作品名 作者名 カップリング
「月とレタス」 郭泰源氏 -

「お〜いマサヒコ、ちょっと降りてこーい」
「はあ…?」
春休み、英稜高校に見事合格したマサヒコは久しぶりにゆっくりとした日々過ごしていた。
(なんだろ?どうせ暇だから、またなんか手伝えってのかな…)
マサヒコは少しぼんやりしたまま階段を下り、キッチンへと向かった。
「あらあら…しっかしあんた油断しきった顔だねえ…」
「そりゃやっと受験も終わったんだし油断ぐらい…ってアレ?濱中先生?」
「お…お久しぶり、マサヒコ君…」
「お久しぶりって…つい三日前に若田部んちで合格パーティーやったばっかじゃないですか」
「う、ウン、そうなんだけどね…」
(?なんだか歯切れが悪いな、どうしたんだろ?先生…)
「まま、立ち話もなんだから座んなさいな」
「?はあ…」
「さて、と。マサヒコ、あんたってひとり暮らしできる自信ある?」
「へ?な、なんだよいきなり…」
「炊事・洗濯・掃除にお金のやりくり…そういうの一人でできるのかって聞いてんの」
「…正直、自信ないけど…」
「だろ〜ね。そう言うと思ったわ。はい、ここで問題。
突然ですがお父さんのカナダ赴任が決まりました。で、アンタどうする?」
「@※+はあああ?」
「ちなみにあたしは当然愛する亭主についていくつもり。そうすると、
アンタの選択肢はふたつ。あたしたちについてカナダに行くか、
それとも日本でひとり暮らしをするか…でも、アンタにはその自信がないって言う。
とすると必然的にあたしたちについてカナダに行くしかないわけよね」
「ちちちち、ちょっと待ってよ、母さん…いきなりそんなこと言われても…」
「そうよね、アンタもいきなり言われても迷うでしょ?そこでもう一つの選択肢にオプション。
アイちゃんの住んでるとこが更新の時期なんだって。
でも一年以上住むのか分らないマンションの更新料なんて払うの馬鹿らしいでしょ?
そ・こ・で!あたしらが海外に行ってる間ウチに住まないかって聞いたら、快諾してくれてさ。
アイちゃんなら家事はパーフェクトだし…家賃代わりに電気代とかガス代払ってくれれば
いいって思ってるのね。家って人が住まないと痛むだけだし。でね…もうひとつの条件として、
ウチの息子の面倒を見てくれないかって聞いたら、そっちもOKだって。良かったね、マサヒコ。
ま、またアイちゃんのお世話になるわけだからお礼を言っときなさい」
「*¥$あ、あのなあ…いきなりそんな一気に言われても、はいそうですかって言えるわけが…」
「ゴメンね…マサヒコ君…やっぱり…あたしとじゃイヤ?」
「い、いや先生と一緒に住むのが嫌とかじゃなくて…」
「いいじゃない…何をいまさら恥ずかしがってんのよ、アンタ?」
申し訳なさそうなアイと…言うべきことは言い切ったという表情で自信満々のマサヒコママ。
ふたりの顔をゆっくり見渡したあと、マサヒコは心の中でため息をひとつつくのだった。
(はああ…こりゃ、どっちにしても)
「ああ…わかったよ…考えたけれどさ、多分それが一番いいんだろうな」
「そうよ〜、わかってくれたのね、マサヒコ♪てなわけで、
あたしこれから引っ越し準備の買い物行ってくるからヨロシクね〜♪」
「はあ…」
そして、ふたりがキッチンに残った。
「…」
「…」
どこか気まずそうなふたりは、しばらく無言のまま…なにをするでもなく、向かい合っていた。
「あの…やっぱりゴメンね、マサヒコ君」
「まあ…いいですよ。俺もいきなりカナダなんて行けないし。ひとりだけじゃ不安なのは確かだし」
「ありがとう…やっぱり優しいよね、マサヒコ君は」
「そんなこともないんですけど…それより先生?そっちこそ良いんですか?」
「あたしは…ありがたいよ?ひとり暮らしって、結構お金かかるし。それにね、ときどき…。
たまらなく寂しくなることもあるんだ。マサヒコ君とならさ、楽しくやっていけそうだなって思ったの」
§

「はあ…ま、でも…これからも、よろしくお願いします」
「そ、そんな…こちらこそ、よろしくお願いします、マサヒコ君」
ふたりはぺこり、と頭を下げあって―――ほとんど同じタイミングで頭をあげると、顔を見合わせた。
