作品名 | 作者名 | カップリング |
「ご主人様と奴隷の幸せな関係エピソード2・リョーコの口撃」 | ピンキリ氏 | リョーコ×豊田 |
泥沼、という言葉がある。 文字通り、泥濘に足を突っ込んだ状態を言い、 もがいてももがいても、抜け出すことが出来ない悪い状況の例えとして使われる。 使用例として、『戦争は泥沼の状態に突入した』『三角関係は泥沼化した』等々。 最近では、袋小路と同じ意味合いで語られることも少なくない。 「おーいセイジ、何暗い顔してるのよ。ほれ、もっとどんどん飲みなさい」 「……」 豊田セイジは、溜め息を大きくついた。 続いて顔をしかめたのは、自分が吐いたその息に、アルコールの臭いを強く感じたからか。 「もう、勘弁してくれぇ……さっきから言ってる通り、明日も仕事なんだよ、忙しいんだよ……」 セイジは胸を押さえた。 「うぇっぷ」 言葉を口から出す度に、胸がムカムカするらしい。 実際、相当の量のビールをセイジは飲んでいる。 テーブルの上に並んだ、たくさんのビールの缶、缶、缶。 その半分をセイジが飲んだとしても、それは明らかに、彼の許容量を越えていた。 「ぐふぅ」 「何よ、だらしない」 セイジは決して酒に弱い方ではない。リョーコが強すぎるのだ。 「私は、まだまだこんなの序の口よ?」 そう言うと、リョーコは缶ビールを口にあてて、ぐいっとあおってみせた。 琥珀色の液体を、んく、んく、んくと、一気に喉に流し込んでいく。 「ぷはーっ」 「お前、本当にウワバミだな……」 にしし、と笑うリョーコ。その手は、すでに次の缶ビールへと伸びている。 「ところでさ、いいかげん教えてくれよ。どこの内定を取ってきたんだ?」 黙っていると無理矢理ビールを押し付けられそうなので、 ムカつく胸をさすりつつ、セイジは別の話題を振った。 リョーコのこれからについては、正直、彼自身も気になっているのだ。 「だから、教えない」 「……何で?」 「だってまだ本決まりじゃないし。あちこちにくっちゃべって、その後取り消されでもしたらカッコ悪いでしょ」 「そうかなぁ……」 セイジは首を傾げた。 その言い分もわからないでもないが、イマイチ納得出来ない、とセイジは思う。 隠す理由があるとしたら、内定先が余程いかがわしいところか、それとも逆に超有名好条件か、そのどちらかではないのか。 「まさか、お前……面接官に何かしたんじゃないだろうな」 「んく、んく……ぷは、何かって、何よ」 「いや、だから、便宜を図ってくれたら一晩好きにしてイイとか……イテッ!」 セイジの顔面に空になったビール缶が飛んできた。 カンッ、と乾いた音をたてて、缶がセイジの額に当たって跳ね返る。 「アンタ、ホントに私のこと、何だと思ってんの?」 「イテテ……わ、悪かった。わっ、な、中身が入ったのはヤメロ、そんなのぶつけられたらタンコブどころじゃすまない」 リョーコは振りかぶった腕を下ろし、手の中にあるビール缶のタブを起こすと、口へと持っていった。 「んく、んく、ぷふぅ……まったくこのバカチンは。まだ卒論も残ってるし、全てにカタがついたらきちんと話すわよ」 「そ、そうか。スマン……で、そ、卒論は大丈夫なのか?」 「んく、ぷはぁー。ご心配なく。進行状況は極めて良好、問題無しよ」 リョーコは缶をテーブルに置き、ツマミのオイルサーディンをひょいと口の中へ放り込んだ。 「ふぅん……」 リョーコが問題無いというのなら、本当にそうなのだろう。セイジは頷いた。 「詰めの段階に入ってるわ。もうちょっと資料が欲しいところね」 学業においては、リョーコは優秀と言ってよい成績を今までにあげてきた。 中学当時は学年で常に上位だったし、高校も付近の私学ではトップクラスの優秀さを誇る聖光女学院に進学、 大学も浪人することなく、名門の東栄大学に一発合格している。 