作品名 |
作者名 |
カップリング |
忘れられなくなるように |
82氏 |
ミサキ×マサヒコ |
「美味し〜い♪」
アイの歓声が台所に響き渡る。
とある秋の休日。小久保家の台所では、三人の女性が料理の時間に興じていた。
アイの率直な褒め言葉に、製作者のマサヒコの母はまんざらでもない様子で応える。
「ウフフ……そんなに喜ばれると、却って恥ずかしいわね」
「……でも、お世辞抜きで美味しいですよ、コレ」
傍らのミサキも、小皿をつつきながらアイに同意した。
「作るトコ見てると、簡単そうに見えるんですけど……、
出来上がったものは立派な味ですよねぇ」
羨望の意味を込めて溜息をつくミサキに、
マサヒコの母はちょっと得意げな顔になる。
「まーねー。伊達にウチの旦那とあのコに三食作ってきたわけでもないし。
そのへんはもう、経験からくるもじゃないかしら」
「私のお母さんも、同じぐらいの年月と経験を重ねているはずなんですけど、
おばさんと比べるとだいぶ負けちゃうかなぁ。
どこで差がついちゃってるんだろ…………。
やっぱり家事が苦手ってのが響いてるんでしょうか……」
ミサキの母があまり料理が得意でない事は、
向かいに住み、付き合いもあるマサヒコの母も知るところ。
それ故に、ミサキの愚痴に対しても、ただ静かに苦笑を浮かべるのみにとどめる。
「さっきのもそうですけど、コレの作り方もちゃんとモノにしたいですねー。
お母さん。もう一回、簡単に教えてもらえますか?」
料理習得―――というより、『美味しいもの』を自分でバシバシ作りたい、
という情熱に瞳を輝かせ、アイがマサヒコの母にお願いする。
ミサキも料理が苦手という汚名を返上しようとの意気込みからか、
一緒になってウンウンと頷いている。
が、マサヒコの母はやや申し訳なさそうな声で答えた。
「うーん、私も教えたいのは山々なんだけど……」
そう言うと、壁にかけられた時計の方をチラリと見やる。
「もう少ししたら、出かけなきゃならないのよね。
カラ……町内会のお母さん達と集まる予定が入っちゃってて……。
悪いけど、また今度の機会という事にしておかない?」
「そうですか……でも、料理の方は今じゃなくてもダイジョブですもんね。
じゃあ、また都合のいい時にでもお願いします」
残念がる様子を完全には隠せないまま、
それでも納得したように、二人は了解の意を伝えた。
出かけるための準備をせんと、いそいそと椅子から立ち上がるマサヒコの母に対し、
アイが台所の一角を指差しながら、別の許しを請おうとする。
「あの……あそこの棚にある、料理の本とか少し読ませて貰っててもいいですか?」
「あぁ、えぇ。それぐらいなら別に構わないわよ。
……あんまり最近の本はないだろうけど、読んで参考になればいいわね」
さっきの料理の食器とかは、テキトーに流しに置いてて―――と言伝を残し、
アイとミサキを置いたまま、カラオケ好きの主婦は台所をあとにした。
本棚からめぼしい冊子を選びながら、アイはミサキにも呼びかける。
「どう? ミサキちゃんもちょっと読んでみる?」
「あ、ハイ」
料理仲間の言葉に気分良さげに頷くと、アイは別の冊子も取ってやる。
ほどなく、再び椅子に座った二人は、熱心に料理の本に目を通し始めた。
―――その頃のマサヒコ家二階。
四人の男女が、一つのブラウン管に向かって悲喜こもごものやりとりを交錯させていた。
「勝った、勝ったー♪」
「あぁん、もぉ! また負けちゃったじゃない!」
