作品名 作者名 カップリング
No Title 郭泰源氏 -

「あ!お久しぶりです、小久保君のお母様」
「はっら〜〜元々キレイだったけど、またキレイになったわねえ♪♪私の学生時代と同じくらい」
「母さん、最後は図々し、ぐぼッ!!!!」
マサヒコママのパンチがボディに突き刺さり、のたうち回るマサヒコ。
(ああ……懲りないよな、オレって……オレの、馬鹿……)
本日二度目のダメージに気が遠くなる中、マサヒコはそう思っていた。
「そんな……お母様に比べたら、全然です。ホント、変わらずにお若くてキレイですね」
完璧な笑顔を浮かべたあと、マサヒコママを見つめて嘆息するアヤナ。
――彼女の方が、一枚上手である。
「うふふふ〜〜〜、お上手ねえ。マサヒコ?お茶くらいお出ししなさいよ?
冷蔵庫に昨日作ったレアチーズケーキが入ってるから」
「げぼ……?って、母さんは?」
「あ〜〜町内会の総会なのよ。てなわけで、今日は多分11時くらいにならないと帰らないんで」
かかかか、と豪快に笑い倒した後、一転して真剣な表情になると、
マサヒコママは息子の耳元に口を寄せて囁いた。
「付け加えるとね、父さんも今日は飲み会があるみたいで遅くなるらしいのよ。
……分るわね?私の言っている意味が。ミサキちゃんには黙っておくから、ね?マサヒコ。
若いうちの過ちは……仕方がないわよ?私も若い頃はそりゃあ………」
「母さんの期待することは絶対起こりませんから、さっさとカラオケに行って下さい」
「ちっ、相変わらずノリの悪いマイサンだこと。そう言えば旦那のマイサンも最近めっきり」
「いいから、お願いですから行って下さい、母上」
親子の愉快なやりとりが終わった後、マサヒコは仕方なくアヤナを小久保邸に案内した。
「ちょっと待ってて、若田部。今お茶を……」
「あ、手伝うわ。動きにくいでしょ、小久保君?」
「でも……お前、今日はお客様なんだし……」
「いいから。怪我人は大人しくしてなさい」
なおも何か言おうとするマサヒコを制すると、
アヤナはキッチンでお茶の準備やケーキの準備をしてくれた。
中学生時代から何度も小久保家に出入りしていたアヤナにとっても、
勝手知ったる他人の家、というわけでその動作は迷いのない実にスムーズなものだった。
「はい、小久保君召し上がれ」
「………なんだかオレが客みたいだな」
「ふふふ……いいじゃない。なんだかこういうのも懐かしいわね。
良くウチにお茶のみにきてくれたじゃない、的山さんやお姉様や濱中先生や、小久保君も」
「……………あのさ、若田部。やっぱりなんかあったんじゃないか?」
「え?な、なによ突然」
「ん……いや、言いたくないなら良いんだけど。今日会ってからずっとさ、
お前、昔のことばっか喋ってるし。それに若田部の表情がなんだかちょっと微妙なんだよな。
なんていうか、懐かしがってるだけじゃない感じっていうか……」
「…………相変わらずなのは、やっぱりあなたの方よ、小久保君」
「え?」
「責任、取れるの?」
「??な、なんだよ、いきなり」
「小久保君は、優しすぎるのよ。……あの頃から、全然変わらない」
「???あの、言ってることが……」
「でも……無責任に誰にでも優しいのはズルイわよ。
私にそんな風に優しくして、勘違いしたらどうするの?ミサキちゃんっていう彼女がいるんでしょう?」
「それとこれとは、別だよ。若田部は友達だしさ。
お前がなんだか元気ないのを見て気になるのはしょうがねーじゃん」
「友達、か…………」
一言そう呟くと、寂しげな微笑を浮かべるアヤナ。
「そうだよね………友達、なんだよね、私たち」
「…………若田部?」
「ねえ、小久保君……私、グズグズ言うの苦手だからはっきり言うよ。
私………ずっと、あなたのことが、好きだった」
§