セイジはリョーコと付き合っていた当時、家庭教師の真似事をしたことがあったが、 彼女の飲み込みの速さ、頭の回転の速さに驚いたものだ。 「それよりさ、アンタはどうなのよ。相変わらず、女子生徒のお尻追っかけまわしてんの?」 「……お前こそ、俺のことを何だと思ってるんだ」 ここで空き缶をリョーコに投げつけることが出来る程、セイジは勇気のある人間ではない。 「ホントに?」 「ホントに!大体、何度も忙しいって言ってるだろう。進路希望調査とか、色々と調べなくちゃならないんだよ、明日も」 明日は日曜日なのだが、セイジは学校で仕事をするつもりだった。 各高校の入試の出題傾向も調べておかねばならないし、夏休み用の英語の課題も作成しなければならない。 副顧問をしているサッカー部の方にも、一週間程顔を出していない。 受験生のクラスの担任を務めるのは、なかなかに大変なことなのだ。 「だから丁度良かったでしょ?気分転換出来てさ」 リョーコは次の缶を手に取った。ペースが落ちる気配はない。 「……気分転換出来たのはお前だけだ」 セイジは彼に出来る精一杯の範囲で反論した。 当然ながら、リョーコに堪えた様子は見られない。 楽しげに微笑みながら、ビールを飲んでいる。 セイジが仕事に一区切りつけ、学校を出たのは夜の八時を過ぎてからだった。 翌日に備え、早くマンションに帰るつもりが、小腹を満たそうと途中でコンビニに寄ったのが運の尽き。 中でばったりとリョーコに会ってしまったというわけだ。 こうなるともう逃げられない。 ここ何日か、何やかやと理由をつけてリョーコからの酒の誘いを断り続けてきたセイジだが、 こうも至近距離で捕まってしまうと、拒否の言葉も出てこない。否、出せない。 リョーコに命ぜられるまま、多量の缶ビールを買わされ、自宅で小宴会となってしまった。 「リンはどう?英稜に受かりそう?」 「え?」 今度はリョーコから話を替えられ、セイジはその唐突さに一瞬何を尋ねられているのかわからなかった。 「……的山のことか。そうか、お前、彼女の家庭教師だったな」 「そうよ。この前の小テストでは結構良い順位だったみたいだけど」 「そうだな、彼女の成績なら今のところ、十分に合格圏内だ」 セイジはビールではなく、ペットボトルの烏龍茶を口に含んだ。 舌の上にこびり付いたビールの苦味を洗い流すように、口内で転がす。 傍目から見て、あまりお行儀の良い行為とは言えない。 「そう、マサは?」 「マサ?ああ、小久保か。彼も英稜なら九割受かる」 リンコもマサヒコも、伸び幅は小さいものの、確実に成績は上向いている。 一年生の頃は下から数えた方が早かったのに、今では中の上から上の下の位置をしっかりとキープ出来ている。 脱線等があったとしても、二人の現在の学力は、リョーコとアイの指導のおかげと言えるだろう。 「的山も小久保も、もう少し頑張ればもひとつ上の高校を狙えるさ」 「アヤナとミサキちゃんは?」 「若田部と天野は……お前と同じ、聖光女学院志望か。成績的には申し分ない。テストでも常に一桁の順位だし」 セイジはもう一度、ペットボトルの烏龍茶を口にした。 半分程残っていたそれを、ごくりごくりと飲み干していく。 「ふーん」 「問題は……さっきの話じゃないが、面接くらいだろう」 「あ、そー言えば先日、放課後にミサキちゃんと面接の練習したらしいわね」 瞳をキランと光らせて、リョーコはセイジににじり寄った。 それに対し、セイジは体を後ろに反らし、意図的にリョーコと距離を置こうとする。 「そ、それがどうかしたか?」 「ヤラシイこと、してない?」 「……人聞きの悪いこと言うなよ」 「『今日の下着は何色なんだい?』『え?せ、先生、何を言うんですか?』 『これは予想していない質問に対する練習だよ。