作品名 |
作者名 |
カップリング |
ツーショット アイ編 |
ピンキリ氏 |
アイ×マサヒコ |
休日ともなると、ある程度の規模の町では、昼前でも駅前はそれなりに賑わいを見せるものだ。
『本日2F衣服コーナー大セール』とアドバルーンの揚がったデパートは家族客の出入りが激しいし、
パチンコ屋からは、派手な煽りのマイクと勇ましいマーチ系の曲が、ドアが開閉する度に街路にこぼれ、
小さいながらも設備の整った映画館には、『世界が泣いた悲恋の物語!全米1位!』と
いささか誇張気味なポスターの文句に釣られてか、券売り場に何組かカップルが並んでいる。
有料駐車場はどこもいっぱい、自転車置き場も鮨詰め状態になっている。
そんな中、小久保マサヒコはデパート前の広場でベンチに座りながら、
ぼんやりと宙を見上げて缶ジュースを飲んでいた。
周りには若い女性や男性が多い。
この広場が、近辺でも有名なデートの待ち合わせ場所なためなのだが、
別にマサヒコ自身は誰かを待っているわけではない。
ただ、ぼけーっとしているだけなのだ。
缶を口につけ、すぐに離す。もう中身はほとんど残っていない。
(あー、どうすっかなぁ)
マサヒコは空に目をやったまま、大きく溜め息をつく。
そもそも、何故マサヒコがここに居るかと言うと―――
有名な超大作RPGの発売日、それが今日。
ゲーム好きなマサヒコも注目していたタイトルで、発売日が決定する前から購入を決めていた。
貯めたこづかいを握りしめ、意気揚々と電車で3駅先の大型ゲーム専門店まで来たはいいものの、
そこはさすがに話題の超大作、予約も含めて入荷分は開店直後に完売で、
「申し訳ございませーん」という店員の声を背中に店を後にすることになってしまった。
慌てて付近のゲームを扱っている店をかたっぱしから周ってみたものの、全部スカ。
面倒くさがらずに予約しておけば良かったと悔やんでも、もはや完全に後の祭りの何とやら。
財布の中身は『ゲーム代+往復の電車賃+ちょっとだけの小銭』しか入っていないため、他の街に移動も出来ない。
あきらめて帰るか、意地でも近くで探すか、徒歩帰宅覚悟で電車に乗って別の街に行くか、その三つしか選択肢はない。
絶対に今すぐプレイしたいというわけじゃないけど、ここまで来てこのまま帰るのはなぁ・・・と、
決心もつかずあきらめもつかず、疲れた足を休めるためにとりあえずベンチに座った、という次第だ。
缶ジュースが空になった。一滴も残っていない。
マサヒコはもう一度大きく溜め息をつく。
仕方が無い。こうあることを予測してしかるべきだったのに、それを怠った自分が悪い。
(・・・帰るか)
よっ、と腰を上げたその時。
「あれぇ、マサヒコ君じゃない?」
声がした方に視線を向けると、そこには、自分の勉強をみてくれている女子大生家庭教師が。
「濱中先生・・・」
「どうしたの、こんなところで?」
不思議そうな顔で質問するアイ。彼女にしてみれば、ここでマサヒコに会うなど予想の範疇外の出来事だ。
もちろん、マサヒコにしても同じなのだが。
マサヒコは事の経緯をアイに説明した。ちょっと恥ずかしいが、取り繕う必要も無い。
「・・・というわけなんです」
「ふーん・・・」
聞き終えると、アイは手を顎にあてて、俯きかげんで何やら考え始める。
(???)
