作品名 |
作者名 |
カップリング |
『未知との遭遇』 |
ミセリ氏 |
ミサキ×マサヒコ |
第1話 はじまりの朝
夢を見ていた。
俺にしてはめずらしく、これは夢だとはっきり感じとれる夢。
目の前にはお馴染みの奴が、ただしずっと昔の姿で座っていた。
ぬいぐるみを抱いていたお隣さんの少女――天野ミサキは無邪気な笑顔を浮かべ俺に語りかける。
「マサちゃん」
「私将来のオムコさんもう決めてるんだ」
「それはね――……」
夢はそこで終わった。
視界が暗闇に変わり、そこから徐々に明るくなっていく。
なんで今更こんな夢を見たんだろう。
あれは間違いなく実際にあった出来事だった。でも――
天野はあの後なんて言ったんだろう?
パパと言ったように思っていたのだが、ひょっとしたら記憶違いじゃないのか、と今になって思う。
もっと全然違う誰かの名前が出たような気がするのだ。
そんなことを考えているとふと気づいた。
右腕が重い。
何かが腕に乗っている。
この重さ、この温度、これは布団じゃなくて……人間?
この感覚は以前、合宿のときに一度感じたことがある。
目を開ける。顔を右に向ける。
すやすやと気持ちよさそうな寝顔で俺の右腕を枕にしていたのは、
あ、あ、
「天野ぉぉぉおぉおおぉぉっっっ!!??」
全身の血が沸騰する、心臓は機関銃と化した。
飛び起きる、飛び跳ねる。ベッドから転げ落ちた、痛い、そんなこと言ってられるか。
なんとか体勢を立て直して視線をもう一度ベッドの中の人物に向ける。
「ん……マサちゃん……?」
なにやらつぶやいてがさごそと動き出した。
今の音で目を覚ましたようだ。まずい。なんだかわからんがとにかくマズイ。
しかしどうすればいいのかまったくわからない。
気が付けば俺は天野の首から下、素肌の見える部分を凝視していた。
布団に隠れてよく見えないが、ひょっとして天野、服を着ていないんじゃないのか。
そういえばさっき俺の腕に乗ってた感覚は人間の肌そのものだったような気がする。
おいおいこれって一体……
そんな俺の混乱など知るよしもなく、天野はとうとう起き上がった。
目をこすりながら布団から出てきたその姿は、正真正銘、間違えようはずもなく、
生まれたまんまの姿、つまりはすっぽんぽんだったのだ。
「あまっ、おまっ、おまえっっ、服っ!服!」
眠そうな顔を少し傾け、天野はワンテンポ遅れて反応した。
「服……? 服がどうかしたの?」
「いいから服着ろ服っ!!」
大慌てでそう言うと天野は突然噴き出した。
「あははっ、どうしたのよ〜マサちゃん? 自分だってスッパダカのくせに〜」
「……は?」
今の今まで気付かなかったというのか。目線を自分の体に落とすと、
そこには見事なまでに丸出しの下半身があった。もちろん大事なところも丸見えである。
「〜〜〜〜〜〜っ!!」
ただでさえ熱くなっていた顔がますます加熱していく。
おそらくタコも同然の赤色に染まっていることだろう。
……OK、落ち着いていこう小久保マサヒコ。
状況を冷静に分析するんだ。
まず俺と天野はスッパダカだ。
天野は俺の腕を枕にし、二人でひとつのベッドを寝床にしていたのだ。
ここから導かれる結論はただひとつ。
“昨夜天野はホラー映画を見て怖くなり、誰かと一緒に寝ようと思い俺の布団に潜り込んだ――”
我ながら素晴らしい推理だ。一片の矛盾も見当たらない。
「んなわけあるかーー!!」
現実逃避にはげむ理性に対し、ツッコミ気質という名の本能が爆ぜた。
ワケわかんねえ、それが結論だ。
「ど、どうしたのマサちゃん……?」
天野が心配そうな顔で覗き込んでくる。
しかし俺の目は顔より体に釘付けだった。
白い。そしてきれいだった。やわらかそうだった。
やはり乳房が目に止まる。そこは丸々と膨らんでいて、手で掴めばこぼれ落ちそうな……
ん?
