作品名 作者名 カップリング
ツーショット リンコ編 ピンキリ氏 リンコ×マサヒコ

♪ピンポンパンポン
『閉門時間まであと一時間です。校舎に残っている生徒は、各役員、当番以外は速やかに下校して下さい』
ピンポンパンポン♪

「はー、やっと終わった」
マサヒコは肩で息をついた。
日直の仕事も楽ではない。と言うか多すぎる。
今日は相方の生徒が病欠で休んだため、特に忙しかった。
職員室へ日誌を届けて、下駄箱へと歩を進める。が、頭の片隅に残る違和感。
(あれ・・・何か忘れているような)
数秒悩んだ後、マサヒコは思い出した。
「あっ、窓の鍵を閉めたかどうかチェックしてなかった」
そう呟いて足を教室へと戻す。
別にいいや、と思えないところがマサヒコらしいと言えばマサヒコらしい。
小さな事に思い悩む小心者では無いが、こういった細かい部分を疎かにするようなタイプでも無い。
マサヒコ本人が予め持っている、一種の責任感とでも言おうか。

窓の戸締りを確認し終えて教室を出た時、廊下の奥―――教室棟と中通路が交差するところ―――に人影が見えた。
台車に何かを乗せて運んでいるらしいが、重さのためか中々前に進んでいないようだ。
(あれは・・・)
マサヒコはその人影に近寄って、声をかける。
「的山じゃないか、何してるんだ?」
台車を押していたのは的山リンコだった。
「ハァハァ、あっ、小、久保、君」
返事の言葉の隙間に息切れが重なる。かなりしんどいらしい。
マサヒコは台車に乗っている荷物を見る。平積みになった、大量の本。
「あのね、学校に寄贈された本を図書室に運んでるの」
息を整えながらリンコがさっきの問いに答える。
「ふーん・・・って、お前一人でか?図書委員は他にもいるだろう」
「んー、最初は何人かいたんだけど、台車に乗せた時に用事があるからって帰っちゃった、皆。あとよろしくって」
「・・・何だよ、それ」
マサヒコはその連中に軽い怒りを覚えた。
リンコは天然の気があるから、『用事があるから』という言葉に疑問を抱かなかっただろう。
『あとよろしく』と言われて、首を横に振るような性格でも無い。
これは、どこからどう考えても、【面倒臭いからリンコに押し付けた】以外の何物でもない。

「俺が手伝ってやるよ」
マサヒコも早く帰りたいのだが、リンコを見捨ててはいけない。
「えっ、いいの小久保君?」
リンコが驚いた顔でマサヒコを見る。
そんなリンコに対し、マサヒコはいつものあの笑顔を返す。
「当たり前だろ。友達じゃないか」
「・・・小久保くぅん・・・」
嬉しさのあまり、じわりとリンコの目に涙が浮かぶ。結構感激屋さんなのだ。
「嬉しいよう」
ぐしぐしと目尻を擦るリンコ。
マサヒコは教室にもう一度入り、鞄を教卓の上に置く。
そして、引き返してきて、リンコの頭をポンポンと優しく叩くと、
「さあ、早いとこ図書室まで運んでいこうぜ」
と言って、リンコの横に並び、台車を押し始めた。

二人で押しても台車は重たかった。
リンコの話では一階の職員用の門から持ってきたとのことだが、
そこから図書室までの道のりで楽が出来そうなのは、搬送用のエレベーターしかない。
しかし、エレベーターは裏の通用門の側なので、職員用の門からは正反対の位置にある。
そこまで押して行き、エレベーターに乗せ、図書室のあるこの階で下ろして、
廊下の途中まで来て息切れを起こしたところにマサヒコが現れた、ということになる。
その間、今までずっとひとりぼっちで押していたのかと思うと、ますますマサヒコは腹が立つ。
リンコをほって帰った連中もそうだが、こんなに体の小さな女の子が必死に台車を押しているのに、
誰も声をかけて手伝おうとしなかったのか?放課後で人が少ないということを差し引いても、あまりに薄情な話ではないか。
マサヒコは視線をリンコの横顔に向ける。額に汗を滲ませ、一生懸命な表情。
(こいつは天然だけど・・・いや、だからこそ、こういうのに手抜きできないんだな)
この前抜き打ちの実力テストが返ってきた時、かなり良い点数だったのをリンコ本人が驚きつつ喜んでいた。
リョーコの指導のおかげもあるかもしれないが、基本的にリンコは頑張り屋、というか一途なのだろう。
意識的にズル、サボリをできないのだ。ゆっくり進んで、じわじわと結果がついてくるタイプと言ってもいいかもしれない。
確かにミサキやアヤナ程頭が良いわけでもない。運動だって音楽だって得意な方ではない。
ドジっ娘でリョーコ仕込みのエロボケ(しかも的外れ)をかまし、さらには場違いな天然発言で周りを疲れさせる。
それでも―――
(こういう奴が、最後にきちんと“大切なもの”を手に入れるんじゃないだろうか)
ウサギとカメの話もあることだ。
マサヒコはリンコのと一緒に台車を押しながら、そんなことを考えていた。

