作品名 作者名 カップリング
「欠けた月が出ていた」(セージ編) 郭泰源氏 -

「…だから、リョーコ、頼むからそういうカッコで部屋をうろつくのだけは…」
「ん?セージ、何?照れてんの?ヤリ終わった後だってのに今更?」
「そういうワケじゃなくてだな…一応、俺も教師なわけだから、もし人に見られたりしたら…」
「ふふん、大丈夫よ。外から見えるわけないじゃない。こんなコトをしない限りはね」
中村リョーコは、そう言うと部屋のカーテンを勢いよく開け放った。
「りり、リョーコ??」
豊田セージは、慌ててその後ろからカーテンを閉め直した。
その姿を見ながら、中村は缶ビールを片手にいかにも楽しそうにニヤニヤとしていた。
豊田が慌てるのも無理はないだろう。読者の期待通り、彼女は現在、全裸なのであった。
「…なあ、リョーコ。夜とはいっても…ココ、一階なんだぜ?俺をからかうのはやめてくれよ」
「ん?からかってなんかいないつもりだけど?」
「…じゃあ、どういうつもりなんだ?」
「んー、いじめて喜んでるってとこかな?」
「同じだろ」
「ふふっ。ゴメン。だってセージってさ、困った顔が一番セクシーなんだよね」
「…誉め言葉としても有り難くないな」

大学を卒業したリョーコが、俺の部屋に転がり込んできてから4ヶ月ほどが経とうとしていた。
教職を目指したものの、結局浪人した彼女は、講師のアルバイトをしながら勉強中の身だ。
それまでも、ちょくちょく俺の部屋に来ては、勝手に冷蔵庫の中身なんかを
漁っていたりしていたリョーコだったが…。卒業を機に、いつのまにかという感じで
俺の部屋に居着いてしまったのだった。
「それは、だってお前、ご両親がなんて言うか…」
最初に、しばらくでいいから部屋に住まわして欲しい、というリョーコの話を聞いたときは、
俺もさすがにそう言って抵抗したんだが…。

昔恋人同士だった頃から、彼女が両親とうまくいってないみたいだってことは、
なんとなくだけど気づいていたから、俺の言葉もあんまり説得力を持たないんだろうな、
と俺は話しながら思っていた。
「ふん。あんな連中とまた一緒に暮らすなんて想像するだけで反吐が出るわ。ね〜え〜、
セ〜ジ〜。お願いだからさ〜。しばらくでいいからさ〜。タダでダッチワイフを拾ったと思って…」
「…お前はダッチワイフじゃない」
そう言いつつも、やっぱり今でも彼女が両親に強い嫌悪感を抱いているってことはよくわかった。
結局、なし崩し的に同居を許し、同じくなし崩し的にヤってしまった俺だった。
「で、そんなことはどーでもいいからさ。どう?あたしの教え子たちは?
高校に行っても元気にしてるのかな?」
「…それを言うなら元教え子だろう。それに若田部や天野はお前の教え子じゃないぞ」
「カーっ、男の癖に細かいトコにこだわるやつだねえ。
そんなだからロリコンなんて疑われるんだよ」
「ってそれはお前が勝手に噂を流すから!」
「あ、ゴメン。疑われてるんじゃなくて事実だっけ」
「人の話を聞けぇぇ!」
しかしコイツと話すと、いつもこんな風にはぐらかされて終わりなんだよな、と俺は思っていた。
「小久保と的山は…まあ、普通に元気にしてるみたいだな。何度か東ヶ丘中にも来たし」
「あの二人、A高だったっけ?まあ、そんなとこだろーね。そこそこの進学校だけど、
どっちかと言えばのんびりとした学校だし。マサやリンみたいな子には合ってるのかもね」
「ってどこ行ったのかきちんと覚えてないのかよ!さっき教え子って言っただろうが!」
「気にしない気にしない。聖光に行った優等生コンビはどうしてんのよ?」
「…天野は…入学してしばらくは酷く落ち込んでたらしいな。
お母さんが心配して何度か3年の頃の担任の先生に相談に来てたぐらいだったからな。
職員室でも一時期結構話題になってたし…ま、今は大丈夫みたいだけど」