無邪気に歓声を挙げるリンコと、
憤懣やるかたない、という調子で文句を口にしているアヤナ。
彼女らの横では、勝ち誇って胸を張る中村、そしてどこか気遣うようなマサヒコと、
四者四様の表情を浮かべて結果を受け入れている。
……家庭教師でもない日に、誰が言い出したのでもなく、集まることとなったいつもの面々。
アイとミサキが料理講習会に参加している間、残りの4人が遊んでいたのは、
マサヒコ所有のゲーム機による、対戦機能がついたゴルフゲーム。
勉学、生活と万事そつなくこなすアヤナも、
ゲーム機の所有者、
毎週の情報チェックしているほどのゲーム愛好者、
アヤナ以上に『遊び』に関してはカンと経験が豊かな女子大生、
―――が相手では、一歩も二歩も、遅れを取るのは当たり前だった。
その結果―――本人も健闘はしたものの―――敗者としての地位に甘んじている。
「ま、これもいい経験でしょ。たまには学校の勉強以外のことも『勉強』しなきゃダメって事よ」
あっはっは、とワザとらしい勝ち鬨の声を上げた中村は、一つ伸びをすると話を転じる。
「さて、と。ゲームはこのへんにしておいて……ちょっと出かけてくるわね」
腰を上げようとした中村に、リンコがそれについて聞く。
「先生、どこか行くんですか?」
「ん、ヤボ用が入っててね。まぁ、長いことかかるものでもないんだけど……。
そうだ、ヒマならあんた達も来てみる?」
ぶっきらぼうに提案した中村に対し、アヤナはお姉様の誘いならばと、
リンコは特に断ることも無いと、それぞれがついていく意向を示した。
結局、ゆっくりしたかったマサヒコ一人が残ることになり、
女性三人がしばしの間出かける事になった。
去り際に、アヤナがビシイッとマサヒコに人差し指を突き立てる。
「今度こそ負けないからね! 覚悟してなさい!」
ハイハイ、と適当に返事をしたマサヒコの後で、中村が小声でツッコミを挟む。
「……何だか、安っぽい悪役の捨てゼリフに聞こえるわね」
「お、お姉様はチャチャを入れないで下さいよぉ」
途端にうろたえるアヤナと、やり取りを見てこらえ切れずに笑い出すリンコ。
彼女達を伴って親分格の女子大生は部屋をあとにした。
姦しい女性陣が揃って姿を消し、部屋の主は緩んだ気持ちになると、
与えられた自分の時間をどうやって過ごそうか、思いを巡らし始める―――。
「……で。何でお前がココにいるわけ?」
中村たちが出かけてから十数分ほどが経ったマサヒコの部屋。
本来なら、一人しかいないはずのこの場所で、彼の視線の先には、
ちょこんと座るもう一人の人物……ミサキの姿があった。
「えーと…………どうしてだろ?」
彼の疑問に対し、困ったような、戸惑うような表情を浮かべると、
ミサキは軽く首をかしげた。
彼女の話によると、マサヒコの母が出かけた後、
ミサキは先ほどまで、台所でアイと料理の本を読んでいた。
その最中、中村が台所に入ってきて、アイと二、三の言葉を交わしたかと思うと、
連れ添って出て行き、そのまま戻ってこなかったらしい。
アイがいつまでも戻らない事を不思議に思ったミサキが、
てっきり二階に行ったものだと足を運んでみると、
部屋にいたのはマサヒコだけ。
……二人の話を総合すると、結局、アイもこっそりと中村達と一緒に外に行ってしまい、
マサヒコとミサキだけを家に置いていった、との結論に達した。
「ったく…………」
マサヒコは軽く舌打ちする。
(気の利かせすぎなんだよ、あの人達はっ……!)