さあ、答えなさい』 『そ、そんな……私……』『緊張することはない。リラックスして』 『キャア、先生、どこを触ってるんですか!?』『背中と脇腹がコチコチになっているじゃないか』 『イ、イヤ……あっ、そ、そこは!』『ふふ、若田部の大きな胸も良かったが、こういう少女らしい小振りなのも、また……』 『や、やめて下さい、大声を出しますよ』『かまわないよ。だが、今はこの階には俺と君の二人以外は誰もいないハズだ』 『え、そ、そんな……あ!』『おやおや、口では嫌と言っておきながら……何故こんなにも乳首が硬くなっているんだ?』」 リョーコは声色をまね、さらに身振り手振りを交えて、卑猥な世界を展開していく。 その表情は、何とも楽しそうだ。 「『いけない子だね、天野は……ほら、次は……』『あ、ああん!し、下はダメですぅ!』 『濡れてるじゃないか、ええ?』『はぁ、はぁ、はぁ……いやぁ、やめてぇえ……』」 「……いい加減にしてくれえ」 セイジは情けない声をあげた。 止めないと、いつまでもリョーコの一人芝居は続きそうだった。 「あははははは」 リョーコは大きく口を開けて笑った。 どうやら、それなりに酔っているらしい。 「豊田セイジ君」 「な、何がセイジ君、だ。この酔っぱらい」 「うふふ、今の話で……勃起したでしょ?」 「するかー!」 二十代の半ばを越した今、彼は中学生相手に淫らな妄想は抱かない。抱かないようにしている。 「嘘?」 「嘘じゃない!」 「ふふーん……」 リョーコはペロリと唇をなめると、人差し指で髪の先をくるくると小さく輪にした。 「!!」 セイジの背筋に悪寒が走った。 その仕草は忘れようもない。忘れられるはずもない。 リョーコが何かを企んでいる時の癖なのだから。 「じゃあ……確かめてやる!」 「え、お、どうわっ!」 止める暇も無かった。 セイジがズボンに手をやる前に、リョーコはセイジの正面にしゃがみ込み、 電光石火の素早さでジッパーを下ろして、中のモノをつまみ出していた。 「あ、ちくしょー。ホントに柔らかいまんまでやんの」 「当たり前だっ!あ、コラ、や、やめろリョー……ッ、くっ」 制止の言葉は、セイジの喉で止まった。 リョーコが勢いよくモノにかぶりついてきたからだ。 「くあ、リョーコ、ま、待て」 セイジはリョーコの頭に手をかけ、引き離そうとしたが、力が入らない。 アルコールのせいもあるが、何より、リョーコの舌技が凄すぎたのだ。 「むふ、むじゅる」 掃除機もかくや、という風に思い切り吸い上げるリョーコ。 「うわ、わわわ」 セイジは瞬間、天地が引っくり返ったかのような錯覚に陥った。 視界が一転(実際には一転してないが)して元に戻った時、すでにセイジのペニスは硬くそそり立っていた。 「ほーら、勃った♪」 「……ばかやろ、無理矢理じゃないか……」 「うふふふ」 呆れたような、疲れたような口調のセイジに対し、リョーコはどこまでも明るい。 からかったような感じ、と言った方が正確かもしれない。 「うふ、次はこうしてあげる」 リョーコはそう言うと、自身の長い髪を一房つまみ、セイジのモノに絡めた。 「おま、ちょ、さ、刺さったらどうするんだ!?」 「私に限ってそんなヘマはしない」 自信満々に言い切って、リョーコは髪と一緒に縦にシゴき始めた。 「うはっ」 ジョリジョリとした、今までに経験したことのない感触が、セイジを襲う。 「く……待てったら、リョーコ……っ。お、俺はするとも、し、したいとも言ってないぞっ……!」 「こんなに硬くしといて今更何言ってんの」 「だか、ら、そんな強引に……ううっ、や、やめてくれったら」 「あー、もう!ウルサイ男ね」 リョーコは体を伸ばすと、セイジに顔を寄せた。そして唇を重ね、言葉を塞ぐ。 「む、むぐっ」 「……」 三十秒程そのままリョーコはセイジの唇を吸い続けた。 