作品名 作者名 カップリング
ツーショット アヤナ編 ピンキリ氏 アヤナ×マサヒコ

マサヒコの攻撃!
魔人テキトーに48のダメージ

魔人テキトーはイミフメの呪文を唱えた!
マサヒコは炎につつまれた
マサヒコは122のダメージをうけた

マサヒコは回復薬を使った
マサヒコのHPが100回復した

魔人テキトーはドーデモエの呪文を唱えた!
マサヒコはマヒした

マサヒコは動けない!

魔人テキトーの攻撃!
強烈な一撃!
マサヒコは201のダメージをうけた

マサヒコはマヒしている

マサヒコは動けない!

魔人テキトーはアホラシーの呪文を唱えた!
マサヒコは雷にうたれた
マサヒコは158のダメージをうけた

マサヒコは死んでしまった・・・

マサヒコはゲーム機のコントローラーを持ったまま溜め息をついてうなだれた。
「倒せねーよ、コイツ」
先程から中ボスの魔人がどうしても倒せない。何度かやり直してはいるが無理なようで、どうやらまだレベルが足りないらしい。
マサヒコはせっかちでは無いが、ゲームに関しては少しばかり向こう見ずな傾向があるようだ。
単調なレベル上げが面倒くさい、という理由もあるかもしれない。
テレビのモニターには、真っ黒な背景に『セーブ地点からロードしますか?   >はい  いいえ』の文字。
(やっぱり地道にどっかのダンジョンでレベルアップしよう)
そう考えて、マサヒコは『はい』にカーソルを合わせ、決定ボタンに親指を置いた。
と、その時。

グゥ〜・・・

間抜けな音の発信源はマサヒコのお腹。
学習机の上に置いてある時計を見ると、【PM2:03】と表示されている。
魔人を倒そうと繰り返しプレイしているうちに、昼食の時間を忘れてしまっていたようだ。
ついでに言えばマサヒコは朝も食べていない。腹も減るはずだ。
今日は小久保家はマサヒコ以外誰も居ない。
父は休日返上で京都へ出張、母は高校時代の親友が骨折して入院したとかでお見舞い。
つまりお昼御飯は自分で作るか調達するか、どちらかしかない。
(確か、インスタントラーメンが残ってたはずだよな・・・)
一休みにも丁度良いタイミングかもしれない。画面上のカーソルを『いいえ』に動かす。

♪ピンポ〜ン

決定ボタンを押すのと、玄関のチャイムが鳴ったのはほぼ同時だった。

玄関のドアを開ける。ふわりと家の中に入りこんでくる外の空気。そして、そこに立っていたのは―――
「ん」
携帯のストラップを手にした、深い紅茶色の長い髪の少女。
「・・・若田部?」
「この前庭の草むしりを手伝ってくれた時に失くしたって言ってたでしょ。買い物ついでに届けに来てやった」

事は十日程前。
いつものようにいつものメンバーで、学校帰りに公園でジュースを飲んでいた時。
マサヒコの「早く一人暮らししてみたいですよ」という発言が発端となり、
そこから一軒家とマンションの違いについての話に発展。なんだかんだと会話が進んだ結果、
ミサキ「庭の手入れが大変だって母が言ってました」 ⇒ 
アヤナ「私の家も広いから草むしりが大変なんです」 ⇒
リョーコ「それなら今度の日曜日に手伝いに行きましょうか。・・・もちろん皆で」
という、一人暮らしとは全然関係無いところに着地してしまった。
それで次の日曜日に若田部邸に集合したわけだが、
リョーコは二日酔いで使い物にならず、リンコはいきなりコケて眼鏡を割ってしまい戦線離脱、
アイに至っては前日リョーコに酒のツマミとして食べさせられた消費期限切れのチーズに中り、
腹痛を押して参加したものの門の前でぶっ倒れ、救急車で運ばれる始末。
結局マサヒコ、ミサキ、アヤナの三人で取り掛かるしかなく、一生懸命やってはみたものの、
たった三人では広い若田部邸の庭の草を全てむしりきれるわけがないのは明白で、お昼過ぎの時点で達成状況はたったの30%。
このままではハゲチョロの庭になってしまう、と判断したアヤナが最終手段に出た。すなわち、若田部一家に出陣要請を出したのだ。
貴重な休日をベッドの中で謳歌していた若田部父を叩き起こし、
若田部兄の合コンの予定を無理矢理キャンセルさせ、
さらには若田部母まで担ぎ出し、何とか全てむしり終えたのは太陽が半分程沈んだ時だった。

