作品名 作者名 カップリング
『しかめっ面眼鏡』 長時間座ってると腰にくるね氏 -

-1-

その日、若田部アヤナは小久保家で待ち合わせをしていた。
待ち合わせの相手は小久保マサヒコ、濱中アイ、天野ミサキ、的山リンコというメンバー。
もっとも、アヤナが誘ったのはリンコだけで、他の三人はオマケである。
最近勉強のし過ぎで視力が低下してきたので、眼鏡を買おうと思ったのだが
せっかくだからお洒落なデザインの眼鏡を選ぼうと思った。
そのために、客観的に見立ててくれる人間はいないものかと、中村に連絡してみたのだが
今週の土曜は勤め先の人たちと飲み会の予定が入っており、
日曜は豊田セージと遊ぶ(というより豊田セーじで遊ぶ)らしく、都合がつかなかった。
そこで、眼鏡を多用するもう一人の友人、的山リンコに連絡をとった。
するとリンコは、待ち合わせ場所にマサヒコの家を指定してきたのである。
しばらくアメリカに渡っていたアヤナは知らなかったが、中学を卒業してからというもの
以前にも増して、マサヒコの部屋はミサキやリンコの溜まり場になっていたらしい。
最近ではミサキの本やリンコのゲームソフトがマサヒコの部屋に置いてあっても、
誰も疑問を差し挟まない程に溶け込んでいるのだそうな。
つまりはそれだけ、彼女らが彼の部屋に入り浸っているという事になる(何かいかがわしい匂いがするが)。
マサヒコの両親も特に迷惑がる様子はなく、母親に至っては妙に喜んでいるフシさえあるとか(何かいかがわしい匂いがするが)。
兎も角そんなわけで、アヤナはマサヒコの部屋にあがる事になった。
しかし、そうなると黙っていないのが天野ミサキである。
つい先日、帰国してきた初日に、アヤナはマサヒコと二人きりになり、彼に額にキスしてもらった事がある。
(『タイムカプセル参照』)
そのお膳立てに一役買ったのは確かにミサキであったが、だからと言って
自分の預かり知らぬ時にアヤナがマサヒコの部屋にあがりこむのは、許容出来なかったようだ。
更に中村から話を聞いたアイが「私も眼鏡選んだげる!」とのってきたので
結局マサヒコの部屋に、中村を除く5人が集結する事となった。


-2-

その日、如月カルナは駅前で待ち合わせしていた。
待ち合わせの相手は井戸田ヒロキ、飯田シホ、有銘ユーリ、小池マイというメンバー。
もっとも、カルナが誘ったのはマイだけで、他の三人はオマケである。
カルナの笑顔は井戸田に褒められた事があるが、それはカメラの前だから笑顔を作れたのであって
普段からナチュラルに微笑んだりする事は、まだどうしても出来なかった。
将来的にはサイン会などで直接ファンと触れ合う事になるのだから、普段から笑顔の特訓はせねばなるまい。
そのために、三瀬さんや社長に、大人っぽい女性の笑顔の作り方を教わろうと思ったのだが
彼女らは芸能人ではないため、アイドル的な笑顔の作り方は専門外だと言う。
さりとて井戸田や小田は男性なので、彼らに女性としての笑顔の作り方が習えるとは思わない。
そこで、アイドルとして先輩である小池マイに連絡をとった。
しかしその電話の様子を見たシホが「笑顔なら自信あるよ!」と自惚れ、
ユーリが「私みたいな子供っぽい笑い方でも参考になるなら、教えてあげますよ」と言い、
井戸田が「やっぱり男の視点からのアドバイスってのも、聞いて損は無いんじゃないかな」と申し出てきたのだ。
さりとて自分が頼ったのはマイであり、そのマイに対して断りも無く、他のメンバーを勝手に連れて行くのは
先輩に対して失礼な態度ではないかと思ったので、事前にマイに断りをいれてみた。
「他のメンバーも来るみたいなんですけど……」と申し訳なさそうに言うと、マイは二つ返事でOKした。
元々マイは、社長や三瀬さんも含めて全員と仲が良かったので(シホは悪友に近いが)
飛び入りでも嫌な気は全くしないようだった。
それまでカルナが感じていた若干の不安が杞憂で済んだ事で、改めて全員の都合のつく日時を選んでみた。
結果、今週の土曜日がベストである事が判明した。
売れっ子として引っ張りだこのマイの仕事が、その日たまたまオフであり、
自分を含むトリキン三人組は、現時点では土日・平日に関わらず殆ど仕事にありつけていないし、
社長が便宜をはかってくれたお陰で、井戸田もその日はフリーとなったのだ。
かくして駅前に、トリキンとマイと井戸田の5人が集結する事となった。


