作品名 |
作者名 |
カップリング |
「銀の花と赤い指輪」 |
郭泰源氏 |
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“ぎゅ…”
「これなら温かい」
マサヒコが、優しくミサキの手を握る。
「帰ろう」
「うん」
少し驚き、恥じらいながらも……ミサキは、マサヒコを見た。
「マサちゃん……」
ごく自然に、幼い頃の呼び方でそう言って微笑む。
ふたりは……手を握りながら、英稜高校からの帰路を歩いた。
“ゴリゴ……ゴリリ、ゴリ”
その背後で妙な音がしていたのは、とりあえず無視して。
(マサちゃん……)
いつ以来だろう、こんな風にふたりで歩くのは―――ミサキは、ずっとそんなことを考えていた。
右手から伝わるマサヒコの温もりが、懐かしくて、温かくて、愛しかった。
(好きな人と手を握りながら歩くのって……こんな気持ちなんだ……)
心も体もほっこりと温かくなるのを感じながら……ミサキは、隣を歩くマサヒコを見た。
ほんの一・二年前ならば、自分とほとんど変わらなかったはずの彼の視線は、
いつの間にか頭半分くらい、上にあった。
「…………?」
ミサキの様子に気付いたのだろう、マサヒコも彼女を見ると、無言で微笑んだ。
穏やかで、優しい笑顔だった。
(この人は………)
こんなに……こんな風に、優しく笑える人なんだ、とミサキは思った。
マサヒコのことなら、なんでも知っているつもりだった。
彼の一番の理解者は、自分だと思っていた。
(でも……マサちゃんには……)
まだ、自分の知らない顔があるんだ、と思った。それが、なぜか、ミサキには嬉しかった。
(ミサキ……)
マサヒコは、幼馴染みの少女を見つめていた。
一瞬、風が吹いた。金色の髪が、くすぐられるように、そよいだ。
「寒くない?ミサキ」
「大丈夫……あったかいよ」
ふたりはまた見つめ合うと、微笑んで歩き出した。
(はは……似合わないかな、こういうの……)
マサヒコは自分の取った、らしくない行動に心の中で苦笑していた。
(でも………)
自分でも驚くほど自然に……ミサキの手を、取っていた。
ほんの少ししょげていた幼馴染みを励まし、その手の温もりを、感じたい。
そう思った瞬間、マサヒコは既に彼女の手を握っていた。
ひんやりと冷たかったその小さな手は、一緒に歩くうち、少しずつ、少しずつ………
マサヒコの体温に馴染むように、温かくなっていった。
(………今日も付けてくれたんだな)
ミサキの胸元に光るのは、買い物に付き合ってくれたお礼にマサヒコが贈った、あのネックレス。
あの日以来、ミサキは私服のときに必ずそれをするようになった。
(………そんな、高いもんじゃなかったけど……)
マサヒコはもう一度、そっとミサキの胸元を見た。
ネックレスは真っ白な彼女の肌に映え、良く似合っていた。
“ふわ………”
そのとき偶然―――ひとひらの雪が、ミサキの胸元に落ちた。
やや季節はずれの銀の花は……ミサキの肌に溶けるように、消えていった。
(……俺は……ミサキを……)
物心ついた頃から一緒にいた、目の前の少女を、守りたいと思った。
大切にしたいと……ただ、マサヒコはそう思った。
§
「………今日はありがとうな、ミサキ」
「ううん……良いの、マサちゃん」
名残惜しかったが……やがてふたりは、互いの家の前に着いた。
「じゃ、ミサキ……」
結んでいた手を、ほどこうとするマサヒコだったが……
“ぎゅ……”
ミサキは、その手を離さず、逆に力をこめて、握り返してきた。
「?……ミサキ?」
「おばさま……今日、お母さんとね、買い物に行くって言ってたから……遅くなると思うの」
「ああ……悪いな、いつもウチの母さん、お前の母さんを巻き込んで……」
「ううん……それはいいんだけど……あの、私……私……」
「?ミサキ?」
「話が、あるって……昨日言ったよね?」
「ああ……そんなこと、言ってたな」
「これから……その話を…してもいい?」
「う、うん……別に、いいけど?」
「じゃあ……マサちゃんの部屋で……」
「うん……」
鍵を開け、ふたりは階段を上るとマサヒコの部屋に入った。