「え?」
「あの頃は……それがなんなのか、良く分らなかった。
それまでに男の人を好きになったことなんて、無かったし。
でもあなたのことを思うと、なんだか不思議な気持ちになった。
胸がしめつけられるような、恥ずかしくなるような気持ちにね。
ふふ、最初はセクハラされたせいだと思って怒ってたんだけど」
「………それは、その……偶然というか……ゴメン」
「うふ、冗談よ。でも……その気持ちが、恋だったんだ、って気付いたのはアメリカに行ってから。
あなたと天野さんが付き合うようになったって的山さんから聞いたときは、お似合いだと思った。
……本当のことよ。あなた達ふたりにはすごく強い絆を感じていたから」
「……そりゃ、ミサキとは長い付き合いだから……」
「それだけじゃ、ないのよ。あなた達の間には、時間以上のなにかがあったの。
口惜しいけど、私はその間に絶対に入り込めないって思った。
そう思って……諦めようと思った。天野さんは私のライバルで、大切な友達。
あなたは、その天野さんの恋人で、私にとっても大切な友達だった。
天野さんや、的山さんや、みんなといる時間が、すごく楽しくて、充実していて、
アメリカに行ってから私はずっと懐かしく思っていたわ。でもね……」
一気にそこまで話した後、ふう、と一息ついてアヤナはじっとマサヒコを見つめた。
(ああ……やっぱり、若田部って……美人だったんだな)
その切なげで、潤んだ瞳に見つめられて――改めて、
マサヒコは目の前の少女の美しさをぼんやりとそう思っていた。
あの頃と違って、ごくナチュラルにだが眉毛に手を入れているのと、
大きくて少し吊り気味の目が、彼女を実際の年齢よりも大人びて見せていた。
「あなたを思い出すときだけは、他の人を思い出すのと、違ったの。
懐かしいだけじゃない、切ない気持ち。あの頃感じた、恥ずかしさや、
胸をしめつけられるような気持ちは……恋だったんだって、そのとき、やっと……気付いたの」
「………若田部……オレ………」
「ねえ、小久保君?私ね……私、結構アメリカでも、モテたんだよ?」
「……そうだろうな、若田部なら……」
「ふふ……それで、声をかけられて、良さそうな人だな、と思って付き合ってみても……
やっぱり、どこかで違和感があるんだよね。それは……あなたのことを、思っていたから。
あなたと……比べていたからだった。そう、気付いたんだ。だから……私は……」
アヤナは言葉を切った。そして、もう一回マサヒコをじっと見つめる。
「自分の気持ちに、整理をつけるために……戻ってきたんだ。
あなたと……天野さんが、恋人同士なのは分ってる。ふたりがお似合いなのも、分ってる。
ふたりに深い絆があるのも、分ってる。それでも私は、あなたが、好き」
アヤナは、微笑んでいた。マサヒコは、彼女のそんな笑顔を久しぶりに見たと思った。
いや、それは単なる自分の思いこみで――
アヤナの笑顔なんて、実際は見たこともなかったような気もした。
ただ、マサヒコはアヤナのその表情を美しいと、思った。
「あの………若田部、オレ、お前にそんな風に思われていたってのは……
凄く、嬉しいけど……でも、今は、ミサキと付き合ってて……だから……」
「うん、そう言うと思ってたよ」
あっさりと、アヤナが微笑みながら答えた。
「でもね、私は……あなたを、諦めない。私が好きな人は、あなただって分ったから。
あなただけだって……分ったから」
そう言うと、アヤナが立ち上がる。
「……若田部……オレ……」
「今日は……帰る。あなたの言いたいことは、分るから。それ以上、聞きたくないから」
少し寂しそうな笑顔を作り、アヤナはそう言った。
そんな少女の表情に、再びどきり、とするマサヒコ。
(オレは……ミサキが、好きで……恋人で……それで、若田部は……友達。
好きだって言われても……それは、変わんねーはず……でも……でも……)
迷うマサヒコだが、アヤナは笑顔のまま―――立ち上がると、部屋を後にしようとする。
しかし……最後に振り返ると、今にも泣き出しそうな表情で、小さく呟いた。
§


