作品名 作者名 カップリング
「傷」 郭泰源氏 アイ×マサヒコ

「最近さ、元気ないよね、アイ」
「!…そ、そんなことないですよ、先輩」
「いや…俺も思ってましたけど…ちょっと顔色悪いですよ、先生?」
「う…」
いつもの授業終了後のお茶会の風景。普段ならば、気楽な話に花が咲くところなのだが…。
「ねえ?なんかあったの、アンタ?もしや失恋とか?」
「え!」
「アイ先生!ほ、ほんとですかぁ」
「ち、ちちち違います!」
「じゃ、なによ?」
「う…実は…」
アイの話を要約すると─。どうも最近、身辺に妙な気配がするようになった。
最初こそ、気のせいかと思っていたものの、度重なる無言電話、荒らされた郵便物etc…。
その被害はエスカレートしていくばかりで、さすがに参っているという。
「アンタそれ、確実にストーカーじゃん!警察に被害届とかは…」
「さ、さすがにそこまでは…」
「ダメじゃん、そんなの!そういうのでさ、ヤバイ目にあっちゃう子、
いっぱいいるんだから!下手したら、殺されちゃう子だっているんだよ!」
「す、すいません、先輩」
いつになく熱い中村の言葉に思わずうなだれるアイ。
「アンタが謝ってる場合じゃ…それよりさ、身に覚えとかないの?」
「それが…さっぱりで。あたし、普段、マサヒコ君以外の男の人とそんなに接触無いし…」
それはそれで女の子としては哀しい話ではある。
「しかし…女をなめやがって…許せん…」
中村はメラメラと闘志を燃やしていた。こうなったときの彼女を止めるものは、ない。
§

「マサヒコ!」
「は、はいっ!…じ、自分は誓ってなにもしておりません!」
中村の凄まじい形相に圧倒されたマサヒコはなぜか軍人口調で答えた。
「馬鹿!いい?アイをストーキングしてやがる、最低の腐れチ♯ポ野郎を、
徹底的に叩き潰してやるッ!手伝いなさい!わかるわねッ!」
「は、はい、喜んで!」
今度はチェーン系居酒屋の店員のように直立して答えるマサヒコ。
「おおまかな作戦はあたしの頭にあるわ。あとは細部を詰めるだけね…。
それとアイ、あんたしばらくあたしの部屋に泊まること。いい?わかったわね!」
「は、はい先輩!」
普段は迷惑大王だが、いざというときには頼れる先輩であることも間違いないのである。
「せんせぇ〜、あたしは…」
「…あんたは、なんもしなくていいよ」
─そしてその日の夜。マサヒコは、携帯で中村と“作戦”について、話し合っていた。
「…わかったわね?作戦決行は、今度の土曜日。いったんアイは部屋に帰って、
そっからあんたと待ち合わせて町をウロウロするわけ。んで、おびき寄せて…ガツンよ」
「ハイ…でも、大丈夫なんですかね?囮作戦って。俺はともかく…アイ先生に危険が…」
「いざってときは、アンタがアイを守るの!アンタの股ぐらにブラさがってるのはなに?
飾り?風鈴?男ってのは…、女を守ってなんぼでしょうが!!!」
「…ひ、はい」
中村の怒りの矛先が自分に向かってしまい、思いっきりビビるマサヒコ。
「とにかく!こういう陰険で自己チューなF*ck野郎は、逆に自分が罠にハメられてるって
思わないもんよ。だから、囮作戦で現れたところを…ブッ殺す!!いい?わかった?」
「は、はい!死力を尽くす所存であります!」
「よろしい!では、健闘を祈る!」
深夜にもかかわらず、異常にテンションの高い会話が終わり、ぐったりと横になるマサヒコであった。
§

そして、土曜日の昼下がり─。
「え〜っと、あ!ごめん…マサヒコ君、待った?」
「い、いえ…全然」
少しぎこちなく、言葉を交わすふたり。待ち合わせ場所は、とある駅ビル前。
「別人かと思っちゃったよ…今日のマサヒコ君、大人っぽいカッコだね」
「え?ああ…一応、先生の相手役ってことなんで、それらしく見えるようにって、
中村先生が知り合いから服を借りてきてくれて。…似合ってませんか?」
「う、ウウン…ちょっとね、見違えちゃった」
そう言って、少し目を細めるアイ。
ソフトレザーのボトム、ダークレッドのTシャツの上には軽めの麻のジャケット、
胸元にはシルバーのアクセサリー。確かに、普段のラフな…というか、
服装にほとんど無頓着なマサヒコを見慣れたアイにしてみれば、
今日の彼が別人のように見えるのも仕方のないところである。
(背が伸びたのもあるけど…マサヒコ君って、こうして見ると、結構…)
「じゃ、じゃあ…せんせい」
「あ…はい」
どこかおずおずとした感じで…ふたりは腕を組むと、駅前の人混みの中を歩き出した。
「えっと…マサヒコ君?まずどこ行こっか?」
「あ…すいません、何も考えてませんでした。中村先生には、
デートっぽく見られるように、適当に街を流して歩けってだけ言われてたもんだから…」
「あ…そっか。ゴメンね、あたし男の人とこんな風に歩いたことないから…」
「いえ、いいですよ。俺だって…女の人とふたりっきりで街を歩いたことないんですから」
ふたりは、ほとんど同時に苦笑していた。確かに、年頃の男女の会話としては少し情けない。
「えっと…、映画館なんてどうですか?」
「あ!ウン。映画行きたい!あたしね、みたい映画があるんだ!」
「じゃ、行きますか…その前に、中村先生にメールして…」
§

<to中村先生>
<映画館へ向かいます>
返信は、すぐだった。
<from中村先生>
<了解。現在、アンタたちを追跡中だがそれらしき人影は見つからない。
なお、映画館の中では絶対にアイを通路側に座らせず、周りの人間に注意すること>
「…しかし、あの人って…」
「?どうしたの、マサヒコ君?」
「い、いや、なんでもないんです」
あたりを見渡してみても、中村らしい人影は見つからない。玄人はだしの、完璧な尾行である。
(…いったい、昔、何やってたんだか…探偵顔負けだぜ…)
マサヒコは、改めてこの人だけは敵に回すまいと誓うのであった。
“∬♯”
再びメール着信。
<from中村先生>
<キョロキョロするな、馬鹿。バレるだろ>
(…刑事か、あんたは)
心の中でつっこむマサヒコ。
§
映画館は、7割方の入りだった。アイの見たかったという映画は、
ニューヨークを舞台にしたコミカルなラブストーリーで、アイは楽しそうに笑い転げていたのだが…。
隣のマサヒコは気が気でなかった。さきほどの中村からのメールのとおり、
周囲に細心の注意を払っていたからである。
(ふたつ後ろの席のメガネの男…左みっつ隣の、スカジャン…全員、怪しく見えてくるな)
映画が終わる頃には、ヘトヘトに疲れてしまったマサヒコであった。
§