「…」
「…」
そして、アイはにっこりと――マサヒコは、やや苦笑気味に――微笑み合うのだった。
£
「はああ…しかし、最後までウチの母さんだけは…」
「ふふ、いいじゃないマサヒコ君…お母様らしくて…」
「まあ…あの人らしいっちゃあの人らしいんですけど…」
小久保夫妻出発の日―――ふたりが空港で目にしたのは、
マサヒコパパの職場の同僚以上に集まったマサヒコママのお友達の輪であった。
「小久保さん…絶対に、絶対にお手紙下さいね…ううう…」
「お帰りになったときはまたみんなでカラオ…もといお茶会を…必ず…」
お向かいのミサキママは当然として、いつの間に仲良くなっていたのかアヤナママにリンコママまで
その輪の中に加わり、そしてラストはさながらマサヒコママ・オン・ステージとなり――。
それはそれは壮大なお見送り会が幕を閉じたのであった。
「なんだか…疲れましたよ、精神的にも肉体的にも」
「ははは…そうだね、しばらく引っ越しの手伝いとかで大忙しだったもんね、マサヒコ君」
「ホントですよ…ウチの親人使いが荒いっつーか…」
「ふふ、お疲れ様。じゃ、ちょっと待っててネ?今すぐ晩ご飯作ってあげるから…」
「あ…すいません、俺、そんなつもりじゃ…」
「いいのいいの。あたしもおなか減ったしね」
そう言ってキッチンへと消えたアイの後ろ姿をマサヒコはぼんやりと見送った。
(ふう…しかし…今更ながら、今日から先生とふたり暮らしか…。
初めて会ったときは、こんなことになるなんて思いもしなかったけど…いつの間にかなあ…)
出会った頃は…なんだか一生懸命だけど、空回りしてる人だなあ、と思った。
今は…姉のような、一番親しい年上の友人のような…少し、甘ったるい思いをアイに抱いていた。
「おまたせ〜♪マサヒコ君」
なにをするでもなく、ボーッとアイの後ろ姿を見ながらそんなことを考えていたマサヒコは、
アイの声で我に返った。
「あ?ああ…早かったですね、先生」
「そう?でも1時間ぐらいかかってるよ?」
「え?…あ、ホントだ…」
「ふふ。ここしばらくドタバタしてたから、マサヒコ君やっぱり疲れてるんだね…じゃあ、食べよっか?」
「あ…はい」
「「いただきます」」
「ふふ〜、お味はどう?マサヒコ君」
「ええ、美味しいですよ…でも、前に食べたときより母さんの味付けに似てますね」
「えへへ。実はね、お母様にマサヒコ君の味の好みとか、好き嫌いとか聞いておいたんだ」
「え?って母さんに?…悪いっすね、そんなことまで…」
「いいの♪こういうのってさ、なんだか新婚さんみたいで楽しいよね♪」
「はあ…」
(…しかし新婚さんって…)
心の中ではそう思いつつ、あえて危険地帯にはツッコミを控えるマサヒコ。冷静な判断である。
目の前ではアイが、ニコニコの笑顔で大盛り丼のご飯を快調なペースで平らげていた。
「ま…いっか。そういうことで」
「?なにが?いいの、マサヒコ君?」
「いや…なんでもないんです」
穏やかな笑顔を浮かべるマサヒコ。しばしマサヒコを見つめたまま、不思議そうな表情を
浮かべていたアイだったが…。少しして、気付いたように笑みをマサヒコに返した。
「ふふ…いいね、一緒に食べてくれる人がいるって。これからもよろしくね、マサヒコ君」
「いえ…こちらこそですよ。そうですね、ひとりじゃ…寂しいですよね…」
そう言って、ふたりはまた微笑み合うのだった。
§


(ふう…今日は、バイト遅くなっちゃったな…)
そして月日は流れて6月も半ば――――。
アイとの共同生活にも、新しい高校生活にも慣れ始めたマサヒコは、
最近近所のスーパーで荷物運びのアルバイトを始めていた。
(先生は…今日も遅いのかな?)
アイは教職を目指しつつ…平行して教育関係に絞って就職活動を続けていた。
だが……その結果があまり芳しいものでないらしい、ということにマサヒコも薄々気付いていた。
(なんだか…ここんとこ元気ないんだよな、先生)
笑顔の多いアイが最近珍しく表情を曇らせがちなことに、彼なりに心配をしていた。
(着いたっと…ん?先生、もう帰ってきてんのかな?)