「ちょっと待ってて……あったかいもの、飲みたいだろ?俺、お茶を」
“きゅ”
ミサキを部屋に通し、そう言って後ろを向いたマサヒコの袖をミサキが引っ張った。
「待って……マサちゃん」
「?なんだよ、ミサキ」
「私……私……あなたが……好き」
「………」
「小さい頃からマサちゃんが好きで……いつか私、あなたと恋人になって、
それで……結婚するんだって、そう思ってたの。覚えてる?幼稚園くらいの頃、
私がお嫁さんにして下さい、ってお願いして……あなたは、いいよって言ってくれたの」
「………それは……」
「でも……四年生になって、私たちクラスも別々になって、話すこともなくなって……」
「あの頃は……俺もさ、サッカー部に入って夢中だったし……」
「それだけじゃ、なかったの」
「え?」
「あなたがね、クラスの女の子と仲良くしてるのを、私、見ちゃったんだ。
なんだか学校で会っても、冷たくてそっけなかったし。すごく……すごく、ショックだった。
マサちゃんは、約束なんて忘れちゃったんだ。もう私のこと好きじゃないんだって。そう……思ったの」
「それは……違うよ。俺もガキだったし。お前と……その、ベタベタしてるのも、
ちょっと恥ずかしくなったっていうかさ。ホラ、クラスの男連中が変にはやしたりしてさ」
「私は……あなたを、忘れようとした。きっとあれは、小さな頃の思い出でしかないんだって。
そう思って、無かったことにしようとしたんだ。でも、でも……」
ミサキは、泣いていた。溢れる涙を、止めることが、できなかった。
「私は……私は……気付いたんだ。あなたが、好き。ずっと、ずっと好き。
中学生になって、また同じクラスになって、一緒にいるようになって、気付いたの。
マサちゃんが、好き。今までも、これからも……好き。もう……二度と、離れたくない」
“ぎゅッ……”
マサヒコは振り返り、背中で泣いていたミサキを抱き寄せた。
(こんなに………)
細かったんだ、とマサヒコは思った。華奢で、折れそうな体だった。
「俺も………好きだよ、ミサキ」
「………」
「俺……言えなかった。ズルイかもしれないけど、みんなと仲間のままでいたかったから。
お前と特別な関係になると、そういうのが壊れそうだったから。
でも……俺も、気付いたんだ。お前は……ミサキだけは、特別だったんだ。
だから……ミサキ?俺の、恋人になってくれないか?」
§
「!……マサちゃん…」
「……お前がウチに泊まったあの日、ああ言われてからずっと……思ってた。
ミサキと別々の学校になって、また疎遠になるのはやっぱり寂しいし、嫌だって。
お前に会えるのが当たり前になって、それが普通だと思ってたけど……。
俺は……どんな些細なことでもいいんだ。
ミサキと一緒にいて、話して、それでお前の笑った顔や、怒った顔を、ずっと、見ていたい。
フラフラした足取りでもいいから、お前と、生きていきたい」
「マサちゃん………」
涙は、止まらないままだった。渇くこともなく、流れ続けた。
初めは伝えようとしても言葉にならない、自分へのもどかしさだった。混乱した感情の、迸りだった。
しかしそれはマサヒコの言葉を聞いて……嬉し涙へと、変化していった。
マサヒコの両腕の力強さと優しさを全身に感じながら、ミサキは……泣き続けた。
「ずっと……ずっと、側にいてくれ、ミサキ……」
「はい………私も、同じ。ずっと……マサちゃんの、隣にいたい……」
泣き続けていたミサキが顔をあげる。その頬は、涙で濡れていた。
マサヒコは、彼女の頬を伝うその涙を一粒、指ですくうと……
“ちゅ……”
口に、含んだ。
「!マサちゃん!」
「……ミサキの、涙……俺のせいだよな……俺は……お前を……だから……」
思いが言葉にならないもどかしさのまま、マサヒコは……ミサキと、唇を重ねた。
“ちゅ……”
ぎこちない、キスだった。歯と歯がぶつかりあう、かちり、という小さな音がした。
お互いにただ、唇を押しつけ合うだけの幼いキスだった。
(マサちゃん……)
(ミサキ……)
それでも……ふたりは、互いを愛おしむように、唇を重ね続けた。
やわらかな、その感触を忘れぬよう……ただ、重ね続けた。
“くちゅ……”
(!み、ミサキ?)