いったい何をアイは考え込んでいるのだろうか。
今度はマサヒコが不思議そうな表情でアイを見つめる。
数秒後、アイは顔を上げた。
「それじゃあ、私につきあってくれない?」
「へ?」
つきあってくれ、とはどういうことか。
マサヒコは突然の提案に驚いた。
「今日、駅前のデパートで衣服関係のセールがあるの」
「ああ、そう言えば『大セール』と書かれたアドバルーンが揚がっていたような・・・」
「別にたくさん買い込むわけつもりはないけど、マサヒコ君が居てくれたら心強いわ」
「・・・荷物持ちってことですか」
「ゴ、ゴメン、そいういうわけじゃないけど・・・」
オロオロというか、モジモジというか、そんな挙動のアイ。
と、上目使いでマサヒコを見ると、
「・・・ダメ?」
とポツリ。
(うっ)
アイはマサヒコより背が高いのだが、自身の目線より上から上目使いをされるというのは、
それはそれでかなりくるモノがある。
第一、そんな表情を向けられて、嫌と言える男が居ろうか。いや、居ない。
さらに、とどめとも言える台詞が続く。
「それに・・・他の人の意見も聞きたいし・・・マサヒコ君の目から見て、どうなのかなって」
マサヒコに女性のファッションが解るわけがない。
アイがそれを理解して言っているとは思えないし、それに聞き方によっては、
深読み次第で「アナタの好みに合わせるわ」という意味にも取れてしまう。
当然、アイはそんな意識など無く喋っているのだろうが・・・。
「わ、わかりました。つきあいますよ」
マサヒコとしてはこう答えるしかない。
「そう!?良かった!」
さっきとは打って変わってアイは満面の笑みを見せる。
「じゃあ、行こう!」
そしてマサヒコの手を握ると、デパートへ向かって歩き出す。
「わ、ちょっと、濱中先生」
「さあ、行くわよ行くわよー!」
楽しそうにデパートの入り口へ歩を進めるアイ。マサヒコは引きずられるように着いていくしかない。
(な、なんだか完全にペースに巻き込まれている気がする)
二人に周囲からは好奇の眼差しが向けられる。
仲の良い?姉弟の図にも見えなくもないが、お互い似ていないし、
かといってデートにしては雰囲気的にも組み合わせ的にも変だと感じられたのだろう。
数人の若い男―――彼女に待ち合わせをすっぽかされたと思われる―――が、
棘々しい視線をマサヒコに突き刺したが、マサヒコがそれに気づこうはずも無い。
もし気づいたとしても、何故睨まれているかまではわからなかっただろう。
それからたっぷり二時間、マサヒコはアイにファッションフロア中を連れ回された。
品の良いブラウス発見、でも何か色がイマイチ気にいらない、
このスカーフ爽やかそうで結構イイかも、でもちょっと大き過ぎるわね、
あのVネックかわいいけど、でも、あのジャケット素敵、でも、でも、でも、でも・・・。
服を漁る→試着→やっぱやめた、のコンボがひたすら続き、挙句に下着売り場にまで引き回され、
しかもその間にアイがマサヒコに助言を求めたことは、全く無かった。
いや、正確にはあったのだが、マサヒコが答える前に「あっ、でも・・・」とアイが自己回答してしまうのだ。
無論、マサヒコも聞かれたところで、「はぁ、いいんじゃないっすか」とぐらいしか答えられなかっただろうが。
とにもかくにも、アイの『ひとりファッションショー、ひとり駄目出し』は二時間ノンストップで続き、
結局買ったものといえばシャツとスカートその他数着、何のことは無い、アイ一人でも十分持てる量だった。
マサヒコは自販機コーナーのテーブルの上に突っ伏していた。
(まさか、こんなに体力を使うとは思わなかった)
ふと周りを見れば、他のテーブルにも一台につきひとりづつ、男性が虚ろな表情でへたり込んでいる。
マサヒコと同じ状況下のようだ。どうやら、アイだけが特別なわけではないらしい。
しかし、女性にとってファッションとはそれほどまでに重き意味を持つのだろうか。
