作品名 作者名 カップリング
「Dirty Little Secret」 クロム氏 -

その日、オレは電話の鳴る音で目を覚ました。半分寝ぼけながら携帯のボタンを押す。
「…ハイ」
「もしもし小久保君?ずいぶんと眠たそうね。まだ寝てたの?」
「……誰?」
聞いたことのある声だが、誰だったか。
「もう、忘れちゃったの?私よ、ワ・タ・シ!」
脳に血が通い、ようやく一人の人物が思い浮かぶ。
「……若田部?」
「フフ、当たり」
電話をかけてきたのは、一年前に渡米したはずの若田部だった。
突然のことに混乱する。
「え、何、お前日本に帰ってきてたのか?」
「ええ、三時間ほど前に。今は家にいるわ」
若田部の家は、今は確かお兄さんが一人で住んでいるはずだ。
「何だよお前…連絡くれてりゃ出迎えに行けたのに」
「いいのよ別に。それよりアナタ、天野さんとはうまくやってるの?」
若田部がからかうような口調で言う。
オレは今、ミサキと付き合っていた。
正確には中学の卒業式の直前からだから、こっちも一年ほどになる。
「ああ、まあ、それなりにな」
告白はミサキの方からだった。
そういえばあの後、若田部も含めたいつものメンバーにからかわれて大変だった。
…嫌なこと思い出しちまったな。
「へえ、それは何よりね。
アナタ鈍いから、天野さんに愛想尽かされてないか心配だったのよ」
「帰ってきていきなりそれかよ…お前、オレのこと何だと思ってんの?」
「あら、聞きたいの?かなり長くなるけど、よろしいかしら?」
「…いや、遠慮しとく」
「そう、残念ね。いい機会だからアナタがどんな人間か教えてあげようと思ったのに」
「…ほっとけ」
何だ、若田部の奴昔とあんま変わってねーな。
「それはいいとして、どーしたんだよ急に」
「なに、私が帰ってきちゃ迷惑だっての?」
「誰もそんなこと言ってねーだろ。
オレが聞きたいのは、何で連絡も無しに突然帰ってきたのかってことだよ」
「ああ、そのこと。そうねぇ、アナタ、今時間あるかしら?」
「今?まあ、無くはないけど」
「そう、じゃあ今からうちに来てもらえるかしら。その時話すわ」
「今から?また急な話だな。オレにだって予定ってもんが…」
「いいからさっさと来なさいよ」
「…ハイ」
この辺の上下関係は今だに健在みたいだ。
「うん、素直でよろしい。じゃあ、待ってるわね」
そう言って若田部は一方的に電話を切った。
「…やれやれ」
相変わらずのやり取りに思わず苦笑する。
だけど、久しぶりに友人に会えるのは、やっぱり嬉しかった。
「さてと…行きますか」
あまり遅くなると、また何を言われるか分かったもんじゃない。手早く身支度を整



え、オレは家を出た。


「そういや若田部の家に行くのも久しぶりだよな」
若田部家の前に立ったところで思い至る。
最後に若田部家を訪れたのは、彼女の送別会の時だ。
あの時、中村先生がジュースと酒をすり替えて、大変なことになった。
…また嫌なことを思い出しちまった。
あの日の悪夢を振り払うと、呼び鈴を押す。
「ハーイ」
中から返事と共に若田部が顔をだす。
「いらっしゃい、小久保君。お久しぶりね」
「ああ、久しぶり」
「あら?小久保君、背伸びたんじゃない?顔つきも、ずいぶんと男らしくなっちゃって」
「ハハ、どうも。若田部は変わってねーな」
「…ちょっと、それどういう意味よ」
「い、いや、オレが言ったのは性格のことで…」
初っ端から地雷を踏んでしまった。
しどろもどろになりながら弁解する。
「ふん、まあいいわ。ほら、いつまでもそんな所に立ってないで、入りなさいよ」
「は、はい。お邪魔します」
どうやら助かったみたいだ。
家の中に入り、リビングに通される。
「紅茶でよかったかしら?」
「ああ、悪いな」
出されたカップを受け取り、ソファーに腰掛ける。
「なあ、他の奴等には連絡したのか?」
向かい側に座った若田部に尋ねる。
「いいえ、私が帰ってきたことは、アナタしか知らないわ」
「何でまた…みんなお前が帰って来たって知ったら喜ぶのに」
「うーん、まあ色々あるのよ私にも。それより、こっちの話を聞かせてよ」
その後しばらくは、近況報告に費やされた。