ミサキが顔をうっすらと赤くして……舌先を、唇の隙間から差し出してきた。
驚くマサヒコだが、彼女は目を閉じたまま、掬うように……舌をマサヒコの口内に、入れた。
“くちゅ……ぷちゅ……”
「は………あ……」
「…ぁ………ふ……ぅ……」
口襞をなぞるように、口内をくまなく舐め回すように、舌と舌を絡めるように。
ふたりの舌がまとわりついて、ねろりと溶け合うように……キスを、続けた。
ミサキのものか、マサヒコのものか……区別がつかないほど混じり合った唾液が溢れ、
マサヒコの唇の端から漏れるのも構わず、キスを続けた。
「マサちゃん……は……ぁ……マサちゃん……」
「ミサキ……」
“ちゅ。ちゅ……ぅちゅっ”
本能のおもむくまま、唇を貪り合うふたり。
やがてミサキが唇を離すと、マサヒコの耳元で熱っぽく囁いた。
「今日は……マサちゃんと、私が……恋人になった、記念日なんだよね?」
「うん……」
「そして……ファーストキスをした、記念日」
「う、うん……」
「それで……」
ミサキが、マサヒコの手を取って………自分の胸の上に押しつけた。
「!ミサキ?」
「ふたりが……初めて、ひとつになった、記念日に……」
「ちょ、ちょっと待てよ、そんないきなり………そこまでは……」
「どこか……行っちゃいそうなんだもん」
「え?」
§
「私……ずっと、不安だった。マサちゃんは、私以外の誰かを好きなんじゃないかって。
マサちゃんは……いつか、どこか、私の知らない世界に行っちゃいそうで……私、不安だった」
「………あのなあ……そんな信頼ねーの?俺」
なんとなく決まり悪そうなマサヒコだが、ミサキは小さく首を振る。
「そういうことじゃ、ないの。マサちゃんのことを信頼してないとかじゃなくて……
私は……あなたがいないと、ダメ。重い女だって思われちゃうかもしれないけど、
マサちゃんのいない世界なんて、私は想像できないの。でも……あなたはね、
私のいない世界でも、大丈夫な気がして……。普通に、生きていけそうな気がして……
だから……せめて、今一緒にいる瞬間だけでも、あなたを繋ぎとめておきたいの。だから……」
マサヒコの腰に回した両腕に、ミサキは力を込めた。
「お願い……不安を、消して。私のことが……好きなんだったら、
あなたが私を好きだっていう、証拠を、下さい。もう……こんな気持ちに、させないで」
ミサキは、じっとマサヒコを見つめた。涙は止まったが、その目はまだ潤んでいた。
少し熱を帯びた眼差しは―――なぜか、ひどく色っぽかった。
(………ミサキ……)
たおやかで、優しげで、健気で、笑顔が可愛い少女だった。
ただ――なぜだろう?ふとした瞬間に、儚げで、憂いを含んだ表情をつくることがあった。
それが自分への不安感からだったと聞いて……マサヒコは、心が揺さぶられていた。
「ミサキ……いいのか?」
「……お願い……愛して、下さい。それで、どこにも……行かないで」
「うん……」
マサヒコは、ミサキを抱き締めた後……彼女の手を、引いた。もう、迷わなかった。
ふたりで並び、すとん、とベッドの上に腰掛ける。
“ちゅ……”
再び、軽い口づけを交わすふたり。
“ふに……”
ゆっくりと……マサヒコは震える手で、ブラウスの上からミサキの胸を揉む。
「んッ……マサちゃん……服、皺になっちゃうし……」
「あ……そうだね、ゴメン」
「あの……脱ぐから……後ろ、向いて」
「う、うん……」
ガチガチになりながら、マサヒコはミサキの言うとおり後ろを向いた。
カサカサと、彼女が衣服を脱いでいるであろう音が聞こえた。
ミサキが一枚一枚、服を脱いでいく姿を想像しながら――
なぜかカラカラに喉が渇くのをマサヒコは感じていた。
「えっと……俺も、脱いだ方が……良いよね?」
「………ウン」
緊張感に耐えられなくなったマサヒコはそう言った後、勢いまかせに脱いだ。
学生服やシャツを脱ぎ、投げつけるように靴下をベッドの下に脱ぎ散らかすと、
あっという間にトランクスまで脱ぎ捨ててミサキの言葉を待った。
(……こういうの、なんて言うんだっけ?人事を尽くして……天命を待つ、だっけ?)
