作品名 作者名 カップリング
約束成就の始まり 82氏 ミサキ×マサヒコ

ミーンミンミン、ミーンミンミン―――。
せわしないセミの鳴き声が、少しずつ日が傾き始めた窓の外に響く。

―――夏の空気がまだ色濃く残る9月初旬の日曜日、
小久保マサヒコは天野ミサキの部屋にいる。
先ほどまで協力して進めていた週末の課題も一段落し、
互いに何か積極的にするという風でもなく、ただ床に座ってくつろいでいた。

ひとしきり続いた、テレビや学校に関する話のタネもつき始めた頃。
「昔に比べると、小久保君がココに来る事も増えたよね」
少し、以前の事を思い返すようにして、少女は話題を転じた。
その言葉に、マサヒコは「そうかなぁ?」と聞き返す。
ミサキと顔を合わす事が当たり前のようになっている今、
ミサキが言っている『変化』を意識した事もなかった。
「増えてるわよ、ウン……前よりずっと。
 それ以上に、私のほうが小久保君の家に行くことのほうが多くなってるけど」
「確かに……お前がウチに来る事は多くなったよな。
 ま、だいたいがあの2人の先生のドタバタに巻き込まれるような感じだけどさ」
「そうそう。お裁縫の事で行ったり、代打家庭教師で呼びつけられたり……。
 あっ、ゴメンね。お邪魔してるんだから、謝らなきゃいけないトコロかな」
そう言いながらクスクスと笑うミサキにつられて、マサヒコも苦笑が混じった表情で返す。
彼自身も今更、という感じなので、ミサキが来る事自体、特に面倒な事とも思っていない。

「でも、ちっちゃい頃は、もっと毎日のように二人の家を行き来していた気がする―――」
どこか遠い目をしてミサキが言った。そうして、おもむろにマサヒコの顔を見る。
「ね、小久保君、憶えてる? 昔、ここで二人っきりになった時に約束した事」
「昔……約束…………?」
漠然とした質問に首をひねる。そのキーワードだけでは、うずもれた記憶の中から、
当てはまりそうな答えを見つけることは出来そうになかった。
「忘れててもしょうがないかな。でも、私は憶えてるんだ」
そう語るミサキの頬は、いつのまにか心なしか赤みを帯びている。
部屋には、数瞬前とは全く違った、どこかぎこちない空気が漂い始めていた。
「あの時、約束したの。その時にいた人のお嫁さんになるって」
その人って誰―――そう聞き返そうとしたマサヒコは言葉を飲み込んだ。
2人だけしかいない時、ならばその相手とは……。
「オレ、の?」
戸惑った声に対し、少女は静かに首を縦に揺らす。

互いの間に流れる数秒の間―――沈黙を破ったのは少年の方だった。
照れ隠しも兼ねて、発する声のトーンを少し大きくする。
「まぁ、おままごととか、家族ごっことかもやってただろうしさ。
 そんな約束があってもイイんじゃねーの」
「うん、でも……」
しかし、そんな雰囲気を変えようとするマサヒコの意図には乗らず、
静かな、そして恥ずかしそうな口調で、ミサキは更に言葉を連ねた。
「……でも、私が今も、その約束が叶う事を願っているとしたら、
 小久保君はどう思う?」
「えっ……」
今度こそ、マサヒコは言葉に詰まった。
ふと気づけば、ミサキはマサヒコの近いところに座りなおしている。
彼女の視線は、不安げながらも彼の顔に一心に向けられていた。

