作品名 作者名 カップリング
「反抗期と初恋」 郭泰源氏 -

「ただいま…あれ?若田部」
「こ、こんにちは、小久保君…」
ときは高校に入って初めての夏休み――いつものようにバイトを終えてマサヒコが帰宅すると、
そこにはなぜか緊張した表情のアヤナと、なにやら相談をしている中村とアイがいた。
中村の表情は険しいもので…アイの表情は、少々困惑気味だ。
「なにかあったんですか?中村先生も珍しくこんな時間に帰ってきてるし」
時刻は8時過ぎとは言え、銀行勤務の中村が金曜日のこんな時間に
既に帰宅しているということは同居してから初めてのことだった。
「ウン…ねえ、マサ?」
「はい?」
「ウダクダ言ってても仕方ないからズバリ言うけど…アヤナもね、
しばらくここに住まわせて欲しいんだわ」
「?>+$は、はあああ?」
「ちょっと先輩、いきなりすぎますよ…それじゃあマサヒコ君が混乱するだけですよ」
「そ、そうですよ。濱中先生?いったいなにが…」
「うん、あのね、アヤナちゃん、家出したの。それでここに住まわせて欲しいんだって」
(…先生の説明も大して変わらないんだが…)
「あ〜もう、わかったわかった。私が順を追ってキチンと説明してやるから…」
おおまかに話をまとめると―――
たまたま今日、アヤナが進路について家族と話しあう機会があった。
「保育士になりたい」という自分の夢を両親の前で口にしたのだが、猛反対にあったらしい。
「女の子とはいえお前にも若田部家の名を低めるような職業にはついて欲しくないな。
弁護士などのスペシャリスト、最低限官僚くらいにはなって欲しいところだ。
それが無理だというなら大学などいっても意味はない」
その父親の発言に完全に頭にきたアヤナは両親と激しい口論になり、
家を飛び出してしまったという。だが激情に身を任せて家を出たものの、
冷静になってみればどこにも行く当てなどない。
途方に暮れた彼女が連絡を入れた相手が中村であったことは、もはや言うまでもないだろう。
「はあ…そういうわけだったんすか…」
「あの…すいません、やっぱり私…」
「いいって、アヤナ。こういうときはね、自分の気持ちが落ち着くまで
親御さんと顔を合わせないのが賢明よ。今戻っても絶対また口論になるわ」
(しかし…なんでアンタが決定権を握ってるような言い方なワケ?)
確認しておくが…両親がいない今、現在の家主は一応マサヒコなのである。
「でも…小久保君も、迷惑そうだし…」
「…イヤ、別に迷惑とかではないんだけど…」
いつになくしょげて気弱そうなアヤナの表情を見てしまえば、
拒否することなどマサヒコにできるわけもない。
「そうよ〜、アヤナみたいな可愛い女の子を外に出してみなさい。
大変なことになるのはアンタだってわかるでしょ〜?アヤナの家には私から連絡入れておくから…」
「そうですね、女の子は外に出ると七人の飢えたオオカミに出会うと…」
「先生、それ全然違うと思います」
「ま、細かいことは抜きにして!じゃあ今日はアヤナの歓迎会ってことで、飲むわよ!」
なぜか妙に楽しそうに宣言すると、中村は冷蔵庫から缶ビールを4本取り出した。
「せ、先輩、でもふたりともまだ未成年…」
「ガタガタ細かいことを言わないの。
アヤナだってあたしの就職祝いのときはシャンパンをバンバン飲んでたし、
マサが結構イケる口なのはアンタも知ってるでしょ?
明日は土曜日で休みだし、今日は徹底的に飲むわよ!」
そう言って強引に話をまとめると……、
"プシュッ"
勢い良く缶ビールを開け、乾杯をする中村。
3人は、半ば苦笑しながらもそれに付き合うのであった―――。
§