マサヒコの脳裏には、「・・・やっぱり業者に頼むべきだったかしら」という、若田部母の乾いた台詞がまだこびりついている。
「・・・すまなかったな、あん時」
責任の半分以上はリョーコにあるので、マサヒコが謝る必要は無いのだが。
「別にいいわよ、もう。それより、これで二度目よ。もう失くさないようにしなさい」
「ああ、わかった。ありがとう」
マサヒコはアヤナから携帯ストラップを受け取―――ったその時。

グゥ〜・・・

さっきよりも一段と大きな音。アヤナが目を丸くする。
「ああ・・・今日何も食べてないんだ・・・ハハ」
空腹のためか、照れ笑いにも少し力が無い。
「誰も家に居なくてさ、それに朝からずっとゲームに熱中してたもんで」
アヤナは首を左右に振って、あきれたという表情をする。
「何それ、生活力無さすぎよ」
マサヒコは反論のしようも無い。その通りだと自分でも思う。
「いや、インスタントラーメンでも食べようと思って今ゲームやめたところなんだ」
「インスタントラーメン?ますます不健康ね」
おっしゃる通りである。ポリポリと頭を掻き、あらぬ方に目をやってごまかすことしか出来ないマサヒコ。
(情けないな、俺)
・・・苦笑しながらマサヒコが視線を戻すと、目に入ったのは、アヤナが顎に手を当てて俯き加減で考え込んでいる姿。
「・・・どうした?若田部」
その言葉に反応するかのように、アヤナは顔を勢いよく上げた。
「よし、私が作ってあげるわ、昼御飯を。草むしりのお礼に」

キッチンからは包丁を動かすトントンという音、鍋で煮込むグツグツという音が聞こえてくる。
音だけでなく、同時に、美味しそうな匂いがマサヒコの鼻に届く。
(うーん・・・やっぱり若田部に迷惑じゃないかなあ)
腹を空かせた食べ盛りの若者であれば、この状況なら『どんな料理かなあ』と考えるはずだが、
そこはマサヒコ、まだアヤナへの申し訳なさが思考の一番手を走っている。

「私が作ってあげるわ」とアヤナが言った時、マサヒコは即座に断った。
迷惑をかけ、さらに落し物まで持ってきてくれたのに、この上料理までさせては男が廃るというものだ。
だが、即断即決、思い立ったらすぐ行動を信条とするアヤナはマサヒコの断りの返事を撥ね付けた。
「何?私がいいって言ってるんだからいいのよ!」
そう言うと家の中へ上がっていくアヤナ。
靴を脱ぐ時に「おじゃまします」の言葉を口にしたのは、さすがに良家の子女というところか。
家の中に入ってゆく姿を半ば呆然としながら見送るマサヒコだったが、
奥から「キッチンはどこ?エプロン借りていい?冷蔵庫も開けるわよ?」
と立て続けに質問されては、アヤナを止めることを断念せざるを得なかった。
キッチンにアヤナを連れてゆき、申し訳ない気持ちから「俺も手伝うよ」とは言ってはみたものの、
「邪魔になるからいいわよ」
の一言でダイニングへ追いやられてしまった。面目も立つ瀬も何もあったものではない。
こうなっては腹を括るしかないわけで、おとなしく料理が出てくるのを待つマサヒコであった。

「はい、どうぞ」
「・・・・・・」
出てきた料理を目の前にして、マサヒコは言葉を失った。
ホワイトソースがかかったミニロールキャベツ。
玉葱とシーチキンのサラダ。
微塵切りの各種野菜が入った豆乳のコールドスープ。
半熟状のスクランブルドエッグが乗ったベーコンのオムライス。
デザート用と思われる、丁寧に切り分けられたリンゴまである。
アヤナが料理が上手だということはミサキやリンコから聞いてはいたが、これ程までとは思わなかった。
冷蔵庫の残り物や冷凍食品からどうやってここまで作り上げたのか、マサヒコからすればまさに手品だ。
料理から立ち上る香りがマサヒコの食欲を擽る。
申し訳ないと思う気持ちはどこへやら、「いただきます」の言葉もそこそこに、ロールキャベツに齧り付く。

