作品名 作者名 カップリング
チカくて遠い メリー氏 マサヒコ×チカ

 その日マサヒコは珍しく一人だった。
 家庭教師も幼馴染も天然なクラスメイトも変態メガネも誰もかもが私用だそうで、
 急遽暇になったのだ。
 普段はこういう暇な時は漫画本を読むなどして暇を潰すのだが、
 生憎新しい本を買っていなかったので、潰せなかった。
 じゃあそのための本を買いに行こうと思い、街に出る。
 歩いて行っても良かったが、マサヒコはバスを利用した。
「うぅ……ぎゅーぎゅーだぁ……」
 なぜかマサヒコの乗ったバスは込んでいて、乗車率150%くらいだった。
 もはやマサヒコはバスの乗り降り口の近くである。
 何とかすれば人の間を通って移動は出来るが、そんなことをしたら反感を買うのは
 目に見えていた。
 しばらくバスに乗っていて、マサヒコは前方に制服を着た少女が乗っているのに
 気付いた。
 見た目は自分と同い年具合だろうか、と考える。
 時間からして学校帰りなのだろう。と判断したため、
 それ以上深くは考えなかった。
 一時は目を外したものの、何か違和感が残る。
 拭いきれない何かを感じていた。
 もう一度その少女を見て気付く。
 俯いていて、顔が赤い。
 この乗車率から考えて息苦しいからそうしている、
 と考えられないことも無かったが、
 マサヒコには別の考えの方が強く浮かんでいた。
 乗客の反感を買うのを分かった上でマサヒコはその少女のいる所へと無理矢理
 に進んでいき、そして予想が嫌な方向で的中していたことに顔をしかめる。
 少女は明らかに痴漢行為をさせれていたのだ。
 角度的にはっきりとは見えないが、スカートがあり得ないくらいに動いていた。

 しかも後ろに立っている男の顔が緩んでいるのははっきりと見えていた。
「おいっ! 止めろ痴漢野郎!」
 マサヒコは大声を出して手を取って上へ掲げた。
 周囲の乗客がマサヒコ、痴漢男、少女へと向けられる。
 狭いバスの中で、三人の周りに僅かに作られたスペース。
 少女はその瞬間、声を押し殺して泣き始めた。
「お、俺はやってねぇ!」
 男は慌てふためいて言ったが、誰も信じていない。
 乗客全てが男に敵意の視線を送っていた。
 少女の近くにいた30代くらいのOLが少女を宥めている。
 痴漢男はマサヒコの手を振り解き逃げようとしたが、逃げられるはずも無かった。
 二、三人の男性乗客に抑えられ、床に押し付けられる。
 マサヒコは偉い、かっこういい、勇気があるなどと褒められた。

 バスはすぐに止まり、数分後にはパトカーが来た。
 男はがっくりとうなだれ連れて行かれた。
 マサヒコと少女は事情聴取を軽く済ませてもらい、その場に残る。
 バスはパトカーが来てすぐに出発していたのだ。
「あの……大丈夫ですか?」
 沈黙の空気が重々しくて、近くのベンチに座ることにし、マサヒコが言った。
 大丈夫じゃないことは分かっているが、訊いてみたのだ。
 少女は大分涙も止まり、今は目をこすっているだけだった。
「は、はぃ……。ありが、とぅ……ございました」
 ボソボソと消え入りそうな声で礼を言う。
 どうしたもんかとマサヒコは頭をポリポリと掻いた。
 このままの状態で置いていくわけにいかないし、かといって知らない少女と
 話す話題も持ち合わせていない。
「えっと、オレ小久保マサヒコって言います」