玄関のドアに鍵はかかっていなかった。しかし、小久保家の中はひっそりと物音のしないままだ。
(?あれ…?)
なんとなくだったが…マサヒコはなるべく静かにキッチンへと向かった。
そこでは――――アイがイスに座り、テーブルに体をあずけるようにして寝ていた。
アイの寝顔の横には、缶ビールが2本、空になっていた。
(先生…つらいことでも…あったのかな?)
よく見ると…すやすやと寝ているアイの目元には、鈍く光る涙の跡があった。
(面接官のオヤジに…意地悪な質問でもされたのかな?どっちにしても…)
無防備な寝顔だった。悲しげではなかったけれど…少し、疲れた顔をしていた。
そんなアイの顔を、しばらくマサヒコは眺めていた。
(こういうときは…俺が励まさないと。ずっと…先生に励まされてきたんだし…)
マサヒコはそっと冷蔵庫を開けて中身を見た。
(レタスと卵だけか?二日くらいでほとんど食い切っちゃうからな…。
う〜ん、あんまり使えそうなのないな…あとは…パスタと、缶のミートソースぐらいか…)
悩んだ末、パスタを茹で、レタスだけのサラダを作るマサヒコ。
(まあ…誰が作ってもこれなら大丈夫って感じだろ)
男の料理らしく、レタスを洗うと包丁も使わずに手づかみでカットした。味付けは、塩とマヨネーズ。
パスタを茹であげると、温めていたミートソースをその上にかけた。
「ふにゃあ…いい匂い…」
食べ物の香りに誘われたのか…ゆらり、とアイが目を覚ました。
「…おはようございます、先生」
「?あれ?はら?ま、マサヒコ君?いつの間に…」
「かれこれもう一時間くらい前からですよ…先生、結構ぐっすり眠ってたから…」
「あ…あの、ゴメン!これはね…ち、違うの…」
「いいから…ご飯できましたよ?とにかく食べましょう。味の保証はできませんけどね」
「わあ!これ、マサヒコ君が作ったの?」
「ってパスタ茹でてミートソース温めてレタスにマヨネーズと塩かけただけですよ」
「それでもスゴイよ!ありがとう、マサヒコ君!」
にっこりと微笑むアイ。その様子を、マサヒコは少しホッとしながら見ていた。
「じゃあ、マサヒコ君、いただきます♪」
「どうぞ…あの先生?そんな慌てて食べなくても…」
「もご?なには言った?マらヒコふん?」
「…なんでもありません」
よほど空腹だったのか、すさまじい勢いで目の前の料理を平らげるアイ。
「ははは…しかし、いつもながら、先生の食いっぷりには感動しますね…」
「だって…今日は特別なご飯だもん。美味しくて…あたし、いくらでも食べちゃいそうだよ?」
「大げさですね…普通の夕食ですよ。たまたま俺が作ったってだけで…」
「ウウン…マサヒコ君がね、作ってくれたってのが…あたし、嬉しいの…ねえ、マサヒコ君?」
「はい?」
「ふたりだけになった最初の日にさ、あたし、新婚さんみたいだって言ったの覚えてる?」
「?そう言えば…そんなことを言ってたかもですね…」
「へへ…今日のマサヒコ君が作ってくれたサラダね、ホントに新婚さんのサラダなんだよ?」
そう言って、アイは少し悪戯っぽく微笑んだ。
「?新婚さんの…サラダ?どういう意味ですか?」
§


「ふふ…レタスだけのサラダをね、英語で訳してみると?」
「?えっと…オンリー・レタス・サラダ…かな?」
「うん、近いよ。レタス・オンリー・サラダ…これの音を分解してね、
Let us only saladって言うの。“私たちふたりっきりにしてください”って意味で…。
アメリカでは新婚さんに出すんだって」
「へえ〜、良くそんなこと知ってますね。さすがは先生ですね」
「ふふ…でもロマンチックだよね、ふたりっきりにしてくださいって…」
ニコニコと笑いながら、アイは嬉しそうに話していた。
(元気になってくれたのかな?先生……だけど…)
少しタレ目気味のアイが笑うと、くしゃり、という表情になって童顔がさらに幼い感じになる。
――笑顔の可愛いひとだなあと、改めてマサヒコは思った。今更かもしれないが―――
アイに泣き顔は似合わないと――そう思った。
「あの、先生?もし良かったら、今日から俺ももう少し家事分担しますよ?」
「!いいんだよ、マサヒコ君。だってあたしは…」