ちょっと待て。
天野がこんなにでかいはずがない。
たとえ裸を見たことがなくても、そんなことは俺でもわかる。
それに気付くと幾分冷静になれた。目線を変えてみよう。
まず顔。個々のパーツは間違いなく天野だが、全体の印象がまるで違う。
お子様そのものだった雰囲気が、ぐっと大人っぽくなっている。
かわいい――というよりはむしろ綺麗と言った方がいいかもしれない――そんな顔立ちだ。
そして体も――手足はすらりと長く、ウエストは引き締まり――
まな板も同然だった胸は――冷静になって見てみるとそれほど大きくもない気がするが――
少なくとも以前とはまったく違う。
そう、大人になっているのだ。
数年は経過しているのではないかと思えるほどに。
「なんだかよくわかんないけど、ご飯にしましょ♪」
そう言うと天野はベッドの横に脱ぎ捨てられていた服を着て、いそいそとキッチンに入っていった。
って、キッチン!?
おいおいちょっと待てここはどこだ?
少なくとも俺の部屋ではない。こんな部屋は見たことがない。
今更言うのもなんだが、夢の続きとしか思えなかった。
じゃあこのリアルさはなんだ。
混乱の中部屋に一冊の雑誌が落ちているのを見つけた。
俺はそれに飛びついた。予感がしたからだ。
週刊サッカーマガジン。
その表紙に書いてある文字を読んで、予感は現実に変わった。
“2010年4月26日発行”
それは“昨日”から5年後の日付だった。
「いっただっきまーす」
天野が作った飯はごくごく平凡なものだった。
ご飯に味噌汁、焼き魚と卵焼き。
まだ混乱は残っているが、驚きすぎて腹が減っているのは事実だ。
俺は喜んで箸をつけた。
中学時代は天野の料理下手は巨人のリリーフ陣並みに危機的な状態だったが、
さすがにこの時代には改善されて……いるのか、これ。
これ何の魚なの? 炭だよ、炭!
こっちは卵焼きというよりスクランブルエッグ……って言ったらスクランブルエッグに失礼もいいとこだ。
この味噌汁、実は湯豆腐? 味しないぞこれ。ろくに切れていない大量のワカメがなおさら悲しみを誘う。
当てになるのは銀シャリだけ……しかしその希望も、もち米並みのべたつきっぷりの前ではむなしく砕け散った。
この時代の俺はこんな調子で良くまともに生活出来てるもんだ。さすがは俺。
一方の天野はうまそうにパクパク食っていた。
どうやらこいつは料理が下手なのではなく単に味覚がおかしいらしい。
「あっ、いけないもうこんな時間! テレビつけなきゃ!」
なにを急に思い出したのか天野は23インチ(推定)の液晶テレビの電源を入れた。
こういう物も2010年なら安くなっているんだろう。
その画面にどこかで見たような顔がアップで映し出された。
きりっとした眉。凛々しい目。長いまつげ。高くてまっすぐな鼻。
カメラが引くと見事なまでのナイスバディー(死語)、抜群のスタイルがわかる。
特に大きな胸が目を引いた。
「本日のゲストは彩那さんです、どうぞー!」
彩那……アヤナ? まさか。
「若田部っ!?」
「? 何驚いてるのマサちゃん。若田部さんに決まってるじゃない」
「へ? い、いや……なんでもない。ははは、いや〜綺麗になったな若田部!」
実際若田部は桁違いに綺麗になっていた。
もちろんカメラ映りなんてものはプロのスタイリストやカメラマンの協力あればこそだろうけど、
愛嬌良く笑顔を振りまく若田部は超一級の美女と言っても良かった。
さっきは天野のスタイルも向上したと思ったが、やはり若田部とは格が違う。
番組では若い男の司会者と若田部がトークをしていた。
前のドラマでは完全に主役を食っていましただの、二十歳であの注目作の主演決定なんてすごいですねだの、
司会者は鼻の下を伸ばして褒めちぎっている。
「すごいよね若田部さん、高校生でデビューしてもうこんなに有名になっちゃってるんだもん。
なんだか遠い世界の人みたいな感じ」
それは俺も同感だった。クラスの誰かが「若田部はダイヤの原石」などと絶賛していた理由が今ならわかる。
目の前に映っているのは紛れもなく光り輝くダイヤモンドだった。
「さて、彩那さんはどんな恋愛をなされてきましたか?」
「それがですね、初恋の人に振られたっきり全然なんですよ〜。デビューするちょっと前のことですね」
「ええっ、彩那さんを振った! どんな男なんですかそれは」
「どんな……う〜ん、優しい人でしたよ。優しすぎてかえって傷つくぐらいに。
その気がないんなら期待させるなバカヤローッて感じでしたね」