(・・・・・・・・・!)
美味い。滅茶苦茶美味い。
某料理アニメなら、押し寄せる大波をバックに大量の涙を流しつつ口からビームを出すところだ。
マサヒコの母も結構料理が得意な方であるが、その母とどっちかという程美味い。
ゆっくりと味わいながら咀嚼し、胃袋に収める。一息ついて、そこで初めて言葉を口にする。
「若田部・・・すんげぇ美味い」
「本当?良かった!」
アヤナの顔がパアッと明るくなる。アヤナも自身の腕前にはそれなりに自信を持ってはいるが、
マサヒコの口にあうかどうかはさすがにわからなかったのだろう。賞賛の言葉を耳にして嬉しそうに微笑む。
マサヒコはそんなアヤナを見て思わずハッとする。
(ああ、いつもはツンツンしててプライドが高そうで取っ付き難いように見えるけど・・・若田部も女の子なんだ)
箸を止めてアヤナに微笑み返すマサヒコ。心の底からの、優しい笑顔。
今度はアヤナがドキッとする番だ。
(な、何よ、その表情は・・・)
「わ、笑ってないで食べたら?」
「ああ、そうだな・・・うん、このサラダも美味しい」
「と、当然よ」
やたらと胸がドキドキしている。頬に血がのぼるのがわかる。褒めてくれて嬉しいのだけれど、それだけじゃない感情。
「若田部ってさ」
「・・・・・・」
そこで区切り、マサヒコはオムライスを口に運ぶ。もぐもぐと口を動かし、喉の奥に流し込んで一言、
「いいお嫁さんになれるよな」
「!!」
アヤナ、オムライスにかかっているケチャップのように真っ赤に。

カチャ、カチャ
アヤナは無言で皿を洗っている。まだ顔が何か火照っている気がする。
『若田部ってさ・・・いいお嫁さんになれるよな』
ガチャッ!
食器が荒々しい音をたてる。
さっきのマサヒコの言葉が脳内でリフレインされ、思わず手落としそうになり、慌ててキャッチしたのだ。
(な、何よ・・・何が『いいお嫁さん』よ・・・)
幼稚園児じゃあるまいし、今更『お嫁さん』に憧れる程ウブでは無い。
今は確固たる目標こそ無いものの、将来は男に負けないくらいにバリバリに仕事をしたいと考えている。
それでも。
マサヒコの笑顔と『お嫁さん』発言は、アヤナにとってかなり破壊力があった。
『若田部ってさ・・・』
また先程のやりとりが蘇ってくる。再び頬に赤みが差す。
(う、ううううう・・・)
手が止まる。クールなように見えても、根っこの部分では結構純なアヤナなのだった。

「終わったわ」
洗い物を終えて、マサヒコの前に戻ってきた時、アヤナはいつもアヤナだった。
ここらへんの自制力、落ち着きを取り戻す力はさすがというべきか、それとも損な性分というべきか。
「ああ・・・ホントごめんな。洗い物までさせちまって・・・」
「いいのよ、別に」
「まぁ、座ってくれよ。お茶くらいは俺が淹れるさ」
そう言ってマサヒコはポットからきゅうすにお湯を注ぐ。
湯のみを手に、しばらく押し黙る二人。
マサヒコはリラックスした表情で、アヤナはやっぱり幾分か緊張した表情でお茶をすする。

湯のみのお茶が残り少なくなったころ、マサヒコが先に口を開いた。
「若田部」
「ん・・・?」
「今日はホントにありがとうな」
「・・・別にいいって何度も言ってるでしょう」
ポリポリと頬を掻くマサヒコ。そして、さっきと同じ笑顔で、
「うん。それでも、ありがとう」

・・・・・・ボッ
真っ赤。完全に真っ赤。大炎上。
心拍数が上がる。胸の動悸がはっきりと自分の耳に聞こえてくる。むしろそれ以外の音は感知出来ない。
(なっ、なっ、なななな、何なのよ、何なのよコレ)
マサヒコはお礼を言っているだけだ。それなのに、何故頭がぼうっとしてくる?
「・・・べ」
何故喉の奥が熱くなる?
「・・・たべ」
何故こんなに苦しくなる?
「・・・かたべ」
(わからない、わからない・・・)
「若田部!」
(わから・・・!?)
「な、何ッ!?」
凄まじいまでに間抜けで素っ頓狂な声。マサヒコがきょとんとした顔でアヤナを見つめる。
「突然黙り込んだり赤くなったり・・・おい、大丈夫か?」
「だっ、大丈夫って大丈夫に決まってるじゃない!」
アヤナは無理矢理意識を引き戻すと、グイッと残ったお茶を流し込み、机にタンッと湯のみを置く。
そしてふぅと一息つくと、
「・・・帰る」

