンコは一瞬、頭が麻痺したようにぽうっとなった。
そしてそれは、次第に「眠気」へと変わっていった。
(こく……ぼ、く……ん)
人通りが少なくなった商店街の中を、少年が少女をおんぶして歩いていく。
不意に背中に重みを覚えた少年は、
立ち止まると真横の大きなガラスのショーウィンドーケースに、自分達の姿を映してみた。
そして、苦笑しながら、ふぅと溜め息をひとつついた。
背中の少女が、とても幸せそうな顔で目を閉じていたからだ。
やれやれ、と少年は言うと、体を揺すって少女をもう一度背負いなおし、また、足を再び前に進め始めた。
少女が起きていた時より、若干速いペースで。
少年の名前は小久保マサヒコ、英稜高校の一年生。
少女の名前は的山リンコ、同じく英稜高校の一年生で、マサヒコの友達。
マサヒコはリンコを、友達だと思っている。
そして、リンコも、マサヒコのことを友達だと思っている。
リンコは、そう思っている。そう、今は、まだ。
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