「あ〜、面白かったね♪マサヒコ君!」
「は、はあ…」
(気張ってたから…内容なんてほとんど覚えてねーよ、俺)
「よし!おなかもイイ具合で空いてきたところで、ランチにしよっか。最近読んだ雑誌でね、
このあたりに新しくできたパスタのお店が美味しいって載ってたんだ♪」
「は、はあ」
どうも囮捜査という本日の目的を忘れ、アイは完全にデート気分満喫モードに入っているようだ。
なんだかなあ、と思いながらもマサヒコは再びアイと腕を組んで映画館をあとにした。
(…でもしばらく暗かったもんな、先生。久しぶりに…明るい表情になってくれたのは、いいことか)
そう言えば、ここのところこんなウキウキとした表情のアイを見ていなかったことに気付いた。
「?ふふ、どうしたの、マサヒコ君?」
見つめていたマサヒコに、アイは微笑みを返した。
その表情に、張りつめていた緊張感がときほぐれるのだった。
店はこじゃれた雰囲気ではあるものの、値段もさほど高くなく、味も評判通りだった。
アイは嬉々とした表情で、メニューにあるパスタを上から順に胃袋に納めていく。
「ふふ〜♪美味しいね、評判通りだね、マサヒコ君」
「ははは…相変わらずいい食べっぷりですね、先生」
「だって、すっごく美味しいんだもん、ここのボンゴレパスタ」
にこにこと、本当に美味しそうに食べるアイ。
(そうだなあ…。やっぱりアイ先生は、こういう顔が一番似合うよなあ…)
春の日だまりのような、という形容がぴったりなアイの笑顔。
だが、それを曇らす卑劣な人間が今もすぐそばに潜んでいるかもしれない─。
そう思うと、マサヒコは強い怒りがふつふつと湧いてくるのだった。
「?どうしたの、マサヒコ君?美味しくないの?ペペロンチーニ」
「い、いや、なんでもないんです」
自然に表情が険しくなっていたようだ。マサヒコは、アイに指摘されて少し慌てた。
§

「ふふふ〜♪満足、満足♪」
「俺も、ごちそうさまです」
「じゃ、次は…ショッピングだね!行こ、マサヒコ君」
「あ、はあ」
すっかり主導権を握られ、リードされるがままのマサヒコ。
「え〜っと、あ!夏物のスカート欲しい!あとね、あとね…」
そして、きゃいきゃいと、とにかく上機嫌なアイであった。
§
「どう?マサヒコ君♪」
「え、ええ。似合いますよ、とっても…」
「どんな風に似合うか、具体的に言ってくれないとわかんないよ〜だ♪」
完璧に、バカップルの会話をするふたり。試着室から出てきたアイは、
涼しげな素材の純白のスカートをマサヒコに見せると、くるり、とひと回転してみせた。
「ああ…いいですね。すごく、清楚っていうか…高原の少女って感じで…」
「えへへ〜、まだ少女でとおるカナ?」
(いや…キレイですよ、ホントに…)
本当は、美少女とつけたかったマサヒコだが、さすがに照れくさくて言えなかった。
「じゃあ、次はあっち〜」
「はいはい…」
表面上は面倒くさげだが…、その実、今のこの状況をマサヒコも結構楽しんでいた。
「ってココは!?」
「えへへ〜♪水着もね、この夏用の、欲しかったんだ♪」
マサヒコには刺激の強い…強すぎる…時間となった。
「どう?ま・さ・ひ・こ・く・ん?」
「はあ…あの…その…か、可愛いですよ」
§

「水着?あたし?ど〜っちだ♪」
バカップルトーク、アゲイン。ペイズリー柄のツーピースを試着したアイは、今回もくるり、と回ってみせた。
「へへへ〜、ダイエットして良かった。夏に可愛い水着きられるように頑張ったんだから」
(先生ってでも、スタイル良いよな…あ、やべ)
そう、非常に大変なことになってしまったマサヒコ。
「今度、一緒に海やプールに行こうね♪♪マサヒコ君!」
「は、はあ…」
…それどころでは、ないのであった。その後も、バッグやら時計やら…。
とにかく、女の買い物というのはどうしてこんなに時間がかかるのかと痛感しながらも、
やっぱり一緒に楽しんでしまうマサヒコであった。
§
<from中村先生>
<相変わらず気配無し。…お前ら、もう少し緊張感を持て。
そろそろ帰宅準備せよ。なお、なるべく暗い道を選んで帰るように>
§
「あ、じゃあ先生、そろそろ…」
「え?あ、そうだね、もうこんな時間か…うふ〜ねね、いいね、デートって!楽しいね!」
「はい」
(確かに…楽しいかも)
疲れながらも、どこか心地よさをマサヒコが感じているのも確かであった。
繁華街を過ぎ、駅から満員の電車に乗っても─、マサヒコは警戒心を解かなかった。
常にアイをかばい、背中を抱きすくめるようにして、彼女を守り続けた。
そんなマサヒコの様子を、頼もしげに見上げるアイ。
(いつの間にか…男の子から、オトコっぽくなったんだナ…)
真剣な顔でマサヒコは周囲をうかがい、必死で自分を守ろうとしてくれている─。
アイは、こんな状況にもかかわらず、ひどく幸福な気分に包まれるのだった。
§

(そうだよね…初めて会ったときは…あたしよりずっと背も低くて、全然子供だったのに。
今じゃあたしをこんな風に守ってくれてるんだもんね、マサヒコ君は…)
そう、2年前のアイとマサヒコなら、アイの目線はもっと下だった。
だが、今はほんの少しだがアイが見上げるまでにマサヒコは成長した。
そして、男性経験皆無なアイだが…いや、皆無だからこそ、
彼女にも白馬の王子様幻想は強くあるのである。
自分でも気付かないうちに、マサヒコへ向けるアイの視線は恋する乙女のそれになっていた。
§
「…結局、電車では空振りか…」
最寄り駅を降り、アイのマンションへと歩くふたり。だがマサヒコは、警戒したままだ。
中村の指示通り、なるべく人気のない暗めの道を選び、周囲を絶えずうかがっていた。
“∬♯”
と、またも中村からのメール着信。
<from中村先生>
<あんたたちの後ろに、怪しげな男がふたりいる。このままではどちらか絞りこめそうにないので、
思いきって先にあるはずの公園に行って誘い出してみるってのはどうだ?賭けかもしれないが…>
危険なのは確かだが、ここまでやってなんの成果も無かったときには、
最悪今後被害がさらにエスカレートする場合も考えられる。中村の言う“賭け”に、
一理あることは理解しつつも、アイの安全を考えさすがに躊躇するマサヒコであった。
(だけど…ここは、イチかバチかか…)
意を決したマサヒコは、中村にメールを打った。
<to中村先生>
<了解。先生の安全を第一に考えるが、賭けてみましょう>
着信。
<from中村先生>
<OK。公園では、カップルらしくイチャついたふりをせよ。ただし、気は抜かないこと>
§

中村のメールにあった公園は、それからしばらく歩いたところにあった。
マサヒコは、中村の作戦をアイに耳打ちすると、一緒にほの暗い公園の中へと入っていった。
電灯に照らされるようにしておあつらえむきのベンチがあり、ふたりは緊張しながら腰をおろした。
「…先生?」
アイは、マサヒコの手を握りながら表情を硬くしていた。
が、それはそうだろう。ここしばらくストーカーから受けた数々の嫌がらせ。
その相手が、今、そばに来ているのかもしれない─。アイの心は今、恐怖に支配されていた。
“ぎゅっ”
「ま、マサヒコ君?」
マサヒコが、強く─強く、アイの手を握りかえし、笑みを向けた。
主体性がない、流されやすい、と言われ続けた彼が、アイに初めて見せた男らしい笑顔だった。
「大丈夫…大丈夫です。俺が、絶対に…先生を守ります」
マサヒコとて、恐怖を感じていないと言ったら嘘になる。だが、それ以上に─。
この人を、アイの笑顔を守らなければならないという使命感がそれに勝っていた。
それは、今日一日ずっと一緒にいて…太陽のような笑顔に触れていて、強く思ったことだった。
「マサヒコ君…」
そしてアイも同じようにマサヒコの手を握ると、まだ少し強ばってはいたものの、微笑みを返した。
(大丈夫…怖いけど…今のあたしの隣には…マサヒコ君がいてくれる…)
今この風景を、なにも知らない他人が見たなら─。
恋人同士の微笑ましい語らいに見えたかもしれない。
しかしこの瞬間も、マサヒコの心の中には卑劣なストーカーへの怒りが燃えさかっていた。
「…?」
アイの視線が、ゆらり、と動く人影をとらえた。
「…マサヒコ君…あれ…」
小声でアイが囁く前に、既にマサヒコの目もその人影を認めていた。
§