ミーンミンミン、ミーンミンミン―――。

互いに言うべき言葉が見つからず、沈黙が支配した部屋の中を、
セミの鳴き声ばかりが流れていく。

「ふーっ」
沈黙に耐えられなくなったのか、マサヒコは小さく息を吐き、強張っていた肩の力を抜いた。
「なんて言うか……その…………」
曖昧な語句を口に出し、視線を空に泳がせる。
彼自身、自分の中の気持ちを整理しかねていた。
「あの、さ……ちょっと、何か飲み物もらえないか? さっきから喉がカラカラで……」
「えっ? あ、う、うん」
思考の迷路を何度も往復した末、マサヒコはほとんど強引に会話の流れを変えた。
虚を突かれたミサキは、戸惑いながらも立ち上がり、
台所に向かおうとした。が、その瞬間、
「あっ!」
心身ともに平静な状態でなかったのか―――膝を立てた瞬間にバランスを崩し、
目の前であぐらをかくように座っていたマサヒコの胸の中に倒れこんでしまった。
「うわっ!?」
「ご、ごめんっ!」
寄りかかる姿勢で預けられた体を、座ったまま何とか受け止めたマサヒコ。
それほど勢いもなかったせいか、ケガなどするわけでなく、
むしろ、飛び込んできた少女の体の柔らかさに、妙に感心めいた気持ちすら覚える。
……一方、ミサキの方は何故かそのまま離れようとしない。
倒れてくる際に、どこか打ち所が悪かったのか……流石に不安になって、少年は呼びかけた。
「天野?」
「ウン、ごめん。大丈夫……でも、もう少しこのままで……」
マサヒコの腕と胸の間に、すっぽりと入り込むような格好で、
ミサキは身じろぎもしないでいた。

いや、いつの間にか片手を彼の胸に沿え、もう片方の手は脇の下から背中へと回されており、
どちらかというと小さくまとまった顔を、マサヒコのTシャツに押し付けている。
「あー……」
不慮の事で抱きつかれた側は、相手の体の重みを感じたまま、
顔を天井に向け意味もなく呟いた。
そして、もう一度顔を下げると、手持ち無沙汰だった両手を、
ゆっくりとミサキの背中へと回し、おそるおそる抱き寄せるようにした。
「…………っ!」
その仕草に、ミサキは軽く息を呑む。それでも拒絶はせずに、身をゆだねていた。
動かさぬ身体の外面とは正反対に、心拍数を急激にヒートアップさせながら。
「あのさ。俺も、お前の事なんとも思ってないんじゃなくて」
わざとぶっきらぼうな口調でマサヒコは言う。
「んー、まぁその……今はお前が側にいるのが当たり前っつーか、
 むしろ、離れて欲しくないっつーか……」
「小久保君……」
ミサキの呟きに呼応させるように、マサヒコは抱えている両の腕に少し力をこめる。
「えぇと、こういうシチュエーションも、全然嫌じゃなくって。
 それどころか―――」
言い留まった先はもう言葉にせず、ただ少女の暖かさを離すまいとして、
相手を受け止めた姿勢を保っていた。
片や、ミサキはマサヒコの言葉が夢の囁きのように聞こえていた。
ゆっくりと顔を上に向けると、目の前には見慣れた、
それでいて、ややはにかんだ顔がすぐ近くにある。
夢なんかじゃない―――どこか安心し、ミサキは静かに目を閉じた。
と、同時に少し口先を突き出し、マサヒコの次なる行動をいざなおうとする。
数秒を置いて、もう一つの熱っぽい唇が重ねられた。

フッ、ハァッ。
短いキスの後、二人は小さく息を吐く。
「ね、もう一度……」
「ん……」
乞われるままに今一度顔を合わせ、口を交差させる。
遠慮がちに開かれた少女の口から、熱い舌先が伸びると、
マサヒコの舌が優しく絡めとった。
始めはゆっくりと吸い合う口腔の動きが、次第に貪欲さを増し激しくなっていく。
「きゃあっ」
不意に、ミサキが口を離し金切り声を上げる。
「こ、こ、小久保君っ……!」
「え、あ?」
プルプルと身体を震わせる彼女の様子を怪訝そうに伺う。
よく見ると身体全体、というより腰の部分を中心にくねらせているようだった。
その先にあるのは―――自分の手。
抱き寄せようとしている間に、自分でも気づかないうちに背中、脇の下、腰へと片方の手が流れ、
今や、太ももを外から抱えて、指先は内股に触れようかというほどだった。
慌てて手を引っ込めようとした矢先に、「……ばか」とのミサキの言葉が重なる。
「や、やっぱり、こーゆー事になったら、男の人はそんなトコロまで期待しちゃうの?」
「いや、そんなつもりじゃ……」
マサヒコはバツの悪そうな表情を浮かべて応える。
自分としては幼馴染とキスを交わしただけで、そちらの意識に集中していた―――。
が、無意識にも自らの手が女性の大切な部分に伸びようとしていたのは、
抑えきれない欲情に支配されつつあった結果かもしれない。
言い繕うと努力しても、どうにも上手く釈明できる自信は無かった。