「いいから。せめて先生の就職活動が一段落するまでは、そうしましょう。
それからまた考えればいいじゃないですか。俺たちふたりしかいないんだから助け合わないと…」
マサヒコはそう言って微笑んだ。
「マサヒコ君…」
アイは、涙が出そうになるのを懸命に耐えていた。
名門・東栄大学とは言え、文学部で女性となるとやはり就職活動は難しいものだった。
移動、試験、面接と言った日々の連続は確実にアイの精神力を削っていった。
特に…今日の面接は厳しかった。元々やや人見知りする性格のアイは、
徹底的に責められ、くたくたに疲れてしまっていた。
そんなとき、マサヒコのぶっきらぼうだがストレートな優しさがアイの心にしみていた。
「うう…ありがとう…本当に…ありがとう…マサヒコ君」
とうとう堪えられなくなり…アイの目から、涙が、こぼれた。
「!いきなり、なんで泣くんですか!先生!」
「ぐすッ…ゴメンね…あたし嬉しくて…本当に…大丈夫、ゴメンね…あたし、あたし…」
泣きじゃくるアイ。マサヒコはしばらく呆然と彼女を見つめていたが…。
気がつくと、タオルを持ってアイの元に駆け寄っていた。
「先生…今は泣いてもいいです。俺の前でなら…辛いときには辛いって言ってくれればいいんです。
だから…明日はまた、いつもの笑顔を見せてください。多分、それで大丈夫ですから」
「マサヒコ君…」
アイはそのままマサヒコに体を預け、抱きついてきた。マサヒコもそれ以上なにも言わず、
軽くアイの背中に手を回して柔らかく抱きしめた。
ふたりとも一言も発しようとせずに―――静かな時間が、過ぎた。
そして―――泣き続けたためか、少しかすれた声のアイがようやく口を開いた。
「ゴメンね…マサヒコ君。あたし、年上なのにこんなみっともないところ見せちゃって…」
「みっともなくなんて、ないですよ。泣きたいときに泣けばいいじゃないですか。
さっきも言いましたけど…また笑えるようになれば、それでいいじゃないですか」
「ありがとう…いつも優しいよね、マサヒコ君は…本当に、ありがとう」
ふたりは、顔を見合わせて微笑んだ。マサヒコは、アイの髪を優しく撫でながら、言った。
「俺…年下で頼りないかも知れませんけど…先生の、力になりたいです。
ずっと先生に助けられてきたし…今でもそうだから…先生を、助けたい」
「マサヒコ、くぅん…」
それ以上は言葉にならず…アイは、安らかな気持ちのままマサヒコの腕の中で抱かれていた。
(――――いつの頃からだろう)
出会ったときは、まだ幼さの残る、小柄で無邪気な少年だった。
兄弟のいないアイは、本当に…弟のような思いで、マサヒコを可愛がった。
それが…いつの間にか身長もアイを追い越し、精神的にも大人に…。
そう、いつの間にかマサヒコは少年から青年へと成長していた。
そんな彼のことを、頼もしいような思いで…眩しいような思いで…アイは見続けていた。
ミサキが彼に恋心を抱いているのを知っていたから…。ずっと彼のことは弟のような存在だと、
甘酸っぱいような思いを抱きながら、自分に言い聞かせてきた。
§

だが…今、アイははっきりと自分の本当の気持ちを自覚していた。
「マサヒコ君……あたしね、君のことが…好き。多分、誰よりも…ずっと前から」
「俺も…きちんと好きですよ、先生?」
そう言って、また微笑むマサヒコ。ふたりは、しばし見つめあったあと…。
“ちゅ…”
ゆっくりと、短い口づけを交わした。
「…」
「…」
口づけを終え、見つめあったまま無言のままのふたり。そしてお互いの思いを確認し合うように、
もう一度唇を軽く触れ合わせる程度の短いキスを交わすと、名残惜しそうに体を離した。
「マサヒコ君…あたし、食器片づけるから…先に、お風呂入って…」
「はい…先生…」
言葉少なだが、お互い視線を外さずにそう話したあと…マサヒコは浴室へと向かい、
アイは食器を片づけ、洗い始めた。
£
「…」
マサヒコはベッドの上でぼんやりと月明かりが射しこむだけの薄暗い部屋の天井を見つめていた。
寝付けなかったわけでもなく、興奮しているわけでもなかった。
むしろその逆で――マサヒコは、ひどく…自分でも驚くほどに冷静だった。