「絶対に…絶対に、俺から離れないで下さい」
アイの体をしっかりと抱くマサヒコ。
「う…うううぅ…」
見た目はごく普通の男だった。道で通り過ぎても、記憶に残らないだろう。
だが…その男の目には、はっきりと狂気の色があった。
「アイちゃんに…アイぢゃんに…お、おう゛ぁえは…」
男は、最後は聞き取れないような言葉を叫ぶと…。きらり、と光るものを取り出した。
電灯の光をうけて輝いたのは、一昔前に流行った、バタフライナイフ。
「う゛ぁあああがやろぉおおおおおお!」
絶叫すると、男はふたりの方へと体を踊らせ、つっこんできた。
「危ない!先生!」
“ドンッ”
全身でアイの体に覆い被さったマサヒコの肩に、ナイフが突き刺さった。
(冷て…)
痛さは、感じなかった。一瞬、肩に冷たい風が通り抜けたような─。そんな感触を覚えていた。
「…」
マサヒコは、男を睨んだ。痩せた男だった。顔立ちはむしろ端正な部類だろう。
力が強そうにも見えない。しかし…この男は、アイを恐怖のどん底に追いつめた男だった。
「う゛ぁ、う゛ぁ、なにみてる、てめえええええ!」
男は、再び叫ぶとナイフを高くかざした。
(来る!)
マサヒコはアイを逃がし、男の攻撃をかわそうとしたのだが…。
その瞬間だった。マサヒコとアイは、上空から黒い爆弾のようなものが男の背に突き刺さるのを見た。
「せ、先輩!?」
「な、中村先生?」
§

「ふう。正義の味方登場ってとこね…大丈夫、マサ?アイ?」
「は、…はい」
「マサ、良くアイをかばってくれたね…あとは、あたしに任せな」
そう言うと、中村はまだ呻き声をあげている男の背中に、鋭い蹴りを素早く何発か入れた。
「が!」「げ!」「ぐほ!」
そのたびに短い叫び声をあげる男だが、中村にはなんの躊躇もない。
髪を掴み、ねじり上げると、顔面に再び矢のようなミドルキック。1発、2発、3発…。
「げ!」「ば!」「うが!」
たまらず体をよじって逃げようとする男だが、中村が逃がすはずもない。
体を半回転させると、正確に男の口の中に革靴を叩き込んだ。
“ばきゃあッ!”
「ぎゃあァァァァァァ!!!!!」
恐らく、何本か歯が折れたのだろう。砕けるような音とともに男の口から鮮血が溢れた。
しかし、中村は氷のような表情で足先を男の口の中に突っ込んだまま、その喉奥を蹴りあげた。
「は…ばが…」
そのまま男は崩れ落ちたが、中村は容赦なくその顔面に蹴りを入れ続けた。
その様子を呆然と見守るマサヒコとアイだったが─しばらくしてマサヒコが気付き、叫んだ。
「な、中村先生!やばいっすよ、それ以上やっちゃうと、最悪死んじゃいますって!」
「ふん…死ねばいいのよ、こんな糞野郎。マサ、こいつの下半身剥ぎな」
「え?…な、なにをする気ですか?」
「知れたこと。歯が折れたみたいだろ?口の中が寂しいだろうから…。
こいつの持ってたナイフでタマとサオを切り落として、口ん中つっこんでやろうと思ってね」
「!!!」
男だけでなく、アイとマサヒコも慄然とした。今の中村なら、本気でやりかねない。
「せ、せんぱい、そこまでは…」
「あら、優しいねえアイは。あたしが前にストーカーと戦ったときは両手両脚の爪を全部剥いで…」
§

「ぶぶぶ…ぶみません!ゆ、ゆるびてくだばい!も、ぼう、アイさんびは、ちかぶきません」
「ふん…どうする?マサのケガも、たいしたことないみたいだし…」
事実だった。アイが半ベソをかきながら先程からマサヒコの負傷部を確認していたのだが…。
危険な血脈部分に刺さったわけではなかったらしい。出血は既になく、凝固しようとしていた。
「警察には…さすがにここまでやっちゃったら行けないですね」
「けっ。あいつらなんて、事件が起きてからしか動けないんだから…」
(だから…あんた、過去になにがあったんだ?)
そう思うが、さすがになにも聞けないマサヒコであった。
「あたしと…どこで会いました?」
アイは、ゆっくりと子供に諭すように男に話しかけた。虚ろな瞳のまま、男が答えた。

大学の一般教養の授業でアイとたまたま席が隣になったことがあったという。
男が消しゴムを落としたときに、アイが拾ってくれて…。
そのとき見せたアイの笑顔が忘れられずに尾け回すうち、行為がエスカレートしていったという。

「…最低だな、あんた」
ぽつり、とマサヒコが呟いた。彼がそんな言葉を使うのを、アイも中村も初めて聞いた。
「先生の…笑顔を好きになったんだろ?あんたは…先生の、最高の笑顔を奪おうとしたんだ」
「う…う゛う゛う゛う゛う゛」
男が、泣き出した。目の中からは、さきほどにあった狂気の炎が消えていた。
「ガキじゃあるまいし、泣いたって許されるわけじゃねーぞ?コラ!
まあいい…。今度、アイに近づいたときはおまえが死ぬときだ。覚えとけ!」
そう言うと、中村はもう一回男の腹に蹴りを入れた。男は、もう声をあげようともしなかった。
「じゃあ、アイ…」
「はい…ありがとうございました。それより…マサヒコ君」
「はは。大丈夫です…大丈夫ですよ、先生」
§

後日、舞台は変わってアイのマンション。三人は和やかにお茶を飲んでいた。
「今回は…ありがとうございました、先輩、マサヒコ君」
ぺこり、と頭を下げるアイ。
「いいってことよ。アイが無事ですんだんだし…」
「実際戦ったのは中村先生で、俺はただやられただけだし」
「そんなこと…ホントに、ありがとうマサヒコ君、先輩」
再びぺこり、と頭をさげるアイ。中村とマサヒコはどちらも照れくさそうにしていた。
「でもさ、マサ…あたし、ちょっと感動したよ」
「え?」
「頼りない小僧だとばっかり思ってたけど…アイをしっかり守ったもんね。
あたしからも礼を言う。アイを守ってくれて、ありがとう」
「そ、そんな…」
予想外に率直に頭を下げる中村。あの日、男と戦った悪鬼羅刹のごとき姿とは
とても同一人物とは思えないその様子に、マサヒコは慌てた。
「い…いや、礼を言うのはこっちの方です。全部、中村先生のおかげですよ…」
「ううん…ねえマサ?あの日の前にさ、あたし…偉そうなこと言っちゃったの、覚えてるかな?」
「…」
「男は、女を守ってナンボだってね。でも本当に、あそこまでマサがやってくれるなんて思わなかった。
あんた、もう立派な男だよ。ははは、あたしの周りのフニャチン野郎どもに見せてやりたいくらいだった」
(…あの…表現がいちいち、アレなんですが…)
そう思いつつも、誉められているのに変わりはない。マサヒコはこそばゆい思いを味わっていた。
「でね、アイ…こんなこと言いたくないんだけど」
「はい、先輩」
「あんた、隙がありすぎなんだよ。だから、あんな野郎が寄ってくるってのも…ありそうなんだよね」
「…」
§