何とか台車を図書室まで持ってゆくことが出来た。
残りわずかの距離でリンコが力尽き、最後はほとんどマサヒコのみが押すことになってしまったが。
「ふー、やれやれ・・・。で、本はどうするんだ?」
「隣の書庫の前に置いとけばいいらしいよ。国語の先生が分別整理するんだって」
「わかった」
もう一度力を絞って、台車を書庫の扉の前まで押して行く。
「これで良し」
「ふへぇ、終わった終わったぁ」
リンコはハンカチを取り出して顔の汗を拭く。
(俺も汗かいちゃったかな。えーと、ハンカチは・・・どこにやったっけ)
マサヒコはポケットをまさぐるが、ハンカチは見つからない。どうやら、教室に置いてきた鞄の中に放りこんだままのようだ。
バタバタと制服のポケットというポケットを引っ掻き回しているマサヒコを見て、リンコはクスリと笑う。
そして、ハンカチを持った手をマサヒコの額に伸ばす。
「じっとしてて、小久保君」
「ま、的山・・・」
額の上を動く、柔らかい感触。リンコは単純に親切心でやっているのだろうが、
やられる方にしてみれば、照れくさいというか、奇妙にこそばゆい。
「はい。汗、拭けたよ」
「・・・おう」
天然の人は、時々ドキッとさせる行動をとる。改めてマサヒコはそう思った。

二人が鞄を抱えて下駄箱まで来た時、タイミングの悪いことに、
雨が空からパラパラと落ちてきた。天気予報がまた嘘をついたようだ。
だが、マサヒコはしっかりと折り畳み傘を持っていた。
備えあれば憂いなし、では残念ながら、ない。
単に鞄の中に入れたまま忘れていただけなのだ。
何はともあれ、濡れずにすむのは間違いない。
そう思ってマサヒコが傘を広げた瞬間、後ろから制服の裾をチョンチョンと引っ張られた。
振り向くと、そこには悲しそうな、申し訳無さそうな表情のリンコが。
「的山、お前もしかして」
「傘、忘れてきちゃった・・・」
(・・・やっぱりか)
リンコを責めるわけにはいかない。マサヒコだって、傘を持っていたのは偶然なのだから。
ここで傘を差し出して、自分は濡れて帰ろう―――などと、一昔以上前のドラマの主人公のような、
カッコいい選択肢はマサヒコの頭に無い。『カッコつけ < ズブ濡れで帰るのは勘弁』、単純な比較式。
であれば、マサヒコが取るべき手段はひとつ。
傘の右側のスペースを空けて、リンコを手招きする。
「入れよ。家まで送ってやる」
リンコの家まで約三十分。そっから自分の家に帰っても、合計で一時間もかかるまい。
ちょっと道草して帰ったと考えれば良い。今日はアイの授業も無いことだし。
マサヒコが空けたスペースに、リンコがおずおずと体を寄せてくる。
「ゴメンね、小久保君」の声を右耳に聞きながら、マサヒコは雨の中を歩き出した。

だんだんと雨脚が強くなってきた。
(何が午後の降水確率は10%です、だよ)
マサヒコは心の中で、朝のニュースの天気予報士に悪態をつく。
と、マサヒコのやや右斜め下から、顔を覗き込む視線。
「何だ?的山」
リンコが恐る恐る、といった感じで口を開く。
「・・・やっぱり、怒ってる?小久保君」
「怒る?何で?」
「だって・・・さっきから小久保君、ずっとムスっとしてるし」
マサヒコはハッと気が付いた。
リンコに雑用を押し付けて帰った図書委員の連中、外れた天気予報、激しくなる雨。
イライラのひとつひとつが積もり積もって、顔に現れていたらしい。
マサヒコは表情をキャンセルし、笑顔を作ってリンコに向ける。
「何でもないよ」
「・・・本当?私、やっぱり迷惑じゃない?」
「そんなことないさ」
遠慮したリンコがマサヒコとの距離をあけようとする。が、すぐにマサヒコが体をリンコに寄せる。
「気にするなよ。友達だろ?」
「うう〜、小久保君〜」
リンコ、また瞳がウルウル。