「へー、的山さんってそんなにもてるの?」
「そうみたいだな。こないだも、二人に同時に告白されて困ってたみたいだし」
「ずいぶんと他人事みたいに言うのね。
やっぱり彼女がいると他の女の子は目に入らなくなるの?」
「からかうなよ…」
「あら、からかってなんかないわよ。本当のことでしょう。
…でも、実際どうなの?天野さんとはうまくやれてる?」
「またその話か…」
実を言うと、今はオレの方が心底ミサキに惚れ込んでいた。
若田部の言う通り、他の女の子のことはあまり目に入ってこない。
だが、そんなこと人前で言えるわけがない。
「まあ、それなりに仲良くやってるよ」適当な言葉でごまかす。
「ふーん。まあそれならいいんだけどね。
さっきも言ったけど、アナタ鈍い所があるから。彼女を怒らせたりしてない?」
「うっ…」
思い当たる節は結構多い。



「あらら、その様子だと図星みたいね。駄目よ、そんなことことじゃ」
…耳が痛い。
「ま、まあいいじゃないか。それより、そっちの話を聞かせてくれよ」
「そうねぇ、特にコレといった話は無いんだけど。今はもう言葉にも困らないし、友達もできたわよ。
まあ、今だにこれだって思える男性には巡り合ってないけど」
「ハハ、大変だな」
「天野さんほどじゃないわ」
「……以後気をつけます」
どうやらオレはこいつには勝てない定めらしい。
「でもよかったわ。天野さんが幸せそうで。
あの頃のアナタ達、見てるこっちがイライラしちゃうんだもの」
「そうだったのか?」
「ええ。お姉様なんか、『あの二人に媚薬飲ませて、どこかの物置にでも放り込んでやる!』って。
止めるの大変だったのよ」
「…そんなことがあったのか」
「ま、貸しにしといてあげるわよ」
若田部はそう言っておかしそうに笑う。だが、その次にとんでもないことを口にした。
「それで?天野さんとはどこまで進んでるの?もう抱いた?」
飲みかけた紅茶を吹き出しそうになる。
「な、何言い出すんだよ!」
「落ち着きなさいよ。付き合って一年も経つのに、まだ手も握ってないなんてことはないでしょう?」
「そりゃそうだけど…んなこと人前で言えるかよ」
以前の若田部からは想像もつかない発言だ。
向こうではこの手の話に対してオープンなんだろうか?
「まあいいわ。今度天野さんに聞いてみるから」
「…勘弁してくれよ」からかわれていると知りながら、情けない声をだす。
「だいたい、さっきからどうでもいい話ばっかりで、ちっとも本題に入らないじゃないか」
「本題って?」
「何で連絡も無しに突然帰ってきたのかってことだよ」
「ああ、そのこと。別に大したことじゃないんだけど、日本でやりたいことがあったの」
「なんだよ、やりたいことって」
「アナタを殴るのよ。私のプライドを傷つけた罪でね」
「!?」
殴るという単語がでた途端、条件反射的に立ち上がり、後ろへ飛び退く。
「冗談よ。そんなに慌てなくてもいいでしょう?」
「お前ねぇ…人のことからかって楽しいのか?」
「ええ」
即答された。溜め息を吐いて座り直す。
「んで?やりたいことってのは、本当は何なんだよ。まさかオレをからかうために戻ってきたわけじゃないだろう?」
「当たり前でしょ。そんなことで帰ってくるほど暇じゃないわ」
「…じゃあ何なんだよ」
「大したことじゃないわ。アナタにお願いがあったの」
「オレに?何だよ?」
「教えてもいいけど、絶対に引き受けるって約束してもらえるかしら」
「そりゃオレにできることなら努力はするけど、それも内容によるぞ」
「それじゃ駄目よ。約束して」
「……分かった、約束するよ」
どうせオレに拒否権は無いんだ。それなら怒らせる前に引き受けた方がいい。
「で、何なんだよ?」
「責任を取って欲しいの」
「は?責任?」