「あ…小久保君」
むくり、とアヤナが目を覚まして体を起こした。
「あ、わりい若田部、テレビうるさかった?」
「う、ウウン…そんなことも…ないんだけど…目が…覚めちゃった」
宴もお開きになり、中村&アイの年長コンビがいつもどおり潰れた後…。
マサヒコはそれぞれを部屋まで運び、少しつらそうなアヤナを居間に寝かせて
タオルケットをかけておいた。それだけではやはり不安だったので、
アヤナのそばで何をするでもなく音量を絞った深夜放送を見ながらビールを飲んでいた。
「ふあ…あ、小久保君まだ飲んでる…」
「あ…ゴメン、なんだか俺も眠れなくてさ」
「お酒強いよね、小久保君…」
「そんなこともないんだけど…眠れないと飲みたくなるんだよね」
アヤナに気を使ったのだろう、電気は消してあった。テレビのほのかな明るさが―――。
マサヒコの整った横顔を照らし、それがなぜかひどく残酷なもののようにアヤナの目に映っていた。
「あの…やっぱり怒ってる?小久保君…」
「?なにが?」
「だって…いきなりこんな風に転がりこんだりして…」
「はは、そんなの構わないって。今更一人増えてもさ」
「でも…」
「本当にいいんだって…若田部をひとりにしておくほうが心配だしさ」
「…」
アヤナは、きゅん、と胸が軽く締め付けられるような気持ちを味わっていた。
(わかってる…わかってる。小久保君は………、
特別な思いで言ってるわけじゃないってことぐらい…私にだって…わかってる)
それでも…なんど、このひとの笑顔に自分は救われてきたのだろう、とアヤナは思っていた。
「でもさ、若田部も思い切ったよな…お前ぐらいの成績なら、親も期待するなってのが
無理ないところだけどさ。それでも自分の夢を目指すっていうんだから偉いよ」
「…そんな…カッコイイもんじゃないよ…」
「いや…そうだよ。俺みたいに自分のやりたいことも見つからないで
フラフラしてるような人間とは違うさ。やっぱり若田部はスゲーよ」
「ううん…本当はね、違うんだ…小久保君」
「?なにが…違うんだ?」
「……今日、両親ともめたのも…本当は、もっと単純な理由だったの」
「…」
「親はね…私がもしもっと成績悪かったら…適当な短大とかに放り込んで、
それで卒業したらすぐに相手探してきてお見合いとかさせて結婚させて…。
とにかくそんなお決まりのコースに行かせるはずだったんだ。
私…それが嫌で…勉強して、頑張ってきたんだけど…もう最近つくづく嫌気がさして…」
アヤナは、自分に驚いていた。
今までに誰にも――意地でも、絶対に言えないはずの話だった。
だが…今、彼女の口からは堰を切ったように言葉があふれ出てきていた。
「アメリカ行くのだって本当は私、全然行きたくなかったんだ。でも当たり前みたいに勝手に決めて。
だから去年ね、散々嫌だって言って…あのときはたまたま父さんの海外赴任も中止になったけど…。
でも、あのとき思ったの。親は…あの人たちは、私のことなんて全然考えてない。
ただ自分たちの道具ぐらいにしか思ってないって。料理とか小さい頃から習わせたのも、
それがお見合いで有利になるって考えたからだし、結局取り止めになったけど
アメリカ行くのだって…私はお兄ちゃんと残ったって全然平気だったはずなんだ。
ただそれが私の経歴とかに箔がつくって…そう思ったから連れて行くつもりだったんだ。
私の気持ちなんて…どうでも良かったんだ」
止まらなかった。アヤナは、自分の思いを全て…吐きだしていた。
「私のことなんて…誰も本当は…」
「俺らが、いるじゃん」
「え?」
§

言葉をさえぎって、マサヒコがアヤナに微笑みかけた。
自分の発言が止められたということよりも…。
突然のマサヒコの発言と、その自然な笑みにアヤナは戸惑うのだった。
「若田部…あのさ、俺らがいるよ。中村先生も、濱中先生も…。
みんな、お前のこと心配してるし、好きだろ?そうじゃなきゃさ、こんな風に引止めないさ」
「…」
「少なくともさ、俺は…今の若田部をひとりにするのは心配だし、
もっと…両親とも、しっかり話をしたほうがいいんじゃないかって思ってる。余計なお世話かもだけど」
「…ううん、そんなこと…ない…」
アヤナは、自分の中に生まれた感情に引き続き戸惑っていた。
自分は…今まで、できるだけひとりで生きてきたし、これからも…ひとりで生きていくつもりだった。
だが、マサヒコと、リンコと、ミサキと、中村と、アイと出会ってから…、
少しずつそんな気持ちに変化が生まれたことに気付いていた。
そして、今この瞬間――アヤナは、自分の気持ちをはっきりと自覚していた。
(多分…私は…)
寂しかったんだ、と思った。ひとりで…誰にも頼らず、生きていくつもりだった。
それでも…今日みたいに、どうにもならなくなってしまうことも、混乱してしまうこともある。
そんなとき、中村やマサヒコの顔が浮かんでしまったのは否定できない事実だった。
(でも…多分、小久保君には…)
「ありがとう…少し、元気が出たかも」
「はは、そんなお礼言うほどのことじゃ…」
「ううん…一人じゃ…どうしようもないときって、あるんだよね…ねえ、小久保君?」
「なに?」
「小久保君って…今、大切に思ってるひとがいるでしょう?」
「!・?な、いきなりなんだよ、若田部」
「ふふ…その慌てようはやっぱりいるんだね?だってさ、中学生の頃より…
あの頃も小久保君は優しかったけど…今の小久保君はすごく優しいよ?
多分…心に、きちんと思うひとがいるから…私にも優しくできるんだな、って思ったの」
「…鋭いな、若田部は」
顔を赤くしてボリボリ、と頭をかくマサヒコ。
(ふふ…可愛いんだから、小久保君は…)
その姿を見ながら、思わず微笑んでしまうアヤナであった。
「うん、そうだね…俺は今、すごく…大切なひとがいる。そのひとが…幸せでいてくれればいいな、
って思ってるし…俺が、幸せにしたいと思ってる。でもだからって別に…」
(…だからね、小久保君…そんな風に思えるあなたは…他人にも優しくできるのよ)
「よし、決めた!」
「な、いきなりでっかい声出してなんだよ、若田部?」
「うん、私、恋愛する!」
「へ?」
「いっぱい良い恋して、それでね、頑張って子供に好かれる素敵な保育士になる!
負けないよ、小久保君?」
「…勝ち負けじゃないと思うけど…まあ、お前がそう思うんだったら…え?」
微笑んだまま、アヤナは立ち上がると…突然、マサヒコにキスをした。
「¥#わあわわわわ、若田部?」
「あたしのファーストキスなのに、その表情ってひどくない?小久保君?」
「あ、そりゃゴメン…じゃなくてえ!」
「ふふ、人の初恋とファーストキス、同時に奪って無惨に散らせといて…
ホント、小久保君は罪な男よね」
「…?>?って、おい若田…」
「ま、あなたのおかげで立ち直ったって言えなくもないから、感謝はしておくね。
あ・り・が・と!じゃ、おやすみ〜、小久保君」
なぜか妙に楽しげに…アヤナは、部屋をあとにした。呆然とその場にたたずむマサヒコ。
§