ミサキも、リンコも、アヤナも、リョーコも、そして母も、やはりこれほど手間と時間をかけるのか。
いや、全ての女性がそうではあるまい。衣服に対して淡白な人もおろう。
それに、男性でも時間をかけるヤツは時間をかけるだろうし・・・、だけど俺にはわからないなあ・・・。
疲れのせいか、思考がぐたぐたになってまとまらない。まとめる気もあまり無いが。
そこに、お手洗いからアイが戻ってきた。
表情を見るに、今日の成果にそれなりに満足しているらしい。
「あれー、マサヒコ君、ぐったりしてどうしたの?」
あんたのせいだよ、と心で呟き、口では「いや、大丈夫ですよ」と返事を返す。
「そう?ならいいけど・・・。じゃあ、遅くなったけどお昼ご飯食べに行かない?お礼に奢ってあげる」
「はあ、いいんですか?」
「もちろんよ、私がつきあわせたんだから、それぐらいはしないと」
まあ、ここは好意に甘えてもバチも当たるまい。
マサヒコはそう考えて、わかりました、と答えると腰を上げた。
昼食はハンバーガーショップで済ませた。すぐに食べることが出来るし、
何より大食いのアイにとっては、単品でどんどん注文出来るのでがありがたい。
それでハンバーガーを10個ペロリと食べてしまうのだから、さすがは『無限の胃袋』の持ち主と言うべきか。
マサヒコはチーズバーガーのセットで打ち止め。アイを見てるだけで満腹になってしまった。
ハンバーガー、ポテト、コーラ、全てお腹に入れたところで、アイが口を開いた。
「マサヒコ君、まだ、時間はいい?」
「はい?別に・・・問題無いですけど、まさか、まだ買い物があるんですか?」
「あ、違う違う」
ギョッとした表情になったマサヒコに、アイは手を振って否定すると、一枚の券を取り出した。
「何ですか、コレ?」
「さっき、服のお金を払う時にね、『五千円買う度に一回抽選!』ってやってたのよ」
マサヒコはその券をじっくりと見てみた。
表と思しき面には、『映画ペア券』と書かれており、その裏には、使用可能な映画館の名前が羅列してある。
「つまり、その抽選でこの券を貰ったと?」
「そーゆーこと」
アイはニコリと笑う。思わずマサヒコはドキリとしてしまう。
6つも歳が離れているというのに、時々アイは子どものような無邪気な笑顔を見せることがある。
アイが童顔であるということもあるのだろうが・・・理由はそれだけではないだろう。
「で、せっかくタダなわけだし、ペア券なわけだし、そこの映画館で使えるみたいだし、何か観ていかない?」
マサヒコは疲れていることもあり、出来れば家に帰りたかったのだが、
結局はアイに促されるまま映画を観ることにした。
これはマサヒコが主体性が無いとか流され易いとかいう話ではない。
今日はアイにペースを持っていかれっ放し、さらに言うと、アイに対して抗い難い“何か”を感じたためなのだが、
それに対して不思議と嫌な気持ちは沸いてこなかった。別に良いかな、と思ってしまう。
「で、マサヒコ君はどんな映画が観たい?」
「う〜ん、そうですね・・・」
マサヒコの好みは、男の子らしくアクション系ムービーなのだが、それに該当する映画は今はやっていないようだ。
他には、ホラー映画が一本、恋愛映画が一本、アニメが一本。どれも食指が動くような内容とは思えない。
「濱中先生の観たいのでいいです・・・」
芸が無いが、ここはアイの望む映画にした方が良いだろう。マサヒコはそう判断した。
「じゃあ、この恋愛映画にしましょう。『義妹は思春期』とかいう」
「はぁ・・・恋愛映画っすか」
三本の中でも最もマサヒコの好みから遠いジャンルなのだが・・・今更「嫌です」とは言えない。
「濱中先生、恋愛モノが好きなんですか?」
「え?ああ、大学の友達の間でも結構話題になってたし、それに何より・・・」
「それに何より?」
「上映時間が一番近かったから」