何の話だ?オレは何か若田部を怒らせるようなことをしただろうか。
「責任って…イマイチ話が見えてこないんだけど。オレ何かしたのか?」
「言ったでしょう?アナタは私のプライドをズタズタにしたのよ。だからその責任を取りなさい」
ますます分からない。確かに若田部を怒らせた例は数限りなく存在するが、大抵はその場で鉄拳制裁を受けている。
まして、若田部はアメリカにいたのだ。いくらオレでも、海を越えてまで人を怒らせることはできない。
「その様子だと、分かってないみたいね」
「ああ…自分でも何したか思い出せないんだけど」
「まあ仕方ないわね。私も、アナタに自覚があるとは思ってないわ」
若田部にしてはやけに回りくどいものの言い方だ。
「何なんだよ、はっきりしてくれ」
「…いいわ。説明してあげる。そのかわり、最後まで黙って聞いて」
そうして若田部の口から語られた話は、オレを驚愕させた。

***
「ねえねえ聞いた?天野さん、ついに小久保君に告白したんだって」
「ホント?それで、小久保君はOKしたの?」
「当たり前でしょ。だいたいあの二人、今までくっつかなかった方がおかしいのよ」
クラスの女子の間で囁かれていた噂話を聞いた時、私はついに来るべきものが来たと思った。
天野さんの初恋の成就は、同時に私の初恋の終わりを意味する。

いつ彼を好きになったのか、なぜ彼に惹かれたのか、自分でもよく分からない。
ただ、気が付くと私は彼を目で追うようになっていた。
そしてそれと同時に、勝ち目の薄い闘いであることも、理解していた。
天野さんは、私なんかよりもずっと長い時間を彼と共にし、
その時間と同じだけ、彼のことを思い続けてきたのだ。
本来ならば私の付け入る隙など在るわけがない。
だけど。もしかしたら。
彼は、私を選んでくれるかもしれない。
無駄と知りながらも、そんな微かな望みにしがみついてきた。
結局、その望みは叶わなかったわけだけど。
その後私は、彼らに対して極力明るく接するよう努めた。
こんなことで彼らとの仲を拗らせるのは嫌だったし、
何よりも失恋の悲しみをズルズルと引きずることは、私のプライドが許さない。
だけど、二人を見ているのが辛かったのも事実だ。
卒業式の日、幸せそうな空気を纏い帰路につく二人を見て、私は、一度だけ、泣いた。

***



「――というわけよ」
淡々とした口調で若田部が言う。
「……今度は何の冗談だよ」
「冗談でこんなこと言えるはずないでしょう。全部本当の話よ」
あまりにショッキングな内容だった。
あの時のオレは、若田部の変化に気が付かなかった。
なにしろ、オレとミサキのことを一番に祝福してくれたのは、他でもない若田部だったのだ。
「だってお前、あの時…あんなに喜んで…」
「当たり前でしょ。泣き叫んで、アナタを罵ればよかったとでも言うの?」
「そうじゃないけど…」
「まあ、今思うと私のアメリカ行きもかえって正解だったのかも。
さすがにあのままアナタ達を見て過ごすのは耐えられなかったでしょうね」
言うべき言葉が見つからなかった。
いや、この状況で何を言おうと、言い訳にしかならないだろう。
「分かってもらえたかしら?アナタが、私になにをしたか」
「……ああ」
だけど、どうしろと言うのだろう。今更若田部と付き合えとでも言うのだろうか。
「そんな顔しないでよ。誰も、私と付き合えなんて言ったりしないから」
オレの気持ちを見透かしたように、若田部が言う。
「だいたい、一番悪いのは私なのよ。自分からは結局何も言い出せないで…。
フフ、アナタが私に告白してくれるとでも思ってたのかしらね」
皮肉まじりに笑う。だがその声はどこか寂しそうだった。
「さてと、話を元に戻しましょう。そういうわけで、あなたには責任を取って欲しいの」
「責任って…どうすりゃいいんだよ」
「アナタ言ったわよね、引き受けてくれるって」
「…ああ」
「なら、言うけど…受け取って欲しいものがあるの」
「受け取って欲しいもの…?」
「ええ…準備してくるから、私の部屋で待っててもらえるかしら」
「…分かった」
オレはリビングを出ると、若田部の部屋に向かった。



