作品名 作者名 カップリング
「ちいさなこいのうた」 郭泰源氏 -

「よ〜〜っす、迎えに来たわよん♪」
「せんせえ!」
「お姉様――!」
「こんにちは〜〜あれ?マサヒコ君は??」
「それが…マサ君なんでも用があるとかで、急いで帰ったんですけど?」
「あちゃ〜、いれちがいかあ…」
「そっか…マサの奴は童貞だから尿道と挿れる穴を…」
「そのいれ違いじゃありません!!にしても珍しいね、マサヒコ君がそんな急いで帰るの」
「そうなんですよ!最近はスグに帰っちゃうんです。今日は委員会の日でもないから
私も不思議に思って『何の用なの?』って聞いたんですけど、マサ君歯切れが悪くって…」
キラ――ン☆、と中村のメガネが光り、にやり、と思わせぶりな笑みが浮かぶ。
「……いいの?ミサキ…」
「え?」
「それは…私の直感からすると、ほぼ100%浮気よ!」
「「「「ええええええ!」」」」
「てゆーか、まだミサキちゃんとマサヒコ君付き合ってな…」
「ままま、まだとかはこの際どうでもいいんです!本当ですか?中村先生!!」
「男が理由を言いたがらずに一緒に帰るのを嫌がる…それはズバリ!
心にヤマシイことがある証拠!すなわち…他に女が出来たと見て間違いないわね!!」
ビシッ、とミサキを指さして決めのポーズをつくる中村。男女のコトに関しては
(いろんな意味で)百戦錬磨の猛者である彼女の発言に、4人は沈黙した。
「あれ?でも…今日は家庭教師の日ですよね?そんな日にわざわざ女の子と会いますか?」
「ふふん…甘いわね、アヤナ。男と女の逢瀬ってのはねえ、短い時間の方が
逆に燃え上がったりするものよ。今頃は一回戦が終わってる頃かも?」
「そそそ、そんなッ!」
放課後の教室に絶叫が響く…しかし他に生徒がいないとは言え、学校でする類の話題ではない。
「ま…論より証拠よ。今から浮気男の首根っこを押さえに行きましょうか」
「?」
「マサの家に行けば、今頃アイツ、一発終わった後のツヤツヤした顔で待ってるはずよ。
奴にナニも言わなくていいの?ミサキ、アヤナ、アイ、リン?」
「行きましょう、中村先生!」
「先輩!早く!」
脱兎のごとき勢いで駆け出す4人。中村はそんな彼女たちの様子をニヤニヤと眺めていた。
£
「あらら?どうしたの、4人してそんな血相変えて…」
「おばさま、ままま、マサ君はッ!」「マサヒコ君はッ!」「小久保君は!」
「???いや、部屋にいるわよ?…あ、ゴメン。私今から買い物に行くけど、
アイツの部屋に先客がいるんで、よろしくね?」
「せせせせ先客!」
「女ね…間違いないわ。…もうお母様も公認の仲なんて…」
ボソッ、と呟く中村。
「「「「おじゃまします!」」」」
4人はすさまじい勢いで小久保邸にあがると階段を駆け上がっていった。
「…リョーコちゃん、なんかあの子たちを焚きつけたでしょ?」
「あらら〜さすがにお母様にはバレてますか?」
「ま、いいけど…あんまりウチの息子を虐めないでやってね?ニブチンだけど悪気はないんだから…」
「はい…努力いたします」
そう言ってぺろっ、と舌を出して頭を下げる中村。マサヒコママは苦笑して小久保邸を後にした。
£
―――そして舞台は再び転換してマサヒコの部屋の前。息を切らして集結する4人。
「@p6はぁぁぁ――っ、ぜえ、ぜえ!」
「$"%ぜえ、ぜえ、じゃ、じゃあいきますよ?みなさん!…ま・さ・く・ん!!!!」
"コンコン"
4人を代表してミサキは叩きつけるように荒っぽく、ドアをノックした。
「?あれ?ミサキ…な、なんで…お前が…」
§