 とりあえず自己紹介してみた。
「私は、吉見チカです」
 少女、チカもそれに倣う。
「オレは今14なんだけど、吉見さんは?」
 何気ない会話から始める。
 チカも俯いていた顔を少し上げ、マサヒコの方を少し見た。
「あ、チカでいいです。私は今13歳なんです。小久保さんって強いんですね」
「オレのことはマサヒコで良いって。それに別にオレが強いわけじゃないし」
 しかしチカは首を横に振った。
「いえ。こく、じゃなくてマサヒコくんが助けてくれなかったら私……」
「ほ、ほらっ、もう過ぎたことは忘れようよっ! そりゃ簡単に忘れられるもん
 じゃないけど、楽しいこととかたくさんあったら忘れられるって!」
 慌ててマサヒコは力説する。
 危うく地雷を踏む所だった。
「楽しい、こと……ですか」
「そうそう。偏見じゃないけどさ、女の子は買い物とかって楽しいんじゃないの?」
 とりあえず自分の中の女の子の好きそうなことを言ってみる。
「買い物は……嫌いじゃないです。そう、ですね」
 チカは思う所があるのか頷いた。
「だろ? ウインドウショッピングなんかもいいんじゃないか?」
 自分の導いた方向に話題が転換して口調も普段のものに戻りつつある。
「あの……」
 チカは真剣な眼差しでマサヒコを見つめた。
 呼ばれて振り返ったマサヒコはその真剣さにやや驚きの表所を見せる。
「きょ、今日のお礼に一緒に買い物に行きませんかっ!」
 一大決心して告白したのだろう。力を込めた顔は赤くなり、目は硬く閉じている。
 その告白にマサヒコは面食らっていた。

 その台詞。噛み砕いて言えば、
「そ、それってデートってこと?」
「ひゃうっ!」
 チカも言われて気付いたらしい。変な声を上げてバッと顔を上げた。
「えと、その、そういう意味じゃなくて、あのっ、あのっ!」
 妙に慌てて両手をバタバタとさせるチカを見て、マサヒコはプッと微笑んだ。
「そう力いっぱい否定されるとさすがにオレも傷つくなぁ〜」
「あっ、ごっ、ごめんなさいっ!」
 チカはころころと表情を変え、慌てたり、笑ったり、謝ったりした。
 マサヒコはその人懐っこい表情に何か惹かれるものを覚える。
 微笑んだまま、
「いや、別にそこまで謝らなくていいから。じゃあ一緒に買い物行こうか。
 いつにする?」
「え、ええと、マサヒコくんはいつがいいですか?」
「今日……って言いたい所だけど、チカちゃんも今日は疲れてるだろうし……。
 明後日の昼頃は?」
「チ、チカちゃん……」
 なぜかチカは自分の名前を呟いてボーっとしていた。
「あの、チカちゃん?」
「ひゃ、ひゃいっ! 大丈夫ですっ! 無問題ですっ!」
 慌てて全力で肯定するチカ。
 マサヒコはまた笑い、ポケットから携帯を取り出した。
「じゃあこれオレのアドレスと番号。明日の今頃には詳しく時間とか決めて
 メール送るから。あ、チカちゃんが行きたい所とかあったら全然言ってくれて
 いいから」
 そしてマサヒコとチカはメルアドの交換と電話番号の交換をした。
 夕日が沈み、オレンジ色に照らされたベンチで二人はまた今度と言い合い、
 別れてそれぞれの方向へと歩き出す。
 ちなみにマサヒコはそのまま家へと帰った。


 次の日。約束の前の日。
「先生、ちょっといいですか?」
 今日は家庭教師の濱中アイがいて、勉強を教えていた。
 天然娘も変態メガネもいない。
 部屋には二人しかいなかった。
「なぁにマサヒコ君」
 アイの採点する手が止まる。
「例えばの話なんですが、先生が男性と買い物に出かけるならどこがいいですか?」
「へっ?」
 マサヒコの質問にアイは変な声を出した。
 ぶつぶつと何か言ったかと思うと一瞬にして顔を真っ赤にさせる。
(え、ちょっとこれって……遠まわしにデートのお誘い?
 マサヒコ君って意外とシャイだったのね。でもそっかぁ、マサヒコ君って……。
 え〜、どうしよっかなぁ。買い物かぁ。やっぱり服かなぁ。
 でもってその後はご飯食べて、手を繋いで公園なんかいいかも。
 それから暗くなったらやっぱり……ホ、ホテ、ホテルだよね……)
「あの、先生?」
「はっ!」
 声をかけられて我に返ったアイ。