「ハッキリ言うよ?あんたって結構可愛いのに全然スレてないっていうかさ。
あの手の奴にしたら、格好の餌食になりそうなタイプなんだよね」
「中村先生!言い過ぎです!先生はなにも悪くない…むしろ被害者じゃないですか!」
思わずマサヒコは言ったが、中村は頭を左右に振ると、なおも続けた。
「マサ…アイが悪くないってのはあたしだって十分わかってるよ?でもね、
ああいう奴らってのは…アイみたいな女の子を見つけると、舌なめずりして近づいてくるのよ」
「マサヒコ君…いいの…あたしも先輩の言ってることは…わかってるつもりだから…」
うつむきながら、声をふりしぼるようにして言うアイ。
「…ま、アイ。あたしもあんたを非難するつもりはないんだ。悪いのは、100%男の方よ。
でも…気を付けて欲しいんだよね。あたしも…あんたのことが、心配なんだ」
マサヒコは、感心していた。普段は理不尽大王でひねくれたことしか言わない中村だが、
アイのことを考え、意外なほどストレートな言葉でその思いを表現することもできるのだ。
「はい、先輩。ありがとう…ございます」
アイにも、そんな中村の気持ちはしっかり伝わっていた。彼女を見る目には、信頼の色があった。
「ん…ま、そんだけよ、あたしの言いたいことは。さて…リンコの授業にでも行こうかね」
普段の自分に似合わない発言に、彼女も照れていたのだろう。
誤魔化すようにそう言うと、そそくさとアイのマンションを後にした。
「じゃ、じゃあ…先生、授業をお願いします」
「う、ウン」
事件後しばらくは、中村かマサヒコが交代でアイの部屋に詰めることになっていた。
授業のある日はマサヒコ、そうでなければ中村が。中村は夜、アイの部屋で寝泊まりまでしていた。
(なんだかんだ言って…あの人って、すげえよな)
授業を受けながら、マサヒコはそんなことを思っていた。
確かに、先輩とはいえそこまで他人の世話を見るというのは中村の意外な一面であった。
授業は滞りなく進んだ。いつになく熱心なアイの指導に、マサヒコも力が入る。
が、授業が終わると─うつむいたまま、ぽつり、とアイが呟いた。
§

「ごめんね…マサヒコ君。あたし…先生失格だよね」
「え?」
「マサヒコ君と先輩が…必死であたしを守ろうとしていてくれたのに…。
あたし、バカみたいに浮かれて…マサヒコ君なんて、受験生っていう大事な身なのに」
「そ、そんなこと…」
「ううん…ごめんね…ダメな先生で…ほんとうに…ごめんね…」
アイの両目からは大粒の涙がぽろぽろとこぼれ落ちた。
「先生…」
マサヒコは、自分がもどかしかった。言葉を探しても、なかなか出てこなかった。
が、ただひとつだけわかっていること。─それを、必死に考え、口にした。
「嫌です」
「え?」
「こんな風に…先生が…悲しんでいたり、泣いていたりするのを見るのは、嫌です」
「…」
「俺は…先生の笑ってる顔を見ていたいんです。あのときも言いましたけど俺は…先生を…」
一息ついて、マサヒコは自分の気持ちを確かめるように言い切った。
「守ります。絶対に。これからも…ずっと」
「マサヒコ君…」
マサヒコは、そのままアイを抱きすくめた。アイの涙の暖かさが、肩から伝わってきた。
「…」
「…」
どれくらいそうしていただろうか。アイが、少しかすれた声で言った。
「マサヒコ君の気持ちは…嬉しいけど…あたし…六つも年上だし…。
それに…こんな女とかかわってたら、マサヒコ君、ダメになっちゃうよ…」
「…先生は、俺が嫌いですか?怖いですか?年下だから…頼りないですか?」
「そんなことない。あたしだって…マサヒコ君は好き。でも…」
§

「…考えたんです、あのあと」
「…なにを?」
「このまま俺が中学を卒業して高校生になったら…。今みたいに先生と会えなくなる。
そんなのは嫌なんです。俺は…俺は、先生を失いたくない」
言い終わると、マサヒコはアイを強く抱きしめた。
(マサヒコ君…)
アイは押しつけられてくるマサヒコの体の硬さを強く感じていた。
たくましいとは言い難い、まだ男になりきっていない薄い胸板。だがそこからアイは、
─この世界から守られているかのような、大きな安心感を得ていた。
「マサヒコ君…あたしで…いいの?」
「はい…先生じゃなきゃ、ダメです」
「…ねえ、マサヒコ君?」
「はい」
「今度…またデートしてくれる?」
「先生がまた元気になって笑ってくれるんなら…どこへでも」
まだ涙がとまらず、頬を伝っていたそれも乾かないまま…。アイが、にっこりと微笑む。
その笑顔を見て、マサヒコはそのまま─アイと唇を重ねた。
「…マサヒコ君、あのね…」
少しして、唇を離すとアイが言った。
「なんですか?先生」
「ファーストキス…なんだよね、あたし」
「…えーっと、俺もです」
「ふふふ…お互い初めて同士なんだ。いいね、そーゆーのって。
あの…年上で、可愛くなくて…ダメダメなあたしだけど…大切に、してくれる?マサヒコ君」
「はい。先生の…笑顔を見ていたいから…大切にします。頑張ります」
ふたりは互いに見つめ、微笑みあった後…もういちど、唇を重ねた。
§

「…怒らないんですか、先輩?」
「ん?なにが?」
「だって…教え子のマサヒコ君と…こんなことになっちゃったのに」
その日の夜、いくらか迷ったものの…アイは、中村に今日のことを報告していた。
だが、携帯の向こう側の反応は予想に反してごくごく淡泊なものだった。
「ははは。それが襲われたとか、遊びだけの関係とかならともかくさ。真剣なんだろ?マサとあんた」
「それは…もちろんですけど…」
「ならいいじゃん」
「…やけにあっさりしてますね」
「ま、こーゆーのはさ、誰が止めようが結局ふたりの問題なんだしね。それに…」
「?なんですか、先輩?」
「あの日さ、あんたたちふたりが一緒に歩いてるの見てて思ったけど…すごくね、しっくりいってたし」
「そ、そうですか?」
「はは。あのね、アイ。男と女ってのは不思議なもんでさ。
どんな美男美女でもなんだか妙に似合わないふたりってのもいるだろ?
あんたたちは大丈夫。すごく…一対の絵みたいにハマってた」
「は、はい!ありがとうございます!」
これが中村なりのふたりへの祝福だということに、アイも気付いていた。
「ま、あとは…ミサキちゃんやアヤナにバレないように上手くやること。それと…」
「はい」
「一応、奴も受験生なワケだから…ハメを外しすぎないようにね?
あんたも分かってるだろうけど、志望校合格が最優先なのには変わりがないよ?」
「はい!」
「ま、一ヶ月に一回ハメるぐらいならご褒美になっていいかも…」
「…結局そっちですか、先輩」
若干とってつけたような感じもあるが、最後はいつもの中村であった。
§