「忘れないで……私は、あなたに会うために……それだけのために、帰ってきたってことを」
ほんの小さな声だったが――それは、やけにはっきりとマサヒコの耳に入ってきた。
マサヒコはただ呆然と……彼女が、去っていくのを見つめるだけだった。
£
「ふうん……そんな感じだったんだ、お前ら」
「そんな感じって……それ以外、ないじゃない?どうしたの?変だよ、マサちゃん……」
「いや……どうもしないんだけどさ」
アヤナの衝撃の告白から2日後―――マサヒコは、ミサキとデートに出かけていた。
オープンカフェで軽めのランチを取りながら、恐る恐るアヤナの話題を振ったところ、
アヤナが帰国したという事実はリンコ経由でミサキも承知済みの話だった。
マサヒコはふたりが出会うことでまたなんらかの衝突が起きるのでは、と危惧していたのだが――
実は既にふたりは昨日再会しており、それは拍子抜けするほどありふれた再会劇でしかなかった。

「おかえり、若田部さん!」
「天野……さん……」

アヤナとミサキは、泣き笑いの表情で手を取りながら――再会を、喜んでいたという。
2年近い月日はふたりの少女の距離を狭めることなく、むしろ友情をさらに深めていたのだった。
「若田部さんとは……ずっとメールでやりとりしてたしね。だから……なんだか、
久しぶりって感じじゃなかったの。ウン、ちょっと長い休みの間だけ会ってなかったみたいな……」
「いや、それが不思議なんだよな。そんな風に、すぐに元の友達に戻れちゃうってのがさ」
「でも、友達ってそういうもんじゃないの?」
「うん……そうかな」
「ふふ……でも、分らないカナ……結構、冷たいもんね、マサちゃんって」
「………そうかな?」
「やだ、本気にしないで、マサちゃん?」
傷ついたような表情を作るマサヒコを、慰めるように微笑みかけるミサキ。
なんとなく面白くないマサヒコは、大口を開けてチキン・サンドにかぶりついた。
「でも、そうよね、またみんなで集まったりしたいね、アイ先生や中村先生も呼んで」
「………オレもそうしたいのはやまやまなんだけどな……」
「?なにかあるの、マサちゃん」
(間違いなく、またツッコミでとんでもなく疲れるのが分ってるし……それに……)
先日のアヤナの告白を思い出していた。
(まだ今は良いけど……メガネとか、そのあたりの勘は無駄に鋭いからな。
ミサキや若田部を変な方向に焚きつけたりして……)
嫌な予感がてんこ盛りでするため、
どうしても全員再会の場を積極的にセッティングする気にはなれないマサヒコだが、
ミサキはそんな彼の気を知ってか知らずか不思議そうな表情を浮かべている。
「ま、まあそう言うのはおいおいでいいじゃん?それよりさ、今日は……」
「あ!そうだよね、じゃ、食べたら行こっか、マサちゃん?」
ふたりは食事を終えると、席を立った。
「それにしても、お嬢様学校の割に体育会系なんだな、聖光って」
「ウン。私もビックリしてるんだけど……」
ミサキの通う聖光女学院では、二年生の秋に生徒への長距離歩行が義務づけられていた。
“健全な肉体には健全な精神が宿る”
というまこと古めかしい学校創立者の残した言葉のもと、
徒歩で半日をかけて聖光女学院から隣にある鷹市の中心部に存在する加藤神社まで、
合計4,029mを歩き、お参りするのが修学旅行と並ぶ行事になっていた。
指を祀る加藤神社は霊験あらたかであることで全国的にも有名であり、
「受験のときに指が滑るように回答を書いた」
「美大受験の実技のときに滑らかなタッチで描くことが出来た」
「小論文で詩が出題されたときに、吹き出すように潮、ではなく詩を書けた」
等と、卒業生からもその御利益(?)についてはお墨付きなのであった。
相変わらず面倒見の良いミサキは、聖光でもクラス委員となり、
結果この長距離歩行のリーダーの役目を負うことになってしまった。
§