「…ミサキちゃん…可哀相だな…」
「ん?お前、もしかしてなんか知ってんの?」
「うん…でも、今はちょっと…話したくないな…」
珍しく深刻そうに言うリョーコの様子を見て、俺はそれ以上追及するのを諦めた。
「若田部は、変わらないみたいだな。全然学校に顔を見せに来てくれないけど。
まあ、後ろを振り返らないってところはあの子らしいんじゃないか?」
「…ところが、そうでもないのよね」
ボソッ、とそう呟くリョーコ。
「?なあ、お前ら、なんかあったのか?そう言えば、お前といつも一緒にいた…。
濱中さんだっけ?あの娘とも…お前、卒業してから全然会ってないだろ?」
「…うん」
「あの娘と…小久保を中心にしてさ、お前ら、いつも色々とドタバタやってたみたいだけど…。
外から見てた俺なんかにするとさ、結構楽しそうっていうか…仲良さそうに見えたんだよな」
俺の話を聞きながら、リョーコの奴はうつむいて思案顔だ。
「うん…ねえ、セージ。でも…壊れちゃったもんは、しょうがないんだよね。あれは、
誰が悪いってわけでもなかったんだと思う。今だからそう思えるのかもしれないけど」
「?意味深な言い方だけど…」
「ん…ま、そのへんの話はさ、もうちょっと落ち着いてから話すってことにして欲しいんだな。
正直なところ、あたしが全く悪くなかったかっていうと、そうでもないわけだし」
「…全然わからないけど、一応そういうことにしておくか」
「ありがと。そういうとこさ、セージって優しいよね」
「俺はいつでも優しいぞ」
「よっく言うわ、ロリコン教師が」
「だ…だから、それはやめろって!」

笑いながら、缶ビールのプルタブをひっこぬいて飲みほすリョーコを見て、
奴が無理にそんな憎まれ口を叩いているのが俺には十分すぎるほどわかっていた。
「話したら、喉乾いたな…俺も飲むわ」
俺は、そう言ってキッチンへと向かった。
「あー、もうないよ、セージ。これ、最後のだから…」
「わかった…じゃあ、外の自販機で買ってくるわ」
「あー、ならさ、ついでにあたしの分ももう一本…」
「ん…わかった」
俺は服を着込んで外に出た。知っていた。冷蔵庫の中にあと2本、
ビールが入っていたことを。そして俺がそのことを知りながら外に出たことを、
奴が気づいているってことも。
(面倒くさい奴だけど…どういうわけだか、冷たくできないんだよな、昔っから)
俺は、そんなことを思いながら夜道を歩いた。夏の乾いた風が、一瞬、頬を撫でるように
通り過ぎて、思わず顔を上げると、そこには少し欠けた月が出ていた。
なるだけ時間をかけて帰ったほうがいいような気がして、
俺は少し遠いコンビニでビールを買った。
部屋に戻ると、リョーコは下着姿でテーブルに顔をつけたまま、泣いていた。
俺は黙って奴の顔の近くにビールを置くと、後ろからそっと抱きしめた。
(コイツ…こんなに細かったっけ?)
俺は、一緒に住んでいて、もう何度も肌を合わせながら、
そんなことに気づかなかった自分のマヌケさに少し笑いたくなるような気分だった。
「ゴメンね…セージ…迷惑ばっかりかけて…」
まだ嗚咽を漏らしながら─それでも喉を振り絞るようにしてリョーコはそう言った。