………若干違うような気がするが。それはともかく、マサヒコはひたすら、待った。
「………良いよ、マサちゃん……」
「う………うん……」
マサヒコは、後ろを振り返った。
「!ミサキ………」
そこには、ショーツ一枚で……胸も隠していない、ミサキの裸体があった。
腕も、胸も、太腿も、全身の真っ白な肌。小さいながらも円錐型にふっくらと立った乳房。
それらをマサヒコの目の前に晒しながら……頬を染めて、震えていた。
「見て……マサちゃん……私のことを……」
「………見て、るよ……」
「恥ずかしいけど……私の、カラダなんて、貧乳だし、全然たいしたことないけど……
私は、ずっと……あなたに、抱かれることを、夢見てた……だから……」
「……そんなこと、ないよ……キレイだ、ミサキ……」
マサヒコはミサキを、抱き寄せた。
§
肌と肌から直接伝わる体温。お互いの肌をわずかに湿らせる、汗の感触。
混じり合う、ふたりの匂い。初めての経験に、ふたりは―――沈黙したままだった。
「…………ミサキ……キスするぞ」
「……ウン」
“ちゅ……チュ、ちゅ、ちる………”
マサヒコは唇から……頬、額、耳たぶ、鼻筋、耳の裏へと、唇を移動させながら舌を這わせた。
「あ……あん……マサちゃん、キスが……エッチ……」
「こういうの嫌?ミサキ」
「……嫌じゃないけど……」
「あのさ……ミサキ?俺も初めてなわけだから、その……あんまり良く分んねーし。
お前のされたいこと、言ってくれない?」
「ウン……じゃ、マサちゃん……あの、おっぱいに……キスして……」
「あ、ああ……」
“ちゅッ”
ミサキの言うがまま、薄桃色の乳首にキスをするマサヒコ。
「ひゃん……」
声をあげるミサキだが、マサヒコはひたすら……
“ちゅぷ……ちゅ、ちュッ”
可愛い突起を、口で愛し続けた。そのたびにミサキは、小さく体を震わせる。
「マサちゃん……そこだけじゃなくて……」
“ちゅう〜〜〜”
彼女の言葉に従って乳首から口を離すと、まだ熟し切っていない可憐な乳房に舌を這わせる。
「ん……んッ……」
先ほどよりは少し控えめな反応ながら……ミサキは、溜息のような声を漏らした。
“すッ”
「!」
乳房に舌を這わせたまま、マサヒコはミサキのショーツの中に指を入れてきた。
驚くミサキだが、拒絶はしていなかった。
“じゅり……きゅり……”
「……んッ……」
初めは、恥毛を擦る程度だった。やがて徐々に指を……ミサキの中心へと、移動させる。
“ふにゅッ………”
指から伝わる、柔らかな肉丘の感触。そしてさらにその奥には………
“くちゅ”
(!……ミサキ?)