口ごもる様子を見ながら、ミサキはもごもごと呟いていたが、
意を決したようにマサヒコを見上げると、小さいがハッキリとした口調で言った。
呼称も、苗字のものから、昔の……子供の時のあだ名に変化しさせて。
「…でも………いいよ、私は。マサちゃんだったら」
「―――?」
「もう……だから……」
そんな事まで私に言わせるの? と続けて、ミサキは顔を真っ赤にする。
促される男女間の行為……流石に考えが至ったマサヒコも同じく赤面した。
「お、俺も別にそこまではっ」
慌てるマサヒコに対し、却ってミサキ語気を強めた。
「ううん! 大丈夫。私は大丈夫だからっ……ね」
もともと、やや思い込みが強い性格のミサキ。
自らの敏感な反応で相手を必要以上に拒否してしまった、
そんな罪悪感にも似た思いに駆られてしまう。
マサヒコとしても、ここまで尽くすように言われると、より強く欲情を意識させられていた。
それでも何とか残った理性をかき集め、腕の中の少女に声をかける。
「いいのか? 本当に」
……コクン。
「お前も…………初めてなんだろ? 相手は俺なんだぞ?」
……コクン。
「優しくできないかも、それでもか?」
……コクン。

三度の質問に、三度の頷きで返され、マサヒコは興奮と緊張の入り混じった息を吐いた。
もう一度、ギュっと抱きしめたあと、おもむろに身体を離し、
ゆっくりとミサキの服に手をかけていく。
夏ゆえの薄着の彼女に対し、それほど苦労する事も無く、
シャツ、スカートと脱がせて行く中、おずおずと下着に触ろうとした瞬間、ミサキの身体が揺れた。
何となく、互いの身体の動きが止まった次の瞬間、ミサキはおずおずと口を開いた。
「あの……最後は自分で脱いでいいかな?」
「あ、あぁ」
マサヒコから了承を得ると、ミサキは中腰で立ち上がり、一糸まとわぬ姿になった。
日焼けから免れた身体の中心部は、想像していたものより白く、
目の前に現れた姿にマサヒコは思わず見とれてしまう。
「あ、あんまりジロジロ見ないで……」
「わ、悪ぃ」
はにかみながら身を預けてきた彼女に―――別に悪い事をしたわけでもないのだが――― 一度謝り、
今度はためらいもなく、時間をかけてキスを交わす。
「ん、うん……ぅ」
片手は相手の背中に回すように抱きかかえ、もう片方の手は身体のラインを降り、
ミサキの内股へと伸びていった。
まだ中心部には至っていないというのに、ミサキの脚の付け根に近い部分は熱く上気しきっている。
そして指先が、薄く生え始めた茂みの淵に触れた時、「あぁっ」と彼女の口から、
溜息とも、声とも区別がつかないモノが漏れた。