「ん…まあ、お前に迷惑かけられるのには慣れてるから」
「…全然、フォローになってないじゃん。そんなだから、セージ、肝心なトコでモテないんだよ」
「それだけ言えれば大丈夫だな」
「セージ…やっと…本当に信用できる人間ができたと思ってたんだ、あたし。なのに…」
「…俺は信用できないのか?」
「…そういうんじゃないんだよ。あの子たちとは…でも…」
「まあ、いいから。とにかく今は俺がお前のそばにいるから」
「…嘘つき」
「ん?嘘なんかついてないぞ」
「だってセージ…ビール買ってくるって言ってたけど、これ、発泡酒じゃん…」
「…お前なあ…」
そう言って毒づいたあと、リョーコは再び声を忍ばせて泣き続けた。
何分ほど過ぎただろう─俺の腕の中で小さく肩を震わせていたリョーコが、
突然振り返って、俺を押し倒して、言った。
「…しよ」
「…ってお前なあ、この雰囲気で良くそんなことをいきなり…」
「いいから。ホラ、男ならウダウダ言わずに勃たせなさい」
リョーコはそう言うと、ショートパンツ越しに俺のモノを柔らかく触ってきた。
情けない話だが、珍しくしおらくしていた彼女の姿に、
実はさっきから欲情していた俺はいとも簡単に勃起した。
「ほっほー、さすがは淫行教師。回復力も早いコト」
「だ…だからそういうのは!」
涙でぐじゃぐじゃになりながらも、楽しそうに、にやり、とリョーコは笑うと、
俺のショートパンツのジッパーを下ろし、トランクスを剥いで中身を取り出した。
天を衝かんばかりの勢いで現れた、自分モノの姿が俺はなんとも情けなかった。

リョーコは、指先を自分の口の中にしばらく含むと、
唾液でべとべとに濡らしたそれをパンティの中へ入れた。
「?リョーコ?」
「ゴメンね、セージ。あたし、ちょっと濡れきってないみたいで…。
あそこが開いてる感じはするから大丈夫だとは思うんだけど…」
なら無理してまでヤろうとすんなよ、と言いかけて、止めた。リョーコは既にブラを外し、
パンティを膝までずらすと、俺のモノをつかんで中へと導き入れようとしていた。
「お、おい、ナマってのは…」
「なーにびびってんのよ。だーいじょうぶだって、今日は超安全日だしさ」
「いや、でも…その、避妊はきちんとやっとかないとだな…」
「だから、大丈夫だって。それにゴム付けてたって、避妊できる確率なんてさ、
99.9なん%なんだよ?何千回に1回ぐらいの割合でできちゃうんだって」
「…ってそういう問題か?」
「いいから。とにかく、今あたしすっごくヤりたいんだから」
そう言うと、リョーコは両手で俺のモノをつかんで、ゆっくりと彼女の中へと導いた。
“ずっ…”
俺のモノが、リョーコの中に入った。乾いている、って感じはしなかった。
「んっ…」
ふたりの声が、重なった。
「んっ…んっ…セージ…セージぃ…」
まだ涙も乾かぬまま、顔を切なげにゆがめ、俺のうえで動きながら
喘ぎ声をあげているリョーコの姿に、俺はムチャクチャ興奮していた。
両手を床について、軽く上体を起こすと、俺はそのままリョーコと唇を重ねた。
少しヤニの匂いがしたけど、その匂いに俺はまた興奮して、勢いよく舌を入れた。

“んちゅ…ぬちゃ…”
お互いに、貪り合うようなキスを続けながら、俺たちは交わった。
「せーじぃ…」
しばらくして、唇を離すと、リョーコは堪えきれなくなったようにそう呟いた。
俺は、再び体を軽く後ろへ倒すと、両手を彼女の腰に回し、
より深くリョーコの中に入っていくようにして突いた。
なんだか俺の先がリョーコの中で引っ張られているような感覚だった。
「ん…んん…すごく…奥まで…入ってくるよ…セージ…」
リョーコは長い黒髪を振り乱しながら動いていた。
その度に、彼女の形の良い乳房がリズミカルに揺れた。
「んっ…ねぇ、セージ…」
「な…なんだよ」
「男と女ってさ…んッ…なんで…こんなこと…ん…するのかなあ」
「お前はまた…うッ…いきなりワケのわからないことを」
「ガキを作るためだけじゃなくてさ…んん…お互いの…ココロとか…カラダの…んっく…
スキマを埋めるために…ヤるんじゃないかと…あたし、思うん…くっ…だ」
「しかし…んん…こういうことの最中に…なんで哲学的なことを言うかね、お前は」
「ん…だってぇ、セージ」
「んん…リョーコぉ…」
最後はほとんど会話にならなかったけど…俺たちは、夢中でそれを続けた。
(でも…多分…いつかこいつは俺の元から、ふらっと出て行くんだろう。そして、
いつかまた当然みたいな顔をして戻って来るんだろう…)
俺は、腰を動かし続けながら、なぜかずっとそんなことを思っていた。

END

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