作品名 | 作者名 | カップリング |
「ずっとずっと…もっともっと」 | 郭泰源氏 | - |
「きゃああ!ちょっと、アンタたち…なにするのよッ!」 「なにを?へへへ…イイコトに、決まってるだろ…」 「そうそう、とってもキモチイイことを、な」 「くっ…きゃああああああ!誰かああああ!!」 「ば~か、デケエ声出したって、誰もこねーよ。ここの倉庫は俺たち水泳部しか使ってないしな」 「おまけにこんな時間だ…さあて、たっぷり楽しませてもらおうか…」 “むぎゅ” 男は、少女の豊かな胸に手を伸ばして握り潰すように荒々しく揉みはじめた。 「!や!やだ!」 「うるせえな…こんな、いやらしいカラダしてるから犯られるんだよ!」 「へへ…俺にも、触らさせてくれよ…もう、水泳の授業見てたときからたまんなかったんだぜ…」 「!アンタたち!こんなことして…いいと思ってんのッ!絶対後で先生に…」 「へへ…言いたきゃ、いくらでも言えよ…お前みたいなプライドのたけえ女が、豊田に言えんの?」 「そうそう。おれたちゃ未成年だからな…法律が、守ってくれんのよ。 女ひとり輪姦したぐらいなら、ネンショーも行かなくて済むって話だしな」 「!!!」 少女は慄然とした。この男たちは、本気だ。 「ちょっと!なに馬鹿なこと言ってるのよ!離しな…離しなさい!」 なんとか逃げようと暴れるが…羽交い締めにされたまま、どうしても男の両腕から逃れられない。 “ビリリィッ!” もう一人の男が、セーラー服を引き裂いた。 「いやッ!いやだあ!」 「ひょ~~お、さすがはお嬢様、イイもん食ってるだけにこっちの育ちも最高だな…」 「痛ッ!抵抗すんなっつーの!…おい、いいからブラジャー、とっちまえよ」 「おいさ!この眺めも最高だけど…。学年の男子を釘付けにしてる、 若田部さんの生おっぱいを見せてもらうとするかね…」 § “ぷちっ” 「おおお~~~、すげえ!AVの女なんかメじゃねえな…でけえし、見事なもんだ…」 「や!見るな!馬鹿!」 「クソッ…後ろからじゃ良く見えねー!おい、こっちと代われよ!」 「待て待て、そのかわり初めに突っ込むのはお前にしてやっから…おっぱいは、俺にやらせてくれよ」 「!やだ!馬鹿ッ!こんなのやだッ!」 暴れ続けるアヤナだったが、頬に冷たいものがあたり―言葉を失った。 「いい加減、おとなしくして欲しいもんだな…そのキレイな顔を、切り刻んじまうぞ?」 「!」 「そうそう、俺らもね、若田部さんにはキレイなままでいて欲しいのよ…。 ちょっと我慢してくれるだけでいいわけ。それ以上は乱暴もしないし、ケガをさせるつもりもないのよ? ただ俺たちを気持ち良くさせて欲しいわけ。若田部さんの、おっぱいとおまんこでね」 ヘラヘラと笑いながら、もう一人の男もナイフを取り出して、ぴたぴたとアヤナの胸にそれで触れた。 「…」 屈辱で震えながら、アヤナは考えていた。 冗談でこんなことをこの男たちが言っているのではないのは、わかっていた。 自分がとてつもなく危険な状態におかれているのも、わかっていた。 さきほどからの男たちの言葉からすれば、殺されることはないかもしれないが、 これ以上抵抗を続ければ容赦なく酷い傷を負わせられるのも確かだろう。 だが、それでも―アヤナが、アヤナである以上、その言葉に従うことは、絶対に出来なかった。 「へへ…大人しくなったじゃねえか…そうそう、頭の良い若田部さんなんだから、そうこなきゃな…」 アヤナが沈黙したのを彼女が恐怖に支配されたためと考えた男は、 下卑た笑顔をつくりながらアヤナの胸を揉みしだきはじめた。 「…殺せ」 アヤナは、顎をあげ、喉を突き出すと、ひとことそう言った。 「あ?」 § 「殺せ…そうじゃなかったら、あたしはここで舌を噛んで死んでやる」 「!な、なに馬鹿なことを…」 「いいから、殺せ。あたしは、お前らみたいな奴らに犯されるぐらいなら…死んでやる。 もしあたしを無理矢理強姦したとしても…その後お前らを、 どんな手を使ってでも殺してから自殺してやる。どっちにしても、もう生きる気はない。…殺せ!」 アヤナの目は、死んでいなかった。むしろ冷たいほどに乾いた―奇妙な、生命力を宿していた。 そんな彼女の迫力に、男たちは圧倒されていた。 「ばば、馬鹿なこと言ってら…フカシに決まってるぜ…」 「で…でも、中山。こいつ、マジっぽいぞ?」 「殺せ!」 憑かれたように、アヤナが声を張り上げたとき…。 “ガンガン!ガンガン!” 「若田部!若田部!大丈夫か?なにか…あったのか?」 「うええ?な、なんで?ここは誰にも…」 「クソ、誰かにばれてたのか…やべえぞ、杉山」 「豊田先生!こっちです!早く、早く鍵を!」 「うわ…マジい…先生まで呼んでやがる!」 「くそ…裏手だ!」 ふたりの男は、大慌てで逃げていった。 “バァン!” 扉が、蹴倒された。 「若田部ッ!大丈夫かッ!」 「アヤナちゃん!」 「こ…小久保君に…的山さん…う…うわああああん」 しばし呆然としていたが…やがてその場にへたりこみ、大声で泣き始めるアヤナ。 「いいから…すぐに、こっちだ、若田部!」 § マサヒコはアヤナに自分の学生服をかけ、破れた衣服を隠して抱きかかえると急いでその場を去った。 (小久保君…こくぼくぅん…) 完全に緊張の糸が切れたのだろう、先ほどの倉庫内での毅然とした態度がウソのように、 アヤナはマサヒコの胸の中で泣きじゃくっていた。 「的山!体操服を用意して!俺は…新校舎の方に行って待ってるから!」 「う、うん、小久保君!」 「悪いな、若田部…さっきの豊田先生ってのは、ウソなんだ。あいつら戻ってこないとは思うけど、 この近くは危険だ。早く着替えて、それで職員室に残っている先生に話すんだ」 「ぐすっ…小久保君…どうして気付いたの?気付いて、くれたの?」 「図書室で的山と勉強してたんだけど、お前が杉山と中山のふたりと一緒にプールの方に行くのを 的山が見つけたんだ。あいつら、水泳部の中でも悪いって有名で…なんか胸騒ぎがしてさ」 「…杉山ってやつが、保健委員だったの…それで、先生が手伝って欲しいって言ってるって…」 「初めっからお前のことをねらってたんだな、アイツら…絶対、許さねえ…」 珍しく怒りに燃えた表情を見せるマサヒコ。と、体操着を手にリンコが現れた。 「こ、小久保君!持ってきたよ!じゃあ、どこで…」 「このすぐ近くの図書室なら誰もいないだろ、さっきお前が鍵閉めたし。 あそこで着替えるんだ、若田部。ケガとかしてるなら、薬もってくるぞ?」 「大丈夫…ぐす、大丈夫。ケガは…してないと思う…」 「じゃあ、的山。もし着替えるのに手助けがいるなら、お前頼むわ」 「わ、わかったよ!小久保君」 誰もいない図書室は、静かだった。一応見張りにつくと言ったマサヒコはドアの外にいた。 そして―アヤナとリンコは、向かい合って大粒の涙を流しあっていた。 「ぐすっ、怖かったんだよね?アヤナちゃん…ゴメンね、あたしたちがもっと早く…」 「だ、大丈夫…すん、ケガもないし…酷いことされたけど、服を破られただけだったから…」 「で、でも…アヤナちゃん…」 「ありがとう…本当に、ありがとう、的山さん…」 § ふたりは泣きじゃくりながら、ぽつりぽつりと話をしはじめた。 「じゃ、じゃあ、レイプされそうになったけど、最後までは…大丈夫だったんだね?」 聞きづらそうに、そしてひどく辛そうな表情でリンコは言った。 「ウン…本当に、あと少し間に合わなかったら…うう…」 そしてまたも涙ぐむアヤナ。 「ゴメン…ゴメンね、アヤナちゃんが一番辛いのに…こんなこと聞いて…」 「…いいの。だって的山さんはあたしの恩人だもん…」 「でも…本当にスゴイのはね、小久保君だよ」 「え…」 「あたしが図書室でアヤナちゃんのこと見つけてね、窓越しに手を振ったのに気付いてくれなかったの。 でも小久保君、『若田部と一緒にいる奴ら…危ないぞ』ってすぐにピンときたみたいで…。 それでプールとか体育倉庫のあたりとか探し回って…本当に、絶対に、小久保君のおかげだよ」 「そうだったの…そうなの…うッ…ありがとう、的山さん、それに…小久保君…」 またも涙が止まらなくなるアヤナ。 £ 「若田部…本当に大丈夫か?」 泣き腫らした目で姿を現したアヤナを見て、心配そうな表情のマサヒコ。 そしてそんな彼の表情を見て、アヤナは涙があふれ出てくるのを止められなかった。 「わ、若田部…」 「うッ…ごめんなさい…お願い、小久保君…今だけ…今だけでいいから…」 泣きじゃくりながら、アヤナはマサヒコに抱きついていた。しかし、リンコもマサヒコも そんな彼女を慰める言葉すら見つからず、そのままその場に立ちつくすしかなかった。 「もう…歩けるか?若田部…」 「う。う…う、ウン」 「よし…それなら、職員室に行ってあの連中のことを…」 「…それは、止めて」 § 「え?おい、若田部!」 「…だって…そんなことしても…これ以上傷つくのはあたし…あたし…」 耐えられずに、またも涙ぐむアヤナ。 「…小久保君、あたしからもお願い。アヤナちゃんの気持ちも…考えてあげて」 「…わかった。けど、豊田先生がもし残ってたら…呼んできても、いいか?」 無言で、こくん、とアヤナはうなずいた。それを痛々しそうに見てマサヒコは、図書室を後にした。 「アヤナちゃん…小久保君は、アヤナちゃんのことを考えて…」 「わかってる…わかってるの…でも…」 残されたふたりの少女は、それ以上言葉を交わすことも出来ず―。 互いの肩を抱き合うようにして、その場で座り込むのだった。 £ 「若田部!若田部!いったい…誰がこんなッ!」 しばらくして、担任の豊田が現れた。悄然としたアヤナの姿を見て、怒りを露わにして叫んだ。 「…隣のクラスの、杉山と中山です。アイツら、初めっから若田部のこと目をつけてて…」 「アイツらか…わかった。小久保と的山、お前たちは…若田部を送っていってやってくれ」 「はい。でも…先生、アイツらのことは…」 「タチの悪い連中だからな…証拠が無い、とか言って逃げようとするかもしれない。 今から証拠の品を揃えておく。水泳部の倉庫には、多分まだ若田部の服が残ってるだろう。 それに、お前らもいるし…向こうの担任の小池先生がどう出るかだが…俺は、絶対に許さないつもりだ」 「せんせい…先生、ありがとう…」 「いいから、若田部。一番傷ついてるのはお前だ。今から、帰れるか?」 目を赤くしながら、小さくうなずくアヤナ。マサヒコと豊田は視線を合わせた。 「頼むぞ、小久保…それに的山」 「はい、先生…あとは、お願いします」 アヤナのことを肩で支えるようにして―リンコとマサヒコは、彼女を抱き起こした。 「あとは…先生に、任せよう…俺たちが…俺と、的山がついてる。行こう、若田部」 § フラフラとした足取りながら…リンコとマサヒコに支えられながら…アヤナは帰路についた。 わずか5分ほどの道のりだったが―三人とも、終始無言のままだった。 「アヤナ?どうしたのッ、アヤナ!」 アヤナ邸につき、呼び鈴を鳴らして現れたアヤナママはアヤナの惨状を見て驚き、叫んだ。 「詳しいことは…いいから、お母さん…あたし…もう、疲れて…」 物憂げに、アヤナは答えるだけだった。 「でも…でも…」 「お願いします…お母さん、アヤナちゃんになにも聞かないでください」 「早く…ゆっくりと休め、若田部…それじゃあ、お願いします」 「あ…ありがとう、あなたたちは…確か…同じクラスの…」 「はい。