ここまでくると、女子大生’sの思惑は透けて見えてくる。
―――つまりは、中村が用事で出かける事にかこつけて、
マサヒコとミサキを二人きりにしてあげる―――。
少年と少女の―――既に一線を越えた関係を知っている中村とアイが、
気を利かせたつもりなのだろうが、こういうカタチで面倒を見られると、
マサヒコなどにとっては大きなお世話としか言いようが無い。
「あの、お邪魔だったら帰ろうか?」
への字に口を結んだマサヒコを見て、ミサキが控えめに言った。
「いや……いいよ。別にお前がいて悪い事があるわけじゃなし」
実際、中村とアイの意図がミエミエな事から複雑な気分になったのであって、
ミサキがいること自体は、嫌なわけではない。
むしろ、今から帰す方が、逆に追い返すみたいで気分もよくないものになるだろう。
そんな意図を持って応えたマサヒコに対し、
彼女の方は「よかったぁ」と安堵の色を浮かべた。
幼馴染の嬉しがる素振りを見て、マサヒコは無意識のうちに、
人差し指でポリポリと頬をかいた。
(ま、いいか……)
自分の判断が、そう悪い物ではない事は間違いないようだった。
「中学生生活も、もうすぐ終わりだよね」
いくつかの会話の後、改めてそう切り出したのはミサキの方だった。
その言葉を受けて、マサヒコは腕を組む。
「年が明けてしばらくしたら、もう受験も近くなってくるよなぁ」
「私は○○高校行くつもりなんだけど……えっと、小久保君も同じトコ志望だっけ?」
「あぁ、一応は。前はちょっとムリっぽかったけど、
今なら合格範囲内には入ってる……まだ油断しちゃダメって事はわかってるけどさ」
一つ言葉を切って、鹿爪らしい表情に変えて話題を続ける。
「こうしてみると、何のかんの言って、濱中先生達にはお世話になったって事だよな。
2年生の前半までは、成績ボロボロだったから……」
確かに、マサヒコの成績は2年生の春の時点で低空飛行を続けていた。
あの頃のままだったら、受験の際には、ワンランク下の高校を狙わなければいけなかっただろう。
当時からのマサヒコの成績の変遷を知る幼馴染は、
それらの事を思い出して、可笑しそうにクスクスと声を漏らした。
「あぁもう、笑うなって…………一応、あの時も成績悪いのは気にしてたんだからさ」
そう言ってマサヒコも苦笑する。
「ゴメンゴメン。……でも、リンコちゃんも成績伸びたし、
今のままだと揃って同じ高校に行けるんじゃないかな」
「ま、高校まではそうか。その後は……別々の道を行くことになるんだろうけど……」
大学だろ、専門学校だろ、あとは就職とかか?―――簡単に思いつく進路先を挙げながら、
マサヒコは指を一つ一つ折っていく。
そんな様子を見ながら、やや寂しげにミサキは呟く。
「いつまでもみんな一緒、ってわけにはいかないか……」
「そのあたりはしょうがないよ。まだ高校の三年間があるわけで……。
ま、別に大人になっても、全然会えなくなるってわけでもないだろう?」
「そ、そうよね。……私達なんかは家も近いんだし、お互い忘れちゃう事なんて……」
「忘れる、って、あのな…………お前、だいたい―――」
一瞬、あきれたように言葉を詰まらせると、不意にプイッと横に顔をそむける。
「―――だ、だいたい、あんな事しておいて、忘れるとか会わなくなるとか、
簡単にそんな風にはならないだろ、オレ達の場合は……」
心なしか、横を向くマサヒコの頬は赤くなっている。
あんな事―――身体を重ねた事実に思い至り、ミサキの方もボンッと顔が沸騰した。
「だ、だ、だって……あのっ、えっと……いきなりこういう話にしないでよっ!
バカ! 小久保君のエッチ!!」
「……お前も当事者の一人なんだろーが」
錯乱気味に騒ぐ少女に対し、少年は的確にツッコミを入れる。
そのまま、頭のてっぺんから湯気をホカホカ上げながら、
二人はどちらともなく黙り込んでしまった。
少しの間をおき、やや心が静まってきた頃になって、ミサキは細い声で呟いた。
「けど、あんな事がきっかけだったとしても、
一緒にいてくれるようになるのは正直嬉しいかも……私」
と、膝立ちの状態でズリズリ近づき、マサヒコの頭を両手で挟むと、
彼の顔をお腹の辺りで両手と一緒に包み込むように抱く。
「お、おい。天n……んっふ……!?」
予期せぬ彼女の行動に驚く間もなく、
マサヒコはミサキの両腕とお腹の間で、こもった声を出す。
吐いた息の代わりに空気を吸おうとすると、