そしてそれからしばらくして、再びアイのマンション。
「ふふふ、幸せそうねえ、アイ。満たされてる〜って表情してるわよ」
「そ、そんなこと…からかわないで下さい、先輩!」
「あらあら…真っ赤になって…可愛いわねえ」
愉快そうにアイを見る中村。中間試験も終わり、夏休みの前に生徒ふたりの成績、
今後の授業計画などを雑談…。もとい、相談しているところであった。
「でさ…アイ、まさかとは思うけど…」
「な、なんですか?」
「もう、ヤった?」
「ななななな、ななんなん、ななな」
「…その様子だとまだ清い交際みたいね」
「だって、先輩!マサヒコ君はまだ中学生…」
「バカねえ。そのくらいの頃が一番ヤりたい盛りじゃない。あたしが中学生の頃なんて…」
「ま、マサヒコ君はそんな子じゃありません!!!」
(ほほお…カマかけただけだったのに、本当に清い交際みたいね…。それはそれで…)
ここしばらくは良いお姉さん状態だった中村だが、むくり、といつもの悪戯心が頭をもたげてきた。
「アイ!」
「は、はいッ!」
「いいこと?確かにハメを外すのはダメ!でも、夏休みよ?マサのまわりには…誰がいる?」
「え…それは…」
「ミサキちゃんに?アヤナに?リン?そうよ!ズバリ言うわよ?…マサは、モテるのよ!」
「!!!」
いつもの彼女が戻ってきた。細木○子のようにテンポ良く言葉を連ねてアイに迫る。
「特にミサキちゃんははっきりマサに好意を持っている…てことはよ?おあずけ状態のマサヒコが、
我慢できなくなって一夏の体験を済ましてしまう可能性は否定できないわ!」
「!!!!!」
§

強引な理論展開である。しかし、当のアイは顔色を蒼白にしてその言葉を聞いていた。
「マサを奪られたくなかったら?そこで導き出される結論は?イエス!
マサの筆下ろしを…ほかでもない恋人兼家庭教師のアイ、あんたがしてあげるの!」
「は、はい!」
「よろしい!その意気よ!小便臭いガキどもに負けるわけにはいかないでしょ?」
「はい!!」
完全に中村のペースである。催眠術にかかったようにその言葉を信じ込むアイであった。
§
そして舞台変わってマサヒコの部屋。今日はマサヒコと中村、ふたりきりである。
「なるほっど〜、やっぱり清い関係ってわけね?」
「…妙な表情はせんで下さい。俺は、先生を守るって約束したんですから」
(守る…まもる…マモル…なるほどね…)
中村はニヤニヤしながらマサヒコの言葉を聞いていた。
「ん〜でもねえマサ?女の子の心理ってのも微妙なもんで…。
男があんまり手を出してこないと、逆に自分に魅力が無いせいだなんて思っちゃうもんよ?」
「え…」
「ましてアイはあんたよりも年上…経験こそないけど、心も体も成熟した大人の女。
心の底では間違いなくアンタからのアプローチを待ってるはずよ?」
「…せ、先生はそんな人じゃないと思いますけど…」
「おろ〜♪弱気になってきたじゃん、マサ?もしかして女の子には性欲なんて無いって思ってる?
ざ〜んねん!男と同じくらい…いや、下手したらそれ以上に、女の子にも性欲はあるのよ?
そうじゃなきゃ、この世界は成立しないでしょ?アイだって…アンタに抱かれることを…」
「そ、それ以上言うな!」
「ふふふ…。若いわねえ、マサ。でもね、そんな風だと…アイだって愛想尽かしちゃうかもだよ?」
「…」
反論すらできず、言葉少なになってゆくマサヒコ。
§

「あたしもね、無理矢理ヤれって言ってるつもりじゃないよ?勿論、
アンタがアイを傷つけたら許さない。ただね、『守る』ってことに固執して欲しくないんだ。
もしアイがそういう関係を望むなら…。アンタも拒否したりせずに、思いに答えてやって欲しい」
「…」
「ま、お姉さんの余計なお世話だと思ってくれればいいよ。邪魔したね」
「い、いや…こっちこそ…すいませんでした」
(ふふ…。こういうときは、最後に本音を少し混ぜると…効果絶大なのよね…)
小刻みな右フック連打の最後に、強烈なアッパーカット。策士中村、流石の試合巧者である。
マサヒコはなにも言い返せぬまま、固まってしまっていた。
「じゃね、マサ…。あ、コレ、最後にプレゼント」
「はい?…ってコ@こ?こ&コ、コレは?」
「はれ?コンちゃんの実物見たことないの、マサ?」
「こここ、こんなもん、見たことあるわけ…」
「なんなら、つけ方教えてあげよっか?あたし結構上手だけど?」
「い、いい加減にしろぉぉぉ!**もヴァ?」
「ストップ!マサ!」
マサヒコの口を右手で塞ぐと、中村はそれまでのニヤニヤ顔から一転、真剣な表情になった。
「?…?」
「さっき、アイを守るって言ったよね?あたしも、アンタがアイを傷つけるのは許さないって言った…」
「ふぁ、ふぁひ」
「セックスは…悪いことじゃないわ。それを、マサもわかって欲しい。
本当に好きなもの同士が愛し合うことは、むしろ自然だし素晴らしいことよ。ただね…。
快楽と同時に、取り返しのつかないリスクもある。だから、キチンと避妊すること。わかった?」
「…ふぁ、ふぁふ」
最後に強烈なボディーブローまで喰らったマサヒコは、
中村の帰った後なにもできずにしばし呆然とするのだった─。
§

「ま、マサヒコ君、いらっしゃい…」
「あ、はあ…どうも…」
またも舞台はアイのマンション。8月1日、マサヒコの誕生日を祝うため、
アイが彼を部屋に招待した─。勿論、彼女には中村の策が完璧に効いていたわけである。
「15歳の誕生日、おめでとう、マサヒコ君。さ、入って入って」
「あ、ありがとうございます、先生」
「じゃあ…ちょっと待っててね?お祝いのケーキ持ってくるから」
「あ…はい」
例のストーカー事件の前後にはマサヒコもアイの部屋に一時期通っていたものの、
以来久々の訪問である。今更だが、若い女性の部屋の持つ独特の空気に少々戸惑っていた。
「おめでとう、マサヒコ君。じゃ〜ん、ケーキで〜す♪さあ、ローソク吹き消して?」
「な、なんか子供っぽいですよ」
「いいの…だってさ、初めてだよね?ふたりっきりで…こんな風にお祝いするの」
そう言って、アイはじっとマサヒコを見つめた。
(な、なんだか…今日の先生、妙な雰囲気だぞ?まさかまたメガネに…吹き込まれたか?)
さすがはマサヒコ、この場の雰囲気に飲まれることなく冷静な判断である。
「あのですね、先生?もしかして…」
「えーっと…じゃ、あたし歌うね?はっぴぃばーすでぃ、とぅ、ゆう〜♪はっぴぃばーすでぃ、
とぅ、ゆぅ〜♯、はぴいばーすでぃ、でぃあ♭マサヒコ君♪はっぴぃばーすでぃ、とぅ、ゆう♪」
少し気恥ずかしげに頬を染め…それでもマサヒコのために歌うアイ。
そんな健気な彼女の様子を見てしまえば、さすがにマサヒコも…。
“ふーーーーーーーっ”
それ以上は言えず、ノってしまうわけである。
「わーい、おめでとう、マサヒコ君」
「あ、ありがとうございます」
「じゃあ、ケーキ食べよっか?マサヒコ君…はい!」
§