“がちゃり”
ノック無しにドアを開けると、アイが部屋に入ってきた。だがマサヒコは全く驚いていなかったし、
アイの非礼を責める気も無かった。全て、ふたりには、わかっていた。
「…」
「…」
依然、ふたりは無言のままだった。
“する…”
マサヒコが、穏やかな笑顔を浮かべて…右手を、アイの方へと差し伸べた。
暗闇にまだ慣れないアイの目にも、彼が微笑んでいるのが――見えずとも、わかった。
おずおずと、アイがマサヒコのもとへと近づき、ベッドに腰掛けて体を寄せる。
マサヒコはアイを抱き寄せると、彼女の顔を確かめるように…口づけを交わした。
“ちゅ…”
仄かな月明かりに慣れたとはいえ、お互いの微妙な表情まではうかがい知ることはできなかった。
だが、ふたりには―――唇の感触だけで、十分だった。
(マサヒコ君…マサヒコくん…)
(せんせい…先生…)
先ほどのキッチンでの短いキスとは違う―――貪るような、キスだった。
ふたりは、お互いの口内を舐め回し、唾液を絡めるようにして口づけを交わしていた。
“ふにゅ…”
マサヒコがパジャマ越しにアイの胸に触れた。下着は、つけていなかった。
「んっ…」
切なげな声をあげるアイ。マサヒコはパジャマの上着のボタンを上から一個一個外していった。
“ふる…”
アイの形の良い乳房が露わになる。月の光に反射して、それは灯りのもとで見るよりも遙かに白く、
生々しく見えた。そのままマサヒコはゆっくりとアイの身体を横たえ、覆い被さった。
“ちゅ…”
「あ…」
マサヒコはアイの小粒な乳首に口をつけ、愛撫を加えた。
「ん…あッ…」
くちゅくちゅと、母乳を欲しがる幼児のように――。アイの乳首を吸い、こね、舌先で転がした。
敏感なそこは、次第に固さを増して…やがて、完全に立ってしまっていた。
その状態を確認したマサヒコは、ゆっくりと舌先を移動させる。
“つぅ〜〜〜〜〜〜〜〜ッ”
胸から臍までへと、ゆるやかに舌でなぞり、愛撫するマサヒコ。
ぶるり、とアイが小さく何度も震え――身体にさざなみのような快楽が広がっていった。
§

マサヒコはアイの下のパジャマをゆっくりとずらし、
膝まで下ろすと健康的な太ももの付け根に舌を這わせた。
若々しい筋肉が、ぴくり、と反応する。
「はあ…ああっ…」
「…」
無言のままマサヒコはアイのパンティに手をかけ、それを一気に下ろす。
アイの秘部が、月明かりに照らされた。
黒々とした陰毛がやけにはっきりとした陰影をもってマサヒコの目に飛び込んできた。
(すげえ…これが…先生の…)
興奮したマサヒコは勢いをつけてアイの花弁に口づけをした。
「ふ!ふわぁあッ!」
恥ずかしさとそれに相反する快楽に思わずマサヒコの頭を押さえるアイだが…。
マサヒコは強引にそれを突破し、両の人差し指と中指でゆっくりと花弁を開き、
敏感な穴に舌をこじ入れて動かし始めた。
“ぴちゅ…ちゅあぷ”
「は!はぁぁぁぁあッ!」
アイは素直に反応し、股間から蜜をしたたらせる。
(熱…熱いよぉ、マサヒコくん…)
アイはぎゅっと尻をすぼめた。恥ずかしい蜜がこれ以上漏れてくるのを止めようとしたのだが…。
しかし、マサヒコはなおも舌先でアイの中を蹂躙し続けた。
“ちゅ…っつぷ…ちゃぷ”
動き続けるマサヒコの舌先にアイの蜜が絡み、たまらなく淫靡な音が部屋に響き渡る。
“す…にちゅ”
「!?はあああああぁっ!…うんッ…あ、ああ………あ!」
突然マサヒコの指が移動し、アイの肉の芽に触れ、軽くそれを擦った。
驚き、声をあげるアイだったが…やがてその声は切なげなものへと変化していった。
(ああ…すげえ…アイ先生のここ…濡れてて…俺の舌をぐいぐい締め付けてくる…)
もう我慢の限界にきていたマサヒコはパジャマを脱ぎ、
完全に勃起しきったペニスを下着の中から取りだした。
(!すごい…これが…マサヒコ君の…)
初めて見る男性性器の迫力に息をのむアイ。
マサヒコは焦ったように再びアイの身体に覆い被さると、挿入を開始しようとした。
――――しかし、お互いに処女と童貞の初体験である。
“にちゅッ…にゅっ…”
(あれ?…んっと?こ、ココなんだ…よな?)