体力にはそこそこ自信のあるミサキだったが、実はアウトドアに関する知識は皆無である。
困った彼女が頼るのが恋人であるマサヒコなのは、ある意味当然と言えよう。
「まずは靴からだな。お前、その手の靴なんて持ってないだろ?」
「ジョギングシューズくらいなら持ってるけど……」
「ジョギングシューズって言ってもピンキリだからな。できたら軽めのアウトドアシューズが良いよ。
とりあえず、例のアウトドアショップに行こうか。」
「ウン!」
嬉しそうにマサヒコと手を伸ばすミサキ。久しぶりのデートに、満面の笑みだ。
マサヒコも、少し照れくさそうだが指を絡めるようにして手をつないだ。
「えへへ……マサちゃんが昔ボーイスカウトやってて良かった」
「なんだよ……あの頃は、一緒に遊べないからつまんない、とか言ってたくせに」
「だってあの頃は私、寂しかったんだよ?
マサちゃん、週末になるとマサちゃんのお父さんとボーイスカウトに行っちゃうし。
私は一緒に遊びたかったのに、おいてけぼりにされたみたいだった」
「お前ってあの頃からオレに惚れてたのか?」
「………………マサちゃんの馬鹿」
「??なんだよ、いきなり」
「何度も言ってるじゃない。私は、ずっとずっと、マサちゃんが好きだったの。なのに………」
そう言って、ちょっとふくれっ面をつくるミサキ。
子供のようなことを言う恋人のことを、マサヒコは改めて可愛いと思った。
「オレも、あの頃から好きだったぜ、ミサキ?」
「ウソだ〜〜。サッカーやボーイスカウトの方が、私より絶対……」
「いや、あの頃は……男同士で遊ぶのが楽しかったり、なんとなく照れくさかったりしてさ」
「……もう一回言ったら、許してあげる」
「?なにを?」
「好きって言ってくれたら、許してあげる」
「………オレ、そんなこと言ったっけ?」
「ホラ、すぐ忘れてる。だから言ってよ、好きって」
「………好きだよ、ミサキ」
「もう一回♪」
「あのなあ……こんな道のど真ん中で」
「もう一回で良いから。お願い!」
「………好きだよ、ミサキ。これで終わりだぞ?」
「えへへへ〜〜私も好き、マサちゃん!」
中村が見たら悶死しそうなバカップル丸出しトーク炸裂中のふたりは、
腕を組んだまま表通りを歩いた。目的の店までの道が、ミサキにはやけに短く感じられていた。
「わあ、この靴可愛い!色使いがすごく素敵」
「それ、メレルだな?アウトドアシューズのとしてはちょっと高めだけど」
「でも可愛くない?ほら」
「確かに可愛いけど……どう?履いた感じ、重いとかはない?」
「思ったより軽いよ。足にもしっくりくる感じだし」
「ああ、ゴアテックスなんだ。雨がきても大丈夫そうだな」
「雨天決行だからね、長距離歩行は。でもコレなんだか気に入っちゃった♪」
「コロンビアとかのシューズは確かに地味っちゃ地味だったしな。
安いし機能面もそれなりに充実してるんだけど」
「この靴に決めて良い?マサちゃん」
「ああ……じゃ」
「え?ちょ、ちょっと、お金は……」
「良いから。バイト代入ったから、プレゼント」
「でも……」
「彼女の身につけるもんくらい、プレゼントさせろって。
その代り、キチンと手入れして長く履いてくれよ?結構長持ちするもんだからさ」
「ありがとう、えっと、あのね」
「?なんだよ」
「大好き、マサちゃん!」
§


「……そう言うのはふたりだけのときに言えって、恥ずかしいから」
「えへへ、でも本当に大好きだよ♪」
周囲の人間が恥ずかしくなるようなバカップルトークは続いていた。
「ありがとう、大事にするね、マサちゃん!」
「大事にするのは良いけどさ……本番前にキチンと履き慣らしておけよ?
当日いきなり履いて靴擦れなんて作っちゃったら最悪だからさ」
「うん!」
嬉しそうに微笑むミサキ。マサヒコもまんざらでも無さそうな顔だった。
「うふ……じゃあ、マサちゃん?お礼しなきゃいけないね♪」
「お礼って、オレは別にそんな」
「お礼は……私じゃ、ダメ?マサちゃん」
「……あのなあ……」
「今日は……遅くなるってお母さんにも言ってきたんだ。だって久しぶりのデートなんだし……」
「まあ……良いけどさ」
自分で言い出しておきながら赤くなってしまうミサキと、こちらも顔を赤くしてしまうマサヒコ。
ふたりは、ちょっと落ち着かない気持ちのまま、店をあとにした―――