主を失って久しい部屋は、ガランとして物寂しかった。
椅子に腰掛け、若田部を待つ。その間に、色々な考えが頭を巡る。
若田部のこと、ミサキのこと、そして自分自身のこと。
グルグルと頭の中で渦を巻き、一つにまとまらない。
オレはどうするべきなのだろうか。
答えの出ないまま、時間だけが過ぎていった。
「…お待たせ」
その声に思考が中断する。考え込むあまり、部屋に入ってきた若田部に気が付かなかったようだ。
慌てて声のした方に向き直る。だが、オレはそのまま固まってしまった。
若田部が、全裸にバスタオル一枚を巻き付けた姿で立っている。
シャワーでも浴びたのだろうか、髪が濡れていた。
「若田部…お前、その格好…!」
「受け取ってくれる、約束よね?」
やや顔を赤らめて若田部が言う。
「約束って…お前、それは」
「何も言わないで。これが、一年間考えて出した私の答えなの」
静かにそう言い放ち、ゆっくりとこちらに近付いて来る。
「ま、待ってくれ、オレにはミサキが…」
「分かってる。全部分かってて言ってるの」
オレと若田部の距離がさらに縮まる。
「お願い……一度でいいから、私を抱いて…それで、全部終わりにするから」
「若田部…お前、自分が何言ってるか分かってんのか?」
「ええ。言ったでしょう?これが私の答えなのよ。
アナタのことを引きずってる限り、私は前に進めないの」
「だからって…こんなことしたからって、何になるんだよ」
「さあ、私にも分からないわ。でも少なくとも、私の中で一つの決着は着くと思うの」
ストン…
若田部の体を覆っていたバスタオルが床に落ち、白く透き通るような肌が露わになった。
「お願い…」
今まで見たことのない、何かを訴えるような目がオレを捕えていた。
本来なら若田部を説得するか、オレが部屋を出ていくのが正しい選択だろう。
だけど、できなかった。
それらの行為が、全て彼女に対する侮辱になる気がしたから。
腕を伸ばし、若田部の肩を抱き寄せる。
「小久保君…」
「あのさ…何て言ったら良いのか分かんないんだけど…本当にいいんだな?」
「ええ…私は、自分が決めたことに後悔なんてしないわ」
「…分かった」
そうすることが正しいのかは分からない。
だけど、彼女の願いを無下に断るには、抱き寄せた肩はあまりに小さかった。
その肩を、ギュッと抱き締める。
「フフ、これでアナタも共犯よ」
「ああ、そうだな」
「ねえ、小久保君…お願いがあるの」
「何?」
「今だけでいいから…アヤナって呼んで…」
「分かった、アヤナ…」
オレはそう答え、アヤナをベッドへと導いた。




「んっ…」
オレ達はベッドの上で唇を重ねた。
「小久保君…あの、私…初めてだから…」
唇を離したアヤナが、恥ずかしそうに言う。その姿が、可愛らしい。
「ああ。オレがリードするから…」
そう答え、再び唇を重ねる。
先程よりも濃厚に、今度は舌先をアヤナの口腔に忍び込ませていく。
「んんっ!?」
異物の侵入に驚いたような声をあげたが、すぐにアヤナも答えてきた。
恐る恐るといった感じで、そっと舌を伸ばしてくる。
その舌を、オレは思いっ切り吸った。
「うぅんッ、ふぅうンッ…」
濡れた口腔の粘膜を舐めまわすと、アヤナは切なげな声を洩らして、しなやかな身体をよじらせる。
それこそ呼吸をするのも忘れて、俺たちは互いの唇を貪った。
アヤナの口腔を存分に楽しみ、名残惜しいが唇を離す。糸を引く唾液が、官能的だった
。「もう…いきなりそんな激しくするなんて…」
息を荒げてアヤナが悪態を吐く。
だが、上気した頬や潤んだ瞳から、それが強がりであることが分かる。
「嫌だった?」
「……嫌、じゃ…ない」
消え入りそうな声で答える。赤かった顔が、さらに真っ赤になった。
オレはアヤナの肩に手を伸ばし、ベッドに横たわるように促した。