既に湿り始めていた、裂け目があった。
「ミサキ……もしかして……お前もう……」
「や……言わないで」
恥ずかしげに、ミサキが両手で顔を隠す。
そんな恋人の仕草に彼女がいっそう愛おしくなったマサヒコは、首筋に舌を這わせた。
“ちゅるッ……”
「!やン……あッ……」
「ミサキ……あと、して欲しいこと、ない?」
「………あの……マサちゃん……エッチなお願いでも、いい?」
「?別にいいけど……」
「あの……私の、あそこに……マサちゃんのお口でキスして欲しいの……」
「!う、うん……」
ミサキから体をいったん離し、ゆっくりとショーツを下ろす。
(!……はあ……ホントにキレイだよ、ミサキ……)
ごく薄目に、秘めやかな部分を隠す繊細な茂み。
それは彼女の髪と同じ金色で……白い肌に映え、鮮やかだった。
「……マサちゃん、恥ずかしいから……そんな見ないで……」
「あ、ゴメン……あんまキレイなんで、つい……」
「………もう……」
互いに照れながら、マサヒコはショーツをミサキの足から抜き、そこを軽く広げて顔を寄せる。
§
(ミサキの……あそこ……)
至近距離で眺める。先ほど指先で確認した、ふっくらとした肉丘。
ふわふわと生い茂る、恥毛。固くぴっちりと閉じられた、処女そのものの可愛らしい裂け目。
そしてそこには……ほんのわずかだがナメクジが這った後のような、てらてらと光る跡があった。
“ちゅッ”
「あ……」
ぷちぷちとしたそこに顔をつっこむと、ミサキのリクエスト通り、裂け目にキスをした。
“ちゅッ……ちゅ、ちゅろ”
そして閉じられた筋に沿わせるように、何度も何度も、舌を這わせる。
既に興奮状態にあったミサキのそこからは、豊富な愛液がとろとろと分泌される。
マサヒコの唾液とそれがぐちゅぐちゅに混じり合い、べとべとに濡れ、ふやける。
ゆっくりと、ゆっくりと、ミサキの肉門は口を開こうとしていた。
“くちゅ……”
「は――ッ……ん……」
開きかけたそこに、舌先を尖らせて侵入した。
“ちゅ、りる……りゅち”
ピンク色の、そこをくすぐる。くちゅくちゅと、中で舌を動かす。
柔らかな肉の中を、掻き回す。マサヒコは、ただ無我夢中でミサキの中心を貪った。
舌先に嬲られて、ミサキのそこはさらに愛液をとくとくと溢れさせる。
初めての快楽に堪え忍ぶように、ミサキがベッドのシーツを両手できゅっとつかむ。
「う………うぅん……」
「ミサキ……?大丈夫?」
「うん……マサちゃん……気持ち、ふン……良いよ……」
「ミサキ……あの……俺のも……もう……」
ミサキの股間から顔をあげると、マサヒコは自分のそれを指し示した。
完璧に……痛そうなほど、勃起しきったペニス。
「………私は……いつでも……」
「じゃ、じゃあ……OKだね?ミサキ」
「はい……して、下さい」
しかし――そんな言葉とは裏腹に、ミサキは頬を赤く染めたまま小さく震えていた。
拙いながらも続けられたマサヒコの口撫のおかげで、からだの準備は整ったように見えた。
だが初めての体験を前に彼女は――期待と恐怖のふたつの感情の間で、揺れ動いていた。
(ミサキ……)
一回、ぎゅっとミサキを抱きしめるマサヒコ。心臓の音が、肌越しに聞こえた。
不安を、消すように。温もりを、伝えるように。彼女の肌の記憶を、自分の肌に刻み込むように。
―――無言で彼女を、ただ、抱きしめ続けた。
「ミサキ……優しくできるかなんて、分らない。
俺は……お前を、大切だって本当にそう、思ってる。だから…………」
「ありがとう。でも、本当に私を……大切に、思ってくれるなら……
私のからだが、あなたのものになったっていう……しるしを……下さい」
「ミサキ……」
マサヒコはわずかに体を起こし、ふたりの間に空間を作る。
自分のペニスに手を添え、ミサキのそこにつくん、とのせる。
「……………」
その瞬間、ミサキが体を強ばらせる。口をきゅっと結ぶ。目を強く閉じる。
(………ココ、なんだよな?)