『閉店しました』と紙が貼られた乾物屋のシャッターとその前の赤いポストが、二人の視界に入る。
ここを過ぎれば、的山邸まであといくつか角を曲がるだけだ。距離にして数百メートル。
リンコが心無しか歩を少し早め、それにマサヒコが傘をリンコの上に被せるようにしてついていく。
「おい、傘から出るなよ」
濡れるぞ、と言葉を続けようとしたその瞬間。
リンコの肩の向こう側、ガードミラーに映る何か。
銀色のトラック。
至近距離。
「的山っ!!」
傘を投げ捨て、マサヒコはリンコの左手を思い切り引く。庇うように体を引き寄せ―――
「きゃっ!?」

プップーッ!

ブロロロロロ・・・・・

「・・・・・・・・・」
二人の数十センチ前を、トラックがかなりのスピードで通り過ぎてゆく。
リンコは呆けたように、マサヒコの腕の中で固まっている。
「大丈夫か、的山」
「あ、う、うん」
リンコは何がどうなったのか、頭の中で整理がついていない。
「ゴメンな」
「えっ?」
「びしょ濡れになっちまった」
そう言われて、リンコは自分とマサヒコが全身ズブ濡れになっているのに気づいた。
トラックがリンコの前を通り過ぎるその時、水溜りから泥水を弾き上げたのだ。
トラックという固体の衝撃を回避することは出来ても、降りかかる液体までは避けきれなかった。
「傘で庇いながらやれば良かった・・・って、それは無茶か」
無茶だ。マサヒコが傘を放るのを一瞬でも躊躇していたら、間に合わずにリンコは大変なことになっていただろう。
その傘を拾うために、マサヒコはリンコから体を離した。
数メートル先で転がっていた傘は、内側も雨と泥で濡れており、何箇所か骨も折れ曲がっている。
もう使い物にならないのは、一目見てわかる。
「的山」
「えっ、な、何?」
リンコはまだ現状に思考が追いついていない様子で、ぼーっと雨に打たれていたが、マサヒコに声をかけられて我に返った。
マサヒコはリンコに近づくと、手を引いて潰れた乾物屋の軒先に誘導する。
「とりあえず、ここに入ろう」

雨は一向に収まる気配を見せない。
二人はビショビショのまま、乾物屋の軒先で雨粒を避けている。
ハンカチやポケットティッシュで髪や制服を拭いたものの、ほとんど効果は無かった。
リンコが制服の裾を、ぎゅっと絞ると、ボトボトと水滴が落ちていく。
スカートも同様に絞り上げる。表面がじわっと滲んだかと思うと、やはり同じように水滴が落ちる。
リンコがその行為をする度に、リンコのお腹が、ふとももが微妙な範囲であらわになり、マサヒコは目のやり場に困る。
(一応、俺も男なんだし・・・もう少し遠慮してやってもらえんもんかなぁ)
じろじろと見るつもりは毛頭無いのだが、やはりそこは男だ。どうしても視線がそちらに行ってしまう。
制服の袖が、ぺっとりという感じで肌にくっついているのが目に入る。
(うっ)
全身濡れネズミということは、制服が体に密着してしまうわけで。
当然、ブラジャーの線も透けて見えてしまうわけで。
アヤナ程凹凸は無いものの、リンコも一応女の子なので、女性特有のなだらかなラインが浮き上がってしまうわけで。
(うー・・・)
無論、それでどうのこうのがあるわけでは無いが、マサヒコにとっては精神衛生上あまりよろしくない。
顔を上げ、空に目をやる。
相変わらず、雨は強く降り続いている。

マサヒコは、リンコが肌がちらちら見えてもお構いなしに服を絞り上げるのは、
こちらを気にしていないからこそ出来るのだ、つまりは天然ゆえの行為だと考えていたが、実際は全く違っていた。
リンコはもの凄く緊張していたのだ。

