作品名 作者名 カップリング
No Title ピンキリ氏 -

埋め用小ネタ

 ミサキは小久保邸に居た。マサヒコやアイと一緒に勉強、ではない。
マサヒコは保健委員会の集まりでまだ帰っていない。そもそも今日は家庭教師が来る日ではない。
なら、何故ミサキが小久保邸に来ているのか?答は簡単、家事修行だ。
ここ最近は結構真面目にマサヒコの母に指導を受けているのだ。
下手だが、下手なりに頑張っている。努力、一途、これはミサキが持つ美点だ。
「やー、ミサキちゃん、このカレー中々美味く出来たじゃない」
「そ、そうですか?」
 照れるミサキ。しかし、彼女は気づいていないが、
カレーなんぞは入れる具の選択さえ間違わなければ、誰にだってそれなりの味で作ることが出来る。
「いやいや、美味しいわよ」
 今日は何となく夕食作りに気合が乗らない。カレーならミサキにだって作れるだろう。よっしゃ、作ってもらえ……。
「うんうん、これくらいの辛さがマサヒコの好みなのよねー」
 いつもはきちんと手解きしてあげているのだが……。今日はそんな感じでこすっからい作戦に出た母なのだった。
「ミサキちゃん、そのエプロンかわいいわねー」
 あんまりホメ過ぎてもよくない、と思ったのか、マサヒコの母は話題を変えにかかった。
ミサキのエプロンは白地に大きくヒヨコの絵が描かれているものだった。
「そうですか?でも、おばさんのエプロンも素敵ですね……。淡いピンクで」
「あら?そう?うふふ、これお父さんの好みのエプロンなのよねー」
「え?おじさんからのプレゼントか何かですか?」
 マサヒコの母は妖艶に微笑むと、セクシーポーズをとって腰をくいくいと回転させた。
「裸の上にこのエプロン一枚……。そのカッコ、お父さんが大好きなのよ」
「え、あ、う……そ、それって」
 ミサキは頬が真っ赤になり、しどろもどろになった。マサヒコの母が言わんとすることを理解したからだ。
「うふふ、この前メイド服を見せてあげたでしょ?他にもいっぱいあるわよー。
コスプレってね、気分が変わるし、なりきって色々するのもまた燃えるのよねぇ」
「ああ、あう……」
 頬だけでなく、顔全体を赤く染めて、ミサキは俯いた。
「高校の時の制服はちゃんと今でも活用してるし、スクール水着も体操服も揃えてあるわ。
あ、もちろん体操服の下はブルマよ。そして、テニスウェアにナース服、女医さん、
巫女さんにバニーガール、ねこ耳、スチュワーデスにチャイナ服、コックさん、アイヌ娘……」
「そ、そんなに持ってるんですか!?」
 ミサキは大きく口を開けて、ポカンとした表情をした。
そのあまりの量の多さに、呆れや恥ずかしさといった感情を通り越してしまったのだ。
「あらー、別に怪しいお店で買ってきたわけじゃないのよ。その服がどういう形でどういう構造になってるのか?
それがわかれば、あとは裁縫の腕でどうにかなるものよ。本物とまではいかないけど、それに近いものならいくらでも作れるわ」
「はぁ……」
 感心したようにミサキは頷いた。
ミシンも上手く使えない彼女にしてみれば、色々なコスチュームを自分で作れるマサヒコの母は、まさに家事の天才に見える。
「凄いですね……」
「あら、何ならこっちも指導してあげようか?将来役立つこと間違いなしよ。マサヒコも喜ぶんじゃないかしら?
仕事帰りに、ミサキちゃんがレオタード姿でお出迎えなんかしたら、マサヒコも興奮のあまり玄関で押し倒しちゃうかも……」
「あ、あっ!そ、その!また今度でいいですっ!さ、先に料理のほうから……!」
「あらそう?それじゃまたの機会に……って、何かコゲ臭くない?」
「え?あ、あーっ!」
 ミサキはカレーの鍋を見て大声をあげた。
迂闊にも、コンロの火を強火にしていたようで、会話の最中にカレーのふちが焦げついてしまったのだ。
「あ、あああ、せっかく美味しくできたのに……」
 ミサキは半泣きになって肩を落とした。
「ありゃりゃ……」
 マサヒコの母も天を仰いだ。
カレーは誰にでも美味しく作ることの出来る料理、それは確かだ。そう、ミサキにだって。だけど……。
「焦がすことまでは考えてなかったわねぇ……」
 焦げた部分を取り除けば、食べられないことはない。香ばしくなって風味が出て丁度いいかも、と言えないこともない。
「ミサキちゃん、ほら、落ち込まないで」
 ミサキの料理修行、まだまだ先は流そうだ。
(こりゃ、結婚してからも面倒見ないといけないかもしれないわね)
 マサヒコの母はそう思いながら、落ち込んでいるミサキの肩をポンポンと慰めるように優しく叩いた。
(料理も裁縫も掃除も、そして夜の指導も……ね)

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