-3-

眼鏡をかけている者なら誰でも知っている事だが、買ったばかりの眼鏡というものは中々目に馴染まない。
慣れるまでは、地面までの遠近感が合わず、違和感を覚える。
目にも負担がかかっているような感覚になる。
もっともそれは最初だけで、慣れてくれば違和感などはなくなるのだが、最初はそういうわけにはいかない。
日常生活に支障の無い程度の違和感とはいえ、違和感である事に違いはない。
買ったばかりの眼鏡を試しにかけてみたアヤナは、視界の気持ち悪さに、思わず目をほそめた。
「別に常にかけていないといけない程視力が悪いわけでもないから、普段は外しとこうかしら……」
しかしリンコがそれを否定する。
「駄目だよ、慣れるまで我慢してちゃんとかけなきゃ。視力ってね、普段から眼鏡とかで
 ちゃんと矯正してないと、逆にどんどん下がっていっちゃうんだよ」
さすが眼鏡使いは眼鏡の事に詳しい。
仕方なく、アヤナは今日一日は眼鏡をかけて過ごす事に決めた。
「そんなしかめっ面すんなよ、若田部……」
「そうだよ、若田部さん。せっかく可愛いのに、台無しになっちゃうよ」
良いわよ、別に……笑顔見せなきゃいけない男がいるわけでもあるまいし……とアヤナは思った。
おぼつかない足取りのまま、5人は昼食をとるためにファーストフード店に向かった。


-4-

「大体さぁ、カルナ何でいつもそんなつまらなさそうな顔してるわけ?」
不躾な質問をシホが繰り出す。
「やっぱさ、私達も将来バリバリの売れっ子になる予定なんだから、ファンサービスはしっかりしなきゃ!」
そう言って笑ったシホの顔は、アイドルというよりはまだ無邪気な子供の顔に見えた。
カルナは元々作り笑いは得意な方だが、同僚達に作り笑顔を向けようとは思わない。
カメラを向けられているわけでも無いのに、笑って笑ってとせかされても素直に笑えない。
しかし、
「俺も、カルナちゃんの笑ってるとこ、も一度見たいな」
井戸田にそう言われては、笑わないわけにはいかない。
井戸田に対する尊敬も手伝って、カルナはやっとその日初の笑顔を作ってみせた。
ほんの少し顔が赤いのは、やはりその笑顔が男(つまり井戸田)に向けられているからだろう。
「なかなか良い笑顔じゃない、カルナちゃん。せっかくだから、今日一日はなるべく笑っていましょうよ」
縦社会である芸能界で、先輩であるマイにそう言われては断れない。
カルナは、極力井戸田を意識しながら笑顔を保ち続ける事にした。
世話になっているマネージャーである井戸田を意識していないと、この笑顔が維持出来ないためである。
とりあえず昼食をとるために、5人はファーストフード店に向かった。


-5-

土曜日という事もあって、店内は混み合っていた。
マサヒコ達より少し早めに注文の商品を受け取ったアヤナは
「先に席をとっておくから、後から来て」と言って、トレイを持ったまま早々とレジから去っていった。

-6-

土曜日という事もあって、店内は混み合っていた。
井戸田達より少し早めに注文の商品を受け取ったカルナは
「先に席をとっておくから、後から来て」と言って、トレイを持ったまま早々とレジから去っていった。


あ、ハンドル打ち込むの忘れてました……


-7-

「二階も混んでるなぁ……どう?リンちゃん、アヤナちゃん見つかった?」
「うーんと……あ、いたいた!窓際の右隅!」
アイも、二階窓際の隅の6人がけのテーブルに、茶髪でロングの髪と、
先程アヤナが買ったばかりの、明るい色のセルフレームの眼鏡の娘の後姿を認めた。
「ごめんねアヤナちゃん。ちょっと手間取っちゃった。待たせちゃったね」

