作品名 |
作者名 |
カップリング |
『横溢』 |
乖離氏 |
アヤナ×マサヒコ |
ぱらぱら・・・・・
こぼれ落ちた餌に気付いた金魚たちが水面に顔を出す
朝、彼が祭りの夜に取ってくれた金魚に餌をやるのは一日の最初の日課だ
口をぱくぱくさせて餌を食べる金魚を、上から眺める
「あんまり夢中になって食べ過ぎちゃだめよ」
私の言葉が分かるはずもなく、金魚たちは一心不乱に餌を食べている
他の事は目に入らないのだろう
私も、彼と二人のときはこんな感じじゃないのだろうか
他の事は一切目に入らない・・・・
ちゃぷっ
ちょっと手を入れると簡単に金魚は掬えた
私の手のひらの上でぱたぱたと跳ねている
「ふふっ、ごめんね」
すぐ水槽に戻してやると、一回りしてまた餌を食べ始める
やっぱり、私もこんなかな
「アヤナ、学校行く時間じゃないのか?」
私がいつも決まった時間に出かけるのを知っている兄が声をかけてきた
そうだった、そろそろ出かけなきゃ・・・
今日は的山さんの図書館の当番の日だ
あの図書館の出来事のあった次の日以降も、的山さんは別に普段と変わらないように見えた
私も、だから敢えてそれには触れなかった
普段通りに他愛のない話に興じ、一緒にお弁当を食べたり、放課後に寄り道したりもした
小久保君や天野さんとも一緒に
別に私は芝居をしてたわけじゃない
こうやって平凡で、愉快に過ごす日常が私の殆どを占めている
それも本当の私だし、でも小久保君との行為に我を忘れるのもやっぱり私だ
放課後、予定の通りに私は図書館に足を運んだ
「あ、アヤナちゃん」
嬉しそうに的山さんが振り向いた
「今日もやっぱり人来ないよ〜、さびしいよ〜」
「そうみたいね」
私も苦笑いしながら、長机を挟んで、彼女の向かい側に腰を下ろす
机の上には本が積んであり、その傍らには短冊に切られた紙と糊が置いてある
他にも、小皿やら筆やら何やら色々なものがあった
「何、これ?」
私は短冊の一つを指でつまむとひらひらさせながら尋ねる
「へへ〜、今日は本の修理の日 破れてたり、はがれてたりしてる本を直すのです」
「この短冊も?」
よく見ると短冊は向こう側が透けそうな薄い紙だった
「そう、それ和紙なんだよ セロハンテープよりも、そういうのを糊で貼った方が長もちするんだって」
彼女は楽しそうに糊を小皿の上に出すと、お湯で溶いている
短冊に薄めた糊を塗ると、破れたページを貼り合わせていく
「先生にお願いして買ってもらいました〜」
「そうなんだ、私も手伝いましょうか?」
「いいの?」
「いいのよ、別に帰っても予定も無いから」
自分でも紙を手に取り、破れ方に合わせて切って張り合わせる
糊を吸った和紙は殆ど透明になって、下の字ははっきりと見える
「ありがと〜、やっぱり一人だと寂しいしね〜」
「それに、先週の約束もあるしね」
「・・・・え? 何だっけ、それ?」
間を置いて彼女が尋ね返してきた
正直ダメね、とぼけているのがバレバレ
小久保君の前ではなかなかの役者だったけど、今は残念ながらかなり大根だ
「自分から聞いてきた事を忘れちゃったのかしら? 」
「・・・・え〜、ほんと何だっけ あはは・・」
いつもの天然ぶりはどこへ行ったのだろう、下手な芝居はむしろこっちが気恥ずかしい
あまりいじめたら可哀想かな
「いいわ、教えてあげる 聞けば思い出すわよ、きっと」
本の余白の落書きに消しゴムをかけながら、私は8月の終わりの雨の夜の事を語り始めた
抑えきれない欲求に衝き動かされた露出の行為の事
そしてその日、その行為を彼に見つかってしまった事
「でもね、小久保君に見つかったとき、私は逃げようとか思わなかった」