的山と…小久保です。お母さん、彼女が自分から言い出すことができるまで、 そっと…そっとしておいてあげて下さい。きっと…若田部なら、自分で立ち直れるはずです」 「…」 「今日は…本当にありがとう…小久保君に、的山さん…それじゃ…」 「大丈夫か?俺はともかく…的山は一緒にいたほうが…」 「ううん…大丈夫。ひとりで…ひとりになりたいの」 「わかった。じゃあ…」 「また明日だよ!絶対!アヤナちゃん」 リンコは涙を流しながら、アヤナに言った。アヤナも、泣き笑いの表情でそれに答え、手を振った。 £ 「先生!奴らになんの罰もない、お咎めなしってどういうことですか!!」 「おかしいです!そんなの!納得いきません!」 マサヒコとリンコは、血相を変えて豊田に迫っていた。対する豊田は―苦虫を噛み潰したような表情だ。 「俺だって…納得なんて、これっぽっちもいかん!だがな、小池先生は 『あたしのクラスの子がそんなことするわけありません!証拠もないでしょう!』 の一点張りで…教頭先生も事を荒立てたくないのが見え見えで…」 § 「で、でも…倉庫に残ってたはずの若田部の破られた服は…」 「…奴ら、あれから戻って全部持ち帰ってたみたいでな…あそこには、なにも残ってなかった」 「!でも…若田部は、今日学校を休んだんです! 先生だってあの若田部の姿を見たでしょう!俺らっていう証人だっているじゃないですか!」 「…俺もそれは言ったさ。でもな…とにかく、証拠もなければ、目撃者も同じクラスで仲の良い お前たちじゃ信用できないって…そんな馬鹿な理屈を並べ立てて…クソッ、俺も…悔しいんだ!」 豊田は心底無念そうに叫ぶと、拳を机の上に叩きつけた。 普段は温和な自分たちの担任の、そんな姿に驚くマサヒコとリンコ。 今回の件を聞いたときから、豊田も嫌な予感はしていた。 40過ぎのベテラン女性教諭である小池は、とかく自分のメンツとクラスの生徒の進学率しか 頭に無いと同僚の間でも評判の人間であり、さらに悪いことに事なかれ主義のカタマリのような 教頭とは同じ大学出身でウマも合うらしく、常に職員会議でも同じ意見を押し通すことが多かった。 結局豊田の意見はほとんど通らぬまま…今回の事件は握り潰されたというのが実際のところだった。 「先生…先生も…悔しいんですね…」 「…ああ。こんなことをお前たちに言っちゃいけないのはわかってるが…それでも、悔しい」 「俺も…全然、納得できないし、悔しい…けど…」 「スマン、小久保…それに的山…」 「わかりました…納得はできないけど…とにかく、今日は…」 「先生は…豊田先生は悪くないよ…でも…やっぱり、あたしも…」 「スマン…本当に、スマン…」 £ ふたりが進路指導室から出て、自分たちの教室に戻ると―クラスの中が、妙にざわついていた。 なにか嫌な予感がしたマサヒコはミサキに尋ねた。 「ミサキ…なにか、あったのか?」 「あ。あの…マサ君…うんと…」 口ごもるミサキ。だが、その様子を見て確信に近いものをつかんだマサヒコはなおも詰め寄った。 § 「なにが…なにがあった?話してくれ、お願いだッ!ミサキ」 その迫力に圧倒されながらもミサキは、逆にマサヒコに問い返した。 「あの…若田部さんに…なにか、あったの?」 「…なんで?お前がそれを…」 「噂になってるの…隣のクラスの、中山君と杉山君が…あと少しだったとかって笑ってたって…」 「じゃあ…アイツら…得意げに吹聴してるってことか!!そうなのかッ、ミサキ!!!」 「う…あたしも…噂で聞いただけだからわからないけど…本当なの、マサ君?」 “ぶちっ” マサヒコは、自分の中の神経が何本か切れる音を確かに聞いた。気がつくと、教室を飛び出していた。 「マサ君!どうしたの、マサ君!」 「小久保君!」 リンコとミサキの声も耳に入らなかった。ドアに体当たりするようにして隣の教室に入った。 一番後ろの席に―ふたりが、いた。下品な笑い顔で、同級生たちに話しかけていた。 「ん?なんだ…小久保かよ…へっ、いっつも女をはべらかしてるヘタレ野郎がなんの用…」 杉山の最後の言葉を聞かぬうちに、マサヒコは殴りかかっていた。 “ドグウッ!!” 「な、いきなりなにしやがる、この…」 いきなり右頬を殴られ、よろめく杉山だがマサヒコは隙を与えず腹に蹴りを入れる。 「げっ!…」 倒れ込む杉山。そのまま、馬乗りになって顔を乱打し続けた。 “バキッ!グシャ!” 見る間に杉山の顔が腫れ、出血しはじめた。周りの同級生は呆然とふたりの乱闘を見ていたが― いち早くその中から中山が気付くと、後ろからマサヒコを羽交い締めにしようと襲いかかった。 “バキッ” しかしその気配を察したマサヒコは振り向きざま、鬼の形相で拳を中山の顎に突き上げた。 「ぎゃ…ぎゃあああ!!!」 § 杉山から体を離して立ち上がると、ひるんだ中山の脳天にそのままマサヒコは頭突きを食らわした。 “ズ…ドン!” 「が…」 そのまま、中山は崩れ落ちた。再び振り返ると…寝転がって呻き声をあげている杉山の上に またも馬乗りになり、顔面を殴打し続けた。 「が!げ!ぶッ!」 周りの生徒は、まるで映画を見ているような…悪夢を見ているような気持ちで乱闘を見ていた。 その中には当然マサヒコと一年や二年の頃同じクラスだった者も、友人だった者もいた。 マサヒコといえば温厚で優しくて…どちらかといえば覇気のない、間違っても喧嘩などしないタイプだと 誰もが思っていた。しかし目の前では間違いなくその小久保マサヒコという少年が、 修羅の表情のまま中山と杉山を殴り続けていた。 「小久保!もう…もう、止めろ!」 騒ぎを聞いて急いで豊田が駆けつけた頃には、マサヒコはクラスの男子に取り押さえられたものの、 杉山と中山は完全にその場でダウンした状態だった。 「小久保…なんで…なんで…」 「先生…ゴメンな…」 マサヒコはなぜか昨日のアヤナが最後に見せたのと同じ、泣き笑いの表情で豊田に答えた。 顔はわずかだが、鮮血に染まっていた。 £ 「とにかく!あなたは自分がなにをしたのか、わかってるのっ!」 やせ気味の中年女性が目を三角につり上げ、金属音のような声をあげて叫んでいた。 例のベテラン女性教諭、小池女史その人である。 「まったく…いきなりなんの罪もない、杉山君と中山君に殴りかかってケガを負わせるなんて…。 してることは、ヤクザやギャングと同じじゃないですか!」 「…」 「…」 § 豊田とマサヒコは、ともに無言のままだ。ふたりのそのあまりの無表情ぶりを、 反省しているのか、それとも別のなにか感情を押し隠しているのか―。 いまだ計りかねたまま、しかし小池は続けた。 「まあ、昨日そちらのクラスの若田部さんと彼らの間にトラブルがあったらしいというのは聞いています。 それでも…あなたのした行為は、許されるはずがないですッ!受験生だという自覚があなたには…」 「小池先生は、知ってたんですね」 「え?」 「今、トラブルがあったって言いましたよね…本当は、知ってたんだろ?」 氷のように冷たい目をしたままマサヒコが口を開いた。その壮絶な視線に一瞬たじろぐ小池だが…。 そこはベテラン教師らしく、立ち直って反論する。 「それが先生に向かって言う言葉ですか!豊田先生はどういう指導を…」 「知ってたんですね?小池先生」 豊田も全く同じ冷たい―軽蔑するような視線を小池に向け、マサヒコとほぼ同じセリフを口にした。 「な…先生まで、なにを…だいたい、証拠が…」 「俺と、的山が見てます。それに豊田先生も。それ以上に…あいつらが得意げに吹いてたのを、 クラスの連中が何人も聞いてます。そして…若田部本人は、今も…今も、苦しんでます」 「それが、なんの証拠に…」 「あんたに…わかるのか?若田部の苦しみが…。ああ?わかんのか!!!!」 マサヒコは猛る感情を爆発させ、憤怒の表情で小池に迫った。完全に、小池は圧倒されていた。 「…」 「なあ?小池先生には…高校生の、娘さんがいるんだよな?」 「え…」 「その、娘さんが…レイプされたとしても、証拠が無いからあきらめろって言うのか?」 「!」 マサヒコの目は、凶暴な光を放って刺すように小池を見ていた。 答え次第では、なにが起きるともわからない―その目は、そう語っていた。 § 「関係ないでしょう、あたしのことはッ!第一、ほ、本人である、若田部さんはなにも言ってないじゃ…」 「被害者に…若田部に、あたしはレイプされかけましたって言えって言うのか? そしたらお前らは、あいつらを罰してくれるって言うのか?答えろ…答えろよ!!!」 「もういい…もういいんだ、小久保…」 つかみかからんばかりに小池に迫るマサヒコの肩を、軽く抱くようにして豊田は首を横に振った。 「小池先生…小久保が、許されないことをしたのは俺が謝ります。先生に暴言を吐いたのも謝ります。 でもね、先生?俺も、小久保と同じ思いだと言うことを忘れないで下さいよ?」 豊田の目には、先ほどの軽蔑と同じくらい―いや、それ以上に激しく、静かな怒りの色があった。 同僚の教師とその教え子から同時に睨まれて、小池は力無くうなずきを返すしかなかった。 £ 「ふう…しかし、さすがに二日も休むと、ヒマだな…」 マサヒコは、相変わらず散らかった部屋の中で呟いていた。 謹慎二日目の正午、一日中ゲームをするのにも飽き、ごろりとベッドの上で寝ころぶ。 結局学校側から言い渡されたのは三日間の謹慎。 「安心しろ…絶対に、内申書には書かないし、なんの影響も無いようにしとく。 こんなことしか、俺にはできないけどな…」 自嘲気味にマサヒコに耳打ちした豊田の表情を思い出していた。 「先生にも…わりいことしちゃったかな…」 謹慎処分を受けたのにもかかわらず、マサヒコママは平気な顔をしていた。 「ははは…あんたって、ちっちゃい頃から手もかからないし、男の子らしく喧嘩もしなくて、 いつ反抗期があったのか心配になるくらいだったけど…。やっと男の子らしくなったじゃない」 さすがは女傑にして漢、マサヒコママである。むしろマサヒコパパの方がおろおろしていたくらいだった。 ミサキは…後でなにがあったのかを聞いて、涙ながらにマサヒコに謝っていた。 「ゴメン…ゴメンね、マサ君、あたしが無神経なこと言っちゃったばっかりに…」 お前のせいじゃない、とマサヒコが何度言っても、ミサキは謝り続けていた。 そしてリンコは…。 § 「小久保君は、正義の味方だったんだもんね!良く、やったんだもんね!」 セリフこそいつもどおりの脳天気なものだが、こちらも涙を流しながらマサヒコの頭を撫でまわすのだった。 「…なあ的山、これってもしかして、良い子良い子してくれてんの?」 「ウン!偉いぞ、小久保君!」 表情だけはニコニコだが、リンコは泣きながらマサヒコの頭をいつまでも…いつまでも、撫でまわし続けた。 「にしても…ああ、暇だなあ…」 天井を見たまま、再び呟くマサヒコ。 目を閉じると、どうしてもアヤナの姿が思い起こされてしまい―身をよじった。 (若田部…今日は登校してんのかな…もう…立ち直れたのかな…にしても…) マサヒコは、自分の拳を見た。軽く赤くなっていた。 (ははは…いてぇ…人を殴ると、自分も…痛いんだな…初めて、人を殴っちゃったな…) そんなことを思いながら苦笑していると―。 “コンコン” マサヒコの部屋のドアがノックされた。 (?…母さん?