幾度もアイの膣口付近にペニスをこすりつけ、なんとか挿入しようとするが…。
アイが極度の緊張から身体を固くしたままであり、
力が抜けていないせいもあって入り口は予想外に固く、なかなか入らないのだった。
(…マサヒコ君?)
その行為を何度も繰り返すうち、マサヒコは自分の無様さに落ち込んでしまっていた。
(…ダメだ…俺…肝心なときに…)
うつむいてすっかり自己嫌悪に陥ってしまったマサヒコだが…。
“ふわり…”
「え?」
アイはマサヒコの背中に優しく両腕を回すと、身体を軽く起こしてにっこりと微笑んだ。
(大丈夫…大丈夫だよ、マサヒコ君?)
笑顔のまま、静かにマサヒコの唇に自分の唇を重ねるアイ。
(…せんせい…)
なにも言葉を交わさずとも…アイの優しさが、そして思いが伝わってきた。
(そうだ…簡単なことなんだ…俺は…先生が好きだって…それだけのことなんだ…)
お互いの気持ちを口づけで確かめあうと…マサヒコもにっこりと微笑み、
再びアイの身体を横たえ、挿入を再開した。
(…いくよ、先生)
アイの身体から力が抜けていく。マサヒコの先端が熱い蜜壺に吸い込まれていく。
§

「ん!ああ、んんんん、あ、、あ、ううう」
“ちゅぐ…ぷつッ…ぷち…”
ゆっくりと、ゆっくりとマサヒコは腰を動かし――アイの奥へと達した。
アイの処女膜は完全に破られたが…彼女に、後悔の気持ちは無かった。
(痛いけど…今、マサヒコ君のが…あたしの中に…ああ…)
眠れぬ夜に純潔を捧げる相手は誰なのだろう、と夢想することも何度かあった。
そのとき…真っ先に頭に浮かんできたのは他でもない教え子であるマサヒコだった。
そのたびに、そんな思いを慌てて振り払ってきたが…。
それが今、間違いなく目の前で実現していることに、
アイはデジャヴを見ているかのような気持ちに陥っていた。
(夢じゃ…ない、夢じゃないんだよね、この痛みは…お願い…マサヒコ君)
なおも続く痛みに耐えながら…アイはマサヒコとキスを交わす。
(先生?)
突然のアイの行動に驚くマサヒコだが…目尻に涙を浮かべ、
必死に唇を求めてくるアイにたまらない愛おしさを感じていた。
“ちゅ…う…”
唾液を吸い、舌を絡め、お互いの口内を舐め尽くし…。
ふたりは、挿入したまま激しいキスを続けた。
やがて…アイの表情から痛みの色が消え、上気し――わずかに頬が赤く染まりはじめた。
(もう…大丈夫かな?)
マサヒコは唇を離すと、アイをじっと見つめた。
「…」
無言のままのアイだが、意を決したようにこくん、と頷いて両手をマサヒコに向けて伸ばした。
(来て…マサヒコくん…)
アイの気持ちを察したマサヒコは、その両手に指を絡ませ…ゆっくりと、動きを再開する。
“じゅるぅ…むちゅっ…”
まだ本格的なピストン運動はアイの負担になると思ったマサヒコはできるだけゆるやかに動いていた。
アイの中は…温かで、包み込むようで、そして挟み込むようなキツさを持っていた。
(あ…ああ…せんせい…せんせいのなか…あったかい…)
夢中で腰を動かしながら、アイの中の感触に我を忘れるマサヒコ。
“ずぶ…ぎゅちゅ…ぎっちゅ”
マサヒコが動くたびに、その動きに呼応するようにアイの中はペニスを締め上げる。
はじめこそ、マサヒコのそれを受け入れただけで壊れそうだった小さな花びらは―――、
やがて、必死でマサヒコを抱きしめるかのように包み込んでいた。
“にゅう…ぬるっぷぅ…”
「ん…んああッ!」
声を上げながら…アイは、マサヒコの腰に両脚を巻きつけた。
(せ…せんせい?)