-8-

「二階には見当たらなかったなよぁ……やっぱり三階かなぁ。ねぇ、マイ?」
「うーんと……あ、いたいた!窓際の右隅!」
シホも、三階窓際の隅の6人がけのテーブルに、茶髪でロングの髪と、
見慣れた明るい色のセルフレームの眼鏡の娘の後姿を認めた。
「わり、カルナ。ちょっと手間取っちゃった。待たせちゃったね」


-9-

「駄目だよぉ、アヤナちゃん。そんなしかめっ面してちゃぁ」
フィレ○フィッシュをほおばりながら、隣の席のリンコが不満をこぼす。
「まぁ、しょうがないんじゃないかな、まだ眼鏡になれてないんじゃぁ……」
アイがフォローをいれる。
「小久保君遅いね。ミサキちゃんを待ってるのかな」
「ラブラブだよねぇ、あの二人は」
眼鏡の少女は、しかめっ面のまま、無言でリンコとアイの二人を交互に眺めていた。

-10-

「なぁにしかめっ面してんのよ?今日は笑う特訓するために集まったんでしょ?」
マ○クナゲットをほおばりながら、隣の席のシホが不満をこぼす。
「まぁ、いきなりは無理よ。シホの文句なんか気にしないで、気長に練習しましょ、カルナちゃん」
マイがフォローをいれる。
「井戸田遅いわねぇ。ユーリを待ってるのかしら」
「ユーリちゃんはまだ小学生だからね。大人の井戸田さんは、待ってあげないと」
眼鏡の少女は、しかめっ面のまま、無言でシホとマイの二人を交互に眺めていた。


-11-

「眼鏡に慣れないのはわかるけど、そんな顔してちゃ、小久保君に嫌われちゃうよ?」
「わかってないなぁ、リンちゃんは。気になる男性にだけ見せる笑顔ってのも、
 男性の側からすれば好感度アップの秘訣なのよ?……って先輩が言ってたよ」
気になる男性、というフレーズに、少女はわずかに反応した。
「アヤナちゃんもさ、気になるあのヒトの事を思い出してごらんよ。
 きっと良い笑顔が生まれる筈だよ?先生が保証する!」
天然裏づけ教諭アイと、天然女子高生リンコの二人が、期待のこもった眼差しで少女を見る。
少女は、気になる男性の顔を思い浮かべ、顔が綻ばせてみせた。
「そうそう!その顔その顔!それでバッチリよ!」
天然二人は気づかない。その笑顔が、少女の得意な作り笑顔だという事に。

-12-

「あんたそんな顔ばっかしてちゃ、男が逃げるよ?」
「わかってないわね、シホは。気になる男性にだけ見せる笑顔ってのも、
 男性の側からすれば好感度アップの秘訣なのよ?……って社長が言ってたわ」
気になる男性、というフレーズに、少女はわずかに反応した。
「カルナちゃんもさ、気になるあのヒトの事を思い出してごらんよ。
 きっと良い笑顔が生まれる筈よ?お姉さんが保障する!」
天然お間抜け少女シホと、変装用グラサンで視界の暗いマイの二人が、期待のこもった眼差しで少女を見る。
少女は、気になる男性の顔を思い浮かべ、顔をほころばせてみせた。
「そうそう!その顔その顔!それでバッチリよ!」
アイドル二人は気づかない。その笑顔が、少女にとってはそれほど珍しいものでないと言う事に。


-13-

皆より遅れて商品を受け取ったマサヒコとミサキは、真っ先にアヤナを探した。
茶髪で眼鏡といういでたちは、黒髪ショートの他の二人よりは見つけやすいと判断したからだ。
果たして、三階の隅の6人がけの席に、目的の人物を発見した。
……が、同席している二人の少女には見覚えが無い。
混んでいるから相席になってしまったのだろうかと思いつつ、席に近づく。
「よ、待たせたな若田部。他の二人は?」
「あ、小久保君。それが……」

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皆より遅れて商品を受け取った井戸田とユーリは、真っ先にカルナを探した。
茶髪で眼鏡といういでたちは、黒髪ショートとグラサンの少女よりは見つけやすいと判断したからだ。
果たして、二階の隅の6人がけの席に、目的の人物を発見した。
……が、同席している二人の女性には見覚えが無い。
混んでいるから相席になってしまったのだろうかと思いつつ、席に近づく。
「やぁ、待たせたねカルナちゃん。他の二人は?」
「あ、井戸田さん。それが……」