でもさっき買い物に行くって…) 訝しがりながら、マサヒコがドアを開けると、そこには…。 「な?え?な、中村先生!」 無言の中村が立っていた。マサヒコをじっと見つめると―、 “ボスッ” 一発、マサヒコの腹にパンチが飛んできた。 「ぐ…ぐふッ?な、なはむらせんせい?」 「ふふ…やるじゃん、マサ!」 突然満面の笑みを浮かべると、中村はマサヒコを抱き寄せた。 (へ?は>?ほ=|?) 痛みと疑問符で頭の中がいっぱいになるマサヒコ。 「聞いたぞ…セージから!この…男になったじゃん!コラ!偉いぞ、マサ!」 § 全力でマサヒコを抱きしめながら、バンバンとマサヒコの背中を叩きまくる中村。 彼女なりに褒めているのかもしれないが、マサヒコにとってはほとんど拷問である。 「へ…へんへい、お願いでふから…はらして…」 「あら…レイプ魔ふたりをのしたにしては、情けない声ねえ…ホントにあんたがやったの?」 「いひはら…離してくらはい…」 物足りなさそうに中村が手を離すと、マサヒコはその場にへたりこんだ。 「ま、それは冗談として…マジで良くやったぞ、マサ?」 「あ…はあ」 「正直さ、あんたが高校受かったとしてもあたしはここまで喜べなかったってぐらいだ…良くやった!」 (それって…俺の目の前で堂々と言っちゃっていいこと?) 心の中で冷静にツッこむマサヒコだが、当然なにも言えるわけがない。 「で…中村先生は、なんで…」 「ふふ…今回の英雄君がなにやってるかな~って思ったら…案外、地味に過ごしてるのね」 「そりゃあ…謹慎中の身ですから…」 「ふ~ん、そりゃあ、好都合だわ…」 「え?」 「あたしね、偶然今からアヤナんち行くつもりだったわけ。つきあいなさい」 「?!へ?」 「いいでしょうが。どうせ暇なんだろ、オラ、来い!」 「って先生?謹慎中ってことは外に出たらダメなわけで…」 「ふん。あんなクソみたいな連中の言うことなんて、聞くだけ馬鹿みたいでしょうが。 お母様の許可は取ってるから、いいから来るの、ほれ!」 強引にマサヒコを立たせ、手を引いて外へ連れ出す中村。 (しかし…俺の周りの年上の女の人ってのは母さんを含めて…いや筆頭に、なんでこうなんだ?) 中村にラチされるように連れられながら、マサヒコはそんなことを思っていた。 外には、豊田の愛車が止まっていた。そのまま、中村の運転でふたりはアヤナ邸へと向かった。 § 「ごめんくださーい…若田部さん、中村ですが…」 「あ…中村さん?さあ、どうぞ。あら?あなたは…小久保君、だったわね?」 「はい…お、お邪魔します」 現れたアヤナママは中村の後ろで決まり悪そうにしている少年を見つけ、目を細めて微笑んだあと…。 ふたりを家の中へと案内した。 (あのときは…気がつかなかったけど…) アヤナとよく似た整った顔立ちをした女性だった。だが、今回の事件による心労のせいだろうか―、 自分の母親よりも、随分と年上のような…失礼を承知で言えば、老けた女性だという印象を マサヒコは受けた。まあただ単に彼の母親があまりに若すぎるというのもあるのだが。 「本当に…今回は…小久保君と的山さんのお嬢さんにはなんて…なんてお礼を言ったらいいのか…」 小柄な体を精一杯折り曲げるようにして、お辞儀をするアヤナママ。マサヒコは慌ててそれを制した。 「そ…そんな!俺がもっと早く気付いていたら、若田部だってあんな目にあうことも…」 「いいえ…もしあなたたちがいなければ…あの娘はもっと手酷い傷を負っていたわ…。 それに…聞いたの。あなたが…犯人の子たちを。結局あなたまで…」 「あ…いや、怒られちゃって今は謹慎中の身ですよ。今日だって、学校にバレたらヤバイんですけど…」 顔を赤くして、マサヒコは答えた。 「ふふ、すいませんね、お母様。この子案外シャイで…それより、アヤナちゃんは…」 「…あの日以来ほとんど部屋の中に籠もりっきりで…ご飯のときも、 あの娘の部屋の前に置いておくしかなくて…私は…もう…もう、どうしたらいいのか……」 アヤナママはハンカチを取り出すと、目頭を押さえた。 「そうですか…お母様、昨日話したとおり多少荒療治になりますが良いですね?」 「はい…中村さんに、あの娘は一番心を開いていますから」 「…それでも、危ないかもしれません。アヤナちゃんなら、 自力で立ち直れるとも思ったんですが。予想以上に心の傷は深かったみたいですね」 マサヒコはふたりのやりとりを聞きながら、話を必死で整理しようとしていた。 アヤナがいまだ立ち直れぬままらしいというのは、理解できた。 中村が、そんな彼女のためになにかをしようとしている、というのもおぼろげながら予想できた。 § それでも、この場になぜ自分がいなければならないのかという理由はさっぱりわからぬままだ。 (しかし…この人って…案外、如才がないって言うか…上手く立ち回れるんだよな…) アヤナママと中村は引き続き真剣に話し合っていた。 このふたりがいつの間にか親しくなっていたというのは、彼にとって少々意外だった。 「よし…じゃあ、行こうかね…」 「え?行くって…」 そんな考え事をぼんやりとしていたマサヒコは、不意をつかれて訳もわからずに言った。 「ま…天の岩戸を開きに行くってとこね…」 そう言うと中村はふう、と一息ついて席を立った。 「じゃあ…お母様?あとは、あたしたちに任せて…」 「はい…お願いします」 心配そうな視線をふたりに送るアヤナママ。中村は深刻そうな表情のまま、 マサヒコを連れ立ってアヤナの部屋へと歩いていった。 「先生…どうするつもりなんですか?」 「ん…正直、策は無い」 「へ?って…さっき若田部のお母さんの前ではもっともらしく…」 「ま、あそこではあんな風に言ったけど…結局人間の心の傷なんて本人にしかわからないもんだしね。 偉そうなカウンセラーとか心理学者がいくらアホ面さらしてゴタク並べたって、 本人に会って話してみるしかないわけ。当たって砕けろってとこよ」 「…砕けちゃあ、ダメでしょう…」 いったい思慮深いのか、いい加減なのか…中村はやはり中村だとマサヒコは思った。 そんなこんなで、ふたりはアヤナの部屋のドアの前に着いた。 中村はコホン、と一回わざとらしく咳払いすると、コンコン、とノックした。 「アヤナ…あたし。中村だけど…話が、したいんだ…お節介だとは思うけど…」 「…」 当然のように、ドアの向こうからは沈黙が返ってきた。 しかし、その向こうに――アヤナの気配を確かに、マサヒコと中村のふたりは感じていた。 § 「今回のことは…大変だったね、としか言えない。アヤナ…それでも、あたしは…あんたに、 立ち直って欲しい。今すぐじゃなくていい。多少時間がかかっても構わない。 ただね、覚えておいて欲しい。あたしだけじゃない。アイも、マサも、ミサキちゃんも、リンも…。 キレイゴトじゃなく…みんなあんたのことを心配してる。あんたのことを、大切だと思ってる」 「…」 「アヤナ…これはもしかしたら、お母さんから聞いたかな?おとといマサのアホね、犯人の奴らがさ、 お咎め無しだってのにキレて…そいつらボッコボコにして三日も謹慎くらってんのよ…はは、アホだよね?」 (…結局、俺はオチ担当か?) なんとなく面白くないマサヒコだったが―――中村の言葉が終わった瞬間、 ドアの向こうの空気が、びくん、と震えるのを確かに感じた。 中村もその気配を感じたのだろう。マサヒコに視線を移し、ふたりは無言のままうなずきあった。 「それでね…今、謹慎二日目の大馬鹿野郎のアンポンタンが、ここに来てるわけ。じゃ、マサ?」 「え?へ?ななな、中村先生?」 「いいから…あんたも、アヤナに言いたいことがあるんでしょ?」 (打ち合わせなしの完全アドリブじゃんか…) 情けない顔をするマサヒコだが、中村は怖い形相で一瞥すると、ぱん、とマサヒコの尻を叩いた。 「ええと…若田部…今回は…その、ゴメン…」 (いきなりあんたが謝ってどーすんの!) 無言で叱る顔を作る中村だが、マサヒコはたどたどしい口調でなおも続けた。 「若田部…その、俺…お前にどんな言葉をかけていいのか、全然わからない…。 でもな、若田部。俺はお前に同情なんかしない。憐れみもしない。 お前は、強い奴だって知ってるつもりだ。だから…だから、 お前にはずっと日の当たる道を歩いて欲しいと…俺は思ってる」 つっかえつっかえになりながら…一気に、マサヒコは話した。彼の思いつく限り、全てを。 「若田部…俺はさ、結局は男だから…お前が、どんな気持ちなのか…どんなに傷ついたのか…。 正直、わからないんだ。でも…俺はお前を、信じてる。あんな…クソみたいな奴らのせいで、 ダメになるような…そんな奴じゃないって。お前にはいつも正々堂々としていて欲しいって…思ってる」 § (ほおお…マサ、こいつ…) 中村は感心していた。聞いてのとおり、マサヒコは全く能弁家ではない。 むしろその真逆のタイプだろう。だが、訥々と…あくまで正直な言葉を丁寧に連ねて話していた。 それは確かに中村の心にも響いたし、アヤナの心にも響いているはずだった。 「若田部…中村先生の言うとおり、時間がかかっても…構わない。 …俺は…俺たちは、いつまでも…ずっと…お前を待ち続けるし、信じてる…」 マサヒコは真剣な面持ちでそう言い終えると、中村に向き合った。 「…」 無言のまま、中村はマサヒコの頭頂部に手のひらを乗せると、彼の癖っ毛をくしゃくしゃに撫でまわした。 (…なかむら、せんせい?) 驚くマサヒコだが、中村は片目をつむってウィンクすると、親指を突き出した。 (グッド・ジョブよ、マサ…) 中村がマサヒコの肩を二度三度と叩き、ふたりがドアの前から移動しようと歩き出した ―――――そのとき。 “ガチャ” ふたりは、同時にその音を聞いて振り返った。 「お姉様…小久保君…」 痛々しかった。目は赤く腫れ…頬はげっそりと痩けていた。 いつもはきちんとセットされたあの赤毛のロングヘアーも…そこここに跳ね、見る影もなかった。 それでも…やはり、アヤナはアヤナだった。どんなにやつれていても、どこか高貴な美しさを放っていた。 「アヤナ…」 中村が、声をあげた。マサヒコは、呆然とアヤナを見つめていた。 「入って…下さい…」 £ 相変わらず、広々とした部屋だった。しかし―今は、その広さが妙に寒々としたように感じられた。 「アヤナ…あたしたちの思いは、さっき言ったとおりだ。これ以上、付け加えることもない。 ただ…無理にじゃなくてもいいけど…あんたに、もし言いたいことがあるのなら…いくらでも言って欲しい」 § 「…」 アヤナは下を向いて、黙り込んだままだ。しかし…5分ほど過ぎた頃だろうか、ゆっくりと口を開き始めた。 「…履けなかったんです」 「…」 「あの次の日の朝には…自分では、回復したつもりだったんです。的山さんとも、約束したし。 あたしは、あんな奴らに絶対負けない…学校に、行くんだって玄関までは…そう思ってたのに…」 みるまにアヤナの双眸から、涙があふれた。 「…どうしても…両脚が、棒になったみたいになって…靴が、履けなかったんです。 外に出ることが…出来なかったんです。それが自分でも信じられなくて…自分で自分が情けなくて…」 “ぎゅっ…” その言葉を聞き終わらないうち、中村が近寄ると、無言でアヤナを抱きしめた。 「もう…大丈夫。アヤナ…あんたは…なにも、悪くない…。あんたは、良くやった」 「お姉様…」 (キレイだな…) 今こんなことを思うのは不謹慎かもしれないが…。 