ドアの向こうでは、焦ったようなマサヒコの声が聞こえた。
4人は確信を持って顔を見合わせると…強引に、ドアを開けた。
"バンッ!"
「マサヒコ君!」「マサ君!」「小久保君!」「うわきもの――!!!」
…そしてそこには…
「??????な、なんなの?いきなりアンタら?」
「ふぇ〜〜〜ん、マサにいたん、こわい!」
マサヒコの膝元に座り、おびえた目をしてそう言ったのは…少女と言うより、
幼女と言った方が適切な―――まだあどけない顔をした女の子だった。
「「「「????????」」」」
言葉を失って固まる4人。――そして、今回の元凶、中村がのっそりと姿を現した。
「あら〜〜〜〜マサ、アンタってやっぱロリコンだったのね?」
「はは、はあああ?」
「だって年上の美女にも同級生の美少女にも平気な顔してたのは、
幼女にしか欲情しないからだったんでしょ?今のアンタの姿はそれを雄弁に物語って…」
「そ、そんなッ!ひどいよマサ君…うわあああああ」
「…やっぱり男は獣よおおおおお」
「お兄ちゃんにもそのケはあったけど…まさか小久保君まで…」
「こくぼく〜ん、そうなんだ〜?」
「………いいから、俺の話を聞け」
£
マサヒコの話によれば――彼の膝元で警戒心丸出しの表情をしている少女の名は、松中タカコ。
マサヒコママの妹、松中シズの娘…すなわち、マサヒコにとって従妹にあたる人物だという。
先週、シングル・マザーであるシズに突然の仕事で海外出張が入ったため、
やむなくタカコを小久保家に預かってもらったというのがコトの真相らしい。
£
「な〜んだ、そんなコトだったの?小久保君もそうならそうと言ってくれれば…」
「…有無を言わさずに怒鳴りこんできたのはどこのどいつだ?」
「!あ!そう言えばマサ君、私もしかしたらこの子に昔会ってるかも…」
「だろうな。ミサキは会ってるかもな…」
「??マサにいたん、なんなの?このひとたち…」
「ああ…俺の…ともだちだよ」
「ふ〜〜ん…マサにいたんの…ともだち…」
少し警戒を解いて…女性陣を見つめるタカコ。
―――年齢は4歳ぐらいだろうか?従妹というだけあって、マサヒコに少し面影の似た……
可愛い女の子だった。薄く形の整った唇や涼しげな目元は、どこか大人びた印象を見る人に与えた。
「…でもさ、マサ?いくら従妹どうしだとはいえ、仲良すぎない?
さっきからずっとその子アンタに抱きつくみたいにして動かないじゃない」
「それはアンタらが脅かすからだろうが!」
「ゴメンね…大丈夫だよ?タカコちゃん…」
子供好きのアヤナがなんとかタカコの警戒を解こうと手を広げて近づくが…。
「ふぇえ〜ん、マサにいたん…あのおねえちゃん、かおがこわい…」
撃沈。
「ひさしぶりだね、タカコちゃん…私のこと、覚えてるカナ?」
今度はミサキが満面の(作り)笑顔で近づくも…
「ええ〜〜ん、マサにいたん…あのおねえちゃん、せなかからへんなひかりがでてる…」
闘気を隠せず、撃沈。
「タ〜カ〜コちゃ〜〜ん、あ〜そ〜ぼ〜〜〜」
「………うん…」
すとん、とマサヒコの膝元から降りると――タカコは素直にリンコの側へと近づいていった。
そのまま、ふたりは楽しそうに遊び始めた。
「…リンちゃんって動物好きだからやっぱり子供にもなつかれるんですかね?」
「いや、ただ単に精神年齢が近いだけかもしれないわよ?」
小声で好き勝手なことを話す女子大生ふたりはお気楽なものだが、
ミサキ&アヤナのコンビは心中結構傷ついていたりして。
§