「ぷはっ」 「はぁ……っ、文句言うんじゃない、奴隷のクセに」 「だ、誰が奴隷だ……くそぅ」 「ウルサイ。したい?したくない?」 「あ、明日も仕事だ。し、したくなんか……」 「私はしたい」 リョーコの瞳が冷たく、妖しく輝いた。 眼光一閃、セイジを射抜く。 「した、した、した」 「した?」 セイジはそこで止まると、口を金魚のようにパクパクと何度か動かした。 それと同時に、肩から、腕から、力が抜けていく。 「……したい、です。ハイ」 セイジはそう答えざるを得なかった。 どこまで行っても、セイジはリョーコには逆らえない。 「よろしい」 リョーコは満足そうに、にぱーっと顔をほころばせた。 ヤるとなったら、リョーコは行動が早い。 奥の部屋をゴソゴソと探ると、コンドームを見つけて持ってきた(セイジが隠しておいたのだが)。 「さて、それじゃ楽しみましょーか♪」 「いや、その……楽しむって、ここでか?寝室じゃなくて?」 それには答えず、リョーコはスリムジーンズをゆっくりと下ろしていった。 靴下も脱ぎ去り、Yシャツ一枚の姿になる。 そのYシャツも上からいくつかボタンが外されており、何とも淫靡な格好だ。 裾の下から、ちらちらと下着が見え隠れする。 「お、おいおい」 「柔らかいベッドの上でなきゃ、出来ないってわけでもないでしょ?」 「そ、そりゃそうだが」 リョーコの手は、セイジの側に歩み寄ると、首と腰に手を回した。 「大体さぁ、昔はどこでもヤったじゃない」 「あ、あん時は、その、若かったって言うか、何て言うか」 しどろもどろになるセイジを見て、リョーコはクスッと笑うと、背伸びして唇を重ね合わせた。 「ふぅ……」 「リ、リョーコ」 「えい」 「ひぎ!?」 セイジは飛び上がった。 リョーコが右手で、力一杯モノを握り締めたからだ。 恥ずかしいことに、先程からセイジは放り出しっぱなしだったのだ。 「もう一回、コチコチにしてあげる。それからね、お楽しみは」 掌と微妙な指の動きだけで、リョーコはセイジを興奮させていく。 「う、く……」 「あは、硬くなってきた硬くなってきた」 セイジは天井を見上げた。 もう逃げられないし、抵抗も意味をなさない。後は、体力と精力を搾り尽くされないように気をつけるだけだ。 明日は、仕事があるのだから。 セイジの舌先が、リョーコの脚を這う。 右足のくるぶしから始まり、段々と上へ登り、太股の付け根まで来て、秘部には触れず横断し、 今度は左の足を、ゆっくりと爪先の方へ降っていく。 だが、膝の辺りで、引っかかった(ワザとだが)ショーツにぶち当たり、それ以上進めない。 「くっ……そこ、いいよ……セイジ」 「ン……ここか……?」 セイジは引き返し、リョーコがいいという、左の太股の内側を、集中的になめあげた。 なめるだけではない。時々、吸い付いたり、甘く噛み付いたりする。 「あ、ひゃあ……」 「リョーコ……」 手も休みはしない。脚のいたるところを、丁寧に愛撫する。 「ン、ン……セイジ……ちょ、直接……して、いいよ……」 お許しが出たところで、セイジの舌は中央へと向かった。鼻先が陰毛に触れる。 「クゥ……ッ!」 リョーコが脚を突っ張らせた。 どういった動きをリョーコは一番敏感に感じ取るのか、セイジは知っている。 伊達に、恋人付き合いをしていたわけではない。 「はぁっ、いい、いいよ……」 セイジは、口の動きは止めずに、そのままの姿勢で目を上へ、リョーコの顔の方へ向けた。 Yシャツが肌蹴て、乳房が露わになっている。その向こうに、リョーコの顎はくねくねと動いているのが見える。 セイジの舌がクリトリスに触れる度に、その顎がビクッビクッと上下に震えるのがわかる。 「リョーコ……」 セイジは顔を上げた。Yシャツの裾で、唇に着いた、自身の涎とリョーコの愛液を拭き取る。 