自分自身に確かめるように、私は的山さんに語りかけた
そう、誰かに私は見て欲しかったんだ、自分を
自分の、人に見られたくないような面も、姿も、何もかも受け入れてくれる人に
「でも、これじゃあ、あなたの質問への答えには不十分よね どうやって始まったか、まだ全部話してないもの」
自分自身の言葉にぞくぞくしながら、私の意識はあの時の記憶の中に遡行していった
公園のトイレの中、唯一自分の体を覆うレインコートを脱ぎ捨てた私は彼の前にひざまづいていた
する・・・・・
彼のズボンを下着ごと、引き下ろしてしまう
「あ・・・」
彼は慌てて前をおさえる
脱がすまでは抵抗しなかったくせに
私は、また立ち上がって彼の眼前で手を後ろに組んでみる
彼の視界から私の体を隠すものは何もない
「隠さないで」
私の強い口調に少し気圧されたようにも見える
少し彼は後ずさりした
「あなたも見たんだから、私も見る権利はあるわよね?」
「だって、それはお前が・・・」
「それとも、これじゃまだ足りないのかしら?」
片脚を上げて、便座の上に置いてみる
彼の前で、恥ずかしい所までさらけ出すように
「若田部・・・」
「これでも? もっとよく見えるようにしないと駄目?」
「分かった、分かったからもうやめてくれ」
彼は観念したように、自分の前を隠していた手をどける
少なくとも私の行動は,、彼が手の下で隠していたものを奮い立たせるだけの効果はあったみたいだ
「小久保君もやっぱり男の子なんだ 」
脚を便座から下ろすと、私ははばかることなく彼の体を観察した
張り詰めて上を向いた彼のそれは、私の視線に反応してときどきぴくりと動く
初めて目にする男性の生理現象を、憚ることなく私は観察していた
「なあ、もういいだろ?」
彼はたまらずに私の方から目線をそらしながら言う
羞恥の表情に私はぞくぞくする物が自分の中に湧いてくるのを感じていた
「まだだめよ、少なくとも私がこうしているうちは」
「もう勘弁してくれよ」
もっと彼の困った顔が見てみたい
まだまだここでやめるわけにはいかない
「ねえ、どうしてほしい? 小久保君」
「別に、してほしいことなんてないよ」
強がってはいるけどそんな格好で説得力ないわよね
「そう、欲がないのね」
口元がゆるむのが自分でも分かる
私の頭の中に次の考えが浮かぶのと、それを口にするのはほぼ同時だった
「じゃあ、自分でしてみせて」
「え?」
何でこれ以上そんなことしなきゃいけないんだ? って顔をしてる
まあ、当然よね
でも私は納まらない、まだ物足りない
「私がこんな事してるのもあなたのせいよ だから、してみせて」
「だから何だよ、それ・・・・さっきからどんな理屈だよ」
「どうもこうもないの あなたのせいなんだからって、言ってるでしょう」
私の中の自己完結した理屈に彼は当惑したままだ
でも、それまで逸らしていた目線を私の方に向けて口を開いた
「わかった、やるよ 何かよくわからないけど、それでお前の気が済むんなら・・・・でもその代わり」
「その代わり・・・何かしら」
「もう、さっきみたいな事するのやめてくれ いつ危ない目に会うか分からないだろ」
「うん、分かったから・・・・してみせて、早く」
彼は私の方に正面から向き直る
右の手で、上を向いたそれを握り締めて見せた
その強張りに合わせて、彼は自分の手を前後に動かす
更に私の視線に反応しているのか、その最中にも大きさを増しているようにも思えた
「少し,脚開いてみせてくれ」
開き直ったように彼が口にした
どうせ恥ずかしいなら、と思い切って口にしてみたのかもしれない
私には拒む理由は無かった