そう言ってカラッと笑う若田部は、しかしどこか寂しそうでもあった。
それにしてもこの美人を振るなんて、いったいどこのどいつなんだろう。
「マサちゃん」
「へ?」
振り向くと天野がこちらを向いて目を細めていた。
「私、すっごくうれしいよ。誇りに思ってる」
「そりゃあ同級生があれだけの有名人になったら鼻が高いだろうな」
「ううん、違うよ。それもあるけど……」
天野は首を横に振り、それから頬を赤く染めてうつむいた。
「だってマサちゃんは私を選んでくれたんだもん」
そう言って天野は照れくさそうに笑顔を向けた。その瞬間全身がかあっと熱くなる。
心から、本当に心から幸せそうな、最高の笑顔だった。
俺は息をするのも忘れ心臓を激しく打ち鳴らしていた。
なに興奮してるんだ俺。相手は天野だぞ。
だがこの時代の俺が天野と恋仲なのは明白だった。
天野が顔を傾けてこちらに近づき、目を閉じる。さすがの俺も、彼女が何をしようとしているのかわかった。
がちがちに固まっていた俺の唇にやわらかい感触が重なる。
気が付けば天野は俺の首に手を回し、何度も唇をついばんだ。
「ん……」
突然俺の口の中に天野の舌が侵入してきた。それは俺の舌や歯茎をむさぼるように舐めまわしていく。
頭が火照って何も考えられなくなる。
気持ちよかった。
とろけそうだった。
左腕で天野の腰を抱き、右手は頭の後ろへ。
さらに密着度が上がり、卑猥な音が部屋に響く。
つけっぱなしのテレビにはまだ若田部が映っているようだったが、
それを見る余裕は今の俺にはまったくなかった。
キスなんて“今の俺”には初めての経験だというのに、まるでやり方を知っているかのように舌が動く。
体に残った記憶か、男としての本能か。
天野があえぎ声を漏らし、ますます攻勢を強めていく。
ふと、天野の足が俺の脚にかかった。次の瞬間俺の体に重みが加わる。
天野が体重をかけてきたのだった。全身の力が抜けていた俺はそのまま後ろに倒れ、
天野に馬乗りされる格好になる。天野はようやく口を離し、目をとろりとさせて微笑む。
「えへへ〜……」
やばい。これはもう逃げられそうにない。
天野は完全にトリップしていた。こちらの両肩を押さえ顔を近づける。
別に彼女とそういうことをするのが嫌なわけではなかった。
むしろ男としての本能が強烈にそれを求めていることがはっきりと自覚できた。
しかし――俺は知らないのだ。
二人の立場も、これまでの経緯も、“今の自分”が彼女に対しどういう感情を抱いているのかさえも。
なにしろつい昨日まで彼女をそういう目で見たことはなかったと言っていいぐらいだから。
そんな俺の思考に関わりなく、天野は顔を沈めて甘い声を出してきた。
俺は何の抵抗も出来ず天野の動きに身をゆだねる。
すると天野は俺の首筋を舐め上げてきた。
背筋がゾクリとする、恐怖にも似た、しかし痺れるような快感。
思考がまたしても拡散する。もはや理性は風前の灯だった。
天野の胸の上に手が伸びる。服越しに乳房の感触を感じ取り、揉む。
やり方なんて知らない。ただそうすればいいような気がしただけだ。
もっと言うなら、天野がそうして欲しそうだったのだ。
直感どおり天野は顔を上に反らして声を漏らす。感じている。間違いない。
さらに攻めようと手に力を入れると、天野は手を俺の腕の上に置いた。
「マサちゃん……前戯は、ん、いいから……入れて……」
入れる。何を。決まっている。どうやって。そんなこと俺が知るか。
落ち着け少年冷静になろう。どうすればいいのか。
まずズボンを脱がなければならない。
そして天野のパンツを脱がせ、それから入れるための体勢になる。
問題はそこだ。どういう姿勢ならいいのか。天野は上のままでいいのか。
何か重要なことを忘れてないだろうか。
頭を猛スピードで回転させるものの扇風機のごとく空回りするばかり。
そんな俺の混乱をよそに天野は俺のズボンに手を掛け下着ごと一気にそれを下ろした。
「お、おい……」
「うふふ、今日のマサちゃん、昔に戻ったみたい」
そう言ってがちがちに硬直した俺のアレに手を掛ける。
軽く触れられただけ気持ちよすぎて声が出そうだった。
天野は手を離すとおもむろに自分のパンツを脱ぎ、下半身をあらわにした。
初めてまともに見る女の子のあの部分は、想像のつかないような形状だった。
グロテスクと言えばそんな気がするし、綺麗と言えば綺麗かもしれない。
あえて一言で言うなら、不可思議なものだった。