不安げな彼女を見ながら、マサヒコは必死で入り口を探る。
“ぐッ……ぬぅ!”
ようやくそこを見つけたマサヒコが、力任せに挿れる。
「あ!きゃあッ!!」
初めての痛みに、ミサキが叫ぶ。マサヒコの背中に手を回し、肩胛骨に爪を立てる。
「ご、ゴメン……ミサキ……」
「いい……平気……」
赤い顔で、うわの空めいた表情で、ミサキが答える。
マサヒコは………躊躇った挙げ句、もう一度、ゆっくりと突く。
§
“ぐッ……ぬぅぅ……”
「は―――ッ………あ……………」
(う……狭い……ミサキの……中……)
先端だけは入りかけたものの、あまりに小さくて狭いそこはマサヒコの侵入を跳ね返してしまう。
(ゆっくり……ゆっくり……)
“ず……ずぅる……ぬる……”
少しずつ、少しずつ。圧力を減じるように、少女の体をいたわるように、進む。
ぷちぷちと、裂けるような感触がペニスの先から伝わる。汗ばんだ皮膚と、鼓動を感じる。
まだ固く若い肉がきゅっと引き締まり、熱を帯びる。
「ミサキ……もう少し、あと少しだから……」
「…………ウン」
“う゛ぬッ……ぬしゅ……”
「あ……」
「入った……全部、入ったよ。ミサキ、分る?」
「……あ、ある。マサちゃん。……私の……奥に……あなたが」
肉の襞にくるまれた、実感としての体温。熱かった。呻くほどに。目眩が、するほどに。
打ち込まれた肉棒の、灼けるような異物感。そこから焦げてしまいそうな、淫らで甘い痛み。
ふたりは、お互いの熱さを感じながら、浅い呼吸を繰り返す。
息を吐くたびに、苦しくなる。魂までもが喉から零れ落ちそうな錯覚に、惑う。
「ミサキ?」
「ッは、はい」
「………動くぞ」
「………はい」
有無を言わさぬ口調で、マサヒコがそう囁いてミサキが頷く。
“ずッ……ずるぅぅ〜〜……ぬるぅッ”
ゆっくり、ゆっくりマサヒコが動く。肉と肉が擦れてぶつかる音。揺れて溶ける音。
「ふ―――あっ……あ………はァ………」
からだとからだが、熱を、思いを、共有し、奪い合う。
ミサキの中をマサヒコが奔り、マサヒコはミサキに包まれる。
“ずッ……ぐぅる〜〜、ずじゅ、ぬぅ〜〜”
最初は遠慮がちだったマサヒコの動きが、徐々に強いものへと変わる。
どろり、と粘るミサキの中に、何度も何度も体を絡め、杭を打ち込む。
「う……あ……ミサキ……あ……」
(あ……すげ……女の子の中って……あったかいんだ……)
「マサちゃん……あッ、うッ、マサちゃあん!」
痛み。眩暈。甘さ。覚醒。熱さ。愛しさ。寒さ。いくつもの思いが、ミサキの脳裏ではじける。
「ッはあッ、お願い……キスを……あッ、キスして……マサちゃん……」
「あ……ああ……」
交わったまま、唇を重ねる。ミサキが舌をマサヒコの口内に入れて動かす。煽るように、動く。
それに答えようと、舌を入れて………
「!?!うッ!」
その刹那、目の前で火花が散ったような痛みを感じて思わず身を引こうとするマサヒコ。
しかし、ミサキは体をつかんで離さない。―――噛み切られた。はっきりと、意識した。
口内に、錆びた鉄のような血の匂いが広がる。じりじり、と噛まれた舌先が痺れる。
「な、なに、すんだよ、ミサ……」
「…………これで……あなたも、一緒……私と……一緒。
気持ち良くて……痛いでしょう?一緒だから……私を、離さないで…忘れないで……」
唇をマサヒコの鮮血で少し濡らしながら、ミサキがうっとりと呟く。
(………ミサキ?)
