作品名 作者名 カップリング
「ユレルキモチ〜前編〜」 ナット氏

アヤナの家に行ってから4日が過ぎた。
学校ではお互い気まずいのかほとんど言葉を交わさない。
そんな二人の様子を見たミサキがマサヒコに声を掛けた。
「ねぇ、マサちゃん、若田部さんとケンカでもしたの?」
「いや、そういうわけじゃないけど・・・」
「?」
ミサキは首をかしげた。そしてマサヒコの顔を覗いた。
マサヒコは顔を背け、視線をずらした。目をあわせないように。

あの日以来、ミサキまで今までとは同じようには見えなくなっている。
いまだに自分が誰を好きなのかがわからない。
人としてスキかどうかで見ればアイなども含まれてくる。
だが、恋愛対象と見ると、その境界線があやふやになってしまう。
どこからが異性としてスキというラインなのか。

また、そのラインを超えているのは誰なのか。

「マサちゃん?」
ミサキが自分の方を向かせようと肩に手を置いた。
だが、マサヒコは突然なことだったのでその手を払いのけてしまった。
「!?」
ミサキは払いのけられた手を引っ込めた。
マサヒコは振り返り、自分のした事に気付いた。
「ご、ごめん。」
「ううん、大丈夫・・・
 私こそ、おせっかいだったね・・」
うつむき、悲しげな表情を見せた。
「それじゃあ、私帰るね。」
ミサキの後姿が遠ざかっていく。
マサヒコは掛ける言葉が見当たらず、ただ見送ることしかできなかった。
数分後、マサヒコは荷物をまとめ、教室を出て家路についた。


家に着き、自分の部屋に入ると、アイがそこにいた。
「や、マサヒコ君。今日は遅いじゃない。」
「先生が早いんですよ。」
いつもなら5分前ぐらいに来るのだが、今日はいつもより20分も早い。
「なんで今日、こんなに早いんですか?」
「うん。なんかここんとこマサヒコ君元気なかったからさ、一緒に散歩でも行こうと思って。」
散歩なんて気分じゃなかったが、アイのその独特の雰囲気に流されマサヒコは行くことにした。

学生服を着替え、アイとともに外へと出た。
秋も深まり、空気は冷え、風が冷たく感じる。
「うぅ〜、さむい〜〜。」
「散歩しようって言ったの先生じゃないですか。」
「それはそうだけど・・・」
「で、どこ行くんですか?」
「その辺の公園」

歩いて数分のとこに公園はある。昔よくミサキや近所の友達と遊んだ場所だ。
季節のせいか、それとも少子化やゲームの普及のせいか誰一人遊んでいない、さびしい光景。
だが植えてある木は秋に色づき、花の美しさとは違う魅力を出している。
そんな木々の間に設置されたベンチに2人は腰を下ろした。
「どう、マサヒコ君?」
「綺麗、ですね。」
「来て良かった?」
「はい。」
アイがカバンから小さな水筒を取り出し、中の飲み物を蓋へと注いだ。
周りの色合いにはちょっと不似合いな緑茶がもうもうと湯気を上げた。
「寒いでしょ。飲む?」
「あ、はい、いただきます。」
蓋を受け取り注がれた緑茶を口の中へ流し込む。
「ふぅ〜」
「どう?」
「あったかいです。」
緑茶もだが、こんなことをしてくれるアイの心遣いが暖かかった。


「それで、どうしたの?」
「え・・・。」
「最近元気が無い理由。
 何か悩み?私でよければ相談して。」
マサヒコはアイに相談すべきか悩んだ。
だが、これは自分自身の問題。
今他の女性に頼ってしまったら余計にわからなくなる。
それはある意味自分の弱さも認めていた。

「・・・・すみません、これは自分自身の問題なんで・・」
「そう・・・ ・・・でも君の事心配する人がここにも居るってことだけでも覚えといて。」
そう言いアイは微笑みかけた。
マサヒコはその笑顔でなにか気持ちが癒されたような気がした。
そして手に持っている蓋の中のお茶を一気に口の中に流し込んだ。
そのときだった。
「ックシュン!!」
マサヒコの視線がアイから外れているときだった。
突然の大きな音に驚き、のどを通そうとしたお茶が気管へと流れ込んだ。
「!? げほっ、げほっ・・・」
「マ、マサヒコ君、大丈夫!?」
「だ、大丈夫です。 すいません、俺ばかりあったかいもの飲んで」
「じゃあ代わりにマサヒコ君の熱いのを・・・」
「・・・・・・・・」
「じょ、冗談よ、冗談。」
マサヒコはアイに蓋を返した。いそいそと水筒に蓋をし、カバンにしまった
「そ、それじゃあそろそろ時間だから帰ろっか。」
『なんでこのひとは最後の最後でこういうオチつけるかなぁ・・・』