彼女の柔らかい匂いが、鼻の中を通り過ぎていく。
「こういう事をしておけば、もっと離れたくなくなるかな……。
忘れたくても忘れられなくなるかな……」
「…………」
ミサキの呟きに、何も言葉を発しないマサヒコ。
身動きもせず、彼女のなすがままにされている。
「お願いだからね、マサちゃん。私を放って置いていっちゃイヤだよ……?」
「ほ、ほんなに、ほれはひんようなひのか?」
ミサキの服に顔を押し付けられたまま、不明瞭な発言でマサヒコが抗議した。
「根拠は無いけど……私も時々不安になることがあるんだもん。
マサちゃんはあんまりリアクションしてくれないし……」
そう口を尖らせるミサキ。
非難、というほどトゲのある口調ではないが、
不満げな色合いが多少含まれている。
顔を動かし、「ぷはぁっ」っと、ようやく少し息継ぎを自由にしたマサヒコは、
しょうがないな、という感じで口を開く。
「悪いとは思うよ……オレもあんまり器用じゃないし、
お前の望んでいるようには振舞えない事も……あるんじゃないかな。
……でも、できるなら天野と一緒にいたいってのはあるし、
ましてや会いたくなくなるなんて思えないって」
「ホントに?」
「ホントに」
「うん、うん……」
マサヒコの答えに対し、少女はどこか安心したように頷くと、
彼の顔を抱えたままスリスリと身体を震わせた。
「でさ……そろそろ離して欲しいわけだけど……」
そう提言したマサヒコ。だが、ミサキの手は緩められない。
「……ヤダ」
「『ヤダ』って……」
「こういう時じゃないと、こんなに近くにいられないもん」
「ム……」
口ごもったマサヒコにも心当たりはある。
単なる幼馴染以上の関係になったとは言え、学校での振る舞いは意識して変えずにいた。
そんな日々は、ミサキにとっては、やや物足りなかったのだろう。
ようやく手の力を緩めると、ミサキは腰を降ろした。
それでも、二人が向き合う距離は、互いの息遣いがハッキリとわかるほどの近さ。
「こんな時でも、リアクションしてくれないの……かな?」
視線をそらさずに、ミサキはやんわり問いかける。
「……あんな風に抱かれた後じゃ、
またこの間みたいに、止められなくなるかもしれないだろ……」
「わかってる、それぐらい」
わかってて、お願いしてるんだから―――ミサキの言葉は、そう紡がれる。
二人のシルエットが重なったのは、そのやり取りのすぐ後だった。
たっぷりと互いの唇を味わった後、向かいあった姿勢のまま、
マサヒコの右手がスカートの中に潜り、彼女の太ももを遡っていく。
ジュ…………。
「え?」
その手がショーツに触れた時、マサヒコは思わず驚きの声を上げた。
下着は既に中心部から湿っぽくなっていて、
その感覚は触れた指先で十分に確認できるほどだったから。
「お前、もう……?」
「だ、だって……」
皆は言われなくとも、ミサキは恥ずかしげに目を伏せる。
想像力が豊かなミサキにとっては、このようなシチュエーションになった時点で、
ココロの昂ぶりが身体の反応に現れてしまっていた。
もうそれ以上は気にする様子も見せず、マサヒコはショーツの上部から、内部に指を走らせ、
直にミサキの秘所を触り始めた。
その手つきは、初めての時よりは幾分か滑らかなもの。
「ん、やぁっ、そこは……んん」
「ここが、イイのか?」
「ン、んっ!」
既に愛液が漏れ始めていた部分は、彼の動きをダイレクトに受け入れる。
秘裂を前後にさすったり、少し中に埋めて指先を曲げてみたり、
その一方で、首筋や耳たぶを甘く噛んでみたり……。
マサヒコも経験の少ない身ながら、単純な愛撫とならないよう努力を重ねている。
そんな稚拙だが、細かな蠢きの前に、ミサキの理性は抗えない。
「はぁっ、ちょっ、ん、はっ、ハッ、あうっ」
上気した吐息は短い間隔で喉から送り出され、
その悩ましげな音は、マサヒコの聴覚を次々と刺激した。
目の前の彼女の高まりとともに、股間のモノが硬さを増してゆく。
「はぁぁ、はぁっ……もう、ダメ……力入んな……ぃ」
ガクガクと内股を震わせたかと思うと、自らの体重を支えきれずに、
ミサキはマサヒコへ身体を預けてきた。
彼の首から肩に腕を絡ませながら抱きつく姿を見て、
マサヒコはゆっくりと手をショーツの中から引き抜いた。
もはやその部分は、これ以上ないほど潤っている。
「これぐらいで……いいよな……」