マサヒコは、目の前のふたりの姿をそう思いながら眺めていた。 本当に、それはまるで古い宗教画のように…美しい風景だった。 「アヤナ…でも、忘れないで欲しいんだ…あんたには…家族と…あたしたちが、ついてる」 「…は、はい。お姉様」 「だから…絶対に、こんな下らないことでつまずいちゃダメだ。さっきマサが言ったけど…、 …あんたは、堂々としていなきゃ…日の当たる道を歩いていかなきゃいけない子なんだから」 「…」 アヤナは中村の胸の中で泣き続けていたが…やっと泣きやむと、顔をあげて言った。 「…ありがとう、ございます…もう、大丈夫です。あたし…明日は、絶対…学校に行けます」 「無理しなくていいんだよ。あくまで、あんたのペースでいいんだ」 「いいえ。このままじゃ、いけないことも…お母さんや、みんなにこれ以上甘えてちゃいけないことも、 本当はわかっていたんです。…大丈夫です!今から…外にでてみせますから」 § 「え?いいの?いきなり、アヤナ…」 「はい…行きましょう、お姉様、小久保君…」 「そっか。あんたがそう言うなら…でもね、アヤナ?お姫様が外出するときはエスコートが必要よ?」 「え?」 中村はいつもの悪戯っぽい笑顔をつくると、マサヒコの方を向いた。 「コホン。ここにアホで頼りなくて、冷静に見えて意外にキレやすい王子様がいるんだけど…。 まあ、アヤナがイギリス王女とするならマサはスワジランドの第5王子ってとこだけど…どうかな?」 スワジランドって、どこにあるんだよ…と苦笑しながらマサヒコは中村の言葉を聞いていた。 「…」 アヤナは少し不安そうな視線をマサヒコに向けた。 今回の件について、マサヒコに感謝しているのは確かだ。 それでも…自分を、マサヒコは受入れてくれるのか…自分は、マサヒコを受入れることができるのか…。 そのふたつの感情のはざまでアヤナは揺れ動いていた。 “すっ…“ するとマサヒコは顔を赤くして立ち上がり、片膝をついてアヤナの前で跪くと、右手を差し伸べた。 「え?」 そして左手を右胸につけ、うやうやしくお辞儀をして、言った。 「行きましょう、姫…外では、皆が待っております」 「小久保君…」 (しかし…王子と言うより、爺やだな、こりゃ…) 似合わないことをしている、という照れもあったのだろうが…マサヒコは自分で自分にツッこんでいた。 しばし戸惑うアヤナだが…こちらも顔を赤くして、にっこりと微笑むと、マサヒコの右手をとった。 「アヤナ!アヤナッ!あなた…」 アヤナママが、姿を現した娘に向かって慌てて駆け寄るが…アヤナは笑顔をつくって言った。 「大丈夫…お母さん。あたしは、もう大丈夫」 「お母様…アヤナちゃんを、行かせてあげて下さい」 「俺からも…頼みます。大丈夫です…なにかあっても…俺が、若田部を助けます」 § 真剣な面持ちで、マサヒコと中村が懇願する―。 そんな3人の様子に圧倒されたアヤナママは、うなずき、後に続くことしかできなかった。 玄関に、着いた。マサヒコはアヤナのものであろう靴を並べ、 彼女の手を握りながら次なる行動を待った。アヤナの右手に、力がこめられる。 「若田部…」 マサヒコはアヤナの横顔を見た。汗をかき、苦痛で顔を歪めるかのような表情を浮かべていた。 それでも、それは悲壮なものではなかった。自分に打ち勝とうとする表情だった。 彼女なりに、レイプという卑劣な犯罪の標的にされた心の傷から必死で立ち直ろうとしていた。 マサヒコが思っていたよりずっと小さな手は、さきほどからほんのりと汗ばみ…小刻みに、震えていた。 「…小久保…くん…」 アヤナはマサヒコの目を見た。いつもの強気な目ではなく、なにかを求めるかのような目だった。 「若田部…今日は、無理でもいい…それでも…俺は、お前を信じてる」 マサヒコは、強くアヤナの手を握りしめると、そう言い切った。 (逆に言えば…俺たちには、お前を信じることしかできない…) 祈るような気持ちで、マサヒコは、中村は、アヤナママは待った。 しばらく目を閉じていたアヤナだったが…意を決し、足を靴へと下ろす。 “する” 靴に、アヤナの足がはまる。そして、アヤナは…一歩を、踏み出した。 (あたしは…あんな奴らには負けない。あたしには…小久保君や、お姉様や、 みんながいてくれる…明日は、絶対に笑顔で…クラスのみんなに、会いに行くんだ…) 奥歯を噛みしめるような思いでアヤナは玄関のドアに手をかけ、勢いよく開け放った。 “バタン” 青空が、広がっていた。梅雨の合間の、快晴だった。 「若田部!若田部!」 「アヤナ!」 アヤナが、振り返った。両頬からは涙が伝って、落ちた。 「ねえ…小久保君、それに…お母さん、お姉様…」 § 三人は、固唾を飲んでアヤナの言葉を、待った。 「たった三日でおおげさだって言われるかもしれないけど…。 太陽の光って、気持ちいいんだね。あたし…初めて知ったかもしれない…」 アヤナは、泣きながら微笑んでいた。今までマサヒコや中村が見たどれよりも…美しい笑顔だった。 「若田部…一緒に、歩こう」 「ウン…小久保君」 ふたりは、手を取り合い、互いを支えるようにして広いアヤナ邸の庭を歩いた。 「あそこにね…昔あたし、コスモスを植えたことがあるんだ」 「あの少し芝生がはげたところ。昔大事にしてたぬいぐるみを埋めたんだ…」 少年と少女は、そんなとりとめもない会話をしながら歩いていた。ふたりの年齢に似合わず、 老夫婦がお互いを労り、思いやる…枯れた、しかし深い愛情を感じさせるかのような姿だった。 「中村さん…ありがとう。本当に、ありがとう…」 アヤナママは、先ほどから泣き続けていた。 「いいえ…きっかけを与えたのは、あの子…小久保君です。多分…もう、アヤナちゃんは大丈夫です」 「あたし…親でありながら、あの子のあんな穏やかな顔を初めて見ました…。 父親や、兄のせいか…いつも自分にプレッシャーをかけて…必死な顔ばかりしてましたから」 「お母様…勝ち続けることは、それでそれは立派なことだと思います。でも、今のアヤナちゃんには、 他の…たとえばあそこでアヤナちゃんを支えている、小久保君のような存在が必要なんだと思います」 「ええ…本当に、小久保君にはなんとお礼を言って良いか…」 「あいつは…多分、この先ずっとイイ男になります。きっとアヤナちゃんに相応しいくらいの、ね」 £ 「小久保君…今日は、本当にありがとう…」 アヤナとマサヒコは、芝生に腰を落ち着けて話をしていた。 「明日は…行けるか?学校…」 「ウン…でも、明日行ってもつまんないよ」 「?なんで?」 「だって…小久保君は、明日まで謹慎なんだもん。小久保君がいないと、つまんない」 § ようやく普段のアヤナが戻ってきたようだ。頬を染めながらも、「寂しい」でもなく、「嫌だ」でもなく…。 「つまらない」と少し怒ったように言う表情は、いつものアヤナのそれである。 「はは…でもさ、若田部?的山と約束したろ?アイツのためにも…豊田先生のためにも、 俺や、中村先生や、みんなのためにも…元気になった顔を見せてやってくれよ」 「うん…ねえ、小久保君?」 「なに?」 「この前のこと。あの…あのとき…あたし、必死だったから気付かなかったけど…」 「?」 「見ちゃった?あたしの…胸…」 「!」 見ていた。間違いなく。マサヒコも必死だったので一瞬だったが…。 呆然としたまま上半身裸でいたアヤナの姿は網膜にはっきり焼き付いていたし、 その後抱きつかれたときの豊満な肉感はしっかりとマサヒコの両腕に記憶されていた。 「その顔だと…見たんだね?」 「!@P|イヤ、あれは!ふふふふ、不可抗力で…」 「いいんだ…あたし、小久保君だったら。だってね、小久保君に抱きしめられたとき…。 あんなことのあった後だったのに、全然イヤじゃなかった。好きな人に触られるのは大丈夫なように、 女の子のからだはできてるって言うけど…そうなんだね」 顔を赤くして、アヤナはそう言った。 「わ、若田部?」 アヤナは、アヤナママと中村の視線が、一瞬それたのを確認すると…。 “ちゅっ” マサヒコの頬に、軽くキスをした。 「!^お、おい若田部!」 「前の夏合宿の責任は、今回でチャラだけど…。あたしの胸を見た責任が、 また新しくできたんだからね?新しい責任は…今度取ってもらうから…楽しみにしててね?」 悪戯っぽい笑みを浮かべるとアヤナは立ち上がり、中村たちの方へと歩いていく。 § 「お母さん…お姉様…ありがとうございました…あたしは、もう大丈夫です」 「はは、そうみたいだね…じゃ、アヤナ?あたしらはこれで…」 「え…そんな、中村さん!お礼もなにもしていません!せめてお茶だけでも…」 「いいんですよ、今のあたしたちにはアヤナちゃんの笑顔が一番のお礼ですから… コラ、マサ!アホみたいにボーッとしてないで、ちゃっちゃとこっちにこんかい!」 こちらも普段のふたりの関係に戻ったようだ。アヤナの不意打ちにポカンとしたままのマサヒコの 後頭部を軽くどつくと、首根っこをつかんで引きずるようにして中村は去っていった。 「…アヤナ…」 「お母さん…心配かけて、ごめんなさい…」 「いいのよ…それより…あの子…」 「…小久保君のことね。今は…ただのともだちよ。と・も・だ・ち」 しかしそう言い終えると、アヤナとアヤナママは顔を見合わせて、くすり、と笑い合っていた。 「生涯一緒にいていいって思える人とは、当たり前だけどそんなに何回も出会えないものよ。 でも、あなたはラッキーだったのかもね」 「うん…そうだね、お母さん」 £ そして中村&マサヒコの帰路、豊田の車の中。 「てわけでマサ、覚悟を決めなさい…いいじゃない、美人でナイスバディで才女、これ以上なにを…」 「だから!ななな、なんでそんな話に…」 「あ~ら、そ・れ・と・も・そんなにミサキちゃんのことが怖いの? いい加減スパッとあの子にも言ってあげたほうが優しさってもんよ?なんならあたしから…」 「*¥#まままま、待てえええ!それだけは、やめろぉおおお!」 絶叫するマサヒコ。彼の運命は…以下次回。 「だからね、この式はこう展開すると…」 「わ~、ホントだ、スゴイ!さすがはアヤナちゃんだねっ!」 「ふふー、数学の問題ってパズル感覚で解けるときが一番楽しいよね」 「若田部、わりい。俺はここなんだけど…」 放課後の図書室―アヤナ、リンコ、マサヒコの三人が和気あいあいと勉学にいそしんでいた。 (まあしかし…あっけなかったな…ハレモノ扱いかと思ってたけど…) 謹慎が終わり、マサヒコは少しビクビクしながら登校したのだが…。 そこには拍子抜けするほど、普段のままのクラスのみんなの顔があった。 そしてアヤナも…確かに少しやせた感じはしたものの、いつもどおりの顔でマサヒコを待っていた。 リンコはVサインで、ミサキは微笑みで、そしてアヤナは…一回お辞儀をしたあと、 笑顔のまま、ぺろっ、と小さく舌を出してマサヒコの復帰を迎えた。変わったことと言えば、 放課後のリンコとマサヒコの学習会にアヤナが加わるようになったことぐらいだった。 委員会の仕事で多忙を極めるミサキも、アヤナのことが…いや、それ以上に アヤナとマサヒコの二人の関係が気になるのだろう、時間を見つけては顔を見せていた。 ただし―変わらずに接してくれているのは、マサヒコたちのクラスに限っての話である。 他のクラスの人間は、マサヒコに対してあからさまに畏怖の面持ちで見るようになった。 