翌日、登校時にマサヒコはミサキを見かけた。
「ミサキ!」
「あ・・・・、マサちゃん、おはよう・・・」
それだけ言いミサキは振り返り、再び歩みを始めた。
「あ、ちょ、」
マサヒコは昨日ミサキがしたみたいに肩に手をやった。
「・・・なに」
ミサキは再び振り返りマサヒコを見つめた。
マサヒコはまた視線をそらしそうになった。
だが、今度は逃げない。それが昨夜決めたことだった。
「昨日は、 ごめん。」
頭を深く下げ、ただ一言。だがその一言の重みは昨日とは違う。
自分の身勝手さで気遣ってくれている人を傷つけてしまったから。
そして、気遣ってくれる人の大切さに気付いたから。

「・・・・よかった。」
「えっ・・」
「このところマサちゃんの様子変だったから、昨日のことで嫌われてないか心配だったから・・」
「・・・お前のこと、嫌いになるわけ無いだろ。」
「マサちゃん・・・」
2人は一緒に学校へと向かった。

「ねぇ、マサちゃん。」
朝仲直りしてマサヒコはミサキとは普通に話せるようにはなった。
このところあまり会話らしい会話をしてなかったせいか休み時間毎にミサキが話しかけてくる。
そして仲良く話していると他方より鋭い視線のようなものがマサヒコに突き刺さる。
その発生源をマサヒコは解っていた。
若田部アヤナである。
アヤナは待たされて5日目。その間に他(しかもライバル)の女の子と仲良くしているところを見せられて内心穏やかでいられるはずが無い。
殺意にも似たようなのをマサヒコは感じていた。
だがマサヒコがアヤナのほうを向くと、向こうが顔を背けてしまう。
なんとなく避けられているような感じだ。


「マサちゃん、今日家に寄ってって。」
「ああ、わかった。」
突然誰かがガタンッと音を立てて勢いよく立った。
ミサキとマサヒコが音のほうへ目をやるとアヤナがこっちではないが何かを睨みながら立っていた。
よく見ると小刻みに震えているようだ。
そして何事も無かったかのように座った
「じゃ、じゃあ、帰りに」
「う、うん」

「ただいまー」
「おかえりー。あら、マサヒコ君久しぶりじゃない、遊びに来るの。」
「あ、ええ、お邪魔します」
ミサキの家へと上がり部屋へ案内される。
昔から家具の配置はあまり変わって無いようだ。
「なんか久しぶりだな、お前の部屋。」
「そうだね。」
小学校以来だろうか、昔と変わらない雰囲気が2人を包む。
「・・・ねぇ」
「ん?」
「若田部さんと、なにがあったの?」
「・・・なんで?」
「このところ2人とも、なにか変だったから。」
「・・・・・・・」
「言いたくなければ言わなくていいよ。」
「・・・・若田部に告白された。」
「!?」
ミサキからしてみればまさに寝耳に水なことであった。
「・・・付き合うことになったの?」
「いや、まだ返事してないんだ。」
「なんで?」
「・・・俺、若田部のこと嫌いじゃないんだ。でも、好きかって言われると・・」



2人を沈黙が包む。
部屋に響くのは時計の秒針が時を刻む音と、ミサキの母が料理をしているのか何かを刻む音だけだ。
数分間の後口を開いたのはミサキだった。
「・・・・待たされるのは、つらいよ。」
下を向いていたマサヒコはミサキの方を見た。
「たとえどんな答えでもいいから、それがマサちゃんが決めたことなら・・・」
「ミサキ・・・」
「わたし、ずっと前から、マサちゃんと一緒に居るけど・・・
 近すぎるのかな・・ そういう風に見てもらえないのかもって最近思うようになってね・・・」

「・・・・・ごめん」
「なんでマサちゃんが謝るの?」
「いや、自分が馬鹿だと思ってね。」
「?」
マサヒコの中で何かが吹っ切れた。なぜこれほどに悩むワケがあったのか。
「ミサキ」
「なに?」
「明日、俺の家に来てくれ。」
「・・・うん、わかった。」
マサヒコはカバンを持ち、立ち上がった。
「それじゃあ、俺そろそろ帰るな。じゃあ、明日」
「うん、じゃあね」
ミサキは玄関までマサヒコを見送った。

マサヒコは自分の部屋に着くなりカバンをその辺に投げ、ベッドに倒れこんだ。
なぜ答えに悩んでいたのか。
2人とも好きだからか。
そうではない。2人の気持ちを知っていたからこそ、どちらかを取ればどちらかが悲しむ。
その、人を傷つけるということを恐れていた。
だが、いつまでも待たせることのほうが相手にとってつらいということがわかった。

「俺が好きなのは・・・」



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