「ン……うん……いいよ、きて……セイジ」 リョーコは脚を、左右にそっと広げた。セイジは手を伸ばし、ナイトテーブルからコンドームを取ると、モノに着ける。 セイジの体の下では、リョーコがおとなしく待っている。 Yシャツ、肌蹴た胸、脚に絡まった下着、そして少しズレた眼鏡……凄まじいまでの色香だった。 「……」 リョーコの汗の匂いと、アルコールの香りが混じり、セイジの鼻腔を直撃する。 セイジは一瞬、眩暈を覚えた。 「リ、リョーコ……」 セイジは狙いを定めると、リョーコの脚の間に、体を割り込ませた。 ゆるゆると、セイジはリョーコの中に侵入した。 ゴム越しでも、温かさと締め付けを感じることが出来る。 最深部まで到達し、そこから一度腰を引き、激しく挿入を開始―――しはしなかった。 「?」 リョーコが不思議そうに、セイジの顔を見る。 「どうかした?」 「いや……」 セイジは、何とも言えない微妙な表情をした。 「お互い、結構酒入ってるよな……」 「それが、どうかした?」 「……アルコールを摂取し過ぎて、その勢いでセックスして、どちらか片方が興奮の余り心臓がイッちゃうって話、あるからな」 リョーコはぷっ、と吹いた。 「アホらしい。そんな心配してどうするの?」 「いや、体に負担かかるしさ。床の上だし、ちょっと膝と腰が痛くて」 「じゃあどうする?ヤメる?」 「それは―――」 セイジは言葉を継げなかった。 ここまで来ると、自分もヤリたいし、何より、ヤメると言ってもリョーコが許してくれないだろう。 「ヤメないんなら、かかってきなさいよ?ほら、早く」 リョーコは、セイジの下で挑発するように笑った。 セイジもそれに笑みを返し(半分苦笑いだったが)、腰をゆっくりと動かし始めた。 「ううっ、くっ、セイジ、セイジ……!」 リョーコの双腕が、セイジの首を抱え込んだ。 セイジがひとつ、突き込むごとに、床がギシギシと音を立てる。 ここが一階でなかったら、きっと下の階の住人が血相を変えて怒鳴り込んでくることであろう。 「はぁ、はぁ、はぁ……」 アルコールでほの赤く染まったリョーコの体が、よりその色を濃くしていく。 頂点が近づいてきている証拠だった。 「ああ、いっ、セイジィ!」 「リョーコ、リョーコ……!」 セイジはリョーコの脇の下から腕を抜くと、 今度は膝の下に通し、今まで以上に大きくリョーコの脚を開かせた。 同時に、上から圧し掛かるように体勢を少し変え、動きを激しくする。 「きはっ、ン、ンン、うんんぅ、イイ、すごくイイ」 「リョーコ、俺、そろそろ……」 「あは、イキそう?イ、イッてもいいよ……わ、私も、んんンぅぅ!」 セイジはさらに強く、深く、突き込んだ。 汗が顎の先を伝って滴り、リョーコのYシャツへとこぼれていく。 そのYシャツも、リョーコ自身の汗でべっとりと濡れている。 「ああ、ああ……ん、んあぁ……!」 あまりの行為の荒々しさに、リョーコの眼鏡がはずれ、コトンと音を立てて顔の横へと転がり落ちていった。 「リ、リョーコッ!」 眼鏡が床に落ちるのを、視界に捕らえた瞬間、セイジは達した。 びゅっ、びゅくっと、勢いよく精をコンドームの中に放つ。 「くぅ、セ、セイジィ!」 そして、ほぼ同時にリョーコもイった。 痙攣するかのように、全身をぶるっと細かく震わせる。 「あ……リョーコ……」 「セイジ……」 二人の汗塗れになってしまった床の上で、事後の余韻の中、 大きく肩で息をしながら二人は抱き合った。 まるで、本当の恋人同士のように。 ◆ ◆ 目覚まし時計が、けたたましい音を立てて、午前九時を知らせた。 カーテンを通じて、朝の陽光が部屋へと差し込んでくる。 「……」 セイジは、のっそりと上半身を起こした。 体は裸のままだが、ブランケットがかけられている。 「あれ……?」 