「こう・・?」
揃えて立っていた脚を少し開いてみる
彼の視線が私の体の下の方に注がれるのを感じてしまう
「うん、そう・・・」
彼はそれきり黙って、ただ手を動かしている
でも、彼の息を吐く音の間隔が短くなるのははっきりわかる
私はただ、彼によく見えるように心持ち体を反るようにして
ただ、視線を浴びる事に高揚を感じていた
胸のふくらみの先に張り詰めるような感覚を覚える
今触れられたら、私はどんな反応をしてしまうだろう
体中の感覚が研ぎ澄まされていくような気がしていた
「ん・・・あ」
少し彼の口元がゆるんだように見えた次の瞬間
彼の先端から堰を切ったように熱い飛沫がほとばしる
熱いそれは、私の下半身にふりかかり、体にまとわりつくようにゆっくりと下に垂れ落ちていく
「ああ・・・・」
体に伝わるその熱さだけで、私は脚ががくがくと震えた
その青臭い匂いに、嫌悪感と紙一重の興奮が沸いてくるのも感じていた
「すごいね・・・」
彼の方に近づき、体にそのネバつくものをこびりつかせたままで
彼のものが目線の高さに来るようにしゃがみこむ
まじまじと、目の前のそれを穴の開きそうなくらいに見つめた
「よ、よせよ」
彼の言葉に構わず、たった今精をほとばしらせたばかりのものを手にとってみる
包むように手に取ると、すごい熱く感じるそれに沿って動かしてみた
「うあ・・・」
彼がうめくのと同時に、さっきあれ程熱いものを吐き出したそれは
私の手の中で激しく脈打って、また床に白濁を振り撒いた
「はあ・・・はあ・・・・」
彼は肩を上下させながら、激しく息をつく
手を離すと、私はまた立ち上がって、彼の前に正対する
苦しそうな息を整えながら彼は私に語りかけてきた
「約束だからな? もうあんな事しないでくれよ」
真剣な表情
そうね、もうあの危ない遊び、する必要はないものね
だってこれからは・・・
私は、黙って頷いた
彼はあたふたとズボンをたくし上げてベルトを締める
外からは、まだ強く雨が降り注ぐ音が聞こえている
「お前も、早くコート着てくれよ」
彼がまた私の方から目をそらす
さっきまで夢中になって見てたくせに
「その前に・・・ねえ、携帯持ってる?」
「あるけど? 」
「撮って」
「何をだ?」
要領を得なかった彼が聞き返してきた
「決まってるでしょ、私」
私は彼の目の前に歩みを進めた
「頼むからもう勘弁してくれ これ以上されたら、俺本当に我慢できなくなる」
「だったら早く撮ってよ でも、我慢できなくなったらどんな事をするのかしら? 小久保君は」
かしゃ・・・
彼は答える代わりに慌てて携帯をかざすようにこちらへ向けて、私の姿を収める
「ちゃんと全身入るように撮ってね それと消しちゃダメよ、絶対」
まだ、彼の迸りがべとべとと体にまとわりついている
もし我慢できなくなったら、彼はこれを私の中に注ぎ込むんだ、きっと
私はレインコートを羽織り、外へ一歩踏み出した
「まだ、雨やんでないぞ」
「だからよ 雨が降ってるからコートを着ててもおかしくないのよ」
「うん・・そうだな」
「またね・・・後でそれ私の携帯に送っておいて」
彼の返事を待たずに私は公園を後にして家へ向かった
途中で何人かの人にはすれ違ったとは思うけど
さっきまでの事を思い出しながら上の空だったと思う
いや、それだけじゃなくて、これから先への期待の方が多かったかもしれない
雨に打たれながらレインコート一枚の私は家の門をくぐった
予定通り、まだ誰も帰っていない
レインコートの下は雨と汗で湿度の塊だった
脱ぎ捨てて、小久保君の前と同じ生まれたままの姿になる
解放されて外気に触れた体には、まだ彼の青臭い匂いが残っていた