「う、うん…………というか、もうおかしくなりそう、私……」
媚を含んだ声―――いつもの15歳の少女の声とはかけ離れた艶やかさ。
既に泣き出しそうなほどに瞳を緩ませ、
各所が性感帯となった身体を小刻みに震えさせている。
震える四肢を通して、衣服を脱がされる段階になった時、
不意にミサキは抗いの意思を示した。
「あ、マサちゃん……ちょっと待って……」
「ん、うん?」
「あの……その……今日は全部脱がせないで欲しいな……」
「? あぁ……それは別に……構わないけど……?」
「うん、もし……誰かが急に帰ってきちゃったら……、
服とか着てないと……えっと、言い訳も何も……できないから……」
言われてみれば確かにそうだった。
ここはマサヒコの家。そしてマサヒコの母も、アイ達も、一時出かけたに過ぎない。
何かの拍子に途中で帰ってきたりした時、何も着ていないままだと身繕いに相当時間が掛かる。
「ん……わかったよ」
「ありがと」
礼を述べて、今度こそ完全にマサヒコに身を委ねる。
マサヒコの方は、彼女の望み通りに―――服はそのままして、ショーツだけを足から抜いた。
そのまま彼女の狭間に座すと、覆いかぶさるように自分を沈めていく。
「っん…………あぁ……んっ!」
マサヒコのものが先に進む度、ミサキの口からくぐもった呻きが漏れる。
だがそこには、この間のような痛々しい雰囲気は伝わってこない。
表情も強張ったものではなく、瞳こそつぶられているものの、
適度に力を抜いた感じにうつる。
「…………今日は、平気か?」
「う、うん……あんま、り……我慢とかしなくても……ダイジョブみたい……。
というより、何だか……」
やや躊躇する風に口ごもると、うっすらとまぶたを上げて、
すぐ目の前にあるマサヒコを見据える。
「もう、入っちゃってる……よね」
「あ、うん」
押し進められた男根は、大部分がミサキの柔肌に包まれている。
なんとはなしに動きを止めたマサヒコに対し、ミサキはしっかりと抱きついて、
彼の耳の側で熱っぽく囁く。
「じゃあ……ア、ふ……ね、少しだけ、このままでいても……ん、いいかな……?」
「ん? ん―――」
身体を寄せた状態で上となった少年、下となった少女は、一時の間、流れる動きを停止させる。
はぁぁ……と、ゆるゆる息を吐き出し、ミサキは途切れ途切れに言葉を並べていく。
「痛いとかより何だか、何だかね? こうしていると……安心―――してくる、ん、ふっ……。
マサちゃんのが、すごく、あったかくって…………一緒になってるって、思えて……。
わかるよ……マサちゃんが私の中にいるの……よくわかる……」
そこで語句を切ると、かすかな笑みを頬に浮かばせた。
「ウン、二人でこんな感じ知っちゃったら、んっく……簡単に忘れるなんて、できっこないよ……」
「……だろ?」
肉壁の蠢きから与えられる刺激に耐えつつ、マサヒコは先の指摘を確認させる。
その促しに、ミサキは一つ首を縦に振った。
彼女の仕草を機に、マサヒコは改めて腰を動かし始めた。
「ん、やぁっ……う、ふん、ぁん……あぁ…………」
ズッ、ズッ―――と、こもった音を響かせながら、二人の体が蠢動する。
マサヒコが前に動くと、ミサキがガクンと揺れ、
少年の腰が後ろに引かれると、それを追いかけようと、少女の身体が僅かながら持ち上がる。
服を着たまま、そして、重なり合った体勢だけに派手なアクションこそ無いが、
じっくりと互いとの繋がりを味わいあう中、交わる悦びが部屋を満たす。
「あ、天野……」
「ひあっ、やぁん、マサちゃんの、マサちゃんのが……ぁっ」
悶える顔と声は、確かに快楽を知った女性のモノ。
だが、着衣したミサキの外見はあくまで普段の格好。
そのギャップを見下ろすマサヒコは、思わずゴクリと息を呑んだ。
脳裏に『いつもの幼馴染みを手の内にしている』との、妖しい錯覚が閃き、
無意識に前後する動作が強いものとなる
「やだっ、そんなに、強く……動かっ、な、い……あうっ、あふぅっっ!!」
「わ、悪い、でもオレも……!」
ミサキの声も、マサヒコの動作を制止できない。
むしろ、艶っぽく発せられる声は、少年の意識をさらに高みに引き上げる。
断続的に与えられる甘いスパークの前に、ミサキは次々に理性の壁を突き崩される。
もはや痛みを通り過ぎた感覚は、うねる快楽を嬉々として享受するようになっていた。
「バカ、ばかぁっ……うぁっ!? おかしく、なっちゃう!