もっと不可思議なのはそこから液体が漏れ出ていることだった。
ひょっとしてあれが愛液というやつなのか。
自然にごくりとのどが鳴った。興奮よりも緊張が先に出る。
体が動かなかった。俺は天野のなすがままだった。
天野は俺のペニスを軽く握り自分の割れ目にあてがう。
一瞬の後天野は体を沈め、俺のペニスは一気に天野の中に入っていった。
「う……!」
その瞬間俺の全身にものすごい快感が駆け巡った。今までとは比較にもならない。
体中が痺れる。特に天野の膣内を直接味わっている部分の感触は予想をはるかに超えていた。
とてつもなく――きつくてしかも柔らかく淫猥で――俺の肉棒をむさぼり食おうとしているかのように――
天野は体を上下に激しく揺さぶってきた。
抵抗もくそもない。俺はただただ天野に身をゆだね快感を浴びていた。
「ん……あ……マサちゃん……! 気持ちいい……?」
「ぁあ……最高、だ……!」
天野の動きがさらに激しくなった。上下だけでなく微妙に横の動きも加わっている。
次から次へと襲ってくる快楽の前に、俺の思考はホワイトアウトしていった。
薄れ行く意識の中で、自身の絶頂が近いことに気付いた。
果たしてここまで長かったのかそれとも短かったのかそれすらもわからない。
ただ残された時間はもうなかった。
「で……出る……!」
言い終わる前に俺は達し、天野の中に精液を放出した。
出しても出してもそれは止まることはなく、まだ動き続ける天野の膣内を満たしていった。
事が終わってからしばらく俺たちは無言で抱き合っていた。
俺は何も言わず天野の頭を撫でていた。天野の香りはなぜか俺を落ち着かせてくれる。
いつまでもこうしていても良かったが、天野は少し離れて俺を見つめてきた。
「マサちゃん、今日は受身だったね」
「う……」
反論しようにも100%真実である。沈黙するしかなかった。
「いいのよ、かわいかったから。大好きだもん」
そういって天野は目一杯の笑顔をつくった。
どうしようもないほど素敵な笑顔だった。
ああ、俺はこれに惚れたんだな――そう思わずにはいられなかった。
「天野、俺――」
「天野?」
そう言い返してきた天野の目は一気に険しくなっていた。
「天野って何? どうして今更そんな呼び方するの?」
語気が強まる。凄みがあった。っていうか闘気出てる。
何? 俺なんかやばいこと言った?
「ひどいよマサちゃん。私だって、私だって小久保じゃない……!」
ははあなるほど、今はもう小久保……
ってマジっすか!?
俺らまだハタチぐらいじゃ……。
「わかった、やっぱり私が奥さんじゃ嫌なんだね。
どうせ私なんて料理下手だし、ドジばかりだし、いくら揉まれてもおっきくならないし……」
「ままま待て! 悪い俺が悪かった! つい思わず昔の呼び方しちゃったんだよ、な、落ち着けって!」
「ほんと?」
天野……改め小久保ミサキが泣きそうな顔でこちらを見つめてくる。
「ほんとだよ」
「愛してる?」
「あい……愛してるよ」
「今迷った」
「迷ってねーって!」
小久保ミサキの顔が迫る。怒りとも悲しみともつかない表情。
全身から冷や汗がしたたる。心臓は縮みっぱなしだ。
「ミサキって呼んで」
「ミサキ」
「もっとやさしく」
「みさき」
「感情がこもってない」
どないせーっちゅうねん。もうヤケクソになるしかない。
「ミサキみさきミサキみさきミ」
「……わかった。今日はこれで許してあげる」
ようやく許しが降りてほっと胸をなでおろしたものの、
「だけど次はホントに怒るからね?」
それだけ言って天野……じゃなくてミサキはテレビのほうを向いた。
マジで怖かった。
ひょっとして俺、尻に敷かれるのは決定だろうか。
しばらくたって、ようやく落ち着いたのでいろんな疑問が浮かんできた。
どんな経緯で結婚までしたのか。
仕事は何をしているのか。
そういえばさっき生で出しちゃったが夫婦だからありなのか。
他のみんなはどうしているんだろうか。
あま……ミサキは俺の嫁さん、若田部は女優。
じゃあたとえば――濱中先生は? もう結婚してるんだろうか。
そう考えると俺の胸がちくりと痛んだ。
……馬鹿馬鹿しい。
それよりどうやら今日は何の予定もないようだ。
この時代のことを調べなければいけない。
元に戻れなければ、俺はここで生きなければならないのだから。
決意を新たにして俺は立ち上がった。
……って、下半身裸じゃないか俺。カッコ悪。
すべての始まりにして、先行きに不安がつのる朝だった。
第1話 はじまりの朝 完