「それで、先生ならどんな感じに?」
「そ、そうね。やっぱり買い物はあんまり人がいない所かな?
 最初は色々見るだけにして、お昼がまだだったらお昼食べて。
 それから服とか買って。その後はまぁ、時間があるんだったら公園とか、
 楽しく遊べる所に行ったり、きゅ、休憩できる場所に行くのがベターじゃないかな?」
 途中声が裏返ったものの、平静を通した。
「そうですか」
 そう言ってマサヒコは考える。
(やっぱりただ買い物するだけじゃ楽しくないのか。
 母さんに頼んで小遣い前借りするか。五千円程度じゃ心許ないし。
 じゃあ待ち合わせは十時頃がいいかな? 駅前なら目立つ物も多いし。
 あんなことがあった後だからあんまり人がいない所って案も取り入れるか。
 それから昼飯適当に食って……その後どうしよう。
 あの子が帰るって言ったらそれきりだから、とりあえずこれくらいまででいいか)
 結局マサヒコはそういう内容でチカにメールを送った。
 返事はもちろんOKだった。

「ごめん、待った?」
 マサヒコが片手を上げて言った。
 前には可愛らしい服装に着飾ったチカがいて、
 マサヒコに気付くと頬を赤らめながら小さく手を振る。
 チカは薄いピンク色で半そでよりやや短い上着に、白の清楚なスカートだった。
「ううん。私も今来た所」
 首を振るチカ。
 でも本当は二十分くらい前から来ていた。緊張してドキドキが止まらず、
 思ったよりも早く目印の場所に着いてしまったのだ。
 遅刻しないようにと念を入れたのだけど、やっぱり早すぎた。
「えっと、じゃあ行こうか」
 二人は妙に気恥ずかしくてお互い顔を赤くした。
 傍から見れば付き合い立てのウブなカップルという印象。
「あの、とりあえず昼まではまだ時間があるから、
 チカちゃん行きたい店とかある?」
 当てもなく歩き、デパートやファーストフードなどがある方へ向かう。
「特にはないんですけど、色々と見て回りたいですね」
「じゃあ先にデパートの方に行こうか」
「はいっ」
 ポツリポツリと何気ない会話をして二人は仲良く歩いていた。

「あ、これ可愛いですね」
 チカがデパートの中にあるヌイグルミショップで立ち止まって指差した。
 下の段にあるそれを取ろうとしゃがんだ時、マサヒコの目にちらりと見えた。
 足と足の隙間からのぞく白くて小さい布。
 なるほど。スカートと同色だとあまり目立たないもんな……。
「あの、マサヒコくん? どうしたんですか?」
 やる気の感じられないパンダのヌイグルミを胸の所で抱いて、チカは首を傾げた。
 ハッと我に返り、顔を赤くしたマサヒコは慌てて頷く。
「あ、うん可愛いんじゃない? これ、気に入ったの?」
「はい♪ こういう可愛いヌイグルミを集めるのは好きなんです」
 本当に嬉しそうに微笑むチカ。
 それを見てマサヒコも微笑んだ。
「買うのは後からにしようと思ってたけど、これくらいの
 大きさだったら問題無いな。それ買う?」
「う〜ん……今日はどうしようかなぁ」
 思う所があるのかチカはパンダと見つめ合いながら悩んでいた。
 するとマサヒコは横からそれを引ったくり、
「すみませんこれ下さい」
 と勝手にレジに持って行って精算させてしまう。

「えっ、あの、マサヒコくんっ!」
 展開の急さに着いて行けず、チカがマサヒコのもとへ行く。
 その頃にはもうパンダのヌイグルミは袋に詰められようとして、
 それをマサヒコが拒否して、値札だけ取って貰って受け取っていた。
「はいこれ。プレゼント」
 にっこり微笑んでパンダを手渡すマサヒコ。
 チカは呆気に取られていて素直にそれを受け取って呆然としている。
「え? あの、悪いですよそんな。お金払いますっ。いくらでしたっ!」
 財布を取ろうとしているが、慌てているため取り出せない。
 その間にもマサヒコは先に歩いていた。
 それに気付いたチカが慌てて駆け寄ったため、余計に財布が取り出せない。
「いいってチカちゃん。最初くらいは格好つけさせてよ」
 マサヒコの笑顔を見せられると、チカは黙ってしまう。
 顔を染め、俯く。パンダと睨めっこして、ぎゅっと抱きしめる。
「ぁ、ぁりがとぅござぃます……」
 恥ずかしくて小声になってお礼を言うチカ。
 そんな自分に恥ずかしくてますます顔が赤くなる。
「次は服とか見に行こうか」
「あ、はいっ」
 そして決めた目的地に並んで歩いた。
 