ソコは、そんな……熱っ、んっ、ダメ、イイのっ!!」
緩められた唇から生まれるものは、否定と肯定の相反するもの。
濡れた息が重なるごとに、二人の繋がった場所は愛蜜でまみれていった。
―――と、それまで上に乗っかっていたマサヒコは、ミサキの腰と背中に手を回すと、
自分が起きるのと同時に彼女の身体も抱き起こす。
そのままあぐらをかくように座りなおし、ミサキをストンと足の間に降ろす体勢をとった。
自然と、肉茎を支点として、ミサキの身体は自らの体重で重心が下がっていく。
それに伴って、マサヒコのものが、彼女の中に容赦なく打ち込まれる。
「え、あ? あああぁぁぁっ!?」
一つ、大き目の声を上げると、奥深く彼自身を迎え入れたまま、
少女はガクガクと身体を震わせた。
自重の力による挿入は加減を与えず、彼女自身の性感を荒々しく刺激する。
「ダ、ダメェ……こんな……のって…………わたし、わた……し」
力が入らない身体を支えようと、脚を彼の両わき腹に絡ませる事でようやく姿勢を安定させた。
息も絶え絶えの状態になった幼馴染を見て、さすがに申し訳なく思ったのか。
マサヒコはようやく理性を引き戻して呼びかけた。
「あー……こういうカッコだと、マズいか?」
「もぉ、わかんない、よ……このままヘンになっちゃいそうで……」
視線は揺れ、ほとんど相手の顔のみしかロックできていない―――。
少女が、そんなコントロールできていない自分の感覚を訴える。
それでも何とか息を整えると、クッと身体を寄せた。
「で、でも、ヘンになっちゃいたい。私、いっぱいヘンになりたい……」
「……やっぱり、お前もエッチだろ」
ミサキのうわ言に近いセリフを耳にして、マサヒコは呟く。
「こんな事させてる……マ、マサちゃんほどじゃ……ん、フ……ないもん……」
じゃあ、どっちもどっち、かな?―――いたずらっぽく笑うと、
ミサキの腰から尻のあたり、スカートごと持って
―――あまり激しくなり過ぎないように―――彼女の身体を、上下に動かしていった。
「は、ひっ、ふぁっ、んくっ……マサちゃん、はっ、あぁぁ…………イイよぉ……」
既に限界が近かったミサキは、必死にマサヒコの身体にしがみつき、
彼と幾度とキスを交わす事で、何とか気を紛らわせようとする。
だがそのような抵抗の時間も僅かなものだった。
重なる挿入感が、目の前の世界を銀色に染め上げる。
「ひぁっ、はぁっ、は、すご………あ、あ、ああぁーーーっ!」
ミサキは弓なりに背中をのけぞらせると、
一つ二つ、大きく身体を震わせ、途端に脱力した。
すぐに前の―――マサヒコの胸にもたれかかり、繋がったまま動けなくなる。
小刻みに続いていた呼吸が、やや落ち着いたのを見計らって、
マサヒコは彼女の身体をゆっくり持ち上げ、繋がりを解放した。
「え、あ、やだ……マサちゃん……まだ…………」
トロンとした目でされるがままになっていたミサキは、急に驚いた表情に変える。
自分から引き抜かれた肉茎が、まだ角度をついて上向いているのが、
視界の端に写ったからだった。
「……その、なんだ。お前の方がイッちゃったみたいだし、
あのまま続けて…………な? 天野の中に出しちゃうと流石にヤバイし……」
ちょっと照れた風な顔を見せるマサヒコの一方、未だシビれの残る手足に力を込め、
ミサキは自らの愛液で濡れた一物に手を伸ばす。
「私だけじゃ……私ばっかり良くなったままなんて、そんなのイヤ……」
「お、おい……やめ……んっ」
ボーっとした赤い頬のまま顔を近づけ、唇を交差させる事で相手の言葉を遮る。
同時に右手をマサヒコのものになぞらせ、それをさすり出し、彼の放出を促し始めた。