腕の中の身体は、汗で少しずつ湿り気を帯び、素肌は桃色にそまりつつある。
変化する女体に欲情を煽られたマサヒコは、指先に意識を集中させ、
慣れない手つきながら、秘裂に沿って指を前後に走らせる。
「んっ……んうっ……!」
押し寄せる感覚に必死に耐えようとしているミサキだったが、
次第に息は荒く、身体のくねりも激しくなっていく。
「マサちゃん、マサちゃぁん……」
必死に少年の身体にしがみつきながら、相手の名前をうわ言のように繰り返す。
その間にも、少年の愛撫の前に秘所からは愛液が流れ出し、
股間で踊る指先から、指の腹まで、粘着質な水分で湿らせていった。
自分の腕の中で悦び悶える幼馴染。今まで想像もしなかった蠱惑的な情景に、
マサヒコの脳裏には血が上り、相手の乱れる姿をより強く望むようになっている。
「ねっ、もうっダメ、ねぇったらっ…………お願……んぁう!!」
こねるような軌跡を描く指が、明らかに膨らんだ肉芽に触れた。
瞬間、鋭く小さい嬌声を上げて、ミサキの身体は軽く跳ねた。
途端に、トロンとした表情となり「あ、うんぅ……」と、不明瞭な声を発する彼女を見て
ようやくマサヒコは我に返る。
「え、わ、天野っ?」
「マサ、ちゃん……?」
苗字を呼ばれた事にすら明確な反応を見せず、潤ませた目で目の前の少年を見据えるだけのミサキ。
たっぷりと三十を数えるほど時が過ぎてから、
自分の身体を快感が走り抜けたことを自覚し、改めて顔を熱くする。
「や、やだ、私。私ったら」
「何ともない、よな?」
悪い方向へ異常が無かった事を、疑問の形で確認すると、マサヒコも申し訳なさそうに頭を下げた。

「ビックリしたぞ。あと、ゴメン。オレもよくわかんなくって……」
そんな侘びの言葉に、少女はフルフルと首を横に振った。
「私もビックリ…………でも、これで終わりじゃないんだよ、ね……」
一呼吸置いたミサキの顔には、八割の期待と二割の畏れがミックスされた色が映し出されている。
言葉には応えず、相手の身体を床に横たえると、マサヒコは自分の下腹部に目を落とした。
そこには、角度をつけて天を向いた男性器が、
トランクスの内側から多角錐の盛り上がりを描き出している。
他人に誇るほど大きくも無いが、医学的にはそこまで小さくも無いそれが示すものは、
思春期の男性として―――裸の女性を見れば―――ごく当たり前の反応だった。
「大丈夫かな」
初めてだから? 身体の内に打ち込まれるから? 逆に相手の事を思いやって?
しごく曖昧に表現したミサキの呼びかけに、「たぶん」と短く断ってから、
マサヒコは自分の分身をあらわにした。
硬くなったものに片手を沿え、ゆっくりと少女の秘裂に近づける。
軽くソノ部分をなぞり、まだ潤いが保たれている事に安堵し、
最後にもう一回だけ確認する。
「いいのか?」
「……いいよ」
そう言って目を閉じたミサキの前で、フッと空気を頬張ると、
意識的に速度を落として、マサヒコは腰を前に進めた。

くちくちくち……。
大きな音も無く、だが二人だけには聞こえる音を刻みながら、
堅く張り詰めた一物は、汚れ知らぬ柔肉をかき分けていく。
「つっ、痛ぁっ!」
挿入を奥深いものにしようとした時、悲鳴にも似た声に思わずマサヒコは動きを止めた。
受け止める側のミサキは、ぎゅうっと目をつぶり、
目じりには押し潰し出された涙が、うっすらと浮かんでいる。
「だ、大丈夫かよっ?」
まず間違いなく、自分が与えている刺激。
それに連鎖する反応に狼狽し、少年は気遣いを投げかける。
「ったっ、痛いよぉ……で、でも。止めちゃイヤ。そんなの、ダメなんだ……から……」
拒否だけはしないよう、恋する相手を全て受け止められるよう、
全身で努力している姿が、この上なく健気に感じられた。
ミサキだって『いいよ』と言ってくれたんじゃないか―――自分を納得させたマサヒコは、
再び腰を揺らし始めた。
ゆったりと前後に加えられる振動。
マサヒコの男根はキツく、熱く締め付けられ、むず痒さを伴った快さが腰から背中に走り、
意味も無く呻いてしまうような感覚を持ち主に与え続ける。
一方のミサキは、マサヒコの腰が動く度「んっ、うっ」と、小さな息遣いを口の間から走らせる。
そこには、傍目から見てもすぐわかるほどの、苦痛のニュアンスが混じっていた。