満面の笑みでケーキを取り分けて差し出すアイ。
その無邪気な表情に、それ以上なにも言えなくなるマサヒコであった。
(この笑顔見せられたら…反則だよ…)
そう、この笑顔にヤられたんだよね、マサヒコ君?
「ねね、マサヒコ君、早くこのケーキ食べてみて?」
「あ、はあ…あ、美味しいですね、これ」
「わーい、褒められちゃった♪昨日からあたし頑張って作ったんだから♪」
「!?って、手作りだったんすか?」
「ウン!頑張った甲斐があった〜♪」
(ええ?け、結構大きいし…凝ってるよ?)
驚き、感謝するとともに…マサヒコの心の中に芽生えたのは、アイへの純粋な愛おしさ。
(先生って…本当に、可愛い…よな)
にこにこと笑顔のまま、ケーキを頬張るアイの様子にマサヒコは少しの間見とれていた。
「…ねえ、マサヒコ君?ケーキあんまり美味しくないの?」
「?いや、美味しいですって…なんでですか?」
「だってあんまり食が進んでないみたいだし…」
「そ、そりゃ先生に比べれば…」
「あ、ひどーい」
「い、いや…だって…あの…すいません」
怒ったふりをするアイに向かって、マサヒコは手をあわせて謝る。
しばらくそんな状態を続けたあと─顔を見合わせて─ふたりは微笑んだ。
「でもさ、マサヒコ君と初めて会ってから…もう2年もたつんだね」
「そうですね…もうそんな前になるんですね」
「…ありがとう、マサヒコ君」
「え…なにがですか?」
§

「あたし…上京してきて、右も左もわからなくて…知り合いって言ったら先輩くらいで。
でね、先輩のすすめで家庭教師のバイトして、マサヒコ君に出会ったんだ」
「…そうだったんですか」
「それから…毎日がすごく楽しくなったんだ。ふふ…今思えばさ、あのときからだったんだよね」
「?なにがですか?」
「…初めてマサヒコ君に会ったときから…可愛い子だな、って思ってたの。
あのときから…あたしは、恋に落ちていたのかも…」
「!」
突然の告白に驚くマサヒコ。アイは顔を赤くしながらも…どこか楽しそうに続けた。
「ふふ…。運命のひとってさ、出会った瞬間にもう…決まってるんだね」
「せ、先生…」
それは少女のように夢見がちな言葉だったかもしれないが─。アイがうつむき、
恥じらいながら言う姿は可憐そのものだった。そして、マサヒコの心にも強く響いていた。
「俺も…初めて会ったときから、きれいなひとだなあって…」
「ふふ、マサヒコ君、無理しなくても良いんだよ?」
「無理なんて…してません。先生は、俺の初恋の人なんですから」
ふたりは互いに見つめ、微笑み─、吸い寄せられるように近づくと…。
“ちゅ…”
ゆっくりと、気持ちを確かめあうように…味わうように…唇を重ねた。
「好き…マサヒコ君…すきぃ…」
「俺も…好きです…せんせい…」
そう呟くと、ふたたび…みたび…ふたりは唇を重ねた。
「マサヒコ君…今日のキス、甘い…」
「え?あ…そりゃそうですよ、さっき俺らケーキ食べたし…」
「ううん…マサヒコ君のくちびるが…甘くて…柔らかくて…美味しい…」
とろん、と目を潤ませてマサヒコを見つめ、そのまま貪るようにマサヒコの唇を吸うアイ。
§

普段お色気ゼロなどと言われるアイだが…。女のウェポン乱発射である。
(う…うわ?な…なんだ?今日の先生…いつになく…超色っぽいぞ…?)
戸惑うマサヒコだが、実際、彼女の肉体には既に火が点いてしまっていた。
アイの右手が─ゆっくりと、マサヒコの来ているTシャツへと伸び、それを脱がそうとしていた。
「?!?ちち、ちょっと先生!待って!ストップ!」
「…マサヒコ君?…ダメ?」
「あ、あの…ダメとかじゃなくて…」
膝を崩した形で座り、悲しげに…マサヒコを見るアイ。その少し濡れた瞳の色っぽさに、
マサヒコは頭の裏が痺れるような…激しい欲望を覚えつつも、なんとかそれを抑え込んだ。
「先生…メガ…中村先生に、なんか言われたでしょ?」
「え…」
「やっぱり…あのね、先生。俺は、そういうんじゃなくて、
お互いが…自然にその…そういう状態になるまでは…」
「今じゃ…ダメ?」
「だ、だから…」
「あたしたちさ、付き合うようになったのは最近だけど…もう、2年以上も一緒にいるんだよね?」
「は、はい。それは…そうですけど…」
「だったら…自然じゃない?あ…もしかして、マサヒコ君…。
六つも年上なのに、処女って…気持ち…悪い?」
「!?い、いや、別にそんなことは…」
「そうなんだ…そうだよね、あたしみたいな女はやっぱり…」
自虐モードに入ろうとするアイを、マサヒコは慌てて止めた。
「ち、違いますッ!あの、先生は十分すぎるほどに魅力的ですよ?あの、ただ…。
俺の気持ちの整理がつかないっつーか…それに、俺は先生を守るって約束したんだし…」
「マサヒコ君の気持ちはね、嬉しいの。…でも…」
噛み合わない会話が続き、それにアイは少し苛立ち始めていた。
§

「ねえ…マサヒコ君、あたし…初めてのひとは…君って、決めてたんだ…」
上目遣いで、ねっとりとした視線をマサヒコに向けるアイ。女のウェポン2発目発射。
「え…」
「だから…えっと…もう、女の方から、なに言わそうとしてるのよッ!」
…せっかく雰囲気出したのに、アイ、逆ギレ。
(だ、だから…言ってんのはさっきから、そっちだって…)
そして更に戸惑うマサヒコ。この期に及んで妙に冷静なそんな彼の態度に、
アイはなぜかまた激しく─キレた。突然、彼を押し倒した。
「?!せ、先生?」
「う〜、マサヒコ君!」
「は、はい」
「あたしを守るとか…そんなことは、どうでもいいの!君は…本当に、あたしのこと、好きなの?」
「そ、そりゃ…好きですって。さっきもそう言っ…」
「ならどうなの!あたしと…エッチしたくないの!」
「!@%はあ?」
「あたしの…おっぱい触りたくないの?あたしの…お尻やあそこに、…もが?」
さすがにそれ以上は聞きたくなかったマサヒコは、アイの口を両手で塞いだ。
「あの…先生、はっきり言います。そりゃ、俺だってしたいです。…いいんですね?本当に?」
「う…うん」
いざとなると、急にしおらしく女の子っぽくなってしまうアイであった。
マサヒコは上体を起こすと…。アイをじっと見つめ、そのままキスをした。
“ちゅッ…”
アイは、嬉しそうだった。マサヒコは、アイの艶のある黒々とした髪を軽く梳いた。
「初めて会った頃より…先生、髪伸ばすようになりましたよね…」
「ふふ…マサヒコ君も…なんだか最近、伸ばすようになったよね?
あたしたち…姉弟みたいに似てるって先輩にからかわれたこともあるんだよ?」
§

