作品名 作者名 カップリング
「ロミオとジュリエットと」 ピンキリ氏 -

「おお、光り輝く天使よ、もう一度口を利いておくれ」
「ああ、ロミオ様。あなたはどうしてロミオ様でいらっしゃいますの?」
 これは何か、と言えば、シェイクスピアの“ロミオとジュリエット”で、一番有名な台詞である。
で、それを喋っているロミオ役の少年と、ジュリエット役の少女が向かい合っているのは、演劇ホールでも体育館でもない。
小久保邸のマサヒコの部屋だ。
ロミオ役は部屋の主の小久保マサヒコ、ジュリエット役はその彼女の天野ミサキで、
先程から二人はこうやって、何度も何度も“ロミオとジュリエット”の台詞を繰り返しては演技をしている。
新手のイメージプレイ、ではない。
「恋とは溜め息の煙とともに立ち上る雲だ」
「『溜め息の雲とともに立ち上る煙だ』だよ、マサちゃん」
「……あー、ゴメン」
 何のことはない、劇の練習なのだ。
聖光女学院の文化祭は規模が大きいことで有名だが、その中でも目玉となるのが『クラス対抗演劇』である。
対抗と銘打ってはいるが、別に点数を競ったり演技を争ったりはしない。ぶっちゃけただの演劇発表会だ。
で、ミサキのクラスがやることになったのが“ロミオとジュリエット”であり、
ミサキがジュリエット役に選ばれたので、真面目なミサキはこうして練習をしているというわけだった。
ちなみに、ジュリエット役はミサキが望んでなったわけではない。単にくじ引きの結果である。
「じゃ、もう一度最初っからね」
「あー、うー、俺こういうの苦手なんだけどな」
「頑張ってマサちゃん」
「てか、ロミオ役のクラスメイトがちゃんといるんだろ?別に俺じゃなくても、そのコとやれば……」
 ついつい文句が口をついて出たマサヒコだが、実際その通りなわけで。
本番上手くやるためなら、ちゃんと役同士でやらないとしっかりとした練習にならないだろう。
「……」
 マサヒコの正論とも言える言葉に、ミサキは台本をギュッと握り締めて俯いた。
「……あ、ゴメン、責めてるわけじゃないんだ」
「……マサちゃんとやりたかったの」
「へ?」
「練習だけでも、大好きなマサちゃんとやりたかったの」
「は?」
「ロミオとジュリエットって、悲劇だけど恋の物語でしょ。だから、その……」
「……」
「恋人同士で練習したら、きっと本番でも迫真の演技が出来ると思って……」
「ミサキ……」
 マサヒコとミサキは、目を合わせると頬を真っ赤に染めた。
マサヒコも、こう言われてしまうと、最早「俺苦手だから」で逃げることは出来ない。
いや、逃げるなんてもっての他、“恋人”としてそのやる気に応えなければ。
「わかったよ、ミサキ」
「……うん、ありがとうマサちゃん」
「じゃ、いくよ。……ジュリエット、ただ一言だけ、僕を恋人と呼んでほしい」
「え、えっ!?あ、あ、せ、台詞よね。え、えーと」
「『しかしどうしてここに来られたのですか、家人に見つかればただではすみますまいに』のとこ」
「あ、え、うん。し、しかしどうしてここに来られたのですか」
「……そんなもの、恋の翼で飛び越えてみせる」
「……ふひゃあ」
「ジュリエット、僕は誓うよ。見渡す限りの世界を白銀色に染めているあの美しい月にかけて、君を愛すると」
「……はふぅ」
 頬どころか、耳まで真っ赤になるミサキ。
マサヒコではなく“ロミオ”が喋っているのだが、それでもこの台詞は心にズキュンと来る。
マサヒコが真剣になった分、余計にだ。
「マサちゃ……っと、ロミオ様いけませんわ。月は日によって形を変える不実なものです」
「ではジュリエット、僕自身にかけて、君を愛そう」
「……ほへぇ」
 “ロミオ”が喋っている。喋っているのだが、目の前に実際にいるのはマサヒコなわけで。
妄想力、もとい想像力の強い性質のミサキなだけに、どうしても切り離すことが出来ない。
自分から練習につきあわせておいて勝手なものだが、恋する乙女とはそんなもんだったりする。


「……なんか、この台詞照れるな」
「マサちゃん……」
「ん?」
「その、あの、もう一度言って、その部分」
 あ、ミサキついに公私混同。
「ではジュリエット、僕自身にかけて―――」
「ジュリエットの部分は除いて」
「僕自身にかけて、君を愛そう」
「もう一度」
「僕自身にかけて、君を愛そう。あ」
 マサヒコは気づいた。ミサキの目がトロンとしていることに。
「おい、ミサキ」
「……へにゃあ」
 ミサキ、只今旅の途中。
やれやれ、という感じにマサヒコは肩を上下させると、ミサキの頬に手を回し、そっと顔を寄せると唇を重ねた。
「……っ!」
 一気に現実に引き戻されるミサキ。
「しっかりしてくれよ、練習なんだろ?」
「あ、うん、ご、ゴメンナサイ……」
「休憩しようか、ちょっと」
「う、うん……あの」
「ん?まだ何かあるのか?」
「あの……もう一度、キスして……」
「へ?」
 なんでやねん、という突っ込みは無粋である。
マサヒコはミサキのお願いに応え、再び優しくキスをした。
重ねて、なんでやねんという突っ込みは無粋で無用である。
「マサちゃん……」
「ミサキ……」
 で、恋愛街道爆走中の二人がキスだけで終わるかと言うと、そんなわけがない。
マサヒコはひょいとミサキを抱えると、そのままベッドへと一直線。
ここでも、お前ら休憩すんじゃないのかよという突っ込みは無粋で以下略。
「ミサキ……」
「マサちゃ、ん……」
 ミサキのブラウスのボタンに手をかけると、マサヒコは上から順にそれを外していく。
ミサキは体の力を抜くと、マサヒコが脱がせ易いように体を少しずらした。




「……そう言えば、“ロミオとジュリエット”って結構性描写も露骨なのよねー」
「母さん、何をやってるんだ?」
「シッ!静かにしてよ父さん、これからがいいところなんだから」
「は?」
 息子の部屋の前、ドアの隙間から中を覗きつつ妙に納得したように頷いている妻。
そんな妻の様子を見て、不思議に思わない夫がおろうか。
いやいない。
いないだろう、多分。
「父さん、ちょっとお茶持ってきて」
「え、ここにか?」
「だから静かに喋ってよ。……そうよ、ここに持ってきて」
「お茶を飲むなら下の居間で」
「いいから早く。あ、階段はそっと下りてね」
「……」
 首を傾げながら、夫は妻に言われた通り足音をたてないように階段を下る。
いや、妻が何してるのかもっと問い質せよ、という突っ込みは以下略。

「あ……マサ、ちゃ、ん……ああ……気持ちイイよ……」
「ふふ、ミサキはここが弱いもんな……」
 ベッドの上で、若い性をぶつけあう二人。

「成長したねえロミオ、もといマサヒコ……。立派に女を鳴かせるようになって……」
 それを覗き見て悦に入る母。

「……廊下で、子どもの部屋の前でお茶を飲むのが最近奥様方の間で流行ってるのか?」
 そして鈍い善良な父。

 ロミオはロミオ、ジュリエットはジュリット。
マサヒコはマサヒコで、ミサキはミサキ、母は母、そして父は父。 
ま、それぞれに突っ込みは不要ということで。



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