「最近の服ってどんなのが流行なの?」
 ジャンルに応じた服がディスプレイされる前で、マサヒコは訊いた。
「え、えと、か、可愛いのとか」
 上手く言葉出ず、あまりにも普通のことを言う。
 ふ〜んとマサヒコは納得して一つのマネキンを指差した。
 中学生をイメージさせる大きさで、着ているのは白のワンピースだった。
 オプションとして麦わら帽子を被っていた。
「チカちゃんってあーゆーのも似合いそうだね」
 その一言にチカは茹でダコみたいに真っ赤になる。
「あ、ありが、うれし……」
 恥ずかしさのあまり今度は言葉すら出せない。
 会話までは聞いていないだろうが、店員の一人が笑顔でやってきた。
「よろしかったらご試着してみたはどうですか?」
「え、あの、でも……」
 あまりの申し出に慌てる。
「試着くらいしてみたら? きっと似合うよ」
「ほら、彼氏さんもこう言ってますし」
 マサヒコの言葉よりも店員の言った『彼氏』という言葉にチカが激しく反応する。
「かっ、かかかかか、彼氏……」
 店員はチカの返事を待たずしてマネキンから服を取った。
 なし崩しの形でチカは試着室に招かれる。


(あぅあぅ……、どうして私ってこうも流されやすいのぅ)
 試着室の中でワンピースを握り締めながら鏡に向かって涙を浮かべていた。
 己の不幸というか、流されやすい体質を恨んでいる。
(それにマサヒコくんが外にいるのに着替えるのって……恥ずかしいよぅ)
 カーテンで仕切られているとはいえ、薄い布切れ一枚で
 隔てた向こう側にいる異性を意識してしまう。
(私にこんなの似合うわけないよ〜)
 自分に消極的な評価しか出来ないチカ。
(でも、マサヒコくんが似合うって言ってくれたやつだし……)
 他人の好意を無下にできるわけもなく、恥ずかしがりながら着替え始めた。
 上着とスカートを脱ぐと、細い体と白い肌、ついでに白い上下の布。
(うぅ〜……恥ずかしいぃ。でも今日ブラもパンツも白で良かったぁ)
 ほっと安堵の息を漏らす。
 白のワンピースを着るのに、濃い色の下着だと確かに透けてしまうだろう。
 マサヒコは白だと知っていたから進めたのだけれど。
 ワンピースに着替えたチカは、オプションの麦わら帽子を被った。
(こ、これでいいのかな?)
 鏡で服のよれやおかしな所がないかチェックする。
 首もとの小さな赤いリボンが印象的だ。
 そしてチカは意を決して試着室を出た。

「お、お待たせしました」
 遠慮がちに開けられるカーテン。
「おぉ……」
 マサヒコはただ普通に感心した。
 似合う似合わないという問題よりも、
 まるでチカのために作られたかのようで、とても似合っていた。
 麦わら帽子を軽く押さえ、頬を赤く染める仕草が初々しい。
「ど、どうですか?」
「似合ってる。本当に、とっても……」
 情けないことにまるで棒読みの如く感想を漏らす。
「とってもお似合いですよお客様っ!」
 店員もしめたものと思ってか、褒める。褒め過ぎ感も否めないが、
 言葉に嘘はないだろう。
「ありが、とうございます」
 褒められ慣れていないためか、体の動きがぎこちない。
「あの、じゃあこれそのまま着ていくんで、彼女の着ていた服を袋に詰めて、
 こっちの服の値札取ってください」
「はい分かりました。ではこちらへどうぞ」
 マサヒコが話をさっさと進め、店員がそれに従い、
 チカが流されまくっていた。
「え、あの、ちょ、ちょっと……」
 この店の店員は大変優秀らしく、手早く言われた通りのことを済ませる。
 袋とチカをマサヒコに手渡すと、笑顔で見送った。