『ゴメンな』
さっき、マサヒコがリンコを交通事故の危機から救ってくれた後の第一声が、それだ。
普通なら、『気をつけろ、バカ!』という叱責の言葉か、『大丈夫か?』という安否を問う言葉が最初のはずだろう。
だけど、マサヒコの口から出てきた台詞は、『ゴメンな』。
そして、『びしょ濡れになっちまった』。
頭から水を被ってしまった責任は、マサヒコには無い。トラックの、いや、元を辿れば急ぎすぎたリンコにある。
何故、マサヒコが謝らなければならないのか?そんな必要はどこにも無いのに?悪いのは、自分なのに?
言わばマサヒコは命の恩人だ。マサヒコが手を引いて抱き締めてくれなけば、今頃は―――
(・・・!)
リンコは急激に頬に血が上るのを感じた。同時に、心臓が早鐘を打つようにドキドキしてくる。
(そうだ、小久保君に・・・抱き締められたんだ)
以前、コンタクトを無くして、マサヒコに家まで送ってもらったことがある。
足を挫いた自分を、マサヒコは文句も不満もそこそこに背負ってくれた。
さらには、無邪気に真正面から抱きついても、『やっぱやめようぜ』と言いながらも、受け入れてくれた。
あの時は、こんな気持ちにならなかった。
『気にすんなよ』『友達だろ?』ああ、何て小久保君って優しいんだろう、とは思ったが、こんなにドキドキはしなかった。
だけど、今は、とっても胸が苦しい。
何が違うというのだろう。あの時と、今と。

スカートを大袈裟に捲くりあげ、絞る手に力を込める。そうやってオーバー気味に体を動かしていないと、
心が落ち着かない。頭がショートしてしまいそうだ。

雨は降り続く。なお強く。
二人は無言。雨音と、時折通り過ぎる車のエンジン音のみが、周囲を支配、構成している。
どれくらい時間が経ったのだろうか?少なくとも、二十分は越えているに違いない。
(止みそうにないな・・・)
いつまでもここでこうしているわけにはいかない。
雨に濡れた体のままでは、間違いなく風邪をひいてしまう。
意を決したマサヒコは、リンコにすっと右手を差し出す。
「行こう、的山・・・このままじゃ埒があかない」
リンコは少し躊躇ったあと、マサヒコの右手に自分の左手を重ねた。
治まりかけた動悸が、また始まる。
前後左右を見回し、車が来ないことを確認する。そして、
「こけるなよ、的山。・・・いくぞ」

走り出すマサヒコ、着いて行くリンコ。
バシャバシャと靴が水溜りを踏みつけ、その度に泥水が跳ねる。
雨粒が勢い良く顔面にぶつかってくる。
(わわわわわ)
メガネのレンズが水滴に侵され、リンコの視界が急激に狭まる。不安を感じ、足元も覚束なくなる。
(あ、あ、あ、こけ、こけちゃう)
前のめりになり、崩れ落ちそうになった瞬間、グイッと体が引き上げられる。
「え?」
マサヒコが一度手を離し、腕を組むような形に持ち替えて、体勢を立て直してくれたのだ。
「もう少しだ、的山!お前ん家が見えてきた!」
強い雨音の中、何故か不思議にマサヒコの声が耳に届く。腕を通して、マサヒコの体温を感じる。
メガネは水が張り付き、全く何も見えない状態だ。だけど、さっきの不安感は無い。足も素直に前に出る。
(ああ、小久保君が私を引っ張ってくれてる)
そう思うだけで、リンコは走ることが出来る。

門を入り、ポーチに飛び込み、鍵を取り出して扉を開け、玄関に入る。
そこでようやく息をつく。
「はぁ、はぁ、はぁ」
「ふぅ、ふぅ、ふぅ」
大きく深呼吸を繰り返すだけで、お互いにしゃべることが出来ない。
息を吐き、吸う音だけが、玄関に響く。
この状態から、いち早く回復したのは、男のマサヒコの方だった。
「ふぅ、的山、早くバスタオルで体を拭いてこい。風邪ひくぞ」
『バスタオルを持ってこい』ではなく、『拭いてこい』という辺りに、マサヒコの人の良さが表れている。
「う、うん。ここで待ってて、小久保君の分も持ってくるから」
そう言ってリンコは靴を脱ぎ、お風呂場へと向かった。