マサヒコはカクッと膝の力が一瞬抜けたような気がした。アイの選び方も結構、いやかなり適当だ。
まあ、タダで観れるのだから、それぐらいが肩の力も抜けて丁度良いかもしれない。
映画は結構客が入っていた。立ち見も何人か出ている。
『全米1位!』とポスターに書かれていたが、それ程人気のある映画なのだろうか。
まあ公開後一回でも1位になれば以後その冠言葉が使えるわけで、あまりアテにはならない部分はある。
客のカップル比率が異様に高いのは、ジャンルが恋愛モノだからこそなのだろう。多分。
いくつかのCMと他の映画の予告の後、映画会社のロゴが表示され、のんびりとした音楽とともに映画が始まった。
案の定、というか何というか。
マサヒコにとっては退屈極まりない。
最初の30分は我慢してスクリーンを観ていたのだが、もうそろそろどうでもよくなってきた。
一人で暮らしてた主人公の男の元に義理の妹だと名乗る少女がやってきて、一緒に暮らすようになる。
その義理の妹は何か主人公に気があるような素振りを見せ、主人公も戸惑いながらも悪い気はせず―――という内容らしいのだが、
恋愛モノ自体に興味が無いので、全く面白いとは感じない。
「ふぁぁあ・・・」
思わず欠伸も出てきてしまう。吹き替え版で無ければ、意味がわかりづらい分とっくに眠っていたかもしれない。
マサヒコは隣に座っているアイの方に顔を向ける。
少なくとも、アイは真面目に観ているようだ。
「ふぁぁあ・・・」
登場人物の台詞も、音楽も、全て子守唄に聞こえる。
『男と女って本当に難しい・・・ロジックじゃないもん、恋する気持ちって・・・』
義妹役の声優がまた中途半端に感情を乗せて喋るので、甘ったるくてさらに眠気が誘発される。
『大切なのは・・・』
(眠りたい時に・・・眠ること・・・)
マサヒコの意識は闇の中に落ちていった。
♪ズンチャッズンチャカチャズンチャカズンチャカチャ♪
不意に流れ出した早いテンポの音楽に耳を叩かれ、マサヒコは目を覚ました。
目の前のスクリーンには、花嫁姿の義妹とカウボーイ姿の主人公がトロッコに乗って坑道を爆走しているシーンが映っている。
二人はシャベルやツルハシを手に、追ってきた連中を片っ端から撃退、
義妹の結婚相手であったと思われる男性を協力して崖下に叩き落とすと、
安堵の表情を浮かべて、ガタガタ揺れるトロッコの上で熱い口付けを交わす。カチカチと歯がぶつかる音が妙にシュールだ。
トロッコが坑道を抜けて、明るい空の下に出て画面が光に満たされたところでスタッフロールが始まる。
(なんだ、後半はまるまる寝てしまってたってワケか・・・)
ガヤガヤと周囲の客が席から立ち上がり、帰り支度を始める。
(さて、それじゃ俺たちも・・・あれ?)
マサヒコは腰を上げようとしたが、太腿の上に何か重みを感じて立ち上がることが出来ない。
(あれ、荷物はロッカーに預けたし・・・何だ?)
マサヒコが視線を下に向けると、そこには、
「くぅ〜・・・すぅ〜・・・」
マサヒコの股間に顔を埋めるようにして、アイが小さく寝息をたてていた。
「な、ななななな」
パニックに陥りそうな脳みそを叱咤激励し、状況を整理する。
【つまらなかったのか、それとも疲れたのか、アイも途中で寝てしまった】
【こちら側(マサヒコ側)に頭がもたれかかってきた】
【しかし、アイの頭はマサヒコの肩に引っかからず、そのままずり落ちてきた】
【で、このような格好になった】
このようなところだろうか。細かい差異はあれ、大筋では間違っていないだろう。
とにかく、このままでは『暗がりをいいことに良からぬことをしている男女』と勘違いされてしまう。
アイを起こすべく、マサヒコはアイの頭に手をかけた。
パッ・・・
『この部の放映は終了させていただきます。お席にお忘れものの無いよう、お気をつけてお帰り下さい』
館内に一斉に明かりが灯る。
(や、やばっ!)