驚くマサヒコだが…アイは目を閉じたまま――誰に教わったわけでもないのに、
ぴったりとマサヒコの腰を自分の方へと押しつけ…すりすり、と自分の腰を動かし始めた。
(先生が…真っ赤な顔で…感じてる…俺と…ひとつになってる…)
アイが自らマサヒコを求めてきたことに感動しながら…マサヒコはアイの乳房にむしゃぶりついた。
“ぶちゅ…はむ”
「あ!あああああッ!う……はあああッ!」
そのまま、マサヒコはひときわ深いところへと突き立てた。
アイが甲高い声でそれに応じたのとほぼ同時に…。
(ああ…もう、ダメ…ダメだ、俺…)
マサヒコは、低く呻いてペニスを引き抜いた。
“ぴゅッ…ぷっ…ぴゅるっ”
アイの腹に、マサヒコのペニスが吐き出した白い線が幾筋も塗りたくられる。
「は…はぁ…あああ――――」
目を閉じ、顔を赤くしたまま…アイが切なげな溜息を漏らす。
そのまま――アイはずっとマサヒコに抱きついたまま――動こうともしなかった。
射精が最後まで終わっても…マサヒコから、離れようとしなかった…。
§

(……………………)
朝が、訪れていた。マサヒコは朝日の眩しさで目を覚ました。
(…夢を…)
見ていたのか、と思った。
昨日の夜の痕跡は寝具の周りになにもなく――シーツも、掛け布団も丁寧にかけられていた。
なにより――昨夜、自分の横にいたはずのアイがいなかった。
(…先生…)
夢であっても、構わないとマサヒコは思っていた。自分の気持ちは、変わらないと思っていた。
(俺は…先生が好きだ。誰よりも…絶対に)
そう思いながら、マサヒコは体を起こした。昨日の名残は…やはり、どこにも見えなかった。
まだ夢を見ているような気分のまま…マサヒコは部屋を出るとキッチンへと向かった。
「あ、おはよ、マサヒコ君…」
「おはようございます、先生…」
穏やかな笑顔を浮かべ、アイがマサヒコを迎えた。
「朝ご飯…できてるよ?でも今日は土曜日だから、もっとゆっくりしててもいいのに…」
「いえ…目がさめちゃって…」
いつもの会話だった。なんの違和感もなかった。
(あれは…やっぱり夢だったのか?)
そんなことを思いながら、マサヒコはイスに座った。
「ちょっと待っててね?今おみそ汁よそうから…」
「ああ…すいませんね、先生…」
アイがマサヒコのすぐそばに移動して…そのまま、後ろに立った。
「せ、先生?」
「…」
“ふわ…”
アイが、後ろからマサヒコを抱きしめた。柔らかな、アイの匂いがした。
「大好き…マサヒコ君…」
「…あれは…やっぱり、夢じゃ、無かったんですね…」
「…夢じゃ…ないよ?…後悔してる?マサヒコ君」
「後悔なんて…してません。先生…俺…俺…」
“ちゅ”
マサヒコは立ち上がって後ろを向くと、アイと口づけを交わした。
「先生…ゴメン…」
「?なんで?謝るの、マサヒコ君」
「あの…本当は、もっと上手く…しなきゃと思ってたんです。でも…俺、すっげえ下手くそで…。
それに、一応外だったけど…避妊とか、きちんとしとかないと…」
「…ふふ…そうだね…」
だが、なぜか嬉しそうにアイはマサヒコから身体を離すと、腹部をさすった。
「ねえ?マサヒコ君…もしもだけど…君とあたしの子供ができていたら…。
あたし、生んでもイイかな?」
「え?ええ!」
「大丈夫…結婚してくれなんて、言わないよ。あたしね、昨日…すごく幸せだった。
大好きだった君に…愛されるって、こんなに幸せだなんて、知らなかった。
だから…その結果ね、もし赤ちゃんができたら…あたし、育てたい。君に迷惑は絶対かけない。
だから…あたしが、育ててあげたい」
アイは、笑顔のまま話していた。だが、それは昨日までの――
就職活動に心を折られていた人間の笑顔ではなかった。慈母のような、強く優しい微笑みだった。
“ぎゅ…”
「ま、マサヒコ君?」
マサヒコは、強く…強くアイを抱きしめた。
「離さないですよ、先生」
「え…」
「俺は…絶対に先生を離さない。なにがあっても…先生と、一緒にいたい。
もし子供ができてたら…一緒に育てていきたい。だって…俺は先生が好きだから」
§

「マサヒコ君…」
マサヒコの言葉を聞きながら、アイは涙が流れるのを止めることができなかった。
そのまま、ふたりは……抱き合ったまま、動かなかった。
“ピンポ〜〜〜〜ン”