横たわったアヤナの肌に、そっと触れる。
その途端、アヤナの身体がまるで感電でもしたかのように跳ね上がった。
「あっ…な…何?」
「アヤナ…いいから、じっとして…」
「う、うん…」
未知の感覚に驚いた様子のアヤナだったが、オレの言葉に素直に従う。
腹部から乳房に指を這わせ、その柔らかな膨らみに触れる。
豊満な胸の感触を楽しみながら、少し固くなった乳首を指で刺激した。
「んんっ…あっ…!!」
それまで必死に声を押し殺していたアヤナが、堪らず嗚咽を洩らした。
指が動くたび、びくん、と、大きく身体を震わせる。
「小久保君……へ…変なのっ…」
「何が?」
「その…すごくくすぐったくて…でも…でも、なんだか気持ち良くて…」
「変じゃないよ、アヤナ。それが普通の女の子の反応だ」
「そ…そうなの?」
「だから、オレに任せて…」
「うん…」
アヤナが身体の力を抜き、オレの愛撫に身を任せる。
オレは再び胸への愛撫を再開した。
「くっ…あんっ……あ…」
指の動きに反応して、アヤナが鼻先に抜けるような声を出す。
オレは胸への愛撫を続けながら、もう一方の手をアヤナの下腹部に伸ばした



その部分は既に十分湿っていて、クチュ、ヌチュ、といやらしい音を立てている。
「ひあっ…ああっ……あっ…」
「アヤナ…凄く濡れてるよ。気持ちいい?」
「あっ…ああっ……イイっ…気持ちいいのっ…あっ…」
「そうか。じゃあ、もっと気持ちよくしてあげるね」
そう言うとオレはアヤナの股関に顔を近付け、その割れ目に舌を這わせた。
「ひあっ?ダ、ダメッ…!」
予想外の快感と性器を舐められることの羞恥心が、アヤナに悲鳴を上げさせる。
だがオレはその声を無視し、さらに激しく舌を動かした。
「んあっ…!あっ…ああっ…!!」
アヤナの声が次第に高くなっていく。
「こくぼ…くん…!ああっ……何か…何かくるのぉっ…!」
おそらく経験したことのないであろう絶頂の感覚に襲われ、不安そうな声を上げる。
「んぅぅっ……きゃぁ、くぅ……んはぁっ!」
そろそろだろうか。オレはアヤナの割れ目に舌を潜り込ませ、その内側を強く刺激した。
「っ!!! んああぁぁぁぁぁ!!!」
一際甲高い悲鳴と共に、アヤナの身体が二度三度と痙攣した。
「こく…ぼ…くん……」
焦点の合わない目をしたアヤナが、オレの名前を呼ぶ。
オレは、その額にそっと口付けをした。


「落ち着いた?」
ようやく呼吸の整い始めたアヤナに声をかける。
「ええ…まだ頭がボーッとする…」
「ハハ、アヤナがしおらしいとなんか新鮮だな」
「なっ…!」
良い機会とばかりに、からかってみる。
「それにさっきの声もスッゲー色っぽかったし。そんなによかったのか?」
「馬鹿ッ!!」
枕を投げ付け、そっぽを向いてしまう。
だけど、耳の先まで真っ赤にしたその姿には、いつもの迫力はなかった。
というより、むしろ可愛かった。
背後から近寄り、その身体をそっと抱き締める。
「何よ、私をからかってそんなにたのし…」
言葉の終わらない内に、振り向いたアヤナの唇を奪う。
強引に舌を絡ませ、先程以上に激しく口腔を蹂躙する。
「ん…ンふっ…!」
アヤナが何か言おうとするが、無視する。
唇を重ねたまま、アヤナを押し倒した。
「アヤナ…もう、いいかな…」
オレの問いに対し、声を出さずに小さくうなずく。
それを確認して、自分の先端を入口にあてがう。