目を薄くして、入光量を調節しながら、アイの頭を揺さぶる。だが、アイはなかなか目を覚まさない。
「お、起きて下さい濱中先生」
本当に周囲にいらぬ誤解を与えてしまう。仕方が無い、叩いて起こそうか、と考えたその時、前の席から声が―――
「・・・小久保君?」
なに?
何で皆さん方がここにいるんですか?
三人勢ぞろいってどういうことですか?
えーっと、待って下さいよ。あれは確か先週の水曜日でしたか?
天野ミサキさんが映画のチケットを持ってきたのは。
「お父さんの伝手で映画の無料券を貰ったの。4人分あるから、今度の日曜日に観にいかない?」
若田部アヤナさんと的山リンコさんは即答でしたね。
「ええ、私は別に構わないわよ」
「わーい、映画だー」
で、俺は断ったんですよね。そりゃゲームを買いにいくつもりでしたもの。
「ごめん、その日俺用事があるんだ」
「えっ、そうなの・・・」
「悪い、ゴメンな」
そうでしたか、今度の日曜日ってのは今日でしたね。
それで、観に行く映画とはこの映画のことでしたかそうですか。
マサヒコはゆっくりと顔を上げる。
天野ミサキ
的山リンコ
若田部アヤナ
見間違えるわけもない、正真正銘の本人たち。
ミサキは無表情。リンコは顔にОが3つ。アヤナは異様に目が釣りあがっている。
マサヒコは改めて自分の状況を確認するために、アイに視線を落とす。落ち着いているように見えて、そうではない。
本当の恐怖を前にすると、人は冷静、と言うか感情が凍ってしまうものだ。
アイが自分の股間に顔を埋めていて、
そのアイの頭に自分の両手が添えられていて、
つまり所謂、この体勢は、その、アレで、なんとやらで。
さらに神様とは時に物凄く意地悪なわけで、
アイに映画の代わりに食べ物の夢を見させてしまっていたようで。
「う〜ん、おい、しいよぉ・・・ムニャ、ペロッ・・・」
マサヒコは体感した。
絶対零度というものを。
「・・・小久保君」
ミサキがマサヒコの後ろに回り、首根っこを掴む。
リンコが右、アヤナが左の腕を抱える。
「・・・さ、行きましょうか」
すぐ背後で発せられたミサキの声は、氷の刃となってマサヒコの肺腑を抉る。
グイン、と3人に引っ張りあげられ、席から強引に立たされると、そのままの体勢で床の上を引き摺られていく。
その時にアイが下に転げ落ちたようだが、3人は見向きもしない。
バタンとドアが開けられ、ロビーを3人の少女がひとりの少年を引き摺って歩いていく。
あまりに異様な光景に、周りの人間は声も出ない。
マサヒコは天井を見上げていた。
もはや抵抗も言い訳も意味をなさないのは承知している。
これから己の身に、どのような災いが降りかかるかも承知している。
(ああ、どうして・・・)
どうして、こうなっちゃったんだろうなぁ。俺が悪いのかなぁ。そうか、俺のせいなのかぁ。
入り口から表通りに出る。
相変わらず人の数は多いが、まるでモーゼか大魔神か、3人(+ひとり)の前の人混みが真っ二つに裂けていく。
マサヒコの視界に、映画のポスターが入る。
先ほどまで上映されていた映画。自分と、アイと、そして3人が観ていた映画。
ポスターに書かれた文字、『世界が泣いた悲恋の物語!』
何が世界が泣いた、だよ。
俺が今一番泣きたいよ・・・。
マサヒコはただ、ズルズルと引き摺られていく。映画館が遠くなっていく。
アイが寝ぼけ眼を擦りつつ、映画館から出てきた時は、すでに人混みは元通りに戻っていた。
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