作品名 |
作者名 |
カップリング |
「欠けた月が出ていた」(ミサキ編) |
郭泰源氏 |
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(帰ってきた…)
向かいの家の、あの部屋に灯りがつくのを、
いつものように切ない思いで天野ミサキは見つめていた。
他人から見れば…ストーカーみたいなことだって…それぐらいは…あたしだって…
わかってるけど…それでもマサちゃんの姿を…見つめずには…。
(マサちゃん)
あたしは、ちっちゃい声で呟いた。
どうして…あたしの…何が…悪かったの?あたしは、まだ、こんなに好きなのに…。
もう、何度も繰り返した、自問自答だけど、まだ、あたしは決着がつけられないままでいた。
去年の冬、受験に専念したいから、お互いのためにも、しばらく付き合うのを止そう、って
マサちゃんから提案されたときは、確かにショックだったけれど、若田部さんのこととかで、
ちょっと束縛しすぎてたかもって反省も少しあったから、一応納得したフリをしてた。
それでもクリスマスにはプレゼント交換もしたし、チョコ嫌いなのにバレンタインデーだって…。
恋人同士らしいイベントはそれなりにこなしてくれていた。
それが、お互いに志望校に合格したのに、1週間たっても…2週間たっても…。
彼からのリアクションが無いことに我慢できなくなったあたしが、
彼を部屋に呼んで、確認したときだった。
「悪い…俺…もう、天野とは…ダメなんだ…。別れてくれないか」
その言葉を聞いたときに、あたしは、目の前が、突然揺れ動いて、
心臓が締め付けられるような感じに襲われた。
なぜ、どうして。あたしはひたすら泣きながら、マサちゃんに理由を聞いた。けど、彼はうなだれ、
「天野は…何も、悪くない、俺が…全部、悪い」
と、繰り返すだけだった。
「せめて…理由を聞かせてよ…もしかして、若田部さんと…」
「それは、違う。俺は、天野とも、若田部とも、付き合う気はない」
マサちゃんは、そこだけはやけにはっきりと言い切っていた。
それからしばらく、どれくらいの時間が過ぎたかわからない。
ただ泣き続けるあたしと、うなだれたままのマサちゃん。
気がつくと、あたしは、彼の胸の中に飛び込んでいた。
「ねぇ…あたしの悪いところ、全部、直すから。マサちゃんの、言うことなら…
なんでも、きくから。あたしは、マサちゃんのことしか…だから…」
「悪いけど、もう、ダメなんだ。俺、天野には本当にすまないって…」
「そんな言葉なんて、ほしくない。謝ってなんか、ほしくない」
だけど、マサちゃんは、ゆっくりとあたしから体を離すと、
「本当に、悪かったと思ってる。だけど、サヨナラだ、天野」
そう言って、呆然とするあたしを残して出て行った。
そのシーンは、今でもたまに悪夢みたいにあたしの頭の中でフラッシュバックを繰り返している。
それからのひと月ぐらいのことは、ほとんど覚えていない。
食べ物が喉をとおらなくなり、夜眠れなくなった。今は少し体調も戻りつつあるけど、
一時期は体重も40kgを切るぐらいになった。
それからだ。あたしがマサちゃんの部屋をじっと眺めるようになったのは。
(だって…あたしは…将来、マサちゃんの、お嫁さんに…なるって)
ずっと小さい頃にした約束。それは、あたしにとって、今でも…絶対に…。
(マサちゃん…)
あたしは、また、彼の部屋を見た。
(終わるの…やだよぉ…)
そう呟きながら、あたしは右の乳首をつまんだ。パンティの中に手を入れて、
あそこの間からとがったところに向かって下から上へとゆっくりと何回もこする。
奥のほうが熱くなってくると、左手の中指を入れて、折り曲げる。
(んッ…んん…こんなことしてって…なんにも…なら…ない)
それがわかっていても、あたしは、彼の部屋の灯りを…見ながら…毎日のように。
(こんな…ふうに…したのは…こんなに…したのは)
頭の中で、いつも思い描くのは優しく抱きしめてくれたマサちゃんの姿。
(んっ…マサちゃん…マサちゃあん…)
びくんっ、と腰が動き、暖かいものが流れ出してきて、あたしは頭の中が真っ白になった。
しばらく、また何もできないぐらいだるい気持ちのまま、また窓の外を眺めた。
夜の空には、欠けた月が出ていた。
(このまま…終わっちゃうの、やだよ…そんなの…あたしの…初恋)
あたしは、また、涙が流れるのを感じていた。
(涙が…枯れることって…あるのかな…いつ、なのかな…)
そう思いながら。
END