また、マサヒコにはっきり好意の視線を送る女子生徒も少なからずいたのだが…。 依然としてそうしたラヴ光線にも無頓着なままなのがマサヒコらしいところである。 そして彼とアヤナの関係は…実はほとんど進展していなかった。 ただ二人がふとした瞬間に視線を交わすとき、 そこに強い結びつきが見てとれるのは周りの誰にも隠しようもなかった。 「ふふっ、小久保君、少しひねった問題だけど…ここはね…」 いまだ完全に心の傷が癒えたとはいえないアヤナ。あのときのことが思い出されるのか、 ちょっとしたきっかけで固まってしまう瞬間がまだ少なからずあった。 だが―マサヒコといるときは、いつもふわりとした笑顔を向けてくれていた。 その微笑みを自分たちが独占しているということに、マサヒコは喜びと一抹の不安を抱えていた。 § (俺や…的山の前ではこんなにいい笑顔なのに…) ゆっくりとでいい、とは思っていた。そんなにすぐでなくて良い、とも思っていた。 それでも――クラスの男子に声をかけられるたびに、一瞬怯えたような表情を作る―― そんなアヤナを見ると、マサヒコは胸が痛くなるような悲しみを味わうのだった。 (若田部が本当に大丈夫になるまで、俺たちで守らないと…) 大きな決意を胸に、マサヒコは日々を過ごしていた。 (にしても…中山と杉山の奴ら…) マサヒコが鉄拳制裁を加えた犯人ふたりは、当初こそ両家の親共々裁判も辞さない、 と強気な態度で学校側に接していたのだが…事情が明らかになるにつれ、 次第にトーンダウンしてゆき、最近はふたりとも学校に来づらくなったのか 受験生という立場にもかかわらずあまり授業にも出てきていないようだった。 それでもマサヒコにしてみれば、全く納得したわけではない。 彼らはただの犯罪者であり、それを漫然と見過ごしている学校側への不信感は未だにあった。 だが、今は…目の前の少女の心の回復に全力を注ぐしかなかった。 「よし、今日の課題終わりっと!ありがとう、アヤナちゃん!」 「ふふ…いいのよ、あたしも復習になるし…みんなで勉強するのって、楽しいよね」 「はああ…しかし…情けねーな、俺。三日休んだだけだってのに全然ついていけねえ…」 「休んだんじゃないよ~、謹慎だよぉ~、小久保君!」 「…的山、もう少し優しい言い方はできないのか?」 「ぷっ…あははははは」 恐らく、マサヒコとアヤナのふたりっきりではお互いを意識しすぎて、 こうも近く接することはできなかっただろう。リンコという存在を介することで、 いつも勉強会は和やかな雰囲気になっていた。そんな何も特別でない、 平穏な日々は、アヤナの心の傷を確実に癒しているはずだった。 「じゃあ…帰ろうか、的山、若田部…」 「ウン、小久保君!」 「そうね…行きましょうか」 § 三人は仲良く学校をあとにした。先にリンコが別れ…マサヒコとアヤナは、ふたりっきりになった。 「…」 「…」 会話がとぎれ、沈黙が続く。しかしマサヒコはこうした時間が嫌いではなかった。 今のふたりには、もっと親密な…お互いが黙ったままでも、わかりあっているような…。 濃い、信頼関係があった。 (こういうの…ちょっといいかもな…) マサヒコはふとアヤナの横顔を見つめ、笑いかけた。 「?」 一瞬怪訝そうな表情を作るアヤナだが…彼女もマサヒコの思いを汲みとったのだろう、 すぐに微笑みをかえしてきてくれた。しばし見つめ合い、微笑み合うふたり。 今回の事件を知らない人間が見たならば、そこに暗い影を見つけることなど不可能だったろう。 それくらい、ふたりの間には穏やかな空気が漂っていた。――やがて、アヤナ邸に着いた。 「じゃあな、若田部…また明日」 「あ…あの…小久保君?」 「?どうした?」 「今日ね…あたし、アップルパイ焼くつもりなの…。 それで…良かったら…試食していってくれないカナ?」 「?いいのか?俺だけお呼ばれしちゃって…的山も…」 「う、ウウン…女の子同士だとね、どうしても点が甘くなっちゃうから…。 一番最初は、甘党じゃない小久保君に食べて欲しいの…」 「…ふうん、なら有り難く…」 少しぎこちなくだったが…ふたりは、言葉を交わし、アヤナ邸へと入っていった。 「どうぞ…小久保君。昨日のうちに作って冷やしておいたからあとは焼くだけなの。少し待っててね?」 「ああ、わかったよ…ありがとう」 マサヒコは、アヤナの部屋に案内されると、彼女が戻ってくるのを待った。 § 「お待たせしました…どうぞ、小久保君」 「良い匂いだな…匂いだけで美味そうだもんな」 「ふふ…そう言って、食べてみたらダメダメかもだよ?」 「んなわけねーって…じゃ、いただきます。…うん、美味い!」 「ホント?嬉しい」 「いや、本当に美味いよ。おいしいって!」 「も~う、小久保君さっきから美味いとおいしいしか言ってないじゃない…作り甲斐がないなぁ…」 笑顔のまま、ちょっとふざけて頬をふくらませるアヤナ。 「だって、ホントに美味いんだよ…あ!」 「ふふ…もう!あたしが言ったすぐに…」 「俺って国語力ねーな…でも、ホント美味いわ…」 笑顔でぱくぱくと食べ続けるマサヒコ。アヤナはそんな彼を嬉しそうに見つめている。 「あ…小久保君?ほっぺに…ついてる」 「え?…ど、どこに?」 「うん…ちょっと待って…」 アヤナは、マサヒコの隣に移動すると…。 “ちゅっ…つ…” マサヒコの頬にキスをして、ついてしまったパイ生地を舐め取った。 「??!お、おい若田部…」 「……」 無言のままマサヒコを見つめるアヤナだったが…しばらくして、口を開いた。 「…小久保君、あたしね…あたし…ずっと、ずっと不安だったの」 「…そうだよな、あんなことが…あったあとだもんな…」 だが、アヤナはマサヒコの言葉を聞くと首を左右に振った。 「違うの…不安だったのは…あなたのこと…」 「え?お、俺の?」 § 「あたし…この前のことは本当に、言葉じゃ表現できないくらい感謝してる。 でもね…小久保君の気持ちが…わからないの。ねえ、小久保君…あなたは…あたしのこと、 どう思ってるの?…あたしは…あなたのことが、好き。でもあなたは…どうなの?」 「若田部…で、でもさ。それは…思い込みもあるんじゃないか?あんな目にあったから…。 言い方は悪いけど、たまたま俺がお前を見つけて助けたから…だから、俺のことをそういう風に…」 「…ねえ、小久保君。あなたは…もしかして、あたしのことを…かわいそうな女だって思ってる? あんなことがあったから…あたしに同情して、一緒に…いてくれてるの?」 「…」 無言のまま、アヤナの言葉を聞いていたマサヒコだったが…。 “ぎゅっ” 彼女と真正面に向き合うと、両腕を回して強く、強く抱きしめた。 「同情…なんかじゃ、ない。若田部は…かわいそうなんかじゃない。 俺だって…若田部のことが、好きだ。でも…なんだかさ、今のお前にそう言っちゃうと、 若田部の弱みにつけこんだみたいで…だから…俺…」 「小久保君…」 涙を流しながら、アヤナはマサヒコの言葉を聞いていた。 「あたしね…あたし、ずっと天野さんがうらやましかったの。だって幼馴染だってだけで、 いつも小久保君のそばにいられて…。あんなことがあったから…小久保君は優しいから。 あなたはあたしのことをかわいそうだと思って、今だけ一緒にいてくれるんじゃないかと思って…。 いつかあなたが離れていっちゃいそうで…ずっと、ずっと不安だったの」 「若田部…不安だったのはさ、俺も一緒だよ。俺なんかじゃお前に釣り合わないし。 お前がいつか元気になったらさ、また前みたいに友達に戻るんだ、って思ってたんだ。 でも…お前が言ってくれたから、俺も頑張って言うよ。俺は、お前が好きだ。 ずっとずっと若田部のそばにいたい。若田部の笑顔を見ていたい。だから…恋人になってくれ」 「小久保、くん…」 泣きながら、アヤナは何度もうなずいていた。 マサヒコはそんな彼女の顔を愛おしそうに見つめると、ゆっくりとアヤナの涙の線に口をつけた § “ちゅ…ちゅ…” 「あ…ん…」 そしてアヤナの涙を舐めとるように、マサヒコは彼女の頬に舌を這わせた。 恋人になってから初めてマサヒコから受ける愛撫に、アヤナは顔を赤くして声をあげる。 「もう…泣かないでくれ…若田部の涙は…もう俺、見たくないんだ…」 「ウン…わかった。もう、泣かないよ、小久保君…だから…あの…」 口ごもり、少しもじもじとした後、アヤナは目を閉じて軽く唇を突き出す。 彼女の言わんとすることを察したマサヒコは、にっこりと微笑むと…。 “ちゅっ” アヤナと唇を重ねた。形の良い、薄めの唇だが、ふんわりとした柔らかさが心地よかった。 (小久保君…小久保君…) (若田部…) ふたりは、確かめるように…唇の先を合わせたり、軽く舐めあったりしながら…キスを続けた。 「あ…ん…ねえ、小久保君?」 「?どうした?若田部」 「あの…あのね…」 しばし躊躇したアヤナだったが…意を決すると、マサヒコの右手をとり、自分の胸へと導いた。 “ふにゅ…” 「!?お、おい若田部?」 その豊かな感触と、アヤナの行為に驚いたマサヒコは思わず叫んでしまっていた。 「お願い…小久保君」 「若田部、焦っちゃダメだよ。多分今のお前はすごく不安定になってるんだ。 そういうのはさ、もっと時間をかけて…俺たちがお互いを良くわかりあったあとでいいじゃないか」 アヤナのことを気遣って語りかけるマサヒコだが、アヤナは悲しげな表情で首を振る。 「焦ってなんかないの…ねえ、小久保君…。あたしがこの前、最後に言ったこと、覚えてる?」 「?え?」 § 「あんなことがあったあとなのに…小久保君になら触られてもイヤじゃなかったって。 あたし、そう言ったじゃない?あれ…まだ続いてるの。お父さんにも…お兄ちゃんにも…。 あれ以来、ちょっと触られるだけでからだがゾクッて反応して…鳥肌が立っちゃうの。 あなたも気付いてるでしょ?クラスの男子に話しかけられるだけで、あたし、固まっちゃうこと…」 「…う、ウン」 「このままじゃ…ダメだってのは、あたしもわかってるの。でも…ダメなんだ。どうしても…」 「そ、それはさ、若田部…時間をかけて…ゆっくり解決していけば…」 「ウウン…原因はね、わかってるの。あたし…今でもね、たまに…あの日のことを夢で見るんだ。 襲われる夢。苦しくて…悲しくて…でも、必ずあなたが─小久保君があたしを助け出してくれる。 その場面で終わるんだ…。だから…だからね、小久保君…あなたが…あたしのことを、 きちんと愛してくれたら…変われると思うの。今はまだ、あたしが誰のものでもないから…。 だから、不安で…怖くて…どうしても、男の人に普通に接することが出来ないんだと思うの。 あたしが…あなたのものになったら…あなただけのものになったら…変われるって、そう思うの」 「…」 アヤナは、真っ直ぐにマサヒコを見ていた。恐らく、それは彼女が傷つき、悩みながら出した 結論だったのだろう。その視線には、懇願の色も…迷いの色も、情欲の色すら皆無だった。 いつもマサヒコがアヤナに見ていた、聡明ではっきりとした視線だった。 「で…でもさ、いいのか?若田部…早過ぎないか?俺たち…まだ中学生なんだし…」 「いいの…あたし…小久保君にだったら…今すぐに、愛して欲しい。抱いて…欲しい」 「若田部…」 「…小久保君」 ふたりは、しばらく無言で見つめ合うと再び唇を重ねた。 