左右にブンブンと、セイジは頭を振った。 まだ、頭の奥の方で、アルコールの残滓がモヤを作っている。 「あいててて」 痛む頭を振りつつ、ベッドから降りて、バスルームへと直行した。 コックを捻り、温度を調節すると、頭からシャワーを浴びる。 まだ混乱している脳みそに、心の声で語りかけていく。 「ええと……あれからどうなったんだっけ?」 (しばらくは、二人ともあのままで……いたんだよな。それで、リョーコが先に立ってシャワーを借りるって言って……) どうにも上手く思い出せず、セイジはより強く頭を振った。 髪の先から、水飛沫が、周囲に飛び散っていく。 (えーと、えーと、えーと……ふらふらと、寝室に行ったような行ってないような……) 現実としてベッドで寝ていたのだから、寝室には自力か、もしくはリョーコの手助けで行ったのだろう。 だが、どうにも詳しく景色がよみがえってこない。 「そういや、リョーコは……?」 セイジはシャワーを止めると、バスタオルで体を拭き、バスルームから出た。 そのまま、玄関へと足を向ける。 そこには、リョーコの靴は無かった。 「……もしかして、あれからすぐに帰ったのか……?」 ぐしぐしと髪の毛の水分を拭い取りながら、セイジは今度は居間へと向かった。 「……」 何と、キレイに片付けられていた。 ビール缶と他のゴミはしっかりと分けて専用のゴミ袋に入れられ、汗で濡れた床の辺りは、その痕跡すら無かった。 そして、テーブルには、お皿が一枚あり、その上にちょこんと、トーストとブラックの缶コーヒーが乗っていた。 「……?」 セイジは近寄ると、トーストと缶コーヒーを手に取った。 トーストの冷め具合、缶コーヒーの温まり具合からして、一時間から三十分程前に用意されたものらしい。 これから推測するに、リョーコはとりあえず泊まっていき、 今日の朝、セイジを起こすことなく、トーストを焼き、表で缶コーヒーを買い、 テーブルの上に用意してから、ここを出て行ったということになる。 「アイツ……」 セイジはすっかり冷めてしまったトーストにかぶりついた。 テーブルには、他に何も無い。書置きらしいものは一切見当たらない。 缶コーヒーを開けると、一気に喉の奥へと流し込む。 中途半端な冷たさだが、今のセイジにはそれが丁度気持ち良い。 「ぷは」 空になった缶を、ビール缶がいっぱいに詰まったゴミ袋の中へと放り込む。 「せめて、目玉焼きとソーセージくらいは作っておいてくれても、バチは当たらんだろうに」 セイジは寝室へと向かった。 学校へ、仕事に行く準備をしなければならない。 「?」 スーツ類が納めてある棚の前まで来て、セイジはおかしな点に気づいた。 スーツ棚の横、私服のタンスの一番上、上着が入っているところ、そこが半開きになっている。 「……成る程」 セイジは理解した。 きっと、あそこから一枚、シャツか何かがなくなっているはずだ。 そして、洗濯機の中では、女物のYシャツが、洗われるのを待っているのを待っているに違いない。 セイジは、玄関で一度、大きく伸びをしてから、外へ出た。 遠くでセミの鳴く声が聞こえる。今日も暑くなるだろう。 「あ、おはようございます」 マンションの入り口のところで、セイジは隣人に出会った。 右隣、そしてもうひとつ右向こうに住んでいる家族の奥さん達だ。 「あ、お、おはよう、ございます……」 「どうも……」 「?は、はぁ……」 いつもと違う反応に、少しセイジは戸惑った。 普段は、にこやかに挨拶を返してくれるのだが、今朝に限って、 その視線が妙に鋭いというか、腫れ物を見るような感じだ。 (俺、何かしたかな……) セイジは、表通りへと歩を進めながら考えた。 (もしかして、昨夜のアレの音が聞こえてたのか……?) しかし、その可能性は低いはずだ。 