マサヒコは苦笑しながらリンコとタカコの遊ぶ中に混じった。
「タカちゃん、ホラ、あんまりはしゃぐと…」
(…小久保君って子供好きなんだ…私と結婚したりしたら良い旦那様に…!?
ってやだ、私何考えてんのよ!べべべ別に、私は小久保君のことなんか…)
予想以上のマサヒコの良いお兄さんぶりに、ちょっと萌え状態のアヤナ。
「ふ〜〜〜〜ん、しかし…そうね…」
「どうしたんですか?先輩?」
「いや、意外にリンとマサってこう見るとお似合いっていうか…若夫婦みたいな感じじゃない?」
「あ…そう言えば…」
「ふふ〜、小久保君がお父さんで私がお母さん、それでタカコちゃんが子供ですかあ?」
にこにこと微笑みながら、的山さんいきなりの天然爆弾炸裂。
そしてそれを恨めしげに見るアヤナ&ミサキだったが…
「や!」
タカコが、突然むずがりはじめた。
「ど、どうしたの?タカコちゃん?」
「や!マサにいたんはわたしとけっこんするの!」
「え?」
「そうだよね、にいたん?」
「…うん…」
なんとなく照れくさげに、マサヒコはタカコの頭を撫でながら答えた。
「マサ…やっぱりアンタ…ロリ…」
「だから、子供の言うことなんだから…」
そう言うマサヒコの後ろで凄まじい闘気を放つ少女の名は、もはや言うまでもないだろう。
(子供の言うことでも…子供の頃の約束でも…それを…ずっと忘れない人間は…いるのに)
ミサキの心の中では、激しい炎が燃えさかっていた。
"ピンポ〜〜ン"
「ん?お母様かしらね、帰られたのかしら…」
「お〜〜〜い、タ〜〜カ〜〜コ〜〜!」
「!おかあたん!」
タカコが小走りにみんなの間を走り抜けると、階段へと向かった。
「コラ、タカちゃん…慌てると、コケるぞ…」
心配げにその後ろを追うマサヒコ。他の女性陣もなんとなくその後を追った。
「ありがとうね〜〜、マー君。うちのチビを預かってくれて…」
「いや、いいんですよ、シズ姉さん…」
玄関に現れたのは…20代後半とおぼしき、長身の美人。
くだんの人物、マサヒコママの妹にしてタカコの母親・松中シズである。
かっかっかっ、と豪快に笑うと、足下に駆け寄ってきたタカコを抱きかかえた。
「あ、お久しぶりです!シズさん…」
「あ〜ら、お久しぶりねえ、ミサキちゃん…にしても…マー君、相変わらず君モテるのね〜」
「!?!な、そんなことありませんて。からかわないで…」
「じゃあ君の後ろにいる可愛い女の子たちはなんなのかな〜♪」
「あのね、おかあたん。マサにいたんのおともだちなの」
「なるほど。セックスフレンドってわけ…もが?」
無言でシズの口を抑えるマサヒコ。
「タカちゃんの教育に悪影響を与えるような発言は控えてください」
「も〜う、相変わらず冗談の分らないコねえ…お姉ちゃんの息子とは思えないわ…」
「父親の教育が良かったんです」
……どうやらマサヒコは子供の頃からツッコミ役として英才教育を施されてきたらしい。
「あれ?そういやお姉ちゃんは?」
「あ…なんか駅前に買い物に行くって…」
「あちゃ――!入れ違いかあ…って言っても穴の挿れ違いじゃないのよ?」
「…俺子供だからわかんないんですけど…」
(どこかで聞いたような…)
後ろの5人は既視感に包まれながらふたりの会話を聞いていた。
「冗談はさておき。悪いけど今日はここでゴメン。ちょっとね、急ぎの用事が入っちゃって…」
§


「え?いや、せめて一緒に夕飯くらい…」
「ゴメン!お姉ちゃんにもし駅前で会えたら謝っておくからさ。それじゃあ、マー君、ありがとうね!」
急いでその場を立ち去ろうとするシズだったが、タカコがいやいや、と首を振った。
「ん?どうしたの、タカコ?」
「や!まだかえらない!タカコ、マサにいたんにまだばいばいしてないもん!」
「あ〜、ゴメンね…じゃあほい、マー君?」
「あ…はい」
シズからタカコがマサヒコに手渡される。
「じゃあね、ばいばい…マサにいたん」
少し寂しげな表情で、タカコが言った。
「うん、ばいばい、タカちゃん…え?」
"ちゅっ"
そしてゆっくりと…タカコは、マサヒコにキスをした。
「ぜったいわすれないでね?マサにいたんは、タカコとけっこんするんだよ?」
「あはははは…そうか、従兄妹なら結婚できるんだな!よろしく頼むよ、マー君!!」
呆然と固まっているマサヒコをよそに、シズはやたら楽しげに笑うと、タカコを彼の手から戻した。
「じゃ、マー君、15年後を楽しみにね〜〜〜♪私を見ても分るだろうけど、
タカコはなかなかの美人になると思うよ〜?後ろで怖い顔してる子たちに負けないくらいのね〜〜♪」
「…え?」
シズの言葉で我に返ったマサヒコが後ろを振り向くと、そこには………
「じゃあ…マサヒコ君?」
「みっちりと」
「今日の勉強を」
「はじめましょうか?」
「…あの、今日はもう時間も遅いですし…その、また後日ということには…」
「「「「「いっくわけないでしょうが!」」」」
鬼の形相をしたまま、4人がガシッ、とマサヒコの両手両腕をつかんだ。
「あああ!た、助けて………!!!」
断末魔の叫び声をあげるマサヒコ。そして……
(ああ…なんてかわいそうなマサ……ま、助けないんだけど)
物陰から、心底愉快そうに眺めている女性がいたのは、言うまでもないだろう。

END

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