壊れている、とマサヒコも思った。しかし―――そんなミサキの表情はとてつもなく妖艶で、
マサヒコは身震いするほど彼女に欲情してしまっている自分を、止められなかった。
「そうか……そうだな、ミサキだけ痛い目にあうのは、不公平だよな。
じゃあ……もう、遠慮しないぞ?今、お前はと俺の血が、混じったんだから」
「はい………いいよ、マサちゃん。好きに……して」
“ぐぅッ!ずッ、ぬる………ずッぶ!!”
§
マサヒコの動きは、言葉通り遠慮ないものになっていた。強く、抉る。突く。掻き回す。
「うッ……ぐッ……ああ……マサちゃん……マサちゃん」
ほとんど暴力的なマサヒコの挿入に、ミサキは痛みを通り越して被虐的な快楽を得ていた。
内臓が掻き回されるように。子宮の奥まで、みっちりと埋め尽くされるように。
「あ……ミサキ………あ……」
マサヒコも、強く挟まれ、圧迫される。ぎちぎち、と満たされ、搾り取られる。
本能のまま、からだをぶつけあっていたふたりだったが……やがて、マサヒコに限界が訪れる。
「み……ミサキ。俺……俺……もう……」
「マサちゃん………あッ、お願い……赤ちゃん、出来ちゃう……から……」
「あ、あ……わ、分った……」
マサヒコが限界間際で、ずるり、とミサキの中から引き抜く。その瞬間、
“びゅッ!びゅくッ!びゅうッ!!”
マサヒコのペニスが、白い……と言うより、黄色に近い白の精を吐き出していた。
ミサキのからだに、べっとりとした精がはりつき、零れ、広がる。
「あ……あ」
放心状態で、それを見つめるミサキ。白い彼女の裸身をキャンバスにして、
射精はまだ終わろうとしなかった。マサヒコも、自分の分身の暴発を惚けたように見つめていた――
「ミサキ……まだいてえよ、舌」
「ごめんなさい……私、夢中で……」
全てが終わり、後始末を終えると――ふたりは、改めてベッドの中で裸のまま、じゃれ合っていた。
「でもね、マサちゃん?」
「?なに?」
「あのときは……思ったの。あなたを傷つけないと、あなたは私を忘れちゃうって」
「……あのなあ、ミサキ。忘れるもなにも、俺はずっとお前に側にいて欲しいって……」
「だって……だって……いくら、言葉で言われたって私……」
またも涙ぐむミサキ。マサヒコはしばし思案顔でそれを見つめた後……
意を決したように、彼女の手を取った。
「?」
涙を目に浮かべたまま不思議そうな表情のミサキに構わず、マサヒコは言った。
「ミサキ……俺達さ、まだ学生だし、親の金で食ってる身分だし。
だから偉そうなこと言えないけど。でも……約束するよ。お前を、必ず……迎えに行く」
そこで言葉を切るとマサヒコはミサキの細い薬指を口にくわえ、その根本を……
“カリッ”
「!きゃッ!」
ほんの少し強く、噛んだ。
「ゴメン……痛かったかもしれないけど、ミサキ?ここが将来お前に贈るつもりの、
指輪の指定席。だから……絶対、他の奴に指輪を贈られても、ダメだからな?
ここには、俺の贈る指輪が入るんだから」
「マサちゃん………」
それは、不器用なマサヒコなりの、プロポーズ。
左の薬指の根本には、確かにマサヒコの歯形が指輪のように赤く、残っていた。
「……ミサキ……俺の指には、お前が……」
「ウン……」
マサヒコの薬指が差し出され、ミサキもそれを口に含む。目を閉じ、強く――噛む。
“コリッ”
「!ッつ………」
同じく、マサヒコの指にもミサキの痕跡が残される。
「絶対……だからな?」
「はい……誓います。あなたを……一生、愛することを。もう、迷わないことを」
「誓うよ。お前と……生きていく。どんなときでも」
手のひらを裏返し、歯形の跡を見せ合うふたり。
ただ、幸せそうに微笑んでいた。いつまでも……愛し合うことを、誓って。
END