すれ違う人には気づかれなかっただろうか
別に気づかれても構わないことではあるけれど
そのままバスルームで熱いシャワーを浴びた
体に付着した粘り気は、あっという間に溶けて流れ落ちた
そして丹念に、水滴が伝う自分の体をまさぐるように洗っていく
ここも・・ここも・・・彼が見ていた
目をそらしたりもしてはいたけど、でもしっかり目に焼きついたはずだ
くちゅ・・・
敏感な部分を指でなぞってみる
あの時、彼にもっと見てほしかった
私の体の恥ずかしいところも、熱く煮詰まったようなカラダの中まで
鏡に映った自分の体を見ながら、さっきまでの出来事を思い返す
彼の姿を滑稽だとも思ったけど、自分はどうだったのだろう
裸のままで、理不尽な言葉を吐いて悦に入っていた私も
はたから見れば、相当間が抜けていたように思える
「何やってるんだろ、私・・・・」
思わずひきつった笑い声が漏れる
シャワーを浴びながらしばらく、私は自分の行為のおかしさを笑っていた・・・
一つ一つ、丹念に記憶を辿りながら、言葉を選んで私はあの日の事を的山さんに語った
今、改めて気づいた 自分を曝け出すのは心地いい
何も体だけじゃない,心の内を曝け出すのも負けないくらいぞくぞくする
記憶の反芻は、私の気分を高揚もさせていた
今、私はどんな表情をしているのだろう? 眼前の的山さん以外には分からない
近くに鏡がないのが残念に思う
「どうかしら? これで一応あなたの疑問には答えたことになる?」
的山さんはすぐには答えずに、黙々と破れたページを貼り合わせている
「いつから『あんなこと』をしてるのか、分かったわよね?」
「ねえ、本当なの? アヤナちゃんの言う事、まだ信じられないよ」
目線は本の上に置いたまま彼女が答えた
「うん、ごめんね、本当はみんな嘘なの」
「あ、そうなんだやっぱり 先週のアレも私の聞き違えかなんかだよね」
結構往生際が悪いんだ、的山さん
どう聞き違えをするのか、問い詰めてあげたいけど
「そんなわけないでしょう 全部本当よ 」
「ううん、嘘だよね?」
ぶるるる・・・・・・ぶるるる・・・・
唐突に的山さんの携帯が震動する
「的山さん、出ていいわよ」
「え?でも今は」
「いいから出て」
慌てて携帯を手に取った彼女はメールの差出人を見て怪訝そうな顔をする
「アヤナちゃん?」
彼女の操作の手が止まる
私が気取られないように、たった今送信したのだ
「どうしたの? 開いてみて」
「やだ・・・」
「そうすれば嘘だって分かるわよ」
「うん・・・」
かち・・・・彼女の親指が小さく動いた
待ち受けの画面に出たのは、あの日彼に撮ってもらった画像
「嘘だって言ったのに」
「嘘だって言ったのが嘘なのよ」
ちょっとしてやったりの表情で私は笑う
「小さくて分かりづらいかもしれないけど、お腹より下、彼のがいっぱいこびりついてるの・・・」
携帯を持った的山さんの親指が、空を切るように動いている
「分かるかしら?」
間をおいて、もう一度確認する
「彼に見られるの、すごいぞくぞくしたの 本当よ」
「うん・・・・」
「体中・・・胸も、恥ずかしいところも全部」
「もうやめようよ」
「彼がいった時、ぶるぶるって私も体が震えたのよ」
かちっ・・・・
的山さんが携帯の電源を切る音が聞こえた
「それからは、もう露出狂みたいな真似はやめたわ 小久保君と約束したから」
「でも・・・」
「その代わり、小久保君を気持ちよくしてあげたの」
そう、それからは私は彼との行為の虜になった
彼を呼び出して、二人だけの秘密の時間を過すようになるのに時間はかからなかったから