-15-

「あ!ひょっとして……!」ミサキが驚きの声をあげる。
「アイドルの、小池マイちゃん?」
マイは慌てた。
「あ、ちょっ……スミマセン、あんまり大きな声出さないで下さい。オフですから……」
「あ、ご、ごめんなさい……つい、うっかり」
「なんだ?有名な人なのか?」とマサヒコ。
「もう、駄目ねぇ、マサ君ったら。今すごい人気のアイドルだよ?」
「へぇ……で、どうしてそんな人が、若田部と同席してんだ?」
その言葉に、シホとマイは顔を見合わせた。
「あの……ひょっとして……」
「……あたしら、人間違いしちゃっ……た……?」

-16-

「あれぇ?ひょっとして……」井戸田が驚きの声をあげる。
「東応大学にいた、濱中アイさん?」
アイは首をひねった。
「失礼ですが、どこかでお会いしましたっけ?」
「俺も東応大学の卒業生なんだよ。濱中さんの事は、在学してた頃に何度か見かけたよ」
「へぇ、井戸田さんのお知り合いの方だったんですかぁ」とユーリ。
「濱中さんは男子に人気があったからね、俺が一方的に名前を知ってるだけだよ」
「へぇ……で、どうして井戸田さんのお知り合いの方が、カルナちゃんと同席してるんですか?」
その言葉に、アイとリンコは顔を見合わせた。
「あの……ひょっとして……」
「……私達、人間違いしちゃった……んですかね?」


-17-

「いやぁそれにしても、こうして見ると、確かに結構似てるなぁ、若田部と、えーと……如月さん?だっけ」
「本当本当、若田部アヤナちゃんだっけ?今すぐにでもグラビアアイドルになれるんじゃないかな。俺が保証するよ」
あの後、店内でケータイで連絡を取り合い、お互いの席がチグハグになっている事を確認した。
と言っても、混んだ店内で階を移動するのは手間だったので、結局そのまま食事をとった。
店を出てから落ち合い、アヤナとカルナの顔立ちのそっくり具合を、全員で面白がった。
よく見てみると、横髪の流し方や後ろ髪の長さが違う。
二人とも同じ白系のワイシャツを着ていた事もあって、遠めには見分けがつきにくかった。
「「でも、じゃあ何で……」」アイとシホが口を揃えて質問する。
「小久保君は」「井戸田は」
「「ちゃんと見分けがついたの?」」
素でフェミニストのマサヒコと井戸田は、一瞬言葉に詰まった後、同時に回答した。
「「そりゃぁ、女性の見分けはつかないと、相手に失礼だし……」」
じゃあ何で二階を通過した時に、私達は見つけられなかったの?とアイに迫られて
マサヒコがしどろもどろになる様子を、井戸田は不思議と仲間意識を持って眺めていた。

奇妙な縁という事で、その後は10人全員でカラオケに向かった。
アイドルの事に詳しいミサキは、マイの歌をマイと一緒に歌えて、実に嬉しそうだった。
アイとシホはマイクも持たずに延々と食べ物を注文し、リンコとユーリはどらーもんの歌を一緒に歌った。
周りが急かすので、アヤナとカルナも渋々モー娘。の歌を一緒に歌う。
眼鏡に慣れていないためにしかめっ面のアヤナと、普段からしかめっ面のカルナのタッグに
マサヒコは「若田部が増えた……」と内心疲れた顔を見せ、
井戸田は「この二人にユニット組ませたら写真集売れそう」と皮算用を始めた。

「黙ってないで、マサヒコ君も何か歌いなよー!」
「仕事の事ばっか考えてないで、井戸田も歌えー!」
いつの間に注文したのか、安い酒に酔っ払ったアイとシホに、二人は押し倒された。
「ちょっ、先生!酒臭いですよ!」
「シホちゃん、未成年がお酒なんて……」
「あ〜ん!小久保君に口が臭いって言われたぁ〜!」と泣き出すアイ。
「未成年をナンパしかけたロリコン野郎が何言ってんの」と畳み掛けるシホ。
ツッコミの天才且つ天性の受け気質、マサヒコと井戸田の二人は、次の日体調を崩して寝込む羽目になってしまった。


終了です。

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