最初こそ抗うそぶりを見せたマサヒコも、積極的に舌を絡める動き、
ぎこちないながらも、精一杯奉仕する手先の動きの双方に、間もなく白旗を揚げた。
慣れぬ事に迷いを持ちながらも、ミサキは手の動きを休めない。
「こ、こんな感じでいいのかな……?」
「あ、あぁ……けど、こんな風にされたら、オレ……」
既にミサキの中でずいぶんと刺激を受けていた男根。
それだけに、直に触れて弄ばれると、急速に意識がそこに集中していく。
固く張り詰めたモノは再び熱く煮え立ち、ピクピクと痙攣するように脈打つ。
「くっ、天野、もう、出……んう……っ!!」
低く呻いて、無意識に腰を揺らした瞬間、先端から精が解き放たれた。
「や、うわ……」
添えた指先に、次々と降りかかる白液を目にし、
少女はやや驚いた表情を見せる。
が、嫌がる様子もなく、手は彼のモノに添えたまま。
はぁー、はぁー、ふぅー……いくつか深い呼吸を繰り返し、息を整え、
マサヒコは傍らのティッシュ箱をゆっくり引き寄せると、それで拭くように相手に促す。
「いくらなんでも、最後は離してくれて良かったのに……。
……男(ひと)のものなんて、汚いだろ……?」
「……汚くなんかないよ。これだって、マサちゃんのなんだもの」
どこか名残惜しげに指、手の甲と付着した粘液をふき取ると、
今一度、ミサキはマサヒコと口付けた。
いつだって、お互いが忘れられなくなる事を願って。
彼女が口を離す頃には、昂ぶった身体も少しずつ落ち着いてきていた。
衣服は着たままの中で、情後の快い脱力感が二人の間に漂う。
そうなってからマサヒコは小さく肩を落とす。
「どうしたの?」
「イヤ、なんて言うか―――結局、
なし崩し的に、またやっちゃったなぁ、って。
……こういうのってだらしなく見えないか?」
頭を少し傾けると、照れたようにミサキが応える。
「どうだろ……でも、そういうのも私とマサちゃんらしいんじゃないかな。
どっちかが、あんまりカッコつけ過ぎてリードしたりなんかすると、
それはそれでヘンに思えちゃうかも」
「何だよ、それ」
ふざけて拳を掲げたマサヒコだったが、振り下ろすような事はせず、
ただコツンと軽く相手の頭を小突いた。
「ァん、痛いってば」
「大げさだよ、お前」
小突かれた場所に手をやるミサキに、
マサヒコは可笑しさを噛み殺してうそぶいた。
互いに身繕いをしてから、改めて汗を流すためにミサキがシャワーを浴び終えた時刻。
二人だけになってから1時間強はたった頃だろうか。
ちょうど図ったように、中村に率いられた御一行が小久保家に帰ってきた。
「「ただいまー」」
玄関に重なる声を聞きつけ、マサヒコとミサキは中村達を出迎える。
「もう。濱中先生も出かけるんならちゃんと言ってくださいよ。
いつの間にか姿が見えなくなってて、ちょっと心配したんですから」
一行が居間に移動するなり、不満げに口を開くミサキに対し、「ゴメンゴメン」と返事をすると、
アイはさりげなくマサヒコに近づき、小声で問いかけた。
「どう? あまり長くなかったけど、二人で水入らずの話とか出来たんじゃない?」
「…………やっぱりアンタ達の差し金かよ……」
諦めた風に溜息をつくマサヒコを見て、アイは首をかしげる。
「あれ、随分と迷惑そうじゃない」
「実際、迷惑ですよ。まったく、気の使いすぎにも程がありますって」
その一方、中村はミサキの方に絡み始めていた。
深くシワが刻まれた服や、湿っぽさが残った髪の毛の様子を見て、
ノンビリとした口調で、しかし容赦のない追求を課す。
「ふーん……真昼間から、しかも他人の家でシャワーを浴びるなんて、
私らがいない間にいろいろあったみたいねぇ、ん?