“ちゅ……ちゅっぷ”
強い力で引き寄せられ、激しく衝突するようなキスを続けていた。
ふたりが互いの唇を貪る、湿った、そしてどこか滑稽な音が部屋の中に響いていた。
抱き合い、目を閉じてミサキの柔らかな唇を吸いながら、
マサヒコが彼女の衣服を脱がそうとキャミソールのストラップに指をかけた。
「ん……や……歩いて汗かいちゃったから、その前にシャワーを……」
「このままでいい」
唇を離し、軽く体を捩って逃れようとしたミサキを少し強引に押さえつけると、
マサヒコは再び彼女の衣服を脱がしにかかった。
腋の下に顔を埋め、白く滑らかな皮膚に唇をつけて軽く吸った後に舌を這わせる。
“ちゅッ……つ……つぅる〜〜”
「あ……ン、やだ……私、汗くさいよマサちゃん」
「ミサキの匂い……良い匂いだ」
「や……に、匂いで興奮するなんて卑猥だよぉ……」
恥ずかしいのか、ミサキはいやいや、と首を振りながら再び逃れようとする。
恋人のそんな姿に刺激されたマサヒコは、彼女の首筋にもキスをした。
“ちゅッ”
「ふぅ………ダメ、そこ、急所」
「ミサキの匂いで興奮すると、卑猥なのか?」
「だって……汚いし、ダメだよぉ」
確かに普段は、ふたりともシャワーを浴びてからしかセックスをしたことがなかった。
だが、今日のマサヒコはなぜかひどく攻撃的な気持ちになっていた。
いつもどおりなら、これから乳房を優しく撫でるように愛撫するのが手順だったが――
「なら、なんでミサキは……」
言葉をそこで区切ると、マサヒコはいきなりミサキのショーツの中に指を突っ込んだ。
「あ!だ、ダメッ!!」
突然のマサヒコの行為に慌てて腰を引くミサキだが、
マサヒコは逃そうとせずに手を彼女の股間に回す。
「やっぱり……もう、濡れてるじゃん」
まだ抵抗しようとするミサキの耳元で、そう囁いた。
「やだ……汗だよ、だからシャワーを……」
ミサキの哀願を無視して毛の奥を触る。掻き回すように、指でなぞる。
小さな肉の芽は、既に硬くなっていた。触る。撫でる。ほんの少し、強引につまむ。
「ミサキの汗って、こんな風に粘っこいんだ、へえ……」
「や……意地悪言わないでよ、マサちゃん……」
「嫌だとか言いながら、濡らしちゃってるんだ、ミサキは……オレのこと、卑猥だとか言いながら、
顔を真っ赤にして感じちゃうんだ、ミサキは……」
「…………」
§


