作品名 作者名 カップリング
「欠けた月が出ていた」(アヤナ編) 郭泰源氏

(ふぅ…今回も…ハズレだったわね)
合コン会場であるレストランのトイレで、軽く化粧を直しながら若田部アヤナはそう思った。
兄の用意してくれた、大学生たちと、あたしのクラスの女子とでの何度目かの合コン。
5対5の男女のうち、表面上は、2組ほどがなんとかなりそうな、
でも、裏では男女とも、それなりの駆け引きが行われている、どこの合コンにもありそうな、そんな風景だ。
あたしは…ま、贔屓目抜きで見ても、ルックス・スタイル共に一番ってとこなんだけど、
どの男にも、うわべだけ愛想良くふるまっている程度なんで、決して男受けが良いわけではない。
それでも、そのうち一人は露骨にあたし狙いでなんとか話をつけようとしている。
(にしても聖女ってブランド、大学生には食いつきがいいこと…バッカみたい)
一応は幹事役って立場にもかかわらず、そう思ってふと目の前の鏡を見ると、
いかにもつまんなさそうな顔をした、あたしの顔があった。
(あはは…こりゃ、モテないよね)
思わずあたしは苦笑した。本当は、わかっている。どの男の顔を見ても、話をしていても、
どこかに、小久保君の面影を探している自分を。

高校に入学して、あのふたり−天野さんと、小久保君が−別れたって聞いたときは、天野さんには悪いけど、
あたしの想いが通じたのかと、胸が躍った。さっそく、家に帰る途中の小久保君を呼び止めて、
近所の公園で話を聞いたのだけれど−彼の反応は、淡々としたものだった。
「俺が、天野と別れたのは、若田部のためじゃない…。そうじゃないんだ」
しばらく会わないうちに大人っぽく、というよりも諦念感を漂わせた、哲学者のような…。
そんな彼の雰囲気の変化に、あたしはフラれたことに対する悲しみや怒りよりも、驚いていた。
「でも…ねぇ、もしかして、ほかに…好きな人が…」
「ああ、いたよ」
あっさりと、そう認める彼。
「え…でも、『いた』ってのは…」
「フラれちゃったんだ」
少しはにかんだような表情をする小久保君。
その顔を見ながら−やっぱり、小久保君のことが好きなんだ、って再確認してた。
「でも…今は小久保君、フリーってことだよね。だったら…」
あたしは自分自身に少しビックリしていた。今までのあたしなら、絶対にこんな未練たらしいことは言わない。
「そういうことじゃない」
はっきりと、小久保君は、そう言い切った。
「俺は、しばらく、誰とも付き合う気はない。天野や、若田部や、…いろんな人を、振り回してきた自分が、
つくづく嫌になったんだ。もっとちゃんとして、自信を持てるようになるまで、そういうのは、やめにしたんだ」
少し怒ったように、そう早口に一気に話すと、小久保君は、ベンチから立ち上がり、
呆然としたままのあたしを残して去っていった。けど、しばらく歩いた後−くるり、と振り返って、言った。
「若田部」
「…」
「ありがとな」
「え…」
「俺…若田部や、みんなといられて、本当に…楽しかった」
そう言って、少し恥ずかしそうに顔を下に向けると、そのまま歩いていって、もう二度と振り返ることはなかった…。

席に戻ると、ふたり、既に席にいなかった。
(あらあら、早くもお持ち帰りモードですか)
そう思いながら席について、あたしはまた苦笑した。白々しい気分のまま、合コンは終わり、
「えーっと、じゃあ2次会は…」
って男側の幹事役が言うのを聞くと、あたしはソッコーで、
「スイマセーン、今日はあたし、ちょっと…」
って断りを入れた。さっきの男があからさまに失望の表情を浮かべ、他の女子は、表面上は残念そうな
−まあ、腹の中では"よっしゃ"とでも思ってるんだろうけど−表情を浮かべる。
送っていく、ってしつこく言い寄る男を適当にかわすと、あたしはバッグを肩にかけて、夜の街に出た。
(小久保君…あたし、モテないわけじゃ、ないんだよ)
さっきの男の様子を思い出しながら、あたしは少し微笑んだ。
(小久保君なんて…メじゃないくらいの…あたしに相応しい、とびっきりの男を…
見つけてやるって思ってたけど…ダメだね、やっぱり、小久保君は、小久保君なんだ…)
そう思いながら、ふと顔を上げると、夜空にはぽっかりと、少し欠けた月が浮かんでいた。
その月を見ながら、両頬を、なまあたたかいものが伝って落ちていくのをあたしは感じていた。
(あたしは…負けたわけじゃない…あたしは…かわいそうなんかじゃない…けど…)
道行く人が、あたしを見て少し驚いて、その後少し迷惑そうな
−そんな顔をするのにも構わず、あたしは、歩くのを早めた。
(ばいばい、小久保君)
そう、呟きながら。

END

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