「あの、本当に嬉しいんですけど、マサヒコくんばかり負担してますしっ」
 店をあとにしたマサヒコとチカ。
 チカはずっとマサヒコにお金のことを言っている。
「でもオレが無理言って着てもらったわけだし、チカちゃんが気にすることないって」
 マサヒコの言い訳はさっきからこればっかりだった。
 爽やかな笑顔ではっきりと言われるとチカもこれ以上言いづらいのだが、
 ヌイグルミと服一着では値段が違い過ぎる。しかも麦わら帽子付き。
 なんとしてもお金を払おうとするのだ。
「で、でもっ……あっ!」
 込み始めた人の中を、二人で歩いていると並んで歩けるスペースも少なく、
 そんな時はチカが率先して後ろに下がる。
 今もちょうどそんな時で、マサヒコの背中を見ながら焦っていたチカが、
 誰かの足に躓いたのだ。
「危なっ!」
 咄嗟にマサヒコが手を伸ばし、チカはなんとか転ばすに済んだ。
「あ、ありがとうございます」
 話しにくい体勢でお礼を言う。
「大丈夫? 立てる?」
「あ、はい」
 マサヒコの手を借りてチカがちゃんと立つ。
 ややって冷静になると二人があることに気付いた。
「あっ……」
「手……」
 二人は手を握り合っていたのだ。
 偶然の産物だったが、まじまじと見てしまうと必要以上に恥ずかしい。
「ゴ、ゴメン!」
「いえっ、私の方こそ落ち着きがなくて……」

 パッと手を離し、お互い俯いてしまう。
 何とも言えぬ空気が漂う中、マサヒコから切り出した。
「あの、チカちゃんが良かったらでいいんだけど、手……繋ごっか?」
「えっ、あの、はい。よろしくおねがいします」
 妙にかしこまって手を差し出すチカの小さな手を、マサヒコが握る。
 互いが互いの温もりを感じ、ますます顔が赤くなっていく。
 と、それに間を指す様に、
 グゥ〜……。
 とマサヒコの腹が鳴った。
「……あははは……」
 乾いた笑い声を漏らすマサヒコ。
 チカもつられてクスクス笑い出す。
「マサヒコくん、お昼にしましょうか?」
「だな。何が食べたい? どこ行く?」
 マサヒコが訊くと、チカが慌てた。何かあるらしい。
「あのっ、公園に行きませんか?」
「公園? いいけど、何か買ってから行くんだろ?」
「えとえと、ひ、人が多いと恥ずかしいので公園に行きましょうっ!」
「えっ? えっ?」
 チカは珍しく率先してマサヒコの手を引っ張った。
 そのせいで手を強く握り締めたことに気付いたのは公園についてからだった。


 緑の木々が生い茂り、日は高いがそんなに暑くもない気温。
 公園という場所も手伝ってか、涼しさが演出される。
「ちょっと汚いですけど、日陰に座りましょう」
 マサヒコをつれてチカが木の下へ行く。
 日陰になっているそこは日向よりも涼しく、地面には雑草が生い茂っていて、
 座る分には問題なかった。
 チカに促されるまま座るマサヒコ。チカもその隣に座った。
「あのチカちゃん。何か買ってこないと……」
 マサヒコがそう言うと、チカが持ってきていたカバンを漁り始めた。
「どっ、どうぞっ!」
 チカがカバンから出した物。それは弁当包みだった。
「え、これってもしかして」
 さすがのマサヒコにもそれがいったいどういうことを意味しているのか分かった。
 驚いてチカの方を見ると、マサヒコのそれよりも一回り小さい弁当包みを
 ひざの上に載せて、恥ずかしそうに耳を赤くしている。
「あ、ありがとう」
「朝早く起きて寝ぼけた頭で作ったんで色々と変だしそもそも私ってそんなに
 料理も上手くもないんで味の方は全然保障できないんですけどそれでも
 良かったら是非食べてみてくださいっ!」
 長い台詞を一言で語り尽くす。
「食べさせてもらうよ。まさか手料理なんて考えてもなかったから」
 そう言って包みを解く。
 上段にはオカズが、下段にはご飯が入っていて、彩りも良かった。
 チカも包みを解いていはいるが、じぃーっとマサヒコの方を見ていた。
 マサヒコは厚焼き玉子を掴み、口へ運ぶ。
 ドキドキと見つめるチカ。
 しばらく噛んで、飲み込んだ。
「ど、どうですか?」
「うん、美味しいっ! チカちゃん自分で思ってるよりも料理上手だよ」
「ほ、本当ですかっ。良かったぁ」
 安心したのかチカもオカズに口をつけ始める。
 学校での話。家ですること。趣味や特技。
 どうでもいいことだけど、相手を知るには必要なことを二人は話し合いながら
 昼食を進めていった。

To Be Continued-

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