セイジのマンションは、上下には若干音が漏れ易いが、左右横への防音はしっかりしている方だ。 「何だろ……?」 どうにも、あの二人の奇妙な態度がセイジには理解出来ない。 「おはよう、豊田さん」 「あ、おはようございます」 セイジに声をかけてきたのは、角のタバコ屋のおばあさんだった。 セイジはほとんどタバコを吸わないので、物の売買を通じての接点はあまり無かったが、 何でも一番下の孫が今度中学生になるとかで、セイジを中学校の教師と知って以来、 セイジを道で見かけては、何かと話をしてくるようになったのだ。 「今日も暑くなりそうですね」 「はい、はい、ほんに、暑くなりそうですねぇ」 先程の主婦二人のつれない応対を見たばかりなので、おばあさんの返事にセイジは少し嬉しくなった。 「今日も仕事で?」 「ええ、ちょっと」 「あらまあ、忙しくて大変だねぇ」 「そうでもありませんよ」 セイジはじゃ、と手を振って、その場から立ち去ろうとした。 が、次のおばあさんの台詞に、体どころか心まで固まってしまった。 「でも安心だねぇ、あんな良い婚約者さんがおられるんだもの」 「こ」 「はい?どうしましたかいの?」 「こ、こ、こんにゃくしゃ?」 おばあさんは目を大きく開き、首を傾げた。 セイジが何に驚いているのか、わからなかったからだ。 「豊田さん?どうしました?」 「い、いえ、その、あの」 セイジは息を吸い込んだ。そして、腹の辺りに手をあて、ゆっくりと吐き出す。 必死に落ち着こう落ち着こうとしているのだが、おばあさんの目には、物凄くおかしな行動に映っただろう。 「す、すいません……おばあさん」 「はい、はい?」 「その……こ、婚約者とは?」 おばあさんの首の傾きが、より深さを増した。 「今朝会いましたよ、ここで?えーと、中村リョーコさんとか言う……」 セイジは足の下が、泥沼になったかのように感じた。 膝に力が入らない。周囲の景色が歪んで見える。 そのまま、地面の底へと引き摺りこまれていくような錯覚。 「ど、どうしました、豊田さん?」 おばあさんが近づいてきて、セイジの肩を揺さ振った。 いつの間にやら、セイジは道路に膝をついていた。 (リ、リ、リョーコ、あ、あ、あ、あいつぅぅぅぅ) マンションの前での、お隣さんのおかしな素振りにも、それで納得がいく。 きっと、缶コーヒーを買いに出た時、リョーコは二人に会ったのだろう。 それで二人は、一人暮らしのはずのセイジの部屋から女が出てきたのを見て、不審に思ったに違いない。 リョーコのことだ、きっと、それを煽るようなことをしたか言ったに違いない。 わざわざ、二人に「通い妻です」「一日いくらで雇われまして」とか何とか、出任せをかましたのだ。 さらに、帰り際にこのおばあさんに、「豊田の婚約者です」と言いやがったのだ。 (あ、あ、あ、あのやろぉぉぉぉぉ) 「ちょっと!?と、豊田さん!?」 セイジは、両手を地についた。冷たい汗が、頬を流れていく。 下へ、下へ、と沈んでいく錯覚は、まだ治まらない。 この分では誤解をとくのに相当骨を折ることになりそうだ。 それに、誤解がとけても、周囲が今まで通りの態度でセイジに接してくれるという保障は無い。 「リ、リョーコのやつぅぅぅ……」 「と、豊田さん!しっかり!」 おばあさんの声が、はるか遠くからのように、セイジには聞こえた。 ……泥沼、という言葉がある。 文字通り、泥濘に足を突っ込んだ状態を言い、 もがいてももがいても、抜け出すことが出来ない悪い状況の例えとして使われる。 使用例として、『誤解から泥沼の状態に突入した』『人間関係は泥沼化した』等々。 最近では、袋小路と同じ意味合いで語られることも―――少なくはない。 F I N
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