"カチャ"
どれくらい時間が過ぎた頃だろうか、マサヒコは、自分の背後に小さな物音を聞いた。
頭を左右に小さく振って溜息をひとつつくと…振り返って、言った。
「いったいいつぐらいから聞いてたんですか?」
「…ゴメン、バレてた?マサヒコ君…」
申し訳なさそうに…アイが、顔をのぞかせる。
「えっと…あのね、目が覚めちゃって…喉が渇いて、階段を下りてきたら君とアヤナちゃんの
話が聞こえて…で、でも…ひどいよ、マサヒコ君!アヤナちゃんとあんなこと…」
「…まあ、一応謝っておきますけど…あれは、俺が悪い訳じゃないですよ」
「で、でも…」
「若田部もね、気付いてたんです…俺に、好きなひとがいるってことに…」
「え…」
「多分…あいつは、もう大丈夫ですよ。元々強い奴だし。
それと…先生、盗み聞きされた俺にも怒る権利はありますよね?ちょっとこっちに来てください」
「あの…ゴメン、マサヒコ君」
いつになく無表情にそう言い渡すマサヒコにすっかりしょげかえったアイは、
おとなしく彼の側へと移動した。
「ほいっと」
マサヒコは、そのままアイを抱き寄せると…。
"ちゅ…"
アイの頬に、キスをした。
「ま、マサヒコ君?」
「あーーーー、もう、細かいことはいいですから。今俺、先生にすっごくキスしたい気分だったんです」
そう言ってそのままアイと唇を重ねるマサヒコ。
驚くアイだったが…やがて、うっとりと目を閉じ…マサヒコの行為に、身を委ねた。
"ぷちゅ"
そして、ふたりはいつものように名残惜しそうに…唇を離した。
「…若田部、保育士になりたいって」
「ウン、私も聞いた。アヤナちゃんなら、良い保母さんになるよね。
家事も得意だし、優しいし…きっと子供に慕われる保母さんになるだろうね」
「お願いしておきましょうか?」
「?なにを?」
「だから将来俺と先生の子供が出来たら、あいつに世話を…」
「!もう、なに言ってるのよ、マサヒコ君!」
真っ赤になって照れるアイだったが…マサヒコは、なぜか真剣に見つめて言った。
「あいつなら、優しいところは優しく、厳しいところは厳しく育ててくれると思うんですよね」
「だ、だからマサヒコ君…」
「…まっだ、わかんねーかなあ…」
「?」
「俺はそんだけ真剣だって意味で言ってるつもりなんだけどな…」
「あ…」
「それと…一応、プロポーズのつもりなんですよ?先生」
「…あ、あの…ありがとう。でも今は…」
「はは、確かに将来ですけどね。でも…先生、俺が…絶対、全力であなたを幸せにします。
だから…信じていてください。」
「マサヒコ君…」
"ちゅ"
ふたりは、見つめ合ってもう一回口づけを交わした。
「本当は…この後も欲しいとこなんですけど…今日は、若田部も中村先生もいるから…」
「ウン…わかってる」
そして、手をつないでふたりは部屋を後にした。
お互いの手のぬくもりが、消えないように…しっかりと、お互いの手を握っていた。

END

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