「あっ、あはっ、うんっ、くうぅ……」
「うっ……何か……天野の中、すご……熱い……」
夏の夕暮れが彩る部屋の中は、二人の熱い息吹がこだましている。
繋がった場所から、クチュ、クチュンとわずかな湿音が漏れる中、
しばしの時間が過ぎるうちに、ミサキの方に変化が訪れ始めた。
「んんっ、くふぅ、はぁ、あぁぁ……」
唇から流れる声には鼻にかかるような甘みが増し、
表情も、ただ苦痛に晒されるものではなく、
身体の内から湧き出る快さに震える色合いが混じってきている。
「わ、私、あふ……私がいるトコロ、夢の中じゃない……んっ、よね?
 ちゃんと……あうっ、ぁん……マサちゃんと、いるよねっ!?」
「あぁ、あぁ。俺もいるよ。天野の中に、っく、いるってば」
「うん……ぅ、うんっ! 私っ、嬉し……はぁん!」
そう言うと、ミサキは一つ身体を大きく揺らした。
痛みと快感……そして充足。三つの波に翻弄されながら、
マサヒコの動きを受け止める。
最初は為すがままだった腰まわりは、次第にうねり出し、
相手の動きと少しでもシンクロさせようと、無意識の努力を重ねるようになっていた。
今、目の前で、女性としての側面を開花させていく少女に、
少年は言い表せないほどの高揚感を覚えた。

「天野、天野ッ……!」
「マサちゃぁん……くふん、あはぁっ」
じっとりと汗ばんだ肌を交互にこすり合わせ、自らの想いのたけを相手にぶつけていく。
蜜壷は肉茎を絞り上げ、片や肉茎は蜜壷をそぎ開ける。
飽くことのない反復運動は、この時、この瞬間の世界を2人だけのモノにしていった。
が、それにも終わりは訪れるもの。
少年の後背に一筋の電流が走り、腰の部分に鋭い速さで収束していく。
新たな―――だが、自慰行為でよく知った―――感覚の襲来に、
マサヒコの動きは急に緩やかなものとなった。いや、そうせざるを得なかった。
そんな相手の動きの変化に、ミサキは敏感に反応する。
「マ、マサちゃん?」
「ご、ゴメ……オレ、もうっ……」
ただ一言だけで全てを悟ったミサキは、熱っぽい声で応じた。
「あ……まだ、私達ぃっ、ぃん……中には……」
「わ、わかってる……って」
最後に細かく腰を動かし、過度の刺激をあたえないようにして、
にゅるんっ、と自分自身を引き抜く。
少女の愛液で濡れきったモノは、二拍、三拍の呼吸の後に、
先端から白濁とした液体を放った。
ビクンビクンと竿を揺らしながら、次々に流れ出る精子が、
眼下で横たわるミサキの太ももや下腹部に、白い文様を作っていく。
「はぅ、んん……」
全てが終わった事を認識したミサキは脱力し、
痛みと快さの余韻に身体の感覚を委ねた。

少年が、今度は自分から相手を起こし―――不慣れなリードを取りつつ唇を重ねたのは、
互いに息を整えてからだった。

しばらくして互いに身を離し、とりあえず下着をつけ直して、
言いようも無いけだるさの中、床に座り込む。
「……ばか」
二人にとって、初めてである行為の後、最初に発せられた言葉は、
ミサキからの悪態だった。
けれど、含まれる感情にトゲトゲしいものはなく、
むしろ恥ずかしさと甘えを隠しているように、マサヒコには感じられた。
「ん……」
「『優しくできないかも』って、そういうのにも程があるわよ。
 私、けっこう痛かったんだから……」
「あー……ゴメン」
曖昧な返事をするマサヒコに、『気持ちがこもってない』と言いたげに軽く睨むと、
改めて自らの胸のあたりに手を添えた。
「何だか、不思議。小久保君と本当にこういう風になるなんて」
「後悔……とか、してるのか?」
ううん、と顔を左右に振ると、穏やかに応える。
「言ったじゃない。小久保君だから、いいんだよって。
 ね。もうここまできたら、最後まで付き合ってくれないとね」
そう言うと、恥ずかしさの中にも満たされた思いを表し、笑顔でマサヒコに呼びかけた。
彼女の笑顔は、幼馴染としてのマサヒコにとっても、初めて見る類のものだった。
ややあって、マサヒコの顔にも、自然に笑みが浮かぶ。
「この先、付き合いは長くなりそうだなぁ」
そのような呟きを伴って。