マサヒコはアヤナを門まで見送りについていった。
「若田部、ありがとうな」
一体、今日何度目の『ありがとう』だろう?
「だから、もういいって・・・」
これも、何度目の『もういい』だろう?
正確なところはお互いにわからなくなっている。別に数えていたわけではないのでどうでもいいことだが。
「じゃ、また明日な」
マサヒコが笑う。
(あれ・・・)
アヤナは突然寂しさを感じた。『また明日』ということは、今日はもう終わり、ということ。
当たり前のことのはずだが、それが、何故こんなに寂寥感を誘うのか。
胸の奥に何かが澱んでたゆたっている。だけど、それを表現する術も、それが何なのか理解する術も今のアヤナは持たない。
「・・・さよなら、小久保君」
「ああ、さよなら、若田部」
軽く手を上げて、マサヒコの前からアヤナは身を翻し―――

チョロッ・・・

門柱の手前、アヤナの足元の数センチ先に、何かが踊り出た。胴体が黒くて、細長くて、足がいっぱいあって・・・。

「き・・・きゃぁああああああああああああああああっ!!!!」

ガバッ!
「うわあ!」
マサヒコの首筋に抱きつくアヤナ。
「ム、ム、ムカデーッ!」
「お、落ち着けっ若田部!こんな町の中にムカデなんているわけがあああああ」
ドシーン!
マサヒコは抱きつかれた勢いで後方に尻餅をつく。
「いや、いやぁー」
アヤナは錯乱状態だ。ぎゅっと力を込めてマサヒコに一層しがみつく。
(う、うわ)
マサヒコの鼻の下にアヤナの頭がある。
そして胸からお腹あたりに感じる、柔らかい感触。
「わ、若田部離れろ、お前、その、む、胸が」
さらにその下、マサヒコの太腿にはアヤナの足が絡められて、スカートがたくし上げられ、
白い肌とピンク色の何かがマサヒコの目に入り―――
「うわわ、わかわかわか、若田部、お前、そ、その、パ、パンツが、おい」
しかし、マサヒコの声はアヤナの耳には届いていない。
「うぅ、うっ、うっ、いやあ・・・・・・」
アヤナはついに泣き出した。マサヒコの胸の中で。

(ど、どうすりゃいいんだ)
無理矢理引き剥がすべきか、それとも逆に抱きしめて落ち着かせるべきか。
マサヒコとしては後者は選べない。そんな器用なこと出来るわけが無い。
とりあえず、体を離して、それから話をしよう。
そう決めて、アヤナの肩に手をかけたその瞬間。
(・・・ん?)
突然マサヒコの視界に影が差す。太陽とマサヒコの間に何か遮蔽物が入ってきたのだ。
(何だ?)
マサヒコがゆっくり顔を上げると、そこには。


回覧板を手にした、天野ミサキが。

何とも表現し難い表情で。

立っていた。

「や・・・やあ・・・ハ、ハハハ、ハ、ハ・・・」
手を上げて挨拶する。
ミサキは答えない。ミサキの視線が下に動き、アヤナに向けられる。
震えて、涙を流して、スカートが捲り上げられてショーツが見えているアヤナが、今自分の胸の、腕の中に。
(・・・・・・・・・う゛)
以前、ミサキのパジャマを直そうとして丁度アイ達に踏み込まれた時と、
全く同じ冷たい汗が、背中を一滴、二滴、三滴と流れていく。
数秒の間。
ゆっくりと、ミサキの周囲に湯気というかオーラのようなものが立ち上っていくのをマサヒコは感じた。
ミサキの腕が、回覧板を持ったまま、振り被るように持ち上げられて―――


ミサキがあらわれた!

マサヒコは不意をつかれた!
マサヒコは動けない!

ミサキの攻撃!
強烈な一撃!
マサヒコは10000000のダメージをうけた

マサヒコは気絶してしまった・・・


セーブポイントには・・・戻れません。

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