抵抗を諦めたのか、無言でミサキがマサヒコを見る。少し、怒ったような目で。
―――と、マサヒコが突然ミサキから離れ、ベッドに腰掛けるとテレビをつけた。
画面では、今年何個かめの台風の進路を、
めったに予報の当たらない気象予報士が必死の形相で説明しているところだった。
「………どうしたの?」
短い沈黙に耐えきれなくなったミサキが、マサヒコに聞いた。
「嫌だってお前が言うから、止めた」
「意地悪……」
涙をこぼしながら、ミサキが呟く。マサヒコは、ふと昔のことを思い出していた。
「して欲しい?」
「意地悪、意地悪、マサちゃんの馬鹿!」
そう言いながらも、ミサキはマサヒコに体を擦り寄せてくる。
「いつも……そうだったよな。ミサキは泣き虫で、怖がりで……いっつも、オレの側にいて……」
「マサちゃんの……馬鹿!」
マサヒコの胸の中で泣きじゃくりながら、ミサキがそう言う。
マサヒコは彼女を抱き上げ、ベッドのうえに座らせた。
そしてそのまま、ミサキの服を一枚一枚ゆっくりと脱がせ、自分も服を脱いだ。
生まれたままの姿になっても、ミサキは腕で胸元と股間を隠していた。
マサヒコは彼女の両手を握るとそれを上にあげさせた。
「…………」
涙はもう流していなかったが、今にも泣き出しそうな表情でミサキがマサヒコをにらむ。
小振りだが張りのある乳房は、彼の方に張り出されたようにツン、と上向いていた。
“ちゅッ……”
「……ふぁッ……」
真っ白な乳房の頂点にあるピンク色の果実に唇をつけるマサヒコ。ミサキは短い吐息を漏らした。
“ちゅ……ちゅうッ、ちゅ……”
唾液で乳首がべっとりと濡れて光るまで、マサヒコはそこを舐めた。
舐められるたびにミサキが小さく体を震わせ、乳首は硬くしこっていった。
ホテルの薄暗い照明にそれは照らされてなにか別の生き物のようにマサヒコには見えていた。
マサヒコは、唾を溜めて乳首を口の中に含むと掻き混ぜるように、舐った。
そうしながら、微かに汗で濡れるミサキの、背中や腹や腰を、指先で愛撫する。
指を滑らせるように移動させて、つるつるとした彼女の肌を撫でる。
「ふう……あ……」
くすぐったさと快感にうわごとのような声をあげるミサキ。
彼女の反応を楽しみながら、マサヒコは股間に手を伸ばす。
硬くなった肉の芽を擦ると、それだけでびくん、びくんとミサキは激しく体を跳ねさせた。
「ミサキ……」
彼女の体を倒すと、股間の中に顔を埋めた。まばらに生い茂る、薄い色の恥毛を口に含む。
「………恥ずかしいよ……」
決まり事のようにミサキが呟くが、マサヒコは気にしようともしなかった。
腋の下や首筋を舐めていたときよりも、強くミサキの匂いが香ってきた。
獣どうしの交わりにも似た感覚で、マサヒコはミサキの脚を大きく開かせ、そこを舐める。
くちゅくちゅと、唾を塗りたくるように。彼女の小さな膣口に指を添えて拡げ、舌をこじ入れる。
ミサキの中が、唾と愛液にまみれてぐしゅぐしゅに濡れる。
十分に彼女のカラダの準備が整ったのを確認してから、マサヒコはコンドームを装着した。
「じゃ、そろそろ行くよ、ミサキ?」
「ウン……来て、マサちゃん……」
愛液で先端を塗りたくるようにしてペニスを何度か往復させた後、
じゅぶり、とミサキの中にペニスを沈める。
「あ……ふくぅん……」
ペニスの先端から伝わる、ミサキの体温とねっとりと絡みつく感触。
小さくて狭いそこは、ただ挿れただけで射精しそうなほど気持ち良かった。
(あ……気持いい、ミサキ……)
マサヒコは自分の下で切なげな表情をして吐息を漏らす恋人の顔を見つめている。
ミサキのこの表情が、マサヒコはたまらなく好きだった。
§