数日後―――。
二人が学校からの帰路を談笑しながら歩いていると、
前の方向からよく見知った三人組が近づいてきた。
中村、濱中、リンコ。
家庭教師の関係で、数え切れないほど顔を合わせている女性陣である。
「あれー? 小久保君たちは、今帰り?」
既に一度帰宅したらしい、私服姿のリンコが疑問を口にする。
「あ、うん。クラスの係の仕事で、俺がちょっと先生に呼び出されて時間かかってさ。
 で、こいつが待っててくれてたから、そのまま……」
その答えに、濱中とリンコは「ふーん」と納得した顔で頷く。
「でも……濱中先生、今日は家庭教師の授業の日じゃないですよね?」
「さっき先輩と歩いてたら、リンコちゃんと出くわしちゃってね。
 ちょっと本屋に寄ってから、ブラブラしてどこか行こーかなー、って言ってたトコ。
 ね、先輩?」
濱中は同意を求める……が、1人。中村だけは、
先ほどから何か探るような目つきで、マサヒコとミサキを見比べている。

二人だけの下校―――今までからすると、特に珍しくも無い組み合わせの中にも、
以前と違った雰囲気を掴んだのか。
数秒後、頭上にピカンッ☆と豆電球を点灯させ、ウンウン頷いた。
「な〜るほど、な〜るほど」
小悪魔的な微笑を浮かべ、得心した呟きを口にする。
次にマサヒコの肩に手をやり、からかう口調で言った。
「ミサキちゃんはともかく、アンタはもっとオク手だと思ってたけどねぇ。
 意外に早熟だったってコトかー」
「な、な、な、何を言ってるんですか……」
唇の端をひきつらせながら、何とか平常を保とうとするマサヒコ。
しかし、(いろんな意味で)人生経験豊富な中村の前には、
純朴な少年の反応はあまりに無策だった。
「あらあら。その様子を見ると、図星だったみたいねー」
全てを察したらしい中村から目を逸らし、傍らのミサキを見やると、
こちらも「あ゛……う゛……」と、過ぎた恥ずかしさから顔を真っ赤にし、まともに言い返せないでいる。
「あのぉ…………先輩、どうしたんですか?」
一連の不可解なやり取りを目にし、イマイチ事情が掴めていない濱中が問いかける。
彼女の横では、リンコもキョトンとしたまま、両の瞳で疑問の信号を送っていた。
「あぁえーと……その、ね。二人は大人の階段を昇り始めちゃったってコト。
 つまりはもうセッ」
「「うわあああぁぁぁっ!」」
中村が言わんとするダイレクトな表現を、
ワタワタとしつつ、ほぼ同時に大声でかき消すミサキとマサヒコ。

が、流石に前フリでピーンときた濱中が、
「? どういう……」と改めて聞き直そうとしたリンコに、ゴニョゴニョ耳打ちする。
……そして一分後には、当事者以外の三人全てが、
少年と少女の関係にどんな変化が起こったか、完全に理解してしまっていた。
先輩風を吹かせて肩を組み、さらに露骨な会話で、マサヒコを弄ぶ中村。
一方、彼女とは別に、濱中とリンコは上目遣いでミサキに近づいてきた。
「ねぇねぇ、ミサキちゃん」
「な、何ですか、二人とも……」
その妙な雰囲気に、気圧される様な表情でミサキが応対する。
「えーとね、どうだった?」
「はぇ?」
「ほら、最初は痛いとか、男の人に触られるとどう反応すればいいかとか、
 女の子もちゃんと最後までイクことが出来るかとか、
 今後のために、身近な経験者に聞いておこうと思って……」
「し、し、知りません、そんな事っ! 私に聞かないでくださいっっ!!」
実年齢とは別の意味で、二人の先輩となってしまったミサキは、今度こそ頭から大量の湯気を発する。
それでも付きまとおうとする処女コンビに彼女が慌てる時間は、
夕方の路上でしばしの間続くのだった。


〜〜〜END〜〜〜

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