まずメガネに付いた水滴を拭い取ると、髪の毛と顔をぐしぐしとタオルに擦り付ける。
すぐにでも服を着替えたいところだが、そうはいかない。とりあえず靴下だけを洗濯機に放り込む。
風呂の蛇口を捻り、お湯を出す。濡れて冷え切った体を温める必要がある。
そして、新しいバスタオルを引っ張り出すと、マサヒコに渡すべく玄関へと戻る。
だが。
「あっ・・・!?」
玄関には誰の姿も無い。慌てて扉を開けて、素足のままで表に出るが、そこも同じく、人の影を確認することは出来ない。
「あ・・・・!」
リンコはさらに驚いた。さっきまで、あんなに降っていた雨が、何と今はパラリパラリ程度の小降りになっている。
風呂場に行き、バスタオルで頭と顔を拭き、靴下を脱ぎ、お湯を出し、もう一枚バスタオルを用意する。
このわずか一分から二分弱の間に、天候が回復したというのだろうか。
そしてマサヒコは、雨脚が弱まったのを知り、今が機と思って、バスタオルを待つことなく出て行ったのだろうか。
(そんな、小久保君・・・!)
リンコの目の端に、涙が溜まっていく。
(これじゃ、これじゃ、私は小久保君に迷惑をかけただけだよぉ・・・)
トボトボと玄関に引き返すと、靴が揃えられているのが目に入る。
それは、さっきまで履いていた靴。上がる時に脱ぎ散らかした靴、ベショ濡れになっている靴。
それが、丁寧に、揃えられて玄関の隅に、ちょこんと置かれてある。
誰がしてくれたかなんて、考えるまでも無い。
(う、う、ううう・・・)
溜まった涙が、頬を伝って流れ落ちていく。

(ごめんなさい。本当にごめんなさい。ありがとう。ありがとう・・・小久保君)

次の日。
リンコは風邪をひくこともなく、元気に登校出来た。
マサヒコの方は若干体調を崩したようで、鼻をすすりながら教室に入ってきた。
リンコはとにかく謝った。ひたすら謝った。
マサヒコの返答は、
「気にすんな。友達だろ」
またしても泣きそうになるリンコ。一時限目開始のベルが鳴らなければ、本当に泣いていたかもしれない。

「はー、やっと終わった」
マサヒコは肩で息をついた。
下校直前に豊田先生に捕まり、今まで書類運びを手伝っていたのだ。
どうにかこうにか運び終え、さっさと帰るべく、下駄箱から靴を取り出す。
「あれ、小久保君?」
不意に背後から声をかけられる。
振り向くと、そこにはいつもの三人組が。
「ん?天野に若田部に・・・的山、どうしたんだお前ら」
「私は若田部さんの生徒会の仕事を手伝ってたの。リンコちゃんは図書委員で残ってたみたい」
ミサキが笑顔で事情を説明する。そして、至極流れに沿った提案。
「今から皆で帰るところなんだけど、小久保君も一緒に帰らない?」
マサヒコとしては断る理由は無い。
いいよ、と言おうとしたその時、

パラ、パラ、パラ・・・

雨が落ちてくる音。
(げ、マジかよ・・・今日こそは降らないって言ってたじゃねーか!当てになんない気象衛星だな)
マサヒコの怒りは、気象予報士を通り越し、遥か空の上に浮いている衛星に向けられた。
連日で予報が外れれば、まあ無理も無い。
(あ、傘、持ってきてねぇ・・・)
折り畳み傘は昨日壊れてしまった。今日は降らないと思っていたので、当然新しい傘は持ってきていない。
マサヒコが傘を持っていない。雰囲気でそれを察した、ミサキとアヤナが鞄から折り畳み傘を取り出し、同時に口を開く。
「小久保君、傘が無いんなら―――」
「私、傘持ってるけど―――」

バサッ
もう一人の女の子の傘の音が、二人の台詞を遮る。
「はい、小久保君。一緒に帰ろ?」
リンコはそう言うと、微笑んで傘の右側のスペースを空ける。
「昨日のお礼・・・だよ」
リンコの頬にうっすらと赤みが差す。
ミサキとアヤナは突然のリンコの行動に驚いたのか、身動きひとつ出来ずに固まっている。
マサヒコはそんな二人とリンコを交互に見て、何か言おうとして、やめた。
少なくとも、二日続けて濡れて帰るのは勘弁。であれば、リンコの誘いを受けるべきだろう。
マサヒコは少し頭を下げて、リンコの傘の下に収まる。
「でも、いいのか?お前、家に帰るのにえらい時間がかかるぞ」
「うん。ちょっと道草したって考えれば、何でもないよ」
楽しげに会話しながら、下駄箱を出て行くマサヒコとリンコ。

後には呆然とするミサキとアヤナが取り残されて―――
「な」
「な」
「「なんなのよーっ!?」」
ハモった叫びに、校内放送が重なる。

♪ピンポンパンポン
『閉門時間まであと一時間です。校舎に残っている生徒は、各役員、当番以外は速やかに下校して下さい』
ピンポンパンポン♪

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