「もう一度、その公園で夜に会ったりとか そんな頻繁にはできないけどね」
「学校でも? まさかこの前の女子トイレのあれもなのかな・・・」
「どうかしら 想像に任せるわね 多分外れていないとは思うけど」
「アヤナちゃん・・・」
的山さんは、一度だけこっちを向いて目線を合わせてきた
でも、またすぐに本の上に視線を落として話し続けた
「なんで? こんな事聞いたら、もうアヤナちゃんや小久保君と友達でいられないよ」
「どうして? 私の事嫌いになった?」
「そうじゃなくて、だって・・・」
「私は、的山さん好きよ 小久保君も、天野さんも・・・」
「だったら・・」
「濱中先生も、そしてお姉さまも、みんな大事な人達、私の」
「だったら、どうしてあんなことするの? こんな事言うの? わかんないよ」
ぱたん・・・・
糊の乾いた本を閉じると脇に積んで、私も次の本にとりかかる
「でもね、やめられないの 時々どうしても我慢できなくなるの」
「どうして?」
「だって、あんな気持ちいい事、他じゃ味わえないもの 小久保君じゃないと」
「やっぱりわかんない」
「小久保君を見てると楽しいの ううん、楽しいっていうよりたまらない、って言うか」
「わかんないってば」
がらっ・・・・
その時、唐突に図書室の扉が開いて入って来たのは意外な人だった
「あれ、どうした? 電気も付けないで作業してたのか?」
入って来たのは豊田先生だった
確かに気がつけば、夕日が的山さんの顔をオレンジ色に照らしている
もう日が大分短くなってきていたんだ
「先生、図書委員の担当でしたっけ?」
先生の方を向くと、私の目にも直接夕日のオレンジが飛び込んでくる
「いや、西口先生が用事で外出したから代わりに閉館の施錠の時に行ってくれって頼まれてな」
じゃらっと音をさせて鍵の束を先生はこちらに見せた
机の上に積み重なった本を見て先生はちょっと驚いたようだ
「今日一日でこれだけ直したのか 随分頑張ったな よし、後片付けは俺も手伝うよ」
電気のスイッチを入れると、先生は修理の終わった本をまとめて抱えあげる
3人でかかると後片付はあっという間に終わった
「でも何だな、今日は小久保が一緒じゃないのか? こんな時は必ず手伝いに来そうなもんだが」
「じゃあ、今度は小久保君も呼ぼうね お手伝い2号決まり〜」
何かもう普段の的山さんに戻っている
この辺が彼女の分からないところであり、ちょっと羨ましくもあるところだ
「さあ、すぐ暗くなるから早く帰れよ」
「は〜い、リョーコ先生にもよろしく言っておきま〜す」
「いや、それは言わなくていい・・・・」
先生のちょっと苦々しげな表情に思わず口元がゆるんでしまった
何でお姉さまの話になると、あんなにびくびくするんだろう
豊田先生に挨拶をすると、私たちは校門の前まで並んで歩いた
「じゃあ、また明日ね、アヤナちゃん」
「ええ、また明日」
分かれようとしたときに彼女がこっちを振り返った
「ねえ、どうすればわかるようになるのかな アヤナちゃんの気持ち」
「無理して分かろうなんてしなくていいわよ 的山さんは的山さん、私は私なんだから」
ちょっと冷たい言い方だったかな
でも自分でさえも、自分の事がよく分からなくなる時だってある
まして他人に分かってというのは虫がいいだろうとさえ思う
「うん、でもアヤナちゃんのいる方に渡れば、私にも分かるようになるのかな」
「え?」
私が次の言葉を言う前に彼女は走り出していた
「だから分からないって言ってるじゃない・・・」
彼女が走り去る方向に背を向けて、私は帰宅の途についた
陰鬱な、それでいて何か冷静ではいられなくなるような予感を覚えながら