よっぽど汗をかくような事でもしたのかしら??」
「な、中村先生……!」
首筋まで真っ赤になったミサキを面白そうに眺め、
―――アイと違い、ほぼ全てを理解した彼女は、含み笑いを漏らす。
「んっふっふ。……ま、ヨロシクやってくれれば、
私らも親切のし甲斐があったって事よ。それにしても―――」
視線をずらし、ミサキから、アイ、リンコ、アヤナという、男っ気のない面子を見やる。
「―――それにしても、アンタらはミサキちゃんとは差がつく一方ねぇ」
急に話題を振られて、「?」という顔をするアイとリンコ。
しかし、もう一人のアヤナだけはその言葉に敏感に反応した。
「……そのセリフ。お姉様の言葉とは言え、聞き捨てならないわね。
私が天野さんに大きく負けているとでも言いたいんですか?」
途端に競争心をあらわにして詰め寄るアヤナを見て、
中村はからかい気味に言う―――わざと肝心な部分をぼかし、必要以上に彼女を煽りながら。
「んー。私から見るとそうねー。この手の知識、実践、どちらもアヤナが劣っていると思うけど?」
その煽り文句に完全にひっかかったアヤナは、ぷうっと頬を膨らませた。
「知識も、実践も……って、私も大抵の事なら追いつける自信がありますっ。
現に、学校では同じような成績じゃないですか!」
どうも、勉学に関係することと勘違いしたらしいアヤナ。
そんな彼女を軽くいなしておいて、中村はもったいぶるように首を振る。
「こればっかりはねぇ。一人じゃ限界があるだろうし、
アヤナだけで頑張っても追いつけないんじゃない?
ミサキちゃんもマサヒコに協力もらって上達してるわけで……」
そう評価された少女の視線は、マサヒコの方に鋭く向けられた。
思わず、傍らのミサキが彼の服の袖を握り締めた次の瞬間、
ニッコリとした笑顔でアヤナは呼びかける。
「小久保君、今度、私にも少し協力してもらえるかしら?」
表面の笑顔と、背後にチラつく炎のオーラを伴って、少女は少年に向かって一歩踏み出す。
慌てて弁明しようとしたマサヒコ。だが、
「イヤッ」
彼より先に、彼の幼馴染が袖を引っ張ったまま、代わって拒否の声を上げた。
「…………何で、ここで天野さんが答えるのよ?」
余計にライバル心を刺激されたアヤナが、瞳から火花を出しつつ口を尖らせる。
しかし、ミサキも我を張って首を左右に振った。
まるで、手にした大事なモノを取り上げられたくないという風に。
「と、とにかくダメ! ダメなんだからダメなの!!」
その言葉を受け、頭からどっかーんとハデに噴煙を巻き上げると、
アヤナも負けじと、反対側のマサヒコの袖を引っ張り始めた。
「何よ、ズルイじゃない。天野さんだけ手伝ってもらって……!」
「ダメーーーッ!!」
「おい、お前ら、やめろってばっ!?」
二人の少女に左右から引きずられ、少年は困惑した声を上げる。
そんな、修羅場になり始めた状況で何もしないどころか、
ニヤニヤ&ニコニコと―――見物を決め込んでいる残り三人へ助けを求める。
「黙って見てないで、この二人をどうにかしてくれーっ!」
「…………ミサキちゃんとの事、アンタがアヤナにイチから説明してやれば、
すぐにでも解決するんじゃないの?」
「ホイホイ口に出せるか、そんなのっ!」
提案が即座に却下された中村は、やれやれと呟くと、アヤナをひきはがす。
更に……マサヒコ達が止める暇もあればこそ。
耳元に口を近づけると、ゴショゴショ何かしら囁き始めた。
「…………だからね、もうあの二人は○○で××だから△△になって、それから……」
敬愛する師のセリフが鼓膜を刺激していくうちに、段々と頬を赤らめていくアヤナ。
そして―――、
「ふ、ふ、ふ……」
「『ふ』?」
「風紀が乱れてるわああぁぁぁぁっ!!!」
―――少女の叫びが小久保家に響いた瞬間、また一人、
一組の幼馴染の関係を知る者が増える事になったのだった。