出来ることならずっとこのまま見つめていたい、と思うほどに。
“ずッ……ずぅるッ……”
今すぐにでも出したくなる欲望を抑え、何度も、ミサキの中にペニスを突き立てる。
「はあッ……くぁッ!いい……あ、うぁあッ……」
ミサキが頬を染めてマサヒコの動きに応え、歓びの叫び声をあげる。
「あ……気持ち良いよ、ミサキ」
切なげな、耐えるような表情でマサヒコが呟く。
ミサキは、このときのマサヒコの表情が、声が、たまらなく好きだった。
普段のやや低めの彼の声より、ちょっと上ずった声。女の子のように端正なマサヒコの顔が、
苦痛を耐える表情にも似た、ぎゅっと締まった表情になる瞬間が。
出来ることならずっとこのまま見つめていたい、と思うほどに。
「好き……マサちゃん……ふ、あッ、うン!」
快楽の中にどっぷり浸りながら、セックスは不思議だな、とミサキは思う。
人間の行為の中で、一番他人と密着して、他人と繋がる行為なのに、どこか恥ずかしい。
恥ずかしくて、気持ち良い。気持良いのに、恥ずかしい。
そんなことを思いながらミサキはマサヒコに強く抱きつくと、
彼の動きに同調させるように自ら腰を動かした。
「あ……あッ、う……」
そのたびに、マサヒコのペニスはミサキの柔らかな中に包まれ、くいくいと挟み込まれる。
腰を動かしてペニスを送り出すたびに、背筋にびりびりと電流が走る。
「み……ミサキ……」
「あ……好き……大好き、マサちゃあ…は…ん」
マサヒコは、一心不乱に腰を動かす。ミサキがマサヒコの腰に脚を絡ませる。
より密着したふたりは、ただ肉と肉をぶつかり合わせるように愛しあった。
「ミサキ……お、オレ……もう……」
「ン……あふぁあ、あン、い、良いよ、マサちゃん……私も……もう」
舌を絡めるようにキスをすると、ふたりは更に深く交わろうとする。
「出して……私の中で……良いよ…マサちゃん」
“ぐッ……きゅうッ……”
「……マサちゃん……あッツ……くぁッ」
ミサキが荒くて甘い声を吐き出しながら体を硬くした。
その瞬間、マサヒコのペニスは急激にきつく締めつけられた。
「わ……うわ……そんなのされたら、オレ……もう……我慢できね」
そのあまりの快感に耐えきれなくなったマサヒコは、
“びゅッ………ぴゅうッ、ぴっ”
思いっきり、射精した。ペニスから、何度も何度も精液が吹き上げる。
「あ……はぁ………あ、ああ……」
ミサキの体がびくん、と跳ね上がり、マサヒコの射精を受け止めようとする。
「マサちゃん……ああ……マサちゃん」
お尻をぶるッ、と小さく震わせるとミサキは惚けたような表情になって体を投げ出した。
やっとのこと射精を終えたマサヒコは、そんな彼女を見つめた後、体を密着させる。
ミサキの汗とマサヒコの汗で、ふたりのからだがべったりと張り付く。
汗にまみれたからだで、ふたりは抱き合っていた。
恋人同士でなければ、不快そのもののはずの行為が、マサヒコには愛おしかった。
「気持ち良かった?ミサキ………」
「う……ウン……気持ち良かった……マサちゃん」
「あの……ゴメンな、なんだか最初お前、変だったからちょっとオレも意地になっちゃって」
「マサちゃん……私……私……」
「……なんだ?ミサキ……え?」
――ミサキは、泣いていた。ひどく、冷たい表情で。
「ど、どうした?」
「聞いちゃったの……若田部さん……マサちゃんが好きだって……」
「え?ええッ!」
(若田部の奴………)
§



「天野さん……本当にごめんなさい、あなたのことは……大切な友達だって思ってるのに……」
「…………良いの、若田部さん……本当は、私も分ってたから」
「え?」
「あなたがアメリカに行く前に……言ってたでしょ?
『私 小久保君のこと嫌いじゃなかったんだから…』って。あのときから……気付いてた。
若田部さんが……マサちゃんに恋していたってことを。
私のために……自分の気持ちを抑えてたってことを」
「天野さん……」
「でもね……今だから思うんだ。あれは……フェアじゃないって。
だって……私……私は、本当にマサちゃんが好き。誰よりも……多分、若田部さんよりも。
だからって、若田部さんの思いを奪ってしまうことをしても良いのかって。
だって若田部さんは私の大事な友達なんだもん……でも、それでも私……」

そう、実はアヤナとミサキの再会劇には、こんなシーンが挟み込まれていた。

「ミサキ……でも、オレは……」
「ねえ……どうしたら良いの?私がマサちゃんと別れれば良いの?そんなの絶対嫌。
でも、若田部さんの思いも分るの。彼女も……ずっと、ずっと、
マサちゃんのことが好きだったってことが、分っちゃうの。
だって私たちは友達だから。どうしたら……どうしたら……うッ、良いのよ、うわあん」

ミサキは、マサヒコの胸の中で泣きじゃくっていた。
(そうだった……ミサキは、泣き虫で、怖がりで、それで……)
誰よりも心優しくて、友達思いの女の子だった。
―――それは、幼馴染みで恋人である自分が、一番分っていたはずだった。
分っていたからこそ、マサヒコはミサキを好きになったのだから。
泣き続けているミサキを、マサヒコは見つめた。
こうすれば自分の気持ちを繋ぎとめることが出来るだろう、
といった計算の類とは最初から無縁の女の子だった。
ミサキは、苦しんでいる。多分、自分以上に。アヤナとの友情に。マサヒコとの愛情に。
(オレは……オレは……オレは……)
どんな言葉を投げかければ良いのか、マサヒコは分らなかった。
ただ、恋人の泣き顔を―――見つめ続けた。

(続く)

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