だが、小久保家の呼び鈴が永遠に続くかと思えた抱擁からふたりを引き剥がした。
「…誰ですかね、こんな土曜の朝8時に…」
「?誰かな?ゴメン、マサヒコ君、あたし泣いちゃってるから…」
「ああ…俺、行ってきますね?」
アイの残り香を感じながら…マサヒコは、玄関へと向かった。
(ったく誰だよ、いい感じだったのに…)
内心不満タラタラのまま、マサヒコは扉を開けた。
“ガチャ”
「よっす、マサ!」
「=@#$Rななんあな、ナカムラせんせい?」
「あっら〜どうしたのよぉ〜、マサ?なんかあったのぉ〜?」
「なななん、なんでもありまへん!」
慌てたためか、微妙に関西弁っぽくなってしまうマサヒコ。
「あっら、そお〜?じゃ、手伝って?」
「はれ?」
「あら?まだお母様から聞いてないの?」
「な、なにがですか?」
「あたしね、今日からあんたん家に居候することになったから。ヨロピコ♪」
「はははははっははあああ????」
「いやね、いつつば銀行の研修がやっと終わったわけ。でね、社員寮に入ろうかと思ったんだけど、
これがまた門限やら規則やらウルサクってさあ〜。一週間で嫌になっちゃったんだけど、
でもマンションは解約しちゃったしさ。そ・こ・で!お母様に電話したわけ!そしたらOKだって!」
(マザー!あんたタイミング悪すぎやああああああ!)
なぜか中途半端関西弁続行中のマサヒコ。
「てなわけで、荷物まとめてきたわけね…手伝いなさい、マサ」
「でも…あの…その…」
「?どうしたの?マサヒコ君?」
なかなか戻らないマサヒコを心配したアイが、玄関に訪れた。
「あ!先輩!…な、ななな、なんで?」
「よっす、アイ!あたしも今日からここでお世話になるからヨロピクねえ〜♪」
「えええええ!」
驚くアイはマサヒコの方を向くが…マサヒコは、苦笑したまま両手を広げた。
その行為で、アイは全てを悟った。
「しかし…レタス・オンリーってわけには…いかないみたいですね、先生?」
「あはは…そうみたいだね、マサヒコ君?」
ふたりは顔を見合わせて苦笑した。
「?…いいから、マサヒコ!手伝わんかい!」
中村に急かされてマサヒコは外に出る。そこには小型トラックが止まっていた。
「で…どこから、運び入れれば…」
“ガシッ”
中村が、マサヒコの両肩を押さえた。
「???なか。、むら?先生?」
「オイ…マサ…お前、アイとヤったな?」
「!!!!!!!」
「その顔は…やっぱりヤったな?」
「ななんあんな、なんで…」
「クソ…青い果実の最初はあたしが頂くはずなのに…先こされたか…」
猛烈に腹立たしげな中村。
「あの…それは、どういう意味…?」
「どういうも道後温泉も…そのまんまの意味だ!クソ…マサ!」
§

「は…はいッ!」
「目ェ、つむれ!」
「ええ?なな、なんで…」
「殴ってやる」
「………」
ずざざざざざ、と凄まじい勢いで後退るマサヒコ。
「冗談だ。いいからこっちに来な」
用心深く…マサヒコは、中村との距離をつめた。
「じゃ…そこのイスから持っていってくれるか?」
「はい…」
一瞬、マサヒコが油断したすきに…。
“ちゅ…”
キスされた。
「?!%$+*?なな、ぶば、中村先生?」
急いで唇を離すマサヒコ。
「ふん…とりあえずセカンドで我慢すっか」
なおも不満そうなままの中村が呟く。
マサヒコは周りを見渡した。それこそ今、アイやミサキに見つかったら…タダゴトでは済まない。
流血沙汰は間違いないところである。幸いなことに――誰もいなかった。
「な、ん、なにすんですかあ!」
「あ〜ら?そんな態度とっていいのぉ〜?ミサキちゃんやアヤナにバラしてもいいのぉ〜?」
「!」
さすがは中村、試合巧者である。
ちろり、と赤く蛇のように長い舌を出すと…。楽しげに、マサヒコを睨んだ。
「…わかりましたよ…」
全てを観念したように、マサヒコが呟く。
「そうよ〜♪素直な子は大好きよ♪」
中村が、歌うようにマサヒコの耳元で囁く。
(まあ…これから、鍛えるってのもアリよねえ…)
そう思いながら…再び、長い舌をべろり、と中村は出した。
けけ、と不吉な笑顔を浮かべながら………。



                      続く?

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