「…俺もクラスの奴に、『お姉さんか?』って言われたこと…でも、そうじゃなくて良かった」
「?あー!、あたしみたいなお姉さんじゃ嫌だってコト?」
そう言ってふくれっ面を作るアイ。だが、マサヒコは微笑んだままアイの髪を撫でた。
「だって…姉弟だと、キスも…こんなことも…エッチもできないでしょ?先生」
「…う、うん」
マサヒコの優しく穏やかな笑顔に見とれ、思わずふにゃ〜っとした表情になってしまったアイ。
「先生…」
マサヒコは、キャミソールの肩ストラップに手をかけ、外した。
“する…”
淡いグリーンのブラがマサヒコの目に飛び込んできた。
そして大きすぎず…小さすぎず…。だが、男の欲望を刺激するのには十分なサイズの、
アイの胸の谷間がそこにあった。マサヒコは、思わず唾を飲み込んだ。
「きれいですね…先生の、胸」
「あ…ありがとう、マサヒコ君。でも…えっと…」
「…じゃ…外しますよ?ブラジャー」
なかなか自分からは言い出せず、もじもじとしているアイの意を察したマサヒコは、
ブラのホックに指先をかけようとしたが…思っていたところにそれが無く、手間取ってしまっていた。
「クスッ…」
「あ…えと…すいません、先生…あの…」
ビギナー丸出しの自分を笑われたのかと思い、恥ずかしさで真っ赤になってしまうマサヒコ。
「えへへ〜…嬉しいね、こういうの」
「へ?」
「マサヒコ君ってさ…大人びてて、クールで…あたしよりよっぽど慣れてそうな感じだったけど…。
やっぱり、初めてなんだよね?あたしと同じで。…ウン、嬉しいよ、マサヒコ君!」
マサヒコは、そんなアイの言葉に少しホッとしていた。
「あのね…コレ、フロントホックなの」
§

“ぱちん”
アイは胸の谷間にあるホックを外した。白く、見るからに柔らかそうな乳房が露わになった。
(うわ…思ってたより…ぜんっぜん…すげえ…きれいだよ…)
マサヒコはそう思いながらアイのそれに手を伸ばした。
“すふ…”
(わ…やわらかい…)
すべすべとしたその肌触りと、張りのある桃のようなふくらみに言葉を失うマサヒコ。
「んっ…」
頬を染めたアイは、マサヒコの手のひらの感触に軽く声をあげた。
「あ…あの、先生…」
「な…なに?」
「先生のおっぱいに…口を…つけても…いいですか?」
「う…うん」
雪のように白いそこに手を添えたまま…ゆっくりと顔を近づけ、マサヒコは乳房にキスをした。
“ちゅ…”
「あ…」
「先生…可愛い…です」
“ちゅ…ちゅ…”
そのまま、マサヒコは円を描くようにキスを続け…薄桃色の乳首に口づけようとしたが…。
「…マサヒコ君、ごめん…ちょっと…」
アイの言葉にさえぎられてしまった。
「…先生?俺もしかして、あの、下手…ですか?」
「ううん…違うの…その…あたしも初めてで良くわかんないんだけど…えっと…」
そう言ったあと、悪戯っぽい微笑みを浮かべたアイは、テーブルの上に置いたままの
ケーキのクリームを両の人差し指で拭い、そのまま自分の乳首に付けた。
「?せ、先生?」
§

「へへへ〜、…実はね、これ…やってみたかったの…マサヒコ君、あたしをめ〜しあがれっ♪」
(な…なんの…AVで見たんだ、この人は…)
さすがに呆れるマサヒコだが…笑顔で彼の到着を待つアイのノリノリの表情に、仕方なく…。
“ちゅぷっ…ちゅ”
「あ…んっ…」
(甘い…のは、当然か)
声をあげるアイとは対照的に、マサヒコは少し冷めながら…だが、実は結構楽しんでいた。
“ちゅろ…ぷちゅ…”
「はんっ…は…」
マサヒコは、集中して生クリームのついたアイの乳首を舐め続けた。
その度に、アイが艶めかしい声をあげ、彼の興奮も徐々に高まりつつあった。
“すっ”
マサヒコは、キャミソールをそのまま膝下まで下ろした。
ブラと同色の、グリーンのパンティの中におそるおそるといった感じで手を伸ばす。
「…マサヒコ君?」
「あ、すいません…まだ、あの…嫌ですか?」
「ううん…そ、そうじゃなくて…そろそろ…ベッドに…。それに…マサヒコ君も、脱いで…」
「あ…そうですね」
どこかぎこちなく…ふたりは言葉を交わしていた。そんな部屋の空気を変えようとしたのか…。
マサヒコは、立ち上がろうとしたアイを手で制すると、彼女の首と腰に手を回して抱き起こした。
「ま、マサヒコ…君…」
「いいから…俺が…先生を…運びます…」
うっとりと、マサヒコのその言葉を聞くアイ。
“ふぁ…”
身に付けているのはパンティ一枚。乳首にはまだ少しクリームの跡のあるアイの裸体。
それがやけに卑猥にマサヒコの目には映っていた。なぜか急いでマサヒコもトランクス一枚になった。
§

“ちゅ…”
もう一度、唇を重ねると…マサヒコは、そのままアイの体に覆い被さるように身を重ね、
首筋から胸にかけて顔を埋めた。
「…先生…それじゃ…」
「う、うん」
健康的な、肉付きの良い太腿の内側をゆっくりとこすりあげながら…。
マサヒコは腿の付け根まで手を移動させた。そしてそこへと近づくにつれ、
汗や─それ以外の、なにかの湿度を手のひらの上に感じていた。
思い切って、マサヒコは布越しにそこに触れてみた。
“ぷじゅ…”
やはり、そこは既に十分に湿っていた。わずかだが、布地に染みを作ろうとしはじめていた。
「マサヒコ君…お願い…もう、脱がして…恥ずかしい…」
懇願するように、腰をずらしてアイが言った。こんな格好のままより、早く脱がしてもらいたいようだ。
「…先生、もう少し…もう少しだけ…」
マサヒコは指の腹をそこにのせた。
細い筋の谷間と、固い恥毛の感触を指で味わいながら…そのまま、ゆっくりと往復させる。
「あ…ん…やだ…ダメ…ショーツ…汚れちゃう…」
指先からは少しづつだが湿り気が拡大しつつあることを感じていた。
しかし─マサヒコは、指の動きをぴたりと止めた。
「本当に…止めて…いいんですか?先生?」
「え…」
「すっごく…可愛くて…エッチな顔になってますよ?止めても…いいのかな?」
悪戯っぽくマサヒコが微笑む。頬を赤く上気させたアイは、涙目で訴えた。
「ひ…ひどい…よ、マサヒコ君…だって…」
「さっきは、先生のリクエストに俺が答えましたからね…今度は、先生の番ですよ?」
どうやらさっきの生クリーム舐めのお返しのつもりらしい。マサヒコは、言葉を続けた。
§

「止めろって…言われれば、俺、止めてあげますよ。でも…して欲しいんだったら…」
「…」
「きちんと、言葉で言って下さい。どこをどうして欲しいのかって」
マサヒコ君、結構酷い男。てかドS?
「…わ、わかった…」
「じゃ…どうして欲しいんです?」
「あたしの…あそこに、触って欲しい…」
「それだけ?」
そう言って、マサヒコはパンティ越しのそこに指を置いた。そのまま、全く動かそうともしない。
「ショーツを脱がして…あたしの…あそこに…触って…中から…もっと…動かして…」
「良く、できました」
にっこりと笑ってそう言うと、マサヒコはアイの下着を脱がした。
「先生…染みに…なっちゃったね」
「…言わないで…やだ…」
そのまま中指をアイの裂け目の中へとゆっくりと入れていった。
“じゅわ…”
指先に、なま暖かい粘液が絡みついてきたのがわかった。
マサヒコは、意を強くすると更に奥へと指を伸ばす。そしてぬるり、とした感触の部分に達した。
「んはぁッ!」
が、そこに触れた瞬間、アイの体が一瞬激しくびくん、と痙攣した。
「あ…すいません、先生…大丈夫?」
さすがに不安になったマサヒコはアイの表情をうかがうが…。
「ううん…そ、そのまま…そのまま…して」
アイは小さく首を振り、ぎゅっとマサヒコの胸に顔を埋めた。
戸惑いながらも、マサヒコはその暖かい感触の中へと分け入っていった。
裂け目にはねっとりとした液が溜まり、幾層もの肉の襞が指にまとわりついていた。
§