さきほどよりも、大胆に…舌を絡め合い、お互いを深く求めようとする、貪るようなキスだった。 「小久保君…あの…あたし、服を脱ぐから…」 「う…うん…」 アヤナから体を離すと向こうをむき、視線を外すマサヒコ。 § 「それで…小久保君も…脱いで…」 「あ、ああ…そうだね…」 “する…しゅッ…” お互いが、背中を向け合いながら自分の衣服を脱ぐ…初々しくもどこかエロティックな そんなこの瞬間に、マサヒコは早くも胸が高鳴り、欲情してしまっていた。そしてアヤナも…。 “ぱちん” セーラー服のスカートを脱ぎ、夏物の半袖シャツを脱いで靴下と下着だけの姿になったあと─。 何度もためらった末にやっとブラジャーのホックを外し、…両手で裸の乳房を隠した。 (こんな…こんなカラダを…小久保君は…どう思うんだろう) アヤナは不安と恐れでいっぱいになりながらそう思った。周知のとおり、 彼女にとって豊か過ぎる自分の胸はずっとコンプレックスだった。 思春期になり、そこが膨らみ始めてからいつも…クラスメイトや教師や肉親でさえ─ 男という男は自分のそこしか見ていないように感じられてならなかった。 今回の事件にしても、犯人たちの目的のひとつがアヤナの乳房にあったことは間違いなかった。 あのときのことを夢で見るたびに、犯人たちのセリフを思い起こすたびに─。 アヤナは、自分の乳房をナイフで切り落としたくなる衝動に駆られることさえあった。 (でも…小久保君はあたしを助けてくれた。あのとき…服をかけてくれたとき、すごく嬉しかった…) マサヒコなら、自分の肉体だけでなく全てを受け入れてくれるはず…。 そう信じてアヤナはマサヒコの方に向き合った。マサヒコは、まだ背中を向けたままだ。 「お待たせ…いいよ、小久保君…」 「あ、ああ…それじゃあ…」 ぎこちなく、トランクス一枚のマサヒコが体を反転させる。するとそこには─── うつむきかげんのまま、両手で乳房を隠した純白のパンティ一枚のアヤナがいた。 だが彼女の乳房の豊かさは明らかに手のひらのキャパシティを越え、そこからあふれんばかりだった。 「………」 恥ずかしさからか…不安からか…アヤナは無言のまま、ちいさく震えていた。 § マサヒコはゆっくりと近づくと、両腕をアヤナの背中に回した。 アヤナの体は、すっぽりとマサヒコの胸の中に納まるかっこうになった。 「こ、小久保君?」 「…恥ずかしいんだろ?若田部…」 「…」 「だから…今日じゃなくてもいいんだ。俺たちにはさ、まだ時間があるんだし…。 もっとゆっくりと、ゆっくりとでいい。俺は…今でも若田部のことが好きだ。でも…時間をかければ、 もっともっと…ずっとずっと、若田部のことが好きになれる。だから…いつでもいいんだぞ?」 「こくぼ…くぅん…」 アヤナは、また涙が出そうになっていた。正直言って、マサヒコが自分を…自分の肉体を、 どう思うのかについては自信がなかった。彼とて、男である以上──アヤナの裸体を見て、 獣性を剥き出しにして、のしかかってくる可能性はゼロではなかったはずだ。 しかし、マサヒコの最初の言葉はアヤナのことをいたわる、とても優しいものだった。 (やっぱり…あたし、間違ってなかった…あたしの…運命のひとは、小久保君だったんだ…) 思いを強くしたアヤナは、ゆっくりと乳房をおさえていた両手を外し、マサヒコの背中に回した。 “むにゅ…” マサヒコの裸の胸に、アヤナの乳房の柔らかさがダイレクトに伝わってきた。 「わ、若田部?」 「小久保君…あなただけだからね?」 「へ?」 「あたしの…胸を…二回も見るの。あいつらには…一回だけ見られちゃったけど…。 あなたになら…もう一回見て欲しいの。だから…体を離して」 「で、でも…若田部」 「お願い。小久保君…あたしのカラダを、見て…」 上目使いで、アヤナはマサヒコを見た。その懇願するような…すがるような口調に、 マサヒコは何も言えず、ただうなずくしかなかった。 § アヤナは、顔を真っ赤にして、抱きついていたマサヒコから体を離した。 “すっ…” 「あ…」 思わず小さく、マサヒコは声をあげていた。─────キレイだった。美しかった。 それぐらいしか、思いつかなかった。息をのんで、アヤナの裸体をただ呆然と眺めていた。 あのときは…アヤナは呆然としていたし、マサヒコも早く彼女を助け出そうとしていたため、 一瞬しか見えなかったのが実際だった。とはいえ、そのときの豊満なアヤナの乳房の記憶はその後 しばらくマサヒコを夜な夜な悩ますのに十分なものだった。しかし、今マサヒコの目の前には─── 座ったままでもわかる、豊かな腰周りから、なめらかに細くなるウェスト。 そしてその細さからはとても想像がつかないほどにたわわに実った真っ白な乳房。 流線型を描く二つの白い果実の先には、少し陥没気味のピンク色の乳首がちょこん、と乗っていた。 アヤナは、目を閉じ、口元に手を置いてマサヒコの視線を受け止めていた。 「…変?あたしの胸…」 無言のままのマサヒコに不安になったアヤナが声をかける。 「…い、いや…すっごく…きれいだ…昔美術の時間に見た…絵か、大理石の彫刻みたいだ…」 息をのんで、マサヒコはそう答えた。事実、マサヒコには、目の前の風景はどうしても いやらしさや卑猥さと結びつかなかった──それはむしろ、高貴な芸術品のように見えた。 「ホント?小久保君…」 「う、うん…なんだか…スゴイ。絶対に…これを…若田部を、汚しちゃダメだ。俺は…そう思う」 「小久保君…」 嬉しかった。マサヒコは裸の自分を受け入れてくれていた。自分のカラダを、キレイだと言ってくれた。 …だが。アヤナは、自分自身の気持ちが昂ぶってきていることにも気付いていた。 (そんな風に…言ってくれるのは…嬉しいんだけど…) アヤナは、まだ呆然としたままのマサヒコの右手を取ると、自分の胸へと導いた。 「!*>?わ、若田部?」 「…さわって。小久保君…」 § 「で…でも…」 「いいの。小久保君になら…。あたしね、この前のとき…あいつらにここを触れられて、 最低な気分だった。だから…小久保君に、さわって欲しいの。あたしのここを…あなたの手で、 さわって欲しいの。あいつらの感触を、二度と思い出さないようにさせて欲しいの。お願い…」 アヤナの目は、真剣そのものだった。目の前の少女があの不幸な出来事を、 いまだに忘れずにいて…傷ついたままだということに、胸が痛んだ。そしてそれ以上に…。 彼女がそれをマサヒコによって清めて欲しい、と言っていることに彼自身が揺り動かされていた。 「若田部…なら、さわるけど…痛かったり、気持ち悪かったりしたら、言ってくれよ?すぐ止めるから」 「う…うん」 マサヒコは、震える手でアヤナの胸を揉み始めた。 “ふにゅ…むにゅ…” (うわ…な、なんだコレ?思ったより…ずっとやらかくて…あったかくて…でも、なんか張りがあって) 自分の手の中で、自在に形を変えるアヤナの乳房に感動しながら、 童貞君丸出しの感想を思うマサヒコ。一方アヤナも…。 (ん…あ…。こくぼくん…乱暴じゃなくて…さわりかた、優しい…自分でするより…ずっといいかも) こちらも処女丸出しの感想を思うのであった。 が、マサヒコはいつまでもただ揉んでいるだけではもはや我慢できなくなっていた。 「あの…若田部?」 「…んッ…な、なあに?小久保君」 「あのさ…若田部の、ココに…キスしても、いいかな?」 「!…う、ウン、いいよ…」 「じゃあ…」 “ちゅ…” 「あッ!…」 マサヒコのくちづけに、思わず声をあげ、びくん、と体を大きく震わせるアヤナ。 「あ…ごめん、ダメだった、俺?」 § 「う…ううん、違うの。なんだか今一瞬、体に電流が走ったみたいになって…でも大丈夫。 嫌じゃなかったよ?続けて…小久保君」 「あ、ああ…なら…」 “ちゅ…っつ、ちゅう…” 真っ白で柔らかなアヤナの乳房を、くまなくマサヒコは口づけていった。 ほんのりと汗ばんだそこからは、アヤナの匂いがした。 「なあ…若田部?」 「んッ…あ…こ、今度はなに?小久保君」 「若田部ってさ、なんか香水とかつけてる?」 「?ううん…だって学校で禁止されてるもん。制汗スプレーぐらいなら…。 あ、もしかしてあたし、汗臭い?」 「いや、そうじゃないんだけど…ならこれ、若田部の匂いなんだな…みかんみたいな…いいニオイ」 「あ…シャンプーとか、シトラスオレンジ使ってるから…でも、みかんって…もう!小久保君は…」 「いや、だってみかんだろ?オレンジって」 「…ムードないなあ…ふふふ、でもなんだか小久保君らしいよね…みかんの匂いかあ…おいしそう?」 「うん…すっげえ可愛くいて…いい匂いで、おいしそうだよ?若田部のカラダ」 「!ち、違うの、あたし、そういう意味で言ったんじゃ…」 「?だってホントだぜ?おいしいよ、若田部の、おっぱい…」 そう言うと、マサヒコはアヤナの乳房を乳首からぷくり、と口に含んだ。 「!あん…」 そしてそのマサヒコの口撫に思わず声をあげてしまうアヤナ。 “ちゅッ…こりッ…” 口の中で、アヤナの小粒な乳首をねぶるマサヒコ。 転がし、軽く噛み、吸い…そしてまた転がすように…思いつく限りの愛撫を加え続けた。 「あっ…んんッ…あン…」 そしてアヤナも艶やかな声で、カラダをくねらせるようにして過敏なまでに反応していた。 § (可愛い…若田部…) 自分の拙い愛撫に激しい反応を見せるアヤナに、愛しさを抱きながら…。 マサヒコは、自身も心と体が激しく昂ぶっていくのを感じていた。 “ちゅぷっ” マサヒコが乳房から口を離す。 「はあッ…ふう…」 アヤナは荒い息を吐き、頬を赤く染めてうつむいていた。 「若田部…感じて…くれた?」 「う…ウン…これが、感じるとか、そうなのかまだあたしも良くわからないんだけど…。 でも、気持ちよかったよ?小久保君…」 「そっか…なら、良かった…俺、嬉しいよ、若田部が気持ちいいなら。それで…えっと…」 今度はマサヒコがモジモジする番だった。 「…?」 「えっと…だね、その…そろそろ…」 (まさか…若田部、さわって終わりってことは…ないよな?…でも、さっき俺も かっこつけてあんなこと言っちゃったし…まあ若田部がイヤっていえばここでやめるけど…) やはりマサヒコも立派に思春期バースト状態の男子である。頭の中はそれでいっぱいなのであった。 「…!あ、ふふふ…そう言うことか。んふ、良いよ?小久保君。そのかわり…だ・っ・こ」 「へ?」 「前の保健室のときみたいなのは、ダメだよ? きちんと、女の子を抱くときのだっこでベッドまで連れて行ってね?」 悪戯っぽく微笑みながら、アヤナが両手を伸ばす。その手をとりながら、マサヒコが呟いた。 「やっぱりさ、可愛いよな、若田部は」 「?え?な、なによ、いきなり…」 「自分ではあんまり気付いてないかもしれないけど…若田部の笑顔ってさ、 反則気味に可愛いんだよな…マジで」 § 真顔でそう言いながら、マサヒコはアヤナの体に手を回すと、彼女を抱きかかえて立ち上がった。 「小久保君だって…いつもいきなりそういう風なこと言って、 あたしをドキドキさせてばっかりで…あなたこそ、反則だもん」 「?いや、俺はそんなことねーだろ?だって若田部が可愛いのは本当だし」 「も~~~う、知らないッ!」 恥ずかしさから、顔を真っ赤にしてぷい、と横を向くアヤナ。その様子は…やはり、可愛いのである。 マサヒコは、微笑んでそんな彼女を見守るようにしながら…ベッドまで、体を運び、ゆっくりと横たえた。 “ふぁさ” 人魚のように幻想的な、アヤナの体がベッドの上にあった。 改めてその美しさに息を飲み、じっくりと見入ってしまうマサヒコ。 「小久保君…もう一回、キスして…」 「う、うん…」 “ちゅ…ちゅ” (若田部の唇…さっきより、熱くなってる…) とろん、と潤んだ目でマサヒコのキスを夢中で受け入れるアヤナ。 彼女自身、既に興奮状態になっているようだ。 (な、なら…ここも…いいよな?) “すっ…” マサヒコが、アヤナのパンティに手を伸ばす。 「あッ…」 敏感に声を出すアヤナだが、そこには拒絶の色はなかった。マサヒコもそれを感じ取り…。 おずおずとだが、白い布の中へと指を入れていった。 “しゅり…” マサヒコの指にまず絡みついてきたのはアヤナの恥毛だった。それを少しずつかきわけ、 ゆっくりと、ゆっくりと…奥のほうへと指を侵入させていく。 “ふぁむ…” § マサヒコの指が、アヤナの裂け目に辿りついた。 かすかに汗ばんで…いや、興奮のためだろうか?そこはしっとりと湿気ばんでいた。 “すっ…じゅり…する…” 恥丘の周辺を、裂け目の周りを…撫で、くすぐるように…慎重に指を動かすマサヒコ。 「んッ…ああッ…はぁ――――ッ」 そしてアヤナは溜め息にも似た声をあげ、切なげな表情でそれに応えていた。 そんな彼女の表情を見たマサヒコは、次なる行動を決意する。 「若田部?」 「んっ…なあに?」 「指…入れるよ?若田部の中に…だから…力抜いて…」 「!は、はい…優しく、お願いします…」 なぜか敬語で答えるアヤナ。だが普段はツッコミ役のマサヒコも、それに気付かぬほど興奮していた。 “ぴちゃ…” マサヒコの右手の人差し指が、アヤナの中へと入れられた。 「ふ…ふぁ…」 ぴくり、と一度小さく震え、そのあと小刻みにからだを震わせるアヤナ。 マサヒコはなおも徐々に…徐々に、探るように指を挿入していった。 「ふ…ふぁ──っ、はぁ──」 アヤナはうっすらと涙を浮かべながら、マサヒコの指撫に反応していた。 マサヒコの指が少し右へ向かえば低い声で…奥へ向かえば少し高めの声で…。 まるでそれによってスイッチを入れられるかのように、声をあげていた。 (若田部…感じてくれてる…すっげえ可愛い声と顔で…俺の…指に…) 自分の愛撫によって、目の前で少女から大人の女へと変貌しようとしているアヤナ。 そんな彼女の様々な痴態に心臓が張り裂けそうなほど興奮したマサヒコは、 さきほどは口づけることのなかったアヤナの左の乳房を口に含んだ。 “ぷちゅ…” § 「あっ!ダメ…そんな、一気にそこもなんて…ダメぇ!」 乳房と膣の二ヶ所を同時に責められ、思わず拒絶の言葉を口にするアヤナだが、 マサヒコは構わずに愛撫を続ける。 “ちゅぷ…つる、ぷしゅ…っじゅっ…” 「あン…ふう…ああッ…ふわぁ──っ、んん──ッ」 (へ…ヘンなの…震える…カラダの中が…中から…震えてきちゃう…) 頭がボーっとして何も考えられなくなるアヤナ。そしてマサヒコは…。 (ココ?さっきから…若田部、この…入り口から少しいった、ちょっとざらっとしたとこ撫でると…。 一番声が高くなる感じ…ココなのかな?えっと…ココが一番気持ち良いのかな?) 一点に狙いを定めると、そこを重点的に責めることを決めた。 “ちゅ…じゅ、ぷじゅッ…” 「ひ…ひゃん…ダメ…小久保君。そこばかりさわらないで…あたし…あたし、ヘンになっちゃいそう… ああぁぁぁぁ…いやぁぁぁッ!ん…んんっ、ダメ…ダメなのぉ!」 アヤナは声を押し殺そうと、必死に指を噛んでいた。ますます愛おしくなったマサヒコは、 乳首もさらに激しくこねくり回すように舐め、指の動きも早めていった。 アヤナはじっとりと背中に汗をかいて悶え、乱れていた。 「ん…んん、んく…ふ、ふあ…ふわぁ…お願い…許して。 そんなにされたら…気絶しちゃいそう…。もう…だめ…ダメ…ダメぇッ!!!!」 アヤナが鋭い声をあげて果てたあとに、裂け目からじっとりと熱い液があふれだしてきたのを マサヒコは感じていた。指責めから開放すると、アヤナはくたっと崩れ落ちた。 「ご…ゴメン、大丈夫?若田部…」 「ふ…はあ、はあ…はっ、ひ、ひどいよ…小久保君…あたし、止めてって言ったのに…」 頬を染め、完全に涙目でマサヒコに訴えるアヤナ。自分が責められているのは自覚しながらも、 そんな彼女の姿のすさまじい色っぽさに再び興奮してしまうマサヒコであった。 「ゴメン…だって若田部がさ、すっげえ可愛くて、色っぽくて…俺、止まんなくなっちゃって…」 「ひん…ぐす、だってあたし…どっかにいっちゃいそうな感じだったんだもん…死んじゃうかと思った…」 § 「…なあ、若田部…俺もよく知らないんだけど…それってさ、イッたってことなんじゃないか?」 「え?」 「だって…気持ち悪かった?若田部」 「う…ううん、その逆。ずっと気持ち良かったんだけど…途中から、 ふわっとカラダが浮いちゃうような感じになって…それで、頭の中が真っ白になって…」 「だから…男とは違うけどさ、それ…多分、若田部、イッたんだと…思うんだけど」 「そ…そうなの?これが…イクってことなの?」 実はオナニーですらまだ絶頂未体験だったアヤナは、初めての体験に戸惑うしかなかった。 「うん…ちょっと俺もさ、調子に乗っちゃったね…ゴメン。で…若田部、もう…いいかな?」 マサヒコは情けなさそうに自分の下半身を指差した。 トランクス越しからでもはっきりとわかるほど、それは痛々しいくらいに膨れ上がっていた。 「う…ウン…でも…そ~~~~っとね…そ~~~~~っとだよ?お願いね?」 「あ…ああ…なるべく…努力します…」 “す…” マサヒコが、トランクスを脱いだ。パンパンに勃起した、ペニスが顔をのぞかせた。 「う…うわあ…お、おっきい…そんなスゴイの…入るのかな…」 ペニスの登場を凝視していたアヤナが思わず言った。 「いや…比べたことないけど、俺のは普通くらいだと思うけど?大丈夫…じゃないかな?」 実は男にとってアヤナのセリフはかなりな褒め言葉なのだが…童貞君であるマサヒコは、 その意味を知ることもなく、ただアヤナの言葉の後半部だけに真剣に答えてしまっていた。 「ごめん若田部…ちょっと…ちょっとだけ、ガマンしててね…」 「うん…」 “する…” マサヒコはアヤナのパンティを脱がし、くるぶしのあたりまで下ろすと…。 ゆっくりと、腰を落としてアヤナの中へと入っていった。 “ず…にゅうる…” § 「い、いたァっ!!!!」 (な、なにコレ…) まだ入り口付近なのにもかかわらず、悲鳴をあげるアヤナ。 「えっと…力抜いて…できる?若田部?」 「無理…絶対ムリ~~~」 “ぎゅッ” (イテ…) アヤナは必死な形相でマサヒコの腕をつかんでいた。 (う…い、痛い…背中に…なにかが刺さってるみたい…) そして予想以上の激痛に、涙を浮かべていた。 “ずる…” するとマサヒコは入りかけたペニスを引き抜くと…笑顔を作り、優しくアヤナの髪を撫でた。 「あ…」 「えっとさ…やっぱ今日は、止めとこうか、若田部?」 「え?」 「別に今日無理してすることじゃないし…若田部を泣かせてまですることじゃないし…。 俺がヘタクソなのをさ、無理にしたってお前がまた傷ついちゃうのもなんか嫌だし…」 「…違うの…イヤじゃないの…あのね、小久保君?」 「?な、なんだ?」 「小久保君は…その…あたしとセックスしたいんだよね?」 「う…うん。そりゃあ…したいけど…」 「あたしも…したいんだけど…」 「へ??…だ、だって…あんなに痛がってたのに?」 「それとこれとは、別なの。カラダは確かに痛いんだけど…気持ちではね、 あなたと早く一緒になりたいの。でも…そうだ!ねえ、小久保君、もう一回チャレンジしてみて?」 「で、でも…」 § 「あのね…一回あたしをぎゅっと抱きしめて…もっと密着して、体くっつけると…違うと思うの」 「?…わ、わかった…」 ふたりはゆっくりとからだを近づけ、見詰め合うと…。 “ちゅ…” ゆるやかにキスをして、ぴったりと抱き合った。 「…」 「…」 しばし無言のふたり。 「あの…小久保君?」 「わ、若田部?」 「…多分、あたしたち、おんなじこと思ってるよね?」 「う、うん…あのさ、えっと…」 「「あったかくて…気持ちいい」」 見事にハモるふたり。 「ぷっ…あはははっは」 「はははっはは…カラダくっつけるのって…ただそれだけで気持ちイイんだな…初めて知ったわ、俺」 「ははは…ウン、いいねこの感じ。小久保君?あたしもね…今すっごい幸せで気持ちイイよ?」 「俺もそうだ…幸せで…気持ちいい」 「ねえ…ひとのからだの温度ってさ、気持ちいいんだね…小久保君…あたし、今なら大丈夫だと思う」 「そ…そう?」 「ウン。でね…小久保君?絶対に、ゴメンとか謝っちゃイヤだからね?キチンと…あたしを愛してね?」 「わ、わかった…じゃあ行くよ?若田部」 「うん…来て、小久保君」 マサヒコはペニスに片手をあてがい、ゆっくりとアヤナの裂け目に添えると…再び挿入していった。 “ずッ…ずるぅ…” 「あっ!あああッ!」 § 「あ…ご…」 「ダメっ!」 「え?」 「今…ごめんって、言おうとしたでしょ、小久保君」 「?あ…そうかも…だけどさ…」 「謝っちゃダメ。あたしは…初めてのひとに小久保君に選んだのを、後悔なんてしない。 だって…あたし、小久保君が好きだもん。あたしはこの痛みも忘れないけど…。 小久保君の感触を、絶対、ず―――――っと覚えてる。だからあなたにも…後悔して欲しくないの」 「若田部…」 マサヒコは自分の下で抱かれている少女の告白を、感動しながら聞いていた。 「俺も…絶対に、忘れない。だから…わかったよ、若田部。もっと…深く入るよ?」 「うん…お願い…」 “ぬぅ…ぬぷ、ずぶぅ~…” 「あ…くぅっ、はあッ…」 「若田部…全部…全部、俺のが若田部の中に…入ったよ?わかる?」 「う…うん。わかる…あたしの中に…確かに、小久保君のが…ある…」 「すごくあったかくて…優しく包まれてるみたいだ…」 「あ…小久保君のも…あったかい…」 ふたりは、やっとつながった感触を確かめあうように互いを見つめていた。 「若田部…まだ、痛い?」 「う…うん。まだ少しね…でも、だいぶよくなってきたかも…」 「じゃあ…俺、動いてもいい?」 「は、はい…でも…ゆっくりと、そ――――っとだよ?」 「うん…なるべく…ゆっくり、優しくするよ…」 “ぬう…ずるッ…ぬちゅう…” マサヒコはゆっくりと腰を動かし、ピストン運動を続けていた。 アヤナのそこは…小さくだが、ひくりとうごめき─ぬるぬると、マサヒコのペニスをおさえつけていた。 § 「あ…はあッ…ふっ…あん…おっ…」 そしてアヤナも…初めての、破瓜の痛みを過ぎて…。 マサヒコの動きに、徐々にではあるが快楽を得はじめていた。 “ぐちゅ…ずっちゅ…にゅる…” 「はあ――っ、アッ、はあぁ…んッ…小久保君…、小久保…くうん」 「わか…たべ、うっ…あ…若田部…ああッ…」 部屋の中には、ふたりの吐く荒い息と、互いの性器をぶつけあう淫靡な音が満ちていた。 マサヒコのペニスは優しくこすられ、包まれていく。 そしてアヤナの中もマサヒコでいっぱいになり、震え、マサヒコの動きに共振していった。 (若田部…) 目の前では、汗ばんだアヤナの乳房が揺れていた。たまらなく扇情的なそんな光景に、 思わずマサヒコは腰を動かしながらそれに口づけていた。 “ちゅぷ” 「あ!ああっ!ダメ…あたし…さっきよりずっと…ああ!乳首が…すごく…」 「気持ちいいの?若田部…」 「ダメ…そこ、弱いの…」 「可愛いよ…それに…おいしくて…ココをこうすると…んッ…なんだか、 若田部の中もきゅっと締め付けてきて…俺も気持ちいい…」 「あっ…いい…いいのぉ…ああッ…」 “ずっ…ずぶう…” 乱れたアヤナの痴態を見ながら、マサヒコは少し強めに突き上げた。 そして…彼自身の、最後のときが近づいてきつつあるのを感じていた。 「うっ…ダメだ…ごめん、若田部…俺、もう…終わりそう…」 「うん…いいよ…小久保君。あたしも…いい。でも…あッ、いくときは…外で…」 「う、うん…大丈夫…わかってる…」 「あの…それで、それでね…あン…最後にキスして…それから…ふう…名前で、呼んで…」 § 「わかった…」 「天野さんが…あなたに『ミサキ』って呼ばれてるの、あっ…ああッ…すごく…すごく、 うらやましかったの…だから…お願い。アヤナって…はんッ…呼んで…」 “ちゅ…” 言葉が終わるのを待って、マサヒコがアヤナと口付けを交わす。 「好きだ、アヤナ…だから…いくよ?」 「はい…お願い…」 “ずっ…ぐっしゃ、ぐしゅ…ぶしゅ!” 最後の思いをこめて、マサヒコは動いていた。 (ああ…若田部の…アヤナの中、すげえ気持ちいい…も、もう…だめだ…) 「かはあっ…あっ…イイ…ふ…ふわぁあ…」 “ずるっ…” その瞬間、マサヒコはアヤナの中からペニスを引き抜くと…。 青い性を、思いっきりアヤナの体の上に吐き出した。 “ぴゅっ…どぷ…ピッ…” 勢いのついたそれは、元気良く飛び…アヤナの乳房にまでかかってしまっていた。 “どふ…ぴゅる…” 呆然とそれを見つめるアヤナの前で…三度…四度と、マサヒコのペニスが暴発し続け…。 いつの間にか、アヤナの白い肉体のうえには幾筋もの青白い線ができてしまっていた。 「…ご、ごめん…わかた…」 「だめ…アヤナでしょ?それに…また謝ってる…」 「あ…うん。でも…」 「いいの…小久保君は、あたしになにをしても…小久保君だけは、いいの…」 「アヤナ…」 マサヒコは、もう一度しっかりとアヤナを抱きしめた。 そして、自分の体にもはりついてしまった精液と…アヤナのそこから少しだけ染み出た鮮血を、 丁寧にティッシュで拭った。少し恥ずかしそうにだが…アヤナはマサヒコの行為に身を任せていた。 § 「あたしね…小久保君のことが、ずっと好きだったけど…」 「き、嫌いに…なった?」 「ウウン…もっと、好きになった!」 そう言って満面の笑みを浮かべるアヤナ。その笑顔に思わずくらり、としてしまうマサヒコ。 (もう…大丈夫なのかな?若田部…普通に…笑えるように…なったのかな?) 「でね…小久保君…あたし…さっき…忘れないとか…言っちゃったけど」 「?」 「ずっと…ずっとね、小久保君があたしを愛してくれていれば…忘れるなんてこともないんだからね? あなたは、あたしのはじめてのひとで…さいごのひとになるんだからね?約束だからね?」 「う…ウン」 「えへ…今、ウンって小久保君言った…あたし、忘れないよ? それって…将来あたしと結婚するってことなんだからね?」 「?!?へ?ってそういう意味なの?」 「そ・う!最初で最後のひとってことは…あたしのだんな様になるってことなの…ふふ…忘れないゾ?」 悪戯っぽく微笑むと、アヤナはマサヒコの頬にキスをした。 (まあ…元気になってくれたのはいいけど…) なんだか尻に敷かれそうだな、とマサヒコは思っていた。 (にしても…結局、メガネの言うとおりになっちゃったな…俺。アレ?そう言えば…。 しばらくあの人のこと、見てないな…ん?…な、なんだ?なんなんだ?このヘンな感じは…) マサヒコは、背中にぞくり、と冷たいものが走るのを感じていた。 そしてその予感は─────的中するのである。 そして舞台は同じ日の夜、あのプールそばの倉庫―――。 「ぎゃ、ぎゃああああァァ!」 そこには先ほどから悲鳴を上げ続ける少年と、それを冷然と見つめる長身の女性がいた。 読者にはもうおわかりだろう、中村と―――今回の事件の犯人のひとり、杉山少年である。 「だ…だから、俺は…中山に誘われて…最初はそんな気は無かったんだッ!ほ、本当なんだ」 “ジュッ” 「がああああ!!!!」 中村は吸いさしのタバコを、両手両脚を縛られて上半身裸の杉山の腹に押しつけた。 「ふん。せっかく禁煙できてたってのに…アンタらのせいでまた吸っちゃったじゃない。 タバコの火ってのはね…そんなに高そうに見えないけど、800℃くらいあるわけ。 目玉に押しつければ失明間違いなしってトコロね」 ひどくつまらなそうに、中村は話していた。 彼女の淡々とした語り口に、逆に恐怖心を煽られた杉山が更に懇願する。 「お…お願いだ…もう若田部には手は出さない…約束する。み、見逃して…」 “ドスッ…メリぃ…” 「ぎゃッ!…がああああ!!!!」 無表情のまま中村は脚を上げると、勢いをつけて杉山の股間に叩き落とした。 肉の中にヒールが鋭くめり込み、ぐしゃり、となにかが潰れたような音がした。 「あ~あ、この靴結構気に入ってたのに…もう使えないじゃない…」 「ぐ…がああ…」 白目を剥き、涎を垂らしながら呻き声をあげる杉山だが、 中村は彼の髪を無造作につかむと乱暴に持ち上げた。 「オラ、まだオチるには早いっつの!だらしないわねえ…中山君だっけ? 彼の方がま~だ楽しませてくれたわよ?ねえ、杉山君?奴がなんて言ったか知りたい?」 「…」 恐怖と激痛で目を見開いたまま、杉山はなにも答えられない。 § 「同じようにさんざん可愛がっていたぶってあげたのに、元気が良くてさ…。 『女なんてどうせ男と付き合ったり結婚すれば、散々ヤりまくるんじゃねえか、 たかだか1回レイプされかけたぐらいで被害者ヅラすんな』って…そんなこと言ってくれたわけ。 あはははは…AVとかでしか女を知らない腐れチンポ野郎君らしいお言葉だわね。 男はねえ、どんな相手でも出しさえすりゃあ気持ち良くなれるのかもしれないけど…。 女ってのはイヤな奴に無理矢理ヤられると妊娠の危険もあるうえ、最低な気持ちになるの」 「…」 「ま、それはともかくさ、そんな元気な中山君には教育が必要だと思ってね…。 ねえ杉山君?君、成績良いらしいから聞くけど、カンガンって言葉知ってる?」 「…」 「あら、知らないの?古代中国で…王様の後宮、ハーレムだわね。そこのお世話役の 役人のことなのね。でも美女だらけのところに、男なんて放り込んだらどうなるかわからないでしょ? そこでね、昔の王様は考えたわけ。男じゃ無くしちゃえばいいじゃん、って。 具体的にはね、チンポを切り取っちゃったわけよ。死亡率は三割ぐらいだったらしいけど」 「!!!!」 「切り取った跡は糸できゅっと絞って縫いつけたの。あとは焼けゴテみたいのを押しつけて、 そんで尿道を作ったんだって。昔の人って頭イイわよねえ、ホント…。 で、去勢するとすごく大人しくなるらしいのよ…。中山君もそうだったけどね」 「!!!お、おま、お前、中山に!」 「ま、安心しな…あたしもそこまでするつもりはないわ。第一そんな技術もないし、 三割の確率でも死んじゃったらマズイもんね?その代わり、コレ。わかる?」 「…?」 「最近の子は知らないか。万力…あらやだ、マンリキって妙にイヤラシイ響き。 こいつでね、中山君のタマを挟んで…潰してあげたわけ」 「!!!!」 「タマだとまず死ぬことはないし、潰しちゃえば勃起もしなくなるし。あははは…でもさ、 ぐしゃっ、てタマが潰れたとき、あの子イイ声で鳴いてくれたわ…今思い出してもゾクゾクするくらい」 § 楽しそうな表情のままウットリとそう言うと、中村は杉山の下半身に手を伸ばした。 「やめ…止めろ!ヤメロおおお!」 精一杯暴れて抵抗しようとする杉山だが…。 「ほ~ら、ダメよ、杉山君?」 中村は大振りのナイフを取り出すと、ぴたぴたと杉山の頬に張り付けた。 「アンタらはこんな風にアヤナを脅したんだろ?あたしとしちゃ、アンタの喉をここで かっ切ってやりたいところだけど…タマで済ましてやってるのよ?有り難く思って欲しいわねえ…」 杉山は、震えた。この女は本気でイカれている―――中村の目を見てそう思った。 「頼む…た、助けて…助けてくれ…」 か細い声で、懇願する杉山。その股間はぐっしょりと濡れ、湯気が立ち始めた。 「あらあら、お漏らし?情けないわねえ…。アンタたちも散々嫌がったアヤナを 無理矢理ヤろうとしたわけよね…その気持ちをたっぷりと味わってもらうわよ?」 手際良く中村は杉山の濡れた股間を剥いでいった。 「あら~、元気の無いコト。縮みあがって…体の中にめりこんでるみたいじゃない。 こんな粗チンでよくアヤナをレイプしようなんて考えたもんねえ…」 すっかり萎縮した杉山のモノを指でつまみ上げると、その下に隠れていた睾丸を万力で挟む。 ひんやりとした金属感が自分の睾丸から伝わり、腰から力が抜けていくのを杉山は感じていた。 「助けて…たす、けてクレ…」 涙を流しながら、ひたすら繰り返す杉山。 「泣けば許してもらえると思ってんの?そのあたりガキよねえ…さて、まず一回転、と」 “ぎちぃ…” 万力が、締まる。まださほどの圧力ではないのだが…恐怖のあまり、凍りつく杉山。 「あ…あああ…」 「あらあら、口をぱっくり開けて…不細工なツラねえ…じゃ、二回転…」 “ぎちぃ…” 「はがああああ!!!!」 ―――――――――――――――――――――――――――――――― § “バシャ~~ン” 「あ…ああああ…」 水を浴びせられ、ずぶ濡れになった杉山が低い呻き声をあげながら目を覚ました。 「やっとお目覚め?しかし根性の無い男ねえ…」 「生きてる…ああ、俺、生きてる…!タマは…俺の…タマは!」 「本気で潰すつもりだったけどね~、気絶したんじゃ面白くないから止めたわけ。じゃ続きいこっか?」 「がががががが、お、おへがいです!許して…許してください!」 「まあ、またウンコやら小便やらを漏らされても臭いだけだしね~、 今回はこれぐらいにしておいてあげるわ。…ただし」 “ボスッ” 「があああ!」 中村の重いキックが杉山の腹に炸裂した。 「今後アヤナやマサヒコ、そしてその周りの人間にまたおかしなことをしたら…。 そんときはあたしが間違いなく、アンタらを殺す。ついでに言っとくけど、今日のことを 誰かに言っても殺す。ま、この写真を見ればそんな気は無くなるだろーけどね♪」 “はらり…” 杉山の目の前に、何枚かの写真が落とされた。そこには丸裸にされて糞尿にまみれ、 さらに尻の穴にも棒をつっこまれた自分と―――同じようにされた、中山の醜態が写っていた。 「ポラにも撮ったしデジカメにも撮ったし。ネガも取っておくからね。 今後、ちょっと噂聞いただけでも速攻でこれを学校や商店街にバラまくわよん♪」 無言で涙を流し続けながら、ガクガクと何度もうなずく杉山。 「さ~てと…それじゃ、帰るとするかね」 「…?あ、あの…俺はどうすれば」 「さあ?運が良ければ誰か見つけてくれるんじゃない?じゃ、さいなら~♪」 (悪魔だ…あの女は、人の皮をかぶった悪魔だ…) 杉山は、涙で目の前が霞む中、そう思っていた。 END
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