「痛かったら、途中でやめるから…力を抜いて…」
ゆっくりと、だが確実にアヤナの中に侵入していく。
「痛ッ…!」
アヤナの顔が苦痛に歪む。
「ごめん…大丈夫?」
「うん…痛い…けど…大丈夫だから…」
「分かった。すぐすむから…少し我慢して」
できる限り彼女に負担をかけないよう、慎重に腰を沈めていく。
それでも、全て入り切った時にはアヤナの目に涙がうかんでいた。
しばらくの間、動かずにアヤナが落ち着くのを待つ。
「小久保…君……いいよ、来て…」
アヤナが言う。
その言葉に答えるように、オレはそっと腰を動かした。
「うっ…はぁ…あっ…あっ…」
動くたびに、アヤナが悲鳴に近い声を上げる。
だが、しばらくするとその声の中に少しずつ甘い吐息が混じり始めた。
「あぁぁ…あ、くっ…んん、あはぁ……!」
破瓜の痛みの陰に潜む、僅かな快楽を見出したのだろうか。
「アヤナ…?」
「小久保…くん…!私、なんだか、はぁぁん…痛いのに、気持ちいいの…気持ちいいよぉ!」
そんな彼女の姿に、オレも限界を迎えつつあった。
「アヤナ…オレ、もう…」
「うん、いいよ…きて…!」
アヤナがオレにしがみつく。
その時の腰のうねりが刺激となり、放出が更に間近になる。
「駄目だ…くっ、アヤナ…!」
「あぁぁぁぁ…小久保君…こくぼくん!!
あっあっ、熱い…熱いのが……ああああぁぁぁぁぁっ!!」
ほぼ同時に達する。オレの精が、ドクドクとアヤナの中に注ぎ込まれていった…。


その後しばらく、オレ達は抱き合ったままだった。
若田部は眠っているのだろうか。オレの位置からは顔はうかがえなかった。
しかし、本当にこれでよかったのだろうか。そんなことを考える。
成り行きとはいえ、彼女の純潔を奪ってしまったのだ。
「何難しい顔してるのよ」
気付くと若田部がこちらを向いていた。
「若た…ア、アヤナ…」
「フフ、もう若田部って呼んでいいわよ」
「ああ…若田部。これで、本当によかったのかな」



「いいのよ。言ったでしょう?これで終わりだって。
それとも、天野さんから私に乗り換える?」
イタズラっぽい口調でからかわれる。どうやら、もとの若田部に戻ったようだ。
「大丈夫よ。もう気持ちの整理はついたから。明日には、アメリカに帰るわ」
「明日って…みんなには会ってかないのか?」
「あのねぇ…何のために私が連絡もなしに帰ってきたと思ってるの?
いい?私は帰ってきてない。アナタと会ってもいない。当然、今日のことも、なかったことにするの」
「でもせっかく帰ってきたのに…」
「天野さんにバレてもいいの?」
それを言われると何も言えなくなる。
「まったく…しっかりしてよ。何で私、こんな人好きになっちゃったんだろ」
「…オレが知るかよ」
「フフ、それもそうね」
おかしそうに笑う。
「やれやれ…憎まれ口もほどほどにしてくれよ。さっきはあんなに可愛かった……イテッ!」
殴られた。
「あれはアナタが…!だいたい、何でアナタあんなに慣れてるのよ。やっぱり天野さんと」
「分かった、謝るからそれ以上言うな!」
慌てて若田部の口を塞ぐ。
「まったく、アナタが私をからかうなんて十年早いのよ」
「ハイ・・・スミマセンデシタ」
オレは素直に謝った。が、すぐに顔を見合わせて吹き出す。
いつも通りのやりとりが、なぜか、清々しかった。

「ねえ、小久保君・・・」
ひとしきり笑い終えたところで若田部が言う。
その口調には、先程と同じ熱っぽいものが含まれていた。
「何?」
「さっきは終わりなんて言ったけど・・・もう少しだけ、こうしててもいい?」
「・・・ああ」
答えて、その身体をしっかりと抱き寄せた。


たぶんオレは、今日のことを生涯誰にも言わないだろう。
それは若田部だって同じことだ。
二人だけの、たった一度の、背徳の秘密。
若田部の体温を感じながら、そんな言葉が浮かんできた。


(fin)

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