(…ん?なんだ、コレ?)
指を抜こうとした瞬間、裂け目の上あたりにこりっとした感じの─。
小さな芯のような感触をマサヒコはみつけた。それがなにかもわからぬまま、
直感に導かれてマサヒコはそれをコリコリとくすぐってみた。
「!んん…はぁあ…うっん…ああ!」
その愛撫に、アイはひどく艶やかな声で応えた。より甘みを増したその声に力を得たマサヒコは、
その部分を押したり…擦ったり…ときにはつまみあげるようにして愛撫を続けた。
「やぁ…ひゃああ!!…あああッ!!!」
鋭い声をあげ、体を弓なりに反らした後…アイがぐったりと体から力を抜いた。
「先生…あの…大丈夫?」
「う…ウン、だ…大丈夫…」
少しの間、目も虚ろで動こうとしなかったアイだが…。
マサヒコに声をかけられる頃には、なんとか答えられる程度には回復していた。
「じゃ…先生…あの…」
「うん…来て…マサヒコ君…」
マサヒコはトランクスからペニスを取り出すとそれに手を添え…指でもう一回裂け目に触れ、
入り口を探り、その源を目指すようにして先をゆっくりとアイの中へと滑らせた。
「あ!ああッ…くうゥ…ッ…」
なんとか先端が納まろうとした瞬間、マサヒコはアイの苦痛に満ちた叫び声を聞いた。
「す…すいません、やっぱり…痛いんですよ…ね?先生?」
「う………い、痛い……けど…いいから…続けて…お願い…」
途切れ途切れに訴えるアイに、どうしてよいのか分からなくなるマサヒコだったが…。
(じゅうぶんに…濡れてる感じだから…このまま一気にいってもいけそうだけど…)
あくまでアイの体のことを考え、ゆっくり、用心深く、絡めるように小刻みに先端を前後させた。
(…なにか…固くはないけど…なにかが…阻んでる…)
マサヒコは、無理強いせず…優しく、ノックする要領で先端を震わせるように動かした。
§

「マサヒコ君…だ、大丈夫…だから…そ、そのまま…はあッ…」
アイがマサヒコの腰に足を絡めてきた。マサヒコは同じようにアイの腰を両手で抱き、
しっかり固定したままもう少し勢いをつけて、攻めた。
“ぐしゅっ…みり…みりりぃ”
すると、何度目かの反動の末、突き抜けたような感触があった。
「はぁあ!あ!あああッ!」
狭い道だったが…ペニスがめりこんでゆく。
(もしかして…今…処女膜を…)
アイの中はうねるように収縮し、ペニスを先端から根本まで包み込んでいた。
「…動いても…いいですか?」
マサヒコの囁きに、アイは涙目のまま小さく、こくん、と頷いた。
“じゅ…じゅぷぅ”
ゆっくりと…ゆっくりと、中を前後させた。肉と肉の、擦れ合うような音をマサヒコは聞いていた。
「はあ…ああ…うぅん…」
(先生の中…あったかい…)
生まれて初めて女の子の中に入った感動を、マサヒコは味わっていた。そして…。
(さっきから…先生、ずっと爪を俺の背中に立てたまんま…表情も…。よっぽど痛いんだな…)
アイの苦悶の表情に同情しつつ…。今更自分の中に燃えさかった欲望を止めることもできず、
いっそうその動きを強めていった。─男とは、因果な動物である。
「当たってる…うッ!マサヒコくぅん…マサヒコ君、当たってるのぉ!」
アイの奥は、ざらざらとしていて、呼吸をするたびにマサヒコのペニスを締めつけ、吸引していた。
ふくらみ…ちぢみ…マサヒコの動きに同調しようとするように、収縮運動を繰り返していた。
やがて、完全に同調したふたりの動き。アイの中は、ペニスをねじるように締めあげ、
マサヒコのペニスはアイの奥底のさらに深くを…えぐり、杭を打つように突いていた。
「ま…マサヒコ君、あたし…もうダメ…こ、壊れちゃうよぉ…」
「先生…俺も…ぶっ壊れそう…」
§

そう言い合ったあと、ふたりはまた貪るようなキスを交わした。
舌を絡め、マサヒコは、アイの汗にしっとりと濡れた乳房を揉みしだき、
アイは更に強くマサヒコの背中に爪を突き立てる。
アイの乳房は焼けるような熱を持ち、マサヒコはその全てを味わうかのように動いていた。
「ふぁッ…ああ…マサヒコ君…あ、あたし…もう…」
その言葉を聞いたマサヒコは、最後の気力を振り絞ってアイの最奥を貫いた。
とろみのついたそこは…優しく包む込むように…。
しかし、貪欲にマサヒコのペニスの根本までがっちりと食らいついて離さなかった。
「先生…俺…」
「ま…マサヒコ…くぅん…」
ふたりは、会話にならない言葉を交わしたまま…ほとんど同時に、絶頂に達していた。
「お、お願い…マサヒコ君…そのまま出して…あ、あたしの中に…今日は、大丈夫な日だから…」
言われるまでもなく、マサヒコの理性はとっくに吹っ飛んでいた。
“どぷっ…ぐるっぷ…ぴゅ…”
精液が、マサヒコのペニスから溢れ出していた。すさまじい快感を覚え、
体中が弾け飛ぶような感覚に満たされながら…マサヒコは、アイの体に崩れ落ちていた。
アイも、目を閉じ、精液を一滴も漏らすまいとするかのように…。
マサヒコの腰に、両脚を絡めたまま、なにもできないでいた。
─どれくらいの時間が過ぎただろうか。やっと、アイが目を開く。
そこには、力尽きたようにうなだれる、マサヒコがいた。
「マサヒコ君…」
アイは、マサヒコをしっかりと抱きしめた。ふと目をやると…マサヒコの肩に、
小さな傷跡があることに気付いた。あの、ストーカーによって付けられた跡だった。
(マサヒコ君…マサヒコ君…)
気が付くと、アイはマサヒコのそこに口をつけ、舌で舐めていた。愛おしかった。
この世界の全てよりも…マサヒコが、そしてその傷跡が、愛おしかった。
§

「…先生?」
やっとそのアイの行動に気付き、怪訝そうな表情を浮かべるマサヒコ。
「…ふふ。これで…おあいこだよね、マサヒコ君」
「?なにが…ですか?」
「あたしのせいで…マサヒコ君のここを…傷つけちゃったけど…」
「…」
「マサヒコ君は…あたしを…キズモノにしたんだもんね?だから…おあいこ…?きゃん?」
アイの最後の言葉を待たず、マサヒコは強い力でアイを抱きしめていた。
表情は─なぜか、怒ったようだった。
「あ…あの…怒ったの?マサヒコ…君」
少ししょんぼりとしたアイが言った。
「先生は…せんせいは、キズモノなんかじゃない!」
「え…」
「先生は…俺の、タカラモノなんです。だから…もう二度と…そんなこと言わないで下さい」
「マサヒコ君…」
アイの双眸からは、喜びの涙が溢れ、こぼれ落ちた。
しかし、マサヒコは…。
(あ…やべ…結局、メガネにもらった…コンドーム、使わなかった…)
何故か、そこだけ妙に冷静に後悔していた─。



END

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